トイレの中で学園に来る前の出来事を回想していた。

「まさかあんな初歩的なミスをするなんて…」

この擬態装置は想像以上に体に馴染んでいた。
まるで脳がこれを体の一部として認識しているかのように…
ずっと付けていたら本当に体の一部になってなってしまわないだろうか？

「とりあえず出よう…」

手記も描き終えたので、トイレから出る。

ニュルリ

「ひゃあぁん///！？」

トイレから出た瞬間、何かが足に纏わりついてきた。
足元を見ると桃色の粘液が自分の足をよじ登ってきている。

「一体…何なのですか…くぅ///！！」

桃色の物体は自分の下腹部目掛けてどんどん足を登っていく…
まさか誰かに正体がバレた！？
そうするとこれはその誰かが仕掛けたトラップ！？
こんな早くに任務を終えてしまうのだろうか！？
早く…何とかしないとッ！！
誰か…ッ！！

「こらー！！　早く戻ってくるであります！！」

誰かの呼び声と共に桃色の粘液は足元から離れていく。
声のした方を向くと、粘液と同じ桃色の物体に跨った少女が居た。
先程足に纏わりついていた粘液は声の主の少女の跨っている物体の元へと行き、そのまま同化した。

「すみません、バドが迷惑をお掛けしたようで…」

「いえ…そのバドとは？」

「あぁ、わたくしの半身である寄生スライムの名前であります！」

「ぷるぷる」

「申し遅れました、わたくしはスライムキャリアのペトラと申します！！」

「カノンです…ペトラさん、先ほどは助けて頂いてありがとうございます。」

「むしろこちらが謝るべき事であります！」
「バドは生まれたときから一緒にいるのでありますが、時々勝手に行動したりしてしまって…」
「まさかバドが分身を使って人様に無理矢理やらしいことをしてしまうとは…本当にすみませんでした！！」

「いえ、すぐに駆けつけてくれたお陰で大丈夫でしたので…」

「それにしてもバドは普段は他者に関心を示さないでありますが…」
「もしかしたらカノン殿には魔物を惹きつける何かがあるのかもしれないでありますな！」

ギクリッ！

幸い彼女自身は私の正体に気付いていないようだ。
とりあえずこのバドとか言うのには今後警戒せねば…

「とりあえずこれも何かの縁！　宜しければ外までエスコートするでありますよ！！」

「いえ…すぐそこなので大丈夫ですよ…」

「遠慮せずに！　ほらほら！」

「あ、ちょっと！？」

スライムキャリアの少女ペトラに手を引かれながらトイレを後にした。


◇〜◇〜◇


「おや、遅かったねぇ」

トイレの外にはマルタが尻尾を伸ばしながら待っていた。

「おや、キミは？」

「はッ！　スライムキャリアのペトラと寄生スライムのバドであります！」

「中々お堅そうなスライムキャリアだねぇ。」

「寄生スライムに襲われている所、助けて頂いて…」

「いえ、あれはバドの一部で元々はこちらの落ち度であります！！」

「そいえば寄生スライムは宿主の意識を読み取って行動するらしいけど…」
「寄生スライムがそういう行動を取るという事はキミの頭の中は中々やらしい事になってそうだねぇ。（ニヤニヤ」

「そ…そんなことないでありますよ！！」

「そうやって即座に否定するところが怪しいねぇ。」

「むぅ〜！！」

「二人とも、そろそろホームルームが…」

「あ…」

「そうだったであります！！」

「「「急げーッ！」」」

キーンコーンカーンコーン


◇〜◇〜◇


「皆さ〜ん、集まりましたか〜？」

「「「は〜い！！」」」

「何とか間に合ったね…」

「はい…」

マルタとは席が隣同士のため、こうやって内密に会話もすることが出来る。

「では出欠を取りますね〜♪」

次々と生徒の出欠を取っていくアヤメ先生。

「よし、全員居ますね！」
「では、記念すべき最初のホームルームの内容を説明しましょう。」
「最初のホームルームの内容はズバリ！　みんなで自己紹介をしてみましょう♪」

自己紹介…やはり来たか！

「では、くじを作ったのでくじを引いて自己紹介の順番を決めましょう。」

先生は順々に席を回っていき、生徒達にくじを引かせていく。
先生が私の席の元に来ると、私もくじを引いた。
そして先生は大蛇の様な巨大な蟲の魔物の前までやってきた。
あの大蛇の様な蟲の魔物はどうやってくじを引くのだろうかと観察していると、口と思わしき部分から手が出て来て手探りでくじを引いていた。
中に誰か入っているのだろうか！？
全生徒にくじを引かせ終わると先生は教卓へと戻っていった。

