連載小説
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二人の距離と一つの影
「…待て、誰だそいつは?」

家に帰っての第一声。
部屋の中に人が立っている。いや、正確にはヒトではない。
パッと見、ヒトのようにも見えたが、腕から先は大きな鳥の翼、膝から下は小さな羽根の下に巨大な鉤爪のように変化している。
巨大な鷹を連想させるその体に、不釣り合いなほど可憐な少女の胴体と顔。
ハーピーだ。生まれ故郷の街で、配達などをしているのを見たことがある。
背中や腰に大量の荷物を抱えていることを見ると、どうもこのハーピーも配達業の者ようだ。

声に反応して、そのハーピーの少女、それと樽から身を乗り出し楽しそうに談笑していたネレイス、ティルが振り返る。

「ああ、噂をすれば!アキト様!おかえりなさいですよー」
「ちわっす!ヒトの旦那!おじゃましてます!」
「おや、挨拶も無しに失礼しましtって、違う!なんで俺の部屋に平気な顔で魔物がいる!そしてお前も何を楽しそうに雑談している!」

俺を見てうれしそうに手を振るティルと、深々と頭を下げたハーピー。
その二人に同時にツッコミを入れると、一瞬驚いたような表情を見せたハーピーは「ほほーう」とか言いながら口元を翼で隠す。

「まさか、女同士でのおしゃべりまで禁止しますかー。ティルさんめ…なかなかの旦那さん見つけましたなぁ」
「だ!だだだ!!旦那だなんて!そんな関係じゃないって言ったじゃないですか!!」
「おやおや、その慌てっぷり。やっぱ相当お熱のようですなぁ。にしてもー、そない束縛系な男が好みでしたかー」
「ちっ違うって!!わっ!わー!!」

ティルは手をめいっぱいに伸ばして抗議するが、ハーピーはギリギリ手が届かない位置で笑っている。
完全に俺が蚊帳の外なのだが、目の前の問題を放置するわけにもいかない。大きく咳払いを入れると、再びこちらに視線が集まる。

「…で?再度聞くが…誰だ?そのハーピーは」
「あ!えと!ちょっと話すと長くなるのですが、この人はですね。昨日の夜中、眠れなくて窓から外を見ていたら、なんと夜空をハーピーさんが飛んでいるではありませんか!他の魔物さんに会うなんて初めてだったので、思わず呼びとめて話をしていると、なんとこの方新聞屋さんだったのです!それで私も世の中知っておいた方がいいかなーと思って、新聞配達を頼んだのですよ」
「はぁ…いや待て、その…新…聞?とやらは、何だ?」
「そこはあっしが説明しましょう!新聞!と言うのはですなぁ、世の中の動きや、流行り、国の情勢やリャナンシーちゃんの4コマまで!世界全ての情報とエンターテイメントが詰まった!夢の情報誌!いや!百聞は一見にしかず!ほらコレ、どうぞ〜」

そう言ってハーピーは腰の大きなカバンに翼を突っ込むと、器用に翼を折り曲げ、何やら紙を束ねたような物をつかみ、手渡した。

「何分口伝では伝える情報量も限られてまいますし、遠くから持ってきた情報となると記憶もあやふやになってまいがちに。それで、あっしらは世界各地から集められたそれらの情報を文章にまとめ、こうしてお客様にお配りしている、ってわけや。お分かりかな、旦那?」
「なるほどな…しかしすごいな、これほど精密に大量の文字を書くのも大変だろう。その作業だけで何週間とかかりそうだが」
「え゛………、いや、そこはでんな…。ま、魔界では【印刷機】っちゅうもんがありましてやなぁ!まぁ、細かい原理は説明しても理解できへんやろうが…。とにかく!精密に大量の文字を書きだす物があると思っといてや!」

聞いたらあかんやろ…そないなこと
と言うのが聞こえた気がしたが、何やらあわただしい反応を見ると、どうも気にしてはいけない話らしい。
話題を逸らそうと新聞とやらに目を通してみると、この国と隣国との関係の話や、国王の最近の意向など、政治的な話題があり、他にも鎖国されていて全く情報の入ってこない、ジパング地方の話すらあった。
ただ、何枚か紙をめくってみると、「サキュバス直伝!確実な男の落とし方!」とか「男の理性が崩壊?アルラウネの蜜のご利用は計画的に」など、物騒な色気話などが目に留まった。さすがは魔物と言ったところだろうか…。

「そやそや、ティルさん。これ、昨日言ってたサキュバスの秘薬。なかなかに強力やから、旦那さんもこれ一発で立派なインキュバスになると思いまっせ!」
「だ、だから違うってぇ…。うん、でもありがとう」
「何やよう分からんが、上手くやれや!…ほいでは、旦那!週一の新聞代と…薬代。合わせて…ほい!こんなもんでんな。支払い頼みますわ!」

突き出されたのは「新聞、今月分」と「サキュバスの秘薬×1」と書かれた領収書。そこに書かれた金額は思わず腰を抜かすような、相当な大金だった。

「なっ!俺から金取る気か!頼んだのはコイツで、当然代金を払うのもコイツだろ!新聞は多少は読むかもしれないがまだしも、そのあやしげな薬は俺は関係ないだろ!」
「アキト様!私が払いたいのは山々なのですが…当然私お金ないんで!よろしくお願いしますっ!」
「お前な!金も無いのに勝手に物を頼むな!」
「ああ、お金が足りないなら心配無いで旦那。どれ、まだ若い美味そうな身体しとるやないか…お支払いはその身体でも結構ですぜ?」
「なっ…分かったよ払えばいいんだろ払えば。ったく勘弁してくれよほんとに…」―――



