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出会いは突然に──とは言っても殴るのは勘弁

『アイミンカワイイヤッター!』
 と、どこかで聞いたようなスラングを交えつつ自作イラストを載せたツイートを送信する。
「ふぅ……んっふっふ〜♪いやぁ、やっぱかわいいなぁ……」
 一度軋む体を伸ばし、改めて投稿したイラストに目をやる。今回のイラストもなかなか渾身の出来栄えだ。我ながら惚れ惚れする……とは言っても、きっとそれは僕の絵のセンスがあるからではなく(一応、ある程度の自負は持っているが)そのモチーフが美少女単眼アイドル『アイミン』だからであろう。
 アイミン──何年か前に彗星のごとく現れた現役JKゲイザー(当時は中学生だった)アイドル。その大きくてつぶらな瞳、プロポーション……は美少女なところか、真面目天然なキャラ、何故だか愛嬌のある触手、、そこらへんが大衆にウケて大ブレイクし、知らぬ者はいないと言ってもいいほどのそんざいとなった。。
 僕もデビュー曲の『HI☆TO☆ME☆BO☆RE』を彼女が生で歌い踊っているところを観て、それ以来心をがっちりと掴まれ惚れ込んでしまった。以前からTwitterで絵描き(未熟者ではあるが)をやっていた僕のメディア欄が、アイミン一色で染まるのに時間はそうかからなかった。
「……あ、また味噌汁さんからだ」
 常に伸び悩んでいるふぁぼとRT、アイミンの知名度は高いが僕の知名度はそこまででもない。絵のクオリティも凡々で、他に上手いアイミンファンの絵師はごまんといる。
 だが、そんな僕にもファンが出来たらしい。だいぶ前からイラストを上げたり、ツイートしたりすると高確率で反応をくれるお方が。
 『鰆の味噌汁』さん。アイコンが単眼娘のイラストの……ちょっぴり変態気味なアカウントさん、ことあるごとに可愛い子とセックスしたいって言ってるし。
 うん、ちょっぴりじゃあなかった。
 まぁ、僕も大概だが。
「あ、リプまで……『いつもカワイイイラストありがとうございますっ! やばいっ! めちゃくちゃ癒されるっ!(*´ω`*)』」
 べた褒めである。正直、めちゃくちゃ照れる。
「さて、返事を……どうしようかな。『感想ありがとうございますっ! いや、やはりアイミンの天然癒しオーラはハンパな』」
 と、ここまで返事を打ったところでまたまたリプが飛んでくる。
「ん? 『それでですね、もし、暇なら一週間後のアイミンのニューアルバム初回限定版、一緒に買いに行きませんか?』」
 もちろん暇なわけがない。それこそアルバム買いに行かなきゃだし。アイミンの特典付きCDは街中のあるショップで、しかも長蛇の列を並ばなければならないのだ。
 ただ、まぁ、そんな細かくてしつこい野暮なツッコミはしない。
 しかし……それはいいとして、SNSでしか話したことのない(SNSで通じ合うのを「話す」と言えるのかどうかすら怪しい)名前も顔も何も知らない相手と顔を合わすのはどうなのだろうか。
 近頃はそんな感じのトラブルが蔓延しているようだし。
「んー」
 でもなぁ、一応は僕のファン……みたいだし、無下にするわけにはいかないな……
「うーん、今回はアルバム買うだけだしなー……別にいいのかもな」
 その後怪しい雰囲気になったらさっさと帰ればいいだけの話かもしれない。
「よしそうと決まれば……そういえば味噌汁さんって同じ県内に住んでるんだっけか……うん、『いいですよー、じゃあどこで何時に待ち合わせします?』っと」
 ここからはプライベートな話なのでDMを送る。すると即座に返事が帰ってくる。
「『それじゃあ、アルバムの発売日に、○○駅近くの喫茶店・ガトーの前に10時に集合でどうですか?』」
 十時。あのCDショップでイベント販売となると十二時に始まるはず。じゃあ喫茶店で少しゆっくりするのもありだな。売り切れるってことはないから早めに並ぶ必要もないだろうし。
「『OKです!』……お、『では発売日、よろしくお願いします(*´ω`*)』か」
 一人でただただあの列を並ぶのは正直言って退屈だ。だが、同じ志を持つ仲間と並ぶことができるのなら、かなり楽しい時間を過ごすことができるのではないだろうか。
「一週間後か……ふふっ、楽しみだな」
 久し振りだなぁ……誰かとこうやって待ち合わせをして出かけるのは。


