連載小説
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3.蜘蛛の糸繰
なだらかな裾を持つ山々
息吹に満ち満ちたその姿は日の光をいっぱいに浴びて新緑の色を放っている
清清しい風が吹き、どこからか動物達の息吹を運んでくる
近くの枝から鳥の声、遠くの林から鹿の鳴き声、さらさらと心地よく響く木々のざわめき
そんな音の中に、一つ違う音があった

がさっ・・・がさっ・・・

四足の獣と違い、一定の足音
その足音の主は何かを背負い、細い道の両側に生い茂り被さる草草を踏みしめるかのように歩いている

「やぁ・・・やはり故郷の山はいいねぇ」
男だった
彼は、歩みを止めると頭に被った編み笠を少し上げ目線を足元から上に上げた
覆いかぶさるように茂る木々
そこからちらりと見える空は青々としていて本当に清んでいた
木々の間からは涼しげな風が吹いてきて、汗で湿った頬を撫でていく
水筒の水を飲む
喉を通る水は染み渡るようだ

「さて、あと一息だ」
山林の細い道
人通りも少なく埋もれてしまうかのような道を、歩いていく



しばらく歩くと、道が削れたように溝になっていた
「雨で削られたか・・・」
草の生えていない道
水が地に染み込む前に、むき出しの道を抉って行ったのだろう
しばらくそこを避けて歩むと緑をつけたまま倒れている木が道を塞いでいた
「・・・大雨でもあったのか?」
木は跨げるくらいの太さ
しかし、荷を背にしている彼は転ばぬようにと上に乗ることとした
大きめな石がある
それを踏み台にして上に上がる・・・

「・・・?」
荷を引かれた気がした
しかし、後にはなにもない
ではなんだ?この荷を引っ張るものは・・・
腕を伸ばして確かめようとした
「・・・うむ?」
腕を上げると肘が何かに引っかかった
引っ張ってみたけれども、何かは取れない
さて・・・困った
腕と荷をとられて、宙吊りになってしまった
このまま、木を降りれば取れるだろうか?
もし、取れなかったら本当に宙吊りとなってしまう
しばし思案することにした

「・・・まさかとは思うが・・・狐狸にでも化かされているのではあるまいな?」
編み笠をはずし、上を見たが何もみえない
木漏れ日が目に入るのでまた笠をつける
化かされているのであらば・・・

腰に下げた袋から煙管を取り出す。口に咥え刻みタバコを取り出すと注意をしながら丸めて煙管に入れる。その上に綿を丸めて火打ちの火を受け止めるべく置いてやる
そして、両手で火打ちを持つと火を点けるべく擦り合わせる
口に咥えた煙管。その綿に火を飛ばすのは至難だった
やっとの思い出火をつけると風を送り込んで赤々と燃やす
それは、だんだんと下の煙草を燃やし薄い煙を上げ始めた
「・・・ふぅ。一息・・・」
煙を吸い込む・・・
焦ったときの一息
化かされると言う状態は、恐らく何らかのきっかけと焦った状態によっていつまでも気が付かぬままいることなのだろう
そんなどうでもいいことを考えていた時だった・・・

『もし?そこなお人?』
声を掛けたれた
ありがたい。誰か来たのならばこの状態もなんとかなるであろう
しかし、奇妙なことにこの声は頭の上から聞こえなかったか?
『なにかお困りで?』
なお、問いかけは続く
今の声は先ほどよりすぐのところで聞こえた
近づいている?
「・・・」
宙に上がった手で笠のつばを上げる
軽く何かにその先が当たった
背を反らして上を見る
「・・・?」
最初に見えたのは髪の毛であった
黒く艶やかな髪が光を浴びて白く光っていた
目線を上に持っていく
どうやらこの人物は上からぶら下がっているようだ
額が見えた
その額には、黒曜石のような石のようなものが6つありその上に眉と目があった
その目は一心に私を見つめていた
女であった
目が合う
「なんと。これは私好みの好い女だな」
逆さまだが・・・若い女子が目の前にいた
そういうと驚いた顔をしたが、ちょっと笑って言った
『まぁ!・・・お困りでしたならば、わたしがお助けしますよ?』
そう言うと、女は艶やかに潤んだ唇を少し嘗めた
「いや。特に困ってなどおらぬよ」
『しかし、あなた様はずっとこうして立ち尽くしておられる。休むのであらばお座りになったらいかがかと』
「いや、少し地から上にあがった景色を見ているのだ」
『なら、もう少し上に上がりたいとは思いませぬか?』
「生憎だがこのままで・・・。私のことより、そなたこそ、その宙吊りのままではきつかろう。下に降りたらどうだ?」
『ならそのように・・・』
瞬く間に女の顔が逆さまではなく普通になっていた
何かが落ちる音もなく・・・
すっと・・・
目と鼻の先に女の顔がある
少々上目使いで、熱く見つめる女
おかしなことに気づいた
私は、木の上に乗っている
されど、女は木などに乗っていないのに私の鼻先に顔を寄せているのだ

