連載小説
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27.誰ですか一体
初めに、白昼夢でも見ているのかと思ったが、どうやらこれは紛れもない現実。
次に、自分はまた酔っているのではないかと思ったが、酒を飲んだ記憶は無い。
その他、あらゆる可能性を想定したが、その全てが否定されて、結論が確定する。

「・・・・・・・・・・」

ありえるはずのないもの。



「お・・・お帰りなさいませっ、ご主人様ッ!」

フリルだらけのエプロンドレスに、黒のスカートとニーハイソックス。
頭には猫耳までついたフリフリのヘッドドレス。

恐らく史上初となる、オーガのメイドが、そこにいた。



「・・・頼むから何か言ってくれ!」
「何を言えばいいんですかとりあえずすごく可愛いですごめんなさい!」
「ありがとうだけど何で謝ったんだあとこっ恥ずかしい!!」
「分かりませんよそんなの! これどういうことですか!?」

両者、どのテンションで何を言えばいいのか分からない。
シロは、目の前に存在するのが本当にエトナなのかという衝撃、
エトナは、自分で決めたには決めたが、実際にやるとなると予想以上だった羞恥で、
まともに落ち着く術を失くし、事態の収拾には結構な時間を要した。



「・・・これが、それの中身」
「ある意味大当たりですね。・・・投げ売りされていたのは、サイズの問題でしょうか」

最後に残った、大きな福袋の中身。
まさかまさかの、メイドコスプレセット一式(LLサイズ)であった。

「シロが好きかどうかは分からなかったけど、折角だしと思って」
「完全にコスプレ専用の衣装ですね・・・色々と」

メイド服は元々、貴族の使いの者に着せられる服であったが、
その可憐さから飲食店を始めとする様々な場所に広まってゆき、このようにして
コスプレ用の衣装まで販売されるようになっている。

故に、初めから給仕ではなく、『そういった』行為の為に作られているものも多く、
エトナが着ているのもそれ仕様。具体的には、丁度胸の辺りの生地がハート形に切られており、
深い谷間が露出する格好となっている。
他、ヘッドドレスにもこもこした黒いネコミミがついていたりと、
本来の用途からは大きくかけ離れたものであろう事は想像に難くない。

「その・・・どう、だ? その・・・うん、似合ってないと思うけど・・・」
「・・・えっと」

落ち着いたところで、ゆっくりと全体像を確認する。

普段の露出度の高い格好とは逆に、布地の多いワンピース型のエプロンドレス。
黒と白のコントラストが長身で映え、どこか幻想的な雰囲気を醸し出す。

軽く体を締め付けるコルセットは、上部が丁度胸の下に当たり、
只でさえ扇情的な、ハート形の穴から覗く谷間をより強調している。

フリルだらけのスカートの下には真っ黒なニーハイソックス。
エトナの美脚にぴったりと張り付き、綺麗にシルエットを映し出す。

そして、スカートとソックスの間に存在する、僅かに露出した太腿。
ほんの少しだけ、という所が禁欲的な中に微かに存在する色香を最大限に魅せ、
男心を擽り倒す至上の絶対領域を生み出した。

よく見れば、両手には肘までを覆うロングの手袋がはめられている。
こちらは神々しささえ感じる程に真っ白。恥ずかしげに絡ませた指先がいじらしい。

極めつけは頭のネコミミ付きカチューシャ。
角で若干隠れてはいるものの、逆にそれが絶妙なぽんこつ加減であり、可愛い。

確かに、本来オーガとメイド服というものは、親和性など全くないはずであったが、
実際にこうしてみると、アリかナシかで言うなら。

「・・・これ、割とアリです」

オーガの美しさと、メイド服の可愛らしさ。
意外にも、その組み合わせは奇跡的に噛み合った。

「エトナさんって普段はカッコいいですけど、本当はこんなに可愛いんですね」
「・・・マジで?」
「はい。よくよく見てみると、中々どうして魅力的に」
「いや、本当に考えてみろ? アタシはオーガ。鬼だぞ? 鬼がメイドっておかしいだろ?」
「でも、こんなに可愛いんですし、仕方ないですよ。可愛いは正義です。
 こうして思い出すとドキッとしますね。『お帰りなさいませ、ご主じ・・・」
「言うな! それ勢いで言っちゃったけど今最ッ高に忘れたい記憶リストに入ってるから!」