 そして一週間後。ニューアルバム発売日。
「〜♪ 味噌汁さんまだかなー♪」
 僕はウキウキしながら、喫茶店・ガトー前の広場にある一際目立つ電灯の下で味噌汁さんを待っていた。現在九時五十八分。
「〜♪」
 スマホにイヤホンを挿し、アイミンの曲を聴きながらTwitterのタイムラインを眺める。味噌汁さんのツイートに動きがあるわけではないが暇つぶしだ。
「……お」
 すると、目の端にちらりと女の子が映った。なんだか魅力を感じたのでついついそっちに目を向けてしまう。
──やべぇ、めっちゃ可愛いですやんか。
 その娘は高校生くらいであろうか……パンクな柄の黒い半袖Tシャツにホットパンツ、それにキャスケットを被っている……ナウい(死語)。
 ナウい、気がする……僕にはファッションはわからないから今の若者の『ナウ』がどういうものなのかは知らないが、僕から見れば若々しくてナウい感じがした。
 というか、服云々よりも、その、身体が……プロポーションが……
 二の腕。夏だというのにきれいな白い肌。
 太もも、脚。同じく、きれいですむっちりとしていてたまらない……
 そしてその豊満な胸。乳房。巨乳。一歩歩けばふるふると揺れるくらい。
(……やばいな。道端のJKに興奮するなんて、ただの変態じみてきてるな)
 ただ、本当に目が離せなかった。
(んー、この興奮はどこに逃がせばいいのやら)
 当然、今手に持っているツール、アプリに逃がすことになる。
(『……やっべぇ、目の前にむっちりとしたJKがおる……めちゃくちゃエロカワイイ……』と)
 僕はそんな下品極まりないツイートを流す。
(ふぅ……なんとか気持ちの整理ができたな)
 そんな風に思っている間に、スマホに目を向けていたJKが顔を上げる。そしてキョロキョロと辺りを見回した。
 驚いたことに、そのJKは大きく美しい単眼を持っていた……
──単眼むっちりJKだとっ!?
(『しかも、単眼娘……くぅ……こんな可愛い子が同級生だったらなー』と)
 またまたクソみたいなツイートを送信。
 するとそのJKはスマホを一瞥、 そしてそしてこちらに──
──え? こっちに来て……え?

「このっ……変態っ!!」

 グワッ、と目の前に拳が──
「ぷぎゅっ!」
 そのまま顔面に直撃。僕はよろよろと電灯に寄りかかる。
「え、ええ? えええ?」
 待て待て待て待て。嘘だろ。まさか変な劣情を抱いていることがバレたのか。確かにちょっとジロジロ見ちゃったけども。
 いや、でも見られただけでここまでするのか? いきなり殴りかかってくるのか?
 それじゃあ……まさかあの変態的ツイートを見られたとか?
 いやいや、まさか、僕のツイートなんて見えるはずないし、仮に見ることができてもそれが彼女のことを指しているだなんて……
「……まさか」
 一人だけ、いる。僕のツイートを見ることができて、かつ僕がここにいることを知っているアカウントさんが……
「さ、『鰆の味噌汁』さん……?」
「……まさか『ヒトミン』さんが見知らぬJKに欲情する変態だとは……失望しました、ファンやめます」
「や、やめないで……」
 ていうか、普段からそういう盛ったツイートをお互いしてるじゃない……いや、さすがにネタだけどさ。ガチで欲情しながらツイートしたことはないけどさ。
 今回以外は。


