連載小説
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汚された誓い
 小山のような、見上げる巨体。
 纏う鎧はまるで巌だ。
 巨木を思わせる手足と、
 城壁をも断つであろう、長大な剣。

 敵うはずがない。
 だが、ルーナサウラはそれでも挑む。

 大剣をかいくぐり、幹のような足に斬りつける。
 ガギィッ!
 あまりにも堅い手応えに、剣を取り落としかける。
 危険を察し飛び退けば、羽虫を追う鷹揚さで、巨腕が通り過ぎたあとだった。

 距離を取れば、痛痒も感じてはいないだろう巨人の姿が、悠然とそびえている。
 隙を窺い、斬りかかり、かすり傷も負わせられず、コソコソと距離を取る。

 ――惨めだった。

 これが、ルーナサウラ・チェグィーがよく見る、悪夢のパターン。
 だが今日は、いつもと違う。登場人物の、その数が。

「サーラ!」
 いつの間にやら巨人の左手に掴まれているのは、彼女の主であり、騎士として護持すべき貴き君であり、……少女にとって大切な幼なじみであった。
「殿下!?」
 髪の色が体にうつったのかと思うほど、真っ赤な怒りが胸を焼き、頭に血が上る。
「殿下を離せぇッ!」
 隙を窺うことも、フェイントを打つことも忘れ、最短距離を真っ直ぐ駆ける。
 そして、
「はぁッ!」
 裂帛の気合で剣を打ち込み、
 ガッ、キィィィィィィン……。
 高音を鳴り響かせて、少女の剣は真っ二つに折れた。
 だが、呆然とするヒマなど与えられず、暴風を巻き上げながら巨人の蹴りが迫り、
「っガハッ?」
 大きな爪先が胴にめり込む。肋も内臓も、全てがひしゃげていたとしてもおかしくはない衝撃が身を襲い、鞠のように蹴り飛ばされてしまう。
 何度か地を跳ね、転がる。
 息ができない。
 手足が痺れて動かない。
 意識が朦朧とする。
「サーラ!」
「……っ? で……か……」
 立たなければ。立って、守らなければ。
 視界は霞み、世界が回る。
 だが、耳はよく聞こえた。

「お前は頑張った。我が男爵家の娘として、誇りに思う。これで、陛下の覚えも目出度かろう」
 父の声がする。殿下の遊び相手として白羽の矢が立った時、父は『家名を売れる』と喜んだ。

「女だてらに騎士の真似事なんて。嫁入り前の娘がすることですか」
 母の声が聞こえる。手にマメを作り、体に傷が増える度、『女だてらに』と嘆かれた。

「呪われ王子の守り役から解放してやろう。剣を捨て、ウエディングドレスで着飾るがいい。お前のようなじゃじゃ馬でも、女として儂が可愛がってやろう」
 耳障りな音がする。婚約相手の狒々爺。伯爵の地位にあり、諸侯の中でも有力者だ。昨年開かれた御前試合の際、どうやら見初められてしまったらしい。

 更には、同期の騎士達の影がちらつく。
 嘲弄の声。
 同情の声。
 哀れみの視線。
『騎士団に身を置かずば、騎士に非ず』
 そう、わたしは騎士団には属していない。殿下専属の、たった一人の護持騎士。
 だが、それでいい。
 わたしは、それが良い。
 殿下を守れさえすれば。
 あの子の盾となり、矛となれれば。

 ――もっと力があれば。

 ――もっと強ければ。

 ――あの子を、狭い檻から連れ出せる、自由な翼があれば!

