読切小説
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「やったー!」
僕は砦中に響くくらい大きな喜びの叫びを上げた。
「そんなに嬉しいか?」
耳を押さえ、苦笑いを浮かべながら先輩の竜騎士が尋ねてきたので、僕は何度も首を縦に振った。
「嬉しいよ!だって、やっと龍として一人前になれたんだもん!」
「それもそうだな。ああ、そうそう。パートナーの件だが…「じゃあ、僕、このことをみんなに伝えてくるね!」」
僕はそう言うと、受け取った紙を大事に持って中庭へと急いだ。途中あちこちに体をぶつけたような気がしたけど、細かいことは気にしない、気にしない。

「みんな見て見て!僕受かったよ!」
大きく手を振ると、剣の稽古をしていたみんなが僕の元へ駆け寄ってきてくれた。
すげーじゃん!頑張ったね!おめでとう!
みんなが僕のことを褒めてくれる中、茶髪の子が僕の手を握ってきた。え〜と、名前は…。う〜ん、忘れちゃったから茶髪の子でいいや。
「おめでとうございます。あなたならきっと合格すると思っていました。どうでしょう、お祝いに僕と街へ夕食を行くというのは」
「おいしいもの食べるってこと?」
「そうですね、何でもご馳走しますよ」
「じゃあ、みんなで行こ!ご飯はみんなで食べた方がおいしいもん」
「み、みんなで、ですか?」
僕が頷くと茶髪の子は少し浮かない顔になったが、すぐに微笑みを浮かべた。
「…そうですね、みんなで行きましょうか」
「やった!みんなでいっぱいおいしいもの食べるぞ〜!」
おー!とみんなで声を上げていると、僕はふと、彼がいないことに気がついた。
背伸びをしてあたりを見渡すも、彼はどこにもいない。
「どうかしましたか?」
「うん、彼がいないなぁって」
「ああ…あの、万年訓練生ですか。彼は稽古には出ませんよ」
「そうなの?」
僕が尋ねると茶髪の子はくくく、と笑った。
「ええ、もう三年間も訓練生の癖に稽古一つ出やしない。竜騎士になることを諦めたのならさっさとここを出て行ってほしいものです」
「…」
「おっと、失礼しました」
僕が睨んでいることに気がついたのか、茶髪の子は悪びれる様子を感じさせない謝罪をした。そして、こほん、と咳払いを一つするとある方向を指さした。
「彼はこの時間帯なら、湖にいるのではないでしょうか?」
「分かった、ちょっと行ってくるね」
僕は少し嫌な気持ちになりながらも茶髪の子にそう言うと、握られていた手を振りほどいて、湖へと向かった。


砦から少し行った場所に小さな湖がある。小さな頃はよく彼と一緒に水浴びをして遊んだ。
最近は訓練が忙しくて、僕はあまり行っていないが、彼は頻繁に行っているらしい。一日中そこにいるなんて話も聞いた。
僕がどうしてそんなにあの湖が好きなのかを尋ねると、彼は無表情で、約束の場所だからだ、と答えた。納得出来ない僕が不満を言っても彼はそれ以上何も語らなかった。

