連載小説
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-ダンピールの章2-
時は数日遡り、場面は反魔物領にある教団の大聖堂へと移る。

明るい直毛の茶髪に大人びた顔立ちをし、白いロングコートを着込んだ男がステンドグラスでできた窓から眩しい光が入る明るい廊下を進んでいく。

男の着ているロングコートの背中には剣のようにも見え、十字架のようにも見えるような紋章があった。

廊下を進んでいた男は1番奥にあった大きな扉の前に立つと、3回ノックをする。

「入れ」

返事が聞こえると、男は扉を開けて中へと入る。

中は美しい装飾のされた木造りのテーブルや椅子があり、中に居た人物は窓の外を見つめており顔は窺えないがこちらも男性だろう。

「何か用か、シュラーク」

外を見つめている男性は部屋に入ってきた男にそう尋ねた。

「いえいえ……用件と言うほどの事もありませんが、少々確認をしに」

シュラークと呼ばれた男はおどけた様な口調でそう言いニコリとした笑顔になる。

「『死人喰らい』の目撃情報に討伐隊を出したそうですが?」

「……それがどうかしたか?」

男性は未だ窓の外を見つめ続けているが、沈黙の後の声は少しだけ声色が変わっていた。

それに感づくとシュラークは益々その顔の笑みが増していく。

「結果はどうでしたか?」

「言わずとも分かっているだろう……」

窓の外を見続けていた男性も痺れを切らしたのか振り返りシュラークに答える。

男性は白髪混じりの髪をオールバックにしている初老の男だった。

その顔には不機嫌そうな皺がよっていた。

「ククク、でしょうね。彼に普通の手は通用しませんからねぇ……」

シュラークは口の端を吊り上げた不気味な笑みを浮かべるとまるで初老の男を挑発するようにその口から言葉を漏らす。

それに更に皺を寄せる初老の男だが、暫くすると無表情になる。

「ふん、既に次の手は打った」

「ほう?と言うと?まさか勇者を派遣した訳ではないでしょう?」

「『愚者』を雇った。金はかかったが、奴の評判から確実に殺してくれるだろう」

初老の男はそれだけ言うと再び身を翻し窓の外を眺める。

対するシュラークは未だに笑みを絶やさない。

「では、1つ賭けをしてみませんか?」

「賭けだと?」

賭けという言葉が気になったのか首を動かして目だけを其方へ向ける。

「ええ、『愚者』か『死人喰らい』、どちらが殺されるか……負けた方は1度相手に食事を奢る……というのはどうでしょう?」

「フン、良いだろう。勿論私は『死人喰らい』に賭ける」

「では私は、『愚者』に。負けたくないからって報告書を弄っちゃ駄目ですよ」

シュラークはそう言い残すと、すぐにその場から去っていった。

「……喰えん奴だ」

初老の男はそう呟くと、静かに眼を閉じるのだった。





イオとライラの修羅場が形成されてから1週間が経った。

親魔物領の中規模都市ストリーク。

「ハァ…」

その南大通りにある『デレさせ屋』の店主、ライラは小さな溜息を吐いた。

溜息の原因は彼女の目の前にいた。

「どういうことだ!レブルが居ないというのは!」

目の前で怒り怒鳴り声を上げるドラゴン、イオである。

「レブルはギルドの依頼の依頼者からの名指しの依頼が来たから、それをこなしに行ったんだって。さっきから説明してるでしょ」

ギルドと言うのは、特定の住所を持たない旅人や冒険者、傭兵などに仕事を仲介する組織であり、支部の場所は主に酒場にある。

因みに親魔物領のギルドは『タキオン』といい、反魔物領のギルドは『セオレム』という。

そのギルドに名が売れ、世間にも名前が売れればギルドか依頼者から名指しの依頼が舞い込むようになる。

レブルはその名指しの依頼が来たのだ。

「どこへ行った!」

「態々教えると思うかい?一応ボクと貴女はレブルを巡るライバルなんだからね」

ライラの指摘にイオはぐぅの音も出ないが此処で諦めるイオではない。

「なら自分で探すだけだ!この間見つけたワーウルフの経営する『追跡屋』とやらに依頼すれば必ず…!」

「因みに、レブルは仕事とかに横槍を入れられるのが嫌いだよ。以前勝手に手を出したら暫く口を利いてもらえなかったよ。それに『追跡屋』に依頼できるだけのお金、貴女にあるのかい?」

