連載小説
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おまけ(アンの恋)
「好きです。あなたの事、初めて見た時から好きでした。
 でも、分かっています。あなたは私よりもずっとメアリーちゃんの事を愛していて、大切にしているって事。
 気にしないでください。私はただ伝えたかっただけなんです。もうあなたには会えなくなるだろうから、だから、最後に私の気持ちを伝えておきたかったんです。
 これで思い残す事は無くなりました。私はきっぱり、あなたをあきらめます。
 メアリーちゃんと、末永く仲良くしてくださいね。シャルルさん」


 はっと目が覚めると、懐かしい天井が広がっていた。
「あれ、私なんでここに」
 なんだか仕事に行く気になれなくて、大部屋で寝ていたはずなんだけど……。ここは。
 ベッドから出ようとするものの、身体が重たくって全然動かなかった。頭がふらふらする。きっと昨日の事を思い出してしまったからだ。だからこんなに嫌な気持ちになっているに違いない。
 最初から結果なんて分かってたのに、親友の旦那様に告白して、振られて。
 お詫びとして、魔宝石も渡して……。別に、後悔はしていない。後悔しないために告白したんだから。でももう。
「私には、何にも無くなっちゃったなぁ」
 頬が熱い。身体もだるいし、もしかしたら熱が出てるのかなぁ。
 体調が悪いなんて、こんな事初めてだ。
「あら、アン気が付いたのね」
 難儀しながら首を動かすと、ベッドのそばに母さんが座っていた。
「母さん」
「無理して動いちゃ駄目。あなた、魔界熱になっているのよ?」
「まかいねつ? 私、死んじゃうの?」
「大丈夫。そんな病気じゃないわ。二三日寝ていればすぐ直ってしまうわよ」
 そうなんだ。でも、何だか元気になっている自分を想像できない。
 それに、こんな想いを抱えたまま生き続けるくらいなら、どうせなら死んじゃったほうがいいかも。
 ……私、何考えてるんだろう。
「二日も仕事に出ないって聞いて行ってみれば病気になっているんですもの、びっくりしちゃったわ」
「二日? 私、昨日は仕事に出たはずじゃ」
「昨日は一日中寝ていたじゃない。今朝なんてベッドから出られない上、声も出せなくなっていたのに……覚えていないの?」
 ひんやりした手が私の髪をかき上げて、額の上に置かれる。母さんの優しい微笑みが胸に沁みるようだった。
 そうだ、思い出した。確かに母さんの言った通りだったんだった。
 昨日はどうしても仕事に行く気になれなくて、一日中ずっと布団をかぶって寝ていたんだ。
 一晩寝れば少しも気が晴れるかと思ったけど、一日開けてみれば余計に身体が全然動かなくなっていて。みんなが心配そうな顔で何か言ってたけど良く分からなくて、そうしているうちに母さんが来て、私を背負ってここまで運んでくれたんだった。
「母さんにおぶってもらうのも久しぶりだったね」
「うふふ、私も昔の事を思い出しちゃったわ。
 でも、どうして急に熱が出ちゃったのかしら。何か心当たりはある?」
 私は少し口ごもってから、首を振った。
「分かんない」
 嘘だ。原因は何となくだけど、分かっている。
「そう。分かったわ。みんなに伝染らないように私達の部屋の個室に運んだから、とにかく遠慮せず休みなさい」
「母さん。ありがとう」
「でも、懐かしいわね。あなたは誰よりもこの部屋から出たがらなくて、誰よりも甘えん坊さんだったのに、いつの間にかこんなに大きくなって……
 あら、もう寝ちゃったのね。おやすみなさい。アン」
 目を瞑っていた私にそう言って、母さんは部屋を出て行った。


 目を閉じて、眠ろうと思った。
 でも、頭の中でぐるぐると言葉が回って止まらなかった。忘れようと思う程、想いは記憶に強くこびりつく。しつこい汚れを擦って落とそうとすればするほど、汚れが広がってしまうみたいに。
 大好きだった。一目見た時から、シャルルの事が大好きだった。
 縛られて転がされている男の事を好きになるなんて自分でも信じられなかったけど、でもどうしようもなかった。
 だけど、その人はあろうことか親友の恋人で……。
 食事を届けに行くのだけが楽しみだった。一瞬でも顔が見えるかもと期待して、その度二人の交わりの匂いにがっかりして。微かなシャルルの精の匂いを思い出して、独りベッドで自分を慰めて……。
 でも、いつの頃からか食事も運んで来なくていいと言われてしまって。
 彼を忘れるために、ひたすら仕事に打ち込んで、目標だった魔宝石探しにのめり込もうとした。……結局彼の事も忘れられず、魔宝石も見つけられなかったけど。
 シャルルとメアリーが食事に招いてくれた時は心の底から嬉しかった。
 駄目元で言った料理を教えてほしいという発言にも、親身になって応えてくれた。人生であんなに幸せだと思ったことは無かった。
 もう、今後の人生であんなに幸せな日々は来ないだろう。シャルルに、二人きりで料理の勉強を見てもらうなんて言う幸せな時間は、もう来ない。
 分かっていた。こうなる事くらい。
 メアリーちゃんが何で仕事場に来ないのか。どうしてシャルルの身体からメアリーの強い強い匂いがしているのか。
 分かっていたけど、自分を止められなかった。親友を裏切っている罪悪感より、好きな人の顔を見られる喜びの方が勝ってしまった。
 親友が苦しんでいるのに、私はその旦那様と一緒に居る事を望んでしまったんだ。
 私って、最低だ。


 再び母さんが部屋に戻ってきた。今度は父さんも一緒だったみたいで、二人は左右から私の手を取って握りしめてくれた。