熱いまなざしを送る女から逃げるように、横に足を滑らせると異様なものを見た
大きな蜘蛛のようなものが目の前にある
胴は蜘蛛、頭の部分は人の女の半身が伸びていた
「・・・アラクネ。蜘蛛殿か」
『ふふ。ばれてしまいました』
「ならば、この不可思議な状態は蜘蛛殿の糸と言うことになる」
『蜘蛛の糸に掛かったあなた様はわたしの獲物。さあ、どうやってわたしのモノにして差し上げようかと・・・』
「生憎だが・・・私は捕まる訳にはいかぬのだ」
「あなた様は、わたしを好い女と言ってくれました。わたし、そんな風に言われたのは初めてでございますの」
「そうか・・・それはすまなんだ。だからといってそなたに捕まってやるわけにも行かぬな」
「どうしても、嫌と申すのであらば・・・無理にでも!」
すすっと近寄り私を捕らえようと腕を伸ばした蜘蛛殿
体を捕まえるとそのまま口づけを交わそうとした
その前に、私は持っていた煙管を口に咥えて吸うと煙を吐きだした
まともに顔に煙を浴びた蜘蛛殿・・・
「っ!・・・ごほっ!!っ・・・ごほっ!!」
口に手を当て苦しそうに咳きをする蜘蛛殿
「これは・・・すまなんだ。されど、蜘蛛殿がいきなり来るから・・・」
「一体何なのさ?」
口と鼻元を押さえた蜘蛛殿は少し涙目になってしまっていた
「煙草をご存知ありませぬか?」
「煙草?何・・・それ・・・」
「この状態・・・最初、狐狸にでも化かされたのかと思ったのよ」
「こんな化かし方を狐狸どもがするとでも?」
「しませぬよなぁ。されど、慌てていたのでね。それで、一服している間になんとか良い案でも思いつくのでは?…と」
煙管をふかすと赤々と燃える火
それを見た蜘蛛殿は腰が引けている
「そ・・・そう」
「どうなさいました?」
「なんでもないわ」
腰が引けている蜘蛛殿・・・
そうか、彼女はアラクネ種。蜘蛛は火に弱いんだったな。ならば・・・
そろそろ、上げっぱなしにしていた腕が疲れてきた頃だった
足の裏も痛くなっている
「蜘蛛殿?済まぬがあなたの虜囚もこれまでとさせてもらおう」
「なにを・・・?」
煙管を腕の近くへ持っていく
何かが引っかかる
それは僅かな抵抗を残して消えた
「ああっ!」
わたしの糸が!とでも言うかのように悲鳴を上げた
荷のほうにも煙管を振ると、やっとのことで倒木から下りれることとなった

「残念。蜘蛛殿」
「そうでもない。あなた様のその火はいつまでも続くとは思いませぬ」
「ならば、火をなにかに移せばよいことでは?」
「・・・」
黙ってしまった蜘蛛殿
こんな小さな火だと言うのにずいぶん怯えている

「さて、行くか・・・」
「待ってくださりませ」
歩き出すとついてくる蜘蛛殿
私は蜘蛛がついてくるのを気にせず、道中を急ぐ
道は森を抜け、崖に面した道となっていた

「あなた様はどこまで行くのですか?」
蜘蛛が聞いてくる
「なに、この先・・・山を二三越えた先にある村よ」

崖の先に見える山々
眼下には急な勾配
沢があるのか水の音がする
空にはわずかに雲が浮かぶのみ
青い空と、ゆるい裾を持つ緑の山

「・・・久しぶりよな」
「なにがでありますか?」
「なに・・・この景色よ。前もこの景色を見ながら山を下ったのだ」
「なぜ・・・下ったのかお聞きしてもよろしいですか?」
「・・・」

