死体遊戯 %02 c=15d %02 c=15d %02 c=15d

考察

 三人は三つの幸運に助けられた。

 一つ目は、村で急患が出なかったこと。
 二つ目は、ずっと天気が悪く、訪ねてくる人がいなかったこと。
 三つ目は、エドがインキュバスに成り損なったこと。
 この三つだ。

 そうでなければ、三日三晩のセックスのシ過ぎで焼け落ちた小屋と診療所、全裸の魔物二匹と人間一人が見つからないわけなかったのだ。
 もう一つ付け加えることがあるとすれば、エルザの努力と悲しみと嫉妬心の賜物と付け加えるべきか。

 シェリーが前後不覚に陥り、完全に自らの制御を投げ出してから数時間後、エルザは目を覚ました。
 そして、目を覚ましてすぐに見えた光景に絶句した。
 破壊された廃墟の床で、吹っ飛んだ天井から降りしきる雨を受けつつ、激しく発光しながら身体を重ね、眠りながら犯すエド、犯されるボコ腹シェリー。雨水によって流れていく多量の精液が時間の経過を物語っていた。
 エルザは吸精によって戻った思考で、羨ましい!、とまず考え、次に、もったいない!、二人の結合部に口を付け、それから、このままじゃ見つかるかも?、と思考を巡らした。もちろん、三番目の考えは直ぐに消え去り、妬ましい思いを込めつつ精液を舐め取る奉仕に専念したのは言うまでもない。
 だが、結果としてその行動がシェリーの吸精を弱め、エドのインキュバス化を遅め、永久セックスマシーンを止めることに貢献していたのだ。

 快晴の天井の下、三人は座り込んでいた。
 エドは頭を抱えてあぐらをかき、その左にエルザ、右にシェリーが頭を乗せてくつろいでいた。全裸で。

「ああ、やっちまった。俺はこれからどうすれば…。」
「エド〜♪ウフフ♪エド〜♥」
「う〜ん♪ま、気にしてもしかたがないさ♪」

 ダメだこの二人、エドは一層深刻な溜め息をついた。
 嫁は魔物になり、国内に魔物を匿い、自分自身も魔物と交わった。おまけに家も家財道具も焼けた。これ以上ないくらいに追い詰められた状況なのにこの二人の能天気度合いときたら。
 エドにはさらに溜め息を付くことしかできなかった。

「ほんとどうしたら。とりあえず逃げないと。あ、金も何もかも焼けちゃったんだった。逃げれもしない。うぅ〜。」
<コンコン
「ごめんよっと。」
「!?△■◎☆#$&!?」

 エドは心底驚いた。村人か、あるいは教団の兵士が現れたのかと思ったからだ。家が焼け落ちるくらいにバカみたいな激しいセックスをしていたのだ、バレてないと思う方が無理だ。
 だが、尋ね人は意外な人物だった。

「その様子だと賭けには勝ったみたいだな、え?旦那。」
「あ、あんたは!」

 エドが振り返った先には、あの墓守が立っていた。晴れだというのにレインコートを着込んでいるあたりがかなり怪しいが、その怪しさが間違いなかった。

「あんた、なんで俺の家に?」
「そりゃ、こんなことになってんじゃないかと思ってね。旦那、いくら連日天気が悪いからってヤリ過ぎだぜ。俺の家からでも見えてたぜ。」
「グッ!くぅぅ。で?どうする気だ?俺たちを憲兵に引き渡す気か?」

 エドの言葉に魔物娘たちも流石に体を起こした。目は、完全に獣のそれである。
 墓守はその視線に対し、「へっ!」と軽く笑ったあと肩にかけてきたカバンを投げてよこした。

<バスッ!
「うおっ!これは?」
「服に金に野宿にいりそうなもの一式だ。馬を峠道から外れた崖際に置いてある。そっから崖伝いに渡っていけば親魔領だ。」
「なぜだ、なぜこんな親切を?」
「言っただろう。この仕事をしてればいろいろ見ちまうもんだ。それに、これでも元教団兵でな。」