 目を瞑ってはいても、二人が優しい表情で私を見守ってくれているのが目に浮かんだ。
「母さん。ごめん。本当は風邪の原因分かってるの。
 私、親友のメアリーちゃんの旦那さまを、シャルルさんの事を好きになっちゃったの。メアリーちゃんが嫌がるって分かっていたのに、どうしても気持ちが抑えられなくて、酷い事をしちゃったの。
 でもね、もう諦めたんだ。二人にはもう会わないって決めたんだ。
 熱が出たのは、多分それがちょっと辛かったからなんだと思う。だって、私はメアリーちゃんの事も大好きだし、大好きな人に会えなくなるのは、やっぱり辛くて」
 二人は何も言わずに、私の手を強く握りしめてくれる。
「ごめん。やっぱり私、まだ諦めきれてないみたい。忘れようとすればするほど、シャルルさんの声や匂いを思い出しちゃう」
 涙がこぼれて目じりから流れ落ちる。隠す事なんて無いと思ったとたん、とめどなくあふれ始めてしまう。
「ねぇお母さん。私、どうしたらいいのかな。それでも私はメアリーちゃんともシャルルさんとも仲良くしたいの。
 ……誰でもいいから、男の人に抱きしめてもらえば楽になれるかな?」
「駄目よアン。そんなの駄目」
「そうだよね。そんなの、男の人に失礼だよね」
「ねぇアン。だったら私達夫婦と一緒になろうよ」
「ありがとうお母さん。でも、私やっぱりお父さんの事はお姉ちゃん達みたいに男としては見られないの」
「母さんじゃないよ。メアリーだよ。一緒にシャルルのお嫁さんになろうよ、ね」
 メアリー、ちゃん。
 目を開けると涙で顔をぐしゃぐしゃにしているアントアラクネが私を見下ろしていた。綺麗な顔なのに、そんな表情してたら勿体ないよ、メアリーちゃん。
「どうして、ここに?」
「アンを誘いに行ったら、アンが倒れて運ばれたって聞いたから急いで来たんだよ。
 ごめんねアン。ずっとずっと辛い思いをさせていて、アンには面倒見てもらってばっかりだったのに、私ばっかり幸せになっていて、アンの気持ちも考えずに、シャルルを自慢するような事ばっかりしちゃってて」
「何言ってるのよメアリーちゃん。私こそ、メアリーちゃんが苦しんでいるのに、気が付かないふりしてシャルルさんと二人っきりになって喜んでいたんだよ? 謝らなきゃいけないのは私の方だよ」
「あんたって、何でそんなに……」
「アンさん」
 顔を動かすと、険しい顔をしたシャルルさんが私を覗き込んでいた。二人してそんな顔しないで欲しいなぁ。大好きな人には笑っていてほしいよ。
「聞かれちゃいましたね。諦めるって、言ったのに。鼻が詰まってるせいでお父さんだとばかり思ってました。やっぱり、駄目ですね、熱があると……」
「アンさん。僕は」
「何も言わないでください。メアリーちゃんの、前なんですから。それに、私も気を使われるのは……。でも、お見舞いに来てくれただけで嬉しかったです。
 大丈夫、二三日休めば元気になります。そうしたらもう、二人には迷惑かけません」
 本当に、辛い時に二人の顔を見られただけで私としては満足だ。
 早く元気になろう。それで早くいい人を見つけよう。きっと時間がかかるだろうけど、シャルルさんの事忘れられないかもしれないけど、でも、二人の事が大切だから。
 だから、私はこれでいいんだ。
 メアリーちゃんがしゃっくり上げて、鼻を啜ってる。折角綺麗なのに飾らずいつでも素で居るんだから。こっちの方が心配になっちゃうよ。
 あぁ、そんな風に乱暴に目元を拭ったらお肌に良くないのに。
 でも、こういうところがあるから、やっぱりメアリーちゃんはとっても可愛らしいんだよなぁ。
 胸がほんわかと暖かくなってくる。でも、そんな優しい時間は長くは続かなかった。
「シャルル。アンを脱がせるわよ」
 メアリーちゃんの思わぬ発言が私の頭を真っ白にさせたからだ。


「え?」
「え!?」
 メアリーちゃんの言葉の意味が分からず、私とシャルルさんの口から似たような声が漏れる。
「メアリー。何もこんなときじゃなくても」
「こんな時だからこそよ。母さんにはもう許可は取ってあるわ」
 メアリーちゃんはいきなり私の身体に掛かっていたシーツを剥ぎ取った。
 なぜかシャルルさんは慌てて私の身体から目を逸らす。視線をめぐらすと、その理由が何となく分かった。
 熱が出て汗をかいたせいか、シャツが透けて肌に張り付いていた。当然体の線も膨らみも包み隠さずあらわになっていて……。
「や、やぁっ」
 隠そうとする私の手を、メアリーちゃんの手が掴み取る。
「やめてよメアリーちゃん。恥ずかしいよぉ」
「アン。私達がここまで来たのは、アンをシャルルに抱かせる為なの」
「何言ってるのか意味わかんないよ。だってシャルルさんはメアリーちゃんの旦那様でしょ? とられるのが嫌だったから、あんなに強く匂いを付けてたんでしょ」
 あの時の気持ちを思い出して、涙が滲んでしまう。
 大好きな人の体中から発せられる、親友の、雌の匂い……。決して自分のものにはならないという絶望。
「私、アンの事も大切な親友だと思っている。自分勝手な考えだけど、アンにも幸せになって欲しいって思ってるの。
 それで、気が付いたの。アンが誰とも知らない男の物になるよりは、私と一緒にシャルルのものになった方がいいって」
「駄目だよ、そんなの」
「まだ諦められていないんでしょ? シャルルの事、愛しているんでしょ?」
「……きだよ。大好きだよ! でも、やっぱり駄目だよ!」
 メアリーちゃんはため息を吐いた。諦めてくれたのかと思ったけど、そうじゃ無かった。
