連載小説
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帰り道

「……ん」

 椅子に手をついてリリの上に覆いかぶさるようになっていた礼慈は、不意に意識を取り戻して身を起こした。
 腕は痺れてはいない。リリの中に埋まっている陰茎も脈動こそ止まってはいるが、尿道の中を残留しているものがあるような、むず痒い感覚がある。
 どうも射精した瞬間からそう時間は経っていないようだ。

「リリ……っ!」

 下敷きにするような形になっていたリリに慌てて声をかけるが、リリからの返答はない。
 無理をさせ過ぎたかと心配して顔を覗き込んでみると、彼女は穏やかな呼吸で寝入っていた。

 特段体調が悪いようにも見えない。疲れて眠ってしまっただけのように見える。
 その様子にほっとしつつ、礼慈は未だ幼い蜜に浸って残留物を注いでいる陰茎を引き抜いた。

 甘締めしてくる膣から引き抜いた勢いで、踏ん張りもきかずに礼慈は尻もちをつくように地べたに倒れてしまう。
 刺激によって意識がシャットダウンする程の目に遭ったのだ。体の方にも相応の影響がでているということだろう。

 まだ霞がかっている頭を振っていると、眼前にあるリリの秘所からゴポッと音を立てて体液が流れ出てくるのが見えた。
 体は大人で、挿入れていた側の礼慈でこれなのだ。体の中を抉られていたリリはどれほど消耗していることだろう。

(早く帰してあげなくちゃな……)

 リリのスカートを整えてやろうとすると、いつから手に握り込んでいたのか体液で汚れたパンツが滑り落ちた。
 これを穿かせることはできないだろうとズボンのポケットにパンツをねじ込み、膝に手を当てて立ち上がる。

 倉庫の中の裁縫道具がしまってある辺りを探って厚手の布切れを見つけると、水場で洗って、リリの脚と秘所を丁寧に拭いてやる。

 リリの秘所は礼慈が激しく腰を打ち付けたせいで赤く充血していたが、幸いなことに傷ついてはいないようだった。
 そのことにほっとしていると、手で割り開いた秘所の中から垂れてくる液体に軽く疑問を覚えることができる程度には落ち着きが戻っていた。
 血と、泡立つ白濁の混合。その流出量が少ないように思えるのだ。

(……いや)

 より正確には、彼女の秘所から垂れ落ちてくる混合液の中に礼慈の精液が含まれている比率が少ないのだ。
 一度目の射精でリリの顔を汚した時、その量は普段の比ではなかった。加えてあれだけ出したにもかかわらず、二度目、三度目の射精も自分で驚く程の量を出していた自覚がある。それこそ、リリの秘所からは精液の臭いが立ち込めていてもいいはずなのに、今礼慈の鼻に香ってくるのはリリの幼く甘い――彼女と出会った時からいつも薫ってきた背徳の香りだった。

(子宮に出したからか……?)

 思えば普通は挿入しないような奥にまで突っ込んでいたのだ。射精が終わって陰茎が抜かれた今、子宮口は閉まっているだろうから、中に出された精液も垂れてきづらくなっているのだろう。
 それに相手は魔物。大半は吸収されてもいるだろう。

 そこまで自分の精子が魔物的に美味しい代物であるという自信はなかったが、リリは美味しそうにしていたし、ありえない話ではない。
 そう考えて、そういえばリリは初潮もまだ来ていないようだったと思い出した。

 そんな子にとんでもないことをしでかした。
 自らの所業を思うとなんとも言えない気分になる。
 だが、度し難いことに、後悔の念のようなものは意識して持とうとしないかぎり、礼慈の中に浮かんでくることはなかった。

(いくら幼い子との恋愛が珍しくはなくなってきつつあるっていってもこのレベルのはちょっとな……)

 リリは性的な知識がほとんどない様子だった。これでは何も知らない人間の子供を相手にしたのと変わらないのではないか。そう自分に対して説教しながら布切れをすすぎ、粛々と行った何回目かの秘所の掃除で垂れてくるものも収まった。
 最後の仕上げとして、布切れを彼女の膣内に入れて拭っていく。すると、それに体が反応して、リリの腰がヒクンと跳ねた。

