読切小説
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死が二人を分かつとも
 カラーン、カラーン、とチャペルに鐘の音が響く。ヴァージンロードには僕と君の2人だけ

「あなた♡ 愛してます」
「あぁ、僕も愛してる」

神父すらいない二人だけの結婚式、しかし僕と君にとっては確実に最高の時間になっただろう。

「さぁ、薬指を出して」
「はい♡」

差し出された彼女の細くて、真っ白で、触れたら崩れてしまいそうな指に指輪を通す。そして僕も彼女に手を差し出し、指輪を付けてもらう。この瞬間、僕たちは神に認められた夫婦となったのだ。

「嬉しいです、翔平さん♡ 私みたいな人があなたみたいな素敵な人が結婚してくださるなんて♡」
「何言ってるんだ、君は十分素敵だよ」

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 私は杉浦翔平、しがない外科医だ。今は結構大きな大学病院に勤務している。まぁ、今すぐにでも辞めたいが。
辞めたい理由は単純、私が人は人の死に人一倍敏感だったからだ。学生の頃は自分を天才だと思い込ませたり、医者になりたかった理由の「人の命を救う」を盾に頑張れた。しかしいざ医者になってみればどうだ、毎日私の手から零れ落ちていく命、苦しむ患者。私はいったい何のために医者になったのだと毎日考えている。

「杉浦先生、新しい患者さんです」
「そうですか、通してください」
「わかりました。澪さーん、矢沢澪さーん。診察室にどうぞ」

聞きなれない名前。新しい患者さんだろうか、嫌だ、また1人私の手から零れ落ちてしまうかもしれない可能性が増えてしまう。

「失礼します」
「あぁ、おかけ…」

私は、神など信じていなかった。運命などくだらない迷信だと思っていた。しかし、今目の前にいる彼女が、僕の運命の人だと直感で感じた。

「どうかなさいました?」
「あっ、いや。おかけください」
「ふふっ、面白いお医者様ですね」

その後、彼女はかなりの重症だというのが分かった、色々な病院をたらいまわしにされ、ここにたどり着いたそうだ。

「それで…この病着は治るのでしょうか…?」
「私が、絶対にあなたの病気を治してみせます」
「本当ですか?ありがとうございます」

辛気臭そうな表情をしていた彼女が初めて笑った気がする。その笑顔は、とても暖かい物だった、僕は彼女の為に医者になったのかもしれない。今、この瞬間。彼女と出会い、彼女の病気を治すために。

彼女に惚れてしまった私だが、学生時代は勉強尽くしで青春や恋愛にかまけている時間が無かった影響で、彼女との距離を縮める事ができずにいた。勿論医者が患者に言い寄ることなど言語道断な事なのは重々承知である。しかし、それでも彼女と一緒になりたかったのだ。

「あら、杉浦先生。おはようございます」
「お、おはようございます。体調の方は?」
「今は…大丈夫です」
「そうですか、いい傾向です」

取り合えず毎日彼女と話をすることにした、これが正解だったかはわからないが日に日に澪さんとの会話量は増えていき今では軽い雑談をするくらいの中にはなれた。

「先生、私ね…」
「どうかなされたんですか?」
「時々すっごく、死んじゃいたい気分になるんです」

彼女から発せられた言葉は、重く、しかし軽々しい。きっとこれは本当の事で、彼女の本音なのだろう。

「お薬は不味いし、治るかもわからないし。いっそ死んじゃえば楽になれるのかもしれない」
「それでも…「それでも私は貴方を治してみせる」

つい反射的に言葉を返してしまう、まだ彼女は何か言っていたのに

「ふふっ、心強いです。信じてますよ、先生」

そのまま彼女は布団に入ってしまい会話が無くなる。

「それでは、業務に戻りますね」

病室から出る時に、うっすらと「頑張ってください」と聞こえる。勿論、貴方のためにも頑張りますよ

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そこから数か月、遂に彼女の手術のめどが立った、その事を彼女に報告しに行く。