 いきなりベッドに乗って私に跨って、おもむろに私のシャツに手を掛けて。
「なにを」
 そして掴んだ腕を一気に引いて、私のシャツを破り捨てて。
「メア、ぁんっ!」
 私の胸を、痛いくらいに思いっきり掴んだ。
「じゃあ、シャルル以外の男にこんな風にされてもいいの? シャルル以外の男のあそこ、舐められるの? シャルル以外に、犯されてもいいの!?」
 誰とも知らない人に触られて、無理矢理犯されるのを想像した途端、鳥肌が立った。
「やだ。やだよぉ。シャルルさんがいい。他の人じゃ、やだぁ」
 そんな気は無いのに涙がこぼれる。涙と一緒に色んなものが決壊して、噴き出し始める。
「シャルルさんに触られたい。キスされたい。抱きしめてもらいたいよ。他の人なんて無理だもん。他の人の子なんて孕みたくないよ、シャルルさんの子が欲しいよ。私は、私はぁ」
「じゃあいいじゃん。一緒にシャルルに種付けしてもらって、一緒にシャルルの子を産もう?」
「いいの? メアリーちゃんは、私の身体にシャルルさんの子が出来ても、それでもいいの?」
「当たり前だよ。大好きな人が、愛している人の子を宿すんだよ? もちろん、私だっていっぱいしてもらって、シャルルの子を宿すつもり。
 ごめんね。ただでシャルルだけ渡すのはやっぱりできない。私もシャルルを愛しているから。でもアンもそれでいいなら、一緒になろうよ」
 何も考えなかった。
 私は力いっぱい頷いていた。だって、大好きな人達とずっと一緒に居られるんだもん。これ以上の幸せなんて無い。
 メアリーちゃんの手が優しく私の髪を撫でる。
「ありがとう。メアリーちゃん」
「こちらこそ。末永くよろしくね」


「あのー。一緒に種付けとか言ってたけど、僕の気持ちも少しは聞いてほしいなぁ」
 壁の方を向いたまま、シャルルさんが申し訳なさそうに言った。
 そうだよね。私がどんなに好きだったとしても、メアリーちゃんが認めてくれても、シャルルさんが私を愛してくれて無かったら、駄目だもんね。
 好きでも無い相手を愛して欲しいと頼む程、私はずうずうしくなれない。
「ごめんなさい。やっぱり駄目ですよね」
「い、いや違うんだ。そういう事じゃなくて」
「アン。あんなこと言ってるけど、シャルルのあそこはビンビンになってるのよ?」
「びんびん?」
「ちょ、メアリー」
 慌てて振り向いたシャルルさんのズボンは、確かに不自然に張り出していて……。もしかして、私のおっぱいを見たから?
「メアリーの糸じゃないともう勃たないとか言ってたくせに、この部屋に入った途端そんなんになちゃうんだから、ちょっと妬けちゃうなぁ」
「違うって、これはきっと不可抗力で」
「そう、ですよね」
 やっぱり私なんかじゃ駄目なんだ……。
「いや、その。……すみません。弱ってるアンさんを見たらもう自分が抑えられませんでした。フェロモンにも身体が素直に反応しちゃって、おっぱいも見て欲情してます! ごめんなさい!」
 私を見て、欲、情?
 全身がかぁっと熱くなる。シャルルさんが私を求めてくれている? 二人っきりになっても、料理の指導の時も触れてきてさえくれなかったシャルルさんが、私に?
「ま、しょうがないわよね。アンは可愛いし。それに今は魔界熱のせいもあって凄く濃いフェロモンが出ているし。正直私も頭がおかしくなりそうなくらいだし」
 シャルルさんの方を見るメアリーちゃんの顔も、心なしか赤い。
 そのメアリーちゃんはにたりと笑って、私のおっぱいを見下ろした。なんか、ちょっと怖い。
「じゃあ、始めましょうか。アン。シャルル」
「やっぱやるんだね」
「アンを救うためでしょ? それにそんなに準備万端な状態で、何言ってんのよ」
「あの、始めるって、何を? あ、だめぇっ」
 メアリーちゃんは答える代わりにいきなり私の乳首をつねり上げてきた。
 身体がびくびく反応して、体が火照って汗が出てきてしまう。
「決まってるじゃない。三人で、えっちするのよ」


 何が何だか分からない間に裸に剥かれて、私はベッドの上の空間に宙吊りにされていた。
 腕や足が背中側でまとめて縛り上げられていて、そんな気は無いのにおっぱいや、あそこが前面に出されて強調されている。特におっぱいなんて糸でぎゅうぎゅうに縛られていて、自分でもまともに見られないくらいに淫らな状態だ。
 熱が無ければこんな事にはならなかった。きっと逃げられた。でも今は全身に力が入らなくて、メアリーちゃんにされるがままになってしまった。
「ねぇメアリーちゃん。どうしてもこうしないと駄目なの?」
「だってこうしないと逃げちゃうかもしれないし。ほら、シャルルも目を逸らさないで、アンの身体をちゃんと見てあげて?」
 縛られた私の前には、これまた裸になったシャルルさんが居た。
 正座になって目を逸らしてはいたけれど、股間のあそこは痛々しいくらいにそそり立って私に狙いを定めている。
 血管の浮き出た竿、ぷっくりと充血した亀頭。大きいわけじゃないけど、決して小さくは無い。でも、女の子みたいな顔のシャルルさんの男性性があそこに凝縮されているみたいで、とっても、とっても……。あんなのに貫かれたら、私どうなっちゃうんだろう。
 ううん。どうなってもいい。どうされてもいい。シャルルさんになら何をされてもいい。シャルルさんに求められたい。
「シャルルさん。私を見て?」
 彼のあそこがぴくんと跳ねる。
「ほら、アンもこう言ってるのよ? ……もう、シャルルにその気が無いなら勝手にはじめちゃうから」
 背後から伸びてきたメアリーちゃんの手が私の乳房を握りしめる。指が食い込むくらいに強くしながらも、乳首を弄る人差し指だけは優しく。