 外套を纏った三人は墓守に見送られながら街道を横道へと逸れた。
 墓守はエドたちを助ける理由を一切述べず、自分の素性すら明かさずに三人を送り出した。結局、名前すら聞けていない。
 最後まで怪しさたっぷりな男だったとエドは首をひねりながら支持された場所に向けて歩く。
 エルザとシェリーは、逃亡者でありながらまったく大人しくしようとせず、エドの両腕それぞれに絡みつき、放そうとしなかった。

「ねぇ、エド?」
「ん?」

 墓守に巡らしていた思考は、エルザの呼びかけで中断された。

「家にたどり着いたとき、私を殺そうとしたんだよね?それなのに今は一緒に逃げてくれる。その、後悔とかないの?」

 エルザに視線を下げるが、彼女は決して視線を合わせようとしない。
 そんな二人をシェリーは交互に見つめる。恩着せがましく言ってみたものの、やはり責任のようなものは感じているのだ。

「確かに、君を殺そうとした。あの時、俺は自分の贖罪をしたかったんだと思う。」
「贖罪?」「食材?」

「………。
 戦場で仲間を見捨てた罪を大切な君を自分の手で天に送ることで償いたかった。
 そして、死んでしまった君の魂を俺が地獄に落ちることで助けたかった。
 でも、ダメだった。
 だいたい、神様に裏切られた俺がどうして神様に許しを乞わなきゃならないんだ、ってね。」

「それで殺せなかった?」
「ああ。だけど、今はなんだかそんな考えが馬鹿らしくてね。
 そもそも、神様と俺は味方でもなんでもないんだから裏切るもクソもないだろ?
 それで吹っ切れたのさ。」
「そっか。よかった。」

「それより君はどうなんだ?信者だったんじゃ…?んぐ。」

 エルザが腕を伸ばし、人差し指でエドの口を止める。

「私ね。ずっと前から神様を恨んでたの。だから、エドよりもずっと前から裏切り者なの。」
「は?」

「エドが徴兵された時にさんざん神様に恨み言をぶつけた。
 でも悪口だけで殺されるなんて思ってもいないでしょ?
 ついつい謝っちゃって。
 でも、謝ったらシェリーが来てくれた。」

「あたしゃ別に、美味しそうな匂いがしたから助けただけで、神様とか関係ないし↑。」

「だから、神様は恨んでないし、死んだことも怒ってない。
 その代わり、魔物になったことは許してもらう。
 これでイーブンでしょ?」

「は!ハハ!確かにな!」

 笑いながら歩く三人の目の前が急に拓け、手綱を繋がれた二頭の馬が目に入った。

「これが墓守が言ってた馬か。」
「二頭しかいないね。」
「あたしは飛べるから馬なんていらないし↑。」
「飛んでたらバレるだろうが!シェリーは俺の後ろ。」
「マジ!?ヤリ〜♪」
「ちょっと!どうしてそうなるの!?シェリー!私の後ろに乗りなさい。」
「嫌さ。エルザの馬なんかに乗ったらいつ腕が取れて暴れだすか分かんないもんね。」

<バチバチバチバチバチバチ

「この〜!泥棒猫!」「猫じゃなくて鳥だし〜↑、べ〜!」

「はぁ〜、これがずっと続くのか…。」

 馬は三人を乗せて走り出した。
 どのような組み合わせで乗ったのかは三人以外誰も知らない。





















「しかし、あの墓守は訳がわからなかったな。」
「なにが〜?」

 シェリーがやはり脳天気にエドに問い直す。

「お礼をしに戻って来ると言ったら、
 『お代はちゃんと貰ってる』
 って言いやがった。どう言う意味だ?」
「さ〜ね〜♪」
「きっと素敵な出会いが見られたからありがとうって意味なんでしょ?」

「そういうもんかね?」

 どうでもいいと言わんばかりの回答にエドは納得がいかなかったが、元々面識もない怪しい男の言葉を考えたところでやはりどうでもいい答えしか浮かばなかった。
 そしてその疑問は、黒と紫と赤が織り成す雲が日光を闇に変えたことで吹き飛んでしまった。

















