連載小説
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お稲荷様?拾いました。またの名を前篇
クイッ…クイッ、…竿に手ごたえが来る。
その瞬間俺は半分ぐらい怠けていた全神経を叩き起こし、手の先へ集中させ竿の感触をただ受け止める。
……確かにそこにいる。しかし、まだだ。この感覚、まだ虫を突いているだけだ。焦ってはならない…もう少し…もう少し…

早く竿をひけって。大丈夫、もうこれだけ動いていれば食いついているさ。

そう呼びかけてくる本能を説得し、ただ待つ。だんだんと本能の囁く声が大きくなるが、
日が傾きかけ逢魔が時に刻一刻と近づく今、こいつを逃すわけにはいかぬのだ。

そして、一秒が永遠にも感じられる中、ついに竿に大きな感触が。
………!食いつき、今!

バシャァッ!

力の限り竿を引き上げると勢いのよい水しぶきとともに大物が跳ね、また水面へと落ちる。
ザザザザザザザ!!
右へ左へと縦横無尽に駆ける糸、その先へとつながる魚が激しい水音を撒き散らし飛沫を立てる。

「耐えてくれよ?」

暴れまわるヤツをねじ伏せ、屈服させる。その為、動きに合わせて大きく竿を引く俺は思わず共に戦う相棒につぶやきかけた。

なぁに。この程度では儂は折れませぬよ、主殿。まだまだ、これからですぞ!

大きく身をしならせながらも力強い。親父から受け継いだ全戦不敗の古強者である忠臣の声を幻聴し、クツクツと笑いが漏れる。
しかし油断をしてはならない。相手も中々の弓取り名人のようだ。この状況下でも決して諦めぬ。敵将ながらも天晴な勇猛果敢さよ。
勝利へと続く糸を手繰り寄せる為、また、神経を集中させ忠臣を握る手に力を込める。



一刻ほどもたっただろうか?少しずつ、少しずつではあるが相手方の攻勢が弱まってゆく。
そして確信する。戦の誉れ一番槍とはいかなかったもののこの勝負、俺がもらった。
そう考えたと同時に初手の再現をする!全身全霊をかけ竿を引きあげる。
バシャァ!、ビチビチビチビチ!
水を割り、姿を現し、大地に倒れ伏した武士に手をかけ、俺は勝鬨を上げる!

「敵将、討ち獲ったりいいいい!!!!!!」
「何を言っているんだおまえは?」

長引く激闘を制した俺に対し浴びせかけられる冷やかな釣り仲間の言葉と視線。
うん。冷静になった。確かに何を言っているのだ?俺?

ほっほっほ。御若いですなぁ。この老骨にもついつい熱が入ってしまいましたぞ?

糸や竿から垂れる水が俺の手にかかり、相棒からはからかわれた気がする。
…まぁいいか。では気を取り直してっと

「うむ。本日も大漁大漁。これで今日も晩飯にありつけるな。…ほれ、今釣った魚を見ろ。今日も俺の勝ちだ」
「〜〜〜っ!!!っだぁぁ!ちっきしょおおおおおおおおおおお!!!!持ってけ、泥棒がああああああ!!!!!!」
「はっはっは。そんなに大声を立てると魚が逃げるぞ?」
「誰のせいだと思ってやがる!!」

大物釣り勝負に負けた事がそんなに悔しいのか先ほどの冷ややかな態度が嘘のように熱くなった
弥七が肩を怒らせ怒鳴りこんでくる。
ふっふっふ、愚かな奴め。賭けに誘っておいて負けたら人に当たるとは。
まぁそれはいい。勝負は勝負。あいつの座っている場所の片隅にある酒瓶をひょいと取り上げる。
竿を持っていない腕をこちらへ伸ばすと同時に、ぁ…と間の抜けた声をあげるが、知らん。むしろ笑いが止まらぬわ。

糸を解き、油紙の蓋を開けて香りを確かめる。うむ、確かに酒だな。この野郎以前こんな山奥のどこで手に入れたのか鮭の切り身を詰め込んでやがったからな。確かめなきゃ安心できん。
とと、そんなに怨めしそうな眼でこちらを見るな。怨むならお前の不運を怨めと再び湧いてきた笑いを噛み殺し、再び酒瓶に封をしながら一言。