 きっとシャルルさんにやられた事を、そのまま私にしているんだ。もう駄目、声が出ちゃうよ。
「あうぅぅ。やぁあっ」
 そう。メアリーちゃんは私を糸で雁字搦めで吊し上げてから、ずっと私を後ろから抱きすくめて脇腹を撫でたり腋の下を触って来たりしていたのだ。
 今度は首筋に生暖かい舌が這う。鎖骨を舐め、甘噛みし、音を立てて吸い上げる。
「んちゅぅうっ。アンの肌、あまぁい。ふふ、でもアンは嫌なのかなぁ。だったら、やめるけど」
「そういう、わけじゃ、無いけど。……シャルルさんに、され、あんっ」
「そうだよねぇ。やっぱり愛している人にされたいよねぇ」
 言いながら、メアリーちゃんの指が私の大事な割れ目を行ったり来たりする。あそこはもう十分に濡れていて、指が通るたびにやらしい音を立てた。
 えっちで、やらしい身体。自分の身体だとは思えないくらい。
「アン」
 シャルルさんにいきなり呼び捨てにされて、胸がきゅんとする。いつの間にか、息が届くくらい近くに彼の顔があった。
 獣みたいな鋭い目。初めて見るシャルルさんの雄の顔。少し怖いけど、それ以上に期待で胸がどきどきしてしまう。
「はい」
「始めたら、多分もう僕は止まれないと思う。覚悟はいいね」
 やめようか? とは聞かれなかった。その事が嬉しかった。
「はい。私の身体も、心も、全部あなたに捧げます。貰ってください」
 シャルルさんは頷いて、私の髪を撫でた。
 優しく触角や耳を撫でられてうっとりしているうちに、唇を奪われる。
 最初は触れ合うくらいに優しく。二度目は唇の感触を確かめるように強く押し付けるように。そして三度目は唇を割って舌が入ってくる。
 その途端、私は恥じらいも忘れてシャルルの舌に自分の舌を絡めて激しく擦りつけていた。
 もっと彼の味を、唾液を味わいたい。
 気が付けば唾液腺を刺激するために口中を舌で蹂躙していた。前歯の裏側や歯茎ですら、丁寧に舐め上げた。歯の一本一本ですら愛おしかった。
 まだ舐めていたい。いつまでも舐め続けていたい。でも、唇は途中で離れていってしまった。
 唇を離れた私の舌が虚しく宙をさまよう。
 二人の間に糸が引いていて、私は初めて自分のはしたなさに気が付いた。
「ご、ごめんなさいシャルル、さん」
「謝ることなんて無いよ。でも、驚いたな。メアリーだって最初のキスは躊躇してたのに。もしかして、アンの方がエロいのかな」
「そ、そんな事。はうぅ」
 顔から火が出そう。もう、目を合わせていられない。
 顔を伏せると、シャルルは少し笑って私のおっぱいに触ってきた。
 形を確かめるように、丁寧にふくらみを撫で上げた後、強めに掴んでもみしだいてくる。
「やっ。もうシャルルったら、いきなり掴んでこないでよぉ」
「え?」
 もう片方の手で、メアリーちゃんのおっぱいを掴んでる? 私達、揉み比べられて……。
「シャルル、一度に二輪の花の蜜を舐めている気分はどう?」
「堪らないよ……。はっ、いや、別に僕は」
「ほら、アンの蜜、こんなに垂れて来ちゃってる」
 メアリーちゃんは後ろから私のあそこに指を添えて、左右から引っ張った。
 シャルルの目の前で私の女の子の花が開かれていく。穴の奥の奥まで見られてしまう。もう、恥ずかしいとかそういう問題じゃない。
 シャルルは熱っぽい目で見つめるだけじゃ我慢できなくなってきたのか、その長い指で花びらを触ってきた。
「はうぅ」
 蜜を指に絡めて、穴の入り口あたりに塗り付けたり、指を入れたり、出したり。
「シャルル、虐めないで。意地悪しないで。これ以上焦らすくらいなら、どんなに酷いされ方でもいい、一思いに犯して?」
 シャルルははっと息を飲んで私の顔を見上げる。
「メアリーちゃんには悪いと思ってるけど、ずっと我慢してたんだよ。
 押し倒したいって思ってた。押し倒されたい。力任せにされてもいいって、ずっと思ってたんだよ? そんな風に指で悪戯されるくらいじゃ、切ないよ」
「ごめん。じゃあ、行くよ」
 シャルルは己の分身に手を添えて、私の入り口にあてがう。
 手が少し震えてる。やっぱり緊張してるんだ。きっとメアリーちゃん以外の人は初めてなんだろうなぁ。でも、それだけ女慣れしてないって事だもんね。純粋なんだもんね。
 入ってくる。ゆっくりゆっくり、私のあそこを押し開きながらシャルルが私の中心に向かって進んでくる。
「すごいよアン。熱くて、煮え滾ってるみたいだ。溶けちゃいそうだよ」
「えへへ。シャルルのも、て、鉄みたいに、硬あ、あ、あああっ」
 深い。自分の指なんかじゃ全然届かないくらいの奥まで、一気に入ってくる。彼がたどり着いた先、一番奥をこつんと突かれただけで、私の意識は真っ白に濁る。
「いっ、あっ、シャル、ルぅ」
 抱き締めたいのに腕が動かない。
 察してくれたのか、シャルルは私の背に腕を回して強く抱き締めてくれた。その動きでさらに深いところを彼が擦り上げてきて、意識が飛びそうになる。
「ごめ、ごめんねメアリーちゃん。メア、メアリーちゃんも、欲情、してるのに」
「な、何言ってるのよ」
「だって、さっきから、私のこ、腰に、あそこを擦り付けてるし」
「へぇ、そうなんだ」
 シャルルの手が私の背中をなで下ろし、虫の下半身の付け根辺りを撫でまわす。ぞくぞくする快感。そのまま撫でて欲しかったけれど、彼の手は私の肌を少し離れる。
「シャル、あんっ。ずるいよ、指だけでこんなっ」
 くちゅくちゅと言う粘ついた音が聞こえてきて、メアリーちゃんが私に強くしがみついてくる。艶っぽい息が耳に吹きかけられて、それだけで連鎖的に私の官能も刺激されてしまう。
