連載小説
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オールアラウンドピーチクパーチク
教会を飛び出して数十分。俺はあることに気づいた。

「後ろの方になんかいる……」

此所から見えるところに俺を追って飛んでいる影がある。しかも俺よりも速い。少しずつだが、追い付かれている。恐らく、あれが魔物と言うやつなんだろう。

あの教会の連中が言っている限りは危険らしいが……そういえばこの袋のなかに本が一冊入ってたっけ。確か魔物についてスケッチつきで書かれているとかなんとか。

「重そうだから出したくないな」

悩んでいる間にもそれは近づいてきている。姿もくっきり見えるほどだ。見た感じ、女の子であることは間違いない。腕に当たる部分から翼になっていて、鳥と言うよりは竜の方が近い感じがする。

「やっほー!おーい!お止まりなさいなそこの人ー」

敵意はなさそうに感じる。

しかし、止まってもいいか、と思ったときには

「あたしッ!推参ッ!」

背中にものすごい衝撃が走っていた。

「ふんぐるいっ!?」

すげえ変な声が出たッ!

いや、そんなことよりなんだ?何がぶつかった!?いや、展開からして間違いなくさっきの娘だろうけど……

「頭いたい〜ううぅ」

こっちは背中が痛い。

後ろを見ると器用に翼を動かしながら頭をさする女の子がいた。髪は短く切り揃えられており、顔立ちはかなり整っている。教会の話とはえらい違いだ。

「あうあー」
「あんた、なんのために俺に突進したの?」
「う?あ、うん。お話ししたかったの!」

バタバタと翼を過剰に動かしながら元気一杯に返事をして来た。可愛いなおい。

「どうして?」
「どーしてって。そりゃあ、男って人間しかいないはずなのにどーして空を飛べるのかな〜って、気になったから!

ふんふんと鼻息を荒くしながら彼女は答えた。

「で?どーしてどーして空を飛べるの?もしかして魔王様、いよいよ主神の力を越えつつあるの?男の魔物なの?」
「あー。残念だけどそれは違うよ。俺は一応人間。この翼も爪も後付けだよ」
「おー、なるほろなるほろ」

コクコクと頷く。本当に理解しているのだろうか?

「つまりあなたは問題なく人間の男だね?」
「まあ、生物学上はまだ……ね」

そこで彼女は胸を張り

「ならば、あたしとえっちしよう!」
「Ok。あんたがバカだと言うことがよくわかった」
「にゃにおう!あたしはバカじゃないもん。えっちを夢見る普通のワイバーンですぅ!」

なにがなんだか。いや、それはいい。それよりもだ。

「あんた、怖くないのか?この爪とか腕とか」
「はぇ?かっこいいじゃん。きれいな色してるし」
「綺麗って……」
「別にこの世の中、それよりも危ない物を標準装備してる魔物娘だっているし……あたしだって本気出したらヤバイよ?」
「…………」

ならば、と足元に向かって腕を振るう。直後に地面にできるクレバス。長さは目測70mと言ったところか。

「これでもか?」
「」ポカーン

流石に呆気にとられたようだ。地面を見て、口をあんぐりと開けて滞空したまま固まっている。

「……ほら。怖くなっただろ。逃げた方がいいよ。俺なんかの近くにいるとろくなことにならないだろうし」
「……」

少しでも期待したらダメだ。基本的にはそう。生まれてきたとき、その時からいやと言うほど思い知らされてきた。俺は望まれない子供。両親が最後の実験体として利用し、何かの調整に失敗して同じ知性を持つものとして認識した相手を殺せなくなった最後のキマイラ。両親も俺なんかを望まなかったはずだ。だから地下室に閉じ込めて出れないようにした。世界も俺を望まない。だからこそ俺を檻にぶちこんで監視下に置いたんだ。そして、この世界でだって変わらない。呼び出してきたあいつらだって……

とそこまで考えたところで

「辛気くさい顔すんなああああああああああああ!!!!」

鼓膜が破れるかと真剣に思った。

何をされたかと言うと、鼻の先同士がくっつくぐらいまで顔を近づけられて怒鳴られたのだ。

「な、何をッ!」
「やかましい!辛気くさい顔する方が悪いッ!大体なにさ、話しかけたら怖くないかって言ってきて、怖くないって答えたら怖がれとばかりに脅して。そんですげーってビックリしてたら辛気くさい泣きそうな顔でうつむいて!あたしに怖がってほしいのか怖がってほしくないのかどっちなのさ!?」
「ッ!そ、それ……は…………」

思考が止まってしまう。本当だ。俺、結局今のは何がしたかったんだ?

「全く、大体あんなの、魔王様に比べたら大したことないっての!な〜にが怖くなっただろ、さ!」

俺はそんなに顎をしゃくれさせてない。

「ははーん。さしずめあなた、どっかのだれかに召喚された別世界の人間だな〜」
「そうだけど」
「なるほどね……あのね、そっちの世界ではどうか知んないけどこっちではそんなの日常VちゃVはんじなんだから気にしなくていいの!あなたぐらいでびびるのなんて、反魔物領にいる頭でっかち神官だけよッ!」
「……」

頭を金槌で殴られたような衝撃が走る。彼女の言い方だとまるで

「俺が、この世界にいてもいい……みたいじゃないか……」
「むきゅー!!さっきからそう言ってるしー!」

バタバタと翼を過剰に動かしながら憤る彼女を見ているとおかしくなってきた。

「プッ……ハハハハハッ!」
「むあー!何がおかしいっ!あたしは怒ってんだぞぉお!」
「ごめんごめん。つい……」
「むぅ。ま、いいや。信じられないんだったら、こっからしばらくこっちに行ったところに、親魔物領があるからそこでこっちの世界を見てみなよ」
「あぁ。少しだけど、期待していい気がしてきた」
「うむ。よろしい。そんで、納得したらあたしとえっちだ」
「それはない」
「なんですとっ!」
「いや、だって初対面の女の子とはねえ……もっとお互いを知ってから愛のあるものをしたいし……」
「愛ならあるッ!」
「信じられないよ」
「むむむ……なら明後日ヤろう」
「しない」
「ぷぅ。あ、じゃああんたが納得してあたしとえっちしてくれるまでついてく」
「はぁ!?」
「ふふん。これなら問題なし。ほら!いくよー!」
「ちょ、ちょっと待って!置いてかれたら道に迷う!」
「ふはははー」

かなりやかましい連れができてしまったが……もしかすると、今回ばかりは期待してもいいのだろうか……
13/11/16 11:07更新 / しんぷとむ
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■作者メッセージ
はい。しんぷとむです。
此所から先、シリアスになる空気がないです。

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