連載小説
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初めての夜
暗い部屋の中で、今日もモニターを見つめる。
スクロールされるモニターの中は、最近日本にやって来たと言われる『魔物娘』の話題で持ち切りだ。
その話題は全て魔物娘を褒め称えるような話題で一杯だ。
何でも、人間の男が大好きでネット上でも次々と魔物娘と恋愛関係……というか、肉体関係になったという話題で持ち切りなのだ。
……しかし、その話題は俺には不快感しか感じられない

「人間の男性が大好き、だと……? 
 ふざけてんのか、どうせイケメンが好きなだけだろうが。
 俺みたいなヤツは男どころか人間扱いすらしないくせに」

これ以上ネットサーフィンをしても、ただイライラが溜まるだけだと判断した俺は、パソコンをシャットダウンさせベッドに寝転んで気分を落ち着かせることにする。

「……」

思い返せば、三十路近いのに女の手すら握ったことがない……というか、マトモに話したことがない。
小学校と中学生の頃は、所謂『気の強い女子』から嫌がらせを受けた。最初の頃は何度かやり返したものだが、すぐに敵は徒党を組みホームルームで俺を晒上げ、教師とクラスの大半を味方につけて俺を散々な目に合わせた。
高校生の頃は、所謂告白系罰ゲーム対象に何度もされたものだ。酷い時は毎日されたものだ。無視したら女子と繋がりのあるヤンキーに『相手しないと見ててつまらない』という理由で殴られたものである。
大学生の頃は、嫌がらせこそされていないが連絡事項があって話しかけると、露骨に嫌な顔をされた。それ故、仕方なく男子にしか話しかけることができなかった。
企業に入社してからは、所謂お局社員に社員の前でネチネチと真綿で首を締めるような悪口を叩かれたものだ。同期の女子新入社員もそれに乗っかる始末である。
とうとう嫌になった俺は、一年前に退職届を叩きつけそれ以来はずっと実家に帰って引きこもっている。
幸い、貯金はあり家も裕福なため引きこもるだけの金はあった。

「ああ、クソ! イライラする!!」

怒りに任せ、拳を壁に叩きつける。
……実際、女子が俺を嫌うのも分からなくはないのだ。特に、現在の俺はそうと言える。
顔は……まぁ、悪くはない(良くもないと言えるが)のだが、とにかく性格の悪さが滲み出ている。
小学生の頃から受けつづけた嫌がらせのためか、顔はとにかく不機嫌そうに歪んでしまっており、身体も引きこもり生活の為醜い体系となってしまっている。
飯は大して食っていないので、腹は出ていない。つまり、手足が枯れ枝の様に痩せ細り筋肉が削げ落ちているガリガリ体系だ。

「チッ、どうしてこうも……」

壁に叩きつけたせいで拳がジンジンと痛む、自業自得のその痛みがさらにイライラを加速させた。

「ずいぶんと荒れてるみたいね?」

窓際から女の声がする。
ピクリと肩を震わせながら振り返ると、そこには妖艶な美貌を持つブロンドの半裸の女が立っていた……人間の女ではない。
非常に人間離れした美貌や、メロンやスイカのような爆乳に抱き心地のよさそうな腰、子供を産むのには苦労しなさそうな安産型の尻など、海外のAV女優も顔負けのプロポーションを持つ事から察せるが、何より頭に生えた動物のような角や蝙蝠のような翼、そしてウネウネと動く尻尾が人間ではないと感じさせた。
つまり、人間ではないこの女は魔物娘ということになるが……

「……誰だ」

「フフ、そんなに怖い顔をしないで? 私はユーリア、貴方たちのいう魔物娘のサキュバスよ」

やはり、魔物娘か……しかし、何の用だ?
俺に何か特別な用事があるとは思えんし……やはり、ここは。

「何だ、俺を笑いにでも来たか」

「……笑う? 何故、私がそんなことをしなければならないの?」

「しらばっくれんじゃねえ! 女はいつもそうだろうが!! とにかく俺の部屋から出ていけ、見ているだけで吐きそうになるっ!!」

手元にあった目覚まし時計を思い切り投げつける、目覚まし時計はユーリアと名乗った女に当たらず、背後の壁に当たりガシャンと音を立てて壊れた。
……それと同時に治まりかけてきた憤怒の感情が、再び湧き上がってきた。

「駄目じゃない、女性にはもっと優しくしないと」

クスリと笑った女は、ゆっくりと獲物を追い詰めるかのように少しずつ……本当に少しずつ、ゆらゆらと俺に近づいてくる。
獲物を見定めたかのような視線を俺に向けペロリと舌なめずりをした女に、心臓が締め上げられたかのような感覚を覚える。
……何だ、この女!? おかしいと、俺の直感が告げている!

