読切小説
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樹海の遭難者の手記
聖大樹の新芽について

聖大樹は森の安定を司る果実をつける巨木で、世界に数本しかない上、一国を覆うほどの広大な森の中に1本しかないと言われる神木である。
巨大な森の生命のサイクルの一つで、その大樹は、人間の男を攫い生贄に捧げる風習のある樹海のエルフの住む森の最深部にあると言われる。

芽吹いた段階から新しい生贄を必要とし、エルフはそれと共存する形を取っている。定期的にエルフが新芽の有無を確認しに行くことは勿論だが、蕾が出来始めた頃から甘い匂いを出し始めて予兆を知らせる。
100年に1度程のペースで新芽が生え、新たな生贄の男を必要とした際のサインでもある。
新芽から咲く花は大樹からとは違い、樹とならない巨大な食人花でアルラウネと同じく、花にある女性の器官を用いて人間の男を誘惑して捕まえるもの。
新芽の葉は、花を食害しようとする小型の昆虫や根を食べようとするネズミを取る食虫植物であり、消化された昆虫やネズミは捕らえた人間の男の為の養分となる。

一見して恐ろしく聞こえるが、悪人のみを取り込むことから聖大樹とされている。
善人や勇者を送ってしまうと、彼らは1週間程度で解放される。解放された男は、生贄には罪人・悪人選ぶ様にと、解放した男を通じてエルフに忠告し、後にエルフの伴侶や精強な守護者となることもある。
罪人や狡賢い悪人を差し出せば聖大樹の実が成り樹海は安定と繁栄をもたらし、世界中の畑が豊作になると言う伝承があり、その伝承も大樹のシステム上真実である。
ただ人を飲み養分として消化するのが目的ではなく、聖大樹が森のバランスを整える為に、捧げられた男の力を必要とする際に芽吹いている。
大樹の持つ自然の役割を果たすには、悪人の狡猾さと貪欲さを得る事が必要であり、謙虚で美徳とされる人間では目的に向かう力が足りないのである。

新芽の花は大きく、半径3メートル程もある百合の花で雄しべのない雌花である。
雌しべは美しく豊満でありながら幼さの残る10代の女性の形をしており、尾てい骨から花へ繋がっている。
名前の如く新芽である彼女の体はアロエの様なみずみずしさを持ち、光に当れば白金に光る様な白色をして神々しさを見ることだろう。

エルフに連れてこられ、新芽の花弁から出る甘い匂いを嗅いだ段階で、既に悪党は術中に嵌っている。
雌しべの美しさを見た段階で、どんな慎重家でも小心者の悪党でも、それを穢したいと思う気持ちで一杯に駆られて雌しべの元へ向かってしまうのだ。
男を捕らえた百合の花は、受け入れるかの様にすぼみ、蕾の中で男と二人きりの空間を作る。男が悪党である必要があるのは此処から先である。
最初は男主導のセックスで雌しべを刺激することで、井戸からくみ上げる様に花から蜜を出して媚毒の甘い匂いを出し、限界まで男の劣情を掻きたたせて雌しべの中に精を吐き出させる。

この蜜は気化すると甘い匂いを出して媚毒効果を出し、また粘性に富んでいる。液体のままでは微弱な酸性を持っており、皮脂や垢、抜け毛や手足の無駄毛から陰毛までを溶かして養分にしてしまう。
蕾の中で男を限りなく無菌かつ肌への障害物の無い感度の高い状態にし続ける為の消化液で、風呂で体を洗う事の代わりでもある。
密閉された二人きりの空間では消化液を飲み込む可能性もあるが、摂取してしまっても胃の消化を助ける働きになる様に巧妙に調整されている。が、その後に体内に吸収されると気化した時の数倍もの媚毒効果を持ち性感で意識を持って行かれる程感度が高くなってしまう。
また口からはミネラルの多い水を移して飲ませ、乳房からは鉄分とタンパク質に優れた母乳が分泌され、百合の花の元あった雄しべのやくは果肉となり、摂取させ液体以外の食事を取らせる事で百年に渡って男が生き続けられるのだ。