―――「また来週新聞届けに来んでな〜、ほな!おおきに〜!」

別れ際の挨拶をしたハーピーは窓から飛び出すと、人除けのために姿を消す魔法を使って何処かへ飛び去って行った。
これだから魔物ってやつは…。教会が敵視する理由が少し分からなくはない気がしてきた。

今までこの街で荒稼ぎをして貯めていた貯金を半分以上奪い取った悪魔を見送ってから窓を閉めると、早速新聞を読み始めている、その悪魔を呼んだ元凶の方を振り向く。

「うわぁ〜、すごいですよアキト様。触手の森って、ここすごい楽しそうですねぇ…。あ!この街からそう遠くないところにあるみたいですよ!一回行ってみませんか?なっ、何でしょうこれ!ジパング地方では画面が立体に見えるゲーム機が出るそうですよ!どんなものなんでしょうね〜、と言うかその前にゲームって何ですかね?」

ダメだ、コイツ。自分のしたことを全く悪いと思っていない。いや、そもそも謝るとか、そんなことを期待した俺が馬鹿だったのだ…。
怒ろうと思ってティルを睨みつけると、そこにあったのは新聞を読んで嬉しげにはしゃぐ少女のような顔だった。
その様子は俺の怒りの炎を静めるのには十分なものだった。つい、その表情に微笑んでから、どうも俺はいつの間にか相当な馬鹿になってしまったようだな、と小声で呟いた。

「………あっ、そう言えばアキト様!朝早くから、どこに行ってたのですか?目が覚めてもなかなか降りてこないんですから…また寝坊したと思ってましたよ」
「ああ、悪い、ちょっと港に用事があってな。……仕事だ、仕事」
「仕事…ですか。……海に。………アキト様。その…アキト様の仕事って…」

仕事の話をすると、やはりこの質問をされてしまうか。
だが当然いつかはこれを聞かれると思っていた。もちろん素直に答えれば、『彼』の正体がバレ、真っ先に俺は海の底に沈められる。おまけに今まで騙し続けていたのだ、沈められるどころか、もっと酷い殺し方をするに違いない。こんなヤンデレっ子と心中なんて、できれば遠慮したい所だ。
だからこそ、この質問の回答はすでに用意してある。極力慌てる素振りを見せないようにしながら、考えていた答えを口にした。

「…はぁ、これはお前にバレると厄介なんだが…まぁ仕方がない」
「え…?それって……?」
「俺は漁師から魚を買い取って、それを街の中でも海が遠い、南部や東部に魚を届ける。つまり仲介役をしてるんだ。だから漁師たちから魚を買い取って、今からそれを売りに行くところだ」
「……へ、へぇー、そうなんですか〜それで朝から…でしたか…」
「?…あ、あぁそうだ」

一瞬ティルが、すごく残念そうな顔をしたような。
しばらく俯いていたが、やがて脳内でひとつの考えが思いついたようだ。

「ってことは…!もしかしてアキト様『彼』に会ったことあるんじゃないですか!?『彼』は漁師なんですし、漁師から魚を買い取るんだったら…!」
「俺も他の漁師たちに話を聞いたりしているんだが…残念だけどな、まだ『彼』には会った事が無いんだ。話によると、俺が買い付けにいっている時間はいつも漁に出てるらしくてな」

我ながら下手くそな嘘だとは思いつつも、話を続ける。適当に誤魔化したところで限界はある気がするのだが、思惑通りと言うべきか、予想外と言うべきか。ティルはその話を頭から受け入れてしまった。

「なるほどーじゃあ、もし『彼』に会ったら、私の事伝えておいてくださいね〜」
「……分かった伝えておくよ。しかしお前本当に単純バ・・・いや、何でもない。俺はこれから商品を売りに行くから、お前はこの家で待っててくれ」

仮に俺が『彼』でなかったとして、もしこの話通りの立場の人間だとしたら、どうやって『彼』に説明したものか。「あなたを探している魔物を預かっているので、引き取ってくれませんか?」とでも言えばいいのか。反魔物思想のこの街では、間違いなく悪い冗談だと言われて相手にされないだろうが。

「ま、待ってください!私も連れてって下さいよ!」
「はぁ?…自分の体をよーく見てもう一回言ってみろ。本当に何度も説明させるなよ…」
「大丈夫ですよ、分かってますって。私が何の考えも無しにそんな事言うような女に見えますか?ほらっ」

ティルは樽のふちに膝を乗せ、一気に樽から飛び降りて、そこに『立った』。
体のことを考えると、あり得ない行動に唖然とする俺を見て、満足そうにほくそ笑む。

「なっ…!?足…?」
「ここに来るときだって人間に姿を変えてきていたわけなんですから、そこまで驚かないでほしいんですけどねー」

本来ヒレになっていた膝から下は、人間の足に変わっている。
変化は足だけに及ばず、段々と肌の色は少しずつ肌色に、腕や足にあったウロコは薄れ、頭に生えていたツノや、腰にあった尻尾は小さくなって、しばらくすると無くなってしまった。
もはやそこにいたのは、どこからどう見ても一人の『人間』の少女であり、魔物の面影はどこにもなかった。

「…お前、前に魔力足りない、とか言って無かったか?」
「…………ほら、人間社会の事も多少は知っていた方がいいかなって。そのために街歩いてみたいんですよ。ヒトの文化とかいろいろ勉強しておいた方が、『彼』と会った時に話もしやすいでしょうし(棒」
「お前……涎出てんぞ」
「はぅっ!?」