「サーラ!」
 あの子が呼んでいる。わたしを、わたしに付けてくれたあだ名で。
 だから、わたしは――。



「――リーフィ!」
 ルーナサウラは、叫びながら跳ね起きた。
 そこは寝台の上だった。広い部屋には、品の良い調度品が配されており、一目で高貴な者の住まいと判る。大貴族の屋敷か、はたまた城か。

「ようやくお目覚めかい?」

 その声は比類なき美しさで……。澄んだ音色は俗世の穢れに染まっておらず、『言葉』だと認識するのに時間を要した。
 そして。
 音の発生源に目を向けた少女は、呆気にとられてポカンと口を開いてしまう。

 美しかった。

 寝台から離れた壁際に、それは居た。
 現実にあるまじき造形美は、生者ではなく彫像のようで。だが、彫像にはあり得ない生気と、それ以上の妖艶な空気。その上、完璧でありながらどこかが狂い、見る者の心を蝕む、なにか――。
「っ? 魔物!?」
 色素の抜け落ちた髪と、血のように赤い瞳。何より、頭の角と、背後に見えるのは翼と尻尾か。
 人間であるはずがなかった。
 素早く床に下り、さきほど視界の端に捉えておいた愛剣を掴み、鞘を払う。
 夢とは違い、剣身にはヒビ一つ入っていない。
 服装は、いつの間にか膝丈のチュニックに変えられており、多少ヒラヒラするが動きに支障はなさそうだ。
 五メートルほどの距離を置き、対峙する。
「お前は何だ! ここはどこだ!?」
 叫んだあと、最も大切なことに気付く。守るべき主君の姿がない。あの盲目の、か弱い少年が、側に居ない。
「殿下をどうしたっ? 言え!!」
 この言葉に、どこか見定めるようだった硬質な瞳が、冷徹な紅玉から、熱を帯びた葡萄酒へと蕩ける。
「殿下って、ミリシュフィーンのことかな?」
「殿下の御名を気安く呼ぶな!」
「君が問うから、尋ね人を確認しただけなのだが」
 これ見よがしに肩をすくめるが、魔物の白い相貌はどこか愉快そうで。
「私の名はアストライア。ご覧の通り人間ではなく――リリムだ」

 ――リリム。

 その言葉は、ルーナサウラの頭の中を真っ白にする。
 魔王の娘にして、凶悪強大なる魔物。一体で一国を滅ぼしたとの噂もある。ドラゴンやバフォメットと並び称される存在で、災害の類いと等しい。
 そんな大物が、何故、ここに?
 だが、すぐに頭を切り換える。
 この魔物がここにいる理由など、知った所でなんになる? それよりも、こいつは殿下の名前を知っていた。ならば、その行方も知っているのだろう。
「殿下の場所を言え。言わねば」
「言わねば?」
 揶揄の響きが終わらぬ間に、ルーナサウラの赤髪が軌跡を曳き、白刃が閃く。

 響き渡る、甲高い激突音。

 白い喉元を狙った剣は、黒衣の袖から這い出た鋼に遮られた。
「魔物め!」
「いかにも」
 かつて騎士の持ち物だったそれは、蛇から剣へと身を戻し、今は女主人の手の中で、少女の必殺剣を防いでいる。
 ルーナサウラが、鍔迫り合いで壁に押し付けようと踏み出せば、アストライアはひらりと身を翻し、容易く位置を換える。
 だのに、背後を取ったにもかかわらず、リリムの攻撃はなかった。
「人間にしては、速いね」
「黙れ!」
 振り返りざま、少女は剣を振る。
 綺麗に作られた軸は、無駄な動作を削ぎ、速さと、勢いを生む。
 それでも、防がれてしまう。
「よく練磨されている」
「口を閉じろ!」
 大上段から真っ向に振り下ろしながら、体ごとぶつかっていく。
 斬り結ばれた剣同士が激しくぶつかり合い――ルーナサウラの剣は、折れた。
「威力も――ッ?」
 アストライアの言葉は、最後まで続かなかった。
 折れた剣には頓着せず、女騎士は掌中の柄から手を離すと、魔物の腕へ手を伸ばす。
 黒衣越しのたおやかな腕を、掌で擦り落とす。
 大型獣の鈎爪に引っ掻かれでもしたように、アストライアの体は前方に引き込まれ――そこに、強烈な掌打がカウンター気味に打ち込まれた。
 人間ならば、心臓のある辺り。
 そして、それだけでは終わらない。
 突進の勢いそのままに、鳩尾へと肘がめり込む。
 これも、霧の大陸の武術だ。本当ならまだ続きがあるのだが、未熟な少女拳士はこれが精一杯だった。
 だが、まともに決まったはずだ。