「お〜い!」
彼の姿を確認すると、僕は彼に聞こえるように大きな声で呼びかけた。しかし、彼は座ったままで、こちらを振り向むことさえしなかった。
むかっ!
彼の対応に腹が立った僕は、彼を湖に落としてやろうと全速力で走り出した。
「こっのー!」
「…」
無我夢中で走る僕はほとんど前など見ていなかった。最初にぶつかるのは彼だと確信していたから。でも…
バッシャッーン!
僕は気がつくと水の中へ突っ込んでいた。
「けっほ、けっほ!うえっ、少し飲んじゃった…」
慌てて水から上がると、彼が無表情で立って僕を見ていた。
「なんで、僕の突進を避けれたの!?」
「あれだけの音を立てて走ってくれば誰だって分かる。俺に何の用だ?」
「えっ、ああそうだった…って、ああああ!?」
彼を湖に落とすことばかり考えていて、自分が大切な紙を持っていることを忘れていた。慌てて左右の手を確認するが、どちらの手も握っていない。
「あれぇ!?ないよ!?どっちの手にもないよ!?ねぇ、どうしよう!?」
僕は何も持っていない両手の平を彼に見せた。すると、彼は何も言わずに僕の横を通って湖の中へと入っていった。
そして、彼の腰から下が見えなくなったところで彼は振り返って戻ってきた。その手にびちょびちょに濡れた証書を持って。
「ああああ!?ぼ、僕のがぁ〜」
嘆く僕に彼は黙って濡れた証書を差し出した。それを僕が受け取ろうとすると、ベリベリと破れてしまった。
無残にも破れてしまった紙が穏やかにできた波によってさらわれる様子を見て、僕は我慢できなくなった。
「ひっく、ひっく、うぇぇん!」
「はぁ、後で俺が隊長に事情を話して、新しいものを…「うるさい!」」
「ひっく、だいたい君が避けなければよかったんじゃないか!新しいのって、そんな単純な話じゃないよ!僕が頑張って、努力して、それでやっと認めてもらったんだよ!それを証明する紙なんだよ!そりゃ、君みたいに万年訓練生には分からないだろうけどさ!」
「…」
「もういいよ!バカッ!」
僕は溢れてくる涙を何度も拭きながら砦へと走って戻った。


砦へと泣きながら戻った僕は、すぐさまシャワーを浴びて、茶髪の子が起こしに来るまでふて寝していた。
そして、茶髪の子からみんなはすでに玄関で待っているということを聞かされ、慌てて僕も玄関へと走った。その途中、体をまたあちこちにぶつけた気がしたけど、急いでるから気にしない、気にしない。
玄関に着くと、朝のみんなに加え、僕に証書を渡してくれた先輩もいた。
「あれ?先輩どうして?」
「街でお前のお祝いにパーティをするって聞いたんでな。俺も混ぜさせてもらったってわけだ。いいかな?」
「もちろん!」
僕はにっこり笑って頷いた。

「はっはっはっ、それで証書をダメにしたわけか」
「笑いごとじゃないですよ!」
僕はぷー、と頬を膨らませた。
僕たちは裏路地にある、小さなお店でわいわいご飯は食べていた。僕たち以外の客はおらず、みんなで貸切だ、と喜んだ。
ある程度ご飯とお酒を飲むと、僕と先輩以外はばったばったと倒れて、眠ってしまった。
弱いねぇ、と先輩と一緒に笑いながら、今は先輩と二人っきりで話していた。
「いやぁ、すまんすまん。しかし、何度聞いても笑える話だな」
「何度も?僕前にも言いましたっけ?」
「いや、午前中にあいつから報告されてな。自分のせいでお前の証書がダメになってしまった、だから、代わりのものを用意してほしい、ってな」
「えっ…」
証書がダメになってしまった時は、悲しかったせいで彼をひどく責め立てたが、冷静に考えてみれば、僕が勝手に突っ込んで、勝手に証書をダメにしただけ。
彼に非は一切ない。にもかかわらず、彼は服が濡れるのも厭わず濡れた証書を取ってきてくれた。そのうえ、隊長たちにまで話を通してくれた、あたかも自分が悪いように言って。
僕はキュッ、と胸を締め付けられる思いをした。そんな思いが嫌で僕はガブガブとお酒を飲んでそれを誤魔化した。
僕がガブガブお酒を飲んでいると、先輩が少し顔を赤くして話し始めた。
「しっかし、あれから三年かぁ。案外早かったな」
「…何の話?」
「うん?知らないのか?あいつが竜騎士になるのを保留にした話」
「知らない…」
僕が首を横に振ると先輩は意外そうな顔をした。
「マジか。てっきり知ってるもんだと…」
「先輩、教えてください」
僕はグラスをテーブル置いて、真剣にお願いした。すると、先輩はため息をつき、遠い目をしながら語ってくれた。
「…俺とあいつは元々同期だったんだ。当時の訓練生の中であいつは首席だった。剣を振らせても、試験をやらせても文句無し。その時俺は、あいつは竜騎士になるべくして生まれた男なんだって、思ったね。そして、俺もあいつも竜騎士の試験を受けて合格した。でも…」
先輩はそこで一度区切ると、今度は深くため息をついた。
「でも、パートナーを選ぶ時に、あいつの姿はなかった。俺は今の嫁さんをパートナーに決めてから、あいつの部屋へ押しかけて、問い詰めた。どうして来なかったんだ、ってな。そしたら、約束があるから今はパートナーを選べない、そう言ったんだ」
「…その約束って?」
おずおずと尋ねる僕を先輩は呆れ顔で見つめた。
「知らん、だが、まぁ、した本人が忘れるような約束ごとなんだ、大したものじゃないんだろうさ」
「えっ…?」