慌てて口元を腕でこするが、見られてしまったものは取り返せない。
魔物にとって人間の食べ物は珍しい物なのか、、それとも単に魔物になる以前に昨日のようなご馳走を食べたことが無かったのか。
もう何のために街に出たがっているかは見え見えだが、まぁ人間の格好をしているなら問題ないだろう。
本来ならば獲った魚は西部で売るのがほとんどだが、ティルがついてくると言うならば、余計な詮索をされると後で面倒になる。顔が知れ渡っている以上、今日はこっちでの商売は止めた方がよさそうだ。
それに南・東部では魚がこちらで売るよりも少し高値で売れる。たまには別の場所で売るのも悪くない。先ほどハーピーによってもたらされた予想外の出費を少しでも穴埋め出来るかもしれないし。

少々自分の考えが甘すぎる気もするが、正直コイツと一緒に並んで街を歩くのが楽しそうなのだ。つい楽観視して、一緒に街を歩く口実を考えてしまう。

「…分かった、連れてってやるよ。ただ、さっきの出費があるんだ。食うものと量考えて行動しろよ」
「なっなんですかその言い方は!全く私が食べる事しか考えてないみたいですか!」

俺にはその通りに見えているんだが。
そう思っているのを知ってか知らずか。ブツブツと文句を言いながらこの家に来る時着てきた(盗品の)服を着始めるのだった―――




―――外に置いてあった売り物を載せた荷車を引き、ティルと並んで東部へ向かう。
ティルとは田舎からの親戚だ、と言うことで口裏を合わせることにした。
西部では何かしらの職人や内職をしている家が多いので、通りに人通りは多くない。
東部へ続く道すがら、街の知り合いに「なんだい!いつの間にこんな可愛い子見つけてたんだ!」とか冷やかされたぐらいで、特に大きな問題は無かった。
この街に来てから数こそは少ないが、何度か別の区域に商売をしに行ったことはある。もし街の人に後で何か聞かれても何とでも言い訳が出来るだろう。

街の中央部、教会のある広場へ着いた時にはもう太陽は真上に輝いていた。
教会、街の中心にそびえ立ち、魔物を嫌い、敵対することを選んだ人間の作った建物。
自分にはその考えは不可解の一言に尽きる。魔物のどこが危険だと言うのだろうか。

この地域一帯で最も大きな建物と言われる教会を見上げ、件の魔物は太陽に負けんばかりに目を輝かせていた。

「すっごいですねー!大きい建物です!人間はこんなに大きな建造物を作るんですね!首が痛くなりそうです!」
「おい、あんまり人間離れした言葉を出すな。教会の人間がいるんだぞここ…」
「えー、どうせバレはしませんよー。まさかこんな広場を堂々と魔物が歩いてるなんてそんなこと考える人がどこにいますか?」
「まぁ、それはいないとは思うがな…だからってなぁ…っと」

前から教会の兵士と思わしき二人組が歩いてくる。ティルに少し黙ってろ、と一言言って、何食わぬ顔ですれ違おうとする。

「………また魔物が不法に街中に連れ込まれていたらしいぞ。どっかの貴族が面白半分に連れてきたようだが…あのような危険な生物、なぜ面白半分で飼おうと思うのか!」
「まったくだ。おかげでこっちも嫌な仕事が増えるってもんだぜ……。まだアレが人に近い姿形をしていなければ気が楽なんだがな…捕獲した後の事を考えると、気が滅入るな」
「えっ!ちょ、ちょっと待ってください!捕まえた魔物を、どうするんですか!?」

すれ違いざま兵士の話を聞いていたティルが咄嗟のことについ叫んでしまう。俺は慌てて制したが、兵士たちが少し驚いたように振り返った。
その片方が少し渋い顔をしてめんどくさそうに答えた。

「…ねえちゃん、魔物がどういう生き物か知ってるか?人間を取って喰う、恐ろしい生き物なんだぞ。そんなもの、世にのさばらしておくわけにはいかないだろう?当然、軽くて打ち首、人間を殺したり、連れ去ったとなれば、火炙りにして晒しものにするんだよ」
「そんな……あんまりじゃないですかっ!魔物はそんなっ!むぐっ!」
「おっと、すいません、コイツまだ田舎から出てきたばっかで世の中をよく知らなくて、また後でちゃんと言っておきますから。お勤めご苦労様です」

兵士たちは怪訝そうな顔をしながらも、その場を立ち去った。口をふさがれたティルは不機嫌そうに俺を睨みつける。
頭一つ半程の身長差があるにも関わらず、その剣幕は少し身じろいてしまう程だった。

「教会ってものはそんなにひどい事を…魔物は人間にとって害を与える存在じゃないのにっ!信じられませんよ!」
「教会ってのも複雑な組織なんだ。魔物の本性を知っているのは上層部の人間だけ。ああいった一般兵士やこの街の人間は、魔物は危険極まりないものだと昔っから教え込まれているんだ」

お前はすでにある程度俺に害をなしているんだが
と言いたくはあったが、この状況で言うのはいささか場違いだろう。

「でもこれで教会がどれほどイカレた連中か分かっただろう?分かったならもう少し声のトーンを落としてくれ…。もし万が一お前が見つかれば、大変なことになるだろ?」
「っ……!でもっ、仲間が……」
「こればっかりは変えようのない事だ。お前の気持ちも分からなくもないが、ここは目をつぶるしかないからな…」

それから教会広場を出て東部の大通りへ出るまで、しばらくティルの機嫌は直らなかった―――



―――教会広場を抜けてしばらく歩くと、東部一番の大通りへと向かった。街の人間はもちろん、旅人や教会の人間が慌ただしく行き来する通りなので、それを客とする屋台やら酒場やらパフォーマーやらが更に通りを騒がしている。
東部は街の入り口であるが故に、人の多さ、賑やかさは自分の住む西部の比ではない。少しうるさくも感じる程の賑やかさだ。