勢いとは恐ろしいものであり、普段ありえない事をやらかしたりする。
この衣装を見て、『着よう』と思った辺りでもうすでにおかしいのだが、
何故か、この日のエトナはそういう気分だった。

そして、勢いがあるという事は、同時に何らかの流れが存在するという事を意味する。
流れも侮れるものではない。一度流れに乗ってしまえば、それを止めるのは困難な場合が多い。

『カッコいい』ならそれなりに言われた事があるし、多少自覚もしている。
だが、エトナは基本、『可愛い』と言われる事に慣れていない。
それをSもMもどちらにも転ぶ素質を持っているシロが知ったとなれば。

「エトナさんが忘れたとしても、僕はきっちり刻み付けますよ。
 この日、凄く可愛いメイドさんに出会えたって」
「言〜う〜な〜! アタシが、か、かわっ・・・い、とか・・・」
「エトナさんはカッコいいです。それと同じ位に可愛いです。可愛い。可愛い。可愛い」
「う・・・うぅ〜・・・」

酔っていないだけタチが悪い。
子供らしい、悪意の無い純真なドSさを開花させる事となる。

「そうだ! エトナさん、折角ですし・・・」

そして彼は、その勢いと流れのまま、エトナにお願いをした。



一度馬車の外に出たシロが、室内に入り直す。
そこで、メイド服を着たエトナが絨毯に三つ指ついて座礼。

「シ・・・ご主人様、お帰りなさいませ」
「あぁ。今日も疲れたよ。先方との商談が長引いてね。寂しかった?」
「・・・ほんの、少しだけ」

インキュバス化する前なら、発想自体無かったし、やりたいとも思わなかった。
しかし、今ならやってみたい。

『ご主人様とメイド』というイメージプレイ。
主従関係を結んだ二人が織り成す、愛欲の一幕。
オーガのメイドという倒錯的な姿を見たシロの欲求は、やや偏った方向へと増幅していた。

「じゃ、いつも通り、その・・・」
「・・・・・・?」
「・・・その」

自分は、メイドの主人。
なら、それなりに高圧的な態度をとらなければならないのだが。

(・・・選択を誤ったかもしれない)

シロもまた、盛大に自爆したという事を、ここに来てようやく気付く。
普段出来そうにないこのプレイは、自分も羞恥心に苛まれるという事を失念していた。

「・・・そっ、そのいやらしい胸で、とっとと僕を気持ちよくさせるんだ」

今の気持ちがややサド寄りに傾いているとしても、元の性格が性格。
シロにとっては、これが精一杯の上から目線のセリフであった。

「かしこまりました、ご主人様。アタ・・・私のはしたないおっぱいで、気持ちよくなって下さい」

その一方でエトナは、割と役になりきっている。
『シロが望んだ事』という揺るぎない事実が根底にあるから、抵抗はあまり無い。
それに、元はといえば自分の始めた事だ。なら、楽しもう。
その辺りの気持ちの差が、正負問わず、両者の演技力を補正した。

慣れた手つきでズボンとパンツを下ろすと同時に、全体を咥えて唾液をまぶす。
余った分は露出した谷間へと垂らし、準備完了。

「今日も、おっぱいでおちんちんを挟んで、扱いてあげますね」

普段のニヤりとした笑みとは違う、ほんのりと優しさを纏った、柔らかな笑顔。
何処からどう見ても、『ご奉仕メイド』として、エトナはそこに存在していた。

(・・・エロい)

