読切小説
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白き愛情と黒き欲情
「屋信太(やした)様、お待ちしておりました。どうぞご夕食の準備が出来ております」


鍵を使って我が家の戸を開けるとそこにいたのは一人の年ごろの女性だった。
さらさらと流れるような白髪。
真紅の瞳に巫女装束を彷彿させる衣服。
そして特徴的といえば吊り上がった耳に、丁度彼女の腰辺りから伸びている白みがかかった蛇の胴体だった。
それは成人した女性の体ぐらいに太く、その長さも成人した男性の身長の倍以上だった。
人一人が住むには広すぎるこの家の中でも彼女の持つ尾はこの部屋の半分を埋めている。
そう、彼女は人間ではない。
魔物だった。
されどこの国、ジパングに住んでいる人間達は知っている。
彼女達、魔物は人の生き血を吸い、平気な顔で人間を弄(もてあそ)ぶような鬼畜どもとは違うという事を。
人間達と折り合いをつけ、互いの身分を尊重し共存を目指している賢い者たちなのだと。
その事は小さい頃から彼女達と接してきた屋信太でも知っているごく当たり前の話ではあるのだが。

「・・・また無断で鍵を作って入ったのか。『落とし』(扉の内側に張り付けてある木の柱の事。出かける際にこの柱を落として外から開けないようにして鍵で上げなければ入る事はできない)はつい3日前に変えたばかりなのに」
「いえいえ。職人様に屋信太様の奉公でどうか鍵をもう一つ作ってはくれないかとお願いしたら快く引き受けてくれまして。『未来の奥方の頼みを断るわけにはいかねえな』、と」

それを聞いた屋信太の表情は複雑であった。
彼女が勝手に家に入ってお節介をかくという迷惑さ半分、こんな自分に付き添ってくれる申し訳なさ半分といった所だった。
さて、ここで屋信太と彼女との関係を説明しておこう。
彼女の名は白雪(しろゆき)。「白蛇」と呼ばれる魔物娘だ。
『白蛇』とはこのジパングにおいて魔物の中でも大人しく温厚で、その儚げな体とは裏腹に膨大な『水』の魔力を宿しているのが特徴である。
その為、水を司る巫女として一部の地域では水神として祭りあげられており白雪もまた水神の一人としてこの地域で祭り上げられていた。
それに比べてこの男、屋信太は悪人には程遠くかと言って善人だと言われても首をかしげる人間がいる。
兎に角ぱっとしない性格だった。
おまけに酒癖が悪く、酒に酔って道端に倒れこみ見回りの人間にお世話になったり、夜道で歩いていた女にちょっかいを出すという失態まで犯している。
そんな男にどうして彼女は鍵まで作り、こうして食事を用意しているのだろうかという疑問は尽きないだろう。
そのきっかけは約一ヶ月前だった。
行きつけの居酒屋で屋信太は何時ものごとく酒に溺れ、店の店主からもう店じまいだからと言われたのでふらふらのまま自身の家へと帰ろうとしていた。その足取りはおぼつかなく、あれよあれよというまに家とは正反対の、白雪が住んでいる神社へと向かってしまいその階段の上で寝転がって眠ってしまったのだ。
そこに屋信太の存在に気付いた白雪が介抱する為に彼の体を持ち上げた際、彼はしてしまったのだ。
突如、彼女の体を抱きしめてこう呟いたのだ。


『柔らけえ・・・。母ちゃんのように・・・。俺の奥さんになって欲しい・・・な』


それを聞いた白雪の反応は想像するには難しくない。
水神として祀られている彼女においそれと告白する男などいるはずもなかったのだから。
彼女は意気揚々と屋信太の体を白い尾で抱きしめて神社へと戻りそこで一夜を共にしたのだ。泥酔状態だった為、屋信太が白雪に手を出し淫らな行為を及ばずに済んだのが不幸中の幸いだったが。
ただの寝言だったはずなのに白雪は自分への告白であると真剣に受け止めてしまったのだ。
介抱されて翌日、酔いが醒めた屋信太が白雪からあの告白を聞き、あれは寝言だと説明しても白雪は頑なに自分への誠実な告白であると信じ込み、今に至るまで屋信太の世話をしているのだ。
白蛇は一度惚れ込んだ男を執念深く追い続け、結ばれるまで決して諦めたりはしないという執念深い性格がある。
その性格を知っている為、尚且つこうして食事を用意して献身的に尽くしているので矢信太はどうしても断る事が出来ないのだ。
おまけに彼女は水神という神聖な立場でこの地域の人々から慕われている。
だから前述の鍵の一件も彼女からの頼みであれば皆喜んで引き受けてしまうのだ。
おおらかな彼女がそんな事をする筈ないと思うが彼女が本気になれば自分を神に選ばれしものだとでっち上げて手籠めにするという行為もあり得るのだから油断がならない。
それに自分の方に全く非がないとは言い切れない。
自分でも酒癖が悪いという自覚があるし、あの時酒を飲みすぎずにおとなしく家に帰っていればこんな事にはならなかったのだ。
だけれど屋信太とて何もしないという訳にはいかなかった。
例えば見ず知らずの人間が自分の家を蹂躙(じゅうりん)するような光景を見れば内心穏やかではいられないし、異性が部屋に入るという行為に拒絶反応というものはあるだろう。
屋信太も同様にわざと部屋を汚くしたり、料理に使う鍋とかを隠したり、しまいには前述の様に落としを変えて家に入れない様にしたりと嫌がらせをしたりした。
こうすれば白雪は自分に幻滅し飽きてくれるだろうと思っていた。
されど白雪は気にする事もなく部屋を綺麗にし、鍋を自前で用意し、落としの鍵を手に入れて平然とした顔で迎え入れているのだ。
ここまでくれば文字通りの執念深さだった。

「どうしましたか? 屋信太様」
「い、いや何でもない」
「ではご夕食をどうぞ」

なるべく嫌な顔を出さないようにして屋信太は進められるがまま食事が置かれた配膳の前に座る。
夕食の内容は白米、味噌汁、漬物、そしてサンマであった。
サンマが配膳の上に置かれているという光景に屋信太は一度、二度目をこすり嘘ではないのかと
というのもここでのサンマは滅多に食べられるものではなく決まった日、それも指で数えられるぐらいの日にしか出されない珍しい食材なのだ。
されど脂が乗った、丸々一匹が焼かれている。
この現実は嘘ではない、本当である。

「なあ、このサンマどうやって手に入れた?」
「私は水を司る巫女でありますので魚を手に入れてくるなど容易い事です。ささっ、屋信太様。冷めないうちに早く」

尻尾の先をふりふりと揺らしている白雪の姿は実に可愛らしい。
その裏には屋信太を何としてでも陥落させ自分のものにさせんとする欲望があるのではと屋信太は邪推してしまう。
だがこのまま食べないという選択肢はない。
職業が大工で何かと体力がいる矢信太にとってこのご馳走は今すぐにでも腹に収めたいほどだったからだ。
無言で配膳の前に正座して手を合わせる。

