連載小説
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25日
プログラムの更新をしています。他の行動は行わないようにしてください▼
出力旧設定解除▼
更新中………しばらくお待ち下さい▼
出力設定更新完了。ただ今の設定[半重力反転及び力学エネルギー無視]▼

外殻設定解除。バージョンアップを行います▼
更新中………しばらくお待ち下さい▼
外殻設定のバージョンアップが完了しました。ただ今の設定[フォルム耐全元素及び耐熱耐寒耐真空]▼

言語設定継続▼
主記憶装置、補充記憶装置設定継続▼
マスター設定[エルリック=オドネア]▼
思考プログラムに異常が発見されました。診断の結果が出ます▼
感情系回路が構築されつつあります。本体への危険性なし。設定を継続します▼

装置作動まで後約[]時間。引き続きタイマーを継続させます▼

全ての更新が完了しました▼
5分後に再起動します。しばらくお待ち下さい▼



・8月25日
『ア――アアァ――ヴヴヴ・・・ンんむ・・・はっ。
 一体私は・・・確か石版に手をはめこみ・・・電極に撃たれ・・・気を失い・・・ああそうか気を失っていたんだ。
 どれくらい気を失っていた?数秒?1日?数ヶ月?または年?とりあえず日付の確認だ。
 どうやら気を失っていたのは数時間だったようだ。日付は変わってしまっているが時刻は8月25日と出ているので間違いはないだろう。
 そうか、私は私の出生の秘密を知るため前マスターの研究跡地に足を踏み入れているのであったな。道理でこのような薄暗い室内にいるわけだ。合点がいく。
 ・・・なにやら身体の調子が違う。なんと形容すれば良いのだろうか、依然と比べ軽い。身体が軽くなったと言うべきは周囲が軽いと表現したほうが良いのだろうか。軽くジャンプしたらこの地下室の岩盤を突き抜け地上へと飛び出てしまうほど力が溢れてくる。
 研究室に散乱する試薬瓶の一つを手にとって見ようと思ったら、粉々に砕け散ってしまった。瓶が老朽してしまっているのではない。力加減が分からないのだ。よくよく落ち着いてみたら先ほどよりも、格段に水晶レンズの感度がりよく見えるようになっているし、敏感な音でも聞き取れるようになってしまっている。一体私はどうした・・・?
 いや、考えていても仕方がない。今現在、私に関する有力な情報は何一つ掴んでいないのだ。折角私自身の情報を解明しに訪れたというのに成果が何もないじゃエルに合わせる顔がないではないか。
 とりあえず小腹が空いたので経口魔水液を補給しようか。念のために持ってきておいて正解だったな。エルの精液を元に作成されたと想像するだけで唾液が滴り性器を汁が溢れんばかりであるが、やはり原液と比べるとその味は天と地との差があり私の満腹感は十分に満たせたとしても、食事をした気分ではないな。やはりあの雄雄しくそそり立つ陰茎から直接採精したモノの味を一度でも知ってしまった以上、あの味が忘れられないものである。
 一人で研究に引きこもっているよりも、運動して良い汗をかいた時の方が精液の味は美味になるのであるからにして、こんど試してみようではないか。
 おっといけない。精の話をしたらきりがなくなりそうだ。
 そういえば例の紅色の書物「ルーベリアの叡智ある大理論」も持ってきているのであったな。あの暗号さえ解読できれば何か手がかりは掴めるのではないかと思ったのだが・・・
 えっ!?
 確か暗号はこのページからだったはず。だというのに何故だ。以前はわけの分からぬ象形文字の羅列にしか見えなかった暗号が今の私には普通の文字に読めてしまう。
 誰かに教わったか?いや、誰にも教わっていない。
 と、取りあえず深呼吸だ落ち着こう。
 ふぅ・・・一体この暗号には何が書かれているのだろうか。ただの下らない事しか書いていないのかもしれない。とてつもなく重大な事が書いているのかもしれない。淡々と書き綴られているインクは沈黙し私を睨み付けてくるようだ。私の出生に関係があったとしてもなかったとしても、そんなものは関係なしに読まなければいけないと私のプログラムが本能として語りかけてくる。何がかかれていようとも私は真実のみを信じる。
 心の準備はできた。では、読むとしよう。




