連載小説
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帰りません、勝つまでは

 
私は悩みと言う物を知らない
 
 
私は不満と言う物を知らない
 
 
私は苦しみと言う物を知らない
 
 
 
だって
 
 
私にできないことなんてないんだから
 
 
 
 
 
 
 
 
でも………私は………
 
 
 
 
 
 
 
 
 
この日はじめて
 
 
 
 
 
 
 
 
悩むことを知った。

不満を持った。
 
 
 
しかし、それが苦しみであることにはまだ気付いていなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「なんなの!?なんなのあの子!?私が誘ってるっていうのに乗ってこないどころか
ジト目で拒絶するなんてっ!なによ!実は女の子でしたってオチ?
わたしの目はそこまで節穴じゃないわよ!あの子は確実に男よ!オスよ!間違いない!
でも、じゃあ私に魅力がなかったとでも言うの!?ボンキュッボン(死語)は興味ないって!?
だったらロリ?ペド?はたまた熟女スキー?それとも女はもう除外されてるの?
あっーーーー!!もう訳わかんないわ!なんでよ!どうしてよ!
仮にも男の子なんだから綺麗なおねーさんの誘いは無条件で受けるべきよ!
そうよ!スーパーリリム・ヴィオラートお嬢様には不可能なんてないんだから!
私の誘いを足蹴にした罰として今夜は絶対寝かせない!
吸って搾って舐めまわして捏ね繰り回して押し倒して挿入れて振って抱いて
ギュッとしてチュッチュしてハアハアしてパンパンしてズチュズチュして
私の魅力に溺れさせてあげるんだから!
あーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!


注:往来のど真ん中で早口で危険な独りごとを大声で呟く農民服姿の美女の図



「そうと決まればユング君のいる家か宿がないか捜索しないとね!善は急げ!」


大勢の人々に奇異の眼差しで注目される中、わたしは首都の大通りを駆け抜けた。
私くらいになれば、一度会った人がどこにいるか程度はすぐにわかるのよ!
狙った獲物はそう簡単には逃がさないんだから!


私は一旦大通りからそれて、往来がそれほど多くない道に入る。
そこで適当に休めるような場所を探す。
私が選んだのは『喫茶店:ネーベルディック』っていう小さなお店。
店にはすでに三人ほどお客さんがいて、従業員は一人だけ。
ここならよほど変なことをしない限りは怪しまれない、と思う。

とりあえずアールグレイでも飲んで落ち着いてから作業を開始しよう。


「ふぅ…案外人間世界の紅茶も捨てたものじゃないわね。いい香り……
ンクッ……コクン…コクン……まずは一回、ここで180°回して…」


私が今やってるのはフェルリ直伝の紅茶占い。
定められた手順に従ってちょうど三回で紅茶を飲み干して、
残った茶葉の配置で結果を占う方法よ。
この都市で不用意に魔法を使うと、この国の強い魔道士に発見されちゃうかもしれないから
こうやって魔力を使わない方法も時には大事なのよ。

人の捜索は結構簡単な方。まずは紅茶が入ったカップを持ち上げて
一回口をつけて三分の一ほど飲んだらカップを時計回りに半回転させて、
一度お皿の上に置くの。
そして二分待った後こんどは三分の一が残るくらいまで飲んで、反時計回りに一回転。
後はそのまま飲み干すだけ。あとはカップについた茶葉を見て終わり。
ね?簡単でしょ?



「ふーん、ユング君はこれから宿屋の部屋のような場所にいるみたいね。
位置はここから北北東…500メートルほどかしら。それほど大きい建物じゃないみたい。」


場所はつかんだわ!いるところが分かればこっちの物!
夜になってベットに潜り込んだ瞬間に布団ごと抱きついていっぱい頬ずりしちゃおうかな?
それとも朝のお目覚めフェラからのおはようエッチがいいかな?



「あへへへへへへへへへへへへへへ…………」
「あ…あの…、お客様?」
「え?はい、なんでしょうか?」
「そ、その…紅茶のおかわりは…」
「いえ、結構よ。そろそろ行かなきゃいけないところがあるの。お代はいくら?」
「は、はい…5コールになります。」
「じゃあチップ込で銀貨一枚(10コール)。」
「ありがとうございます!!」


いけないけない。作戦を立てるのに夢中(妄想に浸っているとも言う)の私は
無防備で締まりのない顔をしてるから気をつけろってフェルリにも言われてたわね。
お店の人たちに変に思われてないといいけど。(注:手遅れ)

