読切小説
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とある噂
最近、こんなうわさが流れている。

曰く、鬼のような姿のブギーマンが凄い力で願いをかなえてくれると。
そして、願いをかなえてもらったものは姿を消してしまうのだと。

大体の人間は一笑に付して相手にしないが、それを試すものがいた。
その結果は……。


「はーい、呼ばれて飛びててじゃじゃじゃじゃーん」
「……え?」

翔太は気の抜けた声で答えた。
目の前に大柄な女性が立っていた。
その姿はぬいぐるみと人間が混ざったような恰好をしている。
手はクマのようにとても大きい。

雑誌やらゲームが散らかった部屋はドアも窓も締め切っており、どんな手品を
使おうと侵入できそうにない。
そのはず、なのに。

「私を呼んだのは、君かなぁ〜?」

目の前の女の言葉にハッとする。
そもそも事の始まりは、翔太がネットで噂になっていたブギーマンを呼び出そうとしていたから
だった。
目の前の女性は色白どころかまるで色がついていない陶器のように透き通っている。

いろいろとあって切羽詰まって、バカげた噂を真に受けてすがるまでになってしまった。
探し回ったところ、街で銀髪の怪しいお姉さんに怪しげなアプリをインストールしてもらったのだ。

アプリに指示されるがままにチラシの裏に呪文をかき、ブギーマンいでよ、ブギーマンいでよと唱えたのだった。
そこまで思い返してハッとする。

「まさか、ブギーマン……?」

「はーい、正解〜。でも、マンはいらないかな〜ブギーでいいのよ」

紫色の瞳で、翔太を見る。
背の高さが印象に残りがちだが、なかなかに美人だ。
視線が合うと、にっこりと笑った。
右ほほのつい目のようなものが動いてまだ笑っているかのようだ。

「お姉さんのことはボニー・ブギーって呼んでね〜」

「いや、聞いてねぇし」

見たことが無いような薄紫の瞳と目があって思わず目をそらしてしまう。
得体の知れない怪しげな女性だが、柔らかい声も相まって調子が狂いっぱなしだ。
そもそもボニーのような美人の女性を目の前にしたのは初めてだったから、緊張するのも
仕方がないことなのかもしれない。

「でもごめんねぇ、お姉さんは泣いている子供をあやすために来るの。だから、すごい力って
のは持ってないんだぁ」

「なっガキじゃねぇえし!ガキって言うんじゃねぇよ!」

「言ってませんよ〜”がき”じゃなくて”こども”と言ったんですよー」

「屁理屈言うな!意味は同じだろうが!」

これ以上ボニーと話していると頭がおかしくなりそうだ、と頭をかく。

「とにかく、すごい力がないなら帰ってくれ」

そう言うがボニーはんー、と考え込んでいる。
そんな可愛らしいしぐさも今の翔太にとってイライラの種になっていた。

「そう思ったんですけど〜やることができたのでここに残ることにします」
「はぁ?」

「だって、貴方から涙の匂いがするんだもの」
「……あんた何言って……?」

翔太が何かを言う前に抱きしめてきた。
頭を柔らかくておおきなものが包み込む。

「ふぉっふぁなふぇっ」

それが大きな胸だと気づいたとき、くぐもった声で抗議の声をあげる。

「はーい、良い子良い子〜」

翔太は力の限り暴れるもボニーは全く堪えた様子はなくむしろ縫いぐるみのような感触に包み込まれ、
徐々に抵抗する力も気力も薄れていった。

安らぎ、暖かさ……彼女のぬくもりに包まれていく。
ささくれだった心が、ほぐれてくのが自分でもわかる。


「大丈夫、大丈夫……これからはお姉さんが一緒にいますからねぇ〜」

ボニーはそう言って優しい顔で翔太に微笑むのだった。
その言葉を最後に、少年は眠りについた。
とてもいい気分だった。


街にはこんな噂が流れた。

曰く。ブギーマンは女性で、寂しい心の持ち主の前に現れるのだと。
そして、誰かを癒してくれるのだと……

「もー、だから「ブギーマン」じゃなくてブギーだってばぁ〜」
「ボニー、突っ込むところはそこじゃないだろ」

2人はそんな話をしていると、近づく影があった。
いかにも切羽詰まったような男だった。

「な、なぁあんたたち。ブギーマ、ブギー……噂は本当なのか?」

翔太とボニーは顔を合わせた後、言った。

「「本当ですよ」」
20/11/23 20:22更新 / カイント

■作者メッセージ
思わずブギーちゃんを見て書いてしまった

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