私は少しずつ蜘蛛に聞かせた
何故?
故郷を前にして誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない・・・
足を止めて少し話す事にした


私の生まれはこの先にある貧しい山里でな
僅かな田畑と山仕事、そして織物で暮らしていた
本当に山の中で・・・
棚田を作り稲を育てる
棚田に出来ぬ土地には蕎麦や木綿を植えた
田畑の世話をしながら、蚕の世話をする・・・
今の時期は・・・蚕が繭から這い出して・・・青々と育った桑の葉を元気よく食べ始める時期よな
家の二階に台を置きその上にお蚕を育てる入れ物を置く。そうして、毎日毎日桑の葉を摘んできてはお蚕に持っていく
棚田では、水の中に雑草が伸びてきてしまう
だから、暇があればそれを取り除いてやる
毎日毎日・・・そんなことの繰り替えし・・・
自分達が暮らしていくのも精一杯で・・・
苦労して作ったお蚕の絹や木綿の織物も・・・どこからかやってきた商人が安い値で買い叩いていってしまう
本当に貧しい里なのだ
私はそんな里が好きだったが・・・
その貧しさを何とかしたくて旅に出ようと思ったものさ

里の者にはすまぬと思ったが・・・20となったその年に里を出た
里を何とかしてやりたい!そう思ってな
これはと思おう技を学ぼうといろいろと旅をした
大陸にはこの国には無い織物があると聞きあちらにも渡った
が・・・
たいした技も無い私が長くあちらに滞在できるはずも無く
結局、中途半端なまま国へと帰ることとなってしまったのだ・・・
この煙管はあちらでもらったものだ。嗜みのひとつなのだそうだ
タバコの葉が切れたらもう吸う事もあるまいな


話終え、ふぅと一息つく
「結局、なにも身に付かぬままの帰郷となってしまった・・・」
・・・
考えに耽っていると、蜘蛛が言った

「お気づきですか?煙管の火が消えてしまっているのを」
見れば確かに火は消えていた
「・・・」
「もう怖いものはないです。さあ、あなた様を捕まえたいと思いまするが・・・。その前に、あなた様に選ばして差し上げましょう。一つ…自ら進んでわたしを嫁とするか、一つ…わたしが無理やりにでもあなた様を夫にするか…どちらかです」
「その二つしかないというのか?」
「あなた様の位置からならば・・・見えるでしょう?すでにここいら一体には糸を張り巡らせておきました」
周りを見渡せば・・・日の光を受けて蜘蛛の糸が十重二十重と周りの道々に張り巡らされている
「どちらも飲めんな。なんとしても里へと帰らねばならん」
「そうですか・・・ならば無理やりにでも夫となっていただかねば!」
彼女の額の黒曜石のような目がきらりと光る