ま、いっか。二度も行くところじゃないし。







……


………


ちょっとこの服飽きてきたわね。

夜まで時間あるから、どっかで新しい服を調達してこよっと。







――――――――――《Side Jung》――――――――――



陽は落ちて、窓の外はすっかり暗く染まってる。
春と言っても、そろそろ夏も近いから陽は長くなっていて、
ついさっきまでは少し明るかったくらいだ。

でも、人間の体内時計というのはよほどマイペースらしく、
明るさが長くなろうと短くなろうと、いつも通りお腹がすき、
いつもどおりに眠くなってくる。


「ええっと……全部で1870コールか……すごい…」


僕、ユングは今泊っている宿屋の部屋で今日の収穫を数えてる。
演奏で稼いだお金はこうして寝る前に確認してるんだけど、
今日はいつも以上に実入りがいい。

なぜなら


「1000コール…嬉しいけど、やっぱり個人演奏は勘弁してほしいな。」

いきなり現れた女の人が気前よく演奏料を払ってくれたからだ。
でも僕は、あまり人とかかわり合いを持ちたくない。
下手に気に入られて行動の自由を奪われたくないから…
それに…僕の方から仲良くなっても…


「ふ……ああぁぁ…ぁ、もう眠い。歯を磨いて寝ちゃおっと。
もう夜だし、こんな安い宿だと調律している音が隣に聞こえちゃうからね。
さっさと寝て…明日は別の街に行こう。」



水道場で歯を磨き顔を洗い、パジャマを着て寝る準備をした。
でも…なんか今夜は妙に胸騒ぎがするんだけど…なんでだろ?
ま、いっか。寝ちゃえば全部忘れるさ、きっと。


おやすみ…………
 
 
 
 
 
…………………
 
 
サッ
 
 
 
 
………
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
う〜ん……




暑い…



息が苦しい……



生ぬるい風が当たる……




「ぷはっ!一体な――」


ゴチンッ!!


「痛っ!?」
「あうっ!?」


我慢できずに体を起こした瞬間、おでこを何かにぶつけた。
勢いよく飛び起きたから、すごくいたい…
しかも、僕の声と重なって女の人の声が聞こえた。



「だ…誰だっ!」
「いたた…はっ!ふふふ…起きちゃったみたいね…ユング君♪」
「もしかして…昼間の時の女の人…?」
 
 
 
 
 
 
まさかここまで執念深い人だとは思わなかった。





――――――――――《Side Viorate》――――――――――


ゴチンッ!!


「痛っ!?」
「あうっ!?」


いたーい……

あまりにも寝顔が可愛いからつい見とれていたら急に起き上ったものだから
回避する間もなくおでこをぶっつけちゃった……

ちょっとハァハァしすぎたかしら?

「だ…誰だっ!」
「いたた…はっ!ふふふ…起きちゃったみたいね…ユング君♪」
「もしかして…昼間の時の女の人…?」


あ、ユング君が気付いたみたい。
私は涙目の顔を一瞬にして妖艶モードに戻す。
私の想いの深さにユングくんも驚きを隠せていないみたい。


「ユング君のことが忘れられなかったから……来ちゃった♪」
「……あんたもしつこいね。」
「あんたじゃないわ、ヴィ・オ・ラ・ー・ト♪私はヴィオラートって言うの。
ヴィオラお姉ちゃんって呼んでくれてかまわないのよ。」
「ヴィオラートね……変質者のヴィオラっておぼえておくよ…
ふぁ…ああぁぁ…ぁ…悪いけどもう眠いんだ。用があるなら明日にしてくれない?」
「変質者……そ、それよりもユング君!せっかく私が来てあげたんだから、
私とキモチイイことしない?ねぇ…?いやかな……?」


本当に眠そうな顔をしているユング君の顔に、そっと両手を添えて固定する。

「い……いやだ…やめろよ……顔が近い…息が顔にかかる…」
「ふふふ、いやだいやだっていってもここは素直に……………………、…、
………?………、…――――!?あ……あれ…?」
「あと、そんなところ触らないでほしいね……気持ち悪いよ。」
「そんなばかなっ!?」


あの、読者のみんな勘違いしないでね!この子にはちゃんと付いてるわ!
でもさっきから胸を押し付けて顔を間近に近づけて、あまつさえあそこを撫でてるのに!
普通の人間ならこの行為だけで絶頂に達しちゃう人もいるのに!


勃ってないんですけど!!


「あの〜、ユング君?」
「…何?変態さん。」
「あなたのここってジエンドしちゃってるの?」
「ごめん…僕はまともだから、変態の言ってる言葉の意味が分かんないんだけど…」
「変態いうな!!」


ええい!こうなったら直接攻撃開始よ!私の心の辞書はちょっと欠陥品だから
「退却」とか「あきらめる」とか、あとついでに「不可能」「敗北」「失恋」とか
色々のってない言葉があるのよ!