した本人…?
あっ…。
僕の頭の中でとある記憶がふと、よみがえった。
“僕、絶対君のパートナーになるよ!だから、待っててね!”
“うん、じゃあ、俺もずっとずっと待つよ”
“約束だよ?”
“うん、約束だ”
そうだ…。僕は小さい頃、あの湖で彼と約束したんだ。あの湖で。将来、絶対にパートナーになろうって。

「…先輩、僕、先に帰りますね」
「…その顔つきだと、どうやら思い出したみたいだな」
「うん、僕、彼に言わなきゃいけないことがある」
「そうか、だったら、さっさと行ってやれ」
「ありがと」
僕は先輩にお礼言って立ち上がろうとした。しかし、ばたりと倒れこんでしまった。
「どうした?酔って歩けないなんて言わないだろうな?」
「あ、あれ?おかしいな。足に力が入らな…先輩、危ない!」
「えっ?」
僕が叫んだ時には、いつ間にか先輩の後ろに立っていた男が先輩に棍棒の様な物を振り下ろしていた。
「ぐぅ…!」
先輩は苦しそうな声を上げると、ばたりと、机に突っ伏してしまった。
「何てことするんだ!?」
僕は先輩を殴りつけた男を睨みつけた。しかし、男は僕のことなど気にも止めない様子で振り返った。
「全員眠らせたぞ」
「よし、店の看板もしまって来てくれ」
「わかった」
男は頷くと店の入り口に歩いて行った。すると、別の男が僕の前にやってきた。手には縄の様な物を持っている。
「体の調子はどうだ?魔物風情」
男は僕を睨みつけながら質問してきた。もちろん、僕は何も答えなかった。なぜなら、その頃には手にも力がうまく入らないようになってきていたからだ。
「ふん、口も動かせないほどに薬が効いてきたか」
男は嘲るように言うと、手に持っていた縄で僕の両手を縛り始めた。僕は必死で体をよじって抵抗する。しかし、大した意味はなかった。
「やめて!なんでこんなことをするの!?」
「なんで、だと?」
僕の両手を縛りあげた男は僕を睨みつけた。その目は憎しみや怒り、そういった感情を孕んでいた。
「復讐だ!お前たち魔物共へのな!」
「えっ…?」
「俺は大切な人たちをお前たち魔物によって殺された。家族、友人、恋人さえもだ!なのに、急に和平なんぞ結んで、自分たちの罪をなかったことにして、今はのうのうと生きてやがる。そんな魔物風情が俺は憎くて堪らないんだよ!」
「そ、そんなこと言われたって…」
僕は困惑した。
確かに、僕たち魔物は昔、人間と戦った。そして、お互いに大量の戦死者を出した。そのことは僕も知っている。けれど、それはひどく昔のことだと、感じていた。僕にはあまり関わりのないことだと。だから、彼の怒りや悲しみもよくわからなかった。
「どうせお前たち魔物には分からないだろうな。やった方にやられた方の苦しみなんてものは分からない。だから、少しだけお前にも味あわせてやる!」
男は拳を握りしめた。
殴られる。
そう思った僕はとっさに目をつぶった。そして、痛みや衝撃に耐えれる様に可能な限り身を縮めていると、
チリンチリン
誰かがお店に入ってくる音が聞こえた。さっき出て行った男が帰ってきたのだろうか。僕が目を必死につぶったまま考えていると、目の前の男の声が聞こえた。
「…お客さん。悪いが今は取り込み中で、店はやってないんだ。それよりも、相方が店を閉めていたはずだが…」
「こいつのことか?」
どさり、と何かが倒れる音が聞こえた。
恐る恐る僕は目を開け、音のした方へと目を向けた。すると、そこには、先ほど出て行った男が倒れていた。そして、その男の後ろに彼が立っていた。
「頼んでも店に入れてくれなかったのでな、少々手荒になった。それで、そいつをどうするつもりだ?」
「ふん!売るんだよ、こいつを競売をかけて高値でな!」
「なるほど、それが、お前なりの復讐のつもりか」
「なんだと…?」
男は怪訝そうな顔で彼を睨んだ。
「お前は、自分ばかりが辛い目にあったと錯覚しているようだ」
「錯覚だと!?お前に俺の気持ちがわかるのか!大切な人を奪われた苦しみや悲しみが!」
「さあな」
「なっ…!?」
彼は考える間もつくることなく答えた。さすがの男もこれには呆気にとられたようだった。
「だが、世界中を探せば、お前と似た境遇の人間などいくらでもいる。それに、人間だけが一方的に虐殺されたわけじゃない」
「そ、それでも、先に手を出したのはあいつらじゃないか!」
「その通りだ。だが、だからこそ、魔物たちの長はこいつらをこんな姿へと変えた。人間たちを愛し、人間たちから愛される存在へと」
「うるせぇ!いくら今いいことしてたって昔の罪は消えねぇ!」
男がそう叫ぶと、彼の元々鋭い目つきがほんの少しより鋭くなった。
「それは人間たちも同じだ。それでも、まだ、お前は人間たちは、自分は哀れな被害者だと言うのか?」
「そうだよ!どうせお前になんか分からないだろうがな!」
「そうか」
彼は小さく頷くと、腰にかけていた剣を鞘から引き抜いた。
「お、おい、こっちにはこいつが…」
男は懐から取り出したナイフを僕の首筋に当てがう。しかし、彼は怯むことなく、近づいてくると、僕たちに向けて剣を振り下ろした。


