連載小説
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26.色白インキュバス
「これは・・・」
「えぇ、その・・・」

魔力を受け続けたシロが、完全にインキュバスとなった翌日。
とりあえず、身体の変化を色々と調べてみたが、まず何よりも目立つのは。

「・・・大砲か何か?」
「に、しか見えませんよね・・・」

不釣り合い所の騒ぎでは無くなった、隆々とそびえたつ一物。

エトナの中指程の長さで、親指程の太さしかない、皮を被ったものが
ほんの僅かな間で数倍に成長した。

「昨日、あれだけ搾ってコレだろ? どうなってんだよ・・・」
「インキュバスの仕組みは、絶対数の違いから魔物娘より解明されてませんし、
 僕の特異体質が絡んでる可能性も・・・」
「けど、アタシとしてはありがたい。もっと気持ちよくしてくれそうだし♪」
「あはは・・・」

見た目は子供、頭脳と股間は大人。その名は少年インキュバス、シロ。
彼の成長は、こういった意味でも順調である。

「んじゃ、とりあえず一発抜いとくか」
「・・・お願いします」



「大陸北方ですから、王都への直通ルートがありますね。
 最短はこれで、途中の街を経由するとしたらこっちに行ってみるか、更に北に・・・いや、
 ここから北は教団領があるから避けるべきか・・・」
「足がかりあるし、ここ行ってからがいいんじゃねーか?」
「ですね。そうしましょう」

街から街へと移り、王都は目前。
シロの両親の所在、シロを買い取った教団等、情報を集めるなら王都がベスト。
その為、次の目的地は王都近辺の街に向かう事にした。

「さて、今後の予定も決まりましたし、折角の娯楽都市です。遊びますか!
・・・いいんですよね?」
「自信持て。欲望に素直になる事、大事」

インキュバス化したシロは、多少ながら欲望に忠実になりつつある。
未だに真面目さが邪魔しているものの、いい傾向だった。



「・・・とっ」
「・・・んっ」

遊ぶというカテゴリに入る事は間違いないが、彼の望みで来たのは、ダーツバーという
シロの年齢にしては中々に渋いチョイスであった。

基本的に何でもそつなくこなしてしまうシロだが、ダーツは未経験。
未経験の事をいきなり上手くやってしまう等という事は、流石にシロでも無理。
勘の良さとセンスはあるが、的にきちんと刺さる本数の方が少なかった。

「思ったより下がりますね・・・」
「狙い目から少し上に向かって投げてみろ。シロだと多分それで丁度」
「んっ。・・・あれ、今度は横に」
「肩に力入り過ぎかもな。投げた後、軽く腕を伸ばす感じで・・・こう」
「・・・綺麗・・・」

意外にも、先に要領を得たのはエトナ。
基本の型が整い、ボードの中央、ブルに次々と矢を刺して行く。

「んっ。・・・うーん」
「一度、素手で投げる真似した方いいかもな。・・・手、借りるぞ」
「あ、はい・・・!」

シロの後ろに回り、右手首辺りを掴み、フォームが整う様に動かす。
何かの動作を教える方法として、一般的に用いられているものであるが、
エトナが行うと、ちょっとした問題があった。

「投げる時だけ力入れて、その後はスーッと、リラックスするようにして・・・」
(あう・・・どうしよ・・・)

今までのシロなら、特に気にしなかったかもしれない。
ここに来て彼は、インキュバスの性質を、身を持って体感する事となる。

インキュバスの特徴。
精力の増大。
長寿化。
そして何より。



(・・・エトナさんのおっぱいが気になって、集中出来ない)



性欲の増大。

シロの頭の中は、背後から当たる柔らかな感触でいっぱいになっていた。

「肘は固定して、手首から力抜いて・・・」
(エトナさんが真剣に教えてるんだ、ちゃんと聞かなきゃ・・・)
「半円を描くようにして、前に・・・」
(ちょ、押し付けられっ!?)
「指を同時に離すと、真っすぐ飛ぶから・・・」
(柔らかい・・・いやいや! 負けるな僕! しっかり集中して・・・)
「この一連の流れが出来れば・・・」
(集中・・・おっぱいに・・・集中して・・・)

今までのシロなら、この程度であればまだ自制が利いた。
しかし、今の彼はもう、根本的な所が変わっている。

「・・・エトナさん」
「何だ?」
「僕を殴ってもらえませんか」
「は? いきなりどうした?」
「まさかここまで、一気に堕落するとは思ってませんでした。死にたいです」
「・・・?」

ターニングポイントを越したことによる、急速な変化。
今までの自分との剥離が酷すぎて、シロは自己嫌悪に陥った。

「こうしてエトナさんが懇切丁寧に投げ方を教えてくれてるのに、
 僕はずっと、頭に当たるおっぱいの事しか考えてなかったんです」
「・・・あ、悪ぃ。全然気にしてなかった」
「欲望に忠実になろうと思ったとしても、ここまで急に堕ちるものなんですかね。
 何か、人間としての尊厳とか、その辺りまで投げ出してしまったような気が・・・」
「落ち着け。大丈夫だって。そしてアタシは欲情してくれるのが嬉しい」
「でも・・・」