 それに反射のように欲情を覚えた礼慈は、急いで布切れを引き抜いて、尻の下で体液漬けになっている尻尾を急ぎ拭ってやり、布切れはトイレに流し、自分は頭から水を被った。
 ざっと頭を拭いて、リリの髪も可能な限り拭ってやってから声をかける。

「リリ……起きろ。リリ」
「う……ん……」

 むずがるような声を上げて、リリはゆっくりと目を開いた。
 ぼんやりとした常磐の瞳が礼慈を見上げてくる。彼女はなんと言ったらいいのか迷うように口をモゴモゴさせた。

「おはよう、リリ」
「お、おはよう……ございます」

 そんな現在の時間帯にしてはおかしくも聞こえる挨拶を交わして、礼慈は言う。

「さて、そろそろ山を下りようと思うんだが」

 リリはまだ完全には目覚めきっていない顔で首を下に振って立ち上がろうとする。

「はい……あれ?」

 椅子の上で身を起こそうとして、リリは困ったように礼慈を見上げた。

「あの、レイジお兄さま……わたし、おかしいです。あの……その、立てません……」

 尚も立ち上がろうと努力してはお尻を椅子から上げることができないでいるリリ。そんな彼女を絶頂し過ぎて腰が抜けてしまっているのではないかと礼慈は理解した。

「疲れが溜まってるんだろう」

 無理もない。礼慈はリリのランドセルと自分の鞄を片腕にまとめてかけると、リリに背を向けて屈んだ。

「掴まれるか?」
「えっと……?」
「おんぶしていく」

 言った言葉に、リリが慌てた。

「え、あの、それはわるいです」
「このままじゃ帰れないだろ?」

 反論が見つからないのか、リリは何度も謝りながら礼慈の肩に手をかけた。
 そのまま立ち上がって手の力だけで捕まっているリリの尻に余った片手を添えてやる。
 リリの吐息が「ん」と漏れ、礼慈は彼女の感触に胸が高鳴るのを感じる。
 なんとか精神と体勢を安定させると、礼慈は言った。

「じゃあ、山を下りようか」

   ●

 礼慈が山を下りて舗装された道路に足を着き、リリと再会したあの公園に戻る頃には陽はもはや落ちて、藍色の空の端にわずかにオレンジ色が残されているだけだった。

(まいったな……)

 リリの家族は心配していることだろう。その当人は疲れが出てしまったのか、それとも乱暴に処女を散らされたのが祟ったのか、礼慈の背中でまた寝息をたてている。

 心配になるが、幸いなのは呼吸が規則正しく乱れていないことだろう。それがきっと大事ないはずだと思える安心材料になり、おかげで暗い中で道を外れた山の中、足を滑らせずに済んだ。加えて、呆れてしまうことだがリリの寝息が首筋に触れるたびに力が漲るようで、礼慈自身もかなり疲弊しているはずなのに荷物を持ちつつ子供とはいえ一人を背負っての山歩きも苦ではなかった。

 ふと、自分はこんなに扱いやすい人間だったろうかと思う。

(どちらかっていうと面倒臭いタイプだと思ってたんだがな)

 これも魔物娘の影響なのだろうか。

(……いや、違うな)

 魔物娘なら小等部の途中からずっと身近に居た。影響が出ていたとしても、それはリリ個人が持つ影響力だろう。それが彼女に関わった皆に与えられるものなのか、礼慈にだけもたらされる影響なのかはもう少し彼女と共に時間を過ごしていけばはっきりするのかもしれない。

(あんなことをしておいて、リリ本人や家族やらに警戒されなければの話だが……さて)

「リリ。家まで送りたいからそろそろ起きてくれないか?」

 背を揺さぶってリリに覚醒を促すと、背後から声をかけられた。

「あれ? 礼慈?」

 驚きに肩を跳ね上げた後、平静を装って背後に振り向くと英と鏡花が居た。
 向かいにあるスーパーからの帰りだろう。二人で一つの買い物袋を持った彼らは怪訝そうな顔をして近づいてくる。
 悪事を見咎められたかのような緊張をもって礼慈は二人に応じる。