雌しべが絶頂すればするほど蕾の中は蜜で溢れ始め、男の体からは無駄毛や垢がなくなり生まれ変わったかのように肌は綺麗になるが、男の視線は体力がある限り、雌しべの悶える表情と喘ぎ声に釘付けにされて気づかないのである。
自ら注ぎ込んだ精子によって、細く柔らかで千切れ難い触手が出ていることにも気づかず、始めの内は男が自らの性技が雌しべを支配しているという愉悦に浸り、我欲を満たし続けて精子を注ぎ続けるだろう。

やがて男は腰を振り続けて体力の限界になる。その時には、雌しべは精子によって前述の母乳を分泌出来るようになり、男の食用である雄しべの名残の花子が既に周りにいくつも生えて、男との生活の準備が出来上がっている。
体力の限界が来て、ヤリ捨てようと逃げ出そうとしても硬く締まる蕾の中からは逃げられない。中に居続ける限り媚毒を吸い込み続けて男の劣情は続いてしまう。
これ以上は体が持たない疲労感と、媚毒による劣情のアンビバレントな感情の中、そこで始めて雌しべから来る求愛で、ようやく自分の立場を知るのである。
この逃げられないと言う絶望に辿り着き、快楽によって屈服させることが新芽の目的である。

今度は雌しべが操る細やかな触手で抱きかかえられる様に絡め取られてしまう。触手はしつこく乳首や全身をくすぶる様にそっと這い回り、疲労で動けないまま感度の上がりきった体に奉仕をひたすら受け入れなければならなくなる。
じっとしていても絶頂による疲労を繰り返されて息絶え絶えのまま、雌しべは心を壊さない様にずっと耳元で愛と優しさを囁き続け、食べ物を与えて男を生かし続ける。
母でもあり妻の様に接し、何度も何度も誘惑と快楽で翻弄し続け、疲労と快楽で混濁した意識の中、やがて男は雌しべの愛を受け入れて相思相愛となり、それからは雌しべを愛し、愛の為に生きる者へと改心するのだ。

そうして新芽は数ヶ月でいずれ大樹の虚の中に入り込み、大樹の中で一体化する。男は大樹の中で百何十年に渡って雌しべに精を注いで、大樹に果実を宿らせ、森に活気を蘇らせるのだ。
大樹を愛して主となった男は、愛で果実を育むだけでなく、森の住人の声を聞いて外来種や密猟者の情報を聞き、生態系を乱そうとする生物に対する新しい毒を生み出したり、果実の木の位置を少しずつ変えて獰猛な獣の生息地をコントロールして人間を危険な場所から遠ざける、森の主たる役目を担う。
善人の持つ優しさでは、命をやり取りする自然の摂理の大きな力を御し切れないからこそ、新芽は悪人を求めるのである。

一体化した男は、肌や内臓は細胞を入れ替えたかのように若々しくなるが、脳や骨髄までは新しくすることは出来ない。出来る限り元の人間と言う生物の体を保つことで、悪人であった男の意思や愛の強さを阻害しない為のものだが、百年と少しぐらいしか持つことは無い。
それは大樹が、限りある生命を冒涜しない意思でもあり、また人間の体での愛の快楽を得させる優しさである。長い年月の後、一体化した男は雌しべと共に枯れて大樹の一部となり、そして彼の精から新しい新芽が芽生えるのである。
16/04/25 00:52更新 / 鳥のヅョン

■作者メッセージ
こんなアルラウネ系統のがあればいいなーって設定を書いてたんだけど、二次創作ガイドラインでは新種は可能な限り避けて欲しいということで、方向性を工夫してドキュメンタリーとかアイテム説明書みたいな感じの作風で作ってみた。
あらすじは某人間性を捧げるゲームのアイテム説明文っぽく。
ヨーン・フォーゲルは、ドイツ語で和訳するとジョン・鳥で、作者です(自白)

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