フォローしても、負のスパイラルに陥る。
こうなった時の対処法は、一つ前の街で決めてある。

両方のほっぺたをつまみ。

「むにー」
「はひっ!? ないをひへふんへふは!?(はいっ!? 何をしてるんですか!?)」
「むににー・・・ぱちっ」

いつもより長めに伸ばした後、離す。

「アタシはシロが大好きなんだから、好きなだけ欲情しろ。
 馬車に戻ったら、おっぱいで抜いてやるから」
「・・・僕、ダメ人間ですよ?」
「何言ってんだ。いつも言ってるけど、もっとダメになれ。
 シロでダメ人間なら、アタシら魔物はいったいどうすりゃいいんだよ」
「でも・・・」
「もう一回引っ張るか? 今度はちぎれるくらいに」
「ごめんなさい本当にごめんなさい」

力技は、なるべく使いたくはない。
しかし、シロの悪癖の為ならいくらでも使う。
いちいち、気にしていられるものではなかった。



「あっ、これラシッドにもありました。前話した、どこかの民族のお面です」
「これで金貨25枚!? 誰が買うんだよ・・・」

シャルクに市場は存在しない。
しかし、道を歩けばそこかしこに露店がある。
この辺りも、自由放任主義である娯楽都市ならでは。

「掘り出し物を探すのが楽しいんですよね。思いがけない品が安かったりして」
「割と交渉に応じてくれたりもするしな。・・・ん?」

露店には珍品が置かれている事が多い。
そんな中、一際目立つ店が一つ。

「らっしゃい! どれでも銅貨1枚! いいもの入ってるよ!」

鉢巻をしめた露店商の前に、大小様々な紙袋。
どうやら、所謂福袋の店のようだ。

「銅貨1枚で30枚分のモノ入ってるよ! お得な福袋、買わない手は無いよ!」
(大体こういうのって売値だけ合わせてる、いらない物が多いんだよな。
 典型的な安物買いの銭失いだし、別の店を・・・)
「これとこれとこれ」
「はい毎度あり!」
「ちょっ、えっ!?」

大中小三つの紙袋を選び、銅貨3枚と交換。
エトナは見事に、福袋商法に引っかかった。

「あるもんだな掘り出し物! 何入ってるんだろうなー♪」
「あはは・・・(・・・見たくない。この笑顔が曇る所見たくないよ・・・!)」

間違っているのは、どうか自分であってほしい。
叶わぬ願いを胸に、乾いた笑いでお茶を濁した。

しかし、後にこれが結果として功を奏する事となる。



日が暮れる辺りで馬車に戻り、荷物を整理する。
シロが買った掘り出し物少々と、エトナの買った色々な物。

「・・・アタシ、何でこれ買ったんだっけ」
「それが露店マジックです」

衝動買い率、シロ0割、エトナ6割。
最低限のお金しか持ち歩かないというシロの戦略は、的確だった。

「アレだその、これもダメ人間になれっていうアタシからの・・・」
「これ単体だけ見たらただダメなだけって事は流石に分かります」
「ごめん本当にごめん」

甘やかさない。
自分に厳しく人に優しいシロでも、間違っている事はしっかり指摘する。
その辺はエトナも知っている所である上、責任の所在が明確なので、受け入れる他無い。

「一度仮眠とって、また夜に出歩いてみますか?」
「賛成。・・・っと、その前にコイツ開けようぜ」

そう言って前に引っ張ったのは、例の福袋。
シロは、これらの処遇について考えていた。

間違いなく、中身はガラクタ。
一体どういうコメントをすれば、エトナを傷つけないか。
結局、答えが出ぬまま、馬車に着いてしまった。

(・・・せめて嵩張らないものでありますように)

もうどうとでもなれ。投げやりになりながら、とりあえず小さい袋を開ける。

その中に入っていたのは、小瓶が3つ。
更に、その中身はシロもエトナも知っているもの。

「・・・ジャム?」
「苺とマーマレードとブルーベリー。・・・普通だな」

丁度二人で使い切れそうなジャム3つ。
銅貨1枚でこれなら、間違いなくお買い得。
偶然にも、結構な当たりをエトナは引き当てていた。

続いて開けた中ぐらいの袋の中は、羊皮紙と羽ペンに、万年筆。
どこでも買えるものではあるが、日常的に使うものであり、
万年筆に関しては本来、値が張るもの。

(露店商さんごめんなさい。僕、間違ってました)

幸運にも、ここまで出てきた品物は中々に良い物ばかり。
残すは、エトナが中身を覗いている大きな袋だけ。

(この分だと、多分悪い物は入っていないはず。
 にしても、結構大きいけど、何が入ってるんだろう)

座ったまま、エトナの表情から中身を予想する。
特に喜んでいる訳でも、悲しんでる訳でも無い、普通の状態から突然。

「・・・あっ」

分かった、というより、『分かってしまった』というような声。
エトナには似つかわしくない、気の抜けた声だった。

そのまま数秒、固まった後。

「・・・シロ」
「はい。何が入ってました?」
「アタシがどんな事になっても、旅を続けてくれるって、約束できるか?」
「・・・?」

意味が分からない。
福袋の中身が、これから先の自分とエトナを左右する程の物とは考えにくい。
何の意図があって、そんな事を聞いているのか分からなかったが。

「えぇ、勿論」
「分かった。・・・一旦、外に出てくれ」

一先ず肯定の返事をし、要求を飲み込む。

(・・・何だろうな、一体)



数分後、声がかかる。
馬車の室内に戻ったシロは、その光景を見て全てを察した。
15/05/06 16:08更新 / 星空木陰
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■作者メッセージ
1話毎の文字数が多めだったここ最近の反動か、短めの第26話。
欲望の大きさとそれを受け入れる事に差が出来てしまっているシロ。
色々な物を買っていたら、何やら見つけてしまったエトナ。
彼が馬車で見たものとは。

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