 こうして僕は、まさかのネナベ美少女巨乳単眼JKという属性盛り盛りのフォロワー『鰆の味噌汁』との出会いを果たしたのだった。


「んむんむ……ん〜っ♥おいひいっ!」
 チョロかった。めちゃくちゃチョロかった。
 ほんと、心配になるほどチョロかった。まさか喫茶店でスイーツ奢るだけで許されるとは。
 この子大丈夫かな? 誘拐とかされないかな? キャンディちらつかせただけで誰にでもついて行っちゃいそうだけども。
「そりゃよかった」
 だが、その点には触れずに僕は自分のミルクレープを食べ、コーヒーを飲む。下手なこというとまたドン引きされそうで怖い。
「さすがヒトミンさん。ただの変態ってわけではないんですね」
「そりゃあ……ねぇ」
 正直、今のご時世だと見知らぬJKにスイーツ奢るおっさん(27歳)は変態に見えそうだ。世知辛い世の中になったもんだよ。
「これに懲りたら道行くJKに欲情なんてしないでくださいね。いきなりやられるとビビります」
「ははは」
 もちろん、どのJKにも欲情するなんてことはない。今日はたまたますごく色気むんむんのボディをしたJKがいたからなのである。
 そこのところ、この子はわかっているのかしら。自分の魅力を。
「でも意外です。ヒトミンさんはむっちり派というよりほっそり派だと思ってたのに」
「んー、いや、僕はどっちとも好きだけどね」
「だってアイミンは、その、貧乳で、腕とかもほっそりしてる方じゃないですか」
「ほっそりはほっそりで魅力があるだろう。抱きしめたくなるとか、ラインが美しいとか」
「じゃあむっちりの魅力は?」
「そりゃあ、抱きしめたくなるとか、ラインが美しいとか」
「同じじゃないですか」
「同じじゃないんだよ。そのベクトルは正反対なんだよ」
「ふぅん……じゃあ、アイミンと私、どっちを抱きしめたいですか?」
「……あのね。さっきのこと経験した後だとすごい言いづらいんだけども」
 正直に答えたらまた殴られそうだ。
「また私に殴られたくなかったらアイミンって言っておけばいいじゃないですか……お茶を濁すためにも」
 しまった。
「もしかして、私、って答えるつもりでした?」
「……そ、そりゃあ、今手の届く範囲にいるのは君だしね。僕は不可能なことは望まないタイプなのさ」
 少しカッコつけて言ってみる。そうでもないと本当にやべー奴になってしまう。少しでもネタな雰囲気を出さなくては……
「初対面のJK抱きしめるのもだいぶ不可能に近いんじゃないですかね」
「アイドル抱きしめるよりかは現実的でしょ」
「思ったより危ない思想してるなーヒトミンさんは。でも、そういうとこも好きなんです」
 にぱっ、と朗らかな笑顔を僕に見せてくる。
「……ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ」
 でもできれば、童貞の男に『好き』とか軽々しく言うのはやめて欲しいなぁ! 勘違いしちゃうから!
 おっちゃん、すんごいドキドキしたよ。なんだか甘酸っぱい青春の胸の痛みが戻ってきた気がしたよ。
 脈ありに見えて……っていうのは一応経験したことあるからね、僕。
「……ていうか、そうだよ。一番聞きたかったことがあるんだよ」
「何ですか?」
「なんで君みたいなさ、可愛い女の子がさ、おっさんみたいなアカウントやってるんだよ……」
 事実、プロフィールにもおっさんとか書いてあったし。
「ほんと、ビビるからやめて!」
「やめて、って言われても、今ネナベ多いですよ? もしかしたらヒトミンさんのフォロワーにも何人かいるかも」
「えぇ? なんでさ?」
「そりゃあ、魔物娘が男に近づくのに都合がいいからですよ。同姓だと思わせて油断させて、その隙をついて遊びに誘って即オフパコ……これが常套手段ですよ」
「ふぅん……あれ? 一応、君も魔物娘じゃない? まさか、ねぇ?」
「でも私もびっくりしましたよー。まさかヒトミンさんが本当に男の人だったとは」
「スルーされた!」
「最初はどうせ同じ考えの魔物娘なんだろうなぁ、って半分諦めてましたから……その作戦が流行ったおかげでネナベ同士がぶつかり合うことが多くなりましたからね」
「今同じ考えって言った!」
 やべぇな、これさっさと逃げるべきなのかもしんない。僕の人生こんなところでJKにオフパコされて終わるわけにはいかないんだよ。
 僕はイスから立ち上がろうとする。
 しかし。
「逃がしませんよ」
 にゅるりと、目玉のついた触手が出現する。それと目が合ってしまい、僕の体はイスに縛り付けられたように動かなくなった。
「……あなた様は、げ、ゲイザーでございましたか」
 触手が見えなかったからサイクロプスかと思ってた。まぁ、サイクロプスだったとしてもすぐ追いつかれるんだろうけどもさ。
「今までどこに触手隠してたんだよ……」
「魔法で収納してました」
「便利だなぁ! 魔法!」
 ほんと、魔法作った奴はクソ。
「わかったよ……逃げない逃げない……でもさ、ほんと、逆レとかやめてね。僕、まだ心の準備できてないから」
「私、オフパコ目当てで来たんじゃないですよ。今日は、本当に敬愛するヒトミン先生と一緒にアイミンのCDを買いに来ただけなんですよ」
「本当だね? 嘘だったらここのお代は全部払ってもらうからね?」
「担保がしょぼい……まぁ、嘘なんてついてませんけどね」
「じゃあ指切りげんまんしよう。はい──指切りげんまん♪嘘ついたら喫茶店代払〜わす♪指切った♪!」
 さっさと無理矢理に指切りげんまんを終わらせ、契約を完了させる。
 うん、特に何の意味もないよな、これ。それこそ約束破れないようにする魔法とかないのかな……
「うふふ、可愛いなぁヒトミンさんは」
 笑われた。
 くぅ……年下の女の子に嘲笑われて悔しいと思う反面、なんだか気持ちいいと思ってしまう自分がいる。非常に股間に悪い、と思ってしまう自分がいる。それがなおさら自分の情けなさを際立たせている気がする。
「そろそろ時間だし、ショップの方に行かないかい?」
 色々と誤魔化すためにも僕は腕時計を見ながら言う。いくら売り切れはないと言ったってあんまり長く並ぶのも嫌だ。
「そうですね。そっちがメインでしたもんね。それじゃあ買いに行きましょうか」
「おう」