そろりそろりと近づいてくる
それを見てゆっくりと後に下がる
足元に崖が来た

転げ落ちた石が乾いた音をたてて落ちていく
急な勾配・・・ここを落ちたならばどんなこととなるのか・・・
崖の下は木々が覆いよく見えない

そんな時、普通ならばありえぬ考えが浮かぶ
木の上へと落ちれば・・・落ちたときの勢いを殺し・・・助かるのでは?と・・・
いくら蜘蛛とてこの急勾配は降りれまい

「一つ聞いておく。アラクネ・・・蜘蛛殿たちは反抗的な者ほど気に入るのであろう?ならば、私のような者を夫としてもつまらぬと思うが?」
「いいえ。あなた様は十分に反抗的ですわ。火をちらつかせてはわたしの糸を切り、あんなにもわたしを怯えさせたのですもの!そんなあなた様を捕まえて交わった時、あなた様はどんな顔をして喘いでくれるのでしょう。どんなふうにわたしの体に溺れていってくれるのでしょう!それを考えると今から楽しみで楽しみで!」
・・・やはり、逃げねばならんか
捕まったものは巣に連れていかれた後、ずっと拘束され続け交わり一色の生活となると聞いたことがある。そんな生活では逃げおおすことも出来まい
「さあ!」
両手を広げる蜘蛛
「・・・うむ
少し蜘蛛に向かって走り出しそのまま行く方を変えて道の糸の方へと勢いよく走った
「っ?!どちらへ!?」
そのまま、助走をつけて下の大きな木を目指して私は飛んだ
「せいっ!!」
「ああ!なんということを!!」
まさか、崖に飛ぶなどと思いもよらぬことだったのだろう
蜘蛛の悲鳴が後から聞こえた



「・・・」
生きているのか?少々体が痛い
目の前には、木の太い枝があった
どうやらそれに引っかかったらしい

「まったく無茶をする」
・・・どうやら逃げおおすことは出来なかったようだ
すぐ横から蜘蛛の声がした
「わたしが糸で捕まえなかったら・・・下の岩に当たっていたでしょう」
下に見える沢にはごつごつとした大きな岩があった
「確かに死んでいたな」
「それほどまでに里へと帰りたいと思うのですか?」
「そうさな」
「わたしと一緒にいつまでも暮らすのはお嫌でございますか?」
蜘蛛の顔が曇った
「捕まったものはその糸でずっと拘束され貪られ続けると聞いた。それは、なんとしても嫌だ」
「それは、好いた者の近くにいてもらいたいと思う心故・・・いけませぬか?」
蜘蛛は私を抱き寄せ下の蜘蛛の足を使って、器用にも糸をぐるぐると巻きつける
「・・・まぁこうして捕まってしまったのだ。・・・よろしくたのむ」
「はい!こちらこそあ・な・た!!」
「まだ、契ってもおらぬというのにあなたは早い・・・」
「照れなくても・・・」
「照れているのはそなたであろ?そんなに頬を染め耳も桃色となっている。そんなそなたを見ていると、まぁこんなのも悪くはないと思えてくるから不思議よの」
「わたしのモノとなってもよろしいと?」
「そなたが元凶とは言え、飛び降りた私を救ってくれたのはありがたかった。ならば、そういうのものなのだろう。だが・・・」
「やはり、里への思いは断ち切れませぬか?」
「そうよな」
「ならば・・・」



いきなり口を奪われた
手を添えて口を開かせると舌を差し入れてきた
「なっなにを・・・
舌が丹念に私の舌を舐める
舐めるたびに首や背筋に寒気のようなこそばゆさが走る

ちゅ・・・う・・・ん・・・ちゅ・・・れろ・・・

そんな音が口から洩れる
蜘蛛は私の目を熱く見ながら丹念に口を犯す
口の中を舐められて、唾が後から後から湧いてくる
それを舐め取り飲んでいるようで、時々こくんこくんと喉を鳴らしている
頭の中がだんだんとぼぅっとしてきて何も考えたくなくなるような・・・

