読切小説
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バレンタインは終わらない、話
「ハァハァ」

 僕は走っていた。
 なぜ走っているか、それは追われているからだ。
 それは誰に?相手は人間じゃない。
 いや、ある意味人間じゃなくて良かったと人によっては思えるだろう。
 しかし、今の僕にはそう思えない。
 なぜなら

 ダダダダダダッ!

 武装した魔物娘がマシンガンで僕を撃ってくるからだ!

「そっちに逃げたぞぉ〜」
「逃がさないわよ、ダーリン」
「私の気持ち、受け取ってぇ〜!」

 この地域一帯は戦場だ。
 一方的な虐殺、いや、告白が繰り広がれている。
 僕は今、銃声が鳴り響く住宅街を必死に走り抜けていた。
 次々にチョコまみれにされ、お持ち帰りされる男達を横目に、右へ、左へ、できるだけ直線を走らないように走る。
 口は固く閉じ、流れ弾が、魔物娘の思いと魔力が詰まった手作りチョコの弾丸が口に入らないようにする。
 むやみに口など開けていたりすると……

「さぁ、お・い・つ・め・た」
「ひ、ひぃ〜」
「そんなに怖がることないじゃない。ほら、あ〜ん」

 ターン!

 このように銃口をを口向けられ、チョコの弾丸をお口にダイレクトアタックされてしまうのだ。

 魔物娘が使っている銃は音は大きいが、弾丸の威力は余りない。
 発射された時の熱でチョコも溶けているので、当たっても痛くないのだ。
 感覚的には水鉄砲で溶けたチョコをBUKKAKEられたような感じかな?
 実際僕も何発かの流れ弾に当たったが、服が汚れた以外は全くの無傷だ。

 そんなことよりも今はチョコを口に打ち込まれた男性の方である。
 実はこれで終わりではない、むしろここからが『本番』だ。

「ふふ、食べたわね?食べちゃったわね?」
「うぐっ、うぐ?」
「さぁ、わたしの気持ち、う・け・と・っ・て!」

 バザァ!

「う、うほぉ〜〜!」

 ブシャ!と同胞の鼻から鼻血が吹き出す。
 また一人犠牲者、いや、カップルが成立してしまった。
 チョコを食べさせた魔物娘はその場で服を脱ぎ捨て、勝負下着と丸分かりの派手な姿になり、この日のために考えに考え抜いたであろう悩殺ポーズを男性の目の前でした。
 その破壊力は魔物娘の周りにハートマークが浮かび上っているように見えるほどである。
 それがどうしたと思われただろうか?
 だか、そのポーズがいけないのだ。

 チョコの原料であるカカオ豆には弱いながらも興奮作用があり、媚薬とも言われているミネラルが豊富な増血作用のある食品だ。
 そんなチョコを魔物娘が本気で作ったらどうなるか?
 当然、魔ごころの詰まった立派な媚薬に仕上がってしまだろう。
 さらに男性達は走っているのだ。
 心臓バクバクで全身の血の流れも早くなっている。
 そんな男性達に媚薬チョコレートを食べさせるとどうなる?
 当然興奮状態になってしまうし、人によっては鼻血を吹き出す人もいる。
 そして、目の前に半裸の美女が誘ってきたら、……もうおわかりだろう。
 魔物娘が追わずとも男性の方から飛びついてきてくれるのだ。

 つまり、

『チョコを食べさせ告白をする → 相手は惚れる!』

 と、このような恐ろしい結果になってしまうのだよ!

 僕がその事実に気づいたのは、つい先ほど一緒に逃げていた男性が彼女持ちになってしまった現場をポリバケツに隠れながら観察していたからだ。
 興奮した男性は魔物娘に連れられ近くの民家の中へ入っていった。
 そのすぐ後、家の中から 「しゅきぃ〜!だいじゅきぃでしゅ〜!」 と大声で叫ぶ男性の声を聞いてしまった。
 彼は確実に惚れてしまったのだろう。


 そして今、先ほどお持ち帰り確定になった男性も魔物娘と一緒に近くの民家の中へ消えていった。
 残ったのは壁や道路に飛び散ったチョコレートと、男性が流した少量の鼻血。
 鼻血のバレンタインとはこのことだろうか?

