読切小説
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ヤマナシ、オチナシ、イミナシ。
「おまえって結局、どっちと付き合ってるわけ?」
昼休みの教室。
同じ机で弁当をつつく友人にそんな事を訊ねられた。

付き合う? なんのことだ?
友人の質問の意味が分からず、聞き返す自分。
「俺にはとぼけなくたっていいって。サキさんとバスちゃん。少し前から急に仲良くなったじゃないか」
友人はそう言って教室の窓際を箸で指し示す。
それに釣られて自分も顔を向けると、その光景が目に入る。

カーテン越しの柔らかい光に照られて、互いの弁当をつつき合いしている二人のクラスメイト。
一人は背が低く、中学生のように見えるバスという女子。
もう一人は年相応の背丈をしたサキという女子。
どちらも談笑しながら食事をしているだけで絵になるほどの美人だ。

自分のちらりとした視線に気づいたのか、バスがにっこり笑って手を振った。
そしてサキも微笑みを向けてくる。

「ほらな。親しくもない奴にどうしてあんな顔見せるってんだ。
 で、どっちと付き合ってんの? 俺だけでいいから教えてくれよ」
友人の頭の中では自分がどちらかと付き合っているのは、もう確定事項らしい。
だが実際は恋人と呼べるような関係じゃない。

別に付き合ってなんかいないって。
最近とある事情で親しくはなったけどさ。
流石にただのクラスメイトだとは言えないので、何かあったということは認める。

「あれ、そうなのか? 俺はてっきり付き合ってるものかと……」
付き合ってる、ね。
爛れまくった関係だから恋人とは呼べないよなあ……。





今週当番となっている掃除を終え、自分は特別教室棟へ向かう。
階段を上ったあと、年期が入って色あせた木製タイルの上を歩いて目的の部屋へ無事到着。

特別棟四階廊下の一番奥。
第二資料室とプレートがかかっている小さな部屋。
一応周囲をうかがってからコンコンとノックをする。
すると一秒もたたずにその扉が内側から開かれ、バスが顔を出した。

「いらっしゃーい。待ってたよー」
うひひと笑い、ちょいちょいと手招きするバス。
お招きにあずかり部屋の中へ入ると、もう慣れた風景が目に映る。
左右両方の壁に並んだ書類棚と青い空が見えるハメ殺しの窓。
古臭さを感じさせるそれらと対照的に、新しいマットレスが木の床の上に敷かれている。
そのマットレスの上に座り込んでいるのはもう一人の見知ったクラスメイト。

「いらっしゃい、ナナシノくん」
穏やかな笑顔とともに声をかけてくるのはサキ。
彼女はバスの親友で“同属”だ。

自分が部屋に入りバスが扉を閉じるのを確認すると、
サキはマットレスから立ち上がり、ついっ…と指を振る。
すると、校庭から聞こえていた野球部の掛け声や吹奏楽部の演奏が完全に途絶えた。
まるでこの部屋だけが深夜の学校になったかのような無音。

「はい、防音したわよバス」
この場に他の誰かがいれば、指一本で静寂を作りだしたサキを魔法使いとでも思ったかもしれないがそれは違う。
確かに音を遮断したのは魔法だが、彼女は魔法使いなどというシロモノではない。
もっと根本的に違う存在だ。

「ありがとねー、サキ。さーて、んじゃさっそくヤろうじゃないムメイ」
自分の背後、扉側にいるバスが自分を名前で呼んでくる。
人目がある所だと彼女も“ナナシノくん”と苗字で呼ぶのだが、3人だけになると名前で呼ぶのだ。
そういうのは(3人だけど)2人だけの秘密の関係みたいでなんかムズムズする。
いや、実際他人には秘密なんだけどさ。

「じゃあ……脱ぐわね、ナナシノくん」
窓側にいるサキがスカートに手をかける。
パチッと音がして留め金が外れ、スルリと床に落ちた。
丸見えになった彼女の下着は白。

次に手をかけたのはブレザーのボタン。
1個、2個とボタンを外した後、袖から腕を抜く。
その下に着ているのは学校指定の白いYシャツ。
かなり大きい胸が合成繊維の布を下から持ち上げている。

そしてプチプチプチと上からシャツのボタンを外していくサキ。
前がはだけ、薄青のブラが目に入る。
ボタンを外し終えシャツも脱ぎ、下着姿になったところでサキは一旦動きを止めた。
そしてんーっ…と伸びをする。

するとバサリッと腰の後ろから黒い翼が伸び、同じ色の尾が下着の穴からにょろりと飛び出す。
こめかみからも硬そうな角が2本セットで伸びてきた。
人外の本性を露わにしたところで、サキはふぅ…と息をつく。

「やっぱり、化けてると翼が窮屈よね……」
一対ずつある角と翼、さらに尻から伸びた尻尾。
彼女たちは魔物…それもサキュバスと呼ばれる類の存在だ。

二人と初めて出会ったとき(ラブレターで呼び出されて襲われた)はそりゃあ驚いたが、
あいにくと自分は小さい頃から無数のフィクションに囲まれて育った現代日本人。
人間への害意がないと分かってしまえば、わざわざ存在を暴き立てようなんて気は起きなかった。
それに二人ともサキュバスなわけで、その、なんというか…………自分は骨抜きにされてしまったのだ。

「なーに焦らしてんのよサキ。さっさと脱いじゃえばいいじゃん」
見せつけるようにゆっくり脱いでいたサキを揶揄するように、自分の肩越しにバスが言う。
振り向いてみると彼女は制服を全て脱ぎ捨ててとっくに裸だった。
角や翼はサキと同じ。だがその体つきは全く違う。

低い身長に見合うような薄い胸と小さい尻。
陰毛も薄く女性器がよく見える。
やや幼いとはいえ、至近距離にいる裸の女性に自分のモノは反応してしまう。

「バスは風情がなさすぎよ。だんだん盛り上げて行くのも技術なんだから」
また窓の方を向くと、サキは背中に手を回してブラジャーを外していた。
彼女が背のホックを外すと、布に抑えつけられていた大きい胸が解放されふるりと揺れる。
そして胸を強調するようにわざとらしく前屈みになって最後の一枚に手をかけた。
スルリ、と布を降ろすとバスよりは濃い茂みが見え、その下に少し隠れた穴が下着との間に透明な糸を引く。
最後に片方ずつ足を抜いてサキも裸。
年頃の女の子らしい体に自分は完全に勃起し、みっともなくテントを張ってしまった。
そしてみっともない物を眺めながらサキが言う。

「ナナシノくん。私たちで欲情してくれるのは嬉しいんだけど……するなら貴方も、ね」
そういえば二人の体にすっかり見惚れて自分は何もしてなかった。
ちょっと待って、すぐ脱ぐから……と伝え、いそいそと自分も服を脱ぐ。
ちなみに自分が脱いでいる間、サキとバスはじゃんけんをしていた。


男である自分も最初の頃は肌をさらすのが恥ずかしかったが、もう慣れた。
今日はどちらとするんだろう? 
そう考えながら最後の一枚を脱いだところで、バスの喜ぶ声が耳に入った。

