読切小説
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百の足で捉えしもの
突然降り出した雨に濡れぬよう、一人の男が必死に峠道を走っていた。
隣村への用事を済ませ、自分の村へと帰る途中での出来事だった。
隣村を出る時点で嫌な予感はしていたのだが、案の定彼の予感を裏切ること無く無慈悲にも雨は降り注ぐ。

「(ええい、くそ!どこか、どこかで雨宿りを……)」

小さな山小屋でもあればよいのだが、不幸にもこの峠道にはそのようなものは存在しなかった。
辺りを見渡しながら、どこか避難出来る場所は無いかと必死に見渡す。
どこか、どこかに避難できる場所は無いかと必死に探すと、ふと彼の視界の外れに何かが見える

「(あれは……ありがたい)」

それは小さな洞穴だった。無論どの程度奥行きがあるかは彼のいる場所からは分かるはずもない。
だが今言えるのは、確実に雨から逃れる事が出来る場所であるということだった。
一目散にその洞穴へと掛けていき、幸いにも本降りになる前に避難することが出来た。
洞穴の中から見上げたその雲の厚さから、暫くはこの雨は止まないだろうと胸中で呟く。

「(やれやれ…とんだ道草だ)」

本来であれば何事もなく村へと帰れたはずだったのに、と胸中で己の不運を罵る。
しかし、いくら罵ったところで雨は止む気配はない。
諦めて洞穴の中で腰を落とすが、ふと奥を見るとかなり奥深くまで続いている様に見えた。
少なくとも彼が居る入り口からは、最奥が伺えないほどには深い洞穴だった。

「(あまり長居は不要だが…この雨ではな…)」

雨はますます激しさを増し、暫くはここで足止めを喰らうことになるだろう。
諦めた彼がふと洞穴の奥へと視線を移した時だった。
ゆらりと、洞穴の闇が蠢いた様にも思えた。
眉をひそめ、ジッとその闇を睨みつける。
彼の持つ愛刀―――銘は無いが、彼が侍として名乗る時から在る相棒―――を構え、いつでも抜ける状態にする。
ジッと睨みつけるその闇の中では確実に何かが蠢いていた。
どこか、耳に残る嫌な音とともにそれは少しずつ近づいていた。
限界ギリギリを見極め、ついに彼がその闇に対し制止を掛ける。

「何奴!!そこで止まれぃ!!」
「きゃぁっ!」

彼の突然の大声に、闇で蠢くものが小さな叫びを上げる。その声に、彼は一瞬眉をひそめる。

「(おなご…?)」

このような洞穴の中で、まさか女の声が聞こえるものとは思わなかった彼は一瞬戸惑う。
だが、すぐに状況を理解する、このような場所に居る女など、咎人か妖かしかのどちらかしか無い。
まだ姿がはっきりと見えないそれをジッと睨みつけ、警戒を解かぬまま彼は言葉を発する。

「そなたは何者だ!人か、妖かしか!?名を名乗れぃ!」
「ひゃぁ!…あ、の…お、落ち着いてくださいませ、お侍様…」

闇の中で蠢くそれはどこか観念したかのように、ゆっくりと彼に近づいてくる。
やがて近づいてきたそれの全貌がうっすらと見えてくる。

「…妖かし……妖怪、か…」

ここジパングにおいて、魔物は古き時代より【妖怪】と呼ばれていた。
彼の前に姿を表した彼女もまた、人為らざるその姿を以て妖怪と呼ばれるものだった。

「……はい、大百足の綾音と申します。あの…お侍様を驚かせるつもりは、一切ございませんでした……その…」

上半身は人の身体を、下半身は百足の身体を持つ妖怪、大百足。
人を襲うだけでなく、その姿見から畏怖と嫌悪を抱かれ、ときに討伐の対象ともされるものだった。
しかし、彼女をみる限り、その姿見は噂に違わぬものであるものの、人を襲うようには見えなかった。
人を襲うよりも、どこか人を恐れる様な、そんな様子が彼女からは感じ取れた。
一言話すにもどこかもじもじと、何かを言おうとして躊躇っているかのような。

「あの…ここは……その…」
「……突然の非礼を詫びよう。すまなかった。姿が見えなかったものでな、どうしても用心をしてしまった」
「え?……あ、ぅ」

口どもる彼女の言葉を待つ前に、彼自ら言葉を発する。

「すまぬ、綾音殿。某は峠下の町に住む大崎俊彦と申す。この度は突然の訪問、誠に申し訳ない。雨が止み次第すぐにここを出ていく故、止むまでの間で構わぬ、暫しここで雨宿りすることを許して頂きたい。」
「へ…あ、大丈夫、です。はい……あぅ…」

妖怪相手に下手な行動は反って逆鱗に触れかねないと判断した彼は、自分の素性を名乗り、敵対する相手ではないと相手に伝える。
大声で怒鳴られた後の、彼の紳士的な行動に面食らう彼女だったが、暫くして落ち着きを取り戻すとおずおずと話しかける。

「あの…俊彦様…」
「…そのように改まる必要もない。今は某が訪問者なのだから。」
「あ…はい、あの、ありがとうございます。」
「……何故礼を?非礼を咎められる立場故、礼を言われるとなると…」
「いえ…あの…その…私のことを見て…その、あまり驚いたり、逃げたりしないでくれたので…」
「…ふむ?些か理由は理解できぬ。が、その口調から、今まであまり良い扱いを受けなかったことは察する」
「はい…私を見た人は皆……」

彼女はそこで言葉を区切る。言わずとも彼女の様子から、散々な目にあってきたのは手に取るように分かる。
そう考えると、頭ごなしに大声を挙げたのは、随分と彼女に対し、辛辣な対応だったのではないかと彼は反省する。