視線を少し下げれば、ハート形の穴を埋め尽くす乳肉と、湿り気を帯びた谷間が。
迷う事無く、先走りを漏らす鈴口を触れさせ、そのまま奥深くへと挿乳した。



「ふわぁ・・・あぁ・・・♥」

穴あきメイド服での着衣パイズリは、その性質上必然的に縦パイズリとなる。
肉棒の急激な成長により、全部が埋もれる事は無くなったが、それでも根元が少し余る程度。
一物を挟む為にあるかのようなエトナの胸に、その大部分は沈んでいる。

「ご主人様、気持ちいいですか?」
「あぁ・・・最高だよ、エトナさ・・・お前のおっぱいは」
「嬉しいです。では、もっと気持ちよくしてあげますね」

実はこのメイド服、全体的なサイズはほぼ合っているが、胸の部分はかなりキツい。
その為、手を全く触れずとも、自然と圧をかける事が出来る。
しかし、それはこれ以上強く挟み込む意味があまり無いという事も意味しており、
服の中に入っている為舐める事も出来ない以上、ここからどうすればよいのか。
シロは、次の行動の予想を立てられずにいた。

だが、彼はまたしても忘れていた。
エトナはオーガであり、魔物娘であるという事。
魔物娘である彼女が、自分の武器をどう使えばいいか、知らないはずが無い。

「ふふ・・・」
「ん? んんっ!?」

突如、ねじれるような刺激が走った。
中で何かが這いずり回るような、すり潰しにかかられているような、強い刺激。

「私の必殺技・・・『乳束揺らし』はどうですか?」

されていた事、していた事は、あまりにも簡素。
エトナは、胸の下部に手を当て、自分で揉むようにしながら、揺らしているだけだった。

上半身で動かしているのは、ほぼ両手だけ。
胸を軽く持ち上げ、落とすという、小さな動きのみ。
傍目には、地味な責めではあるが・・・

「ひゃっ!? あんっ!? んぇっ!?」

伝わる感触に、規則性が全く無い。
ぴっちりと締め付ける状態で、外部から不安定な力を加えられる。
そうなれば、中に存在する肉棒への刺激は不随意なものになり、快楽の急襲がそこかしこから。
手を離していても、一定の締め付けだけは無くなる事の無い、着衣パイズリだからこそ出来る技。

インキュバス化しても、持久力は変化していない。
むしろ、性欲と精力の向上で、相対的に早漏に寄った。
そこでこの新たな形の乳責めを受けて、耐えられる訳が無い。

「いかがですか? ご主人様」
「これ・・・も・・・あぁっ!」
「イキそうですね。いいですよ、思いっきり、私のおっぱいに漏らして下さいませ♪」

受けた事の無い、たぽん、たぽんと責める、着衣パイズリ乳束揺らし。
普段じゃ見れない、恭しくも小悪魔チックに奉仕するエトナ。
どう足掻いても無理。それ以前に、足掻き方も分からない。

「ひ・・・ふぁああーっ!」

谷間の奥底の胸板に、精液が撃ち込まれる。
量・濃度共に桁違いだが、ただの一滴たりとも外気に触れない。
射精した子種は全て吸い込まれ、自分そのものも飲み込まれるかと錯覚する。

「・・・沢山、漏らしてしまいましたね」

メイドの持つ清楚さが抜け、その跡に流れ込んだのは、妖しい色気。
いつものニヤリとした笑みを浮かべているが、何処か様子がおかしい。
言うならば、押してはいけないスイッチを押してしまったような。



「ではここからは・・・『主従逆転・メイドの逆襲』プレイと致しましょうか」



丁寧な口調のまま、恐ろしい事をのたまうエトナを見て、シロは確信した。

(・・・調子に、乗り過ぎた)