「やったー! 今日はわたしが先ー!」
グッと拳を握って笑うバス。
正直ただ自分とセックスするだけのことでここまで喜んでくれると、男としてなんか嬉しい。

「負けちゃった……。パーを出しておけばよかったな…」
そしてバスとは逆にガックリと肩を落とすサキ。
どうせすぐ交代するんだから、そんな落ちこまなくても…と自分は思う。
でも、それだけ自分を好きでいてくれるという証明なんだからこれはこれで嬉しい。
まあ、とにかく今日はバスが先ということで決まった。

じゃあ、どうやろうか?
どんな風にする? とバスに訊く自分。

「んー、今日はわたしが上になろっかな。ムメイはそれでいい?」
自分はべつに嫌でもないので頷き、マットレスの上に仰向けに寝る。
そして膝立ちで跨るバス。彼女は入れやすいようにと片手で自らの穴を広げる。
すると綺麗なピンク色をした肉洞から、体液がしたたり男性器を濡らす。
「うんうん、ムメイのちんぽは今日も元気だね。じゃ“食べちゃう”ね」
バスは空いているもう片方の手で男性器をつかみ、穴に添え―――腰を下ろした。

ずぶりとバスの膣に侵入する自分のモノ。
肉のビラビラが先端から絡んでいき、熱い粘膜が刺激してくる。
いままではこの瞬間に射精してしまうこともあったのだが、最近はそうでもない。
「あはっ…ずいぶん、我慢強くなったじゃん……!」
からかうような笑みを浮かべるバス。
そりゃあ、しょっちゅうセックスしてれば少しは慣れるって。
「暴発しないのは良い傾向だねっ……! なら、もっと…奥まで…、あ、硬い……」
バスは腰を深く下ろしていき、さらに異物を受け入れる。
そして粘液にぬめる肉が根元まで男性器を飲み込んだところでストップ。
「んふっ…あなたのちんぽ、わたしの中に全部入っちゃった……」
少し蕩けた微笑を浮かべるとバスは顔を寄せて、ちゅっと口づけをしてきた。
「じゃあ…今度は抜くからね。簡単に漏らさないでよ?」
いや、それは厳しいから。
暴発はしないけど、耐久力が上がったわけでは……。
「もー、褒めてあげたらそれ? ま、出来るだけ頑張ってよ」
入れるときと違い一気に腰を上げたバス。
男性器全体が膣肉と擦れて鋭い快感を生み出す。
そして半ばまで抜いたところでもう一度降下。
一番敏感な先端は彼女の中に捕えられたまま、柔らかい肉に嬲られ続ける。
こんなのに耐えられるかっての。
でもまあ、頑張って少しばかりは動いてみる。

互いに申し合わせずにする上下運動。
それを繰り返すうちにバスの感じる快感もだんだん強くなってきたのか、腰の動きが早くなる。
バツンバツンと結合部がぶつかり合い、音と液体をまき散らす。
薄い胸が微かに震え、にじみ出た汗が白い肌をつたう。
マットレスに寝転がって下から見るその姿は、性的なものを除いても美しい。
そんな美しいものと交われる自分がとても幸福に思える。
そしてその幸福感とともにこみ上がる射精感。

「あ…出しちゃう? もうイっちゃいそう?」
自分はコクコクと頷いて肯定する。
もう出そう、限界だよ。
「ん、じゃあいいよ。ちょっと早いけど…わたしも、そろそろ……っ!」
バスが下腹にギュッと力を込めて弓なりにのけぞる。
次の瞬間、膣内のひだが一斉にうねった。
ひだの一つ一つが柔らかい歯のように、男性器をくちゅくちゅと咀嚼する。
自分のモノは彼女の女性器に“食べられて”ビクビクと脈動しながら、
白濁液を彼女の体内へまき散らす。

「あははっ! ムメイの精液、わたしの中に出てるよっ! すっごい濃いっ!」
そりゃあ、その日一発目なら濃いのは当然だよ。
「うわ、まんこの中ネバネバだらけだっ! どーしよ、これ孕んじゃうかもっ…!?」
どうしようと言いつつも、バスの表情は快感と喜びに満ちている。
妊娠を恐れるどころか、それを望み期待しているのは明らかだ。
生物のオスとしてこれ以上光栄な言葉があるだろうか?

そう考えるとバスが急に可愛く思えて、自分は跨っているバスを抱き寄せた。
「あっ! ちょっ、ん―――」
引き倒されたバスは文句を言おうとするが、そうはさせない。
手で頭を押さえて深く口づけし、言葉を封じる。
それでこちらの意思が伝わったのか、バスは首に手を回して抱きついてきた。
薄い胸が自分の胸板に密着し、微かに柔らかさを感じさせる。
接触している唇の向こう側から舌が伸ばされ、こちらの口の中に入ってくる。
それに応え、自分も舌を伸ばしバスと二人でからめ合う。
「まったく…いきなり、なんてっ……。んむっ…ホントにもう――大好きだよ…ムメイ……」
最後に優しく囁いたバスの言葉。
その言葉に再び性欲が燃え上がり―――。

「ねえ、もう代わってもらえないかしら」
横から飛んできた声に水入りさせられた。


自分とバス、二人揃って声の発生源を向く。
その先にあるのは、壁際に寄り掛かって不満そうに尻尾を横に振っているサキの姿。
いままでのまぐわいを見ていたせいで欲情したのか、その足元には透明な水溜まりができていた。

「……次は2連続でやっていいから、もう一回わたしに譲ってくんない?」
ダメ元といった感じで、2回戦をやらせてくれと頼むバス。
「ダメに決まってるでしょう。私だってナナシノくんと早くセックスしたいの」
だよねー、とバスは一人ごち立ち上がる。
すると繋がったままだった自分のモノが抜け、ぼたぼたと精液が零れ落ちた。
「おっと、勿体ない……」
バスは股間に手を当て、零れる精液をすくう。
そして口元まで持ち上げるとそれを飲み込み、手のひらを舌で舐めた。

ヤバイ、エロ可愛い……。
ついバスに見とれてしまう自分。

「ナナシノくーん、次は私だってばあ……」
あ、ごめんごめん。
自分も立ち上がって、サキを手招きする。
今度はサキの番だな。サキはどうしたい?