「…すまぬ、事情を知らぬとはいえ、嘸かし驚き恐ろしかったであろう」
「そ、そんなことはありません、何も言わずに近づいた私が…その…」

ちらちらと、どこかバツが悪そうな、だけれども彼に興味があるとでもいうように彼を見つめる彼女。
そんな彼女の反応が、心優しい彼の心に、罪悪感と後悔をより深く刻み込む。

「…その、なんだ。少なくとも某はそのような不躾な事をするつもりはない。安心しろ…と云うのは些か信頼に欠けるかもしれぬが…」
「い、いえ。俊彦様がお優しいのはもう分かっております…。とても…優しいお方だと、分かっております。」

その時だった。ふと彼の中に違和感とも言える、何かがよぎる。そして違和感の正体は直ぐに判明した。
気がつけば、彼女の姿がはっきりと見えるほどに彼女が近づいていた。
着物を羽織ると云うよりも、腕に通す程度。どことなく少女を思わせるその柔らかそうな身体つきが目に入る。
一瞬その身体に心を奪われた彼だが直ぐに気を持ち直し、キツめに彼女を睨みつける。
妖怪を不用意に近づかせるつもりは彼にもない。
彼女に見えるか見えないかの瀬戸際で、しかし自分が武器を、刀を持っていることを相手に知らしめる。
気が付かぬほどにゆっくりと近づいていた彼女の動きがピタリと止まる。

「……綾音殿に害を為すつもりはない。が、某も一流の腕を持つわけではない。場合によっては…」
「俊彦様に害を為すつもりはございません…その、あの…少しでいいのです。お話をできればと…」
「…話しを?」
「はい…人里を離れ、このような場所に住んでいるが故、会話の機会も少ないのです。故にこういった機会でなければ…」
「……」
「他愛の無いお話をするだけで良いのです…これ以上は近づくことは致しません…ですから…」
「……わかった。だが、その場が綾音殿と某の限界点だ。」
「…!はい!」

嬉しそうに答えた彼女は、その場に腰を落とす様に、大人しくしていた。
長い前髪で隠れている顔からも、嬉しそうな笑顔が覗いている。
身体と同じように、無垢な少女を思わせるその笑顔に、内心ドギマギとしながらも、彼女の動きが止まったことを確認した彼は、
雨が止むまでの間彼女との会話で時間を潰すことにした。

彼女との会話は、ほとんど彼女からの質問に答えるようなものだった。
彼の好きなもの、嫌いなもの、恋人の有無や今の仕事について等、当たり障りのない内容だった。
彼としても、女性との会話というのは久しいもので、いつの間にか饒舌になっていた。
次第次第に打ち解けていくような感覚を覚え、いつの間にか彼女への警戒は薄れてしまっていた。
刀をいつでも抜刀できるようにと握っていたはずの左手は、警戒が解けたせいか、疲れたせいか、いずれにしろ刀を離れていた。

彼女との会話を続けて一刻程経過した頃だろうか。
ふと、彼が再び違和感を感じたのは、彼女の笑顔がはっきりと見えるようになっていたからだった。
ハッと我に返るも、彼女はもはや目と鼻の先にいた。
何故ここまで近づいていたことに気が付かなかったのか。
彼女の会話が楽しかったから?彼女が彼に気が付かせないほどゆっくりと近づいていたから?
理由は今となってはわからないものの、彼は慌てて己の刀に手を伸ばす。

「……っ!綾音殿!そこまでだ!」
「……」
「不覚…!だが先程申したはずだ。それ以上近づくことは許さぬと!」
「俊彦様…」

彼女は先程の会話で嬉しそうに聞いていた笑顔と同じ笑顔を浮かべていた。
もはや彼が隠すこともしていない刀に対しても、彼女は存じぬと言わんばかりに視線を向けることはない。
嬉しそうに笑みを浮かべながら、彼にそっと両手をのばすように、彼の胸に飛び込む様な体勢で彼へと近づく。

「俊彦様…私、今すごく嬉しいのです…こんなに心躍る瞬間は初めてで…」
「綾音殿!止まれといったはずだ!」

彼女への制止はもはや意味を為さぬと彼は理解する。だが、心優しき彼が刀を抜き彼女を斬り伏せる事は出来るはずもなかった。
言葉での静止はできず、武力での制止も出来ないのであれば、もはや彼に彼女を止めることは叶わない。
手が届くほどの距離はおろか、もはや互いに触れ合うほどの距離にまで彼女は近づいていた。

「あぁ…俊彦様…」
「やめ、やめろ…綾音殿。はなれ…!」
「暖かい…俊彦様の温もり…先程の会話よりも…もっと暖かな温もりを感じます…」
「うぅ…綾…音殿…」

ギュッと彼に抱きついてくる彼女。
無論その力は彼を離さないというほどの力ではない。
愛しい人を優しく抱き締める、そんなものであった。
だが、今の彼にはそれを引き剥がすことはできなかった。
引き離すことができなかったのは力ではなく、彼自身に迷いがあったから。

「…お願い致します、俊彦様。綾音にお慈悲を…優しく、俊彦様の胸の中に居させてくださいませ…」
「う…ぁ、しかし…某は…」
「お願いします…俊彦様」

彼は彼女を抱き締めることはできなかった。同時に、彼女を斬り伏せることも。
彼に抱きついた彼女を振り払うこともできず、彼は只々己がどうすべきであるかを模索することしかできなかった。
ぎゅっと胸に顔を埋め、満足そうにしている彼女をどうすることもできない。

「ふふ……俊彦様の心の臓腑、とても高鳴っております…私の、綾音のことを思って下さっているのですね」
「ちが、う!某は…!」
「謙虚で…お優しい俊彦様…くすくす」

どうすることも出来ない状況だった彼だが、突然彼女が彼から離れる。
だが、それで彼女が満足したはずがない。
そっと彼女が両手で彼の右手を取ると、彼女の胸にその手を当てる。