――――――――――――――――――――――――――――――――――

 まず初めに、ここに記されている万象は一切合切全てが真実であると記述しておく。これは絶対的因果に於て確定付けられており、何人たりとも変更することができない。
 我輩が開案したこの『暗号』を読み解いているということは、我輩の生涯半生を消費し創り上げた最高傑作であるゴーレムであると信じたい。いや、そうでなければならない。石版に手を触れ更新プログラムをインストールしたお前ならばこの暗号は全て読めるはずだろう。
 我輩は当時生きていた時代に於て、魔導学、科学、神学、その他の学門を究極熟知した学者として当時の学会を牛耳る第一人者であった。
 生活の利便性を向上させる為の魔術の開、生活の暮らしを増幅させる機器、神の一貫性を問いただし神の存在を仮定付ける、経済の流れを熟知しいかに楽をして暮らせるか。歳が二十五になるころには、我輩に出来ないことなどこの世にはなくなっていた。
その頃には我輩の功績は世界にたちどころに広まっていった。辺りを見回す度に我輩の発明した魔術や道具が視界に映らないことはなく、人々の笑顔が照り返されるその様がこの上なく幸福と感じられた。
 昔からの幼なじみとも夫婦になれ息子娘も出来、我輩は人生の幸せを謳歌し堪能していたのだ。

 だが、その幸せは長くは続かなかった。
 我輩の技術を買っていたとある大国が各地で何の前触れもなく宣戦布告をし始めたのだ。原因は明確、我輩の発明した道具はあまりにも強力過ぎた為であった。もはやそれは道具ではなく兵器であった。この強大な力があればどのような戦争に必ず勝つことができると考えた国王や大臣達は人間の愚かな欲望へと成り下がり、制御できなくなった力は全てを貪るかのように領土を拡大したかったのだ。我輩の目からは、自国の領土までも飽き足らず、休戦協定を結んでいる敵国までも侵略し邪畜暴虐の限りを尽くすその大国はまるで良心を知らぬ怪物の様に見えた。
 戦いの戦火を逃れるため、妻と息子、娘を別荘兼研究所へ疎開させ我輩は愛する妻子を守るべく、泣く泣く大国の研究所に篭ることとなった。大国の命令に刃向かえばどうなるかは考えるまでもない。
 連日連夜、油臭いオイルと刺激臭のする薬品に包まれながら開発を行うのは心身ともに辛いものがあり、まして人殺しの道具を自ら作らなければならないという行動には嫌気以外の何者も感じることはなかった。大国の非情なる行為を知っていた我輩や我輩の部下達はこれ以上、兵器の開発を望まなかったのだ。
 研究者と言えども、我々はヒト、人間である。我輩の作り出した大量兵器と、何の罪もなく無惨にも殺されていった人々の命とを秤にかけれる程人の命というものは軽くはないのである。
 物質は作りたい時に、いくらでも作れる。だが、魂を作り出すことは不可能なのだ。
 遂に自責の念に押し潰された我輩達は大国の命令を放棄して一切の開発を凍結した。我輩の開発した兵器の犠牲になった者達へのせめてもの罪滅ぼしになればと思っていた。
 そう、思っていたのだ。
 勿論大国はその行動を許すはずがなかった。我輩達の決死のサボタージュは我々からして見たら飼犬が猛々しく牙を剥いた様だと勝ち誇っていたが、大国からして見たら我々のことは歯も生え揃っていない稚児程度にしか思っていなかったのだろう。大国は我輩達を寒く薄暗い地下牢へ幽閉し、外部との接触を完全に断った。
 それでも我輩達は諦めることはなく、ただひたすらに戦争が終結するのを待っていた。勝ちも負けもどちらでもよいから一刻も早くこの欲望の権化と化した力の蹂躙を止めて欲しかった。
 まるで嫌がらせの様に戦果を報告しに来る兵士の下卑た顔を我輩は一生忘れることはないだろう。夜な夜な夢に出てくる兵器によって殺された人々の顔を我輩は一生忘れないだろう。

