連載小説
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目覚ましの咆哮
ヴォォォォォォォォン

 無機質の通路に響き渡る微量の振動音。その道を歩く一人の若い男性。歩き向かう先に<司令室>と書かれたドアがあり、彼が近づくとドアが左右に開いた。気にせず歩いて中に入る。

 室内には二人の先客がいた。一人は椅子に座り、もう一人はその横で立っていた。立っている者は身長が高めで入って来た男とほぼ違いの無い体格。白肌に金髪の若い男性だ。

 その横の椅子に座っている者は白衣を着て、いかにも研究者らしい格好で小柄。見た目は背の低い少年だ。彼も白肌で金髪だが少し長め。メガネもかけている。

 入室した男性は二人に近づき左手を腰に当てる。

「調子はどうだ?」
「現状では艦に問題はありません。予定通りの北へ速度減少なく航行中」

 入室した男に答えたのは立っている男だ。彼は丁寧に質問に答えた。

「でも景色は最悪だね」

 愚痴をこぼしたのは白衣の少年だ。彼の言った言葉に反応し、質問した彼が視線をある先に向けた。

 先ほどのドアの反対に位置する向かい側に横幅に広いガラス窓があった。そして、窓の向こうの先には外の景色が映っていた。

 一面<砂色>。外は砂粒が無数に飛び、視界のほとんどが効かない状態だった。

「砂嵐と渦巻いて動かない積乱雲じゃ何も見えん。GPSと障害探知レーダーだけで進んでいるのが奇跡だよ」

 またもや愚痴がこぼれる。

「まあ、外にすら出られない環境だからな。今、頼りになるのはこの艦を熟知しているドクターと端末操作するレックスだけ」
「随分他人任せだね?イーグル。・・・隊長でしょ」
「この部隊を管理しているドクターに言われたくないな」

 腰に手を当てている男性。通称 『イーグル』 長髪の中黄人。階級は少佐と高めだが、19歳である。背中に長銃が背負われている。射撃率が高いため、狙撃隊員をしている。

 ドクターと言われた少年。通称『エスタ』金髪の白西人。技術研究者であるが、研究分野は幅広く、医療・兵器技術・機械操作・技術開発など。年齢は12歳だが、すでに大学を卒業した天才少年だ。

「あんまりレックスにも頼らないでよ。大事な助手なんだから」
「解っている。ドクターの作った傑作の一つだからな」

 少年の横にいる金髪の男性。 通称『レックス』少年が完成させた人工知能搭載の人型ロボット。超合金の骨格で様々な機能を搭載。見た目は男性の姿に見えるが実はナノマシン制御の液体金属で覆われ、擬態モードで自身にあった体型の人間に変身できる。

「ドクター」
「ん?どうした?」
「未確認のエネルギー反応を感知。位置はここから現在10キロ先」
「艦停止!それと総員召集して!」

 少年は即座に指示し、端末を操作し始める。横にいたイーグルも首を曲げ、端末の光学モニターを眺めた。

「“異形者”か?」
「少し待って・・・まだ分からないけど」
「艦停止。待機行動に移行。艦内警報及び召集案内をかけます」


 場所が変わってある個室。一人暮らしの部屋らしき室内のベットにある若者が一人熟睡していた。少し長めの黒髪で黄色肌。紺色シャツとパンツ1枚で眠っていた。寝心地はよく幸せそうな顔をしている。

ビィィィィィィィ!! ビィィィィィィィ!! ビィィィィィィィ!!

 突然、室内に響き渡る警報の音が鳴り響く。熟睡していた彼はたまらず跳び起きる。

「なっ!なんだぁ!目覚まし!?重量オーバー!?」

『緊急招集。総員、司令室へ。繰り返します。緊急招集。総員、司令室へ』

「やべっ!下着のまんまだ。着替えないとっ!」

 ベットから慌てて飛び出し、洋服棚を開ける。中から黒い半袖ジャケットと黒い指の無い革手袋、黒いカーゴズボンを取り出す。ズボンを履いていると通路へ出るドアの方から走り去っていく音が聞こえた。次に革手袋を装着し、ジャケットを片方ずつ通す。ジャケットの右肩にナイフを咥えた青いドラゴンのエンブレムが付いていた。

 服を着た後、ベットの横にある武器ボックスを開け、二丁の銃を取り出す。

 『L.B.Hand gun』

全長20cmの銃下部に同じく20cmの細長い光学刃発生装置が斜めについているエネルギー銃。それぞれのスイッチ一つでレーザー刃だけでなくシールドも展開。シールドは生体センサーにより、右手は右側に左手は左側に展開する。直径10mmの光弾をセミオートとフルオート可能。グリップ後部の交換可能なEパック一つで最大2時間稼働。

 取り出した銃を左右の太股のホルスターに入れてドアに向かう。が、そこで忘れ物に気付き、回れ右してベットに向かう。

(やばい、やばい。忘れるところだった)

 ベットの枕もとに青いバンダナが置いてある。彼はそれを手に取り、すばやく頭へ鉢巻きのように付けた。身支度が完了し、個室のドアをくぐり抜ける。長い通路を走り、司令室に向かった。