「そうなんですね、やっと治るんですね」
「いや、正直に言うと手術をしたからって完全になるかもわからない」
「そう…なんですね…」
「でも…執刀は僕だ、僕を信じてくれ」

ポカンとした表情を浮かべる彼女は、数秒固まりその後笑い出す。

「あはは…そうですよね、杉浦先生ならきっと治してくれますよね。信じてます」
「ああ、それと…もう1つ言いたい事があるんだ…」
「どうかなさいましたか?」

遂に言うぞ…男になれ…今が勇気の出し所だぞ翔平…

「澪さん、あなたの事を愛しています。この手術が成功したら、付き合ってください」

また固まる彼女、しかし状況が飲み込めたのかしゃべりだそうとするも状況が飲み込めたことによりさらに顔が真っ赤になり上手くしゃべれないようだ。

「あっ… そっそそその…ズルいです…」
「杉浦先生はかっこよくて、家族からも見放された私に構ってくれて。そんな人に「絶対救う」なんて言われちゃって、しかもそんな愛の告白の仕方なんて… 私も…諦めてた恋に本気になっちゃうじゃないですか…」

ぽつりぽつりと声を発する彼女

「じゃぁ…告白は…」
「えぇ、まだ早いですが、私も大好きです♡」
「ありがとう…ございます」

思いがけず両想いとなった私達、しかしその蜜月は一週間も持たず遂に手術本番日になる。

「杉浦先生、絶対救ってくれるって信じてるから」
「あぁ、絶対に君を救ってみせる」

結果から言うと、手術は成功した。とても難しく、色々な病院がたらいまわしにするのも頷けるほどの難しさだった。正直彼女以外の人間に同じことができるかと言われたらできないと思う。彼女だからできたのだ。

「外の世界なんて久ぶり」
「今まで病院の中でしか過ごしてなかったからね」

遂に彼女が退院する日、退院日は私も有給を取り彼女の生きたいと所に行くと言ったのだが…

「なぁ、本当に良いのか?」
「えぇ、いいの」

車を走らせ着いた先は病院からさほど離れていないマンション。そう、俺の家だ。

「うわぁ〜、翔平さんがここで毎日寝てたりご飯食べてるのかぁ」
「よく病院に泊まってるけどね」
「それでも翔平さんのいい匂いが充満してます」

久しぶりの外なのだから観光地に行けばいいのに。まぁ、彼女が嬉しそうだからいいか。

そこから2年、私と彼女はお付き合いをし、入籍。彼女の希望により結婚式は神父も入れない二人だけの物をした。
そこからは私の人生で1.2を争うほど幸せな時間だった。

彼女が倒れるまでは

「おい!澪、しっかりしろ!!」
「しょうへい…さん…私は…ゲホゲホゲホ」
「無理にしゃべるな!!今から緊急手術をするからな。絶対に救ってみせる、約束だからな」

そんな俺の手を握り制止したのは他でもない彼女自身だった

「もう…無理なんです…いままで…ゲホッゲホ 健康だったのが…奇跡なんです…」
「ダメだ…諦めたみたいに言わないでくれ…」

自然と涙が出てくる、前が滲んで上手く見えない

「今まで…幸せでした…あり…が…とう…」
「ダメだダメだダメだ。おい!しっかりしろ、君が居なくなったら僕は…僕はどう生きていけばいいんだ!!」

その慟哭に答える声は無い。彼女は、杉浦澪はこの瞬間死んだ。

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あぁ…今日になるといつも思いだす。もう5年前だってのに。あれからの5年間、彼女を失った悲しみに暮れ1年休職をさせてもらったが今では復帰。彼女を殺した病気をこの世から抹消するためにも日々精進している。それが私なりの復讐だ。