 地下牢に幽閉され苦痛を味わう悪夢のような日々は、ある日を境に地獄へと変わり果てた。一向に兵器の開発を再開しない我輩達に痺れをきたした上層部は信じられぬ行為を行ったのだ。
 部下達の姉、妹、妻、娘を手当たり次第拉致し洗脳をかけ、あろうことか我々の目の前で遮二無二姦しだしたのだ。淫獄を想起させるような噎せ返るヒト臭さに思わず我々は目を背けたくとも背くことが出来なかった。
 幸い我輩は妻子がいることは誰にも他言していなかったので、我輩の妻子は拉致はされていなかった。だが、部下達の家族妻子の様子はあまりにも酷く言葉に表すことができない。酷いという言葉以外見つからないのだ。
 目の焦点が合わず淫らな淫言を恥ずかしげもなく使う妻達。
 叫び声なのか喘ぎ声なのか、そもそも言葉なのかわからぬ悲鳴を上げる娘達。
 弟、もしくは兄に乱交を見せ付けるかのように近寄りまぐわいを披露する姉、妹達。
 法外の薬物も多量に摂取させられ、洗脳を施された彼女達は、もはや性の道具へと成り果て原型を保てている者など誰ひとりとして存在しなかった。牢屋から必死に呼びかける部下達の呼びかけは地下牢に木霊するだけで彼女らには届いていなかったのだろう。鉄格子を挟んで行われる、部下達の妻子や姉妹の禁忌的行為が、ただ一本の鉄の柱の隔たりの向こうがまるで別世界のように思わざるを得なかった。
 考えてもみろ。自分の愛する妻や娘が、見も知らずの野蛮なる男奴に姦され、それでもなお物足りぬなまめかしい顔で求める姿を。
 今まで同じ環境で育ってきた姉妹が肉に溺れ媚びへつらいながら、身をくねらせよがり狂う姿を。
 部下の家族が乱暴されているだけですら我輩は脳髄が捩切れる程の頭痛、見るに堪えない行為を見て嗚咽をするあまりであった。実際、自分の家族が犯されている部下にいたっては想像を絶する苦痛だったであろう。我輩は結婚を黙っていたことをこの時ほど幸運に思ったことはなく、またこの時ほど申し訳ないと思ったことはない。
 この地獄に耐え兼ねた部下達は一人、また一人と牢獄から姿を消していった。研究を再開すれば、家族は解放されるという一見公平のようで実は全く不公平な条件の元、その条件を受け入れ次々と兵器開発へ戻る者は後を絶たなかった。少し考えれば不公平だということは即理解できたのだが、あの時冷静な判断をできる者など、我輩含め誰ひとりとして残されていなかったのも事実だ。
 家族が解放されたとしても、当然洗脳は解けているはずもなく、薬物の依存も残ったままである。
薬物は人を堕落させ破滅へと導く最も簡単で最悪のモノであり、その依存を取り除くことはほぼ不可能と考えて良い。これからも彼女達はより上質の快楽を味わう為に多量の薬物を摂取し続けるだろう。
それに我輩達は知っていた。あの洗脳はどう足掻いても決して解けるものではないと。なぜならば、決して解けることのない洗脳の道具を発明したのは我輩であり、作成したのは部下達であるからだ。
これら二つの事柄から予測される結果、未来はもはや書くまでもない。ただ一つ言えることがあるとしたら、彼らは決して元の生活に戻ることがてぎないということのみである。