「お分かりですか?俊彦様…綾音も、俊彦様と一緒です。心の臓腑が高鳴って…俊彦様のことしか見えません…」
「あ…うぁ…はぁっ!はぁっ!」

彼女の、決して主張しすぎるほどではないその胸に手が当たる。
彼女の言うとおり彼女の心臓もまた、ドクドクと高鳴っていることが分かる。
だが、彼が感じ取ったのはそれ以上のことだった。

「(なんだ、これは…柔らかい…肌触り、滑らかで…違う…)」

己の身体とは別物。生娘の肌が、胸がこんなにも心を躍らせるものであったとは。
ただ手を触れているだけなのに、幾多もの情報が入り込み、頭のなかで錯綜する。
そんな混乱する彼を余所に、彼女は再び彼にぎゅっと抱きついてくる。
先ほどのように胸に顔を埋めるのではなく、彼の首に手を回し、互いの頬を合わせるような形で抱きつく。

「あぁ…俊彦様…♥」

彼女の声が耳元で聞こえた瞬間、ガシャリと音を慣らしながら彼の手から刀が離れる。
もはや理性はゆっくりと溶け落ち、邪で本能めいた思いが己の中で急激に膨らんでいく。
震える手は、ついに彼女の背に触れ、彼女を抱き返してしまう。

「嬉しい…俊彦様も同じ思いなのですね…」
「あ、やね殿……っ!」
「ふふ、もっと…もっと強く抱きしめてください…♥あぁ…もっと俊彦様を感じさせて下さい♥」

彼女が耳元で囁く度に、寒気にも似たゾクゾクとした感覚が背筋を走る。
もはや理性では、彼の中で爆発的に膨らむ衝動を抑えることができなくなっていた。
同時に、彼女の次の行動に期待をしてしまう。
そんな彼の思いを察したのか、ふぅっと彼の耳に息を吹きかけながら、彼女の手はゆっくりと彼の衣服へと伸びていく。
優しく耳たぶに唇を当て、そのまま小さな舌を彼の耳たぶからゆっくりと形に沿って動かす。
先程以上に、ゾクゾクとした快感に打ちひしがれ、もはや彼は何も考えることができなくなっていた。
故に、彼女の手が彼の衣服の帯を解き、その身をさらけ出し始めていることにも気がつくことはなかった。
耳の外側を沿うだけだった彼女の舌が、耳の溝に合わせながらゆっくりと耳の中を目指し動き始める。

「あ、うぁ…なん、だこれは…はぁっ…あぁ…っ!」
「ん…えぉ…ぁ……ぢゅ……ふふ、俊彦様…とても良いお声です…もっと、もっとお聞かせ下さいませ…♥」

彼女が喋るために耳から舌を離した瞬間だった。
彼女の細く靭やかな手が、彼の褌の上に添えられていた。優しく、彼の怒張した肉棒を撫でるように。
瞬間、彼の口から思わず感嘆の声が上がる。

「う…ぁ…あぁぁ!…っ…く…」
「あぁ、素敵…こんなにも固く…ドクドクと脈打って…綾音の事を、こんなにも思って下さっているのですね…♥」

優しくなぞるように、優しく摘むように、決して強すぎない、だがもどかしさを覚える力加減で彼女は彼のモノに触れる。
そうしながらも、彼女はゆっくりと彼の衣服へと手を伸ばし、彼の衣服を少しずつ脱がしていく。
彼に一切気取られること無く、巧みに快楽を与えながら彼女は手を動かし続ける。
そして気がつけば、帯の一切は解かれ、彼の上半身も下半身も肌を曝け出す程にまでなっていた。
もはや彼女の行為に一切の抵抗を示さない彼に対し、彼女は嬉しそうに彼の耳元で囁く。

「先程から、とても苦しそうですね、俊彦様…くすくす…少しだけ、意地悪だったでしょうか…?」
「あや、ね…」
「申し訳ありません…嬉しくて、つい…でもご安心して下さい。綾音が…くすくす…綾音が俊彦様の望みを全て叶えますから…」

そういった彼女が、彼の最期の衣類、褌へと手をかける。しゅるり、しゅるりと解け、ついに彼の肉棒が曝け出される。
先端からは粘度のある透明な雫が溢れ、ビクンッビクンッと力強く脈打っている。
現れたそれを思わず恍惚として表情で見つめる彼女。
優しく両手を沿わし、とても大切な物を扱うように優しく包み込む。
そして、彼女は顔を近づけると、己の限界まで彼の肉棒の匂いを嗅ぎ、脳髄の奥深くにまでそれを刻み込む。。

「んっ…ぁ…あぁ♥俊彦様の…こんな、こんな芳しく…んふふ…綾音に…全てお任せ下さい…♥」

両手は話さないまま、彼の肉棒に触れない程度の距離で少しだけ舌を出し、そのまま上目遣いで彼を見つめる。
次第にトロリトロリと舌から垂れた彼女の唾液が、彼の先走り汁と混ざり、彼の肉棒を染め上げていく。
上目遣いのまま、両の手にまで垂れた彼女の涎を、彼の先走りを更に混ぜるように、ゆっくりと両手を上下に動かす。
クチュ…ヂュ…と小さな水音と彼の喘ぐ声が、静かな洞穴の中に小さく響く。

「うぁっ!…っ…ぐ…ぅ…あぁ…はぁっ!…っぁあ!」
「えぅ…ん……んふふ…俊彦様のお声…ゾクゾクします…もっと、聞かせて下さい…」
「あぁっ!あや、あやね!殿!ぐぅ…かっ…あああ!」

彼の声が次第に大きくなるにつれ、彼女の両手の動きもそれに合わせるかのように早くなっていく。
優しく包み込みこむだけの手は、いつの間にか彼の声に合わせ繊細に力加減を変えている。
ズチュ、グチュと次第に水音も大きくなり、彼の肉棒も限界にまで張り詰めていた。
男児でありながら、情けない声を出し快楽に溺れている今の状況を恥ると同時に、
幼さが残る彼女に見つめられながら肉棒をしごかれる背徳感を感じ、かつて無いほどの快感が彼を襲っていた。