「ほら・・・この手袋、すべすべで気持ちいいでしょう?
 メイドの白い手袋、コスプレとはいっても、意外と精巧に作られていたんですよ♪」

完全にエンジンがかかったエトナ。
本当に、何年も昔から仕えていたかのような立ち振る舞いで、頬を撫でる。
それだけで、シロは陰茎を強張らせた。

それはエトナも知る所であり、一気に攻めに転じる。

「・・・ご主人様? まさか、このメイドの白い手袋を汚したいとでもお思いになりましたか?」

言葉遣いこそ、上品ではあるが。

「手袋を嵌めたメイドの手で、おちんちんをごしごし扱かれて、たっぷりとお射精したい。
 自分よりずっとずっと身分の低いメイドにお手コキをねだって、快楽に溺れたい。
 ご主人様ともあろうお方が、そんな事、考えられるはずがありませんよね?」

内容は、普段のエトナよりも酷く卑猥。
そのギャップに、正常な思考を侵されてゆく。

(これ・・・エトナさん・・・なの・・・?)

ドキドキが止まらない。はっきり言って、ここまでくると怖い。
なのに、呪文が発動しないのは何故か。

(・・・期待、しちゃってるのかな)

深層心理は、この異常な状況を享受する事を選んだ。
何が出てくるか分からない、魔性のメイドと化した、エトナに全てを委ねて。



「初めに言っておきますが、一切の容赦は致しません。
 一度始めたが最後、気絶するまで喘いで頂きます」

肉棒を愛でるようにして、手袋越しに撫でる。
滑らかな生地で作られた、薄手の手袋。皮膚に貼りつくかのような着け心地。
つまり、感触こそ異なるものの、温もりはいつものエトナと同じ。
もっとも、そのエトナも、いつものそれとは全く違う事になっているが。

「・・・やれるものなら、やってみなよ。
 僕は君の主人だぞ? 主人がメイドの手コキ如きに負けるはずが無い」

精一杯の虚勢を張りながらも、まず間違いなく負けるのは自分だと、シロは確信している。
また、このイメージプレイに無理がある理由は、自分だという事にも気付く。

(やりたいと思ったはずなんだけどな・・・間違えたかな・・・)

別に、嫌な気分がする訳では無い。
ただ、色々な違和感、流れに乗れない自分の不器用さ、
そして何より、エトナは思いの外役になりきるのが上手かったという誤算が、
何とも形容しがたいこれじゃない感を生み出していた。

「それでは・・・始めさせて頂きます」

親指と人差し指で輪を作り、残りの指を揃え、扱く。
純白の手袋に包まれた、グロテスクな肉棒という、対照的な光景。
しゅるしゅると流れるような動きで、いつもと違う刺激を与える手袋コキ。
視覚にも触覚にも意表を突く責めは、この非日常的な状況をそのまま具現化したかのよう。

役になりきるのなら、立場上、シロは多少なりとも声を堪えなければならないのだが。

「あぁ・・・はぁ・・・気持ちいい・・・♥」

もう、どうでもいい。声を堪えるなんて無理だし、意味も無い。
自分で提案したにも関わらず、彼は完全にロールプレイを放棄した。

「ふふ・・・もう敗北宣言ですか、ご主人様?」

楽しんでいるのは完全にエトナ。
面白い事、楽しい事が好きな彼女にとって、架空の設定がプラスされ、
いつもと違ったシロや自分に出会えるイメージプレイは、非常に好ましいものだった。

元々、調子に乗ったシロが勢いで始めたイメージプレイは、両者の立場を逆転させた。
策士、策に溺れる・・・とは少し違うかもしれないが、思いがけない結果になったという意味では、
そう言う他ないだろう。

「ご主人様は変態ですから、キンタマをいじめられるのもお好きでしたよね?
 それじゃ、にぎにぎして差し上げましょう。・・・こちらだけ、ですがね」

開いた左手で右側の睾丸をつまみ、ころころ転がす。
あくまで片方のみ、執拗に、ねちっこく責める。
快感は増幅するが、お預けを食らった左側の睾丸が気になって仕方ない。

