連載小説
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Bee war #2
「ほう、これがハニービーの巣か。興味深いな」
 木材でも土でもない不思議な材質で出来た巣の内部を見て流石の俺様も感嘆の声をあげる。
 床や壁をペタペタと触ったり軽く叩いたりして見るが、俺様の豊富な知識を持ってしても材質の特定は難しそうだ。敢えて近いモノを挙げるなら、蝋で固めた紙と言った所だろうか。強度は段違いのようだが。
「なにしてるんですかー、はやくいかないと女王さまに叱られちゃいますよー」
「はやくはやくー」
 知的探究心に駆られて立ち止まった俺様をハニービー達がグイグイと引っ張り、巣の奥へと誘う。
「ええい引っ張るな。分かったから手を離せ」
「駄目、あなたそう言ってさっきから何度も立ち止まってるじゃない」
 そう言いながら三匹のハニービーのうち、蜂蜜色の美しい髪の毛をセミロングにしている個体が俺様の背中を押す。こいつが三匹の中では一番しっかり者らしい。
 仕方なく未知の材質への探究心をひっこめ、代わりに巣の内部構造を観察する。
 巣の内部は外敵の攻撃を想定しているのか非常に複雑な造りになっている。その上一見ただの壁や床に見える場所が次の階層への隠し扉になっていたりする。まともにこれを制圧するとなると、相当苦労することになるのは間違いない。
「あの子可愛いなぁ…」
「そうだね、女王様からお下がりで来たら私が飼ってあげようかな」
「あ、ずるーい。私も混ぜてよー」
 そしてなんと言うか、数が多い。
 予想を遥かに上回っている。
 当然皆女性体だ。
 しかもどの娘もタイプの違いこそあるが器量よしの美人、美少女揃いである。
「んっ…ほら頑張って」
「えへへぇー…またおっきくしてあげるねー?」
「も、もう無理だ…や、やめてくれぇ…」
 時折こんな感じで喘ぎ声だの嬌声だのが聞こえてくる。捕らえられた人間の男にとっては、ここは天国に一番近い地獄であるらしい。まぁ、腹上死できるなら男冥利に尽きるだろう。俺は絶対に助けてやらん。

「かなり降りたようだが、まだ着かんのか」
「も、もう着く…よ」
 前に立って俺様の左手を引くハニービーがこちらを振り返り、蕩けるような笑みを浮かべた。どうも様子がおかしい。
 頬には薄く紅が差し、両の瞳は涙で潤み、熱い吐息を漏らしている。他の二匹を見てみると、そちらも同様の状態だ。
 各々熱い息を漏らし、潤んだ目は落ち着きなく(俺様を極力俺様を視界に入れないように)辺りを彷徨い、両足をモジモジと切なげに動かしている。
 明らかに発情している様子だが、はて? 何が原因でこうなったのか皆目見当もつかない。

『そこまでで良いですよ、愛しい娘達。あとはその方お一人で来ていただきましょう』

 頭の中に優しげな声が響く。この頭の中に直接響くこの特徴的な感覚は肉声ではなく念話よるものに間違いない。女王は何か魔術的な力を行使できるようだ。
 これは面白い、女王という存在に俄然興味が沸いてきた。
「は、はひ…ひつれいひまふぅ…」
「うぅ〜…」
 三匹のハニービーがヨタヨタしながら踵を返して歩き去って行く。そういえば微かに甘い匂いがするが、もしかしたらあの三匹はこの匂いにあてられたのだろうか?
 俺にとってはただの甘い匂いでも、ハニービーには何か影響のある匂いなのかもしれない。
 少し歩くと例の未知の材質でできた大きめの扉が現れた。先ほどから匂っている甘い匂いは、この扉に近づくほど強くなり、すでに『甘ったるい』と言っても差し支えないレベルだ。
 俺様が度を超した甘い匂いに眉を顰めながら扉をノックすると、扉は音も無く内側へと開いた。無論、俺様は扉が開くほど強くノックはしていない。