「あっ、見つけたぁ!」
「なにぃ?!まだ生き残りがいたのか!」
「美味しく食べてあげますからねぇ〜」

 クソッ、もう見つかった!
 また別の殺害現場、もといダイナミック告白の現場に隠れるしかない。
 なぜか武装した魔物娘達は告白現場へ近づいてこない。
 彼女達なりのエチケットなのか、横取りをさせないためのルールなのかはわからないが、とにかくそこへ逃げ込めば一時的に隠れることができるのだ。
 しかし告白の時間も長くて数十秒で終わってしまうため余り長い間は隠れることができない。
 家の中へ隠れることも考えたが、見えない壁みたいなものが邪魔して庭にすら入れない。
 なので今は少しの休憩を取りつつ魔物娘から逃げ続けるしかない。
 なんでこうなってしまったんだろうか。
 それは1時間前まで遡る。

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「申し訳ございません。売り切れてしまいまして」

「そ、そうですか……」

 その日、僕はバレンタインが過ぎて安くなったチョコを買いに来ていた。
 クリスマスやバレンタインといったイベントが過ぎた後に必ず残る在庫の菓子、それをできるだけ多く処分するためにケーキやチョコなどは安くなる。
 スイーツ好きな僕はそれを狙っていつもは手が出せないお高いチョコを買おうとしたのだが、既に売り切れていた。
 確かにバレンタインから数日が過ぎたが、いくらなんでも売り切れているとは予想してなかった。
 まぁお高いチョコだし、数が少なかったこともあり、スイーツ好きの女子達にみんな持って行かれたのかもしれない。

「しかない、気を取り直して別の店に行こう」

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「申し訳ございません」
「もう売り切れてしまいまして」
「次回の入荷もわかってない状態でして」

「どういうことだ」

 最初のお店を出た後、チョコの品質をワンランク下げてデパートで売っているチョコを買いに行ってみたのだが、全て売り切れ。
 その後も思いつく限りのチョコを扱っているお店やデパート、コンビニ、果ては駄菓子屋で足を伸ばしてみたが、チョコ○ットですら売り切れという状態だった。

「クソッ、どこのどいつだ!僕からチョコを奪ったのは!」

 あれだけ探しても見つからないのだ、きっと大富豪の娘か何かがダイナミック大人買いをしたに違いない!
 腹立たしいが、今日は諦めて大手通販サイトの密林でチョコを購入しよう。
 流石に全国のチョコが無くなっているわけじゃないだろうし。

「そうと決まればさっさと家に帰るか!……おや?」

「お願いしまーす!」
「美味しいですよー!」
「お一ついかがですかー?」

 駅前の人通りが多い店の前で数名の魔物娘が試食販売をしている。
 あの店は確か、魔女が経営している薬屋『魔法屋サバト』だったはず。
 なんで薬屋が食べ物の試食をしてるんだ?
 それに、店の前は人だかりができていて何を販売しているのかわからない。

「おお!チョコだよ、女の子からもらったチョコだ!」

「数日遅れのバレンタインだな!俺、初めて美少女からチョコもらったよ!」


 なんだと?!
 試食販売の商品は僕が今日、血眼になって探していたチョコだと言ううのか?
 こうしてはいられない!