「ん。そうね、私は普通でいいかな」
そう言ってサキはさまざまな液体で濡れたマットレス(防水素材)に横たわった。
そして膝を立てると大きく開いて見せる。
「じゃあ、来て。ナナシノくん……」
サキは自分を迎え入れるように手を広げ誘う。
自分はそれにのしかかり、彼女の中に挿入する。
「ん……! ナナシノくんが、入ってくる……っ!」
サキの中はバスほど狭くはない。
加えて一度射精しているので、暴発することはなかった。

だがそれは、彼女がバスに劣るということではない。
いうなれば性質の違いだ。
バスの膣を口とするなら、サキの膣は内臓。
中に入った物を溶かしてしまおうと、蠕動して液体とともにこねくり回すのだ。

「あはっ…、貴方のちんぽが私の中を進んでるよ…。気持ち良い? ナナシノくん?」
当然だと自分は頷く。これが快感でなくてなんだと言うのか。
「うふふ、私で気持ち良くなってくれるのってやっぱり嬉しいな……」
そう言って優しく微笑みかけてくるサキ。
バスの元気な笑顔と違い、柔らかいような、温かいような感覚が自分の中に広がる。
なんとなく、目の前にある大きい胸が気になってそれに片手を伸ばした。

バスとは異なり、大きくて弄りがいのある胸。
均一の柔らかさなのに、ピンと尖った乳首だけが硬い。
押し潰してみたり、握りしめてみたりと好き勝手に歪ませ変形させる。
「もう、そんなにいじっちゃって……。私のおっぱいがそこまで好きなの?」
いや、バスの胸じゃこんなこと出来ないから……。
もしかして嫌? だったら止めるけど。 

「そんなことないわよ。私は貴方のしてくれることなら、なんでも好きだもの。
 だから……私の“ココ”から、ミルク出るようにしてくれてもいいのよ?」
サキはそう言い、空いている方の胸を自分の手で握りしめる。
「ナナシノくんは気後れするけど、男の子なんだから女の子を孕ませたいって思うのは自然なことよ。
 貴方は子供を作ったらイケナイって、洗脳されているだけ」
若者への性教育に真っ向から喧嘩を売るような言葉。
「私はいつもナナシノくんの子供を産みたいって思っているわ。
 ねえ、正直になりましょう? 私に種付けしてお腹膨らませたいわよね?」
先ほどのバスは“できるかも”程度だったが、サキははっきり“子供が欲しい”とねだってくる。
無責任だが自分は“できたらその時”なので、積極的に子供が欲しいとは思わない。
しかし彼女に言われると、自分の種でその体を変化させてやりたいとも思ってしまう……。

「面倒なことは考えなくていいのよ」
背中に両腕を回してしがみ付いてくるサキ。
その両胸が押し付けられ、ぶにゃりと潰れる。
「本能に従えばいいの。私たちはいま交尾中なんだから…」
無意識に力がこもっているのか、サキの中が凄い圧力で締め付けてくる。
その密着具合は、互いの性器を癒着させて一つにしようとするかのようだ。
男性器を抜こうとすると、表皮を剥がされて持っていかれるんじゃないかとさえ思う。
それでいて快感しか与えないのだから、本当に人外の魔物だ。
「……どうかな、ナナシノくん。私を孕ませたくなった?」
自分はもう頭を縦に振るしかない。
「んふっ、嬉しい…。それじゃあ、貴方の精液でしっかり妊娠させてね。
 そうしたら、ちゃんと産んであげるからっ……!」
サキが力を抜き、押しつぶされそうなほどの圧力は消える。
が、一息つくような余裕はない。
じわじわと射精管の中をゆっくり進んでいた精液が、一気に速度をあげて放出されたからだ。

「あ、来たっ! ナナシノくんの精液っ…!」
自分が射精を始めるとサキはカニばさみのように、こちらの腰に足を絡めてきた。
「もっと…もっと、奥に注いでっ…! 貴方の精子で私をお母さんにしてっ……!」
サキは放たれた精子を少しでも胎内へ送り込もうと、両手足でしがみ付きグイグイ腰を押し付けてくる。
そして自分も強すぎる快感で思考力が落ち、抱いているメスをただ孕ませようと、肉穴の奥へ精液を押し込んだ。

お互い絶頂に達して落ち着いた後。
「ごめんなさい、ナナシノくん。乱暴にして……」
荒っぽくしちゃったね、とサキが謝った。
彼女はバスに比べると物静かなのだが、一度スイッチが入るとものすごく乱れる。
そして冷静になったあと“やっちゃった…”と反省するのだ。

「今回もヒドかったねー、サキ。わたしだってあそこまで言ったことないのに」
窓際に寄り掛かって眺めていたバスが、イヤミっぽく声をかける。
「う……。で、でも、バスも似たような事考えているでしょう?」
「まあねー。じゃ、代わってよ。今度はわたしがムメイに“お母さん”にしてもらうんだから」
ニヤニヤと笑みを浮かべてバスはそう言った。



サキとバスは特別棟の一室を不法占拠して使っているが、そこで生活しているわけではない。
部活をしている生徒が帰る時刻になるとちゃんと下校する。
本日も散々交わった後タオルで身を拭い、三人そろって第二資料室の扉から廊下へ出た。

以前、出入りのとき第三者に見られたら厄介な事になるんじゃないかと訊ねたことがあるが、
人払いの魔法が廊下の一部にまでかかっているそうで、まずばれないらしい。

「第二資料室なんて“そんなのあったっけ?”なんて言われるような部屋なんだよ?
 元から意識されてない場所なんだから、人払いされてればもう誰も気付かないって」
そうバスは説明してくれたが、自分はやはり出入りする時に人目を気にしてしまう。

陽の傾いた廊下を歩き、階段で1階まで降りて下駄箱へ。
二人がどこに住んでいるのかは知らないが、道は逆方向なので校門を出るとすぐさよならだ。
「じゃあ、また明日ね。ナナシノくん」
「バイバーイ、ナナシノくん」
二人して手を振って自分に別れを告げる。
たまたま同じタイミングで下校する生徒がいたので、バスも“ナナシノくん”だ。
自分も二人に手を振り、背を向けて歩きだした。


一番星が見える暮れた空。
アスファルトの上を一人で歩きながら帰る道。
少し冷えた風が吹くと、ふと寂しさがこみ上げた。

サキとバスの二人に出会って以来、自分はかなり幸せな生活をしている。
恋人と呼ぶのはためらわれるが、二人とも本当に自分を好きでいてくれのが分かる。
そして自分も二人が…………まあ、好きだ。
だが、こんな日々はいつまでも続かない。いずれ自分たちは卒業して学校を去る。
そうなればこのままの関係ではいられない。

もちろん卒業した後も会って話したり、セックスしたりはできるだろう。
だが、働くにしろ進学するにしろ、彼女らと一緒に過ごす時間はぐっと減る。
今のようにいつでも姿が見えて、簡単に話しかけられるということはなくなるのだ。

卒業しても付き合っている恋人たちからすれば“そんなのは当然だ”と言うだろう。
だけど自分は……。

はぁ、とため息を吐く。
仲の良い相手と離れたくない、ずっと一緒にいたい。
それこそ子供みたいな甘っちょろい考えだよなあ、と自嘲した。





修学旅行の時期というのは学校によってまちまちらしい。
初夏の京都に行くところもあれば、真冬に北海道へ行くところもあるんだとか。
うちの学校は珍しく一年次の年明けにある。

修学旅行といえば、数人で班を作って行動するのがお約束。
寝室も数班で一部屋といった形でとるものだ。
そして他所の部屋から仲の良い奴がやってきて、まくら投げしたり、ゲームしたりというのは当たり前。
これについてはよっぽど騒がない限り、教師たちも黙認してくれる。

