読切小説
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屍体愛好癖
 蒸し暑い。
 まだ夏本番までかなりあるというのに、むっとするような熱い空気が俺の全身を押し潰そうと迫ってくる。
 部屋の窓を開け放って出来るだけ風通しを良くしても、額や首筋からは粘っこい汗がダラダラ流れ落ち、服に染みこんでじっとりと全身にまとわりつく。食べ物も人間の気分もとにかく腐りやすい、嫌な季節である。
 しかし、太陽と大気のこの理不尽な仕打ちも、隣でぼーっと座っているミュルテには何らダメージを与えていないようだった。
 彼女の青褪めた首筋に手を当ててみると、ひんやりしていてとても気持ちがいい。外気温より10度は低いであろうその冷たさは、生きている人間のものでは当然有り得ない。
 生ける屍、黄泉帰り人、ウォーキングデッド、呼び方はいろいろあるが、このミュルテが一度人間として死に、俺の手でゾンビとして生まれ変わったのは間違いないのだ。
 死体であるゾンビに対して「生まれ変わった」というのも変かもしれないが、他に適当な言葉も見当たらないのだからしょうがない。
 それに、死体と言っても、見た目には全身の血色が悪い位で、肉が腐ってるとか骨が見えてるとかいうわけではない。実質的に、生きている人間とそう変わらないのだから、俺が恋人として愛するに何の支障もないのだ。
 そのミュルテが、ふとこちらを見つめてきた。物欲し気な顔で、黙ってこちらを凝視するその表情は、もう何度も眼にしている。

「……ヴィッレ」
「なんだ?」

 答えが大体分かっていても、つい聞き返してしまう。余り言われたくないことを言われそうだな、という俺の予感にも気づかず、彼女はただ俺に乞う。

「……ねえ、ヴィッレ。えっち、しよ」
「またかよ。お前はまだ復活したばっかりでいろいろ脆いんだから、あんまり運動とかしちゃいけないって、いつも言ってるだろ」
「でも、したい」
「それで、昨日も大変なことになっただろうが。もうしばらく安静にしてろ」
「やだ。我慢出来ない……それに、もし何かあっても、ヴィッレがまた直してくれるんでしょ?」
「いや、直すのは直すが、しかしな」

 俺の抗議も聞かず、ミュルテはがばりと起き上がり、暑さにうだった俺を押し倒したちまち制してしまった。死体とはいえ魔物、純粋な腕力でなら人間を大きく上回る彼女に、根っからの魔術師タイプで肉弾戦を不得意とする俺は全く抵抗出来ない。

「あーあ、やっぱりこうなるんだよなぁ」

 暑さ対策で薄着にしていたこともあり、俺は衣服をあっさりと剥ぎ取られてしまう。餓えたる恋人の方も、エンバーミングやメンテナンスの都合で普段から薄手の簡単な服しか着せていなかったことで、裸の男女一組、用意万端整ってしまった。

「……怒らないで。いっしょに気持ちよくなろ?」

 いつもの如く抗う意志を失い、手足の力を抜いた俺を、ふにゃっとした柔らかい微笑を浮かべたミュルテが見下ろす。上半身を隠していた薄布を脱ぎ捨て、生前と変わらぬ大きな双球をまろび出させ、上半身を倒す。
 暑苦しさに萎び気味だった俺の陰茎を、かつてほどのハリや瑞々しさは無いものの、より柔らかくしっとりした質感となったおっぱいで挟み込む。両手で乳房を支え、谷間に囚われた肉棒を思い切り乳で押しつぶすと、赤く漲った亀頭がぬるっとミュルテの目の前に顔を出した。

