連載小説
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3:ご馳走様のあとに
2人落ち着いた所で、服装を整えて部屋の明かりをつける。行為が終わるまで気がつかなかったが、緩やかに日が沈んで暗くなっていたのだ。もう19時は過ぎているだろう。

アリスちゃんは夕食を作りにキッチンに行ったはず。ならば間も無く出来上がる頃だろう。

食事をする部屋があるのか、あるいは今いるこの部屋に持ってくるのか、とにかく何か動きがあるまでここでおとなしくしていよう。

しかしこの小屋。少女2人が住むには少々立派すぎる気がする。隠れ家には見えないし、誰かが用意したとしか思えない。

いつの間にかリャナンシーちゃんは眠りについていた。彼女を起こさないようにベッドから降り、ベッドの汚れを可能なかぎりふきとり、証拠を隠滅した俺はアリスちゃんが来るまでこの部屋だけでも散策してみようと思った。これだけきれいにしておけばバレはしないだろう。

まず最初に窓に向かう。日本の家庭の窓は殆どスライド式だと思うが、ここの窓は外に向かって開くタイプのようだ。雨が強いので開けられないが、景色を見る限りどうやらここは二階建てらしい。

次は本棚へ向かう。リャナンシーちゃんが官能小説を取り出したのもこの棚だ。小柄なアリスちゃんに読まれないようにか、一番上の段にそれっぽい本がならべられていた。

良くみると本が一冊抜けたような後がある。そういえばさっきリャナンシーちゃんが一冊持ってきたな。

俺なりに気を遣って、さっきの小説を本棚へ戻した。

そうしているうちに、階段をのぼる音がしてくる。アリスちゃんが夕食の支度をしてくれたのだろう。

「二人とも!夕食の準備出来たよ!」

ドアを開け、エプロン姿のアリスちゃんがひょこっと顔を出した。

「あれ?リャナンシーちゃん寝ちゃってる?」

「うん、相当疲れてたみたいだ」

「う〜ん……あったかいうちに食べて欲しいのにな〜」

疲れさせた真犯人は俺なんだけどな。ここで何があったかなんて口が裂けても言えない。

あったかい食べ物って何だろう、それを聞こうとアリスちゃんを見やると、アリスちゃんはリャナンシーちゃんのそばに行き、彼女の頬を指先でつついていた。

「ほーらー、おーきーてー!」

ぷにぷにと弄るアリスちゃん。するにしてもされるにしてもちょっと羨ましかった。

「んー……」

リャナンシーちゃんがゆっくりと上半身を起こした。素直に起き上がるあたり寝起きは悪くないようだ。しかし目は眠っているままだった。

「ほらほらしっかり!今日はリャナンシーちゃんが好きな和食だよ!」

「ほんと!?すぐ行く!おりおんも早くいこ!」


「え?お、おう」

急にパチっと目を見開き、テンションが高くなるリャナンシーちゃん。ちょっと意外。

「お兄ちゃんも遠慮しないでたくさん食べてね!」

和食が好きという意外な事実に戸惑いながら、3人で下のリビングへと向ったのだった。



白いご飯!焼き魚!味噌汁!
もっとも日本人らしい食事である。

今の時代国際化が進んだっていう言い方が正しいか、こういった食事を摂る機会は少なくなっているのではないかと思う。
暇と金さえあれば、ハンバーガーを食べに行ったり、洒落たレストランでランチとスイーツを注文したり、果てには家にピザを宅配してもらったり。

それが悪いなんて言わないけど、やっぱりこういう食事が摂れるのは素晴らしいと思う。それだけで日本まだまだ捨てたもんじゃないなんて考えてしまう。政治以外は。

理想をいえば、これに納豆がついて、時間帯も朝食だったらなということ。まぁふるまって貰ったんだからそんな事言わない。寧ろ遠慮すべきだろう。

「ごちそうさまでした!」

家じゃめんどくさい&照れくさいので滅多に言わないごちそうさま。こんなに感謝の気持ちを込めたのはいつぶりだろうか。

「お兄ちゃん食べるの早いんだね」

「ああ、昼から何も食べてなかったからな」

「そっか、川に流されてたときちょうどお昼前だったもんね」

人間モードになったリャナンシーちゃんが納得したように言った。
それを聞くと良く今こんなに元気でいられるなと思う。

「そっかぁ。それにしてもリャナンシーちゃんもその姿でご飯食べるの珍しいね」

「うん、この姿じゃないとあんまりお腹に入らないからね!」

まぁ……そうだな。
妖精の姿のままだと、箸を持つ事すらままならないだろう。
でも妖精の食べる物……俺はてっきりお菓子とか甘い物ばかり食べてると思ってた。それともこの子だけの特徴なのか。