「ねぇねぇ、どの子が好み?」
「あたしはねぇ〜、あの茶髪の子とかかな」
「かっこいいよねぇ〜、でも、私は…」
僕以外のワームたちは窓辺から中庭を見下ろし、自分のパートナーに相応しい訓練生を探していた。中庭では、訓練生の修了試験をしているにも関わらず。
退屈な僕は大きく伸びをして体をほぐす。そこで、何の違和感なく動く体に、昨夜の毒が完全に消えたことを確認して、僕は安心した。
あの後、彼が振り下ろした剣は、男の首ギリギリで止まった。しかし、男がそのあまりの恐怖に失神してしまい、彼が事前に呼んでおいた自警団によって連行されていった。
そして、僕たちも街のお医者さんへと連れて行かれ、すぐに検査と治療がされた。
しかし、結果は大したことはなく。ただの睡眠薬と、それに少し手を加えただけの痺れ薬の様な物を飲み物や食べ物に入れられていたのだという。
もっとも、先輩の後頭部にはたんこぶができていたらしいが。
血清を注射され、すっかり酔いが吹き飛んだ僕たちは、彼と共に砦へと戻り、大事な明日に備えた。
そうして、今に至る。
先ほどまで響いていた剣と剣がぶつかる音はもう聞こえず、隊長の話し声が微かに聞こえた。
「それでは、修了試験を終わりとする。合格者は20分後にパートナー決めをする。遅れずに中庭へ集まるように、以上。解散!」
隊長の解散の言葉を聞いて、僕はすぐに階段を降りて、中庭へと向かった。彼の合格を確かめるためだ。
中庭へと降りると、頭に包帯を巻き、死にそうな顔をした先輩に会った。
「先輩!彼は合格ですか!?」
「ああ、合格だよ…。あいつに再試験なんて意味ねぇのに。相手をさせられたよ…」
「よかったぁ」
「安心するのはいいが、少しは化粧して行けよ?ったく…」
先輩はそう僕に告げると、ため息をつきながら行ってしまった。
「お化粧…。うん!頑張ろ!」
僕はまた階段を駆け上がり、自分の部屋へと向かった。