「(ぐぅ…も、もう限界……っ!)」

これ以上しごかれればあっけなく射精に至ると確信した瞬間、彼の心を読み取ったかの様に彼女が手を離す。
唾液と先走りが混じった汁でネトネトになったその手に視線を落とす彼女。
再び上目遣いで彼を見つめると、彼女はゆっくりと見せつけるようにその手を舐める。
掌からゆっくりと指先へ、それが終われば再び掌から別の指へと、嬉しそうに繰り返す。
その姿に先ほどと同じ感覚を覚える。自分の肉棒に触れられてもいないのに、快感が走る感覚。

「ぁむ……くすくす…どうなさいましたか、俊彦様?玩具を取り上げられた童の様な、そんなお顔をしております…」
「な…ちが…ぅ…ぁっ…はぁっ…はぁっ!」
「ふふふ……先程、申し上げたはずですよ…?…綾音は、俊彦様のお望みを、叶えます…と」
「ぁ…ああぁ…」

生殺しの状態で、彼女は彼の心へと訴えかける。
己が尽くすだけでは彼女は決して満足はしない。彼も彼女を求めてこそ、彼女の望みは形を為すのだから。
もはや彼の我慢の限界などとうの昔に通り過ぎていた。
今の彼には侍としての誇りを守るよりも、今は行き場を失った快楽を吐き出す先を求めていた。

「た、頼む…!綾音殿…最後、まで…っ!」
「くすくす…"最後まで"…ですね…♥」

にやぁと、先ほどとは意味の異なる笑みを浮かべる彼女だが、彼にはもはやそれを汲み取る余裕すら無かった。
そんな彼女は、彼の望みを叶えるべく彼の肉棒に顔を近づける。
彼の肉棒を横から咥えるようにすると、一度彼へと視線を向ける。

「……ほんの少しだけ、我慢して下さいませ」
「…え?綾音殿……どうい…っっ!!!…ああああぁぁっ!!!」

瞬間、彼女の口内に在る小さな顎肢が彼の肉棒に突き刺さる。
彼が肉棒にほんの少し痛みを感じたのは彼女の言うとおり一瞬だった。
そして直後に、じんじんと痺れる様な感覚と途方もない程の快感が肉棒全体に広がっていく。
触れても居ないのに激しくシゴカれているような、暴力的な快感に彼が悶える。
そっと口を離し、彼の悶える姿を彼女は満足げな、歪な笑顔で見つめていた。

「あぐっ…つぁ…綾音、殿!今、某に、な何を…っ!」
「ご無礼をお許し下さい…直ぐに綾音が、気持ちよく致しますから♥」
「あ、ぐぅぅ…っ!なん、だ…これは…あああぁぁっ!!!」

彼女が先ほどのように、優しく彼の肉棒に手を添える。
たったそれだけのことをしたに過ぎない、にもかかわらず彼は思わず叫んだ。
ビクンッビクンッと震える肉棒は先程よりも更に一回り大きく、固くそそり勃っていた。
彼の、そして彼の肉棒の反応に満足した彼女は、再び彼の肉棒に顔を近づける。

「あぁ…本当に素敵です…♥俊彦様の魔羅も、その悶える姿も…くすくす♥」

先ほどのように上目遣いで彼を見つめならが、口を大きく開けて、彼の肉棒を咥える素振りを見せる。
荒い呼吸を繰り返しながら、彼は彼女に媚びへつらうかのような視線を送ることしか出来ない。
その視線に満足したのか、彼女は先程までのように焦らすのではなく、彼の肉棒を一気に根本まで咥える。

「んむ…ぐ…ぢゅる…っ…‥ぢゅ…れぉ…ぢゅ…ぢゅる…じゅぱ…」
「ひ……ぁ…ぐ……お…っ」
「うふふ……あむ……んぐっ…ぅ…じゅる…‥ぢゅるる…ん…♥」

喉の奥まで彼の肉棒を迎え、嗚咽を漏らしながらも彼女はそれを何度も返す。
先程までの手でされたものとは、比べ物に為らない快感が彼を支配する。
身体を仰け反らせ、言葉を発することすらもままならない。
ビクンッビクンッと脈打つ肉棒からは、濃い精の匂いが、味が溢れ出て、射精直前であることを彼女に伝えていた。

「じゅるる…っ…ぉご…ごぷ…ぢゅ……えろぉ…あむ……♥♥」

それに興奮し、更に激しく口内で彼の肉棒を刺激する。
そしてトドメと言わんばかりに、彼女の喉の奥限界まで彼の肉棒を迎え入れた瞬間だった。

「あ、が…あああぁぁっ、綾音、綾音殿!!!出るっ出る!!がああぁ!!」
「んぐ…ご……んむうぅ…ご…ぷ…ぉ……ぁ……んぷ♥」

獣の叫びの様な喘ぎ声をあげながら、男は今までに感じたことのない快楽に包まれていた。
ビュル、ビュルル、と彼女の口内から、彼の耳にまで音が届くほどに勢い良く大量の精が吐き出される。
女性の様に身体を何度も震わせながら、彼は今まで味わった射精とは次元の異なる快感を味わっていた。
彼女もまた、自分の喉奥出だされる、彼の精子を感じとり、恍惚とした表情でそれを飲み干していく。
終わりが訪れないと感じるほどに長い射精に、漸く終わりが訪れる頃だった。
彼女がゆっくりと頭を引き、口内で彼の尿道内に残った最後の1滴までも吸い上げると漸く彼の女の口から彼の肉棒は放たれる。

