連載小説
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はじまりはやはり些細なことから
休み時間 

オレは友達にリーシャのことを話していた。なんでもコンビニでのやり取りを見ていた人がいるらしく、その話が休み明けの月曜日広まった。で今、目の前にいる2人もまた確認のため俺の話を聞きに来ているのだ。
1人はワーキャットの吉野(第1話の冒頭、俺を抜いていったのは彼女)、もう一人は小池(男)。

「話を聞く限り、2人は恋人っぽくないね」
「うん、どっちかって言うとだらしない弟とツンデレ風のなんでもできる優秀な姉って感じだな」
「なんでだよ」
俺とリーシャは第三者からそんな風に見えることに若干のショックを受けつつ言い返す。

「なんつーか、イチャイチャイベントが少ないっていうか」
「お互い恋愛初心者っていうことを差し引いても・・・・」
たしかにそういわれると同年代どうしのカップルに比べればイチャイチャが少ないとは思ってしまう

「いや逆に大人の恋愛なのか?」
「なるほど、だったとしたらなおさらじゃない、まだヤってないんでしょ」
はっきり聞いてくる。
「・・・・うん」
確かに大人の恋愛ならセックスは当たり前のようにある。

「・・・・・別にいいだろ俺たちのことなんだから、それより進路希望どうする?」
俺の机には朝のホームルームに配られた一枚の紙。受験生ではないが現時点での進路予定を書いて提出しなければならない

「これね・・・」
「周りの大人の話し聞いてみろって先生言ってたけど」
「周りの大人って親とかでしょ、うちは勉強しろしか言わないから聞く気起きないな」
「大人ね・・・・カイトはいるからいいよな」
羨ましそうにこちらを見る小池

「?」
「そうね、身近にいる」
吉野も何か分かった風の表情でこちらを見る。
こいつら何を言ってるんだ?

「・・・・・・?」
「分かんないのかぁ、両親のことじゃないぞ」
ニヤニヤ笑う

「さっきまで自分で話してたでしょ」
ようやく2人が言いたいことに思い至る

「・・・・・リーシャのことか」
「そうだよ」
「恋人さんに手取り足とり体で教えてもらうんでしょ」
「ベッドの上の進路指導とか羨ましいぞ、このヤロー」


ベッドの上の進路指導・・・・

夜、リーシャの寝室で「私が大人にしてやる」と押し倒されて

「ちょっと待って心の準備が」
「心の準備などいらん」
「そう言われても」
「ここが準備万全なら問題ない」
いうとズボンの上から股間を撫でる・・・・


たまらなく魅力的だ・・・・・・ってそうじゃない、いつの間にか話がリーシャのことに戻っている。
我に返り言い返す

「俺たちは健全な関係だ」
「紳士気取りすんなよ。」
「もう、そんなこと言って彼女さんかまってあげないと寂しがるよ」
すでに彼氏がいて散々ヤッている吉野がいうと言い返せない

「そうだぞ、社会人だから出会いも多いだろうし」
2人は冗談で言っているのだろうが自分の彼女が淫乱であるかのようにいわれるのは結構頭にくる。
しかしここでムキになってはダメだ。

