連載小説
[TOP][目次]
ハーピーさんに告りたい
桜舞う、4月。
俺は正門前の桜並木で、はしゃいでる彼女を見た。
「わぁーっ、すっごいきれー!」
楽しそうな桃色の翼は、満開の桜はよく似合っていた。
その姿に俺は彼女に、小鳥遊 桃香に。
俺は・・・再び惚れ直した。

・・・

ね・・・の・・・は・・あ、あった。
2年B組 羽鳥 宙。
下駄箱で自分の組を確認する。
大まかに見た感じ、1年生の時のクラスメイトがちらほら居るので、今年も難無くやっていけそうだ。
今年の目標は1年生の時も好調に過ごせたので、2年生でも好調に過ごしていきたいものだ。
教室の位置は大きく変わり、4階だったのが2階に変わった。
文字で見ればただ2つ減っただけだが、大きく異なる。
こうやって考えているうちに教室に着いてしまう。
この差は非常に大きい。

「うっす、羽鳥」
「おお、佐藤か、うっす」
佐藤とは小学校、中学校と同じで、ここでも同じクラスとは腐れ縁を感じる。
「エリートさんは始業式早々、予習ですかい」
「今年も上位10以内に入るつもりだからな、佐藤もどうだ?」
返事は無く、代わりに苦笑いされた。
「成績優秀で、クラブは入ってないのに体育出来て、まるで天才だな」
「それなり努力してるから当然だろ?」
「告白以外はな」
「ぐっ・・・」
図星。

こうかは ばつぐんだ!▼

SMAAAASH!!

勉強も運動も努力に応じて、成績は付く物だが、告白は違う。
いくら努力しようと、いくら予行練習しようと、失敗の恐怖には打ち勝てないのである。
「今年こそやってやるさ」
深いため息が横で聞こえる。
「その言葉、何年目だ?」
「・・・2、3年?」
「9年目だよ!小学2年からずーっと言ってるから流石に覚えるわ!」
「え・・・嘘だろ?」
驚愕、驚きしかなかった。
去年も言っていた様な気がしていたが、まさか9年間も言っていたとは思いもしなかった。
「あのなぁ・・・小鳥遊とお前って付き合い長いんだろ?」
「まぁ・・・な」
「家は隣で、幼少の頃から家族ぐるみの付き合いで、小鳥遊とは本当の兄妹の様に仲良く、同じ釜の飯を食い、同じ風呂に入り、同じ布団で寝る程の仲だろ?もう付き合えよ」
「他人だからって好き勝手言いやがって」
いや、ちょっと待てよ。
「お前、詳し過ぎないか?」
「小学2年から何百回、何千回と自慢されたら流石に覚える」
「なんか、悪いな」
なんてだべっているうちに、新任の先生は来た。
「各自、席に座れー」
前のドアから先生が入ってきた途端、後ろのドアが勢いよく開いた。
「すいません、遅れちゃいました!」
全員の視線が後ろに集まるが、俺は声だけで誰か分かった。
「えーと、お前は・・・」
「小鳥遊桃香です、遅れてきてすいません!」
「小鳥遊か、えーと・・・あぁ、そこの羽鳥の横の席に座りなさい」
「はい、すいません」
スタスタと俺の横の席まで歩いてくる。
「なんで起こしてくれなかったのよー」
「お前起こしても起きなかっただろ?」
「だけどもさー」
不満そうに頬を膨らませているが、それもまた可愛らしいと感じてしまう。
「悪かったって」
その後は担任の話と始業式だけで、午前中で終わった。

・・・

「宙ー、一緒に帰ろー」
正門前で待ち伏せしている桃香と一緒に帰る、俺のちょっとした習慣になっている。
帰路はほぼ同じなので、一緒に帰る事が多い。
「新学期楽しみだねー」
「確かにな、定期テストの結果以外はな」
「うぅ・・・」
痛い所を付かれたそうで、うなだれている。
「去年はギリギリセーフで進級出来たけど、今年はどうなる事やら」
「でも、教えてくれるでしょ?」
「少しはな」
「ありがとうね」
当然だろ、と俺はそう返事したかったが、
「宙のそーいう所好きだよ」
その一言に面食らってしまい適当な返事しか出来なかった。
・・・。
ふと思ったのだが、今のこの雰囲気と言い、告白できんじゃねぇの?
えっ、好きって言われたよ?
いい雰囲気じゃねぇの、これ?
俺は勇気を振り絞って声をかけてみた。
「なぁ、少し」
「ねぇ、ねぇ、ねぇ!あのクレープ屋さん、桜味だって!行ってみない?」
桃香は公園のクレープ屋さんを指さして俺を肩を叩いた。
ただ、その行動は俺の精神力をごぉっそり持っていった。そう、ごぉっそり。

・・・

「お待たせしました、桜味2つです」
「ありがとうございます」
そして、俺らの手元にはピンク色のクレープが付与された。
1口食べてみたものの、桜味のゲシュタルト崩壊が始まった。
「おいひいへ」
「ちゃんと食べきってから喋りなさい」
「んー」
桃香にとっては甘いのだろうが、俺にとっては甘過ぎた。
俺も少し分かってきた、告白できない理由が。
「ねぇ」
恐らくさっきの中で出来るチャンスはあったのだろうが、俺には出来なかった。
「ねぇって」
多分だけど、俺には一生出来ないんじゃないかって思えてきた。
「ねぇってば!」
「おぉ、悪い」
「ここ、クリームついてるよ」
指を指して教えて貰っているがイマイチ分からない。
「だから、ここだって」
そう言うと桃香は俺の頬に付いたクリームを指ですくい、
そのまま舐めとった。
「美味しいね」
「っ、そうだな」
そうだった。
俺はこの満面の笑みに惚れたんだ。
俺はこの純粋で無垢な笑顔に惚れたんだ。
「ありがとうな」
「ん?んへへ、ありがと」
桃香は一瞬困惑したが、また笑ってくれた。

この時、俺は決めた。
今すぐとは言わないが、今年中に絶対告白する。
そう決めた。
19/04/30 22:29更新 / 白ご飯
戻る 次へ

■作者メッセージ
どうも。
前回の小説の感想返しを書くとエラーを発生させる能力者、白ご飯です。
え?4月も終わったのに始業式はおかしいって?
・・・今の季節にお正月出してる所もあるし、大丈夫でしょ(白目)

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33