連載小説
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閑話 トーマのレポート
 私の感覚で言うと、約10日前になる。
 唐突に出された異動命令で、私は機動部隊第四隊から独立機動隊所属に変わった。仕事内容は新型の空宙両用航行挺UGMF−X38グリントPTのテストパイロットだった。
 四日前の2230時、俺の乗っていた機体はデルタ宙域を航行していた。その時は長時間航行テストの最中だった。
 システムにも問題は見受けられず、その後に遭遇した小惑星群も兵装の使用もありつつ回避は成功した。だが問題はここからだった。 私の目の前に、突如として巨大な紋様が浮かんだのだ。

 以下はその紋様の考察である。
 大きさは直径は500mは優に超しているものだと推測するが、詳しい大きさは分かりかねる。
 紋様は外円の内側に線で描かれた六芒星があり、その六芒星の三角形の空間にさらに円があり、♭や〆のようなマークがあった。だが恐らく前述のマークとは全く関係性はないだろうと推測する。
 さらに細かく見ると文字のようなものも見受けられたが、何と書いてあるかは読めなかった。

 私の乗った機体はその紋様に向かって引き寄せられ始めた。恐らく何らかの引力のような力によるものだろうと推測するが、それも全く不明である。
 機体を反転し、光量子ブースターの最大出力で離脱を試みたが、全く歯が立たなかった。紋様を潜った刹那に眩しい光を感じたが、次の瞬間には体に重力を感じ、モニターには薄く明るんだ空と雲、また機体とともに引き寄せられたと見える隕石群の破片(最大直径10mから小石程度までと推測する)が機体と並んで落下していた。
 私は重力化光量子スタビライザーの機動を試みるが、システムダウンし起動せず、即座に前方に向かっているバーニアを噴射し、落下速度の軽減を試みた。そして、地表100m付近で操縦桿を引き機体を平行に体勢を変え、空気抵抗を用いて衝撃の緩和を試みた。
 試みが成功したかどうか定かではないが、私は気を失い、全身の打撲と顔面をヘルメットのウィンドウの破片で切る怪我をしたにとどまった。
 コックピット内に目立った損傷はなかったが、システムが全面的にダウンしていた。再起動の手段を粗方試したが、どれも応答はなく、次の行動を取ることにした。

 コックピット後部のハッチを開け、その中にあった救急器具で止血しスペアメットを被り、持てる装備を持ち機体の外に出た。
 計測の結果、地球の大気濃度より酸素が多く、重力は0.8Gと地球より小さい。恐らくはその0.2Gの差で私は命拾いをしたのかもしれない。有害物質も検出されず、私は一まずウィンドウを開放した。
 フォートシックスと連絡を試みるが、応答はなし。
 大気は澄んで、見渡す限り自然が広がっていた。水もあるであろうことを、この時点で確信した。
 デルタ宙域付近でこのような星の存在は報告されていないため、恐らくワームホールに飲み込まれ遠い外宇宙に飛ばされたものだと、この時点では推測した。

 直後、人影らしきものを視認し、私は辺りの深い茂みに隠れた。そこで私は驚くべきものを目の当たりにすることとなったのである。
 やってきたのは2体の二足歩行する生命体だった。その容姿は人類の面影を感じられるものの、1体は緑色の鱗と尾、頭部側面の耳があろう箇所には鰭のような器官を有し、軽装の鎧を纏い、腰には西洋剣を携えていた。
 またもう1体は上半身は人間のようであったが、下半身、股よりも下が馬の首から下のような形状であった。そう、例えるなら物語に出てくる「ケンタウロス」のような容姿であり、弓矢を携えている。
 機体に触れようとしたため、牽制の意味も込め銃を向けたが、サブマシンガンは緑色の体をした生物に剣で弾き飛ばされた。彼らの運動能力は人間のそれを遥かに凌いでいる。


 戦闘の末に奴をねじ伏せたとたんだった。相手の発した言葉が、私たちの使う言語と全く同じだったの事に驚いた。
 話をするうちに、この星にも人類が存在し、彼女たちの仲間にも人間がいるという。
 彼女らの仲間と合流すると、人間は青中年層の男性であった。