「すいませ〜ん、僕にもチョコくださ〜い!」

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「申し訳ございません。ここではチョコは販売していないのですよ」

「そ、そんなぁ〜」

 試食コーナーでチョコを配っていた魔女さんに商品の値段を聞いたところ、驚いてとこにチョコを販売しているのではなく、イベントの告知でチョコを配っていることがわかった。
 かなり期待していたので落胆も大きい。、

「でもでもっ、このイベントに参加してくださればチョコが食べ放題ですよっ!ここよりもっと美味しいチョコが盛りだくさんですっ!」

「今すぐ参加します!」

「即答ですか。まぁ、こちらとしてもその方が都合がいいのですが。このチラシに書かれた参加条件を確認した上で名前を記入してください。説明をよく読み、よく考えてから参加くださいねっ!」

「はいはい、星宮 一楼(ホシミヤ イチロウ)っと」

「もう書いてる!ですからっ、よく考えてっ……」

 バシュン!

「……え?」

 ダダダダダダダ!

 ギャーー!

 ターン! 

 ヒィィイイイイイ!!

 魔女さんの忠告も聞かず、参加条件だけ読んで名前を記入した瞬間、青白い光に包まれ、気がつくと、銃声と悲鳴が聞こえる、茶色いドロッと物が飛び散ったコンクリートの壁と、アスファルトの道がどこまでも続く住宅街にいた。

「な、なんだここは?一体何が」

「伏せろぉ!!」

「へ?」

 キュン! ビチャッ……

 今、何かが顔の横をかすって後ろの壁にビチャっと当たった。
 え?今、僕は撃たれたのか?

「何をしている!こっちだ!」

「え?ちょっ、どうゆうこと?!」

 僕は住宅街の曲がり角から現れたメガネの男性に腕を掴まれ、細長い道へ連れて行かれた。

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           魔物娘専門マッチングサイト
      『魔物娘といっしょ!ザ・デットオアラブ!!』


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 魔物娘による手作りチョコを食べてみたいと思いませんか?
 バレンタイン当日のスタートダッシュに遅れた魔物娘達が嫉妬と執念で作り上げた手作りチョコをあなたのお口にシューッ!
 超エキサンティングな味を味わってください!

参加するには以下の条件がございます。

一つ、男性であること
一つ、独身であり、付き合っている彼女、並びに好きな女性がいないこと
一つ、(※重要)今年のバレンタイン当日、お母さん以外の女性からチョコを一つももらえなかったこと


 以上の条件を満たす男性は以下の記入欄に名前を記入ください。

(※注)
 なお、一度参加すると『カップル成立』するまで会場から出られません。
 よくお考えの上、ふるってご参加ください。

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「え?要するに魔物娘とカップルにならなきゃここから帰れないってことですか?」

「その通りだ。俺もこのチラシを見たときは、ただたんに魔物娘からチョコ貰ってリア充になるもんだと思っていた。しかし、蓋を開けてみたらこれだ!
 武装した魔物娘に追われ、撃たれ、口いっぱいにチョコを頬張らさせられ、食わせられ、お持ち帰りされる!」

 あのあと、目の前にいるメガネの男性に連れられ、人目につかない細長い道まで移動した。
 試食販売でもらったチラシを読みながらメガネの男性の話しを聞き、今僕が置かれている状況を理解することにする。

「いいことじゃないですか。チョコがたくさんもらえるんでしょ?」

「これのどこがいいことなんだ!
 いいか?俺の友人はセイレーンにチョコをもらうはずだった。しかし、チョコを食べさせたのはサンダーバードだ!
 ゴブリン好きだった奴はホブゴブリンにチョコを食わされ、インプ好きだった奴はアークインプにチョコを食わされた!
 一番ひどかったのはバイコーン好きだった奴がユニコーンにチョコを食わされたことだ!」

「え?ほとんど同じ魔物のような気がしますが」

「全然違う!!」

 感情が高ぶったメガネの男性が地面を強く叩く。

「ゴブリンとホブゴブリンは全然違う!ちっぱい胸とおっきい胸ほどの違いがあるんだ!
 セイレーンの歌はJ-POPだが、サンダーバードの歌はロックだ!
 インプは扱いやすいが、アークインプは尻に敷かれる!
 何より!バイコーンはハーレムを作るが、ユニコーンは完全に一筋だ!浮気など絶対に許さん!」