さっきから険悪ムードなティルの機嫌をどう直そうかと考えた末、賑やかな場所に連れてくれば少しはいつも通りの明るさに戻ってくれないだろうか。
そんな安直な考えでこの場所を選んだが、いろんな意味でその予想は外れてしまった。

「あ!あれはなんですか!?すごいカラフルな物が並んでますが…あれも果物か何かなんですか!?あっちの方のはパンですよね!?でもあんなにバター塗ってありますし…!ってあれあんなに大きなお肉見たこと無いですよ!何の肉ですかね!?」

さっきまでのは一体何だったのか。大通りに着くなり広場での事が無かったようにはしゃぎ出したティル。
何か本人にとって興味を引く物を見付ける度に、俺の服の袖を引っ張って右往左往している。
こんなところにまで大きな荷車を引いて魚を売りに来る人がいるだけで目を引くのに、おまけにこんなにも五月蝿い娘を引き連れているとなれば、嫌でも街の人の視線が集まってしまう。
多少目立つのならまだ魚を売るために好都合だが、さすがにこうも目立ってしまうのは良くは思えないのだが。

「おい、少しは落ち着け。全く、機嫌が悪くなったと思っていればこうも楽しそうに…。もうさっきの事忘れてんのかお前は」
「え、ああ、それもそうですねー。でもこの目の前に広がる天国のような光景を前に、どうして黙っていられますかっ!」

同じ魔物仲間の事を思うなんて、と考えていた自分が馬鹿の様に感じてきた。全く要らない心配をさせられたものだ。
露店の商品を品定めしながら、適当に食べるのに時間のかかりそうで、かつ安そうな物を探す。

「しかしこれでは商売どころの騒ぎじゃないからな…。とにかくコイツの口に何か突っ込んでおけば少しは静かになるだろうか…」
「おや?アキト様そんな昼間っから。別に私は構いませんがこんな人の多いところで口にモノを突っ込むだなんてそんなこ」
「馬鹿かお前は!んなこと考えるかっ!」

額を小突いてやると同時に叫び返す。
つい叫んでしまったが、そのせいで周りからの目が一層多くなってしまう。俺は街の人に苦笑い混じりに軽く頭を下げて誤魔化すしかなかった。

「…あー、とにかくだ。昼飯も食ってないし、何かそこらへんで買い食いするか。何が食いたい?」
「そ、そうですねー!えー…、とりあえず!あれと、それと。ああ、あっちのも捨てがたい!!」
「あのなぁ、朝お前のせいでどれだけ出費があったか分かってるか?何かしらの配慮はないのかお前はっ!」
「うぇ・・・?このパラダイスを前に我慢しろって言うんですか・・・?そんなのあんまりですよぉ・・・」

幸せそうにとろけてた顔が、途端に泣きそうな顔になる。目尻いっぱいに涙を溜め、視線だけで必死に訴えかけてきた。
こ…こんな手に引っ掛かるものか。負けてなるものか…。これ以上の出費は…。
見上げるようなティルの視線から無理矢理目を逸らしたのだが……。
ダメだ、可愛すぎる。反則だろこんなの…。

「…………ああクソッ!もういいよ好きなもん買って来いよ!!」

普通に渡す代わりに財布を投げつけることが、その時に出来た最大限の抵抗だった。


結局、ティルはまず大きめのパンを買って、その上に肉や果物といった食べれそうな物を乗せれるだけ乗せ、最後にビールをこれまたかなり大きめのジョッキに一杯、を両手に抱えて帰ってきた。
その間に少しだけではあったが、獲った魚を売ってはいたが、まだまだ売りきるには時間がかかりそうだ。

「ずいぶん時間かかったな…ってまぁそれだけ買ってくれば当然か」
「うふふー、この街の人たちはいい人達ですねぇ。嬢ちゃん可愛いからおまけしてやるっ、ですって!やだなぁ、おまけされちゃうだなんて嬉しすぎますねぇ」
「喜ぶところがズレているが…いや、お前基準に考えたらズレてないな。悪い。そんなことより、俺は持ってきた商品を適当に売っているから、先にどこかで食べていてくれ」
「あ、大丈夫ですよ。それぐらい待てますよ。街の人も観察したいですし、邪魔にならないようにしてますから」
「そうか?それは助かるな、お前が迷子になる心配もないし。放っておいたら何か珍しいものがあったー!とか言いながら路地に迷い込んで行きそうだしな…」
「なんだか癪に障りますが・・・今回はお昼ご飯を買ってくれたから黙っておいてあげますね!」

今日持ってきた売り物の量は決して多くないし…こっちでは魚は珍しい。そこまで売り切るのに時間はかからないだろう、と考えている間にも一人の中年の男性が声をかけてきた。

「よぉ、兄ちゃん珍しいな、東部にまで魚売りが来るとはなぁ。西部からの漁師かい?」
「いや、俺は仲介役ですよ。朝魚を獲ってこっちにまで来ていたら、体力が持ちませんから」

少し口を引きつらせながら説明をする。
実際はと言えば、朝から漁に出ておまけに家に帰ったら2匹の魔物、そして多額の請求書。
もし魚が生物でないならば、疲労とショックから家で不貞腐れて寝ているって…。

