読切小説
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単眼を好きになーれ
 俺の前に突然現れた、体の周りに黒色をまとった女だった。
 ほとんど裸に近い彼女は、ただの人間の女じゃない。
 魔物の、それも見た事も無い種族の女だ。

 魔物と言う存在が、人間に害意を持って無い事は知っている。
 俺の前に立ちはだかるこの女も、俺を取って食う為に現れた訳じゃない。

「はじめまして、あたしはルーシィ。あんたぁ、いい男だねぇ……」

 俺を値踏みするかの様に、なまめかしい感情の篭った視線で、なめまわす様に見つめてくるルーシィ。
 魔物と言う存在が、人間に害意を持っていない事は知っている。
 彼女達が人間の前に立ちはだかったり、こう言う風に意味深な視線を送ってくる時は、いやらしい意味で取って食う為に現れた証拠だ。

 魔物と言う存在は、往々にして美人揃いだ。
 彼女もその例に漏れず、整った美しい顔立ちと、しなやかな体付きをしている。
 だが欲情する事はしなかった。
 何故なら不気味だからだ。
 ひたすらひたすら不気味な原因は、彼女の“瞳”だ。
 彼女の顔には大きな瞳が一つだけ、本来あるべきはずの二つ目が存在しない。
 その代わりなのだろうか、体の周囲には十個の、彼女の顔と同じ様な単眼が蠢いている。
 これこそ、彼女がまとう“黒色”の正体だ。

「さぁ、好きになっておくれよ! 単眼の事をっ!」

 彼女の単眼と、周囲の単眼、奇数の瞳が眩く金色に輝く。
 まるで目を潰されるのでは無いかと思ってしまう程の眩さを、手をかざして遮る事も、顔を反らして逃げる事も、ただ目蓋を閉じる事も出来ない。
 まるで全身を見えない手で掴まれたかの様に、光を、彼女のたった一つの瞳を無理やり見つめさせられる。
 光に焼かれた視界が真っ白に染まり、何も見えなくなる。
 それどころか、今まで聞えてきた周囲の雑踏も聞えなくなってしまっていた。

“単眼を好きになれ”

 唯一聞えてくるのは、光を発する直前の彼女の言葉。
 耳に届いているのではない、直接脳に、まるで意識を染めるかの様に何度も何度も反響する。
 何度も何度も反響する彼女の声は段々と大きくなり、最後にはまるで大きな鐘の音の様に、脳の中で鳴り響く。
 頭をがんがんと揺らし続ける音が、まるで耳が聞えなくなったかの様に、時が止まったかの様にピタリと止む。

 そのまましばらくボーっとして、やがて視覚も聴覚も正常に戻り、もう一度彼女の姿をしっかりと捉えた時、彼女の単眼に見つめられた時、俺は体が奥底から熱くなるのが分かった。

 俺は興奮していた。
 彼女の露出の多い体にでは無い、彼女の単眼にだ。
 彼女の言う様に、俺は単眼がどうしようもなく好きになってしまった。

「ほぉら、あんたが好きな単眼の女……好きに抱くといいさ」

 そうしよう。
 もう単眼の女以外抱く気になれない。
 彼女の言う通り、単眼の女を抱きに行こう。

「……あれ? どこ行くの?」

 どこに行く?
 決まっている、好きな単眼の女の元へに決まっているじゃないか。

「ここにいるよ?! 単眼の女、目と鼻の先にいるよぉ?!」

 君の単眼も素敵だよ。
 でも俺には好きな人が、好きだと今気付いた人がいるんだ。

「えっ? えっ! それってあたしだよね!?」

 違うんだ。
 俺が好きなのは、隣に住むサイクロプスのベルナデットなんだ。

「……えっ? ベル……サイクロプス?!」

 今思うと気後れしてたんだ、不安になっていたんだ。
 やさしく愛らしい女性だけど、単眼だと言う事が今まで気になってしまって……。
 俺は、人を愛する時、その人の全てを愛さなければならないと決めていて、でも彼女の単眼を好きになれるか不安に思っていた。

 でも君のおかげで、単眼なんて気にならなくなった。
 いや、大好きになってしまった。
 今なら言える、今なら世界中の人に胸を張って言える。

 俺は彼女の全てを好きになれる……いや、彼女の全てが好きだって。

 ……ありがとう、名も知らない人。
 あなたの事は忘れません、これからも単眼への愛を広める伝道師となってください。

「……いや、ルーシィって名乗ったよ?」


 それは失礼ルーシィさん。
 待っていてくれベルナデット! 今、愛しに行く!


「……ちょぉい待てぃ!」



※この後ルーシィさんも男の元へ追いつき、ベルナデットさんも交えて3Pしました後、無事結婚しました。
13/09/12 00:57更新 / ゴミ貴族

■作者メッセージ
単眼を好きになーれ(暗示をかけた人を好きになれとは言ってない)

その内三つ目さんが現れて、単眼との派閥争いをするに違いない

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