連載小説
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聖夜叶恋
「つーわけで、クリスマスパーティーやるぞ野郎どもー!!」
『おぉぉぉぉぉぉぉ!!』

僕の所属するクラスの教室。
何故かテンションの高いミノタウロスの副委員長が叫び、皆が雄叫びをあげた。
今日は12月24日。
クリスマスイブだ。
たぶん、皆今年こそは彼氏彼女を作って素敵なクリスマスを……とか思ってるんだろう。
僕こと方丈 正孝(ほうじょう・まさたか)は、机に頬杖をかいてそんな白熱した皆を冷めた目で見ていた。
まぁ、だからと言って僕がリア充であるかと訊かれると、答えはNOだ。
彼女なんて全くないし、クリスマスの予定なんか白紙だ。
でも、僕は皆みたいに白熱しない。
正直、彼女が手に入るなんて思ってない。
ていうか、手に入らないだろう、普通?
と言うことで、僕はそう言った色恋事情は諦めました。
……あいや、一個だけ。
好きな人がいるっていうのは、別か。

「おいマサ!何ぼ〜っとしてんだよ!早く行こうぜ!?」
「うん?あ、ああ。そうだね」

友人に引っ張られ、僕はパーティーに連行されるのであった。
……ちなみに、このパーティーの立案者は委員長。
カラオケで予約取って、皆で騒げるようにしたらしい。
ちなみに種族はアヌビス。
いや、けっこう意外だよな、まさか真面目一筋の委員長がこんなことを立案するなんて。

「ん?あれ?イインチョ?どしたの?」

噂をすれば、というやつだろうか?
委員長がちょうど僕達を見ていた。

「あ、いや。少し気になったことがあってな」
「うん?どうしたの、委員長。気になること?」
「あ、いや。その……なんというか……方丈君が、あまり面白そうな顔をしなかったから、こういうのは嫌いなのか、と思ってしまって……」
「ああいや。大丈夫だよ。嫌いじゃない。皆でわいわいするのは、むしろ好きだよ?」
「ふぅ……そうなのか。それはよかった……」
「ありがとうね、心配してくれて」
「いや、皆に楽しんでもらいたいからな。当然のことだ」

そう言って、委員長は皆を追いかけて走って行ってしまった。
ほんと、あの人の責任感は凄いな……
遊ぶことに関しても、皆が楽しめるように考えているのか……

「……ここでさ、お前だから楽しんでもらいたいんだ、って、言われたら最高じゃね?」
「まぁ、その考えを否定はしないけど、実際には言われないだろうけどね」
「お、言うねぇ」
「ははは……おっと、メールだ」

ポケットにあった携帯からメール着信を伝える音楽がなり、僕はすぐに携帯を開いて確認した。
メールの内容は……

差出人・レン
題名・クリスマスプレゼントは……
本文・今日はちょっと予定があるから、先にそっちの部屋に送っといたよ。

……というものだった。

「ん?誰だった?」
「いや、いつもの」
「ああ、幼馴染のレン君……だっけか?」
「まぁ、そんな感じ」
「仲がいいんだな」
「いやいや。今年は忙しいからって内容だよ。たしか、彼氏が出来たらしいから、彼と今日は過ごすんじゃないかな?まぁ、ともかく、仲はそこそこかな?」
「ふぅん、いいなぁ……ってやべ、皆とはぐれっちまうぜ!?急ごう!」
「そうだね」

皆が信号で足止めを食らっているうちに、僕達は追いつこうと走り出したのだった。


××××××××××××××××××××××××××××××


「ああもう!寝ちゃおう寝ちゃおう寝ちゃおう!」
『寝ちゃおうぅ!!』

そして、カラオケ店内。
皆のアイドル的存在のセイレーン(ただし相手に高望みし過ぎでまだ彼氏なし)が、まるでライブのように歌い周りの連中がそれにあわせて叫ぶ。
……全く、元気だな……

「おーい、マサ、歌わないの?」
「どうしようかな?歌いたい曲が見つからないな……」
「ほう……じゃあよし!おーいゆかりーん!!マサが歌いたいっていうから“irony”入れて!!」
『了解!!』
「おいちょっと待て!!歌うとも言ってないし、そもそもそれ女声の歌じゃないか!?」
「まぁまぁ。歌えよ。お前歌うまいだろ?」
「ったく……」

断ろうとしたのだが、すでに曲は始まってるし、セイレーンからマイクを受け取ってしまったので、流れ的に歌わないといけないハメになった。
ったく、しょうがないな……
下手な歌でも文句いうなよ……?