「なるほどなぁ。しかし、兄さん西部の漁師から買い取ったんだろ?…と言えばやっぱアレか?最近街の外からやってきた、天才漁師ってやつか?」
「…!こっちでも噂になっていますか。……俺はまだ会ったことは無いですが、いるらしいですね」
「そうか…。しかし、気味が悪いな。あの呪われた海に出て、魚を獲ってくるんだろ?何やら聞いた話だと…魔物と何か関係があるんだってな?そうでもなきゃ、あの海で生きていられないだろう…」
「へぇ…こっちではそんな噂が。…そうですね、案外魔物と繋がりがあるのかもしれませんね」

もしかしたら、繋がりどころか同居しているかもしれませんよ。と冗談を言ってみようかと思ったが、さすがに横にティルがいるので寸でのところで思いとどまる。

「まぁ噂話は多ければ多いほど酒の肴になるってもんだ!サカナ繋がりじゃねぇけど兄ちゃん!今日のオススメはどれだい?珍しい魚でも出せば、ウチの酒場も少しは目立てるかもしれねぇしな!」
「中々上手いこと言いますね主人、では今日はこちらの…」


やはり東部では魚はよく売れる。値段の相場も変わってくるので、多少無茶な値段を提示しても、誰であろうとも二つ返事で買ってくれた。
あっという間に完売となり、荷車に残ったのは一匹も魚のいなくなった樽と、フチ座ってウトウトし始めたティルだけになった。
あっという間、といえどもティルは食べ物を前にして待っていられるわけがない、と思っていたが予想は外れてその腕に、しっかりとパンとビールを抱えたまま。
俺が仕事が終わったのを見て、眼をしばしばさせながら「お疲れ様でした」と労った。

「今日のところは終わりだ。…しかしよく我慢できたな。てっきり気が付いたら全部食べてましたー、とかいうのを想像していたんだが。えらいじゃないか」
「えへへ、もっと褒めて下さい、出来ればこの肉の量を倍増させてください☆」
「前言撤回、それよこせ俺が全部食ってやる」
「じょじょじょ冗談ですよぉ!待って食べないでぇ!!」

定番になりつつある馬鹿なやりとりを繰り広げながら、近くの露店用に置いてあるテーブルに荷物を乗せイスに腰かけると、ティルはすぐ隣にイスを引き寄せ座った。

「…近くないか?テーブルは決して狭くはないんだが」
「?ほら、近くないとパン食べれませんよ?私反対側から食べますから、はい、あーん」
「誰がそんな恥ずかしいことするか!!」

激しくツッコミを入れているのをヨソに、無情にもティルはパンをかなりの勢いで食べ始める。
どうやら相当我慢していたらしく真顔のまま高速で口を動かし、次々と咀嚼していく。
このまま放っておけば、ものの数十秒で無くなってしまいそうだ。

「くっ、くそっ!こうなったらヤケクソだ!お前にばっかり食わせてたまるか!」

一時羞恥心を捨て、無我夢中でティルが咥える逆の方からパンにかぶりつく。
俺だって仕事がひと段落ついたところなんだ。当然腹が減っているのだ。

後日聞いた話によると、その日広場で真顔で顔を近づけながら、両側からパンを物凄い勢いで喰らうカップル(?)が目撃されたと、ちょっとした噂になっていたらしい。


「…くそっ、昼飯ってこんなに疲れるものだったか…?」
「げふー、はあぁ、私は満足ですぅ。いやー、ほんとおいしかったですねアキト様?」
「うるさい、あんな恥ずかしい状態で味なんか気にしてられるか。いいからそのビール少し分けてくれ」
「…間接キス(ぼそっ」
「思春期の男子かお前は。いちいち気になるようなこと言うな…」
「じゃあ思い切って口移ししましょうか?」

さすがに脇腹に一発入れてしまったが、誰も責めはしないだろう―――



―――結局、その後もグダグダと午後を東部で情報収集と言う名の観光(ティルが情報収集と言い張った)をして過ごしてしまった。
ティルにとっては目にする物全てが新しいものなのか、普段つまらないと思っていることにまで過剰に興味を持つ。
まだ自分はこの街に詳しくないが、それでも知っている限りのことを話し、すっかり観光案内役となってしまっていたが、同時に自分もティルの反応に気を良くしていた。
楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、すでに日は傾き、空は茜色に染まりきっていた。さすがに帰ってゆっくり休みたいのもあって、家路につくことにした。
荷車はとりあえず適当に場所を借りて置かせてもらっていたので、それを取りに移動を始めた、そんな時―

「……ぅー」
「どうした?さすがに疲れたか。まぁあれだけはしゃいで騒いだんだ。当然だな」
「…………ぁー…ま……く…っ…もう…だめぇ…」

ばたっ

っと音を立てて前のめりに路地に倒れ込むティル。
あまりの出来事に一瞬思考が止まってしまう。しばらく目の前の状況を理解できなかったが、理解した途端に全身から冷や汗が吹き出す。

「どうした!!おい!!お前!!おい!!まさか、陸に長時間いたのがまずかったか?それとも人間の食べ物が毒!?…今はそんなことはどうでもいい!!おいお前!返事しろ!」

倒れ込んだまま動かないティルを抱きかかえて仰向けにする。真っ白になりかける頭を無理に動かし、魔物の知識など全くないが、それでも何かしらの改善策を考える。
海の魔物…なら海水があればとにかく何とかならないか。ヒトの医者に見せるべきか?だがコイツは魔物…でも今はそんなこと気にしていられるか!!いったい何が起きたんだ、突然…こんな…!