そんな変化を見て取ったのだろう
少しにっと笑うと
「よろしいようですね。さて、あなたの下のモノはどうなっているのでしょうか」
と、言った。お互いの唾で艶やかに光る唇。その端から糸を曳いた唾がイヤらしい
蜘蛛が私の下半身をまさぐると糸と糸の間から私の大きく腫れあがったイチモツがそそり立った
「もうこんなに立派に・・・」
さっきから、蜘蛛の豊かな胸が私の胸に押し付けられていて、口の中を丹念に舐めようとすればするほど頭を動かすのでそれに伴い豊かな胸が形を変え、たゆんたゆんと胸元を刺激していった
そんな、刺激は確実に下半身を硬くした
「あはぁ・・・もうこんなにも固く・・・」
そそり立ったイチモツをやさしく握った蜘蛛
すべすべとしていて柔らかなさわり心地が滑る
「うっ・・・」
それだけでせり上がってくるものがあったがなんとか目を瞑り耐える
そんな私の下半身はビクビクと手の中で震えていた
「ふふっ。気持ちよさそうに…。そんなにこの手が良かった?でもね。これからもっと・・・手よりもいい気持ちになれるところへとあなたを導くけれど・・・耐えられますか?」
「はぁ・・・はぁ・・・」
「口も聞けぬほど良かったのでありましょうが・・・そんなあなたを見ているとわたしも耐えられなくなって・・・」
相変わらず蜘蛛の足に抱えられている。なんとか薄目を開けてみると蜘蛛は私を見下しながら言った
「どう?見える?あなたのそれを今からここに導きまする。さぁ、ゾクゾクするようないい顔を見せてくださいましね」
蜘蛛の腰にある膣の入り口をしなやかな指が、ソコを押し広げる・・・
赤く色づいた花のように色づいた花弁が今か今かと焦れるように震え、中からはぽたぽたと露が滴り落ちる
ゆっくりとぬるっとしたものを感じる。柔らかなものの中に包まれていく感触。思わず腰を引こうとしたけれども蜘蛛の足がそれを許さない
「逃げないで?逃げずともあなたを壊す快楽はすぐそこなのですから・・・」
そう言うと、少しずつ腰を動かしていく蜘蛛
本当に少しだったにもかかわらず温かなその中はイチモツすべてをキュッと包み込み言いようのない快楽を与えてくれる
旅の途中では自分で処理していたが・・・手でしか出来なかった感覚とは違い何も考えられなくなる。いつまでもそうしていたいと思った
「ふふっ。だいぶいいみたい」
抱きつきたいけれど糸に縛られそれは叶わない・・・なら・・・
舌を出して蜘蛛の口に懇願するかのように目の前で動かし言った
「ああっ。そなたがほしい!ほしくて堪らぬ」
「あはっ!仕方がないわね」
やっと堕ちたとでも言うかのように笑顔を見せると、舌が絡まる
腰はパンパンと音を立てながら叩きつけるかのよう
なにも考えられなくなっていた
だんだんと腰の動きが早くなる
蜘蛛も荒く息をしていて言葉少なげだ
「・・・ぁぁぁ・・・っうわ!・・・ぁぅ!」
ああっいいっ!・・・いいのぉ!もっとぉ・・・もっとよぉ・・・」
れろれろと舌の動きは速く舐めまわす
腰の動きは限界が近いのか小刻みに・・・
私はもう限界だった
はやいところ果ててしまいたかった
「ぁっぁっぁぁぁ。も、もうだめだ・・・蜘蛛殿よもう!!」
「もう少し・・・もう少し頑張るのよぅ!」
獲物を逃がさぬとまたきつく抱きしめる足
その足から逃げようと動いたからなのか膣の中をイチモツが大きく抉る
「あっ!ああーーーん!!」
弓のようにしなる蜘蛛の背
後に回されていた手が深く背を引っかいた
「うぐぁぁぁぁ!!」
痛みと同時に止めておいたすべての力が抜けたような気がした・・・
下半身に溜めておいた精が搾り取られるように中に注がれると、最後の一滴をも絞り取るかのようにまた、やわやわと動き出す
蜘蛛の顔は桃色に染まりきり堪らなく可愛らしく見えた
虚脱した開放感
その気だるさをふたりでゆっくりと味わった
天にも昇るとはこのような気持ちを意味するのか…



いつの間にか、見慣れない木々の間にいた
木々の間にはこれまでかと白い糸が張り巡らされている
その上に縛られて寝かされていた
「ここは?」
「ここは私の巣」
すぐ横に添い寝をしていた蜘蛛
「そうか。蜘蛛殿の家か」
「わたしの名はキヌよ?あなた」
「そうか。おキヌか・・・。ならば私も名乗らねばならぬか・・・清治という。よろしくな」
「清治さま」
「なぁ。おキヌよ。逃げぬからこの糸をなんとかしてはもらえぬか?」
芋虫のように縛られている
「本当に逃げぬと?」
「ああ」
しばらく考えていたが仕方ないと解いてくれた
「ああ。これでやっと触れる」
縛られていたものだから、あの時この豊かな胸を楽しむことが出来なかった
だから、今埋もれてみる
「清治さま?」
「あの時、これに触りたくてなぁ…。本当に極楽極楽!」
「ふふっ。いつまでも気の済むまで・・・」
「そうさせてもらおう」