「ぢゅるる…ぢゅずぅ……んはぁっ!…はぁっはぁっ…あ…ふふ…俊彦様の…精子……♥」

うっとりとした表情で口に残る彼の精子を味う彼女だが、直ぐに視線は彼の肉棒へと移る。
未だにビクン、ビクンと脈打つそれは、彼女の毒に蝕まれ萎えることを忘れている。
未だに射精の余韻が消えず、虚ろを見つめている彼の前で彼女はシュルリシュルリと服を抜いていく。
彼女の乳首を隠していた百足の足も開き、秘所も露わにする。
彼が、彼女が一糸まとわぬ姿に気がついた時には、彼女の準備はもう終わっていた。
自らの秘所を指で広げ、トロトロと愛液が溢れ出すそれを彼に見せつけながら彼女は彼を誘う。

「くすくす…俊彦様…見えますか?私のここは……俊彦の精子でこんなになってしまいました♥」
「う…あぁ…綾音、殿…の…っ!」
「俊彦様をお迎えする準備が…整いましたよ…うふふ…♥」
「あ、ああぁぁ……」

ふらりふらりと、火に寄せられる蟲のように彼は彼女へと近づいていく。
異常なまでに興奮し、荒い吐息、血走った目で彼は彼女の1点だけを見つめていた。
先程出したばかりだと云うのに、未だ硬さを失わない己の肉棒に手を添え、彼女の秘所へとあてがう。

「綾音…綾音殿の…中に…っ!」
「ふふ…綾音は逃げませぬ……俊彦様の思い、綾音に全て下さいませ…」
「綾音殿ぉ!!」

彼が大きく彼女の名を叫びながら、彼女の膣内へと一気に肉棒を突き立てる。
入れてから彼女の最奥に届くまでのほんの一瞬に、凄まじいまでの快感が迸る。
キツさを感じる彼女の膣内だが、驚くほどに彼のものを容易く受け入れる。
ヒダの一つ一つは彼の肉棒を舐めるようになぞり、膣全体はぐにゅりと蠢き、彼の肉棒の元から先までを隈なく刺激する。

「あ…ッ…かは……なんだ、これは…某のモノが……あああぁぁ!」
「ふあぁぁっ!俊彦様、俊彦様のが♥奥まで、綾音の、一番奥まで来てます♥…あ、あぁ!くふぅぅん♥」

入れられた彼女もまた、頭の先から尻尾の先端までを貫く快感に打ちひしがれる。
彼女の小さな身体には大分大きい彼の肉棒で内臓が圧迫されるその感覚すらも、今は快感を生む一因過ぎない。
入れた彼も、彼女の中の熱さに、キツさに、あまりの快感に入れただけれ達してしまいそうになっていた。

「綾音…殿…ぐぅ…凄い…こん、な…ぅぐ…」
「あ…っ…ひゃぅ♥俊彦様が、一杯です♥綾音と、俊彦様、今一つになって…んあぁっ♥」

このままではあっけなく出してしまう、そう感じた彼は一旦腰を引き、彼女の膣内から肉棒を引き抜こうとした。
だが、彼女の膣内がぎゅっと締まり、ただでさえ刺激が強かったものが更に強くなる。
まるで引き抜いては為らぬと、言わんばかりにだった。
だがそれでもなんとか引き抜き、彼女から一旦貼れようとしたときだった。
シュルリ、と彼の身体全体に何かがまとわりつき、あまつさえギュッと幾多もの爪のような者が身体をしっかりと掴む。
突然のことに理解が追いつかないまま、彼の身体は無理やり彼女の身体へと密着する。
引き抜こうとした彼の肉棒は、再び彼女の膣内の奥まで戻ってしまう。

「な、なん…っ」
「あんっ♥…ダメ、ですよ俊彦様…くぅんっ……もっと綾音の身体を、堪能して下さいませ♥」

それは彼女の身体だった。
彼の身体にまとわりつき逃さぬように、百足のもつ幾多の足で彼にしがみつき、身体の自由を奪う。

「はぅぅっ…俊彦様の温もり…とても、暖かいです♥…暗く冷たいこの、洞穴の中で…どれ程この時を、待ちわびたか♥」
「ぐぅう…綾音殿…待ってくれ…このままでは…出て…」
「くすくす♥俊彦様…はぁっ…いい、んですよ?我慢などなさらず…ひゃふ…ぁ、綾音の、膣内で全て…♥」
「いや…っ‥それはいかん…それは……あぐ…」
「ふぁぁ♥綾音に…俊彦様の御慈悲を下さい…ませ…っあぁ!」

瞬間、彼女がぎゅっと彼に抱きつく。
彼女の膣内でイクことを何とか避けようとしていた彼だが、それはいとも容易く崩れ去った。
彼女が密着した瞬間、彼の胸に彼女の柔らかで控えめでありながらもその存在を主張する乳房が当たったこと。
そして、彼女の首、そして尻尾にある顎肢が彼の胸に、脇腹に突き立てられ、彼女の持つ毒が注がれたこと。
考える間もなく、半ば強制的に射精に至るほどの快感が彼を襲った。

「な、かぁっ…があああぁぁぁっ!!!」
「ふあぁぁっ♥出て、る♥俊彦様の精子♥綾音の、膣内で…んあぁぁっ♥」

びゅぐ、びゅるるる、と先ほどよりも勢い良く彼女の中で彼の精が放たれる。
ビクンッビクンッ、と彼の肉棒が震える度に、彼女の膣も蠢き、彼の精を搾り取ろうとする。

「あああぁぁっ!綾音殿!待て、がぁぁっ!」
「凄い、凄いですぅ♥あぁぁっ♥あひ♥くひゅぅん♥」

全ての感覚を塗りつぶす程の快感が走り、密着しているにも関わらず彼女には彼の言葉は届かない程だった。
何度も何度も身体を震わせながら、ただただ出来ることはこの暴力的な快感が収まるのを待つだけだった。
だが、彼の身体に纏わりつく彼女の身体が、大人しく終わりを迎えさせる事を許さなかった。
射精をしている間も、終わった後も、彼の身体を小さく前後に揺らし、絶え間なく快感を与え続けていた。
漸く快感が落ち着いた頃には、一体どれだけの時間が経ったのか、感覚すらなくなるほどだった。