「……ほら、もう元気♪」
「まったく。あんま無理すんなよ」
「わかってる……♪」

 ちっとも分かってなさそうな顔で、爆乳死人は乳圧迫を強めた。ひんやり冷たいおっぱいが熱く滾る男性器に押し付けられる感覚は、いろんな意味で最高に気持ちよかった。
 更にミュルテは、手でおっぱいを抱えたまま上半身を使い、ふわふわの胸と固い胸骨による同時攻撃を加えてきた。汗をかいたわけでもないのに何処かしっとりとした乳肌は、やや摩擦係数が高めな、独特の感触でもって俺の敏感なところを擦り立てる。
 また、薄い皮と肉に覆われた胸骨柄や胸骨体は、ミュルテの絶妙な力加減によって強すぎず弱すぎない、丁度いい強さで俺の裏筋を責め、刺激してくる。親指で強く押されているような、有無を言わさぬ暴力的な性感が俺の脊髄を走り、肌を粟立たせる。
 上半身全体で行うダイナミックなパイズリは、どこか暴力的で被虐的で、抗いがたいものがあった。
 最初セックスを嫌がっていた俺が、パイズリ奉仕の鋭い快楽に震え硬直しているのを見て、ミュルテはずいぶん気を良くしたらしい。上半身の動きはそのままに、にへらぁと淫らに笑うと、左右の手を激しく交互に動かし、より強力な快楽を送り込んできた。
 突然、今までに倍する動きで肉茎を愛撫され、無意識に息を飲む。喘ぎ声のような音が喉から漏れて、感じていることを否応なく悟られてしまう。
 やっぱり魔物も、相手の感度が悪いよりは良いほうがやり甲斐があるのだろう、ずりずりと乳奉仕にはますます熱が入り、どんどん追い詰められる俺の鈴口からは透明な粘液が漏れ出始めるのだった。
 初夏の熱気と激しい性的興奮に、俺の発汗量はいや増した。アポクリン腺の豊富な股間付近はじっとりと濡れ、無慈悲に胸で擦り立てるミュルテの肌が竿にぴったりと張り付くような感覚をもたらす。おっぱいとちんこの間で、粘ついた汗とカウパー氏腺液が混ざって、にっちゃにちゃとひどく淫猥な音を立てると、奉死者は興奮と期待に息を荒げ、唇の端から涎なぞ垂らすのだった。
 左右の乳房が互い違いに動くことで生み出される極上の摩擦に俺が酔い痴れていると、どこからか布が裂けるような、硬いものが軋むような、ぎちぎちという妙な音が聞こえてきた。

「おい、なんだこの音。お前からじゃないのか」
「……?」
「なあ、ちょっと止めてみろよ」
「やだぁ……せーえき、搾るの……」
「いや、これもしかして……」

 夢中になったミュルテが乳奉仕を強めるほど、その音は確かに響いていく。なにか聞き覚えがあるような、それも最近ちょくちょくこんな音を聞いているような、と考え始めた瞬間。
 みちぃ、と一際大きな音を立てて、ミュルテの右腕が肘の所で外れた。

「!!」
「あ……とれ、ちゃった……」
「言わんこっちゃねえ! だから、無理するなってのに。……ったく、しょうがねえ……」
「……」

 肘関節から床に取れ落ちた右腕を、じっと見つめるレディゾンビー。さすがに反省したか、これを気に少しは大人しくなってくれるなら、修理の手間くらいなんでもないな、などと思っていると、ミュルテがパイズリ奉仕を再開した。

「おい、なにやってんだ! 早く腕を繋がないと……!」
「せーえき、ほしい……お願い、ヴィッレのざーめん、ちょーだい……?」

 下に転がった右前腕も気にせず、上腕部のみで、器用に右乳房を支え、無理矢理にパイズリを続行せんとする。あまりの痛々しさに、はねのけてでも行為を中断させようと思ったのだが、隻腕にもかかわらず先程までと何ら劣るところのない異常な快楽に、腰砕けとなってしまった。
 身体全体を右に傾け、男性器を両のおっぱいで挟む格好は変えず、左手に力を込めて押し付けるようにパイズる。
 挟むこと自体は可能だが、どうしても右側は支える力が弱く、左の手と乳で肉棒をホールドする形となった。変則的な形のため、男性器に与えられる刺激も不規則かつ予想のつかないものとなり、先程までの両手パイズリよりも、より抗いがたい魅力があった。
 未知の感覚に翻弄され、俺の忍耐はたちまちのうちに切り崩されていく。耐え切れぬとばかりに我慢汁を大量に分泌し始めた俺のものを見て、ミュルテがラストスパートを掛けた。

「ちょーだい……ちょーだい……せーえき、おっぱいに、出して……?」
「出る、出るぞっ……!」

 斜め気味に合わされた左右の乳たぶが滑り、乳首が裏筋に擦れた瞬間、俺は耐え切れなくなってしまっていた。
 どくんどくんと断続的に精液が噴出し、ミュルテの谷間を白く染めていく。左手しか使えない不便な状態でも、乳内射精を無駄にすまいと、双乳をぎゅっと押し付け、俺の精液を残らず胸元で受け止めようとしている。ザーメンを吹き出すたびに肉棒は跳ね、乳と乳との間から飛び出そうになり、そうはさせじとミュルテが左右の圧迫を強め、そのおっぱい摩擦にまたイかされてしまう。射精しても射精しても逃れられぬ、それはおっぱいの地獄だった。