「エトナさん、左も・・・」
「左がどうされ・・・って、もうメイドを名前で呼んじゃいますか。
 堕ちるの早すぎです」

『自分で提案した事なのだから、自分もちゃんとしないといけない』という責任を全うする義務感と、
『とにかく気持ちよくなりたい』という性欲の間の不等号が反転した瞬間である。
インキュバス化したから始めたプレイは、皮肉にも同じ理由で投げ出された。
シロにとって、役になろうとする事は最早邪魔でしかない。

「しょうがないご主人様ですね。それじゃ、両方のキンタマをいじめてあげます」
「あぁ・・・! そんな・・・そんなにされたら・・・!」
「よがっちゃいますよねぇ・・・この変態」

同じく手袋をつけた左手で、睾丸をぐりぐりと擦り合わせるように玉袋を揉み込む。
それによる効果は、シロの表情が崩れる位にはあるようだ。
上がる嬌声が高くなった所で、エトナはさらに攻勢に出る。

「子供みたいと思いましたけど、子供はキンタマ揉んでくれなんて変態的な要求、しませんよね。
 それなのに恥も外面も無くおねだりして、恥ずかしくないんですか?」
「気持ちいいから・・・どうでもいい・・・」
「へぇ・・・ご主人様には失望しました。というか、心底軽蔑します。
 おちんぽ気持ちよければ何でもいいんですね。メイドを性欲処理ロボットと勘違いしてません?
 私はあくまで、掃除や家事とかする為に雇われているんですよ?」
「知らないよ・・・あぁ・・・もう・・・」
「またお射精してしまいますか? 本当に情けないご主人様。・・・仕方ありませんね」

だらだらとカウパー液を垂れ流し、動かすたびに淫猥な水音まで鳴り続ける、シロの淫棒。
絡みつくように扱きつづけている手を一度離し、静かに囁く。

「情けないご主人様を鍛えるというものメイドの務め。
 ・・・ご主人様の弱いおちんぽ、鍛えて差し上げますね」

エトナは、シロがしたい事をするのが基本だが、彼女もまた、一人の女。
自分がやりたいと思う事も山ほどある。愛する男が、インキュバスになったなら尚更。
加えてこのシチュエーション。となると。

「覚悟して下さいね。おちんぽが壊れても、許してあげませんから」
「え・・・?」

何をされるのか、分からない。
鼓動が高鳴るのは、恐怖か、期待か。

「これだけ先走っているなら、すぐに出来ますね。・・・では」

左手は竿を支えるようにして添える。
右手は亀頭に掌を宛がう。

手袋に使われている生地、織り方、感触。
それを見た時に、エトナの頭には、もう浮かんでいた。
薄布越しに、湿り気を感じ取り、一呼吸おいて・・・



―――一猛烈な速さで、シロの亀頭を擦り始めた。 



「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

一瞬で錯乱し、強烈さで強引に現実に引き戻される、無茶苦茶な刺激。
激しい責めは何度も受けたが、その中でも、経験した事の無い責め。

「え、なに、これっ!?」

残像が残るほどに素早く手を動かし、亀頭を擦る。
手袋のおかげか、しゅるしゅると音を立てながら、滑る様に手が行き来している。
しかし、その場所が場所。急所を蹂躙されて、平常心を保てる訳がない。

「いかがですか? メイドの亀頭責めのお味は♪」
「ちょっ、な、こ・・・ふへぇっ!?」

とりあえず、気持ちいいのは間違いない。
間違いないのだが、何か違和感を感じる。

「これだけ強い刺激なら、すぐにお漏らししてしまいますよね?
 私としてはあまり好ましくないのですが、別に射精してしまっても構いませんよ?」
「そ、んなっ、こんなの・・・」