「賭けに負けたおまえのせい」
「………だよなー。…ふぅ。興も冷めたし、帰るか」
「あぁ、辺りも暗くなりそうだ。物の怪に襲われる前に帰るか」

弥七とともに釣りの後片付けを終え、腰を上げて歩き出す。
もう開き直ったのか弥七もしっかりとした足取りで道を進む。まぁお互い晩飯には十分な数を釣っているしな。
さぁて、今晩は塩焼きにお新香だ。酒の肴もそろっている。きっといい酒が飲めるぞ。そう思うと気分が乗ってくる。

「今日も釣れたぞ♪晩酌ー♪うーまーいー♪」
「うるせぇ、独身が。晩酌してくれる相手もいない癖に」

死ねばいいのに。一気に気分が落ち込む。隣の妻子持ちのしてやったり顔が非常にむかつく。

「死ねばいいのに」
「そう思うならさっさと相手見つけな。あー。今日もあいつが風呂炊いて待っててくれるんだろうなー♪」

思わず口に漏らした本音に惚気で返してきやがった。……開き直ったと思ったら、あの野郎こんなこと企んでやがったのか。
先ほどとは逆にこいつが鼻歌交じりに意気揚々と歩いている。まずい。酒瓶で頭かち割りたい。半端じゃなく、むかつく。

「おいこら、ニヤケ顔やめろ」
「くっくっくっ。あー。楽しみだなぁ♪今日も寝かせてくれないんだろうなー」
「………面貸せやゴルァアアアアアア!!!!」

独り身の怒りが、跡継ぎのいない悲しみが俺を突き動かす!いまなら殺れる!
そう思い実行に移そうと血涙を流し、村を追い出されてもいいという覚悟をも決め、酒瓶を振りかぶる。

「おお怖い怖い。じゃあ、また明日畑でなー、早くイイヒト見つけろよーーーーーー」

しかしあの野郎は振りかぶった瞬間に捨て台詞を残し走って逃げて行った。不意を突かれ呆けていた俺が気を取り直したころにはあの馬鹿は随分と先を走っている。

「やしちいいいいいいいいい!!!!明日覚えてやがれえええええ!!!!!!」

せめて一太刀と怒鳴り声をあげる俺をしり目にあの野郎、にこやかに手を振りやがった。
くそう…賭けには勝ったが確実に人生で負けてやがる。
すっかり意気消沈した俺は、あぁ彼女欲しいなぁ。いっそ魑魅魍魎の類にわざと襲われてやろうかなぁ。と陰鬱な思念を撒き散らしながら歩く。
きっとこんなこと考えてっから誰にも相手されないんだろうなぁ。



そう想いながらしばらく歩いていると、ふと視界の端に道端に紐で括られた小さな二つの壺を手にうつ伏せで倒れている妖の女が映った。

………さて、まだ俺の家まで距離はあるが、これはどうするべきか。
少し離れていても目を引くさらりと流れる金色の髪にヘタっと力なく垂れた狐の耳。
見慣れぬ衣装を身に纏ってはいるものの脇の裂け目からのぞくスラリと伸びた美しい脚、どんな男でも必ず目にとめてしまうだろう形の整った豊満な臀部とそこから飛び出す柔らかそうな一本の……とと。
じっくりと見たいところではあるが、まぁ、仕方ない。変わった恰好をしてはいるが、狐の耳に一本だけだが狐の尻尾があるということはおそらくは低位のお稲荷様だろう。
とりあえずお稲荷様を見捨てると罰があたりそうだし、事情を聴いて介抱するとしよう。

「もし、そこのお方」
「………」
「大丈夫ですか?」

息はあるものの返事がない。さて、どうしよう。…揺すろうかと思い手を伸ばすと、お稲荷様がようやく一声

「………なんでもいいから、何か…食べ物」
「…生魚でもいいのなら」
「…今は生で食べるとおなか壊しそうだから、せめて焼いて…」
「…それだと俺の家になってしまいますが、…そもそも立てます?」
「…ごめん、お世話になります。あと、ちょっと無理…後で、ちゃんとお返しするからおぶって…」