「“そんな、優しくしないで……”」


××××××××××××××××××××××××××××××


「……はぁ、緊張した……」
「お疲れさんっ!」
「お前な……後から後から曲入れんなよ……10曲連続で歌うハメになったじゃんか……」
「いや、すまんすまん。予想外に上手かったもんでな。いやまじで。なんでカラオケ誘っても来なかったんだってレベルで」
「いや、まぁ、なんとなく。人前で歌うのは恥ずかしいからね」
「……いや、恥ずかしくねーよ、誇れよそれ」
「別に。誇ってなんかなるわけじゃないし。いいよ」
「うわ、マジで夢持たないのな……」
「まぁね」
『それじゃあ次、また正孝君にいってもらおう!!』
『イェェェェェェェェェ!!』
「はぁ!?ちょっと待っt……マジでか!?」

数人に引っ張られ、僕はまたマイクを持たされる。
まぁ、いろいろと弄られたけど、なかなか楽しいパーティーだったかな?


××××××××××××××××××××××××××××××


「う〜さびっ!!」

暗い夜道の中、僕は一人先に店の外に出た。
皆は二次会に居酒屋に行くらしいが、僕は一足先に帰ることにする。
何というか、あの場は僕には辛過ぎる。
なぜなら……

「……方丈君、先に……帰るのか?」

帰ろう、と足を踏み出そうとしたところで、誰かが僕に声をかけた。

「あ、委員長?」
「皆は二次会に行くようだが、お前は行かないのか?」

声をかけてくれたのは、僕のクラスの委員長……アヌビスの木島 長門(きしま・ながと)だった。
彼女は、耳をふわふわとゆっくり動かしながら、僕に訊く。

「……うん。二次会には行かないで、このまま家に帰るかな」
「……そうか。…………なぁ、今、時間空いてるか?」
「……?うん。どうせ帰るだけだし、問題ないよ」
「……そうか。なら、少し一緒に歩こう」
「了解」

少し話してから、委員長は僕の隣に来て、一緒に歩きだした。
さっきまでよく表情は見えなかったが、よく見ると委員長の表情が少し硬い。
……緊張しているのだろうか?
いや、緊張するのであれば僕のはずだ。
僕がそう考えてる間、沈黙が流れ続けた。

「……なぁ、今回のパーティーは……つまらなかったか?」
「なんで?いや、面白かったけど?」
「そうか、いや、たいした理由ではない。ただ、何故か君はあまりここにいたくないという顔をしていたように見えてな」
「…………気のせいだよ」

委員長に言われて、内心僕は驚いていた。
結構うまく隠してたはずだったのに、微かながら僕の本当の気持ちを見破られてしまったからだ。
別に、パーティーがつまらなかったわけではない。
その場にいたくなかったわけでもないが……
ただ、切なかっただけだ。
本当を言ってしまうと、実は今この場にいたくない。
……もっと詳しくいうなら、彼女の隣にいたくないのだ。
……でも、自分の心の、もっともっと奥の方で、一緒にいたいと叫んでいる。

「……委員長は、皆のことをしっかり見てて、凄いね……」
「そうか?いや、私はまだまだ未熟だよ。いろいろと流されてるところもあるしな」
「そうかな?十分凄いと思うよ?だって、二次会にも行かないでこうして僕と歩いて話してくれるんだから」
「……いや、それは違う。私は、君が帰っていくから、気を遣って話しかけたわけじゃないんだ。完全に私情で、私は君に話しかけたんだ」
「え……?」

委員長の言葉に、僕はキョトンとした。
気を遣ってない?
完全に私情で?
なんなんだ……?
そんなことを考えてる僕をお構いなしに、委員長は話を続けている。

「……君と話したかったから、私はちょうど二人きりになる時間……つまり、今、君に話しかけたんだ……」
「僕に話……?何……かな?」

やはり、気になるので僕は訊く。
すると、委員長はしばらく躊躇したように目をキョロキョロさせてから、ゆっくりと、僕の目を見て言った。

「…………わ、私の部屋に来ないか!?」
「………………………………」


×××××××××××××××……


……はっ!?危うく頭がショートして場面が変わるところだった……!!