だが異性の部屋へ行くことは固く禁じられている。
修学旅行の開放的な雰囲気に浮かれ、つい過ちを…なんてことになったら大問題だから。
でも、例外はやっぱり存在するわけで……。

修学旅行最終日の夜。
誰も彼もテンションが高く“これでやり納めだー!”と、どこの部屋でもまくら投げが行われていた。
それがあまりに酷かったので、自分はもう廊下に避難した。
バタンバタンと部屋の外まで響くまくら投げの音。
それを聞き流しながら、何をするでもなく窓の外を眺めていた。

すると。

「こんばんはー、ムメイ」
いつの間にか傍に現れた浴衣姿のバス。
女子の部屋は結構下の階なのでエレベーターで上がってきたのだろうか。

一体どうしたんだ?
男子の部屋に近づいたのが見つかったら引率者部屋でお説教だぞ。
「露天風呂に入んない? ギュウギュウ詰めの大浴場であんま汗流せなかったっしょ?」

自分たちの泊まっている部屋には個別の風呂が備わっていない。
元から団体客向けの部屋なので、大浴場を使うのが前提なのだ。
しかし、大浴場といってもその容量には限りがある。
なので細かく時間を決めてローテーションを組み、生徒たちは急ぐように入浴する。
きれいに体を洗っていたら温まらず、温めようとするならあまり体は洗えない。
もう少しどうにかならないのかと言いたくなる時間割りだった。
なお、教師たちは風呂付の少人数向けの部屋をとっているので、わざわざ大浴場には来ない。

露天風呂は生徒には使用禁止ってしおりにあったけど?
それにもうこんな時間だから閉まってるって。
「わたしたちにそれ言う? “わたしたち”にさ」
バスは意味ありげに笑みを深める。
……ああ、なるほど。お誘いなわけね。

わかった。あまり体を洗えなかったから入りに行くよ。
「そうこなくっちゃ。露天風呂は1階の西だかんねー」
場所を伝えるとバスはさっさとエレベーターに乗り込み姿を消した。

一度は風呂入ったんだし、着替えはいらないか。
そう考えタオルを大小2枚用意して、上がってきたエレベーターに乗り込む。

チン、と音を鳴らして到着した一階。
言われたとおりに西へ向かうと『閉』の立て札が置かれた入口が目に入る。
……男女に分かれていないのか。
どうもこの旅館の露天風呂は混浴だったらしい。
そりゃあ生徒には使わせないはずだ。

『閉』と書かれた立て札を無視してのれんをくぐり、脱衣所へ。
明りは点いていないが、廊下から入る光でだいたい見える。
浴衣とパンツを脱いで脱衣かごに放り込むと、タオル片手に扉へ近づく。
カラカラとガラス戸を開いて真っ先に目に入ったのは二つの肌色。
サキとバスの二人組だ。

「こんばんは、ナナシノくん」
「いらっしゃーい、ムメイ」
こんばんは二人とも。

湯船のへりに腰かけて話していた二人が振り向く。
二人はタオルで体を隠したりなんてしないので、その全てが見える。
大小2サイズの胸。横に広がる翼。そしてポッコリと膨らんだ腹。
まだ初期の段階だが二人とも妊娠している。
当然父親は自分だ。

正直、孕んだことで性欲が少しは衰えるんじゃないかと思ったのだが、
逆に腹の子に栄養をよこせと言って、二人はより性欲旺盛になった。
でも、修学旅行の真っ最中でも求めてくるとは思わなかったな。

まあ、それはともかくまずは体を洗おう。
不特定多数の人間が使う場所で、体を洗わずに湯船につかるのはマナー違反だ。
洗い場に添え付けてあるイスに腰かけ、シャワーを手に取り、バルブを回す。
サァッ…と熱い湯が、大浴場でいまいち洗えなかった肌の上を流れる。

ふぅ………気持ちいい。
目を閉じながら湯に打たれる自分。

修学旅行の間、騒ぐクラスメイト達のおかげで夜はあまり眠れなかった。
そして昼は昼で車に乗っている間に少しうたた寝しただけだ。
その修学旅行も最終日。
目を閉じていると溜まりに溜まった疲れが、湯に溶かされるように流れ落ち―――。

「こらー! 寝ないでよムメイ!」
いきなり背後から抱きついてきたバス。
その衝撃と背に当たる微かな柔らかさで、眠りに落ちかけていた脳が覚醒した。

ああ……、悪い。どうも旅行の疲れが溜まっているみたいでさ。
すぐ後ろのバスに謝る。

「ナナシノくんはお疲れ? でも、私たちとセックスすればすぐ目は覚めるわよ?」
サキもやってきて、膝をついてしゃがむ。
「そーそー、だからぁ……わたしにハメちゃってよ」
露天風呂一面に敷かれたモザイク模様の床。
バスは背中から離れるとそこに手と膝をつき、四つん這いになる。
相変わらず綺麗な穴から粘液がしたたり、床の水と混ざり合った。

「ほら、来て……」
尻尾をフリフリと揺らして誘うバス。
眠気は完全に吹き飛び、自分は付き出された尻を掴んで彼女の中へ侵入する。
妊娠しても彼女の具合の良さは変わらない。
「あー…やっぱりムメイのちんぽ良いわぁ……。もうこれ無しじゃ生きてけないよ…」
ずいぶん大げさなだな。
自分がいなくなっても、代わりなら簡単に見つかるだろ?
あまり考えたくはないが、彼女たちの美貌なら自分がいなくなってもすぐ次の男が捕まえられるだろう。

「そんなことないよ! あなたの代わりなんていないんだからね!?
 もし死んだりしたら私も後追うよ!?」
いきなりグルリと振り向いて怒声を放つバス。
突然すぎて自分の身がビクッ! と跳ねた。
「気軽にいなくなるとか言わないでよね!
 わたしのまんこはもうあなたしか受け付けないんだからっ!」

「そうよ、ナナシノくん。私たちはもう貴方無しではやっていけないんだから」
いつの間に回っていたのか、後ろからサキが抱きついてきた。
柔らかい二つの物が背中に当たる。
これは彼女の乳房なんだろうが、妙にツルツルしてすべる。

……何してるんだサキ?
「貴方の背中を洗ってるの。私のおっぱいでね。ちゃんと石鹸つけてるからキレイよ?」
いや、洗うなら普通にタオルでも……。
「こうすれば洗いながら気持ち良くなれるでしょう?
 本当は前を洗いたいけどバスがいるから……」
サキは残念そうに言い、胸だけでなく腹まで押し付けてくる。
そして抱きついたまま、ゆっくりと動き始めた。

前には四つん這いになったバス。
後には泡だらけで抱きついてくるサキ。
なんなんだかこの状況。

「……ちょっと、動いてくんないの?」
あ、ごめん。ちゃんとするよ。
サキに気をとられて挿入したままのバスを放置していた。
なので先ほどの怒りへ謝罪するように自分は動く。
「もう……あんなコト、言わないでよっ……!」
わかったよ。自分も他の男に渡すなんて考えたくないし。
「当たり前よっ! なんでわたしがあなた以外の男とっ……!」
プンプンという擬音語ピッタリにバスは怒る。
「悪いと思うなら、ちゃんと気持ち良くしてよねっ…!」
はい、努力します。