今度は掌の窪みで亀頭を包み、ぐりぐりと動かす。
擦れに擦れる手袋がいとも容易く蹂躙し、犯し尽くす。

「ほら、どうされました? もう射精されてもおかしくないのでは?」
「こ、ぜっ、わか・・・っ!?」

『これ、絶対分かっててやってますよね!?』
それが、伝えたい言葉。
シロは気付いた。この責めの最大の特徴。

亀頭だけを執拗に嬲るこの責めは、狂おしいほどの快楽を与えるが、
絶対に、射精出来ないのである。

「イキたいならイってもいいと言ってるのに、おかしなご主人様ですね。
 それじゃ、このままノンストップでヤり続けてみますか」
「ひっ・・・ひぁぁっ!」

怖い。怖い。怖い。
何が起こるのか分からない。何が起こるのか分からなくて怖い。
この時だけは、呪文の発動を切に願った。
なのに、その気配すら無い。

それでも、精神に反して、身体は正直だった。
自分の身体の一部という感覚が無くなって行く一方、快楽だけは重なり続ける。
射精という終わりが訪れぬまま、休みなしに延々と。

「あぁぁ・・・あぁぁぁ・・・!」

この日、シロはエトナが魔物娘である事を、何よりも深く実感した。
(性的に)襲われ、(性的な)主導権を奪われ、(性的な意味で)責められる。

思えば、今までのエトナはずっと、自分の願った通りの事をしてくれた。
オーガという種族は、肌の色と角こそ違うが、体型は人間に近い。
その為、時折魔物娘である事を忘れる事もしばしばあり、それが普通だと思っていた。

本来は、この状況の方が普通。
体力的にも性的な技術でもどうしたって自分より上である以上、こうなって当然。
エトナの配慮の上に成り立っていたのだから、エトナ次第でどうとでもなる。

(こんな大事な事忘れるなんて・・・僕、馬鹿だな・・・)

その結果、招いた事態。
なら、甘んじて受けるしかない。



精液を漏らせぬまま、亀頭責めに悶える事しばらく。
突如、シロは尿意を催した。

「ひっ、えと、ぼ、なんっ、でっ!」
「何か言いたいならご自由にどうぞ。言えるなら、の話ですけど♪」

悪意を感じる程に純粋な笑顔のエトナにその事を伝えようとしても、言語にならない。
手首のスナップを利かせながら亀頭をこねくり回され、喘ぎ声の中に溶けるだけ。
何度試みても、結果は同じ。そうこうしている内に、いよいよ限界点が近づいてきた。

(駄目・・・もう・・・出ちゃう・・・)

精液では無い液体を零さぬようにしていた、腰の強張りが弛緩する。
エトナの手を汚してしまうという罪悪感に苛まれても、止めようが無い。

(ごめんなさい・・・エトナさん・・・)

シロは、この時出てくるものは小便だと思っていた。
しかし、彼は亀頭責めの性質を理解しきってはいない上、その存在を知らなかった故、
別のものである事が分からなかった。

「あっ、これは」

エトナの狙いは、ここにあった。
前兆を感じ取った瞬間、全速力で亀頭を擦り上げ。



「ふぁ・・・ああああああああああああああああ!?」



先端から迸ったのは、尿では無い、透明な液体。
シロの性別なら、起こり得ないはずの現象。

それを見て、エトナはニヤりとして呟く。

「潮、吹いちゃいましたね、ご主人様♥」

快楽の臨界点を突破した、その先に存在する、男の潮吹き。
彼はまた一つ、幼きままに経験する事の無いはずの事に遭遇した。

脳天を粉々に砕くような衝撃と共に訪れた潮吹きは、全てのリミッターを壊した。
股間を起点に、手足の末端に到るまで、血液が沸騰する程に熱くなり、
意識をただ一点、『気持ちいい』に閉じ込める。
気絶によって強制的にシャットダウンしようとしても、インキュバスの身体が許さない。
快楽無間地獄に堕ちたシロは、喉への負荷など知ったこっちゃないという程に、叫び続けた。