「え?いや、ごめん……状況が、理解できないんだけど……?」

恐る恐る僕が言うと、委員長はカチ……と固まって、一拍置いてから顔を真っ赤にした。
たぶん、擬音を使ったら爆発音みたいに、ボンッ!!……って感じなんだろうな……
いや、電子レンジみたいに、チンッ!!……って感じかもしれない。
と、こんなふうにずれた感想をするくらいに僕も内心動揺している。

「あ、あうあうあうあうあうあうあうあう……ま、間違えた、いきなり順番すっ飛ばしてしまった……!!」

委員長は、顔を真っ赤にして、あうあうしながら、あたふたとバッグの中を探って、何かを取り出した。

「こ、これを受け取ってくれ!!」
「……これは?」
「く、クリスマスプレゼントだ!!」
「プレゼント……?」

家族やレンくらいからしかもらえないと思っていたものが、まさか委員長からもらうことが出来るなんて、まったくと言っていいほど予測していなかった僕は、表面上は少し、しかし内面はかなり驚きながらそれを受け取った。
受け取ったのは、紙袋。
そんなに重くないので、入っているのは食べ物か、衣類などなんだろう。

「……開けても?」
「ああ。是非そうしてくれ」

委員長に許可をもらってから、僕は紙袋を丁寧に開く。
中に入っていたのは……

「マフラーと、手袋……」
「ああ。冬場に、防寒具を付けている姿を見ていなかったからな、もしかしたら、持っていないのかと思って……」

いや、手袋なんかは、持ってるけどめんどくさくて付けてなかったんだよね……

「私の手作りなんだが……迷惑……だったか?」
「いやいや。嬉しいよ。まさか僕なんかのために作ってくれるなんて……ありがとう」
「ああ、喜んでくれたならいい。このくらい、君が喜んでくれるなら苦でもない」

不安そうに訊いてくる委員長に僕は感謝の言葉を述べると、パァッ、と輝いたように喜んだ。
しかし、そこで疑問が生じる。

「でも、なんで僕に?」

そう。なぜ、僕なんかのためにマフラーや手袋を編んでくれたのか、だ。
いや、自分に都合のいい解釈は用意してある。
しかし、そう現実は甘くないだろう。
どうせ、一人だけ寒そうだったから、とか、“優しい”理由に決まって……

「そんなの、私が君のことを好いているからに決まってるだろう?」
「……え?まじで?」

……どうやら現実は、夢のように甘かったようだ。
いや、もしかしたらこれは気持ちよすぎるくらいの夢なのでは……?
そう思い、確認するために僕は自分の頬をつねる。
……痛い……

「夢ではない。本当に私は君のことが好きなんだ。……もっとも、君がこれを悪夢だと感じたら、夢にすることも可能だが、な……」
「いやいや、違う違う!!むしろ嬉しいですよ!?……でも、なんで僕なの……?」

もしかしたら嫌なんじゃないだろうかと勘違いしたようで、委員長は悲しそうな顔をして俯いてしまったので、慌てて僕は答える。
そして、慌てながらも僕は訊く。
本当、なんで僕なんだろうか?
もっと良い人はたくさんいるだろうに……
何か凄い理由でもあったのだろうかと思ったが、しかし、委員長の答えはとても簡単なものだった。

「……別に、恋愛に理由もなにもないと思うが?まぁ、強いて言うなら、一緒にいたら楽しくて、長く一緒に過ごして行くうちに惹かれていった、と言ったところだろうか?」
「え?……それだけ、なんですか?」
「ああ。それだけだ。大切なのは理由や理屈じゃない。私がお前を好きになっているという感情だ」
「たしかに、そうですね」

でもまぁ、一緒にいて楽しいから好きになってくれたってことは……

「今までの行動は、無駄じゃなかったんだな……」
「ん?どういうことだ?」
「……委員長は知らないと思うけど、僕は、多分委員長が僕のことを好きになるずっと前から、委員長のことが好きだったんですよ」
「え……?」

そう。僕は委員長のことがずっと好きだった。
……どこぞのキザなやつと同じようなセリフを言うようで癪だが、それこそ、出会った時からずっと、だ。

「初めてあった時、委員長を見て、凄い人だなぁって思ったんだ。周りにちゃんと気を配れて、綺麗で。……何より、とても優しい雰囲気だったから」
「たったそれだけで、私のことが好きになったのか?」
「うん。そうだよ。委員長の言葉を借りれば、恋愛に理由もなにもないと思う、でしょ?」
「……まぁ、たしかにそうだが……」
「だから、さ、委員長……」
「ん?なんだ?」

もうこの際相思相愛だってわかったんだ。
ここは……

「ずっと前から僕は委員長のことが好きでした。付き合ってください」

告白するしかない。
そう思い、僕は務めて自然な雰囲気を出して。
しかし内心では心の中の全ての勇気を振り絞って、委員長に自分の素直な気持ちを伝えた。
と、委員長は……