 いや、浮気はどの魔物娘でも許しちゃいけないでしょ。

「まぁまぁ。それで、チョコを食べさせられてお持ち帰りされたんですよね?
 お持ち帰りされることなんてこのイベントに参加した時からわかりきってたはずです。
 なんでそんなに怒ってるんですか?」

「ただ魔物娘からチョコを食わされ、お持ち帰りされるだけなら、『あ、コイツモテんだな。末永く爆発してればいいと思うよ』と思うだけだった。
 しかし!チョコを食べた奴らは全て、……チョコを食わせた魔物娘にメロメロになっちまったんだよ」

「…………はぁ?」

「もっと詳しく言うと、魔物娘に飛びかかったんだ。
 あれだけ自分の嫁である1種族を愛していた男達が、興奮した獣のように別の種族の魔物娘を襲ったんだよ!」

「……あの、よくわからないのですが」

「だからっ、シッ!…………近くまで来ている。移動しよう」

「は、はい」

 僕たちは長細い道のさらに奥まで移動した。
 相変わらず銃声と悲鳴は聞こえていたが、これまで聞く内容からすると命の危険はなさそうなので気にしないようにしている。

「さて、ここら辺なら安全そうだな。追ってくる様子もないし、周辺に魔物娘の気配もない」

「……はぁ」

 訓練された人なのかな?気配とか言ってるし。

「話しの続きだが、奴らのチョコは危ない。
 もし魔物娘が出会ったら口だけは死守しろ。体に当たっても害は無いが、口に入ったら終わりだ。
 もし好きな種族がいるなら、その種族の前にだけ口を開けろ。でないと……」

「でないと、どうなるのかしら?」

「なっ?!」

 話に夢中になっていてメガネの男性の背後に近づいた魔物娘、灰色の迷彩服に重装備のダークエルフに気がつかなかった。
 気配はないんじゃなかったのか?!
 ショットガンみたいな銃を両手で持ち、銃口をこちらに向けていつでも撃てるように構えている。

「ヒドイじゃない、あれだけラブアピールしているのに見向きもしないなんて。少し寂しくなっちゃった」


「っは!俺はエルフ好きなんでね。どうしても振り向いて欲しかったら美白でもしてくれよ」

 狙われているメガネの男性はゆっくりと両手を頭の後ろに回し、ダークエルフの方へ振り向く。
 メガネの男性から大量の汗が滝のように流れているので、どうやら僕たちはピンチになっているらしい。
 まぁ、命は取られないので僕は自然体でいるけれど。

「それでも、覚悟は出来たんでしょ?」

「ああ、この至近距離で打たれたら避けられる自身がない」

 あれ?このメガネの人、なんでさっきから喋ってんの?
 さっき自分から口は死守しろって言ったばかりだよね?
 なに?あのダークエルフに惚れてんの?

「それがわかってるなら早く私の夫になりなさい。毎晩可愛がってアゲルから」

「それも悪くないな」

 いいのかよっ!

「でもな、夫になる男の願い事の一つくらい叶えてくれてもいいんじゃないか?」

「何かしら、願い事によっては叶えられないわね」

「なに、簡単なことさ。こいつを見逃してくれ、頼む!」

 その場で土下座をするメガネの男性。
 その姿からは必死な思いが伝わってくる。
 てかメガネさん、なんで僕のことを守ろうとするですか?
 無駄に熱いんですけど。

「ふふ、いいわよ、見逃してあげる。もともとあなたしか興味ないもの」

「そうか、ありがとう。おい新入り!そのポリバケツの中からよ〜く見ておけ!これが、チョコを食わされた、男の姿だ!」

 気づかれないように、そ〜っと新品らしきポリバケツの中に隠れたつもりだったが、しっかりバレてましたか。
 メガネの人、一切こっちを見なかったくせに、よくポリバケツに隠れたことがわかったな。
 ホントに気配とかわかるんじゃないか?