 数日が過ぎ、もはや牢獄に残されている人数は当初の二割程まで減少してしまった。残された我々の精神は既に疲弊し切り意識も朦朧としてきたところであった。このままではまたあの邪知暴虐で下賎な者共の傘下に加わってしまうと考えるだけでこの上ない劣等感、罪悪感を再び思い出してしまう。
 我輩たちは最後の気力を振り絞り、最初で最後の賭けに出た。
 牢獄には毎日決まった時間(時計などない暗闇なので正確な時間はわからぬが)に兵士が食糧を配給に来る。その一瞬の隙を狙って残された我輩たちで兵士を襲い、鍵を奪い脱獄するというものであった。
 部下たちもこの案に乗じてくれた。これまで苦痛を与えられながらもまだここに残っているということは、彼らもまた其れだけ覚悟、信念というものがまだ残っているのだろう。
 既に彼らの親族である女性――いや、オンナ達を犯している兵士はいなかったが、無間に飽くなき自慰をし続けて理性を忘却してしまった存在だとしても親族であることには変わりないのだ。彼らには親族を連れ帰り最期の時まで守り通す使命がある。我輩にも当然その使命がある。故にこの仄暗い鉄格子の閉所から出なくてはならないのだ。
 計画は我輩の予想以上に俊敏に遂行することが出来た。兵士が後ろを向いた瞬間に数人の部下達が後頭部を強打し気絶させ鍵を奪う。部下達、彼女達の枷を外し全ての人を解放することができた。
 驚くことに城内、中庭、城門全てが死んだような静寂に包まれており、警備兵の一人すら見当たらなかったが、恐らく兵士は全て戦場に派兵されたのであろう。警備兵を配置しないその様からいかにこの国は争いごとについて余裕を見せているかがありありと分かる。多少の苛立ちを覚えながらも我輩達は城門を抜け近隣の森へと烈火の如く駆け抜けていった。
 そこから先は余り覚えていないが、我が研究チームは全て解散、研究物は歴史に残してはならないということで闇に隠すことにしたことだけは覚えている。大国は例外として。


 以上が我輩の過去である。
 あの後我輩は別荘兼研究所に戻り家族と再会を果たし、そこで一生を終える費やすこととなる。
 我輩は少し賢過ぎた。故に周りの者は我輩の作りし研究物の真の用途すら見出せず、戦争というあまりに下らぬ悲しき方法で用途を見出してしまった。元はといえば大国に渡した品々も兵器ではなかったのだが、何かが狂ってしまいこのような惨劇になってしまったのではないだろうか。
 この世のありとあらゆる学門を知りつくした我輩でさえも、ヒトの心の深淵に潜む悪意までは予測することができなかった。欲望に負け良心を失った時、ヒトはここまで悪になれるのだ。
 我輩は心底人間という種に呆れ失望した。地球上に蔓延り、勝手に増えたと思ったら勝手に殺しあう。狡くて、弱くて、汚く、平等になったかと思えばすぐに差が欲しくなる。この世で最も唾棄すべき存在。消化器と生殖器に足が生えただけの下等な生物が何の信念もなくこの地球にのさばっているとは洒落にもならぬ耐え難い苦痛なのかもしれない。
 だから我輩はお前を創った。