「二人で買い物か? 仲が良くていいことだ」
「ほら、今日は部活もなくて鏡花の手伝いしてただろ? だから帰る時間一緒だし、帰る家も一緒だしな。そうなりゃ買い物だって一緒にするさ」

 英はそれよりも、と礼慈の肩を見て言う。

「そっちこそ、なんか大荷物みたいだけど、どこでさらって来たんだ?」

 この公園からさらっていったのだが、言うのははばかられた。

「小等部に生徒会の仕事で行った時にちょっとあってな」
「あー、メールで言ってた小等部の子ってこの子か。
 寝てるけど、遊び疲れたのか?」
「まあ……そんな所だな」

 誘って付き合ってもらったのは礼慈の側だが、経緯を説明するのもなんだ。
 と、英の横に控えていた鏡花が買い物袋を英に預けてリリに触れた。背を撫でて、なにか得心したように頷くと、彼女はリリの腰に生えた羽を、つー、となぞった。

「――んひゃ?!」

 リリが頓狂な声を上げる。

「おはようございます」
「……? お、おはようございま、す……メイドの……おねーさん?」

 何がなんだかよく分からないといった様子で、それでも寝起きの挨拶を返したリリにメイド服をつまんで礼をした鏡花は名乗る。

「私は鳴滝君の友人の大取鏡花と申します。そちらの彼は相島英君。私の――旦那様です」

 鏡花の声が誇らしげなのは彼らがくっつくまで長い間見守っていた友人として非常に喜ばしい。
 英が鏡花の言葉を引き取るように自己紹介するのを待って、リリを下ろしてやる。
 リリはリリで、二人に対して丁寧に挨拶を返した。

「で、リリは礼慈とどういった知り合いなんだ?」

 英の問いにリリはえっと、と前置きして、

「レイジお兄さまは、わたしが学園で泣いてしまっていたときに声をかけてくださった方で、その後この公園でも声をかけてくれて……それで……」

 それで……と言葉に詰まったリリが視線を寄越して、英が追従する。

「お兄さま、ねえ……。生徒会も業務が手広いな」

 英が驚き半分からかい半分といった感の言葉を投げてくる。

「まあ、そういうことだ」
「……なるほど」

 声音から下世話な色を消して、英はリリに言う。

「コイツは優しくしてくれるか?」
「はい。レイジお兄さまはやさしくて、いっしょにいると、ほーっ、てします」
「うんうんそうだろそうだろ。なんたって礼慈は超頼りになるやつだからな。頭良いし!
 リリが良かったらこれからもコイツと仲良くしてやってくれよ」

「あ、あの……はい!」
 力んで何度も頷くリリに鏡花が忠告する。
「ですけど、悪いものを勧められた時にはきっぱりとお断りするんですよ?」
「悪いこと?」
「あー、大取」
“悪いこと”で秘密基地で働いた狼藉を思い浮かべた礼慈がリリの質問を潰す形で口を挟むと、鏡花はリリの羽を撫でながら言った。

「私が言ったのは、水筒の中身のことですよ」
「……あー、分かってる。分かってるよ」

 何を言ってもボロが出る気しかしない。
 状況が状況とはいえ、魔物との交流が始まってからというもの、未成熟な年齢を相手とした性交渉がバレてもそれだけでは犯罪扱いにはならない。もう白々しく隠そうなどとせず、いっそ全て白状してしまおうかと考えていると、鏡花はリリの羽から手を離した。

「やはり一時的に魔力欠乏状態にあったみたいですね。何かに魔力を使っていたのでしょうか? 今は補填されているようです。リリさん、眠る前と比べて今の方が体は楽なのではないですか?」
「あ、そういえば……なにかちょっとうまく動かない……? ような気がしますけど、かるくはなったかも……です」

 そんな返事を受けて、鏡花は礼慈に言う。

「彼女の体は心配いりませんよ。うまく動かないのは、きっと幸いの証なのではないでしょうか」
「待て、ちょっと意味が取れないんだが……いや、でもリリの体は問題ないんだな。安心した。すまんな」
「いえ、私たちも鳴滝君には助けられていますから」
「主に助けたのは旦那の方なんだけどな」
「だとしたら、私を助けるのと同じことですよ。鳴滝君」