 後方へ吹き飛ぶ魔物の体は――どういう訳か、床に転がることなく、ふわりと着地する。

「凄いね」
「っ、効いていない、のか……?」

 ぞっとするほど美しい顔には、苦悶のかけらも浮かんでおらず。
 ルーナサウラは、愕然とするしかない。
 けれど、それもそのはず。アストライアは、わざとその身で受けたのだから。
「剣術も、体術も、よく練られている。限られた才能の中で、研鑽を積んだようだね。勇者と呼ばれる連中も凄いが、私は君のような人間も賞賛に値すると思うよ」
 実際、アストライアは感心していた。だからその言葉に嘲りはなく、率直な賛辞であったのだ。
 しかし。
「ッ!? 貴様に……貴様に何が解る!!」
 少女の中で、何かが弾けた。
 心が、赫怒それ一色に染まる。
 もう、技術も何もあったものではない。憤激に身を任せ一歩を踏み出し――足が、動かなくなった。
「何だっ?」
 足下を見れば、粘液状の黒い何かが床一面に広がっているではないか。そしてその黒は、リリムの足下から泉のように湧き出している。
「楽しかったよ。けれど、もう終わり。これからは私が攻める番だ」
「卑怯なっ!」
「卑怯も兵法さ」
 床から、黒い粘液が蛇のようにいくつも伸び上がり、少女の体に絡みつく。暴れても、強靱かつ弾性に富むそれは、千切ることも振り解くことも叶わない。
 本来アストライアは、こんな回りくどいことをせずとも、人間ごときもっと手っ取り早く無力化できるし、力でねじ伏せることも朝飯前だ。そうであるにもかかわらずそうしないのは、ひとえに、彼女の性格ゆえだ。
 興趣を好むのだ、この、魔界の姫君は。

 魔性が、暗黒の絨毯を渡る。

 愉悦に細められた目は、赤ワインをたたえたように煌めき。薔薇の唇は下弦の弧を描き、新月刀の危うさを想起させる。
 二人は、至近で対峙する。
 アストライアも女性にしては背が高い方だが、ルーナサウラはより高い。
 高温の炎を思わせる青い瞳が、赤眼を射貫く。
「囚われのお姫様を助けるどころか、騎士の方も囚われてしまったようだね」
「殿下はれっきとした男児だ!」
「ああ、『知ってる』よ」
「なに!?」
 言葉に滲む不穏な響きに、ルーナサウラが詰問の言葉を発しようとした、その時だった。
 つっ、と差し伸べられた淫魔の指が、すい、と、縦に動く。それだけで、触れてもいないのに、膝丈のチュニックは左右に裂けた。
 乙女の裸身が晒されてしまう。
「き、貴様!」
 羞恥と怒りに染められた肌は、しなやかな筋肉と適度な脂肪とで造られ、健康的な色気を醸していた。
「へえ、じゃじゃ馬娘にしては、なかなか色っぽいじゃないか」
「だまれだまれ! 破廉恥なっ、恥を知れ!!」
 怒れる女騎士の罵声など涼しい顔で聞き流し、白くほっそりした指が、うっすら割れた腹直筋をなぞり上げる。
「きゃうっ? んんーっ!」
 指が腹をかすめただけ。ただそれだけなのに、ルーナサウラを恐ろしいまでの快感が襲う。半ばで悲鳴を呑み込んだが、眼前の淫魔にはしっかりと聞かれてしまった。
「ふふ、可愛らしい声だね? 今まで男に肌を許したことは?」
「だ、誰が男になぞ!」
「ああ、そう」
 アストライアは身を屈め、少女の股間辺りへと鼻を近付ける。
「やめろっ、寄るな!」
 それには構わず、クンクンとこれ見よがしに鼻を鳴らし、
「ははあ、確かに。処女の匂いがぷんぷんする。おぼこ娘の、未成熟な匂いが」
 そのあまりな物言いに、生真面目な少女は人生最大の辱めを受け、目に涙を溜めて叫んだ。
「悪魔! 汚らわしい! 剣を取れ! 正々堂々と勝負しろ!!」
「私は剣より房事が得意でね。だから、こちらで勝負するよ」
「恥知らず! いずれ貴様のような淫魔、神の裁きが――くぅっ、んんっ、んーんっ!」
 白魚の指が腹をなぞり上げ、鳩尾まで到達する。それから斜めに逸れ、左胸の付け根をすぅっと一周した。
「結構大きいんだね、君のおっぱい。これなら、未来の旦那様のおちんちん、挟んでご奉仕できるよ? 良かったじゃないか」
「誰が奉仕な、ふわわぁっ? あ、やめっ、んぅぅ〜ッ!」
 抗議の声など聞かず、指の動きが再開される。くるぅりくるぅり、ゆっくりと円を描き、乳房の周囲を一周する。更にそこで終わらず、螺旋の動きで肉の丘を登り始めた。
「んんっ、ん、ん、ん、んーーーッ!」
 足場をシッカリ踏みしめ登山するように、脂肪の弾力をじっくり味わいながら、ジワジワと円は狭まり、頂きに実る可憐な果実へと近づく。
 ルーナサウラはこれ以上なく焦っていた。
 たかだか胸の脂肪が、こんな淫らな感覚器官だったとは思いもしなかったのだ。剣を振るのに邪魔なだけ、男の視線を集めるだけの、無駄な贅肉としか捉えていなかったのに。
(来るな来るな、来るなーーー!!)
 パニックを起こしながらも、乳首へ迫る痺れるような快感だけは、ハッキリと感じてしまう。
 恥ずかしい悲鳴が漏れないよう、一生懸命に口を引き結び、イヤイヤと首を振る。
 けれど、抵抗虚しく、