「頑張ってね、ナナシノくん」
くすりと笑い、サキはスリスリと背中を擦る。
彼女が後ろにいるおかげで少し動き辛いが、やることはやれる。
いつもより狭い間隔で腰を動かし、自分のモノでバスの膣内を引っかき回す。
バスの嬌声。液体のはねる音。腰同士の衝突音。
それらが月の光る夜空へ逃げていく。

「んっ…少しは、良くなってきたじゃない…!」
バスも快感を感じ始めたことで、機嫌が良くなってきたようだ。
「あなたはっ…わたしと、サキのものなんだからねっ…! それを忘れないでよっ……!」
とっても可愛い所有宣言。自分が愛されてるって感じる。
「それと、私とバスもナナシノくんのものだから。これも覚えておいてね?」
耳元でささやくサキ。心地良いくすぐったさ。
自分の中で性欲と愛しさが混じり合い、それが精液へと変わるような感覚を覚える。
あとはその思いを繋がっている女にぶつけるだけだ。

どうだバス? もうイきそう?
「うん、わたしも…イきそうっ…!」
以前の自分は暴発することがあったし、快感の強さに動きがおざなりになることも多々あった。
しかし今では耐久力がずいぶんと上がり、相手が達するまではなんとか耐えられる。
まあ耐えられるだけなので、凄く出したいんだけど。

「あっ…来てっ……! あなた専用のまんこにっ、出してぇ…っ!」
腰を前に突き出し深く差し入れる自分。
そして膣の奥、子宮口に先端を押し付けて射精する。
「はぁ……っ、奥に、かかってるよっ…。赤ちゃん、喜んでるっ…!」
人間なら流産の危険性があり、あまり奥まで入れることはできない。
しかし魔物にはそんな危険性がないのか、彼女はまだ安定期にもなってない体で快感に浸る。

射精が収まって自分のモノを抜くと、白い精液が零れ落ちて、モザイク柄のタイルを汚す。
……これ後で流さないとだよなあ。
旅の恥はかき捨てという言葉もあるが、流石にまぐわった跡を残して帰りたくはない。
でもまあ、洗い流すのは最後でいいだろう。今度はサキの相手をしなくちゃなんだから。

サキに腕を解いてもらって、後ろへ体を向ける。
すると細かい泡で要所要所が隠された姿が目に映った。
「うふふ、今度は私の番ね。背中はもうしたから、今度は前を洗ってあげるわ」
そう言って泡まみれの体でギュッと抱きついてくるサキ。
それに対し自分も強く抱き返して、唇を重ねた。

3人で露天風呂の床を流して綺麗にした後。
まくら投げも終わり、静まった部屋へ自分は帰った。
どこが自分の布団なのか分からないので、適当に空いている布団を探しそこへ潜り込む。
二人と交わったおかげでリラックスできたのか、すぐに眠りの世界へ落ちることができた。


修学旅行も終わると期末テストが待っている。
あまりに出来が酷ければ留年もあり得るが、高校でそんな事になる奴はそういない。
三人そろって無事進級。そして幸運な事に、クラス替えがあったにもかかわらず同じ教室だ。





時間が経つにつれ、子を宿している二人の腹は大きくなりつつある。
気温も上がりブレザーを着なくなるころには、Yシャツの上からはっきりわかるほどに膨らんでいた。
しかし二人が何か魔法で細工をしたらしく誰もそれを気にかけない。
妊娠しているということは何の問題にもならないのだ。
でも問題が全くないわけではなく……。


今日もいつものように友人と昼食。
「んでだ、C組の奴が―――」
毎度毎度、特に意味のない噂話をする友人。
まれに有用な情報が得られることもあるが、話すことの90%はただのゴシップだ。
なのでトイレに行くと言って席を立つ。

季節がら開きっぱなしの扉を抜け、廊下へ出る自分。
昼休みということもあり、立ち話や移動する生徒で結構にぎわっている。
そんな雑音から逃れるように自分は屋上階段へ向かう。

トン、トン、と階段を上り、ざわめきが遠い屋上階段のエントランスに到着。
そして先客に声をかける。
来たよ、サキ。
「あ、ナナシノくん!」
彼女はいそいそと近寄ると、自分に抱きつく。
「んー……ナナシノくん、会いたかったよぉ……」
毎時間教室で顔を見ているじゃないか。
「でも人目があるとぎゅってしてくれないじゃない……」
そう言ってサキは胸元にスリスリと頭を擦りつけてくる。

「あ、そうだ、ナナシノくん。今朝ね、赤ちゃんがお腹を蹴ったんだ」
普通なら笑顔で報告する所だろうが、彼女の顔は複雑だ。
「近いうちに産まれるのよね……。寂しいよぉ、ナナシノくん……」
サキは出産自体には恐怖も不安も感じてはいないらしい。
ただ、とてつもない寂しさを感じるのだそうだ。

ときおり乱れることで分かるように、サキにはやや情緒不安定な面がある。
以前はセックスのときにそうなるだけだったのだが、
腹が大きくなってからは、日常の中でもそれが現れるようになった。

例えば子供が産まれることを寂しがっていたサキに、産まれるのは喜ばしいことじゃないのか?
もっと気楽に考えようよ、と自分は言ったことがある。
すると普段は物静かなサキが腹に両手を当てて、怒声をあげたのだ。

「だってこの子の半分はナナシノくんなのよ!? 産まれるのは嬉しいけど、
 貴方が私の中からいなくなるなんて本当にどうにかなりそうなんだから!」
自分はその言葉で何となく、サキが不安定になった理由が分かった。
たぶん、サキは自分との擬似的な別離を感じているんだろう。
修学旅行でのバスの態度を考えると、こうなるのも仕方ないかな…と思える。
なので、最近の自分は彼女を落ち着かせるために、昼休みになるとスキンシップをとっているのだ。
ちなみにバスはお気楽なもので「早く産まれないかなー」なんて腹を撫でながらよく言っている。

「はあ…、ナナシノくんが私の子供になってくれたらいいのに……」
自分がサキの子供? どういう意味?
発言の意味が分からず聞き返す。

「ええとね、ナナシノくんが胎児にまで若返って私の子宮の中で暮らすの。
 そうすればどこへ行っても、何をしても一緒にいられるわよね?」
確かに腹の中にいれば一緒だけど、それだと触れ合うことはできないぞ。
「うん。だからセックスするときは私が貴方を産んであげるの。
 それで出て来たナナシノくんはすぐ大きくなって、
 私とたっぷり交わって、終わった後はまた子宮の中に戻るんだ」
いや、それはちょっと……。
「そのうち私は妊娠して、親子二人で一緒に暮らしてもらうことになってね。
 私の娘も貴方を好きになって、お腹の中でセックスとか始めちゃうの。
 で、娘は胎児のまま妊娠しちゃって――――」
なんか考えがヤバイ方向へ向かっているような気がするので、妄想の世界から引き戻してやる。