 バンダナの男が司令室に入るとそこには先ほどの者以外に三人の隊員がすでにいた。

「・・・遅いぞ」
「遅刻だぞ―。ラキ」
「や―い。遅刻」

 腕を組み、静かに話しかけた男は少々、大人びた黄色肌の青年。顔と腕に古傷が目立っていた。背中に50cmの剣のような柄のついた長方形を所持している。後ろ腰には彼と同じ『L.B.H』が一丁と太股にはペンのよう物が多数付いていた。

 バンダナの男に遅刻を指摘した黒肌の二人。顔、体格、服装がまるで鏡の如く、そっくりな少年達。二人はバンダナの彼と同じく、『L.B.H』を左右対称のように一人一丁ずつ所持していた。

 バンダナの男。通称『ラキ』少し長髪の中黄人。階級は少尉。18歳で若若しい青年でいたって普通の人と変わらない風格。遊撃隊員として様々な戦闘を経験。

「うっさい。ジェミニ達も遅れて走ってただろうが。どうせ先に居たのがブレード。あんただろう?」
「・・・そうだ」
「なんだい!こっちだって急ぎのセーブに手間取ってたんだよ!」
「そうだい!2時間分のRPGの苦労を無駄になんかしない!」

 指摘し合う中、長髪の男が近づき止める。

「止めんか、見っとも無い。それにラキ。お前の遅れた理由は何だ?」
「あ、イーグル・・・それは・・・その・・・」
「寝ていたのならお前が一番悪い。ジェミニを責めることは出来んな」
「・・・自業自得だな」
「うっさいぃぃぃ!」

 腕を組む男。通称『ブレード』短髪の中黄人。階級は中尉。年齢は22歳。接近戦を得意とし、近接兵器以外に体術も常人以上。敵陣に突っ込み撹乱する特攻隊員。

 そっくりの少年達。通称『ジェミニ』左利きが『レート』右利きが『ラート』双子でどちらも14歳。短髪の黒東人。遊撃隊員だが補給などの支援行動が多い。

「ようやく全員集まったね。全く、見ていて飽きないからいいけど・・・」

 エスタが椅子を回してこちらに向く。隣のレックスは手からプラグ出し、操作端末に刺していた。
「・・・それで。呼んだのは?」
「この先で謎のエネルギー反応を感知した。今、レックスと共に検証中・・・」
「・・・敵じゃないのか?」

 少し、不満げにブレードが尋ねる。

「確かに最初は“異形者”と思ったよ。でも、生体反応が全く無い状態でエネルギーのみ。生命体ではない別の何かを発見したんだ」
「随時観測中。該当するエネルギー反応は“異形者”のもつ生体エネルギーに酷似。反応は一つ」
「だそうだ」

 白衣の少年は詳細を語り、さらにレックスが調査した結果を報告する。

 <異形者> 人類に突如襲いかかった謎の生命体。何処から出現し、何故襲いかかって来るのか未だに不明。体内に異常な生体エネルギーを持っていることだけ確認されている。

「異形者じゃなかったら何なのぉ?」
「ゲームしに戻っていい?」
「この双子は・・・一応、政府が出現元を調査し該当したのがこの“アンノウンランド”だし・・・。此処最近、異形者に出会わないのもおかしいじゃないか?」

ラキの言う <アンノウンランド> 荒野地帯から続くさらに北にある大陸。
砂嵐と不動の暗雲に包まれた過酷な砂漠大陸。

「はぁ・・・政府もいい加減なことするものだな。たった7人の部隊“ドラグーン”にこんな戦艦を託して、異形者の出現場所を探せとはなぁ」
「異形者の出現場所の探索だけじゃなく破壊もあるのだけど・・・イーグル」

訂正を指摘するドクター。

 彼らは連合軍の実験強襲部隊 <ドラグーン> ある特殊な選抜により編成された部隊。
エンブレムはナイフを咥えた青いドラゴンの顔。服装は主に黒色が義務付けられている。

 活動して間もない頃、政府から指令を受け、全長80m高さ50mもある大型戦艦クリプトに乗り、異形者の根源の捜索及び殲滅を命じられたのだ。

「・・・それでどうするつもりだ?」
「現状では視界確認すらできない。少しずつ近づいて調べるしかないね。偵察機すら飛ばせないから」
「お前たちを呼んだのは不測の事態を想定しての判断。ブレードとラキは前方の確認。ジェミニはメインテーブルでマップを表示して周囲のレーダーを確認。ドクターとレックスは引き続き頼む」
「うう・・・星々の海原・・・探索が・・・」
「もう少しでスキルレベルが・・・」
「双子!いいから働け!」
「・・・了解。ラキ行くぞ」
「あっ!ちょい待て、ブレード」

 緊張感の無いやり取りにため息をつくイーグル。

「大変だね、隊長・・・レックス!艦を動かして。低速で目標に接近」
「了解。時速10キロで航行開始。目標に接近します」

 それぞれの位置に就き、厳戒態勢に入る部隊。気楽な竜たちは得体の知れないものへ恐れず忍び足で向かう。
11/06/05 00:58更新 / 『エックス』
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