この後、私の下半身が元気になったのを目ざとく見つけたおキヌに再び搾り取られることとなった


巣からは青空がよく見えた。木々の枝で日が直接当たらぬようになってはいたが木漏れの間から見えるのだ
緑の光が巣全体を包み込んでいる
地のほうを見れば、あの細い道と倒木が見える


「・・・道の溝と倒木に目と注意を曳き付けておいて、倒木の上に上がった獲物を糸で絡め取るか・・・頭のいいことだ」
「そうでしょう?でも、なかなか引っかかってくれないものだったわ」
これまでを思い出しているのか、もどかしそうな顔をしている
「そうであろうな。あの倒木は大人であれば一跨ぎで越えられてしまう。私はたまたま荷を背負っていたかたらな」
おキヌは、なにか足を動かしている
「それに、ここを通る方々は皆、マタギのような人々でわたしのような者を感じ取ってしまうみたいで・・・近くを通ってもすぐに逸れて行ってしまうのです」
「そうであろうな。それにしてもアラクネという種はやはりどこも同じと言うことか」
「前から気になっていたのですが・・・アラクネとはいったい?」
耳慣れない言葉だったようだ
「アラクネとは、蜘蛛の種のことよ。前に大陸へ渡ったと言ったであろ?大陸ではそう呼んでいたものよ」
「そうなのですか・・・」
「ところでさっきから何を作っているのだ?」
蜘蛛の足がキチキチと動き糸を編んでいるようだった
「ふふっ。良いものです」
「ふむ。ならばおキヌがどんなものを作るのか見せてもらおう」

いろいろな所へと旅をした。よきものはないかと・・・
深き藍を出す染物
薄い桜色を出す染物
いろいろな色を取り込みさまざまな色豊かな織物などから、
大陸には絹を紙のごとく薄く織り透かしたような編み物。、それは身に付ける女子を魅惑的に見せる下着に使う生地だったりと、さまざまなものがあった

目の前で編まれているものは、それらのどの編み物とは違うように見えるが?どうなのだろう
おキヌの糸は時に細く、時に太いそんな糸だった
確かに、糸の太さを替えられるならばその手触りにしろ、機能にしろさまざまなものとなろう
この巣に使われている糸も、太い糸細い糸、すべすべと手触りの良い糸、滑らないように手に吸いつくような糸から獲物を絡め取ったら離さぬものまでさまざまだ

「・・・おキヌよ。すまぬが私にも細くすべすべとした少し弾力のある糸を出してはくれぬか?」
「はい?どうするので?」
創作意欲を掻き立てられた
大陸でこの地よりも遥か向こうからやってきた者たちが作っていた編み物
それを作って見たくなったのだ
「私も少し作ってみたくなった」
荷の中からかぎ針の細かいのを取り出すと糸を手にする
・・・久しぶりだ。船の中ではやっている暇もなかったし・・・
そもそも、この国ではあまり作られてはいない編み物
教わった者達によると“レース編み”とか言うらしい
王侯貴族たちの間で広まったとかで人気だったそうだ



おキヌとの交わり以外は暇なのでそんな編み物をやってみた
糸で立体的に花を編む
白く光る花柄が出来るとおキヌは歓声を上げた
「きれい。編み方一つでこんなものが…」
「大陸の遥か彼方で流行っているそうだ。私もいくつか習っただけだが・・・。こんなモノや透けるように薄い生地を編み、柄として花や草などの模様を組み込んだものを羽織るのが向こうの身分あるものの流行りだそうだ」
そうして、薄く透けるような布を編んでみることにした
お絹も物珍しそうに時々覗いて見ている