 【お前の体の中には爆弾が搭載されている】





 きっと今のお前は驚きのあまり、思考が鈍くなっているだろうからもう一度言う。
お前の体の中には爆弾が搭載されている。
 実を言うとお前自身を発明するのにはさほど時間を要さなかった。ルーン文学などとっくに熟知し、より人間に近い思考プログラミングを構築することなぞ造作もなく五年とかからない。体のパーツはより高貴で頑丈に構成でき老朽化することのないよう、神界のエンジェルに頼み込み神具の一部を授かることもできた。石や泥で創るゴーレムよりも遥かに美しく強力なものが出来上がるからだ。
 骨組『ミョルニールの破片』
 体内水分『イグドラシルの露』
 外殻『スレイプニルの蹄鉄』
 神経回路『トールの雷』
 これ以外にも多様のパーツを用い、ほぼ究極に近いお前構造したのだ。
 しかし、これらのパーツを集めるのもさほど時間かかからなく、実質お前が完成したのは我輩がお前を創り初めて十年とかからなかった。
 それよりも、より広範囲を破壊できる爆弾の開発の方が時間を要してしまった。その爆弾を作る為には物理学、熱力学、科学その他もろもろの学門の常識を全て覆さなければならず、我輩でさえも非常に頭を捻らせることとなった。数億トンもの火薬の量を保ちながら、体積を拳程度の大きさに圧縮し、質量を数キロ程度に落とさなければならないからだ。そうでもしないと、お前の体内に爆弾を搭載することができないのである。
 我輩はありとあらよる文献を読みあさり、学会で禁じられていた次元学の深奥にまで足を踏み入れ究極の爆弾を作り上げることができた。山脈とほぼ変わらぬ体積の火薬を新たに発見した化学反応により圧縮し破壊力をそのままに留め手に乗るサイズにまで縮小、質量は臨界値を超えた応用で質量的概念を次元の狭間に転送し削除することができた。
 一度爆発すればこの星の半分は吹き飛ぶであろう。
 この暗号の冒頭にて我輩は嘘をついてしまった。我輩の人生に於て、最大の発明品はお前ではなくお前の体内に搭載されている爆弾であったのだ。
 我輩は全ての学門を熟知している。無論、科学的学門のみならず神学や宗教学、魔導学といった非科学的学問もだ。
 我輩はふとした好奇心から、自ら編み出した予知学というもので少しばかり予知をしてみたところ目を疑うものが見えた。

 驚かずに聞いて欲しい。
 我輩が生きている時代から468年後、則ち今お前が活動している時代に太陽系外から飛来する巨大隕石が地球へ接近するという予知であった。直径1Kmの巨大隕石が地球へ衝突してしまえば、地球の表面積の半壊は免れないだろう。
もう一度言う。ここに書かれていることは全て真実であり、決して変えこてはできない。
 お前の体内には地球を半壊させるほどの爆弾が搭載されており、なおかつ今刻々と隕石は加速しつつ地球へと向かっている。全て真実だ。
 お前の体内の爆弾が作動したならば、地球の約半面積は一瞬にして塵へと化すが、それでも地球の半分のヒトは生き残るだろう。隕石が地球に衝突したのならば、やはり同じく地球の約半面積は吹き飛び宇宙の彼方へと消え去るが、半分のヒトが生き残るだろう。

だから我輩は…浅はかで愚かしいながらこの予知を利用してみたくなったのだ。今冷静になって考えてみると如何に禁忌的で悍ましい発想であったかなど考えるまでもない。だが、もう遅い、遅すぎた。動き出した砂時計が止まらぬように、既に爆弾を作り終てしまった今となっては我輩とて止める術がないのだ。
 地球に隕石が衝突するその瞬間。468年後のその瞬間に全てのヒトを消滅させる為にお前を爆発させるように細工を施した。隕石と爆弾の破壊力が合わさり全ては一瞬にして吹き飛ぶだろう。痛みも恐怖も感じ間もなく全てが終焉を迎えることとなる。
 恨みたければ恨むがよい。悲しいのならば悲しむがよい。それがお前の産まれた理由なのだから。我輩の身勝手な妄想と予知を叶え証明する為の存在なのだから。
 許せ……