「・・・いただきます」
「はい、どうぞ」

箸を取り、まず手に取ったのはみそ汁のお椀だった。
それを口の中へ注ぐ。
味の濃さは丁度いい、しょっぱすぎず薄すぎずのいいさじ加減だった。
続いて炊き立ての白ご飯を手に取る。
箸で一つまみして口に運ぶ。
これまた美味だった。
そしてさんま。
腹に当たる箇所を箸でほぐして、それをつまみ口の中へ。
ふっくら焼いたさんまの味は疲れていた彼にとってとてつもないご褒美だった。
最後に漬物のたくあん。
こりこりとした感触と塩気の効いた味は中々だ。
どれも文句なしの仕上がりだ。

「・・・うめえ、よ」
「それは良かったです」

喜ぶ白雪とは正反対に屋信太の心は落ち込んでいた。
ただの落ち込みとは少し違う。
うまくは言い表せないが『このままでいいのか』という後ろめたさが彼の頭に浮かんでいた。


♢♢♢♢♢♢



白雪が帰った後、屋信太は一人畳の上でごろんと寝ころんだ。
ぼうっと天井を見上げ続ける。
ロウソクの灯りによって照らされているがそれでも天井は薄暗い。
まるで今の自分の心を代弁しているかのように、だ。

「・・・腹くくるしかねえのかな・・・」

溜息にも似た独り言だった。
実際白雪はよく出来た人間、もとい魔物娘だった。
毎日散らかっている屋信太の部屋―――これはわざとではあるが―――を叱るという事さえせず無言で片づけ、自分が食べている時も母親の様なほほ笑みと目つきで見つめている。
それでいてかなりの美人ときたものだから共に生活、つまり夫婦となっても問題はないだろう。
だが屋信太にはその一歩が踏めなかった。
あんな美人で人格者の白雪は自分には相応しくなかったからか。
『結婚』という人生の墓場には入りたくなかったからなのか。
結婚資金やその後の生活する為の金が自分にはないからなのか。
彼女に束縛され、彼女との生活について行きたくなかったからなのか。
どれも合ってるようでずれている答えだった。
ただ確かな事と言えば自分の生活が白雪に介入されているという事だった。
それが良いか悪いかは別として。

「あー・・・、考えが纏まらねえなあ」

自分の粗末な脳みそを必要以上に回転し、おまけに仕事帰りである屋信太は心身共に疲れている。
今日はもう寝よう、そう心に決めた屋信太は布団を敷いてロウソクの灯りを消した。
ものの数分で静かな寝息をし始めたのは心身共に疲れていたのもあるが夢の中に逃げたかったからかも知れない。
夢の中に逃げれば現実など忘れられるからだ。



♢♢♢♢♢♢



転機が訪れたのはその2、3日後だ。
屋信太が働いている大工の親方からの誘いからだった。


「どうだ、屋信太。近々、向こうで大規模な家を建てるんだ。お前も行ってみないか?」

詳しく話を聞くとある高貴な一族の夫が部屋の増築と称して丸々一軒を建てようと計画し約1年はその街で暮らさなければならないという事だ。
この誘いに屋信太は二つ返事で承諾した。
自分の腕を磨く、もっと自分の視野を広げたい。
様々な理由があったが白雪から逃げられる、その一点の理由だけははっきりしていた。
だからその日の夜はいつも通りに自分を出迎えた白雪に悟られない様、用意した食事を食べ終えて彼女が家から出ていき、彼女が見せなくなったのを確認してから身の回りの物を整理する。
とは言うが実際は殆ど手をつけず隠しておいた小銭全部と大工用具一式だけを風呂敷で一つにまとめただけだ。
他の生活用具には手を出さずこの場で放置する事にした。
それだけでいい、後は現地で調達すれば問題ないと屋信太は考えた。
銭は家を借りるには十分だし、生活用具を揃えてもまだ余る程の額だ。
ならばもう憂いとかはない。
屋信太は布団を敷いて眠りについた。
早く明日がこないか、こないかと祈りながら。




♢♢♢♢♢♢



そして日が昇り始めた朝。
鶏の鳴き声を合図に起床した屋信太はすぐさま大工用具一式と小銭を包んだ風呂敷を持って出ようとした。
けれど戸を開けようとした途端、不意に白雪の顔が頭を過った。
自分に尽くしてくれた恩人に何も告げず去るなど無礼に等しい、と意地悪なもう一人の
自分に囁かれた時には心が揺らいだ。
心が揺らいだままでは去る事は出来ない。
そこで屋信太は彼女に対して置手紙を残す事にした。
筆を取り白雪にあえて具体的な場所を書かずに遠くへ行く事になった事、今まで自分に尽くしてくれた事に感謝の念を綴って最後にこう締めた。


『俺にはもったいない美人だ。どうか俺よりもいい男を見つけてくれ』


それが屋信太の出した答えだった。
結局、屋信太の頭で渦巻いていたのは自分が彼女にとって何の為になるのかという事だった。
誰にでも優しい訳でもなく気配りも利かない、しかも酒癖が悪い自分が彼女と添い遂げるなど馬鹿げた話だ。
これでは彼女の為にもならない、もっといい男性と会った方がいいのだ。
白雪の為にもこれでいい、これでいいと屋信太は自分に暗示させる。
そして筆を置いた屋信太は置手紙を机の上に見えるように放ると、まるで夜逃げするかの様に屋信太は住み慣れた我が家から去っていく。
振り返る事はない。
決別の意味も兼ねて去り姿であった。
だから屋信太は気づかなかった。


自分の後ろ姿を真紅の両目を持ち、下半身が白い尾である女が見つめていた事を。



♢♢♢♢♢♢



新天地での生活は一週間で慣れた。
住めば都ということわざがあるように彼もまたそこでの生活に楽しみを持ってきた。
大規模な工事という事で入念な木材の加工にそれの運搬、そして組んだ箇所の破損などはないかといった気が休まない状況に屋信太はいつも神経を使っていた。
だが終われば気のいい飲み友達と共に飲み屋に行き馬鹿笑いをし、そのまま眠りこけて店の店主に肩を貸してもらい送ってもらうという失態もあったがそれも屋信太にとって悪くはなかった。
文句のない、ただの平凡な日常だった。
そして今日もまた仕事を終えて家に帰る所だった。
帰ったら家に置いてある春画(現代で言うエロ本の事)をじっくりと鑑賞するつもりだ。
家に近づくにつれて何やらいい匂いが漂ってきた。
これはどうやら鮭(しゃけ)の匂いだ。
何かめでたい事でもあったのだろうかと屋信太は呑気に思っていた。
だが家に近づくにつれて匂いも強くなっていく。
家の戸の前に立つとこの家から鮭の匂いがしていた。
だがその家は紛れもなく自身の、屋信太の家だ。
一体誰が自分の家に上がり込んで勝手に鮭を焼いているのだろうか。
心当たりなどない、と一瞬思った屋信太だったが脳裏にある女の姿が浮かんだ。
まさかそんな事はない。
行先も告げずに出たのだからここが自分の家だと分かるはずがない。
『落とし』もしているのだから無理やりこじ開けない限り空くはずなどないのだ。
恐る恐る屋信太はゆっくりと、鍵を開ける。
そしてゆっくり、ゆっくりと戸を引くと。