 右耳をメアリーちゃんに噛み付かれる。するとシャルルが左耳に耳を寄せてきた。
「アンも、人の心配してるなんてずいぶん余裕だね」
「あ、あああああ」
 抜けていく。シャルルが私から出て行ってしまう。かりで敏感な膣肉を滅茶苦茶に引っ掻き回しながら、出て行ってしまう。
「や、お願い。もっと、欲しいの」
「安心して。僕ももう我慢できないから」
 抜けてしまうくらいまで引いてから、シャルルは一気に奥まで突き入れてきた。
 言葉も出なかった、喜びで息が震えた。
「そんな顔も出来るんだ。アンもそんなえっちな顔するんだね」
 言いながら、シャルルは余裕な顔のまま腰を何度も突き上げてくる。その度私は意識が飛びそうになるのに、シャルルはいつまでも楽しそうな顔を崩さない。
「だっ、めっ、壊れっ、ちゃうっ、よぉっ」
 息が出来なくなってくる。前からは逞しいシャルルに貫かれて、後ろは後ろでメアリーちゃんの柔らかい身体に包まれていて。
「気を、付けてね。アン。やってる、時の、シャルルは、人が変わったみたいに、スケベで、意地悪にっ、あ、そこだめぇ」
 メアリーちゃんの身体がひときわ大きく震える。敏感なところを強く刺激されたんだ。シャルルはきっと、メアリーちゃんの身体のすみずみまで、私も知らないような場所まで全部知ってるんだ。
「加減したから、まだいってないでしょ」
「と、当然よ」
「ふふ、もうここまで来たら、アンの身体ももっと良く知りたいな。二人の妻をもつなら、夫としては二人とも良く知っておかないとね」
 言われて、私は気が付いた。
 乱暴に突き上げられているように見せかけて、シャルルは何度も角度を変えて私のすみずみまで知ろうとしてきているんだ。
 どこをどのくらいの力加減ですれば、どのくらい気持ち良くなるのか。
「うっ、くぅ。流石にもう持ちそうにないよ。アンの身体、メアリーに負けないくらいにとってもいいよ」
「あたり、前でしょ? 私が唯一、シャルルの妻になる事を、認めた、女の子、だもの」
「め、めありっ、ちゃんっ」
 言葉に、ならない。
 身体も心も熱くて、とろけそうなくらい幸せで。
「い、いこ? さ、三人で、いっしょにっ」
「そう、しよう。アン、メアリー、いくよっ」
 シャルルの腕が私の腰を強く引き寄せる。それと同時にメアリーちゃんもさらに強くしがみついてくる。
「出して。中にいっぱい出して!」
「もう、限界だっ」
「ああ、あたしもいくぅっ」
 私の中でシャルルが強く跳ねた。身体の中にあっつい塊を叩きつけられて、全身が心臓になったみたいに震えた。
 あそこが別の生き物になっちゃったみたいに、いった後のシャルルをさらに絞り上げるように収縮する。もっと感じていたい。硬くてたくましいシャルルを、もっともっと感じていたい。
「さ、さぁ。とりあえず様子見はこのくらいでいいかな。でも、良かった。僕とアンの相性もいいみたいで」
「よ、様子見?」
 耳元で、メアリーちゃんがころころと笑った。
「そうよ? だって魔界熱を直すためには、一晩中かけて交わる必要があるんだから。本番はこれからよ。それに、私もまだ射精してもらってないし」
 シャルルの方を見上げると、彼はもう息を整え終わっていた。そういえば、シャルルもただの男じゃないんだった。彼も魔物に近しい存在の、インキュバスになっていたんだった。
「さぁシャルル。アンにたっぷりインキュバスの教えてあげるのよ?」
 それって普通。魔物娘が男の子に向かって言う事じゃ?
「そうだね。アンの身体の良さも、もっと知りたいし」
「あ、う、わた、私は、……うん。もっとよく調べて? メアリーちゃんの身体と同じくらい、わたしの身体の事も知って?
 それに糸は出せないけど、私の身体は頑丈だから、メアリーちゃんじゃ出来ないような事も、出来るよ? シャルルにだったら、私何されても」
「やだ、妬けちゃうなぁ。じゃ、私もアンをもっと責め立てようかなぁ」
「そうだね。二人で純朴なアンが淫乱になるように調教しようか」
「あ、嘘。やっぱり手加減し、ひゅいぃ、いいいいっ」
 シャルルとメアリーちゃんから同時に身体を刺激され、もう何が何だかわからなかった。ただ全身ががくがく震える程気持ち良くて、それ以外の感覚がどこか遠くにいってしまった。
 私の初めての夜は、こうして始まった。長い長い夜だった。
 身体の内側も外側も真っ白に染め上げられるうちに、いつしか時間の感覚も忘れた。私はひたすら快楽と獣欲に踊らされ続け、溺れ続けた。


 いつの間にか私は糸を解かれ、ベッドに横になっていた。
 私の目の前で、シャルルがメアリーちゃんを組み敷いて腰を振っている。
 メアリーちゃんの蕩けた顔。シャルルの幸せそうな顔。
 私、どうしたんだっけ、全身からとってもいやらしい匂いがしている。いやらしくて幸せで、ずっと包まれたいと思っていた匂い。
 肌を触ればどこもねばねばしていて、全身、特にあそこが熱くって。
「シャルル、ちょうだい。一番奥に、ちょうだいっ」
「メアリー。もう、いくっ」
 シャルルの身体が小刻みに震える。腰をさらに押し付けるようにメアリーちゃんにのしかかって、見ようによっては犯しているみたいにも見えるくらい。
 でも、二人とも嫌がってない。とっても幸せそうな顔だ。
 やっぱり、私が入る隙なんて……。
「へへ。シャルルの精液、あったかいなぁ。あ、ほらアンが目を覚ましたよ。今度は私が休む番だね」
「メアリー、ありがとう。君の言う通りだった。アンの事、やっぱり僕も好きだったみたいだし、アンの良さもメアリーの良さも、今まで以上に良く分かったよ。