どうするべきかと、うろたえる自分と、苦しそうに顔をゆがめるティル。
見ている間にもティルの顔から血の気が引いて、青白くなっていく…。

青白く…………
……あれ、これ最近どこかで…
…………なんだろう。危機感が無くなってくるのは何故なのだろうか。

「……なぁ、まさかとは思うけど、魔力切れ…とか言わないよな?」
「………(ぐっ!」
「ぐっ…じゃねぇ!!!何ご名答って顔で親指立ててやがる!!…ったく!不必要な心配かけさせやがって!」

今日何度目か分からない恥ずかしい思いをしながら、とりあえず周囲に人がいなかったことにも安心する。
こんな様子見られたら恥ずかしいどころの騒ぎじゃない。もう俺海に飛び込むよ?
だが一番の問題はそこではない、魔力切れ、と言うことは姿が戻ってしまう。
徐々に肌は元の青白い色に変化を、髪の間から小さくツノが見え始めているし、ウロコや尻尾も少しずつ形成されていく。
この状態で人目につけばただ事ではない。あたりを見渡し、とっさに目に入った、いかにも人が通ることは無さそうな路地裏へと逃げ込む。

近くに木箱が乱雑に積んで置いてある、その一つにティルを下ろす。

「お前な…出来れば魔力切れそうとか事前に言ってくれ。どうするんだよ…」
「…てへへ、つい楽しくてあんまり気にしてなかったですね」

少しいつもの調子が戻ったらしいティルは、まだ弱々しいながらも苦笑混じりに答える。
ひとつ盛大にため息をついてから、何かティルを隠せそうな布などを探して、他の木箱の中を調べてみる。

「とりあえずお前を荷車まで戻さないと…家に帰られない。お前も何か隠れられそうなものがないか、ちょっとそっち見てくれ」
「…………ん、そーだ。くふっ…………アキト様ぁ!これは?」
「お、何かあったか?どれどれ」
「ここ、ここ、ちょっとかがんで下さい」
「…?何だ…?」
「……とぅっ!」

かがんだ俺の首に腕を巻き付け、強引にティルに引き寄せられる。突然のことに再び思考があやしくなった俺の顔に、唇に、彼女の唇がゆっくりと迫る。
そのままそっと一度唇を触れ合わせると、一度離して見つめ合う。
自我を取り戻した俺はたじろいて離れようとしたが、首に回された彼女の腕がそれを拒む。

「別に隠して移動しなくても、もっと簡単な解決方法がありませんか?例えば…魔力を回復させるとか」
「おい…!離…!…はぁ、ダメだ。完全にスイッチ入ってるな?」

くすくすと笑うティルの瞳は、路地に差し込む強い夕焼けの日差しでいつもよりも更に潤んで見える。
全く魔物というものは。ヒトで言うところの腹が減ったからパンを食べる、のごとく精を欲しがるものなのか。

「素直でいいですね。じゃあこれはご褒美です。ん……ちゅっ…んぁ………む……ちぅ…」

再び唇を重ねると、今度は舌を口内へ差し込まれる。舌を絡めあうように口の中で舌を動かされると、媚薬のような成分が唾液に含まれるのか、少しずつ抵抗していた理性を緩和していく。

舌を吸われ、唾液を舐めとられ、それを喉を鳴らして飲み込む。お返しとばかりに今度は唾液を送り込まれ、舌全体を使って絡め合わされる。

「ふ……んぅ………んっ…」

そのまま長い間唾液の交換を続けていたが、やがてゆっくりと唇を離す。二人の間を繋ぐ白い一筋の線が、夕日に照らされて輝いた。
とろけた表情のままティルは柔らかに微笑み、そっと首に回していた手をほどく。
着ていた服を脱ぎ丁寧に木箱に置いて膝立ちなる。
そのまま後ろを向くと、体を前に倒してお尻をこっちに向けるような姿勢をとった。
期待するように尻尾をぱたぱたと揺らす様は、準備OKと言わんばかりだ。
これから行われる行為に備え、すでに俺のイチモツは十分すぎる程硬くなっていた。

「くすっ……もう挿入れたくて堪らないって顔してますね……。いやらしい顔してますよ?」
「……あのなぁ、もう時間も時間なんだ、ただ俺は」
「早く帰りたいから早く終わらせるだけだー。でしょう?なかなか可愛い言い訳ですねぇ」
「っ………。はぁ、あんまり声出すなよ。一応人通りは無いに等しいとは言え、万が一がある」
「はぁい、努力します。じゃあ、優しくしてくださいね?」

妖艶で挑戦的な笑みを前に、どんな男がその約束を守れるか。
例外なく俺も体が反応してしまい、思わず体が強張ってしまうが、ため息で感情を押し殺すと、彼女の秘部へと顔を近づけた。
驚く彼女の様子を無視し、そのままそこを舌でなぞる。
これまでとはまた違った快感に体が大きく跳ねた。

「なっななななっ!何するんですかビックリするじゃないですか!そんなとこ…舐められ…た、らああぁ!」

両手を使い、花弁を広げてさらに中を舐める。少し舌を動かすだけでもティルの体は大きく震え、大量の蜜が溢れ出す。
それをまた舐め取り、またさらなる快感を引き起こさせる。

「んぅ…あん……そんなとこ……恥ずかしいですよぉ。いつもより積極的なのは嬉しいですけれど…」

真っ赤にした顔をこちらに向け、必死に訴えかけるティル。だがその仕草は嫌がるというよりか、むしろもっと、と欲しているようにしか映らない。

「…っふ。お前にも羞恥心ってものがあるのか?以外だな」
「それぐらいありますよぉ…。なんだか…その、アキト様……アキト様が上手すぎるんですよぉ」
「そうか?俺もよく分かってないからな…。…なにか不満があれば言えよ」