「お帰りなさいませ、屋信太様。もうすぐ夕飯が出来上がりますので」


忘れる事など出来ない。
そのさらさらと流れるような白髪。
その真紅の瞳に巫女装束を彷彿させる衣服。
その吊り上がった耳に、丁度彼女の腰辺りから伸びている白みがかかった蛇の胴体。
彼女、白雪だった。
姿を見た途端、屋信太はある衝動に駆られた。
恐怖とも、絶望とも、あるいは無力さにも似た感情だ。
ただ確かなものはここから逃げたいという感情だけだった。
転がるように屋信太は逃げ出していく。
行く当てなど思いつかない。
兎に角全力で走り去った。
後ろから自分の名を呼ぶ白雪の声など聞く暇もなく。



♢♢♢♢♢♢



どれぐらい走ったなど分かるはずもない。
ただ息が切れてきて、心臓が限界まで破裂寸前だったのだから休憩しなければならなかった。
屋信太はそこで立ち止まり、呼吸を整えようとした。
ぜいっ、ぜいっ、と息を切らしながら辺りを見渡す。
周りの景色など見る暇もなかったから自分が今どこにいるのか確認しなければならない。
幸いにも今夜は満月で月の光が多少あったから提灯の灯りがなくとも肉眼で判別出来る。
辺りには森林が覆い茂っている。
人の気配が無かったからどうやら山の方に来てしまったようだ。
そしてちょうど眼前にはやや大きな池が広がっていた。
近づき水面を覗けば、透き通っていてまるで水晶の様な透明さがあった。
こんな綺麗な場所があったのかと感嘆し見つめ続けていると心臓の鼓動も収まっていく気がした。
そして改めて屋信太は思った。

「悪い事・・・しちまったな・・・」

何を今さらな事だ。
元はと言えば屋信太がいつまでも曖昧な態度をとり続けたのだからツケが回ってきたのだろう、という他人がいればそう非難されるだろうが人間とはそれが悪い事だと分かっていてもどうしてもしてしまうという癖がある。
逃げてしまったという失態はどうあがいても拭いきれるものではない。
そもそもどうやって拭えばいいのだろうか分からない。
これからどうしようかと屋信太は寝ころんで空を見上げた。
星々は輝きを放ち美しい風景を演出していたが今の彼にはその余裕がない。
頭の中にはまた白雪から逃げる生活を続けるべきなのか、それとも毒を食らわば皿までという言葉通り全てを受け入れるべきなのか。
結論が中々出せない。
元々体を動かす事だけが取り柄の彼がこんな問題に小さな頭を使う事が難しいのかもしれないが結論を出さなければ一生このままだ。
必死に頭を働かせていたから彼はまた気づかなかった。



「屋信太様」
「なっ!?」

寝ころぶ屋信太を見下ろす様に覗いてきたのは。


―――白雪!?


驚いた屋信太は思わず彼女と距離を置こうとしたが動けなかった。
何故ならそれよりも早く白雪の尾が彼の両足を捉え、動きを封じていたからだ。
振りほどこうにも抜けられそうにない。
一見きつく締め付けているかと思ったが白雪は絶妙の力加減でなるべく屋信太に負担をかけないようにしていたのか案外痛みは感じられなかった。
されど逃げられない事に変わりはない。
覚悟を、現実を受け止める時が来たのだ。
改めて屋信太は白雪の顔を見つめる。
白雪は、悲しそうな顔だった。
その原因が不甲斐ない自分に合ったのは十分分っていたのだから余計屋信太は心が痛んだ。

「何故、私から逃げるのですか? 私がこのような、化け物の様な外見だからですか?」
「そんな事はない・・・。白雪さんは美人だ。おまけに性格もいい、嫁に出したら絶対にいい女房になる」
「だったら尚更です。私は貴方を愛していますし夫婦となった後も私はこの身を貴方に捧げ続けます。なのにどうして?」

こうして白雪に尋ねられるとようやく自分の中にある言葉が紡げられる気がした。
同時に自分に対しての劣等感というものが露になるという事も。
屋信太はその重い口を開く。

「・・・俺には勿体ないんだ。だって考えてもみてくれ。白雪さんは水神、神聖な神様だ。他の奴らから信頼されているし白雪さんもそれに答えて立派に勤めを果たしている。それに比べて俺はそこら辺にいる平凡な人間。しかも酒癖が悪い。こんな人間と一緒になったら白雪さんが可哀そうだ」
「別に可哀そうではありません。・・・私、あの時嬉しかったんです」

一瞬、屋信太はその言葉の意味が理解出来なかった。

「私は御覧の通り恋愛など無縁の生活をし続けておりました。水神として祀られ、皆様から尊敬の念を受け止めてお役目を果たし続けてきました。されど私は魔物娘、一人の男を愛し一緒に添い続けるのが何よりの幸福などです。だから私は告白を受けた人間の思いを聞かなかったふりをするなど到底出来ません。そして貴方からの告白は私の今まで生きてきた中で最高の喜びなのです」
「でも、あの時俺は酒に酔っててちゃんとした告白すらしてないんだ」
「ならば今すれば良いですか」
「・・・本当にこんな俺なんかでいいのか?」
「貴方の思いに正直になってください」
「・・・結婚した後、幻滅とかしないのか?」
「でなければ私はここまで追ってきませんよ」

一分間の沈黙が流れたがそれは重苦しい空気が立ち込めていた訳ではない。
いつの間にか屋信太を捕まえていた白雪の尾が解かれ自由の身になっていたのだから。
白雪は自分を信じている、信頼しているという事だ。
それに応えなければならない。
屋信太は恐る恐る自分の口を開く。

「・・・頼みます。俺の奥さんになってください」

以外にもすんなりと言えた。
てっきり口が震えて言葉にならないのかと思っていたがそんな事はなかった。
まだ後悔とか不安とかはあるが今はそれでも自分の中に秘めていた本音を吐き出さなければならない。
そして当の、白雪の反応は。

「はい。喜んで」

こちらは満面の笑みで返していた。
加えて尾の先をふりふりと動かしているという事は心の奥底から喜んでいる証だ。
何だかこちらまで嬉しくなってきた気がした。

「それでは、屋信太様。始めましょうか」

不意にこんな言葉を投げかけられたのだから本当に何のことなのか屋信太には分からなかった。

「何を?」
「貴方だけが私を汚してもいいという証を刻む為の儀式ですよ」

暗に伏せてはいるがこれは別の言葉を使えば『夫婦の営み』、『夜の楽しみ』で表せるのだろう。
屋信太は返事の代わりに生唾を飲み、首を縦に振った。
それを見た白雪はにやりと笑みを浮かべる。