「あや、綾音、殿っ!い、ちど離れ…っ!」
「くすくす…だぁめです♥だって、俊彦様の魔羅は…くふぅ…綾音の中で、まだ…あんっ…こんな硬いのですよ♥」
「ちが、それはっ!」
「まだ…俊彦様の思いが…ふあぁっ♥…あや、ねの中に、出し切れて無い、証拠ですよ♥」

そういうと彼女は再び彼の身体を、無理やり前後させる。
ぎゅっぷ、じゅっぷ、ぢゅっちゅと水音と、互いの身体が当たる音を響かせながら。
同時に、彼女は彼の身体のいたるところへ、己の顎肢を突き刺しては毒を注ぎ込んだ。
まんべんなく、ときに挿入している肉棒を引いた瞬間に合わせて、顎肢を突き立てる。

「あっがっ、つぁ!あ、がね殿!たの、頼むっはな…しっ」
「ひゃん♥あふ♥出てます♥俊彦様の、綾音への思い♥一杯、一杯ぃぃ♥」

もはや彼女に彼の言葉は届いていなかった。
抱きしめながら、無理矢理に彼の身体を動かし、挿入を繰り返し行わせていた。
何度も、何度も。
彼が何度絶頂を繰り返しても、何度彼女の膣内へ精を出しても、終わらせることはない。
彼女の毒で絶え間なく生み出される快楽が、彼の肉棒に萎えるということを許さない。
ぢゅっぷぢゅっぷぬっちゅじゅぷぷ。
もはや射精に次ぐ射精で意識も朦朧とし始めた頃、ふいに口が塞がれる。
口が塞がれた理由は、目の前いっぱいに広がる彼女の顔がその答えだった。

「はむ…ちゅ…ぇろぉ…じゅ…俊彦…様…あぷ…ちゅ…」
「ん…むぅ…あ…」
「もっろ…俊彦様…じゅ…ちゅぷ…ぇふ…あ…ああ…あぁぁっ♥♥」

瞬間、彼女がビクンッと身体を大きく震わせる。
仰け反りながら、呼吸すら出来ない様子で身悶えている。
彼を捕まえていた百足の部分すらも、ビクンッビクンッと震え、彼を束縛することすらできなくなっていた。

「あぁ…これ…何…すごぃ♥ひゃ…ひぅぅ♥‥くぅっ…んはぁっ♥」

自分の腕で自分の身体を抱き締めるようにしながら、彼女が何度も身体を震わせていた。
いつの間にか離してしまった彼のことにすら気が付かないほどに。
それはまるで、先程までの彼と同じように、暴力的すぎる快感に全てを塗りつぶされてしまっているようだった。

「(なん、だ?何が…起こったんだ?)」

状況を理解することはできなかった。だが、今の彼女は彼のことを気にする余裕すらない様子だった。
朦朧とする意識の中で、今が最初で最後の機会だと察する。
フラフラになりながらも、己の脱ぎ散らかした衣類をなんとか着込むと、日も落ちた暗闇の雨の中、彼は洞穴を後にした。
暗闇の中、ずぶ濡れになりながら、何度も木にぶつかり、躓きながらも彼は自分の町へと逃げるように去っていった。
未だに全身に快感が走り、呼吸すらもままならない彼女は、彼がその場から消えたことにすら気が付かなかった。



町にたどり着いたときには、薄っすらと辺りは明るさを取り戻す頃だった。
朦朧とする意識の中、町医者の家へと迎えたのは彼の人並み為らぬ精神力の賜物か。
最後の力を振り絞り、戸を力いっぱい叩くと、眠たげな顔をした町医者が顔を出す。
転び、ぶつけ、身体中に異様な噛まれた痕を残す彼を見て、町医者もすぐに彼に異常が在ったことを察する。
彼を安静にさせると、身体の消毒、手当を行い、彼に何が在ったかを問いただす。
だが、力尽きた彼は、深い眠りに落ち、何が在ったかを聞くことは叶わなかった。

彼が目を覚ましたのはその日の昼過ぎだった。
転び、ぶつけた際に付いた擦り傷は大したことはなかったが、問題は噛み跡だった。
ジクジクと痺れるような快感が全身の噛み跡から発せられ、頭がぼうっとするような状態だった。
町医者に事情を説明するも、妖怪である大百足の毒を癒やす薬は用意できないと言われる。
無論、つてをあたり解毒出来る薬を取り寄せるようにはするが、今のところ安静にするしかないと町医者は彼に説明する。
気休め程度の薬を町医者にもらうと、彼は熱病にうなされるような感覚のまま自宅へと戻り、安静にすることにした。
だが、自宅に帰って布団に潜り安静にしようとするも、それは叶わぬことだった。

目を瞑れば、彼女の幼さを残しながらも女を意識させる身体が思い浮かんでしまう。
何も握っていないはずの手には、彼女の滑らかで柔らかな肌の、胸の感触が浮かぶようだった。
収まることを忘れた肉棒は、彼女の膣内の快感を思い出し、固くビクッビクッと震えている。

「(はぁっ!はぁっ!くそ…頭の中から、離れぬ!)」

ふらふらと立ち上がると、彼は厠へと向かい、もはや我慢の限界になった己の肉棒をしごき始める。
我慢汁が溢れ、それを円滑油としてしごき始めると、たちまちに快感が襲い、射精感がこみ上げてくる。
さほど時間を掛けずに、肉棒からは精子が吐き出される。