再び顔を花弁に近づけると、今度はさっきより少しだけ下へ動き、赤く充血した蕾へと舌を伸ばす。

「っ!!?ひゃわぁ!そこは…!クリはダメぇ!です…!!舌が…!すごいざらざらしてて……!!感じすぎちゃいまうぅ!!」

舌先で転がすようにして蕾に刺激を加える。時には舌全体で舐め上げたり、唇で軽く咥えて吸い立てたりして、ティルの反応を楽しむ。
空いた片方の手でお尻を掴み、もう片方の指を2本立て、花弁に押し当てる。そのままゆっくりと力を加え、奥へと押し挿入れていった。
指を入れただけでも窮屈なその中は、クリトリスを刺激するたびにきゅうぅ、と締め付けてくる。
ちょっとしたいたずら心から、舌の動きを止めないまま、指で膣の中をかき回し始めた。

「くぁっ!!やだっ!そんな弄られたらぁ!!はっ…!!んん!あっ!はぁっ!!あっあっああっ!!でっ、出ちゃいますぅ!」

異変に気付き、咄嗟に体を横にずらす。ティルが2,3度震えると、彼女の秘部から勢いよく薄い金の液体が飛び出した。

「はぁ、はぁ…んぅ……ダメぇ…おしっこ止まんないよぉ…。こんな…アキト様に見られてるのに…」

本人の意思に関係なく放出されるそれは、地面に水たまりを形成していく。
自身が立てる水音と、漏らしてしまったことの羞恥心からか、顔を耳まで真っ赤に染めて、目を瞑って事が終るのを待つ。
しばらくして、溜まっていた物を全て吐き尽くすと、ティルは大きくため息をつき、目を開けると申し訳なさそうにこちらを見た。

「ご、ごご、ごごめんなさい!そのあのー、き…気持ちよくって…。ふっ、服とか大丈夫でしたか!?」
「あ、ああ。避けたから別にいいが、…ずいぶん溜まってたな」
「うー、言わないで下さいよ…さすがにこれはすごく恥ずかしいですから……。あ…あの、もう準備はいいですから…ね?」
「ああ、分かってる」

そう言ってズボンを下ろすと、すでに痛いほど誇張する肉棒が飛び出た。その光景を目の前に、ティルが大きく身震いする。
期待に揺れる尻尾を優しく撫でながら、彼女の秘部へと自分のモノをあてがうと、ゆっくりと挿入を開始した。

「んん……くっ、…あぁぁ。深いよぅ…。…あっ、はぁっ!」

早々にピストン運動を開始する。自分の性欲も一連の行為で、限界まで昂っていたのだ。優しく、ゆっくりとしてあげたいが、その時は本能が勝ってしまった。
背中越しに見えるティルの表情が一気に快感に蕩けた顔へと変化する。折り畳んでいた足が緊張感を失い、左右に投げ出される。
自分も一突きするごとに込み上げる強い快感に身を委ね、体同士がぶつかるパンッ、パンッという音のリズムを速めていく。

「こんなっ!やぁっ!すごいですぅ!!奥まで…掻き回され…てぇ!んぁっ!!あたまが…痺れちゃいますうぅ!」

始めから速いリズムでの攻めに、やや困惑気味にも必死に答えるティル。今にも達してしまいそうな表情を見せるが、大きく喘いで押し殺している。
腰のスピードを緩めずに体を前に折り、彼女の耳元で少し意地悪に囁く。

「あんまり声出すと…、周りに聞きつかれちまうぞ?そうなると俺もお前も困るんだが」
「えっ、あぁっ!そっ、そんなのぉ!無理っ、むりですよぉ!だってぇ!んあっ!!きもち…よすぎてっ!こえっ!出ちゃいますっ!!」

思った通りの回答を聞き、なら早く終わらせるか、と独りごちて、ティルの腰に腕を回す。
体を密着させるようにティルに抱きつくと、ティルも長い尻尾を半ば巻き付けるように背中へと回して答える。
一度大きく息を吸って、腰を打ちつけるスピードを限界まで引き上げる。

「んあぁ!はぁっ!くぅう!!これっ!すごくてっ!!んんうぅぅ!!やああぁぁ、ああん!」

膣内でカリが削り取られるように感じるほどの強い快感に、次第に視界が白くぼやけ始める。
接合部から溢れ出す粘液の弾ける音とティルの喘ぎ声が、路地裏の中で反響して聴覚も刺激する。
ティルも限界が近いのだろう、膣の締め付けが強く不規則になっていく。

「もうっ!!私っ!!だめぇ!!はぁっ!あ、あきとさまぁ!!」
「お…俺ももうっ…くぅっ!」

ギリギリまでピストン運動を続け、もはや限界といったところで一番奥に突き入れる。子宮口を押し広げるように膨張したモノから勢いよく精が放たれる。
その感覚にティルも体がぎゅっ、と強張り同時に果てた事を告げる。ビクビクと脈打つような痙攣を起こす絶頂の快感に、歯を食いしばり拳をきつく握って息を押し殺す。
つい腕に力がこもり、さらに肌と肌を密着させると、精液が子宮内に吐きだされる、どくん、という音が聞こえた気がした。

しばらくその体勢のまま無言で精を吐き出す感覚を味わい、全て出し切ったのを感じてゆっくりと花弁から引き抜く。
まだ絶頂の余韻の残るティルはしばらく荒い息を続けていたが、やがて深くゆっくりとした呼吸へと変わっていく。
体を起こしこちらへ向けると、軽く口づけをして木箱に座りなおした。