「い……いいからとにかく出ていけ! これ以上俺の部屋にいるってんならぶん殴るぞ!?」

「殴るなんて、そんな怖いこと言わないでちょうだい?」

目覚まし時計のみならず、近くにあった物は手当たり次第に投げつけるが全て当たらない、まるで物が意志を持ったかのように女を避けていくのだ。
さほど広くもないウサギ小屋のような俺の部屋だ、じりじりと距離を詰めてくる女はすぐに俺を追い詰めた。

(不味い不味い不味い不味い!!)

一瞬のスキを突いて部屋から脱出、そのまま慌てて靴を履いて家からも逃げ出すが……
もう夜中ということもあり、周囲に人影の姿はない。寝間着姿だが、それを気にする必要はなかった。

「はぁっ、はぁっ」

運動不足ということもあり、十秒も走ると息が上がってしまう。
だが、捕まるわけにもいかないので自らに鞭打ち無理やり身体を動かした。

「こ、ここまでくれば……」

女を撒くためにあちらこちらと角を曲がって走り続けた。
地元に詳しくないため、自分でもどこにいるのか分からなかったがとにかく走り続けた。
走り続けて10分ほど立っただろうか、元々体力がないこともあり電柱に寄りかかって体力の回復を図った。

「ここまでくれば、何なのかしら?」

背後から聞こえる、一番聞きたくなかった声。

「外に出ちゃ駄目じゃない、私は露出プレイはあまり好きじゃないんだから」

ガシリと強固に、だが優しく首と腰に腕を絡みつけられる。
耳元で聞こえる透き通った声といい、一番見たくもなかった白魚のような腕といい、あの女が俺を既に捕らえたのは明白だった。

「さ、お家に帰りましょうね。 お家でたっぷりと愛してあげる♪」

「ふ、ふざけるなっ! はな……んがっ!」

抗議の声を上げるが、首元に絡みついていた腕がそのまま口元に伸びて、俺の舌をそのまま掴む。
声を上げられなくなった俺は、抵抗すべく舌を掴んでいる指に噛みつこうとするが……

(力が……!?)

顎に力が入らず、文字通り歯が立たない状態になっている。 
それどころか、顎のみならず全身に力が入らない。 そのせいで振りほどくことも出来ない状況だ。

「甘噛みなんてしちゃって……♪ すぐにでも構ってほしいのね、でもお家に帰ってからよ♪」

女は俺を抱えたまま、翼をはためかせ飛び立ち、物の一分もしないうちに俺の部屋へと戻ってきた……どうやらただ周囲をグルグルと回っていただけのようだった。
ベッドの上に下ろされる。力が入らずまともに動けないためそのまま腰の上に馬乗りに跨られた。
女はそのまま俺の上着を捲り上げると、胸元につつっと指を這わせた。

「や、めろ……触るな……っ!」

その爆乳を俺の胸元に押し付けるように身を倒して、女は子供を安心させるかのように耳元で囁いた。

「今まで愛されたことがなかったのよね……でも、これからはその分私が愛してあげるわ」

「……ふざけるな! 今まで、お前のような女から、何度も同じ言葉を聞いたぞ……! そして、次の瞬間に嘲笑ってきたんだろうが……!」

「大丈夫」

女はくいっと俺の顎を持ち上げた。

「もう、大丈夫だからね……」

優しく、唇を重ねてきた。
その瞬間、体験したことのない強い刺激が脳内を駆け巡る。
……そこから先は何が起こっていたのか覚えていない、強すぎる刺激に意識が途切れたのだろう。
ただ一つ確かなのは、俺の寝間着がひん剥かれて下半身もドロドロとしていたから、女が俺を好き放題にしたであろうってことだけ。

「ふふ……♪」

横になっている俺の後ろで女が……ユーリアが満足げにほほ笑む。
普段の俺なら何が何でも追い出していただろうが、何故か今の俺はユーリアを追い出す気にはなれずとりあえず放っておくことにした。
……窓の外から見える朝日が、いつもより眩しく見える。

「夜が明けたわね、あなたの心の夜は晴れたかしら?」

「……知るかよ、馬鹿」

「そう? だったらもっと愛してあげる……♪」

「はぁ!? どうしてそうなる……んぐっ」

ごちゃごちゃと煩い、とばかりにキスしてくるユーリア。
頭を優しく撫でられ、舌がぐちゅぐちゅと絡められ、甘い唾液が送られてくる。
今度は気絶こそしなかったが、キスの快楽に頭の中が白くぼやけ何も考えられない。

「ぷは……あら? 今回は大丈夫みたいね。 成長したみたいでお姉さん嬉しいわ♪」
「うる……さい……」

目を細めて笑うユーリアに、息も絶え絶えに口答えするのが精いっぱいだった。
18/11/18 18:28更新 /
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■作者メッセージ
読み切りから連載に切り替えました。

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