※魔王城・地下牢※
※リーゼ視点※


｢あけおめー｣
｢ことよろー｣

番兵達の気の抜けた挨拶でわたしは目覚めました。

｢いつもはおはようなのに……？｣

目を擦りながら考えていると、足音が聞こえて来ました。

｢慌てながら走るこの足音……キキーモラのラーモさんね……今日の朝食は何かな？｣


｢あけましておめでとうございます。リーゼさん｣


｢……｣
｢リーゼさん？｣
｢えっと、ラーモさんですよね？……今日から挨拶が変わったのですか？それにいつもの給仕服は？｣

わたしは彼女の服装を改めて見直します。

上着は白衣、スカートは緋色の袴。

｢これは巫女服です。今日は元旦。新年を祝う日です｣
｢がんたん？｣
｢ジパングでの風習で、今年一年の繁栄を祝って、色々な事をしちゃいます。私達スタッフはしばらくの間、この服装で業務をこなすのです｣
｢いつも違う服だと動きとかに支障とか出ない？｣
｢確かに最初は動きづらいと思いましたが、柴様は巫女服もイイネ！と喜んでくれて、それからそれから｣
｢判ったから判ったから。それより朝食をお願いします｣
｢はい、今日は元旦なのでスペシャルメニュー、おせちです｣

ラーモさんが何重に重なった箱を差し出します。

箱を開けると色とりどりの食べ物が並んでいました。

｢凄く濃い色ですね｣
｢大丈夫です。魔物化する薬は入ってませんよ｣
｢ありがとうございます……ラーモさんの事は信用してますから｣

わたしはピンクの筋が入った白い塊を食べます。

｢美味しい｣
｢それはかまぼこです｣
｢この黒い豆は？｣
｢それは黒豆です｣
｢そのまんまね。ぱくっ、美味しい｣
｢リーゼさんから美味しいって言ってくれると私は嬉しいです｣
｢いつも言ってることですよ｣
｢はい、ここに来てからずっと……｣
｢どうしました？｣
｢気付いたんです。リーゼさん達が捕虜になってから数日経っていて……｣



｢捕虜はもうリーゼさんしか残っていないことに｣



わたしは箸を置きます。



｢あっごめんなさい、私余計な事を｣
｢いいの、事実だから｣
｢えっと、確かリーゼさんはパール様から、ハーレムの誘いを受けたのですよね？｣
｢はい、返事を保留して数日が経ちました｣
｢その間にも、多くの魔物娘から誘われたのですよね｣



｢魔物にならないかって｣



｢はい、同じく捕虜になった仲間達も誘われ、男は魔物の夫に、女は魔物になりました……｣
｢リーゼさんは断ったのですよね？｣

わたしは無言で頷く。

｢どうして、魔物化を断るのですか？｣

｢それは……怖いの。人間をやめる、それ以上に戦士ではなくなることが｣










静寂が牢屋を包みます。










｢明けましておめでとう｣
｢今年も宜しく！｣

その包みを破ったのが、夫婦の挨拶でした。

｢……パール様に柴様……こ、今年も宜しくお願いします！｣
｢ラーモちゃん、慌てなくていいのよ｣
｢そうだぞ気楽に行こう。一年の計は元旦にあり｣
｢何故お二人がここに？まさか新年早々ケンタウロス達が暴れだして……｣
｢違うわよ、今日はリーゼちゃんに用があるの｣

｢へ？わたしに？｣
｢そうだ、折角の新年だ。ハーレム参りにいかないか？｣
｢ハーレム参り？｣
｢リーゼちゃんをハーレムの国を案内するんだ。きっと楽しくなるぞ｣

｢リーゼちゃんに一度私達のハーレムを見てほしいの……勿論強制はしないわ｣

｢……｣

一瞬迷いましたが、わたしは立ち上がり、パールさんに頭を下げます。

｢ハーレムの国を案内してください。お願いします｣


※ハーレムの門※


｢メシャスちゃん、連れて来たわよ｣

門の前には二人の魔物がいました。

｢お久しぶりです。メシャスさん｣

わたしはチェシャ猫のメシャスさんに挨拶をします。

｢リーゼちゃん、久しぶり��｣
｢えっと、メシャスさんの隣にいるサキュバスさんは？｣
｢この娘はレーサ、旦那様募集中のレッサーサキュバスよ��｣
｢旦那様募集中は余計よ｣