「ふふふっ、ちょうどそこには大きな池もありますし」

そう言うと白雪は胴辺りにあった紐を解き始める。
巫女風の衣服が肩からさらりと落ち痴部を隠す布だけが露になる。
そして恥部を隠す布の紐も解けば。
豊満な乳房の先端に薄桃色の乳首。
下半身の、人間の肌から蛇のような肌へと変わる辺りに見える女性器。
白蛇の裸体。
どんな強靭な男でも夢中になってしまう美しさと淫らさであった。

「さあ、屋信太様。こちらへ」

ここまで来て怖気つけば男の名折れ。
屋信太は戸惑う事無く自分の衣服を脱ぎ捨てた。
既に己の一物は血管を浮き出させ脈打ち立っている。

「少々苦しいかもしれませんが我慢してくださいませ」

そう言い白雪は屋信太の体を抱きしめ、さらに自分の尾を絡ませる。
白雪は尾の先っぽを器用に動かし池の方へと向かう。
屋信太は思わず無理心中でもするのかと考え白雪に声をかけようとしたが。

「いえいえ。一緒に死ぬなど出来るはずがありませんから」

白雪の尾の先が池に浸かる。
そして徐々に池の水が尾を覆っていく。
ちょうど池の真ん中辺りに来た時には白雪の下半身と彼女に抱きつく形だった屋信太の下半身も水に浸かっている。

「どうですか? 水の感触が心地よいものでしょう? こんな場所で交わりするなどそうそう出来る事ではありませんよ?」

確かに白雪の言う通りだ。
肌で感じられる白雪の暖かさ、そして水の冷たさが心地よく本当に夢心地だ。
溺れるのかと思ったが白雪の尾が絡みついているせいなのか下半身だけが水に浸かっている状態で強引にでも尾から抜け出さない限り沈む事はないだろう。
こんな山の中、そして夜の時間帯なれば誰にも邪魔はされないだろう。
屋信太はもう一度、生唾を飲んだ。

「では始めましょう、屋信太様」

白雪の唇が屋信太の唇へと近づき、触れ合った。
始めは軽くお互いの唇をくっ付け合う。




「うむっ❤ れろっ! あむっ! くちゅ❤」


体の興奮が高まってきたら次には舌を互いの口に入れる。
だが人間である屋信太と違い白雪の舌は蛇のように長く、屋信太の口を縦横無尽に舐めまわす。
まるで自分の物である証を付けるかのように執念に口内を舐めている。
だがその舌は優しく、自分に快楽を与えようとしているのが屋信太には分かる。



「れろっ❤ くちゅっ❤ れろっ!! れろっ!! んぐっ❤ んんっぐっ!!」

不意に白雪の口が屋信太から離れた。
名残惜しそうに唾液が糸を引きながら架け橋を作り上げていた。
白雪は視線を屋信太の下半身へと向ける。
釣られて彼も向けると肉棒は固く勃起しそそり立っているのだ。

「た、確か口から・・・だよな?」
「いえ。下のお口でお願い致します」
「い、いきなり下からなのか!?」
「早く貴方だけのものにしてください、さあ」

屋信太は白雪の下半身へと向ける。
蛇の尾と人間の腹部下辺りを境目には彼女の性器が。
それをじっと見つめる。
見つめすぎて瞬きすら忘れてしまいそうだ。
奥手ではあるが最後にもう一度だけ確認しよう。

「は、初めて何だよな? い、痛いんだろうな?」
「大丈夫です。すぐに快感に変わりますから」

ここから一歩踏み出せば絶対に後戻り出来ない。
だがここから始まりでもあるのだ。
屋信太は欲望にまみれた一物を白雪の濡れている女性器へと。
ゆっくりと挿入する―――




「・・・っむ、・・・っ痛!」

―――入れた途端に漏らした白雪の声。
見ると水面からは浮かび上がる赤黒い液体が。
その液体の出元は白雪の女性器からだった。

「つ、ついに破いたんだよな」
「・・・っ、はい。これで私は貴方の物。そして貴方は私の物ですよ」

男の本能が働きかける。
このまま腰を突け、と。
一突きするたびに水面が波打ち、体に快感が走り、卑猥な声を挙げてしまう。

「あ、ああっ!! ん、んぐっ!! 膣の壁が、俺に絡まって!!」

それは白雪とて同じ事だ。

「いいっ! そっ、こです! ああっ! いいっ!!」

耳元へ白雪の甘い吐息と喘ぎ声が入れば腰の動きが早まる。





『ばしゃっ!! ばしゃっ!! ばしゃっ!! ばしゃっ!!』

水の音が肉を突く音の代わりとなって響く。
肉の弾ける音も水が弾ける音へと変貌し。
白雪の尾が彼の体にまとわりつけば。
導き出されるは、絶頂だけ。


「だ、駄目だっ!! もう、俺はっ!!」


白雪の尾が屋信太を締め付ける。


「受け止めます!! 私が全部受け止めますので!!」


たまらず白雪は自分の唇を屋信太の唇にくっ付ける。
熱い接吻を始める。




『うぐっ❤ あむっ!! ううむっ❤ ちゅっ❤」

体の興奮が高まり、腰を振る速度が速くなる。







そして解き放たれる熱い白液――――








『どびゅるるるるるっーーーー!!』





「「ああああああああああっ!!」」

びくんっ、びくんっと体を震わせれば残っていた精液が注がれていく。
快感と共に体の力が抜けていく感覚は最高の喜びだった。
屋信太は白雪に体を預ける様に身を寄せる。
拒む事無く彼女は受け止め、彼の頭を撫で始める。

