連載小説
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巨人ゴライアスはショタに倒された

ざわ……ざわ……ざわ……


     ざわ……ざわ……ざわ……



「ねえちょっと、見てあの人……」
「すごい……お綺麗な人…、思わず見とれてしまうくらい……」
「やべぇ…、すげえボインちゃんだぜ……」
「くっ、見てるだけで勃っちまう。」
「ああ…もっときれいな服を着ていれば…」



ふっふっふ…さすが私、変装してても素材が良すぎるから人の目を引いちゃうわね。
ああ、この羨望と劣情が混ざった視線がなんとも心地いいわ。


「もっとも、ここは美術館だけどね。」


私は今、カルヘーツ王立美術館に来ているの。
さすが芸術と文化の都市と名乗るだけあって、絵や彫刻がたくさん展示されてるわ。

一応魔界にも美術館とかあるけど、
リャナンシーってあまり魔界に来ないからどうも芸術家が不足してるのよね。
(注:実は魔物と妖精は仲が良くない場合が多い。もちろん例外も沢山あるけど。)

だから本格的な芸術鑑賞をしたいなら、人間世界まで来る必要があるの。
それにしても歩いてるだけで美術品より目立ってしまう私って
なんて悩ましい美しさなんだろう!
そこいらの裸婦絵よりよっぽど萌えるに違いないわ!


「さて…お目当てのダビデ像は……、あったあった!」


彫刻エリアまで来ると、部屋の真ん中に全裸で佇むダビデ像がひときわ目につく。
ほかにも『ふんばる人』とか『ゴランクダサイのビーナス』とかあるけど…


「やっぱり戦争まで誘発した人が作ったものは一味違うわぁ……」


このきめ細やかに再現されたもっちもちの肌!
思わず撫でまわしたくなるような髪の毛の造形!
童顔なんだけど、敵を射抜くようなキリッとした視線!
華奢な身体にも、巨人を倒すだけのパワーを秘めた筋肉!
そして!そして!立派なおちんちん!!

「あー、最高だわ!神話の時代にはこんな高性能な子がいたんだ!」


ちなみに、ダビデって子は遥か昔にその小さい身体で巨人ゴライアスに挑んで
見事にその巨人を打ち倒したとっても強いショタ英雄よ。
残念ながら前代魔王の時代の子だったから、魔物とは結ばれなかったけど
お母様が魔王になってから活躍していればきっと私も手に入れたがったに違いない!


それと、この像を作ったミケランジェリーっていう芸術家は凄い天才で、
彼を巡ってリャナンシー達がフェアリーやピクシーを巻き込んで妖精大戦争にまで発展したのよ。
確かにこんなすごいのを作れる人がいたらリャナンシーなら
『殺しても奪い取る』って選択肢がでかねないわね。




「うわぁ〜、すごい綺麗な人〜」
「まるで生きた芸術作品みたい……」
「それどころかここの女性像全部集めても…敵わないんじゃないかしら…」
「ダビデ像もあんだけ熱心に見つめられれば、恥ずかしくて勃っちゃうよ。」
「このような…美しい人に会えたこと……神様に感謝しなければ…」



おっと、またしても私に見とれてしまっているようね。
生きた芸術作品なんて言ってくれて光栄だわ。
あと、感謝するならあのハゲジジイじゃなくてお母様にしてね。
私をこしらえたのはお母様とお父様なのよ。



その後4時間にわたって芸術作品を堪能したわ。
私も今度なにか絵を描いてみようかな。(←影響を受けやすい性格)
たぶん自画像でも書こうものなら千年後にも芸術作品として残るわ!



「ふぃ〜〜、堪能した堪能した。欲を言えばもう少しエッチめな絵も欲しかったかな。」
(↑美術館を何だと思って(ry )

でもまだまだ散歩は終わらないわ。

「いずれこの地にもお母様の威光が届くように、少しでもいろいろ見て知っておかないとね。
行動派リリム、ヴィオラート!世界の隅から隅までしゃぶりつくすわよ!」








ざわ……ざわ……ざわ……


     ざわ……ざわ……ざわ……



町の大通りの真ん中を堂々と歩く私。

人で混雑した場所も、私が来るだけでまるでモーセのように道を開く。

着ている服はそこらの田舎娘の服。それなのに、みんなはこの反応。

「あーあ、これだけ人が大勢いるのに、私の眼鏡にかなうような男は見当たらないわね。
私から見ればどいつもこいつも普通で無個性。ただの背景でしかない。
なんかこう、もっと運命的な出会いとかないかしらね。」


と、小声で呟いていると……


タッタッタッタッタ


トンッ

「ひゃうっ」

パタリ

「ん?」
「い…いたぁぃ…」


私の目の前で、小さな男の子が通行人の靴につまずいて転んでしまったようだ。
無意識に男の子を起き上がらせる。

「だいじょうぶ、坊や?怪我はない?」
「あ、うん!大丈夫!」
「ちょっとまってね……、ちょっと膝を擦り剥いてるみたいだから少し手当てしてあげるわね。」
「う、うん。」