｢全員揃ったわね。ハーレム参りに行きましょうか｣
｢質問です｣
｢はい、レーサちゃん｣
｢何故私をハーレム参りに招待したのですか？｣
｢それはね……｣



｢新年早々独り身で淋しそうだったらよ｣



｢悪かったわね！好きで独り身してるわけじゃないわよ！全くどいつもこいつも年明けだからってイチャイチャしやがって！｣

レーサさんの愚痴が続きます。

｢デュイン隊長夫妻は両親と共に姉妹の下へ挨拶しに行ったり、部下共は夫とベッドでエッチしまくるわ、おまけにアイリス,ダクス,ルプスも夫とイチャイチャしやがって！｣

私も夫さえいればーっ、とレーサさんは床をだんだんと踏みつけています。

｢門前に飾れたあの縄は何ですか？｣

パールさんに質問します。

｢リーゼちゃん、いいところに気付いたわね｣
｢これはしめ縄といって、正月に玄関の上に飾る、俺の故郷ジパングの風習なんだ｣
｢へー柴さんは物知りですね｣

｢無視するな！大体、この縄が何なのよ、気持ち悪い見た目でさ｣

レーサさんが文句を言いながらしめ縄に手を触れようとしました。

｢ダメよ、近づいちゃ！｣

パールさんが叫んだ瞬間、しめ縄からツルが飛び出し、レーサさんを縛りました。

｢何よ、この触手は？｣
｢そのしめ縄は飾りであると共に、侵入者が近づくと触手で拘束するのさ｣

｢何でそんな機能をつけたのよ！｣
｢今日は忙しいから、門番の娘を配置する余裕が無いのよ｣
｢いやぁ、触手が私の性器を擦ってぇ｣
｢処女は奪わないから安心して快楽に浸りなさい｣
｢ああん、あんっ、いやあっ濡れちゃう｣

パールさんの声が聞こえていないようです。

私は赤面しながら、その光景を凝視しました。


※十分後※

※ハーレム部屋※


メシャスさんの手により青い門が開門されます。

メシャスさん,パール夫妻,モーラさんに続いて、私も中へと足を踏み入れます。

レーサさんが全身びしょびしょのまま入ります。


『あけましておめでとうございます』



部屋中に広がる新年の挨拶



『今年もよろしくお願いします』



巫女服を着用した魔物達を筆頭に、様々な姿をした魔物が私達を歓迎してくれました。

共通点を挙げるなら、

全員メス

全員美女

全員花嫁

｢凄い、全員が柴さんの奥さん？｣
｢そうよ、最前列で並ぶ巫女服を着たスタッフ達を筆頭に百を越える花嫁達が、たった一人の夫の為に毎日正月買いの遊戯を繰り広げる部屋｣

