連載小説
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会敵
...どれくらい走っただろうか。
ひとまずあの狂喜の声がもう聞こえない程には森の奥深くまで走ってきたらしい。
幸いにしてこの森は俺のホームグラウンドだ。ポローヴェから少し外れた、魔界化が進んでいない小さな森。その奥にある村というより集落に近いような場所だ。
なまじ魔界が近いせいで外交も難しく、村の中で何とか自給自足していく他はなかった。
そんな森の中で俺は親父の猟師としての技能を受け継ぎ、自負するのも何だが狩りだけは村の食材調達に任せられる程には上手かった。森も小さなユートピアを築いており少しだけなら命を頂戴しても問題がない程生命に溢れていた。
故に食料の問題はない。大事なのは...


「はぁ...どうすんだよこれから...」

狩人リーメル・ヴォリグの、人としての今後だった。


一瞬にして故郷、家族、友人を一辺に失ったのだ。正確には失ってはいないのだが、会いに行けない上にかつての人格が消え去ったのではであれば失ったと同意義だろう。
どうする?反魔物国家に救援を要請する?だが森の外はポローヴェに近い場所故、魔物が蔓延る森の外は危険だと母からよーーーく言い聞かせられている。狩りの腕があれど護衛がなきゃとてもじゃないが恐ろしくて出ることは出来ない。
伝書鳩は全て村の中だし、そもそもずっと猟師に携わってきたから読み書きさえも怪しい。

ならば、このまま1人で生きてく?奴等に怯えながら細々と?無駄に命を繋ぎ誰とも話さず孤独に生きる?真っ平御免だ。まだスライム共に一矢報いて殺された方がましってもんだ。

うーん...しかし...

「ちょっとそこのアンタ、聞きたい事があるんだけど...アンタ、リーメルって名前?」

突如背後から冷やかな女性の声が聞こえてきた。

こんな所に女性がいるわけが...魔物ッ!
考えるより先に体が腰に備えたマチェットを右手に握らせ声が聞こえた背後に向けて振り向かずに突き刺した。

「躊躇無くいったわね...私達の種族でなければ危ない一太刀だったわよ」

渾身の一撃は確かに命中した。しかし妙な手応えから、それは魔物の中でも特異な者だと直感する。
マチェットを抜き素早く前へ走り込み、距離を取れた辺りで振り返り正体を確認した。

「スラ...イム...!」
「そう、レッドスライムのリン、よろしくね」

忌まわしきゼラチンの化け物を目の当たりにしてフツフツと殺意が沸き上がった。
「...ふざけやがって!!何がよろしくだ!!
故郷の仇だ、殺してやる!!」

しかし、そう息巻こうとも、今の手持ちはマチェットと腰に巻いた袋にある食料の生肉しかない。
背後に向けて突き刺した渾身の一撃で何の手応えも無かった。あれで致命傷を負わせれなかったのであれば...相当な長期戦を覚悟した。

「御立派な事ね。ただ、相手はちゃんと選ばないと今度はアンタが取り込まれるわよ」
「くっ...クソっ!!」

攻撃が効かなかった事に加え不意にスライムを見たことで村の惨状がフラッシュバックし、恐怖心は留まることなく膨れ上がる。
力強く叫んで闘争心を失わないようにするものの対抗策が見当たら無いこの状況下、脚をすくませないよう堪えるのが精一杯な有り様だった。
そんな状況などお構い無しと言わんばかりに眼前のゲル状の生物は薄ら笑いを浮かべながらプルプルと手招きらしきものをしている。

「でもまぁ、私は敵対しに来たわけじゃないのよ、ここは1つ刃を納めてくださいな」
「何をぬけぬけと...てめぇらの同属共が何をしでかしたかわかってて言ってんのか!」
「村の事でしょ...ちょっとは悪いとは思ってるわよ、目的の為とはいえ大規模にしすぎたかなって...」

あれだけの惨劇を繰り広げながら、今更申し訳なさそうな姿勢を見せる。そんなどっちつかずな態度が鼻につき更に怒気を強める。

「ふざけるな!!てめぇらの襲撃で何人もが食われ、尊厳を汚され、村は壊滅した!!待ってろよ、今とは言えねぇがいつか必ずてめぇらを一欠片も残さず消してやる!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!勘違いしてるかもしれないけど、確かにあの出来事で姿形は変わった人はいるわ!しかしあの村で誰一人として死んでもないし不幸にはなっちゃいないわよ!」

慌てて訂正に入るレッドスライム。
誰も不幸になっていない?突拍子もない事を。人間に寄り添う素振りを見せて懐柔する気なら無駄だ。と握り締めるマチェットの力を更に強くした所で...

「...まあいいのよ、私としてはアンタに信じて貰おうが貰うまいがどっちでもいいのよ。こっちとしての問題は、アンタがリーメルって名前の男かどうかなの」

...不意に別の意図の切り口から質問がきた。
リーメル、確かに俺の名だ。しかし何故...

「...だとしたらどうする?」
「他のニンゲンは全員屈して楽しんでいるんだけど...たった1人、スライムキャリアに寄生されようとも、どれだけ他のスライムに愛撫されてもどのオトコとも交わろうとせず抵抗を続ける娘がいるのよ」


ドクリと血脈に濁った血が押し出された気分だった。
まさか...まさか!

「そいつの...名は!」
「アリシアって名乗ってたわ。村防衛の一番手に勇ましく躍り出て勇敢だったしよく覚えてる。その娘が延々と責められてる中でリーメル、リーメルってうわ言の様に呟いてるのよ」

...最悪の予感は的中した。
俺の幼馴染みの、親友といっても差し支えない女性が未だ村の中で戦っているのだ。完全に陥落した村の中、たった一人で。
酷な話だが、いっそ取り込まれて自我を失い姿形を変えてくれれば、躊躇いもなく魔物の仲間として村に火をつけ焼き払うことだって出来ただろう。

だが、中で孤軍奮闘し、俺の助けを待っている親友がいる。ただ一人希望を捨てずに村を救おうとしている大切な人がいる。そんな中見捨てる選択が出来るほど冷酷には育っちゃいない。
しかし目の前のレッドスライムにすら歯が立たない俺だ。
いてもたってもいられない焦燥感と、どうすることもできない無力な自分に対する悔しさのあまり、口から溢れる嗚咽が止まらない。

「うっ...ぐぅっ...クッ...クソォッ...!」
「私達魔物娘の信条として、誰もが幸せになってほしいからね。是非ともアンタには彼女の為に村を...キャッ!?」

それでも...それでも何か救う手はずはきっとあるはずだ!場所が場所だけに反魔物領からの救援は期待できない、来たとしても最低往路で4日はかかる距離だ。

今、行くしかない。俺が向かう。他にない!
決意を胸にした俺はレッドスライムを脇目に矢の如く村の方向へ一直線に駆け出した。
18/06/05 23:30更新 / もにもとに
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■作者メッセージ
リーメル君とアリシアちゃん。

マイペースにゆっくり書いてます
文章構成力は死んでますが欲望の赴くままぶっつけてます。
お手柔らかに...

追記
ふぎゃー駄文ゥー!!
眠い目擦りながら書き上げるのじゃないすね...

一部修正しました。

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