「大丈夫ですよ。私は屋信太様に全てを捧げます。だから屋信太様も私に全てを捧げてください」

真紅の両目が彼を捉えていた。
もう彼女から逃げられないという恐怖はもうない。
彼女と一緒に暮らせるという喜びがあったから。


♢♢♢♢♢♢



白雪と妻として迎え入れる際、屋信太には心配事が一つあった。
白雪という魔物娘を両親に紹介するという事だ。
別に魔物娘と既に結婚している男性は数多いのだがそれでも受け入れてくれるのだろうかという心配はある。
大きな混乱が無ければと思い数日後、白雪と一緒に両親の家に訪問し彼女を紹介したが案外すんなりと受け入れてくれた。
白雪を水神として祀っていた事から分かるように魔物娘に対して好意的であったからそんな心配は取り越し苦労だったという事だ。
そして婚礼の儀式(今で言う結婚式)は親族一同を集め、白雪の白無垢姿が披露された。
何を着ても美しいと思っていたがこの日の白雪は特別な美しさがあった。
それはそれは、素晴らしい姿で溜息が何度も出てしまう程だ。
儀式は終始にこやかに進められ晴れて夫婦となった二人だがこのまま元の住んでいた所に戻る、という訳にはいかなかった。
仕事を引き受けた以上それを放り出すなど許される事ではないし屋信太自身もそれを許さなかった。
なので白雪もここに留まり1年後、元住んでいた所に戻るという話で纏まった。
ただし当の白雪は屋信太と一緒なら何処へでも住んで見せると宣言していたが。
屋信太と共に住むという形になった事で白雪の水神としての勤めは一度休止という形になった。
元々勤めを果たしていた彼女だからか、その旨を伝えても大きな混乱とかはなく行事を執り行う代役を立てるという形に落ち着いた。
兎にも角にも今は二人揃って屋信太の借りた一緒に住んでいる。
二人の一日はこうだ。
まず同時に起床し朝食を食べ、白雪が作った弁当を屋信太が持って出かける際に以下のやり取りがある。

「そんじゃ、行ってくる」
「はい、お気を付けになってください」
「ではお願いいたします」

白雪はそう願って頬を屋信太の顔へと寄せる。
屋信太はその頬に唇をくっ付けた。
二人の場合、こうする事で今日一日やり切れるという言わば気合を入れる為の儀式みたい
なものでありそれが愛情表現にもなるのだ。
そして夕方になれば共に夕食をとり、気が向いた時は夫婦の交わりを行う。
ありふれた日常ではあったが二人にとっては至福の一つだ。
こんな幸せが続ければいいと二人は思っていただろう
だが屋信太は後に仕出かしてしまう。
白雪が最も嫌う行為を。



♢♢♢♢♢♢


白雪と式を挙げて半年ぐらいの事だ。
その日は行きつけの居酒屋で大工仲間達を飲み交わしていた。
大規模な建築もようやくひと段落といった所で今夜は朝まで飲もうとする勢いだった。
事前に白雪には仲間達と飲みに行くという旨は伝えているので屋信太は遠慮なく酒を飲み干していく。

「にしてもよ〜。お前も幸せ者だよな! あんなべっぴんな女を迎え入れるなんて!!」
「んな事ないっすよ!! 白雪の執念に根負けしただけですから〜」
「確か先輩の奥さんも魔物娘ですよね!! どんな子何ですか?」
「『雷獣』って奴でな、それは毎晩電撃を浴びるような体験をしててよ!!」
「本当っすか!? 毎晩痺れる様な事されて大丈夫なんっすか?」
「大丈夫、大丈夫!! これもあいつからの愛情表現なんだからよ!!」


屋信太を含む4、5人の男達が雑談を交えながら酒を飲んだり、時折つまみを口に放り投げて食っている。
屋信太がつまみであるゆでタコのぶつ切りの最後を取ろうと思った瞬間、それよりも早く大工仲間の一人が切り身を箸でつまみ口にほうばる。

「おいおいそれ、俺が食べようとした奴!」
「早い者勝ちですよ! また頼めば良いんですから!!」

馬鹿笑いを挙げながら言ってきたものだから怒る気にはなれない。

「おーい! イチノさん、ちょっといいかー!」
「はーい!」

そう返事をして近づいてきたのは一人の女性。
見れば髪の毛が驚くほど長く地面にまで届くほどだ。
仕事の際邪魔になるので後ろで束ね、赤い花を模様した飾りで髪留めをしている。
ただの店員ではない。
この店の店主である旦那の嫁、イチノは毛娼妓と呼ばれる魔物娘だ。
人柄も良く、働き者であり旦那はたいそう喜んでいるともっぱらの噂だ。

「追加でタコのぶつ切りを一つ」
「分かりました。あら、ついでにお酒もお一つどうですか?」
「気が利くねえ〜。こいつの中身がちょうど、すっからかんなんだ!」

屋信太の隣にいた大工仲間の一人が酒瓶を片手で揺らしながら語る。

「ではお持ちしますね」
「おう頼むよ!!」

そう言い持っていた酒瓶を挙げようとした瞬間だ。
運悪く、その酒瓶が屋信太の頬(ほほ)に当たり、しかも力加減が出来ていなかったのだから座っていた椅子と共に屋信太の体が倒れそうになる。

「のわっ!!」
「危ない!!」

イチノが叫ぶと彼女の髪の毛がうごめき出し地面へと倒れこむ直前に屋信太の体を包むように支える。
普段は髪を束ねているがこの様な場面や愛する旦那との交わりには髪を動かす事が出来るのが毛娼妓という魔物の特徴である。

「わ、わりい! 大丈夫か!?」

慌てて仲間の一人が謝罪する。
続けさまに他の仲間達も屋信太を心配したがイチノの髪の毛が優しく、傷つけない様に包んだのだから屋信太は大事には至らなかった。
だが彼女の髪の毛に包まれた屋信太の顔はまんざらでもなかった。

「・・・いい匂いだな。イチノさんの髪の毛って・・・白雪と同じ匂いがする」

もしこの場で白雪がいたのならば穏やかな顔でないのは火を見るよりも明らかなのだが今の屋信太にはそんな配慮はない。
そもそもこの場には彼女がいないのだから心配するなど無駄なのだ。
加えて酒癖の悪さも合わさってこのまま彼女の髪の毛に身をゆだねそうになりそうだったが。

「おいおい、ここで浮気でもするつもりかよ? 奥さんが悲しむぞ!」

若干茶化すような口調で仲間の一人が指摘したので屋信太は我に返って立ち上がった。

「い、いけね!! イチノさん済まねえ!!」
「いいの。こうして無事なのなら構わないわ」

先ほどきわどい展開だったにも関わらずにこやかな笑顔で返す。
何年もこの店で働いてきたのだから屋信太の様な酔っ払いに絡まれても些細な事なのだろう。

「おい、どうしたイチノ!!」

厨房から大声が飛びしてきた。
それはイチノが愛する旦那で店の亭主だ。

「気にしないで貴方! お客さんが倒れそうになったけど助けただけだから!!」
「おお、そうか!! 注文は?」
「タコのぶつ切り一つ!! 後熱かんもっ!!」
「おう!!」

こうしてイチノが去ればまた聞こえてくるが屋信太達の馬鹿騒ぎ。
あんな事が無かったの様な笑い声が聞こえてくる。
だが本人は気づいていなかったが屋信太の服にはイチノの髪の毛が紛れ込んでいて。
そして衣服にはイチノの匂いがはっきりと付けられたのだ。
だが匂いといっても嗅覚とかで感じられるものではなく魔物達だけが感じ取れる様な『匂い』である。
その事実を知らなかったのだから屋信太は不運としか言いようがない。