メシャスさんがわたしの方を向いて、

｢ようこそ、ハーレムの国へ｣

一礼しました。

※

｢新年最初の分身薬です。どうぞ｣

パールさんが夫に薬瓶を渡します。

｢ありがとう｣

柴さんが瓶の蓋を開け、一気のみをします。

すると、柴さんの体が光りだし、十個の光に分裂しました。

光が巫女達の前へと降り立ちます。

光が全て柴さんに変化しました。

｢分身!?｣

驚くのも束の間、巫女達がパールさんが渡したのと同じ薬瓶をそれぞれの柴さんに渡し、十人同時に飲みます。

十人全員が光りだし、十の光となり、

同じ顔をした男が百人立っていました。

それを確認したのか、巫女達が一斉にその場を離れます。

モーラさんも慌てて、巫女達に続きます。

パールさんが合図をするかのように手を前に出し、






｢さぁ今年最初の宴よ、遊ぶなり、交わるなり、喧嘩以外なら何しても良し！思う存分楽しみなさい！｣






宣誓と共に、黄色い喚声が部屋中を埋め尽くしました。

花嫁達が一斉に百の男に襲い掛かります。

裸になり即ハメする妻

股間を巻探り焦らす妻

手を繋いで誘惑する妻

背中に乗せて駆ける妻

空から捕縛して攫う妻

数人で共有して跨る妻

皆が様々な行為で交わるその姿に、私は未知の感覚を覚えました。

これが、ハーレム。





ごくり





｢パール様、準備が整いました｣
｢いつもお疲れ様、二人とも輪のなかに入って｣

パールさんが左手に紐、右手においでの合図を送ります。

｢この前と同じか｣

意味を察したレーサさんが輪のなかに入ります。

わたしもそれに続きます。

｢危ないから紐を放しちゃとダメよ｣

パールさんが優しく忠告します。

突然身体が浮き始めました。

｢イクわよ｣

メシャスさんの合図で出発進行。

最初のうちは落ちないように紐を握り締めました。

※

｢皆が一斉に交わってる……｣

ようやく余裕が出来たわたしは地上のハーレムの観察をします。

正常位で交わるサキュバス

騎乗位で精液を搾り取るスライム

急降下して性器に挿入するハーピー

獣ように無我夢中で攻めまくるワーウルフ

集団で総ナメするゴブリンと巨乳を押しつけるホフゴブリン

その他私が知らない多くの魔物達が同じ顔をした夫と交わっていました。

｢うわー、前に見たよりも激しすぎる｣

レーサさんが顔を歪ませながら眺めています。

｢今日は分身薬で分身した直後に薬を投与するという離れ業をしてるから、感度は百倍、いやそれ以上よ｣
｢百倍!?問題は無いのですか｣
｢クリアちゃん特製の分身薬だから問題ないわ。そもそも魔物娘がどれだけ夫の精を奪っても、命を奪わないのが現魔王時代のシステムよ｣
｢パールさんは、交わらなくていいのですか？｣
｢私は最後でいいわ、その方が美味しくなるから｣
｢？｣

｢ごくり……私も早く旦那様の精液が欲しいな｣
｢そんなレーサちゃんにおせちは如何？｣

メシャスさんが壁ぎわにある厨房へと案内します。

厨房ではキキーモラ達がおせちを作っていました。

メシャスさんがキキーモラの一人に声をかけます。

｢ラーモちゃん、おせち作り頑張ってる？｣
｢はい、柴様の姫始めを待ってる妻に食べてもらうために頑張ってます｣
｢精力剤入りのおせちを分けてくれないかしら？レッサーの娘がお腹空いてるの��｣
｢どうぞ、精力剤入りのかまぼこです｣
｢……いただきます、ぱくっ……精の味がする｣
｢ありがとうございます｣

ラーモさんが一礼。

｢ラーモ、おせち一箱カルタ会場に持っていて｣
｢はい、先輩｣

先輩キキーモラから重箱を受け取ったラーモさんが走りだします。

｢カルタ？｣
｢リーゼちゃん、気になる？｣
｢はい、ちょっとだけ｣
｢次はカルタ会場へご案内｣

※カルタ会場※

｢ここがカルタ会場よ｣
｢結論から言えば、女性達が札の取り合いをしてるわね｣

｢みんな凄く美人ですね。肌も真っ白……｣
｢彼女達はワイト。ゾンビの上位種よ��｣
｢上位種？｣
｢ゾンビが大量の精を得るうちに、ワイトになることがあるの。彼女達は全員柴様の精によってワイトになったのよ��｣
｢彼女達全員が……凄い｣

｢新年早々エッチばかりしてると思ったけど、普通に遊んでる魔物もいるのね｣



『ただ遊んでるだけだと思う？』



｢ひいっ！｣

レーサさんが軽く悲鳴を上げ、その拍子で紐を放しました。

すると急にレーサさんが目の前から消えました。

捕らえられる音が響きます。

レーサさんが逆さまにぶら下がってました。

｢ゴメンゴメン、脅かすつもりは無かったわ｣

メシャスさんの片手から出てきた紐がレーサさんの片足を捕えてました。

｢急に耳元で囁くような声を出さないでよ！｣

わたしは下を向いて、怒っているレーサさんを見ます。

｢良かった……｣

わたしもメシャスさんの囁くような声にちょっと驚きました。

レーサさんのハプニングは、それ以上に心臓に悪かったですが。



砂を掻き分けるような音が響きました。



わたしは音がした方向を振り向きます。

砂の中から巨大な怪物が飛びだしてきたのです。

部屋を埋め尽くす程の大きさ

緑色の衣に包まれた胴体

獣を模した赤き顔

鳴らし続ける歯

旧時代の魔獣

わたしは重力を感じながら、その怪物に注目しました。

目の前のレーサさんがわたしを見て驚いています。


あれ？どうして、わたしの頭上にレーサさんがいるの？



わたしの両手が紐を放していることに気付きました。


同時に床へ落下していることにも。

｢リーゼちゃん！｣

天井からパールさんの叫びが聞こえました。



※続く※

■作者メッセージ
あけましておめでとうございます。
ドリルモールです。

新年最初の話は、ハーレム参りの元旦編です。

次の姫始め編(仮)は、

獅子舞
カルタ
羽子板

etc…

正月らしいイベント？が披露される予定です。



また次回