「(ぅ…っ…!……はぁっ、はぁっ、なんだ…これは…)」

だが、何かが違うと彼は頭の中ではっきりと感じ取る。
射精をしたというのに、満足感も、快感もまるで足りない。
それでも一時の興奮は収まるのを感じ、彼は厠を跡にする。
だが、収まったはずの興奮は一刻を待たずに再び彼を襲った。
何度も厠に向かっては射精を繰り返すも、次第に興奮が収まらなくなっていく。
頭の中には、彼女のことが浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。

「(なんだ…綾音、殿が、頭から離れぬ…)」

気がつけば日が暮れ、夜の帳が下り、彼のいる部屋は小さな灯りだけが灯っていた
もはや厠へ行く気すら起きず、近くにおいてあった包用の布へ己の精子を何度も吐き出していた。
出せば出すほどに、むしろ満足感は減っていく。
時間の感覚も薄れ、身体中を蝕む快感に心も犯されていく。

「(う…ぁ…なんだ、どうすれば…)」

町医者が解毒薬を取り寄せると約束してくれたが、その前に心が壊れそうだった。
どうにもならなくなった彼が小さく、ポツリと一言漏らす。

「…綾音…殿」
「くすくす…はい。綾音はここに居ります♥」

瞬間、ゾッとするほどの寒気が全身を襲う。
キョロキョロと辺りを慌てて見舞わずも、己以外の姿は何処にも見えない。
だが、間違いなく聞き間違いなどでも、幻聴でも無かった。
彼女の声が、聞こえる。

「くすくす…そんなにキョロキョロとしてどうなさいましたか?綾音は、いつだって俊彦様のお側におります」

ゆっくりと彼女の声が聞こえた方、つまり部屋の天井へと顔を向ける。
そこには間違いなく彼女が居た。
天井に身体を這わせ、狂気を孕んだ笑みを浮かべながら彼へと手を伸ばしている。

「ヒイィっ!」

思わず彼は叫び後ずさりをする。何故彼女がここに居るのか、一体いつからここにいたのか。
頭の中はもはや恐怖と混乱でいっぱいになっていた。

「あ…な…あ…あ、やね、殿」
「うふふ♥どうなさいましたか?」
「あ…やめ…ゆるし…」
「許す?何をおっしゃっているのですか、俊彦様?私は怒ってなどおりませんよ♥」

そういった彼女はゆっくりと天井から降りてくる。
彼へと向かう前に、彼が先程までさんざん精を吐き出していた布へと向かうと、それをすくいあげる。

「くすくす…♥こぉんなに沢山…♥はむ…ずずっ…ぢゅ…ん…♥」

布に吐き出された精子を彼女は愛おしそうな表情を浮かべながら、丹念に舐めとる。
彼女のその姿、仕草に彼の視線は釘付けになり、その場から逃げることすらも忘れていた。
布についた精子を舐め終わった彼女は、満足そうな笑みを浮かべゆっくりと彼の方へと向かう。

「俊彦様の精、とても美味しゅうございます♥くすくす♥」
「…な、ぜ、ここが…」
「くすくす♥異な事を仰るのですね。昨夜あんなにも綾音を愛して下さったではありませんか…♥」
「そんなことを聞いているのでは…!」
「うふふ…とてもとても、とても些細なことです。ですが…敢えて云うのでしたら、愛、でしょうか、くすくす♥」

そういうと彼女の身体が彼に巻き付き、彼の自由を完全に奪う。
腕も、足も動かすことが出来ず、ぎゅっと彼女の幾多もの足でがっしりと掴まれてしまう。
そんな彼に彼女は優しく抱きつく。

「あぁ…嬉しい…俊彦様の温もり♥」
「は…ぁ…あぁっ」

彼女に抱きしめられる、ただそれだけだと云うのに、先程までの射精を上回る快感と満足感が彼を満たしていた。

「くすくす…そう言えば、俊彦様は先程随分と苦しそうでしたね…♥」
「あ、ぅ…くぅ…ちが…某は…」
「俊彦様…綾音にお任せ下さい…全て…綾音にお任せして…その身をお委ね下さい…♥」

すすすっと彼女の指が彼の身体の真ん中をなぞるように、首元から胸、腹部を通り、彼の下腹部へと移っていく。
途中、彼女の噛み跡に触れる度、弾けるような快感が走る。
そして、彼女の手は、彼の肉棒に優しく触れる。

「あぐ…ふっ…ぬ…ああぁ…」
「あぁ、なんて素敵なお声…♥もっと綾音に、聞かせて下さい♥」

鼻と鼻が触れるほどに近づき、彼女の瞳が彼の瞳をジッと見つめながら、優しく彼女の手が彼の肉棒に合わせて前後に動く。
優しく握り動かしているだけ。ただそれだけなのに先程まで彼が自分で行っていた自慰の何倍もの快感が走る。
ぬちゃぐちゅじゅぷぢゅ、と先走りも溢れるように漏れ出し、水音を部屋に響かせる。

「あぁっ、ぐぅっ、つ…ああぁっ!」
「俊彦様のお声…ゾクゾク致します…♥…ふふ、いつでも…出していいですからね…綾音が全部、受け止めますから♥」
その言葉が切っ掛けだったのか、それとも単純に限界だったのか。
自由の利かない身体を、それでも仰け反らせながら、彼は精を放つ。
ビュルル、ビュクンッと勢い良く吐き出された彼の精は、彼女の身体へとピチャリ、ピチャと音を立ててへばりつく。

「んんぅ♥俊彦様の、出したての精子…熱くて、火傷してしまいそうです♥」
「ぐ、う、あっ…くぅぅっ!」
「綾音の事を…こんなにも思って下さっているのですね…くすくす♥」

