読切小説
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もうやだー!
 暖かい日差しが畳の上に降り注いでいる。その日差しを受けて三匹の猫が昼寝をしていた。町はずれの空き家のため隙間風が吹き込んでくるが、今日は風もなく絶効の昼寝日和だ。黒、茶、三毛の猫が川の字になって寝ており、時々手足を動かしたり「ウニャ」とか「フニュー」等と寝言を呟いている光景はとても穏やかで、ここで盗賊一味が捕まったとはとても信じられない。そのせいで人が近づかなくなったので、三匹とも思う存分昼寝をしていた。
 それから暫くして黒猫が目を覚ますと、大きく体を伸ばす。ぐーっと体を伸ばして欠伸を一つする。それから隣にいる茶色の猫に
「ほら、起きてください。」
と、声を掛けながら体を揺する。さらに同じように三毛猫にも声を掛ける。
 茶色の猫は「もう朝なの?」と呟きながら起き上がるが、三毛猫は「後五分だけー。」と最近覚えた言葉を言うと、また寝ようとする。もう一度声を掛けるが効果はないようだ。
 黒猫は仕方ないなという顔をすると突然可笑しなことを言いだす。
「あら、こんなところで魚がおよいでいますわ。」
「うにゃ?!その魚は、うちのにゃ!ど、どこにいるのにゃ?どこにゃ?ここかにゃ、こっちかにゃ?!・・・て、あ、あれどこにいるにゃ?」
 その言葉に飛び起きた三毛猫は辺りを走り回って魚を探し始める。そうして探すこと暫く・・・
「雲母(キララ)−!うちを騙したにゃー!」
 怒りで背中の毛を逆立てながら三毛猫が詰め寄るが、
「美音(ミネ)さんが探している間に外に逃げてしまったんでしょう。」
 そうして始まる二匹の鬼ごっこを聞きながら茶色の猫朱音(アカネ)は、毛繕いを始めた。


 彼女たちは<ネコマタ>と呼ばれている人外の者だ。このジパングでは妖怪と呼ばれ、異国の地では魔物娘と呼ばれている。ネコとヒトの姿になることができ、普段はネコの姿で暮らしている。今も日中なので喋ったりしているがその姿はネコの姿だ。

 
 日が傾き辺りが暗くなっても鬼ごっこはまだ続いていた。
「まつにゃー!」
「まちませんわ。」
「にげるにゃー!!」
「にげますわ。」
 不毛な言い争いをしながら家の中を縦横無尽に走り回っているため、朱音は縁側に避難している。
 塀は崩れていないため、外からは見られる心配はないが通りすがりの人に声を聴かれるのは不味い。特に盗賊騒ぎのため見回りが強化されている。その盗賊一味は、彼女たちの手で無力化されて捕まっているが・・・
(そろそろ止めた方がいいわよね。)
 朱音は立ち上がると声を掛けようとして、
「また、二人で鬼ごっこしているの。」
 唐突に聞こえてきた声に驚くことなく朱音は振り返り挨拶をする。
「こんばんわ、沙羅(サラ)さん。」
 そこに座っていた白猫の沙羅は、「ええ、こんばんわ。」と返事をすると、ヒトに姿を変え縁側に腰を下ろす。朱音も姿を変えて隣に腰を下ろす。
「いつも通り、雲母に騙されてよね。」
「ええ、いつも通り。」
 その言葉に沙羅は頷くと「それじゃ二人で始めてましょう。」と言いながら酒瓶と杯を用意する。朱音も杯を手に取る。お互いの杯に注ぎ合う。杯に自分の顔を浮かべる。二人一緒に杯を呷る。それを始まりとする。それからは互いに飲んだり注いだりを繰り返して・・・
「「なにしてるんにゃ(ですか)??」」
 聞こえてきた声に二人が振り向くと、ヒトに化けた雲母と美音が立っていた。先に酒宴をしていたから怒っているのだが、
「あれ、もう終わったんだ。」と、沙羅が言い
「まだ続けててもいいのに。」と、朱音が言う。
 それに対して
「冗談じゃないにゃ!」と、美音が叫び
「お酒の二人占めはゆるしませんわ。」と、雲母が言う。
 沙羅と朱音は苦笑いを浮かべると、二人を座らせて「まあまずは一杯。」と注いでゆく。
「調子いいにゃ。」
「仕方ないですわね。」
 そう言うと美音と雲母は一緒に杯を呷る。
 こうして四人の酒盛りがいつものように始まった。