 情報交換をするうえで分かったことは多くあるが、そのどれも常識の範疇を逸脱していた。
 以下がその内容である。
・この惑星も、人々は「地球」と呼称している。
・この惑星、もしくはこの世界には「魔物」と呼ばれる生命体が存在し、知能レベルは個体、種類によるが基本的に言葉を介することのできる知的生命体である。
・この惑星、世界には「魔力」なるエネルギーが存在し、人々はそれを行使し、その術を「魔法、魔術」と呼称する。
・魔物はその頂点たる存在「魔王」の交代ですべてが異形、凶暴なものから、女性型のものに変わった。
・性交渉をもって魔物は人間の男性から「精」という魔力を得て、生命維持の一つの手段にしている。
 
 以上の他にも基本的な世界の情報は得たが、記述は前述までに省略する。

 私が接触した人物について整理する。

・ノルヴィ・リックマン
 人間、35歳。髪の毛は黒茶で短髪。背は私と同じほどなので175前後、平均的な締まった体をしている。人相はたれ目気味、もみあげが少々太く、顎には短くチクチクとした見た目の髭が生えている。時折お調子者のようにふざけたような話し方をする。格好はシャツにジャケットにベージュのズボンとシンプルで一般的な格好をしている。
 生業は行商人で、以下二人を「ギルド」と呼ばれる世界的な互助組合のようなものを通し、護衛として雇っている。

・ミラ・チルッチ
 魔物(種類:ケンタウロス)、27歳(人間換算)。オレンジがかった茶色のロングヘア。左右から細い三つ編みを後ろにもってきて束ねている。凛とした優しさも感じさせる顔立ちで、背丈は私より頭半分高く、胸は大きく、引き締まった体。主に弓を使って戦い、魔法の知識もあり実際の行使も可能。ワンピースになった服で、チャイナ服のような形のものを着ている。馬の体には矢筒と少々の荷物の入った鞄が一緒になったホルスターがベルトで固定されている。女性らしい言葉遣いをするが、ケンタウロスにすると珍しいらしい。

・トレア・ランザ
 魔物(種類:リザードマン)、21歳(人間換算)。ブロンドのセミロングで、ポニーテールにしている。身長は私より低く160あるかないか。青緑の袖がないボディースーツの上にアイアンガードと左肩の蛇腹状のアーマーが一体になった物と左右にアーマーのあるウエストガードを防具として装備しており、両腕にはタイツと同じ素材で筒状の長手袋をし、ひざ丈のブーツを履いている。刃渡り1mほどの剣を武器とし、姉御口調もしくは騎士らしい口調で話す。

 私は3人の協力のもと、私をこの世界に送り込んだ魔導師がこのあたりのどこかの町にいる可能性を知り、元の世界に帰るためその魔導師を探すことにした。
 魔導師は私の墜落した場所から西に19kmの地点から半径100kmの範囲内にいる可能性が高い。
 機体はその場を離れる際に見つからないように隠しておいた。

 まず私は3人の目的地であった町「ベネール」に入った。
 町の風景や人々の服装は相違点も多々認められるが中世のヨーロッパに似ている。
 私たちが宿泊する宿の一室で話し合い、私が彼らからこの世界で暮らし、魔導師を探すためのサポートを受ける代わりに、私も彼らに対し金銭面等で見返りを与える必要性があるため、私自身もギルドに所属し、依頼をこなしていくことになった。
 私が町に入った翌日、ミラ、トレアを連れ添い「ギルドカウンター」と呼ばれる施設で所属登録を行った。任務を受託できるのは翌日からということであるため、町を見て回ることとなる。
 この世界の武器は主に剣や槍、弓矢などのまたもや中世の物であるらしい。銃火器はそれほど発達しておらず、主に近接戦闘であると思われた。
 行商人であるノルヴィの出店を訪ねた際、彼が客から得たこの町にいる魔導師の情報を教えてもらった。
 その二人を訪ねる道のりで、私の今いる大陸での方角の知り方を教わった。

 魔導師はこの町に2人いた。
 最初に訪ねたのはエヴァニッチ・ボレーノという男だ。髪は白く腰よりも長い。白いマントとスーツを着た男だった。
 彼は「ネクロマンサー」と呼ばれる魔術師の一種であった。行使する「ネクロマンシー」と呼ばれる術は人間の死体を使役するものである。
 彼の行使する死体はスケルトンという白骨化した遺体が魔物したものであり、後にミラに聞いた話によれば前述の行為で精を与えることにより、その魔力でできた仮初めの躯体を維持し、命令を聞かせるのだという。また彼の行使するスケルトンは生前に行使承諾の契約をしていたものであるらしい。
 2人目はカウルス・オルディン。少々小汚い見た目の男であった。石を媒体とした魔術で「式」と呼ばれる人形のようなものを使役している。式は魔物ではなく彼の魔力によって作り出されたものであるらしい。
 2人ともに質問をするが、どちらも時空間魔法を使うことはできないらしい。