再びの指摘にピシリと固まる。

イオは現在ギルドの手配する非常に安い宿を使っている。

更にギルドからの依頼もこなしているが、無名の者にはあまり良い仕事は取る事はできない。

それによりイオの懐は新人冒険者並みに寂しい。

「金を……」

「貸さないよ。そもそも今月は依頼が少なくてボクもピンチなんだよ」

2人は暫く視線を重ねているがその内イオは諦めたのか出口へと向かう。

「……くっ!1度私の住処に戻って財宝を少し持ってくる!」

そう言うと『デレさせ屋』から出て行きすぐさま飛翔してイオは空に消えて行った。

その背中を見てライラはまた溜息を吐いた。

「……彼女も本当にレブルの事が好きなんだなぁ」

椅子の背もたれにもたれるとギシッと少し軋んだ音が響き、目を閉じる。

「そう言えば依頼が来なかったら本当にキツいなぁ…レブルから家賃取ろうかな」

ライラがそう呟いた瞬間、店の扉が開き中に1人の男が入ってきた。

ライラは毎回この店に入ってきた依頼主らしき人物を分析してその対象を予想する癖の様なものがあった。

今店に入ってきた男は薄紫色の少し長めの髪の毛で目元が隠れてて、中肉中背の男であり、特に特徴といった特徴はない。

時折このような読めない客も居るのでライラは特に気にしていなかった。

「いらっしゃい。『デレさせ屋』にようこそ」

「あ、ああ……恋人を素直にさせたいんだけど、いいかな?」

彼の声は素直そうな好青年のような声だった。

「勿論、それがボクの仕事で、生きがいでもあるからね。所で、その対象の種族を聞いてもいいかな?」

久しぶりの仕事だと少し張り切り、早速仕事の話に入るライラは浮かれていた。

早速と外出の格好をして既に出発準備は完了だ。

「種族はケンタウロスなんだけど……南の森にまで来て欲しいんだ。彼女には内緒で来てるから」

「ん、了解だよ」

準備が完了すると、ライラは1枚の羊皮紙を取り出すと、その羊皮紙にインクを付けた羽根ペンを走らせた。

羊皮紙はようは契約書の様な物。

依頼が完了したらお金を払うというものだ。

「此処にサインを」

羊皮紙と羽根ペンを渡すと、青年はそこへ自分の名前を書いた。

青年の名前はフェルド・ハーディスというらしい。

「さて、ではその南の森へと向かうとするか」

久しぶりの調教というので、意気揚々とライラは店を出て行った。





一方、依頼先に行ったレブルはストリークから北に歩いて半日ほどにある村で剣を振るっていた。

「……っ!」

「でやぁっ!」

そのレブルと剣をうち合っているのは緑色の鱗を腕や足に生やしているリザードマンで、武器にもリザードマンの鱗が使用されている。

リザードマンは茶髪の短いボーイッシュな髪をしていて、その顔は美人といって差し支えない。

村の外れて剣を打ち合っていた2人だが、何度も剣をぶつけ合っているとリザードマンは拾うからか一瞬だけ膝を崩す。

レブルはその隙を見逃さず、渾身の突きをリザードマンへ向けて放った。

「ぐあっ!?」

リザードマンは咄嗟に剣を盾にしてレブルの突きを防いだが、その衝撃で剣は弾き飛ばされてしまい倒れてしまう。

止めとばかりにレブルはリザードマンの首元に切っ先を向ける。

「ま、まいった……」

勝敗が決まると、レブルは剣を収めてリザードマンへと手を差し伸べた。

差し伸べられた手を掴んでリザードマンは立ち上がると、そこへ1人の少年が近づいてくる。

少年の年の頃は見た目でだが14歳程度で、その手には木刀とタオルを持っている。

「すっげぇ!姉ちゃんも鎧の兄ちゃんもすげぇよ!」

少年はかなり興奮しているようで、そう叫んで2人の周りを走り回る。

「はは、そうかそうか。スマンがレオリオ、そのタオルをくれないか?」

「あ、はい姉ちゃん!」

リザードマンは少年が持っていたタオルを受け取ると自分の顔を拭いていく。

レブルも2人に背を向けてから兜を少し外して汗を拭い、再び兜を装着した。

「ありがとうレブル殿、私もいい訓練になったしレオリオにもいいものを見せる事ができた」

今回レブルが名指しで受けた依頼は、この村に住むリザードマンのティーとの剣のし合いだった。

てっきり勝ったら求婚でもされると思っていたが、どうやらそんな雰囲気は無さそうだ。

レブルがティーに視線を向けていると、ティーは笑顔になって視線を返すと共にレオリオと呼ばれた少年の頭を撫でた。