ある朝、作りかけの生地を見てみると作っていたよりももっと大きくなくっていることに気が付いた
「これ・・・」
「清治が編んでいるのを見てやってみようかと・・・」
「すごいな。日の出からこの時間でこんなにも?」
「ええ」
なんと飲み込みが早いのか・・・。そして、私が編んでいた所よりもより正確に、それでいてきれいな仕上がりだ
「おキヌが作っていたものはどうした?」
そう言うと、つと目の前にそれは出された
「清治。あなたのために織りました」
「これを私に?」
白い浴衣・・・
手にとって見るとなんと肌触りのいいことか!
着てみる
さらさらとした着心地
着ている事を忘れてしまいそうなほどの軽さ・・・
「すごいな!おキヌ!!」
「お気に召しましたか?」
「ああ!とても!」
「うれしい。受け取ってくれた。ようやくこれであなたは晴れてわたしのモノに!!」
ああそうか。アラクネが服を送る時は“わたしのモノになれ”と言う意味と聞いたことがある
「そうか。なら・・・おキヌにはこれを・・・半分以上おまえが編んだものだが・・・」
彼女の頭にレースをかけてやる
「?・・・これは?」
「大陸の向こうでは花嫁と式を行う時にこれをかけてやるのだそうだ。確かにそれも頷ける。光が白く柔らかにおまえを包み込んでいてとても・・・とてもきれいだ」
「うれしい!!」
そして、私達は口づけを交わした
それは、いつもよりも激しい求め合い
抱きしめるとそのまま交わりとなった




ひとつ、思うことがあったのでお絹に訪ねてみるとことにした
「おキヌ。そなた、私と里へ行ってみる気はないか?」
「清治の里へ?」
「ああ。あの里をなんとかしたくて旅に出た私にはどうしてもそれが気がかりなのよ」
貧しきからなんとか抜け出せる手立てを考えていた私は、私やおキヌがもっている術を伝えればなんとかなるかもと思っていた
無論、お絹がここから動きたくないといえばそれまでだが・・・
「わたしのような者が行っても大丈夫ですか?」
「なに、里の者たちは皆、気の良いものばかりだ。里をなんとかしたくて出て行った私とそなたが行けば、皆歓迎してくれるであろうよ」
「・・・そこまで言うのでしたら」
「山深きところ故、人でない者は結構訪れるのよ。旅の途中で腹が減り力尽きた鳥とか、山の幸を持って酒を要求する鬼などな。皆、助け合って生きておる。だから、そなたが行っても大丈夫じゃ」
「そうでしたか」
微笑むおキヌ。翌朝、連れ立って里へと向かった



山は初夏となり緑は濃く青い
その緑の中を通って吹き抜ける風は、ひんやりとしていて夏であるのを忘れさせるかのように心地よい
風は音も運んできた。音の源・・・沢だ
沢に下りれば、雪が融けたばかりのような冷たき水が流れている
それを水筒に容れ飲む
人が通りにくいところは、おキヌが背に乗せ運んでくれた
落ちないように抱きしめると、温かく柔らかな体。それとともに腕をその豊かな胸が押してなんとも夢心地だった
そんな歩み



里の入り口には桑畑がある
青々とした葉をつけている
枝には、見た目葡萄のような小さな房が付いていた
「桑の実か・・・なつかしい」
黒く熟した実を口に入れる
甘く、少し酸っぱいそんな味
子供の頃、夏のおやつとして畑仕事の合間によく食べたものだ
「おいしいのですか?」
「ああ。あっ…その赤いのはまだ熟れてないぞ?それを食べたらそなたの可愛い顔が縮みあがってしまうぞ?」
赤いのを口に入れようとしていたので少し注意する
「もう!」
笑ってやると少しむくれたおキヌ


『・・・せいじ?清治!!』
どこからか名を呼ぶ声が聞こえた
声のしたほうを見ると、編み笠を被ったどこかで見た婆がいた
「おふくろ!?おふくろーーー!!」
桑の葉を摘み取っていたのか背の籠はいっぱいに入っていた
抱き合う
その体は、旅立つ前と違って痩せてしまっていた
「少し痩せたんじゃねぇべか?」
「んだぁ。清治さ、すぐに帰ってこないから清治の分まで頑張って仕事したべ」
「それはすまなかっただ。おふくろー」
「清治?あのべっぴんさんは誰だべ?」
「おキヌー?」
おキヌを呼ぶ
「あんれまぁ。蜘蛛さんだべか。よう来たねえこんななぁんもないところさ」
「おキヌといいます」
「おキヌさんか!いい名だなぁ。こんなべっぴんさん清治さの嫁になってくんないだべか」
「おふくろ?聞いて驚くでねえぞ?このおキヌは俺の嫁さぁ」
「・・・」
とてもびっくりとしたのか目を私とお絹と交互に見つけるおふくろ
頷いてやると、私とおキヌを抱きしめるおふくろ
「・・・でかしたー!!これで、里も家も安泰だべ」
うれし泣きなのか涙を目尻に溜めて喜んでいる
「清治!今、里のもんみんな連れてくっからそっから動くんじゃねぇべ!!」