ま、まあそれは理想だろ?
今はこうしてちゃんと抱いてあげてるんだから、それで辛抱してよ。
サキの髪を撫でながら、諭すように言う自分。

「それじゃあ……私がこの子を産んだら、また孕ませてくれる?」
そうするよ。サキの気が済むまで子供を産んでいいからさ。
だからそんなに寂しがらないでくれ。
小さい子供を相手するように優しく囁き、ちゅっと額にキスをしてやる。
それで少しは寂しさが紛れたのか、サキは「うん…」と小さく頷いてくれた。





雨続きで登下校が面倒な梅雨を抜けついに夏。
期末テストも終わり、残りの日々は夏休みまでの消化期間だ。

第二資料室はただでさえ狭い上に最上階。
窓は元から開かないし、扉を開けるわけにもいかないので、ほとんど蒸し風呂。
そんな熱中症にもなりかねない環境なのに、今日も自分たちは元気に交わっていた。

「んっ…ナナシノ、くんっ…!」
あぐらをかいた自分にサキが抱きついた、いわゆる座位の体勢。
互いの背中に回し合う腕が、潤滑油のような汗で滑る。
不思議な物だ。自分の汗は臭いと思うのに、二人の肌からにじみ出る汗は香水のような良い香りがする。

「早く…早く入れてっ……! 子宮が疼いてしょうがないのっ…!」
早く入れてくれと自分を急かしてくるサキ。
言っておくが自分たちはとっくに性器を結合して交わっている最中だ。
だがサキは臨月腹での子宮内結合を試して以来、すっかり病みつきになってしまった。
今では毎回そうしないと、全然満足してくれない。

一度最奥まで挿入。すると硬い壁に当たる。そこが子宮口だ。
その密着状態からさらに力を込めると、ぐばぁといった感じで肉の壁が開く。
「あはっ! ナナシノくんが来たっ! 今日も赤ちゃん可愛がってねっ!」
子宮口の向こうにあるのは熱い液体とその中に浮かぶ胎児だ。
人間なら危険な事この上ないが、魔物は胎児でも頑丈。
男性器で突かれた程度でどうにかなったりはしない。
自分は男性器を咥える子宮口の硬い感触を感じながら、サキの胎内をかき回す。

「はぁ…、素敵だよナナシノくん……! 私も赤ちゃんも幸せ――――あ」
急に動きが変ったサキの膣内。
まるで自分のモノを追い出そうとするかのように外へ向かってうねり出す。
そして入口から溢れ出してくるのは。

「あー、破水してんじゃんサキ。もう産まれるね」
自分たちの交わりを横で退屈そうに見ていたバスが口を出す。

え!? 産まれるの!?
予兆も何も無かったので少し焦る。
とりあえず邪魔にならない様に離れないと……。

サキの腰を少し持ち上げ、自分のモノを抜く。
そして立ち上が―――ろうとしたところでサキに抱きつかれた。
「あっ…行かないでナナシノくんっ!」
股間からボトボトと羊水を零しながら、膝立ちで体を押し付けてくるサキ。
「離れちゃイヤっ……! ギュッてしてっ…!」
どうやらサキは突然の出産に寂しさがぶり返したようだ。
ちゃんと安心させてあげないとな……。

大丈夫だって、ここにいるから。
いつものように優しく言葉をかけそっと抱いてやる。
そうすると、サキは少し落ち着きを取り戻した。
「ナナシノくん…。私が産むまでこうしてて……」
わかったよ。だから落ち着いて。
そう言うとサキはこくりと頷き、息み始めた。

「ん……っ、あ…子宮が、開いちゃった……」
お腹を触ってみてとサキが言う。
その言葉に従い膨らんだ腹に手を当ててみると、内部の動きを感じられた。
「しっ…子宮口抜けたよっ…? 簡単に、抜けたのは…ナナシノくんのっ、おかげかなっ……?」
サキの声は震えている。しかしそれは苦痛によるものではない。
「気持ち…良いよぉ……。ナナシノくんっ……」
魔物は難産になることはなく、それどころか出産で苦痛を感じることすら無いらしい。
サキは今とてつもない産みの快感を味わっているのだろう。

「ひっ……! あ、あ……。まんこの中、通って……るっ!」
確かに腹の肉の上からでも、大きな何かが下がっているのが分かる。
これが自分の子供なのか。
「うっわー、サキのまんこすっごい広がってるよ。簡単に手が入っちゃいそう」
自分はサキと密着しているので分からないが、傍で観察しているバスには広がっているのが見えるらしい。
……ちょっと気になる。

腹に置いてある手を下へ滑らせ、彼女の股間にそっと触れる。
すると膣口がポッカリと広がっているのが分かった。
確かにこれなら自分の拳も入るだろう。
少し指を入れて内側を撫でてみると、爪先に柔らかい物が当たる。
子供の頭かな?

「ひっ…ひっ…! もっ、もう、出ちゃうっ…! 貴方の子供……産まれちゃうよぉっ!」
ズルズルと自分の指先を滑っていく濡れた肉の感触。
胎児はもうほとんど出かかっている。
「あ……で、るっ……!」
抱きついている自分の背中に爪を立てて息むサキ。
その瞬間にビチャッ! と羊水が飛び散り、マットレスの上にボトリと子供が落ちた。

「おめでとー、サキ。可愛い女の子だよ」
自分にもたれて虚脱しているサキの代わりに、バスが床の子供を拾い上げその姿を見せる。
一対ずつの角と翼、そして尻尾。魔物が産んだ自分の子供は魔物だった。
まあ、事前に教えられていたから驚きもしないけど。

「ん……ありがとう、バス…。私に抱かせて……」
虚脱から復帰したものの、サキはまだポーッとした顔。
「胎盤がまだ残ってるよ。それ引っこ抜かないと長さが足りない」
赤子の腹からはへその緒が伸び、それはサキの中へ続いている。
彼女が抱こうとするなら、切るなり抜くなりしないとダメだろう。
「そうなの……? ならいいわ……」
あっさりと娘との触れ合いを諦めるサキ。
いや、抱いてあげようよ。
「抱くのは後でもできるわ。私はもう少し繋がっていたいの……」
そう言ってサキは胎盤の残っている腹を撫でた。




出産した次の日、サキは学校を休んだ。
心配になったので、一人で登校したバスに訊いてみると。
「子供も産まれたし、色々やることがあるから今日は休み。
 体調崩したわけじゃないから心配いらないよ」
それを聞いて一安心。
産後の肥立ちが悪くて云々……なんて話は時々聞くからなあ。


カツカツと教師が黒板にチョークを走らせる音。
授業はまだ数日あるのだが、もうすぐ訪れる夏休みにクラスの空気は浮ついている。
誰も彼も授業にいまいち身が入らず、ノートをとる手は控えめだ。
「で、江戸時代には―――」
要点を書いた後、教科書を広げて説明をする歴史の教師。この暑さの中でも、昼食直後の授業は眠気を誘う。
まぶたが半分落ち、居眠りしかける自分。しかしガタリとイスが床をこする音で目が覚める。
何があったのかと見ると、その先には授業中だというのに立ち上がるバスがいた。

「せんせー、体調が悪いんで保健室行って来ます」
そう宣言し、教室の中を横断して出入口へ向かうバス。
そして自分の机の隣まで来た時、わざとらしくバランスを崩して肩を掴んできた。
「あっ…。ごめん、ナナシノくん」
いや、別にいいよ。
それより一人で大丈夫?
「ちょっと、きついかも……。付き添いしてくれる?」
ああ、わかったよ。
先生! ちょっと彼女を保健室まで連れて行きます!