 次の町への出発は3日後だというので、あと1日はこの町にいる必要があった。翌日になり私は前日同様に2人を連れ添いギルドカウンターに赴き、依頼を受託した。依頼主はカウルスであったが、依頼内容は当初は不明であった。
 彼の家に到着し、説明を受けた。依頼内容は彼の式3体との20分間の戦闘により、その新型の式のデータをあつめることだった。私は少々狼狽したが、依頼を承諾した。

 戦闘が始まり、私は対峙した式の一体の攻撃を回避することに専念していた。装備はハンドガンとバイブレーションナイフを所持していたが、式には通じないことは一見して認識できた。
 早々に二人は各々式を打破しており、こちらに加勢してもらった。だが、どうやらこの式は他とはスペックに一線を画く差があるらしく、苦戦を強いられた。
 ミラの魔術により、一度は式の動きを封じることに成功し、また頭部にある核への攻撃を行ったが、核は魔力による斥力と核を覆う装甲によって守られており、トレアに借り受けていたナイフは斥力との反発で破損し、バイブレーションナイフも装甲を貫くのみで留まり、核の破壊には至らなかった。
 時間経過とともに消えるはずだった式は、具現稼働時間を超えても消えることはなく、そこでカウルスは原因不明の暴走であると告げた。
 再び、ミラの魔術によって行動を封じる策を講じるが、式はそれを回避する手段を学習しており、失敗に終わる。
 私は式の攻撃を受けそうになるが、突如そこにエヴァニッチが加勢に現れた。
 2体のスケルトンは式の攻撃で一度散解してしまうものの、それを布石としたエヴァニッチの魔術により、式の動きを封じることに成功する。そこに私はハンドガンによる3度の発砲を加え、放った3発の弾丸の内の1発が狙いであったナイフの柄頭に当たり、押し込まれたナイフが核を破壊することに成功した。
 スケルトンはその後再び元の形となり、エヴァニッチとカウルスは暴走した原因の究明を始めた。

 しばらく体を休めていた際、顔に負った折れたナイフによる切り傷意外に右脇腹に軽傷を負っていることに気づく。
 やがて暴走の原因が媒体もとい核となっていた石であることが判明し、その石が私と共にこの世界に引き込まれた小惑星群の欠片であると認識した。
 私と同じようにこの町や出口から半径10kmに落下している可能性は高く、魔術の暴走が多発する危険性を感じたが、媒体にならなければ暴走はしないということもわかり、私は安堵した。
 欠片は対魔術用の結界を施したうえでエヴァニッチとカウルスがどこかに保管してくれたようだ。

 ギルドカウンターに立ち寄り報酬を受け取った。その半額を使い私の服と装備を収めるケースなどを買い宿に戻った。
 宿で、帰路の途中に私の怪我に気づいていたトレアに手当てを受けた。
 個人的な感想ではあるが、器用なものだと感心した。そして女性にこうして手当てされた経験はほとんどないためか、私は少し狼狽に似た感覚を覚えていた。

 我々は翌日の早朝ベネールを発った。
 なお、これは次の町「ステンライナ」への旅路にて記している。

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「ん、トーマ何を書いているんだ?」
 トーマが記録を書いているとトレアがテントから頭を出して訪ねてきた。ちなみに今は夜、トーマはテントの外で灯の光を頼りに記していた。
「いや、ちょっとな」
 トーマはレポートを隠した。特に見せる必要もないと判断したからか、小恥ずかしさがあったからかは定かではない。
「そうか、お前も早く寝ることだ。明日も早いからな」
「ああ」
「私はもう一眠りする…」
「ああ、おやすみ」
 トレアはテントに戻った。

 トーマはレポートを荷物に直すと、何気なく右脇腹の傷をそっと触り、あの狼狽に似た感覚を思い出して少し考えるような顔をし、そのあと「ふ…」という安らかげな笑みをこぼし、テントに戻り眠りに就くのだった。
12/08/25 04:09更新 / アバロンU世
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■作者メッセージ
ベネール編のまとめと補足のようなものです。

まぁ読まなくても影響はないでしょうが、まぁ閑話です。

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