「素直に……私と一緒に気持ち良くなりましょう………んっ、ちゅっ…」
「っ!?…んんっ…んむぅっ!?」


舌を唇の間から強引にねじ込み、口径の表面を余すとこなく舐め上げる。
ピチャピチャと卑猥な音を立てながら、私はユング君のファーストキスを奪った。

何でだろう、出来るならこのままずっとキスをしていたい。そんな気持ちになってきた。
このままずっと…夜の間中…陽が昇って朝が来ても…続けていたい。
だが…

「むっ!!」
「ん…ふぅん…?」

チュポン


「勃ってきた!!ようやく私とやる気になったのね!うれしい…♪」
「こ…こんなことされたら……恥ずかしくて……」


やっぱユング君も男の子なんだ。ズボンのお股の部分が大きくなってる…

「じゃあさっそくごたいめ〜ん♪」
ズザザッ
「わあっ!?」
「あ……可愛い……これが、ユング君の……」
「やめろ!見るな!変態!なんでこんなことするんだよ!離せったら!」
「うっふっふ…♪ふふふっふっふ…♪」


ユング君は散々抵抗してるけど、私はお構いなしにユング君のそれに顔を近づける。
匂いは全然しないけど、まだ何も知らないきれいな……

「まずは皮をむいて……それから口か胸でいっぱい可愛がって…そして…そして……」
「……っ!!」

ユング君のを弄ろうとした、次の瞬間



バッ!サササッ!!


「え!?」
「はあっ…はあっ……やめろ…変態……」


ユング君を拘束していた手が緩んでいた隙をつかれて、逃げられてしまった。
今まで誘惑している最中に逃げ出した人なんていなかったから、反応が遅れたの。
ユング君は、パジャマのズボンを元に戻して、ドアの前まで逃げていた。

まずい!このままだと下手すれば扉から逃げられてしまう!
そうなると後々ちょっと面倒なのよね。




ヒュゥン


「待って、逃げないで……」
「うそ!?いつの間に!」


転移魔法でユング君の背後に回り込み、再び彼を抱きしめる。


私は混乱していた。
確かに、人間の中には稀に私達の誘惑に強い耐性を持つ者がいる。
だがそういった人間でさえリリムの私が直接行為に及べば、
有無を言わさずその気になってしまう。
たとえジエンドの人でも、無精子病の人でも……

だからユング君のこの反応は、はっきりいって異常としか言えなかった。



「ねえユング君……」
「な…何…?」
「君には、好きな子とかいるの?」
「……いないよ。それどころか仲のいい友達なんていないさ。」
「じゃあ…私のこと、嫌い?」
「変態なんか大嫌いだ。今すぐこの部屋から出てって欲しい。
そして出来るなら二度と顔を見せないでほしいよ。」
「ユング君って、顔に見合わず毒舌家よね……」
「それに……僕は…もう……」

カクッ

「ちょっ!ユング君!?どうしたの!?」


ユング君は突然、薇が切れたカラクリ人形のように私の腕の中で力を失ったの。
私が支えていなければ、そのまま床に崩れ落ちているところだったわ。
どうしちゃったのかしら?

「ユング……君?」
「すぅ………すぅ……」
「ねちゃってる……。」


私が抱きしめてるのに、急に眠っちゃうってどんな神経してるのよこの子は!?
そんなに私に対して興味がないっていうの?

なんだか…自分に自信がなくなってきた……


私は本当に、出来ないことは何もない優秀な魔王の娘なんだろうか?


だったら、何でユング君は私を見てくれないの?


ねえ……どうして…?
 
 
 
「今夜は、もう寝かせてあげよう。
こんな可愛い寝顔をされたら、起こしたくなくなっちゃった。」

私はそのままユング君をだっこして、ベットの上に運んで布団を掛けてあげる。
そして私もちゃっかり布団の中に入って、ユング君を優しく抱きしめる。
子供を慈しむ母親のように、頭をゆっくり撫でてあげながら……
 
 
 
 
 
 
 
私はこの夜決心した。

ユング君が私のことを見てくれるまで、魔界には帰らない。

でも、薬や道具、魔法とかは使わない。

そんなの使ったらその時点で私の負けだ。

私は薬や道具なんかに負けたくないの。

私が持ってる魅力だけで、ユング君を虜にする。
 
 
たとえ何日、何ヶ月、何年経っても……私はあきらめない。
 
 
 
 
だから
 
 
 
 
 
「これからよろしくね、ユング君……また明日。」
 
 
そのまま私も目を閉じた。

11/05/16 13:20更新 / バーソロミュ
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■作者メッセージ
ヴィオラの言うように、ユング君がこんな態度なのはちゃんとした理由があります。
原因がかなり無理やりなものですが、ここまでの話で実は一か所だけ伏線があります。
決してユング君はジエンドしてたり衆動だったりなんてことはありません。

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