「さて、男臭いお別れはここまでね。覚悟はいい?」

「ああ、いつでも来い!」

「ふふ、素直なあなたも素敵よ。は〜い、お口開けてぇ〜」

 ガチャン!

 チョコの弾丸の入ったショットガンの銃口がメガネの人の口に向けられる。

 や、やめてくれ。その人はただ、(おそらく)チョコが欲しかっただけなんだ!
 エルフのチョコが、(たぶん)食べたかっただけなんだよ!

 徐々に引き金にかかった指に力が込めれ、そして

「バイバイ、愛しい抵抗者さん。逃げるあなたも、嫌いじゃなかったわ」

 ターン!

 ピピッ!と壁や道路に散弾したチョコが飛び散る。
 直撃を食らったメガネの人の顔面は溶けたチョコがべっとりとついていた。

「メガネー!!」

 僕はメガネに駆け寄った。
 その表情は今まで緊張と緊迫したものではなく、恍惚とした緩みきった顔になっていた。

「グフッ。ははは、俺はやっぱり、Mだったんだな。撃たれる瞬間、体中がゾクゾクしたよ(ハァハァ」

 え?だったら普通にダークエルフで良かったじゃん。

「でも、一度でいいからエルフの本気の蔑んだ目で、俺を、見て、欲しかった、な」

 プレイじゃなくて本気の罵倒を望んでたぁー!
 ダメだこの人、本物のMだ。
 プレイと日常のメリハリを誰かこの人に教えてあげて!

「じゃあアナタ、約束通り私の夫になってね!」

 いつの間着替えたのだろうか?
 ダークエルフさんは灰色の迷彩服に重装備の格好からSM女王様のようなボンテージ姿になっていた。
 メガネを起こし、肩を貸す。

「はは、お手柔らかに」

「ホントに手加減していいの?」

「すいません!もっと激しくお願いしますっ!!」

「ふふふ、素直でよろしい!」

 ズルズルと引きずられるメガネとダークエルフが近くの民家に入っていった。
 願わくば、公共の場でM男になってくれるなと願うばかりだ。

「しゅきぃ〜!だいじゅきぃでしゅ〜!」

 あ、これ完全に惚れたな。

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 そんなこんなで魔物娘から逃げて10分は経っただろうか?
 別に逃げなくてもいいんだけど、銃に撃たれるってことが生理的に嫌なのでなんとなく逃げている。
 それに、好きでもない女性に無理やり好きにされるのも嫌だったし。

「ハァハァ、次はどこへ隠れようかな」

 僕は相変わらす住宅街の角を左へ、右へと走っていた。
 犠牲者がいるからには魔物娘の数も減っているはずなのだが、どちらの数も減っているように見えない。
 むしろ増えてるように思える。
 おかげで隠れ場所に困らないわけだが、少し複雑な気分だ。

「ハァハァ。お、あそこで妖狐がいる辺りがいいかな。周りにいる魔物娘も散ってきたようだし」

 10mほど先で男性が妖狐に襲われている。
 そろそろ疲れてきたので、あそこで一休みさせてもらおう。
 そう思い、妖狐の周辺を離れる魔物娘に鉢合わせないよう、少し遠回りをするために角を通ろうとした時だった。

 ドンッ!

「キャッ!」

「うわっ!」

 いきなり現れた誰かにぶつかってしまった。
 僕はたまらず尻餅をついてしまったい、相手も同じように尻餅をついたようだ。
 追ってきた魔物娘だろうか?

「いったぁ〜。あ、一楼くん!よかったぁ、見つかって」

「イタタ。ってあれ、なんで節実(ふしみ)さんがここに?」

 ぶつかったのは同じ高校のクラスメイト。
 隣の席に座っている節実 綾女(ふしみ あやめ)さんだった。
 うちの高校は人間だけなので、彼女は魔物娘じゃない。
 そんな彼女はなぜこんなことろに?