♢♢♢♢♢♢



辺りはもう真っ暗で提灯の灯りが無ければ帰るのは難しかったが家の近くまで提灯を伴った店の店主が見送った為問題はなかった。

「おーい!今帰ったぞー!」

すぐに戸が開く音がして出てきたのは白雪だった。

「お帰りなさいませ。屋信太様」

いつもの様に笑みを浮かべて屋信太の肩を抱えて家に入っていく。
だが突如、白雪の鼻がひくついた。
異臭を感じた反応によく似ており徐々に顔を曇らせていく。
だが屋信太にはその異臭、及びその出所には見当がつかないだろう。
当たり前だ、例え酒に酔っていない状態でもその匂いは嗅ぎ取れないからだ。
そして白雪の目は捉えていた。
屋信太の着物にくっ付いていたある物を。
すかさず白雪はそれを取るとじっと見つめた。
屋信太が一連の行動に気が付かなかったのは酒に酔っていたからだ。

「ういー・・・。よっこらしょっと!」

あぐらをかいて座る屋信太に白雪は近づいた。
無論それを片手に持って、だ。

「屋信太様。お話がございます」
「ん? 何だ、白雪?」

神妙な顔で迫ってきたのだから屋信太も畏まって姿勢を正した。

「屋信太様・・・・。この髪の毛は何でしょうか・・・・」

見せてきたのは黒い髪の毛。
しかもその長さから女性のものである事は一目瞭然だった。
そして白雪の顔は無表情で、しかも目が笑っていない。
これが何を意味するのか酔っている状態の屋信太でも分かった。

「い、いや。飲み屋でちょっとあってな。馬鹿が酒瓶を俺にぶつけて、その拍子に倒れそうになった所をイチノさんって人が助けてくれて」

包み隠さず真実を打ち明けたが白雪の顔はまだ固い。

「・・・屋信太様から他の女の匂いがするのは・・・」
「そ、その人の匂いだ。いやいや、浮気だとかしてないしあれは不可抗力というものだ・・・」

「・・・・・・・・」

白雪は何も答えない。
ただ、ただ屋信太をじっと見つめている。
されどその瞳は虚無であった。
しかも何もかも吸い込めそうな程の深さで。
重い沈黙が立ち込める。
初夜の営みとは違う、誰もがその口を閉ざしてしまう程の息苦しさだ。

「・・・・もうこの話は終わりにしましょう。今日はもう寝ます」

そう切り出した白雪だったが目はまだ虚無のままだ。
寝ようとするその瞬間までも白雪に睨まれ続けていたのだから屋信太の精神は肉体労働以上に疲弊していたのだろう。
それは白雪に睨まれたというだけではない。
罪悪感という感情もあったからだ。



♢♢♢♢♢♢



「それは悪い事しちゃったわね。貴方の奥さんは白蛇だもの」

翌日、仕事の休憩時間の合間にイチノに会いに来た屋信太は堪らず彼女に相談した。

「けれど、あの時は仕方なかったし事情をちゃんと説明すれば白雪だって・・・」
「うーん。そういう問題じゃないと思うの。白蛇って種族は嫉妬深くて手にいてた夫が他の女に手を出すのを非常に嫌う子達なの。例え昨晩の様な仕方ない状況だとしても」
「ならどうすればいいんだろう。物買って喜ぶ様な奴じゃないし・・・」

「簡単だ。自分の身を差し出せばいいんだ」

屋信太が振り向くとそこにいたのは男性だった。
歳はもう50代近くで髪の毛を見れば白髪がちらほらと見えるが体はまだまだ衰えておらず笑みを浮かべれば一目で好人物だと分かる人間だ。
居酒屋の亭主でイチノの旦那である。

「俺だってイチノの機嫌を損ねた時は自分の体を差し出して好きなようにさせたんだ。そうすれば翌日にはけろっと元通りだ」
「ああ、そうだったわね。私も白蛇に負けず劣らず嫉妬深いから、あの時他の女の手を取った場を見つけて浮気でもしたのかと思って・・・」
「いやあれはお客さんにお釣りを渡しただけだからな。お前以外に最高の女なんて何処にもいねえよ」
「いやん、おだてないでよ。貴方」

やや恥ずかしめに喜んだイチノだったが屋信太の視線に気づいて慌てて本題に戻った。

「まあ、私達にとって愛する旦那との交わりはどの贈り物より喜ばしいものだから。ちゃんと謝罪してあの子の好きなようにさせるのが一番よ。大丈夫よ、最悪気絶する程度のものだからしっかりやっちゃて」

気絶するだけという単語に釈然としなかったが白雪の機嫌を戻すにはそれしかないのであれば仕方がない。

「まあ、そう言うなら・・・・俺の妻だから、な」

ややぎこちない口調で屋信太はそう宣言してみせた。



♢♢♢♢♢♢



そして日が暮れる寸前の夜辺り。
屋信太はいつもの通りに鍵を使って戸を開ける。
そこにはいつもの通りに白雪が彼を出迎えた。

「お帰りなさいませ、屋信太様」

そう答える白雪だが相変わらず無表情で、目は笑っていない。
このままでは駄目だと思った屋信太は遂に切り出した。

「なあ、白雪。昨日の一件なんだが・・・」

それを聞いた白雪の体がぴくり、と動く。
だが屋信太は怖じ気ない。

「俺は決して浮気とかする男じゃねえ。酒癖は悪いけど俺はお前以上の女を知らないしちゃんと誰よりも愛している。だから・・・」
「・・・だから、何でしょう?」

「今日の夜、お前の好きなようにしてくれ」

またも白雪の体がぴくり、と動いた。
だがその動きは先ほど見せたぴくり、とは違う。
例えるなら大好物を目の前にして少しでも気を緩めば襲ってしまいそうな衝動と同じ様な動きだった。

「屋信太様。本当に私の好きなようにさせてくれるんですか?」
「も、勿論だ。俺は白雪の信頼を裏切かねないへましちまったからな」
「屋信太様。私の望み通りの要求や交わりを受け入れてくれるんですか?」
「当たり前だ。俺はお前の旦那なんだから拒絶するなんて出来る訳ないだろう」

すると白雪の顔がみるみると申し訳ない表情に変わっていく。

「・・・・ごめんなさい。屋信太様。私は非常に嫉妬深くて他の女に手を出しただけでも私は怒りが込み上げてくるのです。けど・・・もう大丈夫です」

すると白雪が屋信太へと近づく。
後一歩踏めば彼と口づけ出来る程の距離まで詰めて、彼の両目を自身の真紅の両目で見つめる。

「今日が楽しみで仕方ありませんから」

そう言い笑みを浮かべた白雪に屋信太は背筋に寒気を覚えた。
だが、次には何で寒気を覚えるのだろうかと笑い飛ばすが念の為聞いておこうと屋信太は考えた。

「な、なあ。こう言ってはあれなんだけれどよ、俺の命を奪う様な交わりとかはしないよな?」
「そんな事絶対にしません。気絶こそあれど私が屋信太様の命を奪うなど考えただけでも恐ろしい事ですから」
「なら、もう問題はねえな」

