連載小説
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前編
迂闊だった。
別に日常の性生活に不満があるわけではない。
むしろその逆で、彼女とのまぐわいはこれ以上の無い至福と快楽の時間である。

でも。

でも男には色を好む瞬間がどうしても出てきてしまう。
魔物娘のような彩り豊かな女性に対しては特に。


「説明、してもらいましょうか」


にこやかな顔はそのままに、恐ろしいほど低い声色で言葉を発する鰻女郎。
彼女は寧々さん、私の妻である。

「お、お散歩を、少々」

「あら、夜も更けた頃合いにラブホ街の前を<女性と二人で>お散歩ですか。それは随分と健康なこと。……何か釈明は?」

「し、しかし寧々さん…。私も悪気があったわけじゃ…」

「何か釈明は?」

「はい、すみませんでした」

眼前に広げられる浮気の瞬間を捉えた写真の数々に、あらゆる弁明の言葉が効力を失う。
最近の私の言動を怪しんだ寧々さんがご友人であるクノイチ氏に探偵依頼を出していたらしい。
鰻であるはずの彼女が最早蛇にしか見えず、私は睨まれた蛙のように怯えながら謝罪をするしかなかった。

そう、私は先日、生まれて初めて浮気をしたのだ。





お相手は妖狐のスズさん。仕事帰りに立ち寄った居酒屋の女将さんである。

……というのは建前で、実のところはスズさんの妖力によって客と女将の関係を幻覚として見せられていた。
そして本来存在しない居酒屋で酒を飲み、酔った勢いで……というのが事のきっかけである。

妖狐というのは往々にして性技に優れている、と妖狐の奥さんを持つ友人が話していた。
なるほどそう思うのも必然だと言わんばかりに私はスズさんの手から口からその膣に至るまで、あらゆる手段をもって吐精する羽目になった。
ある時はキスで口を抑え込まれながらの手コキ。
ある時は腰をガッツリと掴まれ、腰を引くあそびも無いままに口で絞られ。
またある時はうねうねとした膣ひだと程よい締付けによる快楽の蜜壺で果てを見る。

要は襲われた訳だが、寧々さんと同じ豊かな乳にムチっとした体つきで手練手管の弄するままにあっという間に虜にさせられ、私自身スズさんとの逢瀬は吝かではなかった。
後ろから抱きつき、着物に手を入れて胸を揉みしだいてやると見た目にそぐわぬ可愛げな声を出すものだからついつい調子に乗ってしまう。
抱けば抱くほど男冥利に尽きる思いになる至極の女というのは寧々さんも同様で、この二人は雄としての本能を引き出すのが上手いな、などと暢気に考えたこともあった。
違いがあるとすればヌメりのある肉厚な下半身で巻き付かれるか、7本の尻尾で優しくふわりと触られるかの違いくらいだろう。

当たり前だがこの二人とのセックスに対して、甲乙をつけるなどというのは不可能である。
私は寧々さんに巻き付かれるのがこの世の至上だと思うほどに好きだし、スズさんとの尻尾を掴みながらのセックスは有り得ないほどの嗜虐感を覚える。
自らを薄情だと思いつつも、既にインキュバスと化した私の肉体は迫りくる二つの肉壺を受け入れることしか出来ないでいたのだ。

結局はスズさんとの爛れた関係は寝込みを襲われた初対面時だけに収まらず、

「どうじゃ、わしの『はじめて』を貰ろうた気分は?」

「お主に伴侶がいることなど端から知っておる。じゃがその程度の障壁で惚れた男を諦めるほど妖狐は奥手ではないぞ…♡」

「旦那様…♡ふふ、生まれて400年。かつてないほどわしは幸せじゃ♡」

とか何とか言われこの関係性は1週間続き──


今に至る。





「まあ私も最初から分かっていましたとも。男友達の家で夜通し飲んだはずの夫が他の女性の匂いをまとって帰ってくるはずがないでしょう?」

「はい」

「例えば妖力に中てられて幻覚を見たまま逆レイプ…、とかそういうこともある時代ですから。そういう『被害』にわたしの素敵な旦那様が遭遇しないとも言い切れません」

「はい」

「本当に愛し合った夫婦なら『被害』を受けたとしても夫は妻だけを愛するはずです。決して『加害者』に靡いたり、そんなはずはありませんよね?」

「はい」

「旦那様、わたしのこと、寧々のことを愛していますか?」

「はい」

「ふむ…嘘はついていないようですね。では次の質問です、浮気相手の方のことを愛していますか?」

「……は…いいえ」

「ふむ…だ、そうですよ。“スズ”さん」

「え?」

「おぬじいいぃぃ信じておっだのにいいぃぃぃ」

「え?」


気付けば目の前には私が抱いたことのある二人の女性が存在していた。

一人は、柔和な笑みを浮かべる私の妻。
そしてもう一人は、400歳らしからぬ勢いでわんわんと泣き喚く私の浮気相手。
何をどうしたらこの場にスズさんがいるのか私の考えの及ぶところではなかったが、私を構成する細胞すべてが現状の危険を感じ取っていた。
全身の穴という穴から冷や汗が吹き出す。