「あ、えっとね、なんて説明したらいいか」

「……もしかして、チョコに目がくらんで、男じゃないのに参加しちゃったの?」

「えっ?!……う、うんそうっ!チョコが欲しくって参加しちゃった。あはははは」

「やっぱりそうか。節実さんもスイーツ好きだからなぁ」

 節実さんは僕と同じスイーツ好きの仲間だ。
 よくお菓子の話題で盛り上がる。
 しかし、バンレンタイン当日から風邪で学校を休んでいた。
 心配だったので毎日お見舞いに行ったが、いつも寝込んでると言われ会えなかったのだ。
 そんな節実さんがなぜここに?
 体の方は大丈夫なのだろうか?

「男ぉ〜、男はどこだぁ〜」

 近くで魔物娘がの声がする。
 今は余計な心配をしてる場合じゃない!

「とにかくここは危ないよ。早く安全な所へ!」

「う、うん。……って安全な所ってそっち?だ、ダメだよぉ!」

 僕は節実さんの腕を掴んで、男に迫る妖狐の所へ向かおうとしたのだが、
やっぱり女性だからだろうか、恥ずかしがってその場から動こうとしない。
 両足で踏ん張っているので、ズルズルと引きずりながら移動する。

「気持ちはわかるよ。でも、今のあそこが一番安全なんだ!」

「そうは言ったって、あの妖狐の魔物娘は下着姿じゃない!それもかなりエグイ下着だし、私たち高校生にはまだ早いと思うの!」

「そうは言っても、実際あそこが安全なんだ!急がないと安全地帯がなくなっちゃうよ!」

「なくなってもいいわよ!あんな恥ずかしい所に行くくらいなら魔物娘に追いかけられた方がマシ!」

「そうは言っても……」

 ピンポンパンポーン!

『25分が経過しました、あと5分でイベントが終了いたします。夫を手に入れていいない魔物娘の皆さんは急ぎ旦那様をゲットし、近くの民家へ入ってください。
繰り返します。
25分が経過しました、あと5分でイベント終了いたします。夫を手に入れていいない魔物娘の皆さんは急ぎ旦那様をゲットし、近くの民家へ入ってください』

 ピンポンパンポン

 突然聞こえてきた放送。
 なんだかわからないがこのイベントもあと5分で終わるそうだ。
 うん?後5分で終了、……ってことはもう少し粘ればここから出られるかもしれないってことか?!

「急ごう節実さん。どっちにしろ何処かへ隠れないと捕まってしまう」

「う、うん。そうだね」

 僕は節実さんの手を引いて、薄暗い路地裏へ向かった。

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「どこだどこだぁ〜?」
「旦那様ぁ〜、隠れてないで出てきてくださいよぉ〜」
「いったいどこに……おやぁ?そこにいるのは誰かなぁ?」
「ひぃっ!」

 どうやら魔物娘達も最後のラストスパートをかけてきたようだ。
 さっきから銃声の音と男性の悲鳴、ドアを閉める音がたくさん聞こえる。

「だ、大丈夫かな?こんな所に隠れて見つからない?」

「たぶん、大丈夫たど思うよ」

 僕たちは大人二人分が入れる大きなダンボールの中に隠れていた。
 どこをどう走っても魔物娘だらけなので安易だとは思うがここに隠れることにしたのだ。

「あと何分だろ?3分はたったかな?」

 僕は携帯電話を取り出し、時間を確認した。

「いや、2分ちょっとだよ」

「え、たったそれだけ?もっと経ってるかと思ってた」

「そう言われても、シッ!………………誰かが近くまで来ている。できるだけ音を立てないで」

「う、うんっ!」

 どこかデジャブな様な気がするが、今は近くまで来ている魔物娘のほうをなんとかしないといけない。
 長い間神経を尖らせてると気配とかが感じられるんだよね。
 なんとなくだが、どこに魔物娘がいるかわかるような気がする。