 一頻り精液を絞って、ちょっと落ち着いた感じのミュルテの腕を、俺は繋いでやっていた。
 肉糸と人工腱、代用軟骨で腕の断面同士を接合し、屍術で肉や皮を修復。既に手慣れたもので、一時間と掛からず修復術式は完了した。
 とは言っても、一度傷ついたところが壊れやすいのは、ゾンビも物も同じだ。「ただ繋がっているだけ」に等しい状態ゆえ、丸一日はじっとしていてもらおうと思っていたのだが。

「ねえ、ヴィッレ。えっちしよ」
「……お前なあ」
「ごめんね、わがままばっかり言って……でも、たまらないの。ヴィッレが欲しくて欲しくて、死んじゃいそうなの」

 お前もう死んでるじゃねえかなんて、生き返らせた俺から言えるはずもなく。

「してやりたいのはやまやまなんだがなあ。せめて、お前の自然治癒力がもう少し高ければ……」
「ちゆりょく?」
「いや、ゾンビに言っても仕方ない話なんだが」

 いや。
 待てよ。
 俺は今まで「壊さない」ことを第一に考えてきたが。
 別に壊れても、いいのではないか。壊れる端から補修出来れば、それは壊れていないのと同じなのではないか。
 よし。これだ。

「ミュルテ! 行くぞ!」
「?」

 彼女の手を優しく取り、二人実験室へ向かった。

 屍体保存用の薬剤を大量に調合、濃縮し、処置室の大浴槽に貯める。薄緑色で少し粘ついた再生液は、傷つきかけたミュルテの身体を即座に修復・治療してくれる。
 死体再生薬の中で二人交われば、多少激しく動いても問題ないはずだ。
 全裸になって薬液に浸かった彼女は、静かに微笑んだ。

「……ん。いー感じ。 ヴィッレも、一緒に入ろ?」
「ふふ。分かってるさ」

 実験衣を脱ぎ捨て、ミュルテの待つ大浴槽へ脚を踏み入れた。別にセックスのために作ったわけではないが、人間二人が優に浸かれるくらい大きくこの浴槽を設計した過去の俺を、褒めてやりたくなった。
 欲しがりな彼女は、縁に手をついてこちらに背を向け、尻を付き出して見せる。小ぶりで形の良いお尻に、ライトグリーンの粘液がローションみたいにへばりついているのを見ると、俺ももう我慢がならなくなった。背後から覆いかぶさる体勢で、ギンギンになった肉槍を潤み切った陰唇にそっと当てる。粘膜同士が触れ合うそれだけの刺激で、餓えた女性器は淫らな蜜を漏らした。

「ああっ……」
「行くぞ」

 腰を両手で抱え、ぬめりにぬめった蜜壺へ俺の男根を埋めていく。敢えてゆっくり目に腰を進めてやると、薬液よりも濃くて粘っこい愛液がだらだら溢れ出してきた。処女のようにきつく、硬い肉筒の奥まで竿を届かせてやると、発情しきったミュルテが熱く喘ぎ始めた。

「ふう、ふ、う……やっぱりこれぇ……いい……えっち、さいこう……」

 虚ろな目で俺という男に耽る恋人を見ていると、もうたまらなくなる。腰を抱え直し、欲望のままに猛然と抽送を始めた。
 死肉であるはずの彼女の膣は、魔物の性か男の精に渇いて、生者よりも熱烈に男性器を歓迎する。精液を最もよく受け止める女性器が特に活き活きとして新鮮な感じなのは、ゾンビという種族への魔王の恩恵なのだろうか。
 後ろから激しく突かれ、性交の快楽に酔うミュルテは、普段のぼーっとした様子よりもずっと活力に溢れている。彼女のことを思うならば、もっと積極的にセックスして、精を注ぎまくってやったほうが、魔物の身体のためにも良いのだろうかとも思った。
 まあ、ミュルテは、ゾンビと言っても名ばかりで、身体が腐ってるわけでも欠損しているわけでもない。近頃のゾンビは、男の精液を受けて妊娠まで出来るというのだから、俺の持つ古い常識に新世代たる彼女らを無理に当てはめてやるのも可哀想なことだ。かつて動く死体と呼ばれていた者たちに似た、全く別の種族として見てやるべきかもしれない。その場合、俺が学んできた屍術、ネクロマンシーとは一体なんだったのかということになるが。
 と、そんなことを考えている余裕もないほど、ミュルテのマンコが気持ちよくなってきた。
 腰を引くごとに、膣襞は名残惜しげにカリ首に引っかかる。そこから逆に突き込んでやると、靭やかで伸縮性に富んだ肉穴が竿を限界まで引きこもうとし、子宮口近くまで亀頭が入る。
 膣内射精を願って陰茎を離したがらないエロイ膣から無理矢理茎を引き抜こうとすると、細かく硬い襞が先端の粘膜に擦れて背筋がぞくぞくする。
 こりゃあ、また出しちまうのも近いかな、と思っていると、いうままで一心に快楽を貪っていたミュルテが不意に悲しげな表情を浮かべた。