「……ってえ!?なんで泣いてるの!?泣くほど嫌だった!?」
「い、いや、ちが……う、嬉しく……て……涙が……うぐ……」
「ほ、ほら、委員長、ハンカチ!!」

嬉し泣きだったことにホッとしながら、僕はハンカチで委員長の涙を拭う。
……というかやばい。
嬉しくて涙が、と言われてこっちまで泣きそうになった。
というか、もう涙零れてる……
自分も委員長も今はちょっとヤバイので、落ち着くようにしばらくおとなしくした。

「……ふぅ……すまない。私としたことが、かなり取り乱してしまった……」
「いや、いいよ。僕も嬉しくてちょっと泣いちゃったし……」

袖で涙を拭いながら、僕は言う。
落ち着いた委員長は、自分が僕のハンカチを持っていることに気がついて、少しの間逡巡したあと、……洗ってから返すよ、と言って少し嬉しそうにポケットの中にしまってしまった。
まぁ、今はそれより……

「……で、委員長、答え、訊かせてくれるかな……?」
「……そんなもの、訊くまでもあるまい?」

さっきの答えを訊こうとすると、委員長はギュッと僕に抱きついてきた。
まるで、それが答えであるかのいうに……
そして、僕はそれを受け取り、委員長を抱きしめ返しながら言う。

「……うん。これからもよろしくね、委員長……いや、長門って、呼んで良いのかな?」
「ああ、いいとも。よろしく頼む、正孝……」

僕が言うと、委員……長門はギュッと抱きしめる力を強めた。

「……なぁ、正孝」
「……何かな、長門?」

長門が僕を名前で呼んでくれるのが嬉しくて、つい僕は長門を名前で呼び返してしまう。
自分の名前で呼ばれると、長門は少し嬉しそうに、しかし恥ずかしそうにしながら、あの時言った言葉を、再び言った。

「えと……わ、私の、へ、部屋に来ないか……?」

段々と声が小さくなっていきながら長門は言ったが、僕にはしっかりとその言葉を聞くことが出来た。

「うーん、長門がいいんなら、行くけど……大丈夫なの?」
「ああ、平気だ。今日は親が帰って来ないからな」
「……そっか」

なんというか、それはまた別の意味で大丈夫じゃない気がするけど、まぁ、晴れて恋人同士になったわけだし、大丈夫、かな?
とにかく、僕は長門の部屋に行くと(覚悟なんかを)決めたのだった……


××××××××××××××××××××××××××××××


「ちちうえ〜!雪だ!雪が降ったぞ!!」

窓の外を見ながら、愛しく可愛らしい僕の娘がはしゃいでいた。

「そうだねぇ、雪だねぇ。……うん、綺麗だね……」

まだ五歳の娘を抱き上げながら、僕は一緒に窓の外に映る雪を見て、ほぅ、とため息をつく。

「ん?二人ともどうし……ああ、雪が降ったのか」
「ああ、かあさん。うん。綺麗だよね」

キッチンから愛しい僕の妻が出てきて、一緒に窓の外を見る。

「……そういえば、あの時も私の家に向かう途中で降っていたな」
「うん。覚えているよ。寒くなったから、君のつくったマフラーを二人で使って、手袋は僕が右手に、君が左手につけて……」
「は、はずかしいからそれ以上は言うな……!!」
「あ痛っ!?」

僕達が告白しあったあの日の事を思い出しながらいうと、妻は顔を赤くしながら僕の頭を叩いた。

「なぁなぁちちうえ。ちちうえは、ははうえにくりすますのひにこくはくしたのだよな?」
「うん。そうだよ。最初はかあさんからだけどね」
「ま、まぁな……」
「いいなぁ……あたしにも、すてきなひとができるのかな?」
「できるさ、きっとね」
「ああ、なんたって私達の娘なんだからな」

僕達はそう言いながら、二人で愛しい娘を優しく抱きしめたのだった……
10/12/27 01:35更新 / 星村 空理
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■作者メッセージ
ということで、聖夜贈物のifを書かせてもらいました。
どうも、現代の恋愛モノにはまったようで、妄想のままに書いてみました。
いかがだったでしょうか?
楽しんで読んでいただけたら光栄です。
さて、今回はアヌビスの委員長、長門さんの話でした。
なんというか、まったくアヌビスの要素がないですね……
誰か、私に文才をください……
ともかく、いろいろと歯車を変えて書いてみました。
一つは、主人公、正孝の好きな人物。
もう一つは、彼の幼馴染、恋歌が他の誰かと付き合っていること。
そして、最後。彼女、長門の心理状況。
この三つを変えただけで、彼、正孝の運命を簡単に変えることが出来ました。
さて、次回は……最初の方に出てきたあの方にしますかね?
こんな作品でも、お付き合いいただけると嬉しいです。
それでは、今回はここで。
星村でした。

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