「でも、あんまりご飯進んでないね。どうかしたの?」

「あ……うん、そんなにお腹空いてないんだ」

「そうなんだ?あ!もしかして何か食べたとか?」

「あー……そんな感じ……かな?」

リャナンシーちゃんがチラッと俺を見た。

確かに俺は彼女に性的な意味で食べられた。同意の上で。でもそれで空腹が満たされるのだろうか。

「えーずるーい!私にもちょーだいよー!何を食べたのー?」

「だーめ!教えなーい!」

「えーいじわるー」

二人が盛り上がり始めた。俺は「あはは……」と困り笑顔になりながら自分の食器をキッチンに持っていった。夕食のお礼に2人の食器も洗おうと思ったのもあるが、火の粉が降りかかりそうだからさっさと逃げようと思ったのが本音だった。

食器を水で軽くすすいで、スポンジに洗剤を付け泡を立てる。

こういった生活用品も整っているが、本当にこの2人だけの少女で
生計が立つのだろうか。アリスちゃんが料理を作っているなら、アリスちゃんが家事担当でリャナンシーちゃんが稼ぎに行っている?

なんかそうは思えない。それとも保護者でもいるのだろうか。

だとしたら悪さは出来ないな。リャナンシーちゃんはもう手遅れだから黙っているしかない。

ささやかな不安を感じながら、食器を洗い終えた。するとアリスちゃんが食器を持って来た。

「ごめんお兄ちゃん、お願いしていい?」

全然OKだよ、とその食器を受け取る。するとアリスちゃんが続ける。

「今リャナンシーちゃんがお風呂の用意してくれてるし、私もさっきお兄ちゃんが使ってたベッド整えておくね」

一瞬耳を疑った。
風呂の用意を俺の為にしてくれた所までは素直に嬉しかった。しかし寝床まで用意。これが意味している事は……。

「え……俺もしかして今夜、ここに泊まるべき?」

「え、だって天気大変だよ?すごい大雨だし……」

その時、空が一瞬ピカッと光り、直後に床に響くほどの雷鳴が轟いた。

「きゃっ!」

咄嗟にアリスちゃんが俺にしがみついた。

「雷……苦手?」

「……うん」

夕立だと思っていた雨がこんな時間まで降るとは思わなかった。
激しく打ちつける雨音は、まるで大舞台を見に来た観客の拍手のようだった。

食器を洗い終わり、早速この家の風呂をお借りする事にした。
服を脱ぐ前に浴場の扉を開け、浴槽の広さや湯温を確かめる。

ここの家の作りはまるでコテージのようで、その作りにマッチする風呂のイメージを裏切らず、白く輝く浴槽に、なかなか大き

めの窓がある。昼間で晴れていたらさぞ気持ちのいい事だろう。

浴槽に手を入れ、温度を確かめてみると体温より少し上な感じでいい湯加減。疲れた時は熱すぎないほうが良いのだ。

確認を終えたところで脱衣所に戻り、服を一枚一枚脱いでゆく。

この脱衣所だけは、隣に洗濯機、前に洗面台、体重計、脱衣カゴがあるだけのシンプルな部屋。広さもあまりなく、一般家庭の

それと全く同じで妙に安心した。

上半身だけを脱ぎ、体重計に何と無く乗ってみた。

63キロ。身長はざっくり170センチで、まあ悲しいほど平均的な男である。

それでも細マッチョになりたいなどと筋トレを始めたら、肩から腕のラインだけ写せばイケメンに見えない事もなくなった。
後は腹筋を割りたいかな。

鏡の前の自分に酔いしれながら下半身も脱いでゆく。コイツは今日も元気だな。

脱ぐと同時に、恥、プライド、名声をも捨て去る気持ちに陥った。

俺は身も心もスッパダカのまま、この身を清める聖なる浴場に足を踏み入れていく......。



「ふぅ……」
いい湯だった。実にいい湯だった。

入浴剤までわざわざ入れてあっていい香りだった。

頭をタオルでガシャガシャやった後、一枚ずつ服を来て洗面台にあるドライヤーに手をかけた。

一瞬勝手に使っていいものかと迷いが生じた。でもまぁ使ったからと咎められる事はないだろう。

コードを解いてプラグを差し込み、いざスイッチオン!

手ぐしと風を巧みに当て、俺は普段の髪型を取り戻した。

リビングに戻ると、アリスちゃんだけがそこにいて、読書をしていた。

「あ、お兄ちゃん上がったんだね」

「おう。リャナンシーちゃんは?」

「また寝ちゃった。さっきいきなり飛び起きた反動かな?」

アリスちゃんは小さく「ふふっ」と笑い、「今度は私が入るね」とだけつげて風呂場へと向っていった。

男が入った後の風呂に入る女の子の気持ちってどんななんだろうな〜などとぼんやり考えていた。

イケメンの後だったら大喜びで飛び込むのだろうか。ここの2人がそんなメンクイだったら嫌だ。

不愉快になってきたのでこれについて考えるのはやめ、俺は真っ直ぐさっきの部屋に向かったのだった。
13/06/23 12:43更新 / シジマ
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