 ツン♪

 指先は乳首へと到達してしまったのだった。
「んはぁっ!? あああぁぁぁーーーん!!」

 目の裏側で星が散る。
 体の制御が利かず、思わず爪先立ちになりながら、弓のように身を反らしてしまう。当然、そんな姿勢になれば胸を突き出してしまう訳で、

 ぷにぃ♪

「ひぃんっっっ? っくふぁ〜〜〜!?」
 愚かにも、肉の果実を陵辱者に捧げる羽目となり……快楽を引き出す淫らなスイッチを、自ら押させてしまっていた。
 しばらく空白の世界を漂い、やがて、がくりと全身の力が抜け落ちる。
「ふう……ふぅ……ふぅ……んっくぅ……」
 荒く息をつく裸身は、どっと噴き出した汗でてらてらと輝き、戦うために鍛え上げられたしなやかな肉体も、こうなると男を誘うだけのメスの肉体でしかない。
「派手にイったね?」
 投げかけられた意味は分からずとも、からかわれているのだけは理解できた。白い魔物をキッと睨み付けるが、そんな仕草も艶を帯びてしまう。
「こ、こんなっ……はぁ……はぁ……こんなもの、どうという、んっ、ふぅ、ことはない!」
 ガクガクと震える膝は力が入らず、触手のような黒い戒めがなければ、きっとその場にくずおれていただろう。だが、負け惜しみだと解っていても、言わずにはおれなかった。
 ……黙ってしまえば、こんなにも強烈な快楽、すぐに屈してしまいそうで怖かったのだ。
「そうかい?」

 ピィンっ♪

 人差し指が、怯えるように身を硬くした乳首を、軽く弾く。
「ッきゃあぁぁぁーーー!? わわわぁ〜〜〜んッッッ!?」
 再びピーンと弓なりにのけぞり、腹筋をいやらしく波打たせてしまう。

 はぁはぁと、荒い息づかいと卑猥な熱気とが、部屋に満ちる。
 やがて、先程よりも時間をかけて息を整え、むしゃぶりつきたくなるような艶姿をグッタリと弛緩させながら、囚われの女騎士は言った。
「う、動きをっ、ぁぅぅ……封じてぇ、はぁ……はあ……嬲ることしか、んっく、できんのか!?」
 目尻に涙を溜めながら、気丈に言い放つ。