『さぁ、こちらへ来て。お顔を見せてくださいな』

 声に従い部屋の中へと足を踏み入れてみると、内部はやたらと広い空間だった。高い天井から幾重にも大きなヴェールが垂れ下がり、奥に居るのであろうと思われる女王の姿を隠している。
「無意味にデカい部屋だな。ヴェールで区切るくらいなら最初からもう少し小ぢんまりと作ったほうが良かったんじゃないのか?」
 俺様が幾重ものヴェールを潜りながら皮肉ると、ヴェールの奥からくすくすと笑う気配がした。
「ここに来た人間で扉を開くなりそんな事を言ったのは貴方が初めてですよ」
「ふん、俺様はそこらの凡人とは出来が違うのだ」
 ようやっと幾重ものヴェールを抜ける。
「あら…」
「ほう…」
 蜂蜜色の髪を上品に頭の上でまとめ上げ、清楚な純白のドレスを纏った美しい女が豪奢な装飾の椅子――所謂玉座に腰掛けていた。
 額に光るティアラと頭頂部の触覚が彼女がハニービーの女王であることを示している。
「少し意外でしたわ、こんなに可愛らしいとは思っていませんでしたから」
「俺様も驚いている。まさかハニービーの女王が完全な人間型 (ヒューマノイド)とはな」
 俺様の言葉に女王は口許に手を当ててころころと鈴の音のような笑い声をあげた。
「私なりの配慮ですよ。やはり同族の女性に近い姿の方が交わりやすいでしょう?」
「そのためだけに擬態の魔術なんていう大掛かりなモノを使っているのか…頭が下がるよ」
「半ば無理矢理ですからね、私は私にできる限りの心配りをするだけです。それに愛娘達は優秀ですから。暇な私は人間から拝借した書物や魔導書を読んで、こういった術を習得するくらいしかすることがないのですよ」
 そう言って彼女が指し示す先には大量の書物が積まれていた。なるほど、彼女は俺様が思っていた以上に思慮深く知的だ。
 ハニービーは人間の男を拉致し、性奴隷の如く扱うと書物で読んだのだが…百聞は一見にしかず、とはこの事だな。
「小さな大魔術師殿、貴方様の目的はなんでしょう? まさか我が愛娘達に偶然連れて来られたわけでは無いのでしょう?」
「実の所半分はそのまさかなんだがね…」
 頭を掻きながらバツが悪そうにそう言うと女王は一瞬目を丸くし、そして心底可笑しそうにくすくすと笑みをこぼした。なんというか、いちいち反応が魅力的な女性である。俺様の周りにはあまり居ないタイプだ。
「まぁ…ふふ、ではもう半分は?」
「貴女との交渉が目的だ、女王陛下。この魔術師トロン=マクレインはそのために貴女の王宮であるこの場所に単身乗り込んできたのだ」
 俺様がそう言うと女王は玉座から腰をあげ、こちらへと近づいてきた。彼女が近づくごとに甘い匂いが更に濃くなる。
「残念、貴方には私のフェロモンが効かないのですね」
「フェロモン…この甘ったるい匂いか?」
 女王が頷き何か念じるように目を閉じるとその途端、周囲から甘ったるい匂いが消え失せた。
「私のフェロモンを嗅げば大抵の男性は我を失って獣のように私に襲い掛かってくるのだけど…貴方には効かないみたいです」
「俺様の身体にかかっている呪いが何らかの影響を及ぼしているのかもしれ――んぐ?」
 女王が俺様に唇を押し付けてきた。まぁ、話の逸らし方からこんな事ではないかと思ってはいたのだが。
「あまりにも唐突過ぎやしないか?」
 唇を離してそう言うと、女王はにんまりと淫靡な笑みを浮かべた。
「あら、交渉するにしても何にしても、まずは誠意を見せては頂けないのでしょうか?」
「…オーケイ、お相手させてもらおう」
 女王は俺様の言葉に二度目のキスで答えてきた。俺様もそれに応えるように舌を突き出し、女王の舌を絡めとる。荒い息と唾液を交換し合う水音ぴちゃぴちゃと暫く続く。
 お互いが唇を離したのは同時だった。
「たまにはこういうのも良いですね。病み付きになりそうです」
「いつもは違うのか?」
「フェロモンの影響で野獣の如く襲いかかってきますから…」
 そう言いながらいつもの『野獣に犯される自分』を思い出したのか、女王は恍惚とした表情で身震いした。
「それでも淫らに腰を振り乱して大声でよがり狂うんだろう…?」
「そ、そんなことは…っ」
 耳元で囁きながら形の良いヒップを強く揉みしだく。
「嘘を言うな…この女王の皮を被った淫売が。貴様は無理矢理組み伏せられて野獣のように犯される事がたまらなく好きなド淫乱の変態だ」
「ひっ…ん…ひ、酷いわ、わたくしはそんな――ぁ、あぁっ!?」
 口答えをしようとする女王のドレスを乱暴にたくし上げ、ビショビショに濡れた秘所に指を突き入れて掻き回してやる。下着はつけていなかった。
「ではこのだらしなく涎を垂らしている穴はなんだ? このヒクヒクと蠢いて俺様の指を離さない穴は。罵られて感じているんだろう? このマゾヒストが」
「あくっ! そ、それはぁ…――っ!? やっ、そこはだ…ひっ…ぎぃっ!?」
 強過ぎる刺激に腰を抜かした女王が俺様に抱きつき、もたれかかるように膝をつく。
「貴様の蜜で汚れた指だ、貴様が綺麗にしろ。念入りにな」
「ふぁい…」
 口元に指を持っていくと、女王は恍惚とした表情で自らの蜜に塗れたそれを素直にしゃぶり始めた。
「名を教えろ。貴様のような被虐趣味の変態に女王という呼称は上等すぎるだろう」
「ふぁい…ピリカと申します」
「悪くない名前だ、ピリカ…では、始めようか」
 俺様は自らの身体に見合わぬ程に膨張した逸物を取り出し、そう宣言した。