「ははは、私が負けたから求婚すると思っていたのか?悪いが私はレオリオの嫁になる予定だからな」

「えへへ……」

照れくさそうにしながらも気持ち良さそうに頭を撫でられるレオリオと、嬉しそうにその頭を撫で続けるティーを見ているとレブルも兜の下で微かに笑った。

「……依頼の報酬を受け取りたい」

それを悟られないようにレブルは仕事の話に戻ると、ティーはハッとした表情になる。

「しまった…報酬金を家に忘れてきてしまったな。レオリオ、1度取りに帰ろう。すまないが少し待っていてくれ」

ティーはレオリオを連れてその場から村に戻っていくのを見送ると、レブルは草原に生えていた1本の木に向けて剣を投げつける。

ガッと木の皮を抉り剣が気に突き刺さると、木の陰から誰かが姿を現した。

「へへ、流石に『死人喰らい』の旦那ってとこかな?」

「『泥人形』か」

木陰から姿を現したのはマミーの様に全身を包帯で巻いている小柄な男だった。

僅かに見える包帯の隙間からは火傷の後の様な肌が見え隠れしている。

「情報屋が俺に何の用だ?」

『泥人形』とは、ストリークの裏路地街に住んでいる情報屋の通り名だ。

ストリークの情報は勿論、大陸中の情報にも精通している男だ。

その情報内容は信頼でき、かなりの評判を呼んでいる。

全身の包帯は過去にあった大火傷を隠すためだと言われている。

因みに本名は不明。

「いやだな、旦那には世話になってるから良い情報を持って来たってのに」

おどけた調子の『泥人形』の事が、レブルは苦手だった。

捕まえようとしても雲の如く逃げられてしまう。

「その情報の中身は?」

「教団と旦那に関する事だよ。買うなら銀貨3枚でいいぜ」

因みに銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚の価値となり、リンゴ1つ買うのに銅貨2枚が必要となる。

この『泥人形』の売る情報には様々あるが、教団の情報なら通常金貨1枚はするので、この値段は破格の激安だった。

「……買おう」

「まいど……ケケケッ!」

レブルは『泥人形』に対して持っていた銀貨を3枚弾いて飛ばすと、それを『泥人形』はキャッチすると下品な笑みを浮かべた。

「情報の内容は?」

「この文書に纏めてあるから呼んでくれ。信用するかしないかはおたく次第さ」

巻物のように巻かれた羊皮紙をレブルに渡すと、『泥人形』はすぐにその場から去っていく。

レブルは、『泥人形』自身は信用しきっていないが、その情報は信用していた。

早速羊皮紙を広げて内容を読む。

内容を読み終わる頃には、ティーは報酬の入っている袋を持ってレブルの元へと戻ってきた。

「……どうしたレブル殿?」

「ティー、報酬はいらない。だがその代わりと言ってはなんだが馬を貸してくれ」

「構わないが、どうかしたのか…?」

レブルはその手に握る羊皮紙を握りつぶすと、ストリークがあるであろう南の方角を見つめる。

「仲間が……危ない」





ストリークから南側の森。

洞窟のような場所で数人の男と、ライラがいた。

だがライラの方は縄で縛られて身動きができないようにされており、口にも喋れないようにする為か白い布で猿轡がされている。

「流石っすね、『愚者』って呼ばれてるだけありますね」

「まぁな。浮かれてる隙を突いて後ろから頭をガンッ!と一撃!それだけで一丁上がりだ」

『愚者』と呼ばれたのは先ほどまでライラと共に居た紫髪の青年、フェルド・ハーディスだ。

周りに居るのは灰色の鎧を着た教団の騎士だろう。

「ぐぐぐ……!」

そんな彼らをライラは呻きつつキッと睨みつける。

「悪ィが、お前には餌になって貰うぜ?『死人喰らい』を誘き出して、円滑に殺すためにな?」

「むぐぐぐっ!」

あくまでも冷静なフェルドの言葉にライラは呻きつつ反抗した。

(駄目だレブル……来ちゃ駄目だ……この男の卑怯な手段じゃ……!)

「『愚者』と『死人喰らい』どっちが強いか、何でもありの勝負といこうじゃないの」

悪寒が走るほどの黒い笑みを浮かべると、フェルドは高笑いを上げた。

(レブル、頼む……来ないでくれ…!)





-Rebel- 反逆者と魔物娘

-ダンピールの章2- 了
12/08/11 17:45更新 / ハーレム好きな奴
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