持っていたカバンの中からエリキシル剤を取り出してちょいちょいと傷口に塗る。
エリキシル剤なら傷薬と違って沁みないから子供にも安心だよね。

「はい、これでもう大丈夫よ。」
「ありがとう!おねえちゃん!」
「今度は転ばないように気をつけてね〜〜」

足の傷が治った男の子を見送った。


「いいことした!一日一善!今日は何気に二善もした!
あの男の子、見た感じ将来有望なショタになりそうな予感。
もしかしたら恩返しに来てくれるかな?」


……………


……







コンコン


「ん?誰か来たの?」


カチャッ


「こんばんは、ヴィオラート様…」
「き、君は!?」
「僕はあのときカルヘーツで助けてもらった男の子です。」
「まあ…ずいぶん見ないうちに、立派になって…。でも、どうして私のところに?」
「はい!あのとき助けてもらった恩を返したくて、頑張ってここまで来たんです!
ヴィオラート様…いえ、ヴィオラートお姉さま…
僕を好きなようにして下さって構いませんから。」
「ほ、本当!?」
「はい、何でもお命じください!」
「じゃ…じゃあ、まずは私に忠誠を誓う証拠に足の裏を舐めてくれるかしら?」
「はっ、仰せのままに…」
「ふふふ、これからいっぱい可愛がってあげるからね♪」
「ありがたき幸せ…」

ピチャ…レロ…ピチャ…レロ…







……


…………





「あへへへへへへへへへへへへへへへへへへって
いけないいけない、つい妄想に浸りすぎちゃったわ。」

周囲の視線が若干引き気味になってる気がするけど、
まあここは気のせいということにしておきましょう。




「さて、次はどこにいこっか……ってあら?
あんなところに人だかりが出来てるわ。」


大通りの先にあった広場みたいな場所には、何だか知らないけど沢山の人が集まっていた。
気になった私は、早速人ごみの中に突入していった。



〜♪〜〜♪〜♪


「これは、リュートの音色……何だかとてもきれいな音色ね。
何だか川のせせらぎのように優しくて澄みきったかのよう…。」


〜〜♪〜♪〜〜〜♪


「それに…綺麗な歌声。まだ声変わりしてない男の子が発する、素直で情熱的な歌声…
リュートの演奏と相まって…姿を見てないのに魅了されそうだわ。」


リリムの私ですら聞き惚れてしまうような音色と歌声。
その正体を知りたくて、私はさらに人垣を突き進んだ。


〜〜♪〜〜〜♪〜♪




みえた!


石の台座に腰かけて、リュートを弾きながら歌ってる男の子が!

見た感じ、年齢は12歳前後。身長は結構低め。

コバルトブルーの髪の毛に、茶色くクリっとした瞳。

そしてなにより!女の子のような繊細な容貌の上にクールな表情!


〜〜♪〜♪〜〜〜♪


よーし!決めたっ!今夜はこの子で楽しんじゃおっと!

私はこのこの歌が終わるまでじっと待つことにした。







「〜♪〜〜♪〜♪………、終わったよ。」
『ブラボーーーーーーーーゥ!!!』

ワーワーワーワー

パチパチパチパチパチパチパチパチパチ


「すごいわね、あの子。久しぶりにいい音楽が聞けたわ。」


広場は大歓声に包まれていた。

特に、女性からの黄色い声がしきりに飛び交う。

「キャー!ユングくーん!ステキー!」
「今日の歌も最高だったわ!また明日も聞かせてくれないかしら!」
「ゆ…ユング君になら10倍の演奏料払ってあげても…いいわよ!ハァッハアッ…」
「……下がれ下郎ども、ユング君には何人たりとも触れさせないわ。」


ん〜、どうやらあの子ユング君っていうらしいわ。
じゃあ私も、そろそろ行動開始と行こう!

人の波をかき分けて、女の子たちの集団に割り込む。

「はいはい、どいてどいて。演奏料払えないじゃない。」
「ちょっとあなた!横入りしな……」
「あら?私とやる気?」
「い、いえ!ごめんなさい!」


うるさい子を黙らせて、さらに接近する。






「はいはい、毎度どうもね。僕の演奏を聞いた人は10コール払ってね。」

チャリーン、チャリーン、チャリーン


ふーん、あの帽子の中にお金を入れればいいのね。
ずいぶん一杯銀貨(10コール貨幣)が入ってるところを見ると、
律義に講演料払う人がたくさんいるんだなと改めて思った。


さて、ここからが本番よ!



チャリリリリリーン!!

「!?」
「ふふふ、初めまして。ユング君…でよかったかしら?」

ターゲットの気を惹くため、まずは一気に1000コールを帽子に放り込む。
これくらいの金額は私にとってはした金よ。


「とても素晴らしい演奏だったわ。私、とっても感動しちゃった。
もし…ユング君さえよければ……、今夜私だけに…その音色を聞かせてくれないかしら?」
「……………」


ざわ……ざわ……ざわ……


     ざわ……ざわ……ざわ……


周りの女の子たちが騒がしい。
ま、それも当然よね。いきなりこんな美女が現れて大金を支払って
そのうえお誘いをかけるなんて、まさに大胆不敵!


そしてぇ!この子も私の魅力に囚われて、ホイホイついてきて―――











「悪いけど、お断りするよ。」
「…………………ぇ?」


この子


今、なんて言った?


「ご、ごめんなさい。よく聞こえなかったわ。なんて言ったの…」
「だから、個人演奏はお断りって言ってるの。」


ユング君がジト目で私を見ている。


「あいにくだけど、僕はあんまり気が乗らないんだ。じゃーね。」

それだけ言うと、ユング君はリュートを背負って人ごみの中に消えて行ってしまった。
その代り、人ごみの真ん中には呆然と突っ立っている私がいた。



「……………う…うそ…でしょ?」




あの子は、私に魅了されなかったどころか


私の申し出を、平然と蹴ったのだった。




ええっと、こんな時どういう顔をすればいいの?




11/04/29 23:25更新 / バーソロミュ
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■作者メッセージ
うちのヴィオラートは、何かにつけて優秀だ天才だとほざいてますが、
他の作者様が書かれておりますリリムさんたちと比べると、
だいぶ低スペックのような気がしてきました。
居並ぶ高貴な令嬢たちの中、ヴィオラートは対抗していけるのだろうか?

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