「は…あぁ…やはり殿方は野獣です」
「さてどうかな? 案外お前自身がそうさせるのかもしれんぞ。俺様も久々に羽目を外してしまったしな」
 玉座の後ろにも垂れていたヴェールの向こう、俺様達はそこに設置されていた大きなベッドの上に寄り添うように寝そべっていた。勿論お互いに全裸でだ。
「もう、そんなこと言って…私は貞淑な女でありたいと思っていますのに」
「アレだけ甘ったるいフェロモンを垂れ流しておいてどの口がそんなことを言うんだ…まぁいい、そろそろ本題に入るか」
「あん…もう、もう少しゆるりとしても良いではないですか」
「何度気をやるまで付き合ったと思っているんだ…そろそろこちらにも譲歩しろ」
 そう言って軽く口付けをするとピリカはにへらーっと笑みを浮かべた。ご機嫌は取れたらしい。
「わかりました、お話を伺います」
 そう言って身体をぴったりと密着させてくる。人肌の温かさと女性特有の柔らかいあれこれが雄の本能を刺激しようとするが、俺は持ち上がろうとする本能を捻じ伏せた。これくらいできなくては魔術師も、魔物の相手も務まらない。
「ここ最近街道付近でホーネットと争っているだろう? それで近くにある人間の街が大層迷惑している、それをどうにかできないかと思って俺様は来たのだ」
「そうですねぇ…いくらトロン様の頼みでも、あの思慮の無い野蛮な尻軽女達と私達が和解できるとは思えませんわ」
 思慮の無い野蛮な尻軽女と来たか。魔物としては格段に温和で知的なピリカがそこまで言うとなると、相当確執の根は深いらしい。
「どうしても無理か?」
「無理ですわ、そればかりは有り得ません」
 キッパリと言い切るピリカの弁にしばし思考を巡らせる。
「ふむ、ではホーネットをどうにかすればハニービーは人間と共存できるか?」
「そうですわねぇ…それが本当に共存であるならば、可能かもしれません」
 なるほど、ピリカは俺の言う共存が共存とは名ばかりの服従であることを疑っているわけか。今のピリカはちゃんと女王をしているわけだ。
「ふむ、やはりお前は思慮深く知的な女だな。見直したぞ」
「…惚れ直した、と言ってはくれないのですか?」
「俺様を惚れさせるにはまだ足りんな」
 そう言ってもう一度口付けを交わす。今度は少し濃厚に。
「ん…むぅ、トロン様はずるいです」
「魔術師は狡賢いと相場が決まっているものだ」