 でも、メアリーへの愛だって変わらないからね」
「分かってるわよ。私もアンの事は大好き。シャルルがアンを愛してくれたら私も嬉しい。
 ふふ。でも、私を信じて良かったでしょ? それじゃ、目が覚めたらまたたっぷり愛してね?」
 メアリーちゃんはシャルルに口づけされて、頬を染めながらにっこりと微笑んだ。それから目を瞑って、休み始める。
 シャルルはそんなメアリーちゃんの髪を撫でてから、私の方に向き直る。あそこを、まだ堅くしたまま。
「お待たせ。さぁ、一気に病気を治してしまおう。アン」
 魔界熱を治すために男と魔物がすることは一つだけだ。だからつまり、シャルルはこれから私とまたえっちしようって誘ってくれてるんだ。
 とても嬉しくて、幸せな事だ。でも。
「シャルル。私本当に、二人の間に入って良かったのかな」
 髪を撫でて、シャルルは穏やかな笑みを浮かべて私の額に口づけした。
「もう二人じゃない。三人だよ。今からアンが抜けるって言ったら、僕もメアリーも悲しむ」
 ここに居てもいいんだ。大好きな二人と一緒になっても、誰も怒らないし、悲しまない。むしろ喜んでくれるんだ。
「私、メアリーちゃんの事が大好き。シャルルの事も、愛してる。ずっと二人と一緒に居たい」
「僕もだよアン。ずっと一緒に居ようね」
 耳元で囁いてから、彼は再び私の中に入ってきた。


 目が覚めると、すぐ目の前に健やかなメアリーちゃんの寝顔が見えた。
 大部屋……じゃない。私達は二人ともシャルルの胸の中に抱き寄せられているんだ。
 夢じゃ無かったんだ。ずっと憧れていた人に、大好きな人に抱きしめてもらえたんだ。
 シャルルの寝顔を見ていると、自然と顔がにやけてしまった。なんだか独りで恥ずかしくなってきて、私はそれを誤魔化すようにシャルルの身体に抱きついた。
 幸せな匂い。彼の身体からメアリーちゃんの匂いだけじゃなくて、私の匂いもちゃんとする。
「ん、んん。あぁ、おはようアン」
「ご、ごめんなさい。起こしちゃって」
「はは、気にしないでよ。さっきまでメアリーの相手もしてたし。……これから、する?」
「え、あ、うぁ。あああたし」
「アンはやっぱり可愛いね。良かった、その様子ならもう大丈夫みたいだね」
 大丈夫?
 はっとして、私は自分の身体を確かめる。もう熱も無い。頭もすっきりしているし、腕も足も、いつもよりずっと軽く動く。
 体中精液でべっとべとのはずなのに、気分は生まれたばかりみたいにすっきりしていて、世界の全てが色鮮やかに見えるようだった。
「魔界熱、下がったみたいねぇー」
 メアリーちゃんがいつの間にか目を開けていて、こっちを見ていた。
「良かったわぁ」
「メアリーちゃん」
「じゃあ、元気になったところで遠慮なく続きをしましょうか」
「へ?」
 メアリーちゃんは私の目の前でにやりと笑うと、シャルルさんにいきなり口づけした。
「んちゅっ。これでもうハンデ無しよ。どっちがシャルルにいっぱい出してもらえるか、勝負よ!」
「あら! 面白そうね!」
 突然部屋の扉が開いて、母さんまで顔を出してくる。メアリーちゃんと目くばせすると、二人でにやにや笑い始めるし。もう私には何が何だか分からない。
「じょ、女王様」
 一人挙動不審になって居住まいを正すシャルルに一番共感できた。
「シャルルさん。私の娘達をよろしくね。元気な子をいっぱい産ませてあげてね」
「がが頑張ります。いえ、その、でもいいんですか?」
「何が?」
「アンやメアリーなんて言うとっても素敵で可愛い娘さんを、僕なんかが独り占めしてしまって……」
 メアリーちゃんはそれを聞いて噴き出した。母さんも柔らかな笑みを浮かべる。
「だって二人が選んだ旦那様ですもの。いいに決まってるわよ」
「そうだよシャルル。私もアンも大好きだもん」
「大好きだよ、シャルル。二人とも幸せにしてね」
 悪戯っぽく言うと、シャルルは少し複雑そうな顔をしたあと、表情を引き締めて私達の手を取った。
「幸せにします」
「よく言ったわ。それでこそ娘達を預けるに足る旦那様ね。じゃ、あと二日以内に二人を妊娠させる事」
「「「え!?」」」
 私達夫婦三人の声が揃う。
「だって勝負するんでしょう? どうせなら勝利条件を妊娠にしましょう」
 妊娠なんて条件じゃ私じゃ勝てないよぉ。ただでさえ魔物は子どもが出来づらいのに、働き蟻の私が妊娠なんて……。
「いや、確かに三日貸してってお願いしたけど、そこまで気合を入れなくたって……」
 何か仕組んでいたらしいメアリーちゃんもこれは予想外だったみたいで、その言葉にも覇気が無かった。
「確かに厳しいかもしれないけど、あなたたち、愛する人の子どもが欲しくないの?」
 その言葉に私ははっとする。シャルルとの子ども、欲しくないわけがない。そうだよ。働き蟻が子どもが産めないからって、最初からあきらめていたら出来る物も出来ないじゃないか。
 働き蟻でも愛する人の子どもは欲しい。私だっていつかは母さんみたいな素敵な母親になりたい。
「シャルル。私やるよ!」
 絶対負けない! この身に愛する人の子を宿して見せるんだから。
「む、私だって負けないわよぉ」
「みんなやる気ね、じゃ、二日後に鍵空けるから、頑張ってねー」
 母さんは輝くような笑顔で手を振ると、扉を閉めた。
 鍵の落ちる音と共に、私とメアリーちゃんはシャルルに向き直る。
「あの、お手柔らかに、ね」
 メアリーちゃんと目くばせして頷き合い、私達はシャルルに飛びかかった。


「二人とも、ごめんね」
「別に謝る事無いよ」
「そうだよ。魔物と人間の間にはただでさえ子どもが出来づらいんだし、私なんて働き蟻だし」