「どうやらスズさんは旦那様のことを愛してらっしゃいます。それでも、旦那様はスズさんのことを愛しておられないのですか?」

「え、いや、わ、私は決してスズさんのことを愛していないわけでh…」

「ひぐっ、えぐっ…。お主ひどいよぉ…。わしとの激しすぎる交尾中に愛してるって何回も言ったじゃろぉ…」

「え」

マズイっすスズさん。
寧々さんの表情がみるみる険しくなってますって。

「寧々ともやったことのない体位でわしの子宮をズンズン突きながら好きだ、愛してる、って言いまくりよったじゃろぉ…」

「ちょっと」

寧々さんの背後に般若が見える。
寧々さん怒ってる。超怒ってるって。

「最終的には寧々も入れて3Pしようねとか言ってたじゃろぉ」

「あっ!?えっ!?寧々さん!?違うんですこれは!」

「な・に・が。違うんですか?」

「ちょっとスズさん!あることないこと言ってませ──」

爆弾発言の主を問いただそうと彼女のほうへ振り向くと、

(テヘペロ)

からかうように舌を出すスズさんがいた。


オイオイ、死んだわ俺





「さて、でははじめましょうか」

そう言って寧々さんは着物の帯を緩め、その下にある柔肌を晒し始めた。
前合わせを握ってそっと着物を持ち上げれば、何度見ても飽きない白く美しい肩がその姿を現す。
そこから衣装を握っていた手を放すと、着物自体が自重に従って下へと崩れ落ちる。
肩から下が勢いよく露出すると同時に、生地の上からでも主張の強かった大きく豊かな乳がぷるん、とこぼれ出る。
私とスズさんの視界に晒された彼女の肌は、陶器のように白く滑らかで一見さらさらとした感触のようにも思えるが、実際に触れると粘液にまみれていることがよくわかる。
そしてその粘液こそが彼女の最大の武器であり、私は数えきれないほどの回数、寧々さんの体液によって果ててきた。

「あら、その浮気おちんぽはまだまだわたしの体で興奮するのですね」

寧々さんは自身の体を私に這わせるように動かすと、股間部分をすりすりと手探りはじめた。
私が気持ち良くも、もどかしく感じる程度の絶妙な感触で優しく服の上から擦ると、少しずつ膨らんでいた陰茎が完全な怒張を迎える。

「寧々さんの体がエッチすぎるんです」

「あらあら、でしたらこの体、他の殿方に見せたらどういう反応をするでしょうか」

「…!それは…」

「嫉妬、されましたか?大丈夫ですよ。このからだは旦那様だけのもの。ですがその嫉妬という感情をわたしも同じように感じ取っていたこともちゃんと覚えておいてくださいね」

「ご、ごめんなさい」

「わかればよろしいのです。ではでは…今日はしっぽりと♡仲直りセックス、致しましょうか♡」

「ちょいちょい待てーい!待たんか!」

寧々さんに押し倒され、もう少しのところで唇を重ねんとするところで一匹の妖狐が割って入る。
せっかくいい所だったのに、と私と寧々さんは彼女を冷めた目で見つめるが、この発情寸前の妖狐は一歩も引き下がろうとしない。
たしかに、今回ばかりは私が彼女を睨んでいい道理などないのだが。

「わし!いる!ふたり!キス!すてい!すてい!」

「あら、スズさんいましたの?」

「ひどくない?わし元々はここに呼ばれたから来ただけなんじゃけど」

どうやらスズさんは寧々さんに呼び出されてこの場にいるらしかった。
浮気した旦那を問い詰めるためとはいえ、浮気相手を召喚してまでの問い詰めをするとは…我ながら恐ろしい奥さんである。

「ふふっ、冗談ですわ。もう、スズさんも旦那様のこと大好きなのですね」

「そ、そらそうじゃ。あれだけ愛し合っておいて今更失恋なぞ嫌じゃからな」

「スズさんのお気持ち、よぉく分かりました。でしたらわたし、スズさんに良い提案があるのですが」

「な、なんじゃ…?」

そう言って寧々さんは私の身体から身を離し、スズさんに絡みつく。
私好みのムチムチ体型が御前で絡み合う光景は得も言われぬ興奮を誘うのだが、この場合注目すべきは寧々さんが話すその内容だろう。
「良い提案」とは何ぞやと耳を傾けていると、寧々さんは底知れぬ笑みを浮かべながら思いもよらぬ発想を口に出す。

「スズさんも旦那様の女となりなさい?有り体に言えば…スズさんも妻になればよいのです」
20/01/21 00:19更新 / 孀婦顰蹙
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■作者メッセージ
前編はプチ修羅場からのお話でした。

後編はエッチだなと思えるような濡れ場を書く予定です。
良ければ後編もお付き合いください。

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