「おキヌ。杞憂だったろ?」
「あんなに喜んでくれるなんて」
喜んでいるのだろう。少し顔が赤い


しばらくすると、里の者が総出で迎えにきた
「清治!!よっく戻ってきただ!!」
「べっぴんさん連れて来たねぇ。どこで引っ掛けただぁ」
「清治!どこまで行ってただぁ。あれから何年経つよ」
「べっぴんさん!べっぴんさん!!清治のどこさ惹かれただ?」
いっぺんにまくし立てられるように聞かれるものだから、なんと答えたものか・・・
おキヌは目を白黒とさせてしまっている
「いっぺんに聞かれても困る!!おキヌが困っているから少しずつ話せ!」
「おっと、それはすまなんだ」

「さて、皆の衆!!今夜は宴じゃぁ!!清治が戻ってきたことと、新しい嫁が来たことと今日は宴会じゃぁ!!」
「「「おーーーーぅ!!!」」」
本人達そっちのけで盛り上がる皆の衆
「その前に、これを見てくれ。これは、俺が旅をして習ってきたものだ」
荷から、各地の織物、染物を取り出して皆の手にまわしていく
『こんなものを他所じゃ作っているんかい』
『きれいねぇ。どうやって染めているんだろ・・・』
そんな声が聞こえる
「それからこれが大陸へ渡って習った編み物だ」
あのおキヌに糸を出してもらったレースの編み物・・・
それを見せると、女子衆の間から歓声が上がった
『なにこれ!!きれい!』
『こんな糸、見たこともない』
『こんな薄い物どうやって?』
「それは、おキヌが出した糸だ。なんていっても蜘蛛殿だからな。それは編み物“レース”とか言うもんだ。編み方は・・・俺が大陸で学んできたんだ」
「清治・・・おめ、海を渡っただか?」
「そうじゃ、オサ殿。なにか他では作ってない、珍しいものを探してなぁ。だからこんなに帰るのが遅くなっただよ」
「そうかぁ。後で皆に教えてくれろ」
「そのつもりじゃぁ。これがあのけちんぼな商人の目に留まったらどんな顔するか今から楽しみだんべ」

その後、オサの家で日頃の鬱憤を晴らすかのような宴だった


私が学んだものをおキヌに教えると、それは瞬く間に里の女子衆に伝わった
どうやら、教えるのもうまいらしい
里にやってきた商人が織物や編み物を見ると、仰天したような顔をした
こんな山の中ですばらしい織物や編み物があるとは思わなかったらしい
里の者達の前で、かつてない金子を支払うとまた来る旨を伝え、いそいそと帰っていった

里の者達は大喜び
私とおキヌの手を取り合って喜びの声を上げる者、涙を流す者、酒を持ち出す者
とにかく大騒動になった

その頃になると、おキヌの腹に新しき命が宿ったようだ
「おキヌ。こん里に来てよかっただろ?」
「清治。あなたが言ったとおり皆、良くしてくれてわたし今本当に幸せ」
「お腹の子も皆、喜んでくれたしの」
大きくなったお腹を撫でると幸せそうに微笑むおキヌ
「清治?これからも赤ちゃんともどもよろしくね♪」
「ああ。こちらこそ!」
耳をおなかに当て耳を澄ませば聞こえる鼓動
はやく元気に出ておいで?



夏の青空の下
薄く透けるような白く輝く衣を身に付けた
天女に勝るかのような女子が一人
腰より下はまさに異形
されど、それに寄り添う男
彼らの顔は晴れやかで
笑顔が枯れることはない
腹に宿った新しき命に心弾ませながら
彼らは明日を歩んでいく…
11/03/19 23:53更新 / 茶の頃
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■作者メッセージ
途中から何を書きたくなったのか分からなくなったけど・・・投入
アラクネさんです
なかなかジパング種の話が思いつかず・・・まぁいいかw

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33