 が、次の瞬間。
 潤んだ蒼玉は、めいっぱい見開かれた。
「で、殿下!?」
「サーラ」

 扉の前に、いつからそこにいたのか。敬愛し、何より大切に想っている少年の姿が、そこにはあった。
 少年は、目を白黒させる臣下の方へと、ゆっくりと歩み寄る。――杖も持たずに。
 だが、混乱の極みにある女騎士は、己が抱く違和感を正しく認識できない。
「あ、あ、殿下? え、どうして……あ、イヤっ、ダメぇ!」
 目が見えていないと分かっていても、裸身を、それもこの少年の前に晒してしまうのは、あまりにも恥ずかしい。
 思わず、少しでも秘部を隠そうと太腿を擦り寄せれば、

 くちゅり♪

 淫らな水音を奏でてしまう。
 いつのまにか陰部は潤みきり、足を伝って床を汚していた。
「イヤイヤっ、ダメぇ!」
 にちゃり♪
 反射的に身をよじれば、ますます水音を響かせてしまい、むしろ隠すどころか誘っているようにしか見えない。
 これまで必死に強がり、気丈を崩さなかった強い少女は、今では、顔を真っ赤に染め上げ、半分泣きべそのような表情になっている。
「サーラ」
 側まで歩み寄った少年は、静かな声で、こう告げた。
「サーラって、いやらしい女の子だったんだね」
「ち、違いますっ、これは!」
「でも、今まで聞いたことがない声を出してたし、それに匂いも」
 なじるような言葉に加え、仔犬みたいに鼻をヒクヒクさせれば、少女の羞恥は弥が上にも煽られてしまい――とうとう、頬を涙が伝った。
「も、もうしっ、申し訳あり、ありませんぅ」
 嗚咽をこらえながら謝罪を述べる臣下に、少年は言う。
「でも僕、いやらしいサーラも好きだな」
「……え?」
「伯爵なんかに、僕の大事なサーラを取られたくない。ねえ、僕の物になってよ?」
「は……? え? え、え、え、えと、殿下、なにを?」
 ルーナサウラは、またもや混乱の渦に叩き込まれる。
(だいじ? だれが? わたしが……殿下の物に?)
 先程とは全く違う理由から、少女の顔が真っ赤になる。
 心臓は早鐘を打ち、胸が苦しい。
「どうなの? 僕だけのサーラになってくれないの?」

 きゅん♪

 胸が締め付けられる。
 ドクドクと拍動する心臓のせいで、息が苦しい。頭が働かない。けれど、なけなしの理性を総動員させ、忠義の騎士は言葉を紡ぐ。
「お気持ち、勿体なく思います。されど、殿下とわたしは主従の間柄。そ、それに、その……わたしごときをご所望なさらずとも、殿下にはいずれ見合ったお方が……」
 何故、こんなことを言わねばならないのか。ルーナサウラの胸は締め付けられるばかりだ。
「サーラが好きなんだ」

 きゅきゅん♪

 その言葉で、心臓が破れるかと思うほど、胸が高鳴った。
「しゅ、しゅき!?」
「大好きなんだ」
 きゅん♪
「僕のお嫁さんになって」
 きゅん♪
「赤ちゃん産んで欲しい」
 きゅ〜ん♪

 これ以上言われたら死ぬと思った。心臓が破裂して、胸が弾け飛ぶ……本気でそう思った。

「ああぁ……でも、でもぉ」
 それでも騎士は、頷けない。剣を取ったあの日から、『守り抜く』と誓った日から、何があろうと、何を犠牲にしようと、ミリシュフィーンの『騎士』であり続けるのだと魂に刻んだ、その誓いが胸にある限り。

「そう……」
 落胆が滲むその声に、少女の胸は罪悪感で押しつぶされそうになる。
 けれど。
「じゃあ、『うん』って返事が貰えるように、がんばるね?」
「え……何を……殿下?」
 戸惑う乙女をよそに、少年の小さな手が伸び、