 以下の文は上の文よりも数年後に書き足したものである。
 我輩が何よりも好きなのは研究でもなく発明でもない。この広い宇宙の中で奇跡と言うのはあまりにも軽々しい偶然が折り重なり、偶然産まれたこの星。我輩は地球が大好きだ。無論、研究対象としてでもあるのだが、それ以外にも他の星にはない美しく生命溢れる原風景は全ての生命の母なる場所でもあり、我輩もどこか心で安らぎというものを感じことができる。
 奇跡の星で産まれた奇跡の生物である人間もまた同じように大好きである。他の存在とコミュニケーションを取り、笑ったり悲しんだり怒ったりすることができるのは人間のみに許された活動なのだ。我輩も友人付き合いもあるし、家族もある。友人と語り合い飲み明かしするのは大好きだ。家族に至っては存在そのものが大好きだ。
人間とは本来、幸せに生きる為に存在している生命であると我輩は思うし、我輩もそんな人間を研究抜きにして大好きなのである。
だが、同時に我輩は人間の闇の部分も知ってしまった。幸せを知る生物はそれほど悪に染まることもできるということを身をもって知ったのだ。我輩はもう以前程人間を愛することができないだろう。あまりにも…あまりにも人間の心というものは煌びやかで残酷であった。

 だが、我輩の身勝手な思想、思惑により地球上の人間が消滅してしまうのはどうなのかと今更になって考えている我輩もいる。先も書いたように我輩は人間が大好きなのだ。同時に人間の惨たらしさに失望してしまってもいる。
 もう我輩自身でさえも、どちらが真実なのか判断できなくなってしまった。愛すべき人間の行く末を地獄から見守っていたいと思う我輩と、ここまで堕ちた人間は全てリセットすべきと思う我輩が拮抗しているのだ。
 だから最後の選択はお前に托す。

 【隕石と共に地球で果て、全てを終わらせるか】
 【隕石と共に遠い宇宙の彼方で果て、地球に明日を向かえさせるか】

 残念ながら爆弾の時限を止めることは不可能である。むやみやたら取り扱おうとするものなら、手で触れた瞬間に暴発してしまうだろう。
 お前に残された選択肢は二つに一つ。人間を救うか滅亡させるか、選べる道はどちらか一つ。真に身勝手ながら、最後の選択はお前に托すとしよう。並大抵な選択肢ではないことは我輩もよく確認している。
 一人で選べないのならばそうだな…お前が主としている我輩の子孫と相談するがよい。遺伝子操作により468年後の未来にお前を連れ出すよう設定された我輩の聡明な子孫なら、きっと正しい答えを導き出してくれるだろうと信じている。有限とされた最後のひと時までに答えを導き出すが良い。

 我輩はこれを書き終えたら、我輩なりのけじめを付けに行く。発明した兵器がお前が目覚めた時代に存在していないのならば我輩のけじめは成功したことになるし、そうであってほしいと願うばかりである。
 もう予知をする体力もとうに残されていないから、こればかりは我輩にもわからない。
 けじめが成功しても失敗しても我輩が死ぬことには変わりないだろう。だがこれでいいのだ。大量虐殺を行ったのは大国だとしても、その兵器を発明したのは我輩であって、そもそも兵器・・・いや道具だな。あの発明をしなければあのようなことは起こらなかった。我輩も虐殺の加担者なのだ。大勢の尊い命に比べたら我輩一人の命なぞ、比べることが痴がましい。我輩は大人しく地獄に堕ちることとしよう。

 長くなってしまったがそろそろ時間のようだ。
 再三書くようだが、ここに書かれていることは全て真実であり、絶対に変更することはできない。
 だから今から書くことも真実だ。
 我輩は、お前を創り上げた科学者として愛している。父として愛している。お前をこのような過酷な運命に導いてしまって本当に申し訳ないと思っている。どうか罪深き私を許してくれ。

私は最後まで…最期まで科学者であった。

                   著:ルーベリア=オドネア



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12/01/17 13:37更新 / ゆず胡椒
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■作者メッセージ
とてつもなく久しぶりの投稿ですいません・・・
リアルが多忙に多忙で小説を書いている暇ではなかったもので、これほどまでに遅れてしまいました。

新しい作家様方々が増えていらっしゃるので新しく呼んでもらえたならば光栄でございます。
ですが、新しい投稿規約に違反しているのではないかと内心ビクビクしております・・・惨殺シーンやバッドエンド、俺TUEE系は好みではないのでそういったものはシナリオとしては投稿することはないと思われます。

用はただの言い逃れですね!はいすみませんでした・・・

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