 その後また何度か交わり、ホーネットを何とかすれば人間との共存を見据えた交渉の席に着くと確約を得た俺様はピリカの部屋を後にして巣の内部を歩いていた。ピリカ自らの案内で。
「ふぅむ、ハニービーの女王に案内されながら巣の中を闊歩する人間は俺様が初めてだろうな」
「そうかもしれませんわね。大抵の人間の男性はああなりますし」
 そう言ってピリカは丁度通りかかった部屋の中に視線をやった。
「はぁ…はぁっはぁ…っ!」
「もっと突いて! 奥までっもっと!」
 目を血走らせ、盛りのついた獣のように交わる一人の男と一匹のハニービー。双方の身体がぬめる液体でテラテラと光っている。
「アルラウネの蜜か…そりゃ耐性の無い普通の人間にあれだけ使えばああなるだろうよ」
 アルラウネとは森などに生息している植物を原型とした魔物の一種だ。彼女らの分泌する体液はアルラウネの蜜と呼ばれ、超強力な媚薬効果を持つ。そのため多くの魔物や人間に重宝される。
 効果は抜群と言っていい。一口飲めば処女でも馬の逸物を咥えこむようになり、男ならば精力絶倫で抜かずの三発は当たり前、体中に塗りたくれば全身が性感帯となり至上の快楽を得られる。もっとも、そこまでやって『帰ってこられる』かどうかはその者次第だが。
「そういうモノなのですか?」
「お前達ハニービーはどうかしらんが、人間にアレだけの量を使うのは明らかにオーバードーズだよ。薬品は用法・用量を正しく守って使わんとな」
 その光景に興味を失った俺様は一つ肩を竦めて歩き始めた。慌てたようにピリカが後をついてくる。
「あの…どうも思わないのですか?」
「思わん、俺様には自分で自分の身を守れないような間抜けにかける情けは無いのでな。もっとも、今後共存を考えるならば問題ではある」
「と言いますと…?」
 ピリカが首をかしげる。ふむ、どうもこいつはいちいち挙動が可愛いな。これも男に媚びる本能の為す業か。
「共存するつもりなら獲物をキャッチ&リリースするくらいの妥協は必要になる。戻した男がもう人間社会で生きていけないようでは意味が無いだろ」
「む…しかし」
「難しく考えるな。使い捨てるんじゃなくて上手く飼い殺せということだよ。男なんて単純なモノだ。気持ち良い上に危険が無いということなら解放してもすぐに戻ってくるさ」
 考え込んでしまったピリカにそう言うと、ピリカは苦笑いを浮かべた。
「そういうものでしょうか…」
「なぁに、もう少し自信を持つが良いさ。お前の娘は皆器量良しだからな」
「…浮気はダメですよ?」
「浮気も何も俺様はお前のモノになったつもりは無いんだがな…」
 そんな事を言いながら腕をぎゅっと抱きしめてくるピリカに俺様は苦笑いを返す。ピリカの方が背が高いので、傍から見ると大層ちぐはぐな光景だろう。
「何にせよ一度街に戻る。そう遠くないうちにホーネットの件はどうにかなるだろうから、とりあえずは騒ぎを起こさないよう大人しくしていろ」 
「はい、わかりました。あの…」
「何だ?」
「あの…トロン様はその…また私に会いに来てくださるのでしょうか…?」
 目を伏せ、もじもじしながらそう言う様はまるで穢れを知らぬ乙女のようだった。媚薬も魅惑の魔法も効かない俺様にとって一番危険な魔物というのはこういった手合いだ。
 そのどちらも使わずにこうして単純に心を掴もうとしてくる個体が一番厄介である。
「…ふん、せいぜい俺様に飽きられないようにするんだな」
 俺様の言葉にピリカは目を輝かせた。と同時に周囲に甘ったるい匂いがし始める。
「落ち着け、ダダ漏れになりかけてるぞ」
「ぁ…! 申し訳ございません」
 慌てて放出しかけたフェロモンを止めるが、時既に遅し。周囲の部屋の幾つかから女の激しい喘ぎ声や男の獣のような咆哮が響き始める。
 これがもし街中であったなら――考えるのも恐ろしい。これだけの威力があれば街を一夜で壊滅させるのも夢ではないかもしれない。無論、性的な意味で。
「まぁその、なんだ。ほどほどにな」
「はい…あの…お待ちしておりますから」
 俺様ピリカの言葉に手を挙げて応え、ハニービーの巣を後にするのだった。
09/12/23 04:36更新 / R
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■作者メッセージ
その2でした。
媚薬や魅惑魔法よりも危険なのは、やはり心を鷲掴みにするハートだと思うんですよ。

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