 注意:ここから先は脚本形式にて記載しますので申し訳ありませんがご了承したうえで読んでください。

 美音(以下美)「うにゃー。今日のお酒は美味しいにゃー。」ぷはー
 雲母(以下雲)「美音さんは何時もそればかり言っていますね。」ふー
 美「当たり前にゃ。お酒を美味しく飲めないなんて人生を損しているにゃ。可哀そうにゃ。」沙羅に注ぐ
 沙羅(以下沙)「確かにその通りよね。」くいっ
 朱音(以下朱)「この場合は妖怪生というんじゃない?」首をひねりながら美音に注ぐ
 美「細かいことは気にしないにゃ。」くいっ
 雲「美音さんらしいですわね。」朱音に注ぐ
 沙「今に始まったことじゃないでしょ。」美音に注ぐ
 美「ちがうにゃ!今始まったばかりにゃ!」くいっ
 雲「そうじゃないでしょ。」ため息をつき沙羅に注ぐ
 朱「ま、久しぶりなのは確かだしな。」くいっ
 沙「本当よね。あの盗賊たちのせいで暫くここに来れなかったし!」くいっ
 雲「ふふふ。」沙羅を見て笑いながら朱音に注ぐ
 沙「な、何、その笑顔は?」美音に注ぎながら不思議がる
 雲「本当にそれだけですか?」沙羅に注ぎながら訊ねる
 沙「だ、だから何よ?」思わず目をそらす
 美「そういえば、郁太(イクタ)って人間助けるとき沙羅ちゃん張り切ってたにゃ。」くいっ、ぷはー
 朱「そうそう、縄を切るのも自分がするって」くいっ
 沙「あ、あれは、皆が盗賊たちの相手をするからって・・・」朱い顔をさらに朱 くする
 朱「そうだったっけ?」雲母に注ぎながら首を傾げる
 雲「覚えてませんわ。」くいっ
 美「覚えてにゃーい!」両手を上げて答える
 沙「ず、ずるいわよ。」一息に飲もうとする
 美「でもね、美音、知っているんにゃよ。」朱い顔で周りを見回す
 雲「何をですか?」首を傾げる
 美「沙羅ちゃんね。郁太に妻になってくれって言われたんだよね。」爽やかな笑顔で
 沙「!!!」噴き出す
 雲、朱「「おーー!!」」目を輝かせて
 美「そんでね。あれ以来道場で、郁太見るたんびに逃げ出しているんにゃよね。」自慢げに話す
 沙「げほっ!げほっ!」咽ている
 美「池に落っこちたり、道場の壁にぶつかったり、障子や襖も破ったりしているんにゃよねー」合っているよねと沙羅を見る
 沙「や、やめなさムゴッ?!」雲母と朱音に抑え込まれ口を塞がれる
 雲、朱「「続きは??」」期待に満ちた顔で
 沙羅、暴れるが抑えられているため効果はない
 美「んでね。郁太、そのたびに沙羅ちゃん助けたり、障子とか貼り直してるんだよ。」指を折りながら答える
 雲、朱「「それから」」顔を朱くする
 沙羅、大声を出そうとするが口も塞がれているため効果はない
 美「道場の入り口で、郁太来るのをじーっと待ってて、来ると直ぐ逃げるんにゃよね?」合っていると沙羅に訊ねる
 雲、朱「「ふんふん、それで??」」興奮して
 美「えーと、それから郁太帰るとき屋根の上とか塀の隙間から見守りながら後を着けてるんだよね。」こんなこともしていたよねと話す
 雲、朱「「本当??」」押さえつけている沙羅に訊ねる
 沙「・・・・う」小さく震える
 雲、朱、美「「「う???」」」塞いでいた手をどかして沙羅に訊ねる
 沙「う、う、うわーーーーん!!!バカーーーー!!!!」
 沙羅、叫び声とともに妖術を全力で発動
 
 その日の夜西の区が昼間の如く明るくなった。急ぎ役人が駆けつけると件の空き家の屋根に大穴が開いていた。そして大人三人が立って入れるほどの深い大穴が出来ていた。役人たちはこの区を出入り禁止とした。

 








       証明書


 許してもらうのに三ヵ月謝り続け、上物のお酒を三週間用意して、これ以上質問しないことを約束します。     雲母、朱音、美音。
 
11/10/16 04:59更新 / 名無しの旅人

■作者メッセージ
うーーー!こうなったら郁太を私好みにして絶対責任をとらせるんだから

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