 くちゅり♪

「んみゃあああぁぁぁ〜〜〜んっっっ♥!?」
 しとどに濡れた秘部に、そっと触れたのだった。
「わあ〜、びしょびしょ」
 少年の声は、少女騎士の耳には届かない。
 胸を弄られた時の比ではない。快楽も、過ぎれば暴力だ。全身が感電し、神経は焼き切れ――自分は死んでしまったのではないかと本気で思うほど、激しい快感に打ちのめされたのだった。
 無防備に仰け反り、生物としても女としても弱点である場所を晒し、ヒクヒクと、筋肉を痙攣させる。
 パクパクと、陸の魚みたいに口を開閉させ、足腰はガクガクと激しく震えるばかり。

 やがて。
 長い時間を置いてのち、ガックリと項垂れた乙女の騎士は、ハッ、ハッ、ハッ、と断続的に荒い息をつきながら、全身から噴き出す汗でびしょ濡れになってしまっていた。
 ぬらぬらと光を照り返し、高潔さの欠片も感じさせない、ただただスケベなオブジェに成り果てている。
 割れた腹筋は荒波のようにうねり、ペニスを突き入れたなら激しい締め付けが堪能できることを確約している。
 ピタリと閉じていた秘部は、蕾が花開くようにほころびかけ、あふれる蜜で男を誘う。

 ある程度女騎士の息が整うのを待ってから、少年は指を進め、蜜壺の中に浅い侵入を果たした。
「ふおぉんッ!? ダメダメダメダメダメぇぇぇーーー!!?」

 悲鳴混じりの懇願は……聞き届けられなかった。

 かり♪ かり♪ かり♪

「イっきゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッッッ♥ カハッ――――――!!」
 膣の浅い部分、ザラザラした所を、華奢な指が優しく引っ掻いた。
 案の定……いや、予想以上の締まり具合を発揮してしまい、女の子みたいな指をはしたなく締め付ける。
 いっぽうルーナサウラは、躾のなってない下半身のことなど気にしていられない。肺の中身を吐ききってなお、嬌声を止める術は無く……無音の悲鳴が無残に続き。音の出せない上の口の代わりとばかりに、

 ぷしゃあぁ〜〜〜♪

 下の口から見事な潮を噴き上げて、少年の手をぐっしょり濡らした。
 だが、小さな手の動きは止まらない。
 かり♪ かり♪ かり♪
 貪欲に食いついてくる膣の中、ざらつく性感帯を執拗に責める。卑猥な指遊びを続けながら、彼は言う。
「僕の物になるよね?」
「だめ♥ ひぃん♥ 殿下♥ おゆるし♥ おぉんっ♥ おゆるしをぉ〜んっ♥」
「許して欲しかったら、言うことがあるでしょう?」
 かり♪ かり♪
「だ、だ、だってっ、らってぇー♥ 騎士♥ きしぃっ♥ きしなのぉッ! っおん♥」
「うんうん。僕だけの騎士なんだよね? それで、僕のお嫁さんにもなればいいさ」
 かり♪ かり♪ かりり♪
「しょっ、しょんにゃぁっ♥ よわっ♥ よわくなりゅ♥ 好きになっなったらぁっ♥ よわくぅっ♥ しょこっしょこよわいぃぃぃんっ♥♥♥」
 首は取れそうなほど激しく振られ。
 腰は、複雑にグラインドしながら跳ね回り、どんな踊り子や娼婦よりもいやらしく下品に振りたくる。
「もう〜、そんなに動いたら、サーラの大事な処女膜、破れちゃうよ?」
 その言葉に、ルーナサウラの顔に焦りの色が浮かぶ。
「やぶいちゃらめぇっ!」
「僕のおちんちんで破いてもいいかな?」
「あああぁぁぁぁぁぁ〜〜〜ん♥ おじひをぉっほぉ〜ん♥」
「指で破いちゃおうかな?」
「ヤあぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん♥ いやいやぁぁつ、いじわるらめぇッッッ♥」
「おちんちんで破いても、いーい?」
 この問いに……少女の顔がくしゃりと歪み、
「騎士でいさせてぇッ! よわいのヤだあぁッッッ! わたしが守るのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 とうとう、大粒の涙をあふれさせ、泣きじゃくり始めてしまった。