 結果として、三日間休みなく交わっても私達には子どもは出来ていなかった。
 母さんは残念そうな顔をしていたけど、ともかく三人とも幸せになったという事で私達を祝福してくれた。
 それからなんだかんだでとりあえず私も二人と同じ部屋で暮らす事になった。今は私物を運び負え、部屋で一息つきながら三人でお茶を飲んでいたところだ。
「でも、僕としてもやっぱり欲しかったし。あれだけやったのに、何だか申し訳ないよ。お詫びと言っちゃなんだけど、何か僕に出来る事ないかな」
「えっち……」
「それじゃいつもと一緒じゃないか」
「……結婚式、したいなぁ」
 真っ白なウェディングドレス着て、タキシード来たシャルルさんと一緒に並んで。
 あと指輪の交換とか、新婚旅行とか。してみたいなぁ……。でも、そんなの出来ないよなぁ、きっと。
「ウェディングドレスか、メアリー何とかならない?」
「シャルルが頑張ってくれれば何とか……。でも私の魔力は生地に行っちゃうし、きっと交わり合ってるだけじゃ体力もたないと思う」
「大丈夫だよ。アンも手伝ってくれるだろ?」
 黙考していたつもりだったのに、いつの間にか口に出ていたみたいだ。
「じょ、冗談だよ。いきなりそんなこと言ったって無理だって、私だって分かってるから」
 私は笑顔を作って手を振って誤魔化す。でも、二人の真面目そうな顔は緩まなかった。
 不思議そうな顔で首を傾げさえしてみせる。
「すればいいじゃない。私達も結婚式はまだだったし、したいよね」
「うん。それにアンに貰った魔宝石、まだ大事にとってあるんだ。あのくらいの大きさがあれば指輪も三人分作れるんじゃないかな」
「ホントに?」
 メアリーちゃんは片目をつむってからシャルルに口づけした。
「じゃあ私、生地を作り始めてみる。魔力が空になったら、よろしくね。その前でもいいけど」
「僕はお腹が減った時の為のご飯とお菓子を作るよ。うんと精が付く物を作ろう」
 シャルルさんは立ち上がって、私に口づけする。私は依然あっけにとられたままだ。
 でも、私も何かしなくっちゃ。私に出来る事。結婚に必要な事……。
「わた、私は……母さんに指輪職人さんを教えてもらって、あと、チャペルを作ってもらえるようにお願いしてくる!」
「よし、じゃあ活動開始だ!」
 そうと決まったら頑張らなくっちゃ。走り出そうとする私を、途中でメアリーちゃんが呼び止めた。
「でもアン。頼んだらちゃんと帰ってくるのよ。
 チャペルはこれからみんな使えるし、誰でも作れるけど、シャルルに魔力を与えられるのは私かアンしか居ないんだからね。ドレスは私が作るんじゃない。私達三人で作るのよ?」
 私はなんだか胸がいっぱいになって、思わずメアリーちゃんに抱きついてしまった。
「ありがと、一緒に頑張ろうね。メアリーちゃん大好き」


 ベッドの上に縛り上げられたシャルルさんの上で、メアリーちゃんが腰を振っていた。
 メアリーちゃんが腰を上げ下げするたびに、二人の首から下げられた魔宝石が揺れて妖しい輝きを放った。
 あの後巣の女王である母さんに話をしに行くと、母さんは指輪職人の紹介もチャペルの建造も二つ返事で了承してくれた。
 すぐにドワーフの知り合いを呼んでくれて、魔宝石は三つのかけらに分けられた。私達三人の魔力を閉じ込めるためだ。
 交わり合っている時の方がきっと魔力も高まるだろうという事で、今私達は魔宝石を身に付けたまままぐわいに興じていた。最初は無色透明だった魔宝石が、今はそれぞれの色に染まりつつあった。私のも、ちょっと赤みが差してきている。
 チャペルも今は巣のみんなが総出で工事に当たっているらしい。
 というか、仕事もそっちのけで作りたいと言い出す子が多かったらしくて役割分担が大変だったみたいだ。私も手伝おうとしたけれどみんなから「あんたはシャルルさんとよろしくやってなさい」と追い出されてしまった。
 目の前のテーブルに並べられた、生クリームのたっぷり乗ったカップケーキを何気なく口にする。
 頑張り過ぎたせいか、それともドワーフの指輪職人さんがもってきたお香のせいか、頭がぼーっとしてしょうがない。えっちしたい。はやくえっちしたい……。
「アン」
 虫の身体を白く汚したメアリーちゃんが、私の肩を叩いた。
「今度はアンの番よ。愛しい気持ちでいっぱい時に、糸出さないと……。いっぱい糸出したら、またいっぱい出してもらわなきゃ」
 メアリーちゃんの目もどこか虚ろで、言葉もうわごとみたいだった。
 机に腰かけて、今度は一心不乱に糸を紡ぎ始める。
 私はケーキを持ったまま、ベッドに上ってシャルルさんに跨った。いつものような柔和な笑みを浮かべているものの、その表情には疲れの影も差していた。
「シャルルってすごいね。何度もいってるのに、まだこんなに硬い……」
 根元に手を添えて、私は自分の割れ目に彼の先っちょを擦り付ける。まだ焼けるように熱くて、鉄や岩で出来ているんじゃないかって思ってしまうくらいに硬い。
「二人が魅力的だからね。僕は幸せだよ、こんなにいい奥さんを二人ももらえて」
 私はケーキの残りを口に運んで、それを口移しでシャルルの口に送り込んだ。生クリームが二人の舌の熱で溶けて、唾液と一緒にシャルルの喉に落ちていく。
「シャルルの疲れ、取ってあげるね。私、マッサージも出来るんだよ? 交わりながら、身も心もほぐして、気持ち良くしてあげるね」
 彼の全身の筋肉を確かめながら、私はゆっくり身体を落として自分の中に彼を受け入れる。
「くぁあ、アン」