「俺の彼女はそんなことはない」
「そうか?」
実は俺は彼女のことについては肝心なことを言っていなかった。

「だって彼女ヴァンパイアだから」
いって首筋の噛み跡を2人に見せつける
驚く2人。
たぶん今の俺はうざいくらいドヤ顔をしている

「何か言うことは?」
「リーシャさんにごめんなさいと」
「同じく」
「分かればよろしい」

「木崎ー」
「どうしたタカヒロ」
「みっちゃん先生から連絡。放課後職員室に来てほしいって」
「放課後?」
「明後日の委員会についてだって」
「わかった」











夜 

俺はリーシャに電話した

「でな、職場の先輩がどうしても人数が足らないからと私にまで食事会に誘って来たんだ」
「食事会って要は合コンなんだろ」
「そうだ。ったく私には恋人がいることを知っているのにだ。座ってごはん食べていればいいってひどいと思わないか」
「うん、ひどいな。で断ったんだよな」
「結構お世話になっている先輩だったから断りにくかったが終業時間際に急な仕事が入ってきたから断ることができた」
「・・・・よかったな」
「それがな、そうでもないんだ。食事会の会場は会社の近くだったらしくて、帰り道、駅前で2次会に行こうとする先輩たちと合ってしまったんだ」
「もしかして今から参加しないかって誘われたのか?」
「そうだ」
「先輩あきらめないな」
「先輩じゃなくて、相手の男性グループのほうからさそわれたのだ。お酒が入っていたからか私に絡んできた。」
「ちょっと待って。その合コンカップル成立しなかったのか?先輩人間なのか?」
「魔物と人間半々だ。魔物が出る合コンは普通そうなるんだがな、今回は特殊なケースでお互い遊び人だったらしい」
「魔物なのに?」
「そうだ、まあ最終的にカップルになるんだろうが、その前にめいっぱい遊んでおきたいというのだろう」
「ふーん、珍しいな」
「魔物側も少しは人間に考え方に影響されるんだ。で男性側の1人が私に興味を持ってしつこく誘って来たんだ。先輩はなによ私たちじゃ不満なのって怒ってたけど、酔っていたから頼りにならなかった」
「・・・・・。」
「恋人がいるからと言っているのにしつこく誘ってきてな。向こうは遊びだから問題ないと思ったのだろう。酔っていてちゃんと話を聞いてくれないから私も頭に来て大声でここに欲求不満の男がいますよと言ってやった。そしたらすぐに何人か魔物娘がやってきて・・・・たしかミノタウロスかアカオニにのどっちかにお持ち帰りされたんだったな、しかもお持ち帰りされたのはその男だけではなくそばにいた男性グループ全員だった。すごかったぞ、デパートの初売りみたいだった」
「・・・・・すごいことしたな」
「まあな・・・・すまないな。途中から不快にさせるような話になってしまった」
「・・・・うん」
確かに不快な気持ちになった、けど愚痴を聞くことも大切だと思う。
吉野いわく愚痴が聞けない相手とは深い関係になれないらしい

「話を変えよう、最近の学校生活はどうだ」
「特にこれといったことはないけど。あっそうだちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ」
「学校から進路についてどう考えているのか書いて出さなくちゃいけなくなってさ」
「ああ」
「でも、いきなりそんなこと言われても分かんないだろうから大人の話を聞けって」
「私の話が聞きたいと」
「うん」
「いいぞ、で現時点では進路はどう考えているんだ」
「・・・・・大学?」
「なんで疑問形?」

というやり取りの後きちんと相談するため週末会う約束をした。吉野たちは恋人に進路相談することを冷やかしたが、学校と家の往復しかしない高校生が先生、親以外の大人に進路相談できることは少ない。恋人が社会人でよかったと思う。






んふ・・・・


いいぞ・・・・あぁ・・・いい!


そんなとこ・・・・らめぇっ


いじわるしないで・・・・んぁ


もっと、もっと突いて!


いいよ、出して


ああっ、いっちゃうーーー






「・・・・・・っ!」
俺は目を覚ました。
「・・・・・・・なんだよこの夢」
リーシャが知らない男に抱かれていた。いわゆる寝取られというやつだ。
悪夢である。数日前のリーシャの話を聞いたせいか?
いやな汗もかいている
「・・・・・・・」
ふと携帯電話が光っていることに気付く。俺が寝た後にメールが来ていた。
確認する。

「夜遅く申し訳ない。明日、私のほかに人生の先輩(私の後輩)に来てもらうことになった・・・・・」
リーシャからだった。進路の参考は多いほうがいいという彼女の気遣いだった。返信メールを打ってふとんに潜る。



・・・・・人生の先輩って男じゃないよな?


さっき見た夢のせいかそんな気がしてならなかった。











翌日


「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
妹に見送られ玄関を出る。
タイミングよくリーシャの運転する車が自宅前に来る。運転席側の窓が開く

「おはよう」
「おはよう、助手席に乗っていてくれ、お母様に挨拶してくるから」
「わかった」
彼女は車から降りて家に入っていった。



数分後彼女が戻ってきた。
シートベルトをしながら言う

「お母様は進路のプリントのこと知らなかったぞ。なんで進路相談の話をするといっていないんだ。おまえの進路のことは家族にも関わるのだぞ」
注意されるオレ。彼女の言う通りオレは両親に進路予定のプリントの存在を言っていなかった。
「・・・・ごめん」
「謝る相手は私ではないお母様だ。帰ったら言っておけ」
言い終わると車を発進させた。

今のところ吉野と小池の言う通りとだらしない弟とツンデレ風のなんでもできる優秀な姉である。





「そういやメールで言っていた後輩の人は?」
「ああ、大学時代の後輩で、本当なら2人来るはずだったんだが。彼女のほうが予定があって彼氏だけが来ることになった」
「彼氏ってことは2人はカップルなの?」
「そうだ」
「・・・・・・・」

帰ってきた答えに黙ってしまう。
リーシャの家に俺以外の男性が来る・・・・・・・・・・
別に特別なことではない。
俺に女友達がいるようにリーシャにも男友達がいる。
それにその男性は彼女がいる。
それなのにこの表現できない気分は・・・・昨晩の夢のせいで少しナーバスになっているだけだと思う