本当に気だるそうに顔をあげ、もう限界といわんばかりの力のない声が響く
あぁこりゃ駄目だ。完全に空腹で行き倒れてやがる。……ここまで来たら見捨てたら、間違いなく天罰が下る。仕方ない。

「はいはい。じゃあちょっと壺を拝借と…」

お稲荷様から壺をとり、魚が入った籠と同じように腰にくくりつける。
そうして手をつかんで引き起こ………おう…美しい…。大部分が服に隠れてはいるもののくっきりと形の浮き上がり、豊穣の神と言われるだけはあるほどの顔をうずめたくなるほどに大ぶりでどこまでも沈みこみそうのほど深い谷間がっ……とと。お稲荷様が怪訝な顔で見ているのに気付きあわてて背を向ける。

「…じゃあ、お願いね」

むにゅり 彼女が俺の背に覆いかぶさってきた瞬間に弾力のある柔らかなものと、服越しでもわかる少しコリッとした二つの突起が、突起が!!
まずい。顔がにやけるのが止まらない。今なら何でもできる気がする。
一歩ごとにむにゅりむにゅりと柔らかさが伝わり、気分が高揚する。

「ねぇ?そんなに気持ちいいの?」

………おぉう、ばれてーら。
あまりにも女っ気が無かったせいか耐性が無くなっていたようだ。不思議そうに尋ねてくるお稲荷様の声で正気に戻った。

「………申し訳ございません」
「ふーん。そうなんだ。…うふふふふ♪かわいいなぁ。うりうり♪」

本当に反省した声で告げるが、どうやらこのお稲荷様は随分と悪戯好きでいらっしゃるようだ。ぐりぐりと背中で動き双球を押し付けてくる。
あ、やめて、押し付けるのやめて。やめてほしくないけどやめて。これ以上は本当に、本当に動けなくなっちゃうからやめて。

「んふふふふふぅ♪んっ…♪きゅぅぅ♪」
「………」

そう思う俺に分かっているのかいないのか、より激しく擦りついてくるお稲荷様。
その、なんだ。まずい。非常に、まずい。なんだか桃のような甘い香りまでしてきた気がする。

「クォン……ぁっ、ぁぁン♪♪」
「ぁアッ…にゅ…」
「キュゥぅ♪ひぅ…ゃぁん♪ぁ、あぁあぁっぁ♪♪」
「…♪っ♪」

観自在菩薩行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空、度一切苦厄。舎利子。色不異空、空不異色、色即是空、空即是色。受・想・行・識亦復如是。舎利子。是諸法空相、不生不滅、不垢不浄、不増不減。是故空中、無色、無受・想・行・識、無眼・耳・鼻・舌・身・意、無色・声・香・味・触・法。無眼界、乃至、無意識界。無無明、亦無無明尽、乃至、無老死、亦無老死尽。無苦・集・滅・道。無智亦無得。以無所得故、菩提薩、依般若波羅蜜多故、心無礙、無礙故、無有恐怖、遠離一切顛倒夢想、究竟涅槃。三世諸仏、依般若波羅蜜多故、得阿耨多羅三藐三菩提。故知、般若波羅蜜多、是大神呪、是大明呪、是無上呪、是無等等呪、能除一切苦、真実不虚。故説、般若波羅蜜多呪。
即説呪曰、羯諦羯諦波羅羯諦波羅僧羯諦菩提薩婆訶。般若心経

「………少し、急ぎますね?」
「っあン♪…もう少しのんびりでもいいのにぃ♪」

………おい、限界じゃなかったのか?俺は限界だよ畜生!背中にすっかり尖りきった突起を擦らせ、艶めかしい声をあげるお稲荷様?を無視することにし、俺は走りだした。


12/01/11 19:38更新 / ごーれむさん
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■作者メッセージ
もうちょっと描写足すべきかなぁ…

バトル?暴力表現?ちゃんとお魚さんと戦ってましたよ。駆け足ですけど。
あ、あと理性とも。

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