 その後は実にあっさりとしたものだった。本当にあっさりとしたものだった。拍子抜けだったと言ってもいい。
 行列に並んでいる間アイミンについて話し、そして買ったらさっさとその場で解散であった。
「……」
 さっきあれだけ思わせぶりなことを言っていたのはなんだったのだろうか。確かに何も起こらないに越したことはないのだが……少し期待している気持ちもあった。
 だから虚を突かれ、呆然としてしまった。
「……ん? どうしたんですか? ぼーっとして。もしやこの後の展開を期待していたとか?」
 そんな僕の様子を見て彼女はにやにや笑う。
「い、いやぁ、別にぃ!」
「大丈夫ですよ、またチャンスはありますから」
「……なくていいよ」
 まぁ、さすがにJKと関係を持つなんて夢見すぎてたか。ここでお別れで、これ以降はオフで会うこともないだろう。
 そう思っていたが。
「えいっ」
「え?」
 彼女は僕のスマホをひったくり、自分のスマホとともに操作を始める。
──やべぇ、パスワード設定しておくんだった。
「はいどーぞ。それじゃあまた」

「今度は私に欲情しても殴らないであげますから、他の子にはしないでくださいね♥」

 彼女はそう言って僕の前から去っていった。
「……あ」
 スマホの電源をつけるとそこはLINEの画面。
「……期待して……いいのかな?」


 そこには見知らぬ女の子っぽいアカウントが登録されていた。


 三日後。
『どうもー!ヒトミンさん!また暇だったら映画見に行きません?』
 そしてどうやら。
 僕たちの関係は終わらないらしい。

17/08/10 12:00 鯖の味噌煮

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50作品目です。消した作品もいくつかありますが50作品目です。
なので初心に戻ってゲイザーちゃんのSSを。
みつめちゃんのことも忘れてはいませんが少し更新止まります。すみませんorz
[エロ魔物娘図鑑・SS投稿所]
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33