「どうかしたか?」
「どうもしない」
「・・・・そうか」
ちらりとこちらを見てそう彼女は言った。








「初めまして、松井ショウゴです」
「木崎カイトです」
俺たちが家に着いてしばらくしてから彼女の後輩、松井さんはやってきた。

「さっそく本題なんだが、カイトは今のところ大学に進むんだな」
「うん、ぼんやりとだけど」
「しかし、今の高校は早いうちから進路を意識させるんですね」
「そうだな、松井はカイトと同じ年の時、進路のこととか考えてなかっただろ」
「そうですね。3年になってみんな大学に行くっていうから慌てて勉強はじめてよくわからないまま合格して入学っていう感じでしたね。ごめんあんまり参考にならないね」
「カイトにはこんな風にはなってほしくない。だからよく考えてほしい」
「・・・・・」
「そんなこと言われちゃうと面食らっちゃってプレッシャーだよね」
「はい」
「自分が何がやりたいのかも分からないのに将来を選べって言われても困っちゃうよね」
「はい」
「だから、木崎君のとりあえずの進路大学で何をやる伝えることからはじめないですか?」
「そうだな」
松井さんは鞄から冊子を取り出しテーブルに置く
「これは」
手に取る。
「□□大のパンフレット、私たちが通っていた大学だ」
「通って大学のほうが説明しやすいですからね」
「・・・・・・」
パラパラとページをめくり目を通す。
キャンパスや学生の写真、教授による学科説明、学生自身による学生生活の紹介、留学や資格講座案内、サークル・同好会紹介、学校アクセス案内・・・・・

「リーシャは○○学部だっけ?」
「そうだ」
俺は○○学部の紹介が載っているページを開く。
「懐かしいな」
「そうですね」
「なんでリーシャはこの学部を選んだの?」
「私は・・・・・」



ここからリーシャと松井さんの学生生活の話がはじまったのだが話が途中で脱線、大学時代の話に盛り上がってしまった




30分後




脱線していた話を戻し履修制度を説明する

「・・・・・で専門科目以外にも履修しなくちゃ科目があって」
「えっ、他にもあるんですか」
「外国語科目や教養科目もあってとらなければいけないのだ。うちの大学にはなかったが体育科目を課しているところもあるそうだ」
「へえ」
予備校の大学案内や進路の先生は教えてくれない大学の話にオレはただ頷くだけだった。

「専門科目は必ず取らなくちゃいけないから大変だったな」
「ああ、おまえは苦労してたな」
「専門はやっぱり難しいんですか?」
「内容が難しいということもあるが、1時限目にあると遅刻や居眠りが多くて落としやすいのだ」
「僕も入ったころは慣れなくて寝坊して遅刻、遅刻しなくても居眠り、寝坊した日はあきらめて自主休講とかしちゃってて、必修なのに落としそうな科目ができちゃって。あの時は本当に危なかった」
「テストやレポートを出せば問題ないんじゃないんだ」
「その内容が授業に出ていないとわからなければ意味ないだろう。必修科目は単位を落とせば再履修となる。だから当時のこいつは私に泣きついてきたのだ」
「あの時は本当にありがとうございました」
「私がいなかったら本当に卒業できなかったんじゃないか?」
「・・・・・否定できないですね」
「そんなにひどかったんですか?」
「さっきも言った通り、1年の時の僕はひどくてね、赤井先輩のおかげで何とか持ち直して心を入れ替えたって感じかだね」
「説教でもしたのか?」
「世の中そんなに甘くないということを教えるため条件付きで授業ノートを貸したんだ。こういうのは口で言っても分からないから身をもってな」
「へえ」
「血を提供しろって言われた時はびっくりしましたよ」
「えっ」


 血? 血液?








「リーシャ、松井さんの血、吸ったの?」


沈んでいた言い表しようのないもやもやとした気持ちが膨張してくる。
全身を血の気が引いていくよう感覚走る。


これはなんだ?


知らなくてもよかったことを知って後悔した時の気持ちに似ていて
どうしようもないのに抑えられずどこかにぶつけたくてもぶつけられるところがなくて
でも吐き出したい、言葉にしたい何かが俺の中を駆け巡っている

リーシャは少し気まずそうに答える
「ああ、・・・・正確には指を針でさして、スプーンでなめとったんだ」
「・・・・・・・・」
「木崎君?」
「カイト?」
「・・・・なんでもない続けて」
「・・・そうか、話を戻すぞ、それで・・・・・・・」


その後、大学の話、2人の進路選択、人間関係の話、仕事観などこれからの俺に役立つ貴重な話を聞いた。
でもオレはもやもやとした気持ちのせいでほとんど覚えていなかった
14/11/27 15:34更新 / 明後日の女神
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■作者メッセージ
久々の投稿です。カイトにどう嫉妬させるかに時間がかかりやっとのことで書き上げました。魔物娘の設定上男性が嫉妬する余地がないので、この話を成立させるためダークエルフさんの話を先に書いてそれに対応する話になりました。

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