だが屋信太の心は落ち着かなかった。
白雪はもうあの件に関して根に持っていないのだろうと察せられるのに何故か自分の中にある危険信号の灯りが警告している。
得体のしれない恐怖が迫っている、と。



♢♢♢♢♢♢



そして夕食を食べ終えた夜。
一枚の布団には屋信太と白雪。
勿論両者とも裸だ。

「最後に改めて確認がございます」

ろうそくのほのかな灯りを背景に白雪が告げた。

「今日の夜は私の好きなようにしていいのですね。勿論屋信太様が気絶する事があると思いますが命を奪う行為はしません」
「まあ、それなら問題ないな」

相変わらず危険信号の灯りが警告しているにも関わらず屋信太はそれを無視している。
無視するしかないのだ。
自分は白雪を傷つけた、ならば彼女に詫びなければならない。
それが夫の務めであると。
だが後の事を考えればある意味それは不幸な事だったのかも知れない。


「では・・・参りますよおお!!」

その瞬間白雪が豹変した。
彼女の尾が屋信太の体に巻き付いてくる。
だがその巻き付き方が違った。
いつもはゆっくりと屋信太の体に巻き付いてくるのだが今回は目にもとまらぬ速さで屋信太の下半身を余すことなく巻き付いてきたのだ。
しかも尾と尾との間に隙間を一切作る事がないように。

「なっ!! 白雪!!」


「あ、あ、あひゃああああ❤ ほんとは、ほんとは凄く我慢してなのおぉ!! 屋信太様を滅茶苦茶にしたかったけどっ! それじゃ嫌われちゃうって思ってええぇ❤ でも屋信太様から許可貰ってええぇえっ!! いっぱいいい、いいいっぱい犯してあげるるるうぅぅ❤」


普段の穏やかな白雪とは全く違う。
両目は焦点が合わず、頬は酒でも飲んだかの様に赤く染めて、口元は蛇の様に吊り上がり、そこからはだらしなく涎を垂らしている。
特に彼女の尾は屋信太の体を逃がさないとばかりにきつく体に巻き付けている。
普段の交わりの際に彼女はなるべくなるべく彼が苦しまないように痛すぎず、両手で抱擁するような力加減で巻き付くのだが。
まるで底なし沼にでも入ったかの様にもがこうとも、もがこうとも抜け出せない程の力で巻き付けているのだ。


「逃さない絶対逃さない二度と逃さない!! 今日は私が自由にしていいのおおぉ❤ 私以外の女なんて考えられない程気持ちよおおぉぉおおおくしてあげるっ❤」

自分の中にあった危険信号はこれだったのかと屋信太は後悔し始めた。
されどもう後には引けないし白雪の暴走を止める事など出来ない。
屋信太はもう全てを受け止めようと覚悟を決めた。

「まずはあ、口からだよおおお❤」

白雪はそう言い屋信太の唇へ接吻をした。





『うむっ❤ れろっ❤ ちゅっ❤ くちゅ❤』


だがその接吻は貪欲であった。
屋信太の全てを吸い取るかの様な勢いですすっている。
しかも白雪は蛇特有の長い舌で屋信太の口内を何度も何度も舐めまわしている。
余りにも舐め回されて口内の感覚が可笑しくなってしまいそうだ。
思わず白雪に止めるよう彼女の肩を叩いて合図したが聞く気配などない。




『んんっ!! うんんっ!! あむむっ❤ ちゅるっ❤』

何度も何度も肩を叩いたが全く反応してくれない。
もう屋信太の口内の感覚は舐められ過ぎて自分の舌が何処にあるのかという当たり前の感覚すら分からなくなってきた。
このままなされるがままになるのだろうかと思っていた。
が、白雪が舌を、口を離した。
その訳は彼女の視線が屋信太の下半身に向けられていたのだから察せられる。




「まあなんて苦しそうなおちんぽなのおお!! このままじゃ屋信太しゃまが病気になっちゃうう❤ 私が責任とってええええ、だしゃててあげるうううう❤」


はちきれんばかりに充血したそれを白雪は口の中に押し込む。
根元まで入れたのだから口の器官辺りまで届いているはず。
だから息苦しそうだと思ったが白雪はむしろ喜んでいる。
思わず屋信太は彼女の頭を両手でがっちりと掴み、自分の方へと寄せる。
これから起こるであろう白濁の波を受け止めてもらう為だ。
無論白雪もそれを望んでいる。
長い舌で、口で肉棒を刺激し続ける。
さらにはその華奢な手で屋信太の玉袋を揉み出し始めた。
だが屋信太は快感に酔いしれて知らなかったが彼女の手に、うっすらと青白い炎が灯られていた。
それで屋信太の玉袋を揉んでいたのだから
いや尋常じゃないほどの込み上げ方だ。
どんどんと精子が作られている。
この込み上げ方は何だ?



「おにゃがいいいい!! わにゃしにいい、あついいいお汁をおおおお❤ ちょうにゃいいいいいーー!!」

そんな事を言われたら屋信太は我慢の限界だった。
本能のままに溜まっていたものを開放する―――






『びゅるるるるるるるーー!!』


熱く煮えたぎった白液を白雪の膣に流し込む。
だがその量は異様だった。
まるで桶(おけ)に入ったたっぷりの水をそのまま白雪の中へと流し込んでいる様だ。
射精もいつもより長い。
自分はここまで貯めていたのだろうかと屋信太は思った。
5分くらいだろうか、ようやく波が収まり一息、そして二息出来た所だ。
屋信太がまだ息を整えていないにも関わらず白雪は口を離し、そして。



『にちゅ!!』


いきなり屋信太の肉棒を自分の女性器へと挿入したのだ。
このまま腰を振るうのかと思っていたが。


「まだですよまだですよ❤ 次はいよいよ私のまんこでえええ!! でもその前にい・・・」

蛇の様に口元を引きつらせた白雪は両手を前に出す。
すると手のひらから青白い炎が浮かび上がってくる。
その炎はだんだんと大きくなり彼女の上半身が見えなくなる程の大きさへと変化する。

「分かるこれ分かる絶対分かるよね!! これが私の生み出した嫉妬の炎なのっ!! 女の話を聞いたときに私が抱いた炎なのおおおっ❤ でもおおお、今は違うの!! 屋信太様が気持ちよく、失神しちゃうううくらいにっ!! イかせちゃう私の愛なのおおおっ❤ これを押し込めたら一生、永遠に、死ぬまで、いや死んでも私なしじゃ生きていけなくなるんだけどおおお、そんなの関係ないよねえええぇ❤」