「これでいいかな…?」
「いつまでやってんだ?」
僕はばっと後ろを振り返った。そこには先輩が呆れ顔で立っていた。僕は両手で顔を覆った。
「先輩、いつからそこに!?」
「今だよ。それより、もう時間だ」
「えっ、あっ!?」
僕は指の隙間から時計を確認する。もう時計の針は先ほどの見た時より20分先の場所を指していた。
「やばいじゃん!」
僕は先輩を突き飛ばして、階段を下り、中庭へと向かった。
中庭ではもうすでに合コンパーティの様なパートナー選びが始まっていた。僕は急いであたりを見渡して彼を探した。
「どちらにいらしたんですか?随分探したんですよ?」
彼を必死で探していると茶髪の子が僕の前に来た。間が悪いなぁ、もう。
「おや、ああ。お化粧されていたんですね。お綺麗ですよ」
「えぇ、あぁ、うん」
僕は曖昧に頷きつつ、背伸びして彼を探していると、上の方から声が聞こえた。
「おーい!」
声の主は僕の部屋の窓から体を乗り出した先輩だった。
「先輩!?」
「あっちだ!あっち!あいつはあっち!」
先輩は必死である方向を指さしていた。僕は先輩の指す方向を向くと、先輩が言いたいことがわかった。
「ごめんね、僕、君のことより彼のことが、大好きなんだ」
僕は茶髪の子に両手を合わせると、すぐに先輩の指す方向へ走った。


「遅れて、ごめんね」
「大して待っていない」
「ううん、待たせちゃったよ。三年も」
「…」
彼は背を向けたまま座っていた。僕はそんな彼の背中に抱きついた。
「ごめんね、万年訓練生なんてひどいこと言っちゃって…。変な約束した僕がいけないのにね…」
「気にしていない」
「…ありがとう。優しいね、君は。…だから、だからこそ…本当に僕なんかでいいの?」
僕は回した手を解き、彼の背中に頭をコツンとつけた。
「僕、大好き人とした約束だって忘れちゃうバカワームだよ?自分の責任なのにすぐ人のせいにして逃げる臆病ワームだよ?」
「…そんなところが可愛い、そう思う男もいる」
そう言うと彼は向き直って、僕を抱きしめてくれた。彼の匂いと彼の体温を感じて、僕の目から嬉しさの涙が溢れ出る。
「ありが、とう。ありがとう。ごめん、ね。待たせて、本当に、ごめんね」
「三年くらい大したことじゃない」
彼は僕の頭を優しく撫でてくれた。そんな彼の優しさに僕の涙は止まることを知らないかの様に溢れ続けた。

「落ち着いたか?」
「うん、ごめんね。服濡らしちゃって」
「構わない。…化粧しない方が可愛いな」
「え〜、あれだけ頑張ったのに!?」
僕の化粧をすっかり洗い流した涙がやっと止まり、ろれつも回る様になったのは、日が傾き始めた頃だった。
「そういえば、昨日の夜はありがとう。助けてくれて」
「ああ」
「でも、どうしてあんな場所に?」
「あの先にある店に用事があった」
「先のお店?」
僕が首を傾げていると、彼はポケットから木製の四角い箱を取り出した。そして、それを僕の前で開いてくれた。
箱の中にはハート型のペンダントが入っていた。
「これ、僕に…?」
「ああ…気に入らなかったか?」
僕は何度も首を横に振り、箱を受け取った。
「綺麗だね。ごめん、つけてもらっていい?僕の手じゃつけられそうにないや」
「ああ、わかった」
彼は頷くと箱からペンダントを取り出し、僕の首へとかけてくれた。
「どうかな…?」
「とても似合っている」
「…僕、このペンダントに誓うよ。永遠に君と一緒にいるって」
「なら、俺も誓おう。お前と一生共に歩むことを」
「ありがとう…」
僕は彼に抱きつき、その服をもっと濡らした。
16/09/13 17:10更新 / フーリーレェーヴ

■作者メッセージ
読んでいただきありがとうございました。
要望の様なものがありましたので、ワームのお話を書かせていただきました。
思った以上にワームっぽさが出ていないかと思いますがご容赦ください。
相変わらずの穴だらけの設定の方もその優しさでカバーしていただければ幸いです。
本当に読んでいただきありがとうございました。

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