「皆さん、くじを引き終わりましたね。　では手元のくじを開いてみましょう♪」

言われたとおりに引いたくじを開いてみる。
開いたくじには「30」という数字が書かれていた。

「カノンは何番だった？　ちなみにわたしは6番だよ。」

「30番、一番最後ですね…」

「そっかぁ…大トリは大変だねぇ。」

「くじを開きましたね♪　では1番から順番に自己紹介をしていきましょう！」
「じゃあまずは1番の子、前へどうぞ♪」

「はッ！！」

元気の良い掛け声と共に桃色のスライムに跨った少女が教卓の前にやってきた。

「あ、先程の…」

「わたくし、スライムキャリアのペトラ・ベフトォンと申します！！」
「そしてこっちが相棒のバドであります！！」

「ぷるぷる」

「将来父上と母上の様な立派な魔界騎士として精進するために魔界国家レスカティエからやってきたであります！！」
「以後お見知りおきを！！」

「はい、ペトラさんありがとうございます！　では次は2番の子、前にどうぞ♪」

ペトラは自己紹介を終えると自分の席に戻っていった。

「レスカティエってあのレスカティエ！？」

「へぇ〜、あの娘レスカティエの出身だったんだ。」

レスカティエ
教団の人間ならその名を知らぬものは恐らくいないだろう。
もっとも現在では悪名の方が強いが…
かつて、教団においても当時は二番目の戦力を誇った宗教国家であり、世界一の勇者産出国であったとされる。
しかし、魔王の第四王女デルエラの侵攻により、その栄光はたった一夜にして終えることになった。
現在は過激派と呼ばれる魔物の勢力が蔓延る魔界国家と化しているという。
彼女とうまく親しくなれば、レスカティエの内情の話も聞けるだろうか？
今度聞いてみるとしよう。

色々考えているうちに次はマルタの番がやってきた。

「次はわたしだね！」

マルタは教卓の前へと移動する。

「わたしはラタトスクのマルタ！　お母さんの仕事の手伝いの為、一緒にこのピステーゼの街までやってきたんだ！」
「お母さんはピステーゼで郵便屋の仕事をしているんだ。　わたしも将来お母さんの様な立派な郵便屋さんになるのが夢なんだ。」
「みんな、よろしくね！」

「はい、マルタさんありがとうございます！　では次は7番の子、前にどうぞ♪」

自己紹介を終えたマルタは隣の席まで戻ってきた。

「いや〜大勢の前に立つのも中々緊張するものだねぇ…」

「ちょっと尻尾震えてますよ？」

本当に内心緊張していた様だ。
お気楽そうに見えて案外小心者なのかもしれない。

クラスメイトが次々と自己紹介をしていくと、次は例の蟲の魔物が呼ばれた。
机と机の合間を縫って教卓の前まで器用に這っていった。
蟲の魔物が教卓の前まで移動すると、口をモゴモゴさせ始めた。
すると、口の中から小柄な少女の姿が顔を見せた。

「はじめまして…わたし、サンドウォームのラピス…」
「みんなとはちがって、ちょっとかわったところがいっぱいあるけど、どうかよろしくおねがいします…///」

「ラピスさん、よく頑張りましたね。　もう戻って大丈夫ですよ♪」

やっぱり中に人の姿があったのか…
しかしちょっと変わったどころの話ではないと思うが…
他の皆は気にしている容姿は無いようだ…流石は多種多様を謳う学園だけはある。

そして、様々な生徒の自己紹介が終わり、遂に自分の番がやってきた…

「ではいよいよ最後ですね。　30番の子、前にどうぞ♪」

来た！
学園に来る前に決めておいた「設定」はちゃんと頭に叩き込んである。
準備は万全だ。

「はい…！」

先生に呼ばれ、教卓の前まで移動する。

「皆さん、初めまして。　サキュバスのカノンです…」
「生まれは田舎の小さな村ですが、親の都合で各地を転々とし、現在は親と離れてこのピステーゼにやってきました。」
「皆さん、どうかよろしくお願いします」

クラスの皆に向けて頭を下げる。

「カノンさん、ありがとうございます！」

自己紹介を終え、自分の席に戻った。

「転勤族なんだね、なんか色々と大変そうだね…」
「親と離れて寂しくない？」

「いえ…慣れてますから…」

そもそも自分に親など居ないが…

「では、全員の自己紹介も済んだので朝のホームルームを終わりましょう。」
「休憩の後はみんなで校舎を見て回りましょう♪」

「「「はーい！！」」」

こうして、通過儀礼とも言うべき自己紹介は無事に終わった。

「皆さん、お疲れ様であります！！」

「あ、ペトラ！」

「あの…ペトラさん…」

「何でありましょう？」

「もし、宜しければ今度レスカティエのお話を聞かせて頂け…」

「勿論であります！！　何から聞きたいでありますか！！！」
「レスカティエの七姫でありますか？　それとも魔王第四王女デルエラ様についてでありますか！？」
「いやいや、まずは我が母上と父上の武勇伝からお聞かせ致しましょ…」

「いえ、また今度で宜しいので…」

物凄い食いつきぶりだ…
変に言いくるめなくても色々と話してもらえそうだが、今聞くと色々と情報量が凄い事になりそうだ…

休憩時間に入ると蟲の魔物…もといサンドウォームが丁度近くを通った。

（改めて近くで見ると凄い迫力…）

するとサンドスウォームはこちらに振り向き、口の部分を開いた。

「はじめまして、サンドウォームをみるのははじめて？」

「え…えぇ…」

「うふふ、はじめてみるひと、みんなめずらしそうにみるからすぐわかる。」
「わたし、ラピス。　よろしくね。///」

人の部分が手を差し出してきた。

「よ…よろしくお願いします…」

こちらも手を差し出し握手を交わす。

（生暖かい…変な感触…）

「よろしくね！　ラピス！」

「ラピス殿、よろしくであります！！」

こうして、賑やかな時間は過ぎていく…

■作者メッセージ
報告メモ
『学園には多種多様な魔物娘が在籍している。
高位の魔物に遭遇するリスクもあるが、様々な魔物の生態を観察できる事だろう。
もっとも、近くに情報の扱いに長けたラタトスクが居るので、正体が看破された時のリスクは常に孕んでいるので、慎重に行動していく事にする。』