ここまできて屋信太は自分の人間としての理性やら道徳とかが保てられるのだろうかと不安を通り越して恐怖していた。
だが既に性欲だけに従う白雪にはそれは愚問であった。

「受け取ってええええぇ❤ 屋信太さまあああぁあああ❤」

屋信太はてっきり自分はあの炎に燃やされてしまうのだろうかと思ったが違った。
白雪がその炎を屋信太の体に当てると溶け込むように消えていく。
まるで炎を自分の体に吸収するかの様な感覚で痛みとかは感じられない。
そして炎は一欠けらも残さず自分の体に溶け込むと、異変はすぐに来た。

「あぐっ!! ぐふふう!! おぐがうっ!!」

屋信太の顔が苦痛の表情を浮かべる。
異常なまでの熱さ。
体の体温ではない。
普段抑えているはずの性に対する飢えと欲望だ。
限界以上にみなぎってくる。
それは体の一部分が形となって現れる。





『ボコッ!!』


目を疑った。
白雪の腹の一部分が。
そう、中に幼い子供とかでもいない限りあり得ない。
白雪の腹のある箇所から、棒で押されたかのように皮膚が伸びきっている。
白雪の腹を押している正体は何なのか。
目線を下にそらすとすぐに分かった。
自分の一物が根元の時点で手首程の大きさに肥大化していた。


「お、おにゃかが!! お腹が、ぼこっって!! み、見て屋信太しゃま!! 屋信太様のおちんぽが突き出てるのおお❤ こ、こんな状態で射精なんてしたらどうなっちゃうのおおおぉ❤ いい、どうなっちゃても構わないい!! 早くして! 早くしてえええ!!」

白雪の声が裏返っている。
その狂気染みた姿に屋信太は恐怖を感じていたが狂おしいほど彼女の事で一杯になっていた。
白雪の外を犯したい。
白雪の中を犯したい。
白雪の全てを犯したい、と。



「白雪っ!! 白雪っー!! 白雪っーーー!!」

今の彼はそれしか言えない。
そして今の彼女もまた自分の旦那の事しか考えていない。


「これで分かったあぁ❤ 私こそが最高のメスなのおおぉ!! 他のメスなんていらないのおおおおぉ❤ だから来てえええぇえええ❤」


普通の女性であれば間違いなく収まる事が出来ないこの肥大化した肉棒。
されど白雪の膣は問題なく収めている。
入れようとすれば膣の肉が絡みついて白雪の腹の一部分が膨れ上がる。
引き抜けば中の肉が飛び出てしまうのではないかと思った。
が白雪は苦痛の表情ではなく快感の表情を浮かべている。
涎を垂らし白い髪を振り回して更なる快楽を得ようと腰を動かす。

「おねぎゃいいいい❤ 来てええええっ!! たくさん、たくさあああん私にぶちまけてえええーー❤」

そこまで懇願すれば屋信太も応じなければならない。
白雪の体を抱きしめ、無我夢中で接吻する。




「あむっ❤ むちゅ❤ れろっ❤ くちゅ❤」

『パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!』


もっと快楽を、もっと激しさを求め両者は刺激を与える。
そこには人間の常識や節度などない。
あるとすれば愛し合う二匹の獣がむさぼり合う異常な光景だった。
むせ返る様な愛液と精液の匂い。
欲望のままにお互いを求め続ける姿。
導き出される答えはただ一つ。

絶頂だ―――






『どびゅるるるるるるるっーーーー!!』


尋常ではない射精の量。
水鉄砲の如き勢いに乗せたそれは普通であれば受け止める女性は元より男性でさえも壊れてしまいそうな程だ。
だが白雪はそれを嬉しそうに受け止めている。
そして屋信太も意識を辛うじてだが保っている。

「あはっ❤ すごい、しゅごいいい!! もう入らないのにどんどん、どんどんっ!!」
「あ、ああ・・・。し・・・ろ・・・ゆき・・・」

見ると白雪の腹はまるで臨月状態の妊婦と変わらない程に膨らんでいる。
これの中身が全て自分の精液だと思ったら。

「ねえええ、見て❤ 私のお腹にゃが!! ぱんぱんに膨らんでるのおおお!! これ全部ぶううう、屋信太様の精液なのおおおぉぉ!! あひゃあ❤ 妊婦さんになっちゃたあああ❤ 赤ちゃんんんん!! 私と屋信太様の赤ちゃんが欲しいのおおおおお!!!」

狂乱する白雪の姿は実に淫らで魅力的だった。
喜びを爆発させ膨らんだ腹を屋信太の顔にすり寄せてくる。
すり寄せる度にたぷんっ、たぷんっと白雪の中に入っているであろうそれが音を立てて
主張している。
現実離れした光景、そして限界以上に何かを吐き出された屋信太の意識は気絶するという選択肢しかなかった。
でなければ受け止める事が出来なかったからだ。
白雪の本性、そして白雪の重すぎる愛を。



♢♢♢♢♢♢



次に目を覚めたのはニワトリの鳴き声であった。
口うるさく何度も鳴いているのだから自然と起きてしまうのは当然だった。
まだ頭の中が夢心地で整理が出来ていない。
見ると隣には眠っている白雪。
そして視線を落とせばぽっこりと膨らんだ白雪の腹が。
更には自分の性器が彼女の膣に入ったままだ。
どうやら繋がったままで眠って、いや気絶してしまった。

「こ、これ・・・どうやって処理するんだ?」

思わず呟いてしまった一言。
確か白雪の膨らんだ腹の中身は全て自分の精液だ。
これほど大量の物をどうやって処理すればよいのだろうか?
川に捨てても匂いで気付かれてしまうだろうと屋信太が頭を抱えていた最中だった。

「・・・心配いりませんよ、屋信太様」

白雪の声だ。
ゆっくりと瞼を開き、優しい目で屋信太を見つめる。

「お、起きていたのか?」

何故か恐る恐る訪ねてしまったのは屋信太本人でも分からなかった。

「はい、見ていてくださいね・・・・」

白雪の顔が少しだけりきんだ。
すると白雪の腹がぽうっと輝きを放つ。
そして妊婦の様に膨らんでいた腹はみるみると縮んでいく。
遂には元のすっきりとした腹へと戻った。

「・・・ぷはっ。美味しかったですよ」
「あ、あれだけの量がどこに?」
「全部私の魔力として還元いたしましたので。どんなに大量に注がれても私が全部吸収してあげますから安心してくださいね❤」

白雪は笑みを見せてから答えると既に下半身へと巻き付いている尾が一段と締め付けを強くした。
だが屋信太にとっては白雪の笑みは天使のほほ笑みではなく悪魔の笑みに見えたのだ。




(酒飲む量、控えるとするか・・・)


あの阿鼻叫喚染みた快楽をまた味わうのは当分の間はいい。
屋信太は心の中で酒を自重するという宣言を誓ったのであった。
最もあの快楽に染まった白雪の姿をまた見てみたいという欲望があったがそれは見て見ぬふりをする事に決めたのであった。



17/05/29 00:53更新 / リュウカ

■作者メッセージ
皆さんもこんな嫁さんを貰ったら浮気しませんよね…

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