「クンクン。こっちから男の匂いがするよ!」
「マジか!よし、俺たちは後ろに回るから前は任せたぞ!」
「わかった、そっちもヘマするんじゃないよ!」
「当たり前さ、結婚式でまた会おうぜ姉妹!」

 クソっ、どうやらこちらの隠れ場所の見当がついてしまったようだ。
 今は節実さんがいるから早く走れないし、どうしたものか。

「ど、どうしよう一楼くん。ここにいたら見つかっちゃうよ!」

 そりゃそうだけど、先ほどの魔物娘達の気配が全ての退路が塞いでてしまっている。
 こうなったら最悪の場合、僕が囮になって節実さんだけでも逃がさないと!

「節実さん、僕が飛び出して魔物娘をおびき寄せるから、隙を見て逃げてくれない?」

「ええっ?!本気なの一楼くん!」

「うん。ホントはずっとそばにいたいけど、そうも言ってられない状況だし。節実さんだけでも逃げてくれればいいかなって」

「……どうしても、一緒じゃ、ダメ?」

「そうだね、一緒に逃げるのはキツイと思う。だけどあと2分30秒逃げ切れば助かる訳だし、ここは全滅するより一人だけでも生き残って……」

 カチャッ

「……え?」

 ゆっくりと、音をした方を振り向くと、銃をもった節実さんがいた。
 その銃口は僕の口にぴったりと当てられている。

「ごめんね、でも、どうしても一楼くんを取られたくないの」

「どう、して」

 どうして節実さんが銃を持っているんだ?
 なんで僕に向かって銃を向けるんだ?

「一楼くんは、口下手な私に気さくに話しかけてくれてくれたよね。
 それに優しくて、お菓子のことなら何でも知ってて……いつの間にか好きになってて……
 ……私の初恋だったんだよ……初恋は実らないって聞くけど、どうしても諦めきれなくて、……
 ……誰かに取られるのがどうしても怖くて、……
 ……だからっ!」

 ……節実さん、泣いてるのかな?
 僕の前ではいつも笑顔だった節実さんが。
 そういえば

「大好きだよ、一楼くん」

 ターン!

 口に広がるビターチョコ。
 僕好みの甘さ控えめの味だ。
 ああ、そうか。僕はわかってしまった。
 先ほどから気になっていた節実さんの頭には、青白い炎の獣耳が見えたり消えたりしていたんだ。
 気のせいだと思ってたけど、なるほど納得した。
 節実さんは狐憑きになってしまったのか。
 父親の再婚相手が稲荷だって言ってたな。
 ……もしかして、今まで休んでた理由って、……もしかして……。

 撃たれた僕と撃った節実さんは青白い光に包まれ、
 どこかへ転送されてしまった。

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「ふぅ、なんとか間に合ったようじゃの」

「そうですね。今回は会場に転送された直後に恋人申請がきましたからね。こんなイレギュラーはそうそうありませんよ」

 このイベントの会場が一望できるモニタールームにバフォメットと魔女がいた。
 この二人は「魔物娘専門マッチングサイト『魔物娘といっしょ!』」を経営している責任者とスタッフだ。
 ある意味、恋のキューピット、別のいい方をすると恋の狩人を育成をしている。

「しかし、バレンタイン当日のイベントは大いに成功したとゆうに、なぜこのようなことになったのじゃ?」

「それがですね、バレンタインの翌日に『イベントに参加すればよかった』、『友人に先を越された』、『自分で作った友チョコがしょっぱかった』などの不満に持った魔物娘達が抗議に出まして。我が組織にもそのような思いをした者もいたことから男狩りが始まる前に、このイベントで旦那様をゲットしてもらうと」

「苦肉の策じゃったようじゃの」

「ええ、ですがそれ以外にも問題が。本来、こちらが仕入れた売れ残りチョコが無くなり次第イベントを終了するはずだったのですが、参加者の魔物娘が街中の売れ残りのチョコをかき集めたため、今日まで長引いてしまいまして」