「ああ、いいぞ。気をつけて行けよ。あと終わったら早く戻ってこい」
別段咎められることもなく、自分はバスと一緒に開きっぱなしの扉から廊下へ出る。
そして少し歩いたところでバスが床に膝をついた。

……おい、本当に大丈夫か?
バスが保健室へ行ったことなんて一度もない。
だから単に教室を出たい事情があるんだろうと思ったのだが……まさか本当に体調不良?
「大丈夫……あー、いや、やっぱダメかも……」
珍しく弱気なセリフを吐くバス。
そしてYシャツの裾が盛り上がり、2枚の翼が伸びてきた。

バカ、こんな所で正体出すな!
今は授業中とはいえ、ここは廊下のど真ん中。
何時誰がひょっこりと出てくるかわからないのだ。

「勝手に変身が解けちゃったんだよ…。どうも…化けたままだと、産めないみたい……」
産む? 産むってまさか、昨日の今日でバスも産気づいたのか?
「そうだよ……。わたしも産まれそうで……っ!」
膝をついたまま苦しそうに身を丸めるバス。

待て待て待て! ここで産むのはいくらなんでもヤバイって!
いつもの部屋に行くから、少し我慢してくれ!
自分は背中側から手を入れてバスを抱き上げると、第二資料室へ向けて走り出した。


バスをお姫様だっこしたまま、特別棟四階まで駆け抜けてきた自分。
同年代と比べて軽いバスの体重と最近上がった体力をもってしても、辿りつく頃には汗だくだった。
はぁ、はぁ…ほら、着いたぞ。
両手が塞がっているので、不使用時は立て懸けてあるマットレスを足で蹴飛ばす。
そうすると軽くて柔らかいマットレスは空気抵抗を受けながらゆっくりと床に倒れた。
自分は膝を曲げてその上にバスを寝かせる。

「ん、ありがと……」
バスは礼を言うと寝転がったままスカートを外す。
そして現れたのはぐっしょりと濡れた下着。産むのに邪魔だからそれも脱ぎ捨てた。
露出した性器は相変わらず毛が薄く、昨日のサキと同じように液体が漏れている。
「あー……コレやばいよ…。気持ち良すぎ……ぐっ!」
彼女の開いた股。その中心にある穴が徐々に広がり始める。
「ぎっ……! わたしの……まんこ…伸びちゃってる……よっ…!」
サキの時は見えなかったが、自分がいつも入っている場所が広がるというのは奇妙なものだ。
「ふ…ひ、っ……! 降りて……来るっ!」
膣内を進む胎児。そのふくらみが股間へ向けてじわじわと移動しているのがはっきり見える。
「もう…出る…よっ! ムメイの……赤ちゃん……が…っ!」
身をよじり腰を上げるバス。
するとゴボッと音を立てて空気が腹の中へ入り、子供が吐き出された。


子供を産み落とし、バスは寝そべったまま休む。
「ふぅ……。産まれたぁ…。ね、わたしに抱かせてよ」
自分で昨日言ってたけど長さが足りないぞ。
「引っ張って胎盤抜いていいよ。どうせ後でやんなきゃなんだし」
了解。じゃあ抜くよ。
「うん、遠慮しないで抜いちゃっ………ん!」
手にグルグルと巻き付けグイッと引っ張ると、腹の中からベリッと剥がれる音。
そのまま肉の管をたぐると、赤い袋が引きずり出された。

「一年近い付き合いもこれで終わりかぁ…。やっぱりちょっと寂しいね」
股間から出てきた肉の袋を眺めバスはそうこぼす。
……サキじゃないんだから寂しがらないでくれよ。
「なによー! わたしだってそういう気分になることあんだかんね!」
そうなのか? そりゃあ悪かった。
じゃあ中身を渡すから存分に寂しさを埋めてくれ。
そう言って子供を差し出すと、バスは身を起こして受け取る。
するとムッとした顔がすぐに笑顔へ変わった。

「うはー、可愛いなあ! さすがムメイの子供だよ!」
自分に似ても可愛くなんてならないって。母親似だろ。
「そんなことないってば。ほら、目元の辺りがそっくりだし」
バスはそう言って赤ん坊の顔を指差すが自分には分からない。
「あ、そうだ。一応いっとくけど、こんなに可愛いからってオイタはダメだよ。
 手を出すのは大きくなってからにしてよね」
イタズラなんてしないって。
というか育ったら手を出していいのかい。


子供を抱えたバスと話して数分。
ハッと自分が授業を抜け出してきたことを思いだした。

そういや長く話してる場合じゃないんだ。
自分はもう教室に戻るよ。バスはもう帰るか?
「そうだね、わたしはもう帰るよ」
子供もいるし、その方がやっぱいいよな。
教師には保健室へ行ったら体調がさらに悪くなったので、そのまま下校すると伝えよう。

教室へ戻ってバスのカバンを回収し、下駄箱で待っている本人に手渡す。
子供を抱えているのでバスは片手で受け取った。
「じゃあバイバイ……そうだ、授業終わったら家へ来てくれる? わたしとサキの話があんの」
話? 構わないよ。どのみちサキの様子を見に行くつもりだったし。
「うん、お願い。んじゃ、また後でね!」
カバンを持った手をブンブンと振り、バスは炎天下の元へ出て行った。


その後3時間ほどで午後の授業は終わり、まだ陽が高く暑い中を自分は下校する。
普段は校門を出て右へ曲がるところを今日は左折。二人の様子を見に行こう。

……そういえばこんなに早く帰るのは久しぶりだな。
あまり慣れてない道を歩きながらそんな事を考える。
学校のある日は毎日第二資料室でセックスしているので、帰るのは部所属の生徒と同じぐらいの時間なのだ。
まあ親には部活に入ったと説明してあるので、怪しまれたことは一度もないけど。


二人が住んでいるのは、オートロック付きの結構良いマンション。
なのでインターフォンで二人の部屋を呼び出し解錠してもらう。
そして開いた自動ドアをくぐり、エレベーターへ。
階段だと少しキツイ階まで上がり、目的の部屋のチャイムを押す。
カチャリとノブが回り、顔を出したのはサキ。

「いらっしゃい、ナナシノくん。待ってたわよ」
サキがスリッパを出し、自分は靴を脱いでそれに履き替える。
短い廊下を進むサキの背中を追って、居間へ到着。
「あ、ムメイ来たんだ。じゃあ、そこにでも座ってよ」
バスがかけているのは四人用のテーブルセット。
言葉に従ってイスを一つ引き腰かける。
サキもバスのすぐ横に座り、これで二人と向かい合う形になった。
このまま雑談に興じてもいいのだが、バスが話があると言っていたのでそちらを先に済ませることにする。