「あー・・・楽しかった♥」

メイドと主人の、主従逆転プレイ。その目的は、これで果たされた。
ここからは、いつも通りシロが望む通りの事をしよう。
そう、考えていたエトナだったが。

「で・・・でちゃう・・・」

震えるシロの口から、不可解な言葉。
先程まで与えた刺激では射精は出来ないし、潮は今吹いたばかり。
これ以上、何が出ると言うのか。

(・・・あと何が出るんだ?)
「でちゃうよう・・・」

震えが全身になった所で、シロの股間から液体が溢れた。
ゆるゆると流れ出る様は、精液の貯蔵量が少ない時の射精に似ているが、色は白くない。
薄く黄みがかった、アンモニア臭のする液体。

苛烈な責めが終わり、気も力も抜けきったシロは、
今度こそ本当に、小便を漏らしてしまった。

気が狂う程の亀頭責めの後の排尿は、射精と同じ位に気持ちよかった。
着衣パイズリで精液を出し、手袋亀頭責めでカウパー液に塗れ、潮を吹き、
挙句の果てには小便まで垂れ流す・・・ありとあらゆる液体のお漏らし。
表情はぐちゃぐちゃ、閉じかかった目は明後日の方向を向き、焦点は合っていない。
その姿はどこをどう見ても、廃人そのもの。

(・・・やり過ぎた!)

狂気一辺倒に包まれた空気を感じ取って、エトナもようやく理解する。
軽く苛めるだけのつもりだったが、(ある意味予想通り)やり過ぎた。

「とま・・・とまんないぃ・・・はひゃい・・・」

腰に力が入らない。尿が止まらない。
何故か、排泄による爽快感ではなく、性的な快楽を感じてしまう。

(あはは・・・ぼくのおちんちん・・・おばかになっちゃった・・・♥)

頬が緩み、全身の力がさらに抜けてゆく。
抜ければ抜ける程、感じる快楽は増大する。

(シロ・・・)

鼻をつく臭いの中、エトナは秘所をしっとりと湿らせていた。
ぐちゃぐちゃにしたはずの少年が、さらにぐちゃぐちゃに堕ちてゆく。
想像だにしなかった展開と、えも言われぬ背徳感。

(ごめん・・・アタシ、こんなのでも興奮してる)

尿中のフェロモンが、微かに残る良心すらも打ち消し。

「ん・・・んぁっ・・・ああっ・・・!」

愛する少年が、尿を漏らす姿という、変態的な情景を興奮材料とし、
エトナは、自身の指で陰核を擦り、快楽を貪った。

「ふぁぁ・・・あぁぁ・・・あぁぁぁぁ・・・」

シロもシロで、顔の方も涎やら鼻水やら、色々と漏らし始めた。
快楽やら羞恥やら混ざりに混ざって混沌とした頭の指令を、神経は全て聞き流した。
ぐずぐずに溶解したシロを元に戻す術は、時間の経過を待つ以外に無かった。



「・・・もうお婿に行けません」
(アタシが貰ってやるとか、それ男が言うセリフじゃねぇとか言いたいけど、
 それどころじゃねぇよな・・・)

馬車の隅で、壁に向かって体育座りをし、酷く落ち込むシロ。
後姿しか見えないが、少なくとも耳とうなじは赤・赤・真っ赤。

「・・・シーツ、取り換えとくな」
「・・・任せました」

短い会話の後、淡々とシーツを剥がしにかかる。
干す場所が問題だが、幸い天候はいい。この分なら、すぐに乾きそう。

珍しく思慮の足りない提案をしたシロと、メイド服を着たエトナ。
二人はこの日、たった一つ学んだ。



((イメージプレイって、危ない))
15/05/23 09:12更新 / 星空木陰
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■作者メッセージ
「これ(メイド服)、捨てとくな」
「いやそれはちょっと待って下さい」

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