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






「〜♪〜♪」

 墓守は鼻歌を歌いながら、上機嫌で家路を急いでいた。
 いつもの重たい足取りではなく、今にもスキップを踏み出しそうな足取りは、どう見ても戦場を逃げ出した敗残兵のそれではない。
 彼がここまで上機嫌なのには理由があった。
 ついに彼が欲していたものが手に入ったからだ。
 そうこうしている内に墓守の家が見だした。古ぼけた風車小屋を改築した家には灯りが灯っていなかった。
 当たり前だ。彼は一人暮らしなのだから。


 今はまだ。


「ただいま。」

 暗闇への呼びかけに、返ってくる言葉は無い。
 だが、墓守はそんなことには意に返さず、ずかずかと風車の駆動部屋へ、階段を登っていった。
 この風車小屋の風車は壊れている。地元の人間も、何年もの間、回っている姿を見たことがない。だが、それには壊れているからではない。彼が意図的に止めていただけなのだ。
 墓守は、人一人が余裕で寝ころがれる程の大きさの容器の前に立った。その容器は鉄製で、石棺のような長方形の形をし、中には濁った溶液で満たされていた。
 そして、薄らとだが、人影のようなものが沈んでいた。

「念願の瞬間だ。俺たちが待ちに待った瞬間がついに来たんだ。」

 墓守は沈んでいる人影に語りかけているのだろうが、人影は答えない。それでも構わず、言葉を続ける。

「長かった。こんなところで墓土の匂いを嗅ぎながら暮らすのにはウンザリしてたんだ。」
<バサッ!

 ぶ厚いレインコートが床に落ちる。その下から現れたのは、墓守の驚愕の姿だった。
 左腕と左足は鉄で形作られ、かろうじて人らしい形をしているだけの醜い義手義足。はだけられた胸や腹にはいくつものボルトやビスが埋め込まれ、貼り付けられた鉄板によって抉られた傷を隠していた。
 彼は負傷兵だった。

「それももう終わりだ。『これ』があるからな。」

 墓守が両腕を広げると鉄製のパーツからパーツへと電流が走り飛ぶ。
 真っ青な美しい雷光は疑いようもなくシェリーの電撃であった。
 そう、彼が喉から手が出るほど欲し、ついには諦めかけていたものとはこれだったのだ。
 正確には、シェリーの雷光そのものが欲しかったわけではなかったが、その効能は、求めていたすべてのスペックを超越していた。

<ボコンッ

 鉄の容器から気泡が一つ上がり、弾ける。まるでその気泡に墓守を急かす言葉が詰まっていたかのように彼はニンマリと笑った。
 顔面の傷が裂けんばかりの笑顔は、異常者以外には見えなかった。

「ああ、わかってる。今そっちに行くよ。」

 帯電した身体を引きずり、一歩一歩、容器へと近づく。
 一歩踏み出す度に気泡は激しくなり、淵に足がかかった時には沸騰しているかのごとくボコボコと音を立てていた。

「さぁ、目覚めろ。目覚めろッー!!」
<バッッシャアーンッ!!

 墓守は容器へ飛び込み、中にいる彼女を抱いた。
 いくつもの墓を荒らし、盗み出した肉や骨を繋いだ愛しの『妻』を。
 彼は死ぬほど抱きしめた。
 そして、死ぬほど抱きしめられた。

「アーハハハハハハハ!ハッハハハハハハ!!アッハハハハハハッ!!!」









       
 





 

                 fin

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やっと、やっと終わり申した。う、うう、、、

サンダーバードが公開されてからずっとこの『読み切り』を書いていたのですが、なかなか時間が取れない上、結末が思い浮かばず苦労しました。

うん、「また」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

でも、この『連載』を見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
「アヘボコ腹」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
そう思って、この『読み切り』を立てたんだ。

じゃあ、『読み切り』を書こうか。

13/08/19 23:22 特車2課

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