身体に、手にへばりついた精子を掬っては、彼女は彼に見せつけるようにゆっくりと舐めとる。
目の前で行われるその行為に彼は見入っていた。
指についた己の精子を、彼女が舐めとるその姿は、得も言われぬ背徳感を醸し出す。
興奮し、心の中で劣情が湧き上がる程に、彼の身体を蝕む彼女の毒素は彼の身体にさらなる快感を生み出していく。
ビクンッビクンッと脈打つ彼の肉棒は、もはや彼女の手だけでは足りぬと主張するかのように更に硬さを増す。
それに手で触れている彼女も、嬉しそうに、恍惚とした表情を浮かべながら彼へと言葉を投げかける。

「まだまだ…足りないみたいですね、俊彦様♥綾音に隠し事はできませんよ?うふふ♥」
「ふぅっ!はぁっ!くぅ…つはっ!」
「我慢は身体に毒でございます…くすくす…♥」

しゅるしゅると、彼女の身体が彼から離れ、彼を自由にする。
それは昨日の洞穴の中と同じ状況だった。
彼女は自分の秘所を手で広げている。だが、それをどうするかは彼自身に決断させるのだ。
だが、彼の中にはまだ迷いがあった。小さく残った理性が、最後の踏ん切りを拒む。

「だめ…だっ!某は…!」
「ふふ…ほぉら…♥俊彦様、よぉく…見てください。俊彦様だけが、好きにしていいんです…♥」
「ううぅっ…!ああぁっ!」
「綾音の、手も、胸も。…くすくす♥唇も、ココも、全部…俊彦様だけのものです♥」

彼女の言葉にも毒があるのではないか、そう錯覚するほどに、彼女の一言一言が彼の理性を溶かしていく。
外と内から、彼のことを蝕む彼女の毒が、彼を二度と引き返せない道へと導いていく。
もはや彼に抗う術などなかった。
乱れた息のまま、彼は彼女に近づくとそのまま彼女が広げる秘所へ己の肉棒を挿入する。

「ん…くふぅぅんっ♥」
「ぬ…ぐ…ああぁぁ…あや…っ!」

入れた瞬間、彼の肉棒から放たれる精子を、彼女は一滴たりとも零すこと無く受け入れる。
決定的な何かが彼の中で崩れ去り、同時に彼女へと力なく抱きつく。
堰が壊れたかのように、ビュルビュルと放たれる精子に、二人共恍惚とした表情を浮かべる。

「俊彦様の精子…♥はふぅ…綾音への愛…くふふ…一杯、いぃっぱい出てますよぉ♥」

蕩けた表情を浮かべながら、彼女は嬉しそうに彼を再び抱き返す。
身体全てを使って、彼を離れない様にぎゅっと抱き締めると、未だ射精を続ける彼を抱きしめたままそっと耳元で囁く。

「さぁ…俊彦様♥んふふ…帰りましょう…私達の、愛の巣へ…♥♥」

彼はそれに頷くことはなかった。だが、彼は彼女をぎゅっと抱きしめたまま、その力を弱めることはなかった。
暗い闇に包まれた町から、1つの影が出ていったことを、誰も知ることはなかった。





暗い深淵が広がるそこで、終わることのない水音が、喘ぐ声が響き渡る。
ぐちゅぬちゅふゅぷ、と何度も何度も繰り返し響き渡る。
完全な暗闇でなかったのは、彼女から溢れ出る魔力に反応してぼんやりとした灯りを放つ鉱石のおかげだった。

「綾音…殿…また、出っ…」
「くすくす♥そんなことを言わなくても、んんっ…いつでも、出して下さいませ♥」

ビュルル、ビュグ、ビュクンッと彼の肉棒が跳ね、彼女の中へと大量の精子を放つ。
もはや昼か夜か、夏なのか冬なのか、それすらも分からなくなるほどに、ただひとつのことを繰り返し行っていた。
一度射精しても彼女は決して離すことはなかった。
彼の精子で腹部が膨れ、まるで妊娠をしているかのような状態になっても、彼の肉棒を離さない。
むしろ、彼が出す度にもっと、もっとと言わんばかりに、彼の肉棒を締め付け、擦り上げ、搾り取る。

「うふふ…あはは♥足りません…まだ綾音は満足できません、俊彦様♥…もっと…綾音に愛を…♥」
「あや…ね、綾音…綾音ぇ…」
「あぁ♥もっと出して下さい、もっと呼んでください♥俊彦様…♥んん…ちゅ…れぅ…」

穴の空いた容器に水を注ぎ込むように、底なしの欲望を満たすために彼女は決して彼を離すことはない。
それがたとえ、彼との口づけで身体中が彼と同じ快感に支配されていようとも。

「んむぅ、ちゅ、ぢゅぅ…んぱぁ…はぁっ…うふふ♥だめぇ…抑えれないですぅ…♥」

甘えるかのように、彼の身体にぎゅっと抱きつき、何度も、何度も口内の、首元の、尻尾の顎肢を彼に突き刺す。

「はむ、ちゅる、んむ…れぉ…あぷ…♥あぁっ、すごいぃ♥俊彦様の、愛を、感じてっ♥」
「はぐっ…っ…あ、やね…あやね…あああぁぁっ」

快感神経がむき出しになったかのような状態の肉棒を、彼女の膣内が蠢き、腰を動かし、更に快感を与える。
終わることのない、快楽地獄とも呼べるようなこの中で、彼女は狂気を孕んだ、嬉しそうで、幸せそうな笑顔を浮かべていた。
彼もまた、彼女と同じ笑みを浮かべていた。

彼は選んだのだから。
彼が選択をしたのだから。
だから彼に後悔などあるはずがない。
彼女を抱き締める彼の手は、彼の意思で力が込められていた
17/04/28 20:05更新 / クヴァロス

■作者メッセージ
如何でしたでしょうか?
私の思うヤンデレを書いてみましたが、ヤンデレになれていたでしょうか?


個人的にですがヤンデレに一度でいいから愛されてみたいですね。
一度愛されたらそれが最後になりそうですが。

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