「……あン、ふ、はあ、ごめん、ね、ヴィッレ……わたし、こんなで、めいわくばっかり……」
「いきなり何言ってんだよ。お前が俺と一緒にいてくれるんなら、俺は他に何にも要らねえよ。何のために俺が屍術師になったと思ってるんだ」
「でも、ヴィッレ、いつも困ってる……」
「そりゃあ、実際に人間を蘇らせたのは、お前が初めてだからな。何もかも手探りさ。本で読むようには、いかん」
「……」
「いろいろきついことも言ったが……押し付けがましいかもしれんが、あれもお前を思ってのことだよ。な、だから、迷惑とか、言うんじゃねえ」
「ヴィッレ……」

 申し訳なさ気な彼女の様子に、情欲と比例して愛情が、愛おしさが爆発的に俺の中に広がった。
 そうだ。俺の下で喘いでいる彼女は、俺が自然の摂理を曲げて、神の教えに背を向けて、一人外道を歩んででも別れたくなかった彼女だ。そんな彼女に、折角黄泉の国から呼び戻したと言うのに、悲しい顔などさせるわけにはいかん。
 俺は更に腰を激しく振り、ガンガンと剛直を突き入れた。奥の敏感な所を荒々しく蹂躙され、淫乱死人は苦鳴を上げた。

「な、なんで、いきなり……」
「迷惑とか、余計なこと考えるなよ。愛してる、ミュルテ。だから、好きなだけ俺で気持ちよくなってくれ。イきたければなんどでもイかせてやるから、ずっと俺と一緒にいてくれ……」
「……!!」

 物も言えず、感極まった風のミュルテの背中を右手でぐっと抑え、身動きを封じてピストン運動のラストスパート。男性器の根元まで何度も何度も突っ込まれ、感じ易い魔物娘は涎すら垂らし始めた。

「イイ、いい、ヴぃっれの、ちんぽ、いいっ!! なかに、せーえきなかに、だしてぇ……」
「ああ、出すぞっ……!」

 ぬちゃぬちゃいって中出しを希うエロ膣の感触に、俺も我慢の限界だった。二人同時に絶頂すべく、腰のペースを早め女陰の最奥部まで犯してやる。ミュルテの喘ぎ声が甲高く、短い断続的なものになってきたのを察した俺は、フィニッシュに向けて渾身の力を込めた。

「もう、もうイくぞっ!」
「だして、なかにぃ……なかにだしてぇ!」

 言われるまでもなく、中出ししなければもう収まりがつかない。最後に一際強く、深くまで陰茎を挿入すると、エクスタシーに至った膣壁が一瞬強く痙攣し、それが止めとなった。

「!!」
「ん! ……ん、は、ぁ……出て、る……こんな、いっぱい……」

 子宮の奥へ、ありったけのザーメン汁を注ぎこむ。男の精に狂う生殖器は、待ち望んできた甘露を歓び、味わい耽る。狭い膣道に収まりきらない子種汁が逆流し、膣口から腿へ垂れて浴槽の修復液を白く汚す様が淫靡だった。
 念願の膣内射精に、ミュルテはただ震え、静かに歓喜しているようだった。
 その肉体は、やはり新時代のゾンビらしく、精によって潤い活気を増したように思える。浴槽の薬剤もあるだろうが、やはり彼女にいつまでも元気に、若々しくいてもらいたければ、もっと精液を胎内に注いでやらねばならんということか。 
 淫乱な彼女は、どうせ一回や二回では満たされない。ならば、その求めに応えるのが、彼女を蘇生したネクロマンサーとしての勤めだろう。男根を奮い立たせ、放心する彼女をもっと悦ばせるべく、俺はまたミュルテを犯し始めるのだった。
11/06/12 12:27更新 / ナシ・アジフ

■作者メッセージ
隻腕パイズリがやりたかった。
某魔法少女の影響で、ゾンビというワードへの関心が急上昇した、というのもあります。

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