「やれやれ、なんて強情な子だ」

 それは確か、淫魔の声。
 何故今まで気にならなかったのだろう?
 ずっと部屋にいたはずなのに、アストライアの存在を、今の今まで忘れていたことに、ルーナサウラは気付く。
 が、そんな違和感などどこかへ吹き飛んだ。
「ッッッッッッッッッ〜〜〜!!?」
 膣壁を擦り立てていた少年が、指の動きはそのままに跪くと、乙女の陰核を口に含んだのだった。
 チュッ♪ チュッ♪ チュウッ♪
 吸啜音も高らかに、内と外から責め立てれば、性経験のない乙女には耐える術はなく。

 ぷっしゃーーーーーーーーー!!
 盛大に潮を吹き、
 ジョロロロロ〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪
 ついでとばかり、小水も漏らしてしまったのであった。

「……あひ♥……あへ♥……はひ♥……はひぃ♥……は♥……ひ♥……ぃ……」

 全身、汗みずく。涙と、涎と、愛液と、小水で、足下は水たまりができている。

 少年の姿は、どこにもない。

 無残な姿に成り果てた、乙女の騎士に歩み寄り。魔城の主は顔を寄せ、だらしなく半開きになった口を、薔薇の唇で塞いだ。
「ん……ん、んっ!?」
 こくり。
 何かを流し込まれ、確認する間もなく飲み下してしまう。
 カッ、と下腹部が燃えるように熱い。
 同時に、脳裏に浮かぶ、淫らで凄惨な陵辱劇。
 少女の愛する、心を殺してでも守り抜くと誓った少年が、淫魔に犯し尽くされる光景が――。
「殿下!? 殿下殿下ッ!! ああ……いやいやいやーーーーーーーーーッッッ」
 ルーナサウラの宝物が汚されている。
 この世で最も大切な存在が奪われている。

「ファーストキスだったかな?」
 眼前の魔物が、口角を吊り上げて笑む。
「君がグズグズしているから、大切なものを二つも失ってしまったね」
「……き……さ」
「初めてのキスと。それから、王子様の童貞」
「…・・キサマ」
「あの子、とぉっても可愛かったよ?」
「貴様アァーーーーーー!!!!!! 殺してやるッ、殺してやるッッッ、ほどけぇ!!!」
 少女の視界が真っ赤に染まる。
 淫魔の所行は苛烈な騎士の逆鱗に触れ、彼女を憤死させかねないほどに激昂させる。
 どこにそんな力が残っていたのか呆れるくらい、ルーナサウラは滅茶苦茶に暴れ始めた。だが、触手の拘束は頑丈で、びくともしそうにない。
「さあ、ではお待ちかね。騎士殿のロストヴァージンだ」
 一本の触手が鎌首をもたげ、まるで、男のペニスを模した凶悪な形になる。それも、極太の、だ。
「クソクソクソッ、離せぇッ!!」
 暴れる少女に構わず、触手ペニスは未だ乾きを知らない秘部へ宛がわれ、
「ひぃうぅッ!?」
 軽く触れただけで痺れる快楽を与える。
「好きでもないエロ爺にくれてやる、何の価値も思い入れもない処女だ。ブスッと華々しく散らしてみようじゃないか♪」
「イヤだっ! やめろ!!」
「下手に膜などついてるから、未練が残る。これは私の慈悲だ。君は伯爵様に嫁ぎ、私はミリシュフィーンと新婚生活だ。あの子は私がちゃあんと守るから、君はエロ爺と子作りに励みたまえ」
「ヤダヤダ! あの子はわたしが守るんだ!!」
「ミリシュフィーンは私の旦那様だ」
「ちがうちがう! わたしのリーフィだ!!」
「あの子に一生可愛がって貰えない、可哀想な用無しおまんこ、バイバイ♪」
「リーフィっ、リーフィーーーーーーーーーッッッ!!」
16/04/22 20:26更新 / 赤いツバメと、緑の淑女。
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