「澪、今年も来たぞ。愛してる、例え死が二人を分かつてもな」

彼女の骨が収められた墓に話しかける。全く、そんなことしても彼女に声が届くわけでもないのにな…

「それじゃ、また来るから。絶対寂しい思いはさせないからな」
『いったわね♡』
「!?」

今確実に彼女の声が聞こえた。妄想でも、気のせいでもない。確実に聞こえたのだ。

「どこだ?いるのか澪! 出てきてくれ」

私しかいない墓地に声が響く、360度見渡してみても彼女の姿は無い。当たり前か…彼女はもう死んでいるのだ。
私は帰るために駐車場へ向かうためそちらへ体を向ける…

「みいつけた♡」
「…あっああああ」

澪だ、そのには澪が立っている。生前より肌は青白く、目元にはクマがあり。蒼い炎に包まれているが澪だ。

「澪、澪澪澪っ」
「あらあら、しばらく見ないうちに随分と甘えんぼさんになっちゃったね♡」
「ああそうだ、寂しかった。君のいない日々など無味乾燥でつまらなかった」

彼女に抱き着き今まで押し殺してきた気持ちを全て吐き出す。彼女のその間うんうんと頷きすべて聞いてくれた。

「そう、今までたっくさん頑張ったんだね。偉いよ」
「あぁ、俺は沢山頑張ったよ」

「でも、私は死んだ」
「私は苦しんだ」
「あなただけいい思いなんてさせない」

彼女の声色が変わり、彼女のドレスの一部が伸び俺と彼女をすっぽりと囲う鉄格子となる。

「あなたには罰として、死者の国に私と一緒に行ってもらうわ。」
「あなたがどれだけ死にたいって言っても死ねないし」
「あなたがどれだけ辛いって言っても終わる事の無い拷問」
「あなたにはたっくさん罰を受けてもらわなきゃ」

あぁ…そうか、彼女は化けて出たのか。そうれもそうか、彼女に救うだなんて無責任なこと言い、挙句救う事が出来ず彼女は死んでしまった。化けて出るのも頷ける。

「あなたは無責任に私の希望になって」
「あなたは死にたかった私を救って」
「生きる事なんてどうでもいいなって思ってた私に無責任に生きてもいいかなって思わせて」
「死にたくないって、生きたいって思わせて…」

彼女の声に鼻をすする声と鳴き声が入る始める

「あなたが…グスッ私を生きたいと思わせたのに…ズズッ死にたくないって思わせたんだから…グスッ責任取って私と永遠を過ごしなさいグスッ」
「あぁ、どんな事があっていい。また君と過ごせるなら」

生きることも、辛い拷問も、彼女さえいればどうでもいい事なのだ。

「えぇ、じゃあ行きましょうか、死者の国に。もうこの世界に帰れないからね」
「僕の居場所は、君の隣だ」
「そう。じゃあもう二度と離れる事の無いように、一生この鉄格子の中で過ごそう♡」

私と彼女の足元に暗闇ができ、ドプンと沈んでいく。

「あなた♡ 愛してる」

この言葉を最後に聞き、僕は気を失ってしまう

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「おはよう、澪」
「えぇ、おはよう」

あの後、澪から色々聞いた。魔物娘の事、自分の種族の事、男はインキュバスになる事、もう魂が澪に囚われてしまっている事など。

「ふふっ、朝からおっぱいちゅうちゅうするなんて♡ お腹の中の赤ちゃんの分をちゃーんと残しておいてくださいね♡」
「あぁ、勿論だ。しかし、澪の母乳は美味しいな。いくらでも飲んでいられる」

そう、澪の腹の中には私と澪との新しい命が生れ落ちるのを待ち望んでいる。
澪は腹をさすり私に注意をする。

「もっと吸いたいなら…もっと私に渡すものがあるんじゃないかな〜? 最近は赤ちゃんに精を取られちゃってあんまり精を吸収できないからなぁ… 赤ちゃんも私も満足出来るくらい沢山出してほしいなぁ…♡」

全く、今日も激しい夜になりそうだ。
22/11/07 03:46更新 / photon

■作者メッセージ
深夜にアイデアを思いつき、その4時間後に出来ていたssがこれ

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