 不意のノロケは心にクる。

 ともあれ、他者の体調の機微に敏いキキーモラの見立てだ。呼吸の様子くらいでしかリリの体調を判断することができなかった礼慈とは信頼度が違う。これで心の底から安堵することができた。

(でもって、大取にはもう大体バレてるってことか……)

 これについては相手が悪いとしかいいようがない。
 鏡花ならこちらで結論が出る前に干渉してくるようなこともないだろうから変に警戒する必要もないだろう。
 内心で白旗を上げながらため息を付くと、鏡花がリリに言い聞かせていた。

「佳い出会いだったのですね。そして、良い時間を過ごしているのですね。幸せそうで――ええ。あやかりたいものです」
「まったくだ」

 分かっているのかいないのか、いまいち推し量れない顔で重々しく頷いた英は礼慈に耳打ちした。

「あの子、服とか髪とか汚れてるな。秘密基地行ったんならあそこは山の中だし洞窟だしで仕方ないけど、なんか服とか高そうだし、あの子が親に怒られなように気ぃ遣ってやれよ」

 言われた礼慈はため息をついた。

「あん? なんだよ」
「いや、スグに指摘されるまでそういう気遣いに思い至らないとは……と思ってなぁ」

 幼馴染の好意に十年以上気付かなかった男に言われると自信をなくす。

「なんだとお前、俺は紳士だぞ?」
「変態紳士か?」
「い、いや、そんなことねえし?! 愛だし?!」

 疑問形な辺り、友人にはなにかしら闇があるのかもしれないと思いつつ、礼慈はリリを早く家に帰すことに執着していたと反省する。
 体を破壊しかねない犯し方をしてしまったために早く安心できる所に彼女を帰して自分も安心したかったのだろう。
 だが、今はキキーモラのお墨付きをもらっている状態だ。

(となるとちょっと方針を変えた方がいいかもしれないな)

 ヤってしまったことはヤってしまったこと。過ぎた時間は取り返しはきかない。で、あるならば相応の面倒の見方や誠意の示し方というものがあるだろう。
 このまま直接リリを家に帰すのはやめだ。

(まあ、それも結局俺の保身のためでもあるんだけど)

 苦笑していると、リリが問うてきた。

「レイジお兄さま、どうかしましたか?」
「いや、もうこんなに遅くなったからな。その上リリは服とか随分汚れてる。こうなってくると俺がリリの家族に怒られそうだなーと思ってな」
「そんな、わたしがおねがいして遊んでもらったのに」
「まあ、年上の俺の方に責任があるさ」

 だから、とリリにお願いした。

「一度身なりを整えるために家に来ないか?」

 礼慈の発言に、リリは少し考える間を空けた。そして、確認するように言う。

「わたしが、レイジお兄さまのお家へ、ですか?」
「ああ、家に着くのは遅くなるし、疲れているところ勝手で悪いけど。もちろん、リリが行きたくないならそのまま直で送るし、ご家族にも俺から説明するが」
「い、いえ。レイジお兄さまともっといたいです。ので……あの、よろしくおねがいします!」

 リリの返答に、礼慈は内心で胸を撫で下ろした。
 これでリリの家族に対して事情を説明する時の文言を考える時間を稼ぐことができる。

「そっちの話もまとまったみたいだな」
「あ、スグすまん。ちょっとこっちの話に夢中になってた」
「いいよ別に。面白いもの見れたし」

 英はしみじみと言う。

「いや、女になど興味ない! みたいな顔してた礼慈にこんなかわいい相手ができるとはな」
「いや、俺たちは別に」
「別に……?」

 鏡花が問いかけてきて言葉が止まる。

(そうだな……俺たちは……)

 リリの抱える問題の解決に役立てられればと思って友達になることを了承したのが遥か昔のことのように思われる。
 もはやあの時とは、少なくとも礼慈からしたら二人の関係は別のものになっているだろう。

「――今は、自分たちを定義できるような関係じゃない」
「そうですか」
「今は、なんだろ?」
「……ああ」
 一連のやり取りをよく分からないといった表情で見ていたリリに礼慈は曖昧な笑みを見せるしかなかった。

18/09/22 20:58更新 / コン
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■作者メッセージ

その日の英と鏡花の食卓ではおもむろに赤飯が炊かれたのはまた別の話。

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