「っ……はぁ…はぁ……ふうぅ……。もう、優しく、って言ったじゃないですかぁ」
「その割にはずいぶんと満足そうな顔をしているぞ、少なくともお前の尻尾は楽しそうに揺れているんだがな」
「む……え、えへへ。案外こうやってアキト様に強引にされるの…好きかもしれません」
「はぁ…。どんな変態だお前は。魔物ってやつは本当に…」

嫌味のつもりで言った言葉にもくすくすと笑われ、自分もつられて苦笑いがこぼれる。
もう一度さっきより深い口づけを交わしたあと、ティルがようやく人へ化ける魔法を唱え始めた―――



―――引き取りに行った荷車を引き、隣を歩むティルに視線を送る。
もう日はどっぷりと暮れ、街は暗くて辺りは見えづらいが、ティルはその視線に気づいて微笑み返す。
だがふと前を向くと、少し暗い顔で俯いてしまう。何かまずいことでもしただろうかと、記憶を掘り返すが、どうも見当たらない。
さっきからずっとこの調子で、辺りの暗さも相まって、なんだか気まずい空気が出来てしまっている。
その空気を断ち切ったのは、俯いたまま放った、ティルの言葉だった。

「……ねぇアキト様、変な話なんですけど…。その、もしも、もしもアキト様が『彼』だったら、私を…どう思います?」
「……?また急に変な質問だな。お前…か…。…馬鹿で、食い意地張ってて、普段から交わることしか考えて無くて……」
「あ…うー…」
「そうだな…だけどな」

そこで一旦区切り、考えをまとめる。
荷車を引く、がらがらという音だけが聞こえる中、ティルは恐る恐る顔を覗き込むようにして、様子をうかがう。

「だけど、どこか可愛げのあるし、優しさも持ってる。そんなに悪い印象は持たない…いや、むしろお前は人に好かれるような奴だから心配は要らないさ」
「ほっ…ホントですか!お世辞とかそんなんじゃなくて!」
「そ…そんなに喜ばれるとかなり恥ずいんだが…。まぁ、だから…、お前は笑っていろ。お前は笑ってる顔が一番…その、なんだ、…可愛いから…な」
「ぷふ、くすくす…、あ、すいません怒らないで。あまりにも恥ずかしいことを平気で言うものだから」
「半ばお前が言わせたんだろうが!…全く、なんだか知らないが、元気が出たのならそれでよかった」
「えへへ、ありがとうございます」

やっと嬉しそうな笑顔が見られる。やっぱりコイツには一番笑顔が似合うだろう。
軽快に近づいて来て、腕にくっつくと、しばらくこうさせて下さい、と言って幸せそうな顔をしていた。
何か分からないが、ちゃんと尻尾も楽しげに揺れている。こればっかりは嘘ではないだろう。

「………って、え?尻尾…?」
「うん?尻尾がどうしました?」
「のわああぁ!尻尾出てるぞお前!なっ、お、おい!早く隠せそれ!」
「あ、ほんとだー。てへへごめんなさいついうっかり集中が切れちゃいましたー☆」
「切れちゃいましたー☆じゃねぇ!」

またいつも通りの馬鹿なやりとりが街にこだまして、暗い街並みも少しだけ、優しい空気になった気がした―――



―――自分はティルを強く想う。
でもティルは仮想の『彼』を追い求め、そして悩んでいる。まさか、自分の自意識過剰だとすれば悲しいが、自分のことを気にしているのではないか。
あの夜の会話から、そんな発想が浮かんだのは、翌日の海の上でのことだった。
いつも通り、夜明けから漁を続け、一通りの仕事が終わったところで、港へ帰る途中だ。
もし彼女が苦しんでいるとすれば、それは自分が嘘をついているからに由来するものだ。
たとえ自分の考えが間違っていたとしても、本当に彼女のことを想うなら、真実は伝えなければいけない。
海に沈める発言は取り消してくれないだろうか。まだあの時の怒りが残っているならば、真実を伝えることは、まさに自殺行為となるのだが。
彼女と長く触れ合う内に、もちろんすごく怒るであろうが、最後に許してくれる。そんな気がしてきた。

そうだ、彼女に真実を伝えよう。今まで嘘をついてきたことを謝って、自分が彼女の言う『彼』であることを。そして、自分の彼女への想いを。
一つの決意を胸に、近づく港の先、自分の家のある方向を睨む。

その時は全く気にしていなかった。視線の少し下、港で「最悪の事態」を告げるために俺を待つ一人の教団聖騎士の存在を。
11/02/23 05:41更新 / 如月 玲央
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■作者メッセージ
「本当に申し訳ありません!執筆が非常に遅れてしまいました…。これは全て、『ポケットに収まる怪物』のゲームのせいです!」
「そこっ!言い訳しない!…小説とか知らん!とか叫んで延々タマゴを孵化させてたのはどこの誰ですか!?」
「はい、本当にごめんなさい。素直にサボってました。それにしてもミス確認と付け加えのために読み返すときは地獄ですね。実は主人公が漁師のくせに漁をしているところが一切書かれないのは、ただ単に私が漁師というものが全く分かってないのです。誤魔化しているつもりではありますが…何か文句があればどうぞ遠慮なく!」
「知らないで書いてたの…本当にこの人は…」
「今回でほのぼのとした二人の生活は一旦終わりです。次回はちょっとシリアスになる予定です。ほのぼの期待してくださってる方にはすいません…。ていうか次でラストになると思うのですが」
「もう別の話考えてるみたいですよ。ただ、書くのはいつになることやら…」
「ただ、何せ非・有言実行の人間ですので…何だかんだで番外編的な物は書くかもしれません。まぁちゃんと終わらせれるかどうかをまず考えないといけないのですが!次話もいつ出せるか分かりませんが、どうぞよろしくお願いします!」

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