「苦労をかけるの。しかし、参加した魔物娘はチョコが惚れ薬のように勘違いしておるようじゃな。まったく何を考えとるのか。……しかし、材料は自分の魔力とチョコだけじゃからのぉ。チョコとそれに込めた魔力だけでは相手を惚れさせることなどできんし。精々、気になる程度じゃろうて」

「あれ、怒ってます?」

「怒とりゃせんよ。それに、あそこまで努力した彼女達を見とるゆえ、怒るに怒れんしの」

「やさしいのですね」

「ただたんに哀れんどるだけじゃよ。努力して、努力して、その努力がムダとなるのは嫌なだけじゃ」

「そうはいいますが、ビラを配ろうと言い出したのはどこの誰でしたっけ?」

「誰じゃったなぁ。この頃年で物忘れがひどくなっての、忘れてしもうたわい」

「そういえばそうですね。あ、節実さん達が帰ってきましたよ。早速お祝いしましょう」

「そうじゃな、新たな若者を祝福してやるとしようかの」

 スイーツ好きの男性がチョコを求めて魔物娘だらけのイベントに参加した直後、非番の彼女らに古い友人から仕事の依頼が来た。
 なんでも、再婚した夫の娘が魔物化してしまったため、今いる高校から転校しなければならくなったらしい。
 その高校には片思いの男性がおり、転校前に告白をさせてやりたい、という依頼だった。
 早速その片思いの男性を探した結果、今行われているイベントに参加していることがわかった。
 無理やりその男性を助け出してもいいが、特別扱いを一人でもするとイベントに参加している魔物娘が不満を爆発させ、今度こそ街中で男狩りが行なわれるかもしれない。
 そこで苦渋の選択として、稲荷の娘をイベントに参加させ、片思いの男性を手に入れてもらおう、ということになったのだ。

 そして見事男性を勝ち取った稲荷の娘と男性を包んだ青白い光がモニターから消え、別の部屋を写したモニターに青白い光りが現れた。
 その光の中には、青い炎で出来た狐耳と尻尾をピンッと立て、真っ赤になった稲荷の娘と、その娘を両腕で抱きしめ、唇にキスをしている男性がいた。
 さて、若いカップルを祝福しよう。
 二人の幼女はモニタールームから出て行き、初々しいカップルがいる部屋に向かうことにした。。

「そういえばバフォ様。旦那さんにはチョコ渡しました?」

「うむ、お高いチョコをもろうたぞ!」

「そ、そうですか」
14/08/08 22:28更新 / バスタイム

■作者メッセージ
 どうも、投稿が遅いバスタイムです。

 バレンタインSSをバレンタイン当日に書き始めたため、思ったよりも日数が経ってしまいました。
 バレンタイン当日に投稿できなかったし、このネタは寝かそうかな?と思っていたのですが、去年のクリスマスの翌日に結構お高いチョコケーキを食べたなぁ、と思いだし、そういやあれ、売れ残り商品だったっけ?ならバレンタイン終わってもバレンタインチョコもまだ売ってるよね!てなことを思いつきまして。
 そこから、売れ残ったチョコがある限りバレンタインは完全に終わっていない、私たちの戦いはこれからだ!的なノリでモブの魔物娘を出させていただきました。
 主人公をスイーツ好きにしたのも売れ残りのチョコを強調させたかったためです。

 そこから右往左往するうちに今のSSに出来上がった次第です。
節実ちゃんの告白のセリフはアンノウンさんに手伝ってもらい、なんとか出来上がりました。


 誤字脱字、背景描写などの技術不足が目立つと思いますが、楽しんでいただいたら幸いです。
 ここまで読んでくださった方々とセリフを手伝ってくださったアンノウンさんに感謝します。
 間違いだらけのSSや文章かと思いますが、これからもよろしくお願いします。

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