「やっぱり腰がこってるみたいだね。私の足で、しっかり揉み解してあげる。一番硬くなってるあそこは、もちろん私の中で、ね」
 私は生クリームをおっぱいに塗り付けながら、にたりと笑った。


 姿見の鏡に、お人形さんみたいに着飾ったジャイアントアントが居た。
 産まれて初めてのお化粧をして、真っ白なドレスを着て。
「ね、ねぇメアリーちゃん。変じゃない?」
「はぁ、アンったら。もう何度も言ってるじゃない。凄く似合ってて可愛いわよ? 大体それは私がデザインしたんだけど?」
 私の隣に、これまた真っ白なウェディングドレスをまとったアントアラクネが並び立つ。
 私のドレスがリボンやフリルが多いのに対して、メアリーちゃんのドレスは同性でもどきどきしてしまう程露出が多かった。着る人を選びそうだけど、メアリーちゃんが来ているとそれが嫌味にならずにとっても似合っていた。
「ごめん、お待たせ。いやぁ他の旦那さん達が羨ましがって離してくれなくてね」
 更衣室の方からタキシード姿のシャルルが駆け寄ってくる。髪型もいつもと違ってオールバックに決まっていて、いつもの感じとは違って、何か……。
「うちの嫁にも服を作ってくれるよう頼んでくれなんて言われちゃってさ……どうしたの、二人ともぼーっとして」
「え、あ。あんまりシャルルが格好良くて」
「ほ、惚れ直していたところよ。でも、私は気が乗らないと服は作らないからね。あとシャルル以外の男には絶対に作らないから、そういうつもりで」
「僕としても別の男がメアリーの糸をまとっているのは見たく無いからね。
 それにしても、二人ともよく似合っているよ。綺麗だ」
 私とメアリーちゃんは真っ赤になって顔を見合ってしまった。
「そ、その言い方はずるいわね。どっちが似合っているかちゃんと言ってくれないと」
 メアリーちゃんは腕を組んだ。柔らかなおっぱいが寄せられて谷間が出来て、私は思わず自分の胸を掴んでしまう。負けては、無いはずだけど。
「えーと」
 シャルルさんは苦笑いだ。
「アンの方が、可愛いかな」
 その言葉に私は嬉しさ以上に驚き戸惑ってしまった。シャルルさんが順位をつけるなんて思っていなかったから。
 メアリーちゃんも目に見えてショックだったみたいで、顔を伏せてしまう。
「でもメアリーの方がとってもセクシーだよ。どっちも甲乙つけがたい。僕としては衣装を交換した姿も見てみたいなぁ」
 メアリーちゃんは真っ赤になって顔を上げる。
「まったく、それなら許してあげるわ。でも、こんな可愛いの着るのはちょっと恥ずかしいよ」
「わ、私だってこんなに露出が多いのは、恥ずかしぃ」
 シャルルさんはくすりと笑って、私達二人の頬に手を添える。アイコンタクトして、私は目を瞑って唇を待っていたのだが。
「あー、とりあえず誓いのキスまで口づけは待ってくれないか」
「お熱いっすねぇ。あんま見せつけないでくださいよぉ」
 式場係のキリスさん夫婦がにやにやと笑っていた。そうだった。もう式も始まるって事で、二人もすぐ近くに居たんだった。
「ふんだ。嫁が帰って来るなり廊下でいたし始める男に言われたくないわ」
「め、メアリーちゃん」
「いや、あれはですね、いち早く嫁を抱きたいという俺の」
「別に、私が見られた方が興奮するというだけの事さ」
「お、お姉ちゃん!?」
 なんかいきなりすごい事聞いちゃった気がする。しかもキリスさんが珍しく恥ずかしがっているし。
「いやぁ、夫婦も色々ですね。じゃ、二人とも行こうか」
 シャルルは笑って全てを受け流して、私とメアリーちゃんの手を取った。
「ご、ごほん。じゃあ、扉を開けますよ。向こうでみんな待ってます、準備はいいですね」
 シャルルの顔を見上げ、シャルルを挟んだ向かい側のメアリーちゃんと顔を見合わせ、私達は三人で笑い合う。
「「「はい!」」」
 扉が開き、私達はまばゆい光に包まれる。
 割れるような拍手の音。お母さん、お父さん。たくさんの姉妹達と、その旦那さん達。
 お父さんは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら笑っていて。お母さんは苦笑いしながら涙を拭いてあげていた。
 みんな笑顔で私達を祝福してくれていた。夢みたいだけど、夢じゃないんだ。私、大切な親友と一緒に、一番大好きな人と結婚できたんだ。
『アン、メアリー、シャルルさん。三人とも、結婚おめでとう!!』
 良かった。私、シャルルの事好きになって、本当に良かった!
12/12/25 00:33更新 / 玉虫色
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■作者メッセージ
その後、子どもを身ごもったアンとメアリーはシャルルと共に巣を出て地上に小料理屋を構える事となる。
お店の裏の畑でジャイアントアント達が作る魔界作物を使ったシャルルの料理は通を唸らせる程になり、自作の可愛らしいメイド服で接客するアントアラクネ達も相まってお店は広く知れ渡る事になってゆく事となる。
……かもしれません。


というわけでこのおまけを持って完結です。
本当に長かったですが、ここまで読んで頂いて本当にありがとうございます。
おまけが一番難産で、おかげでこんな時期までずれ込み、クリスマスに書こうと思っていたネタが……。


最後に一言。結婚式のシーンを書いていて、すごく魔物娘と結婚したくなりました。いや、これまでもそう思っていましたけどね。
はやく夜這いに来てくれないかなぁー

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