二人とも自分に話があるそうだけど、一体何なんだ?
正直、今の自分は家に呼ばれてまで話すことなんて思いつかない。
「うん、その……私たち二人とも子供を産んだわよね?
 それでなんだけど、子育てしながら学校へ通うのは大変だし、もう帰ろうと思うの」
何でもない事のように“帰る”と言うサキ。

だが自分はその一言で顔からサァッと血が引いた。
不安が襲いかかり心臓の鼓動がドクドクと早まる。

……帰るってどこに。
「帰るって言ったら故郷に決まってんじゃん」
ズズッと冷たいコーヒーをすすりバスは言う。
……魔物の故郷ってどこにあるんだ? 
「違う世界よ。簡単に行き来できる場所じゃないし、多分こちらには戻ってこないでしょうね」
ちょ、ちょっと待ってくれ!
不安に焦りが加わり、全身から冷たい汗がにじみ出てくる。

そりゃあ自分も卒業すれば二人とは疎遠になるかもと漠然と考えてはいた。
でもこんな突然、それも完全な別れが訪れるなんて……!

「なに情けない顔してんのよ。ムメイも一緒にくんの」
え? 自分も……行くの?
魔物の故郷。そんな場所へ人間が行っていいのだろうか。
「いや、故郷っていっても魔物しかいないわけじゃないよ?」
「ちゃんと人間も暮らしているわ。魔物と仲良くね。それより―――」
ジーッとサキが睨んでくる。
な、なに?

「酷いじゃないナナシノくん。私たちが貴方を置いていくと思ったの?
 そんなに信用が無いの? 私たちは貴方無しじゃやっていけないって前にも言ったのよ」
そういえばそんなことを言われたような気も……。
いつだったかは憶えていないがそのセリフは記憶にある。

「あんなに好きって言って子供も産んだのにムメイ置いて帰るとか、
 わたしにはその発想の方が信じられないよ」
まったくコイツは……といった顔になるバス。

二人は不満を訴えたが、それは強い愛情から出たものだと自分にも分かる。
そのことに安心を感じ、自分は力が抜けてテーブルの上に突っ伏してしまった。

「おわっ! なにすんの! コーヒーこぼれそうになったよ!?」
バスの咎める声。どうやら伸ばした手がテーブルに置いてあったカップに当たったらしい。
「どうしたのナナシノくん。急に倒れちゃって」
何でもないよ。自分は幸せ者だなって噛み締めているだけだ。

二人は自分と離れようなんて考えていなかった。これからもずっと一緒にいられる。
ああ、本当に良かっ――――いや、良くない!

サキは故郷へ帰ったら“戻ってこない”と言った。
それはつまり、彼女たちについていった自分も戻れないことになる。
確かに二人はとても大事だ。離れて生きていくなんてもう考えられない。
しかし、自分が生まれ育ったこの世界だって大事だ。簡単に捨てられるようなものじゃない。

「そんなの気にしなくていいって。向こうへ行くのはムメイにとっても良いことだらけなんだよ?」
良いことって、なにが自分に良いんだ。
「まず、わたしたちと一緒に暮らせる。お泊りなんかじゃなくて、ずっと同じ屋根の下だよ」
「いつでも私たちとセックスできるの。一日中していても誰も文句は言わないわ」
「美味しい物も色々あるよー。食べたら病みつきになっちゃう果実とかね」
「仕事はしないとだけど、休みは多いし生活費も低いからこっちで生活するよりずっと楽よ」
向こうが“どれだけ良い世界か”を代わる代わる語るサキとバス。
まずい……二人の話を聞いていたら異世界が楽園のように思えてきた。

「―――と、こんなところかな。どう? いい世界でしょ?」
一通りの説明をしてバスは笑みを浮かべる。
二人の話に誇張がないなら、この世界よりよっぽど素晴らしい未来が待ち受けているだろう。
だがそれでも、十数年生きてきた世界を捨てていいのかと思う自分がいる。

自分の脳内に生まれた天秤。
片方の皿には二人の悪魔が乗り、もう片方の皿にはそれ以外の全てが乗っている。
悪魔はたった二人なのにとても重く、それ以外の全ては年月の重みを足してやっと釣り合う。
両皿はあまりに重く、ギシギシと天秤自体が壊れそうなほどに軋みをあげるのだ。
結局自分は悩んでしまい、うつむいて何も言えなくなってしまった。

が。

その様子を見てサキが困ったなあと笑う。
「あのね、ナナシノくん。悩む必要なんてないのよ? だって――」
バスは面倒臭いなあといった顔で口を開く。
「ムメイは勘違いしてるっぽいけどさー」

「貴方に選択権なんてないもの。おとなしく一緒に来なさい」
「あなたに選択権なんてないの。おとなしく一緒に来なさい」
まるで申し合わせたように声をそろえるサキとバス。

その瞬間、脳内の天秤が横からパンチを食らって吹っ飛んだ。
皿の上にあるものが、宙を舞い床へ叩きつけられる。
そんな中、二人の悪魔だけはパタパタと宙に浮いてケタケタ笑っていた。

……なんだよ、自分の意思は無視なのか。
「うん。だって最初の時もそうだったじゃん」
ああ、そうだったな。自分を逆レイプして童貞奪ったのはこいつだった。
「納得して来てもらえれば嬉しいけど、嫌だと言っても連れて行くからね?」
サキは控えめに言うけど、彼女だってバスの共犯者。自分の欲望が第一なのだ。

二人は故郷がどれだけ良い場所かを説いて自分を説得しようとした。
だから異世界に行くかどうかの最終的な決定権は自分にあると勘違いしてしまった。

実際は異世界行きを納得させるための説得であり、
彼女らは自分が嫌がってゴネようが泣き叫ぼうが、強引に連れて行くつもりだったのだ。

……わかった、一緒に行くよ。
抵抗も何も無駄だと理解してしまえば、後はもう受け入れるしかない。
父さん、母さん、すみません。自分は異世界で幸せに暮らします。
声にも出さず頭の中で両親に謝る自分。

「覚悟は決まったみたいだね。じゃあ行こう!」
勢いよくイスを蹴ってバスは立ち上がり、扉を開いて寝室へと入る。
その開きっぱなしになった扉から怪しげな魔法陣の描かれた床が見えた。

「赤ちゃんもちゃんと連れて行かないと……サキも来てー!」
二人の子供を抱えたバスがサキを呼ぶ。
「はーい! それじゃあナナシノくん、私たちも行きましょう」

サキに促されてイスを立つ自分。
もう仕方ないよな…と思いため息を吐くと、この世界への未練が急速に薄れていった。
12/10/27 13:52更新 / 古い目覚まし

■作者メッセージ
「名字くん呼び」「名前呼び捨て」のキャラを書きたかっただけなので相変わらずバランスが悪かったです。



ここまで読んでくださってありがとうございました。

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