連載小説
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鏡合わせの磁石
<戦艦クリプト 個室 通路>

「だ〜か〜ら、僕の方が先だったんだ!」
「い〜や、違う!僕の方だ!」
「なんだと!」
「そっちこそ!」
「「ぐぬうう!」」

 朝から戦艦の通路内は騒がしかった。その理由は黒肌で瓜二つの少年たちがお互いを睨み、怒りにまかせていがみ合っていたからだ。その様子を見ているイーグルとレックスは呆れてしまう。

「またか・・・」
「ここまで衝突し合ったのは約1か月前かと・・・」
「「むぬうう!!」」

 お互いの両手が掴み合い、さらにエスカレートしそうになる。見かねたイーグルが止めに入った。

「二人とも、それ以上は止めろ」
「「ふ―、ふ―」」
「全く、ラキみたいに謹慎を受けたいのか?」
「「・・・」」

 彼の言葉に反応して、黒肌の少年たちは手を離す。

「「ふんっ!」」

 ぷいっとお互いの顔を背けた後、左に居た少年だけが去っていく。残された少年は知らん顔したままであった。イーグルはため息をつきながら、残った少年に話し掛ける。

「今回も喧嘩か?」
「・・・」
「やるなとは言わんが・・・ラート、お前たちは双子だろう。任務中でも喧嘩するつもりか?」
「それは・・・」

 彼の質問に口ごもるラート。

「お前たちのお互い気に入らんところもあるだろうが、互いの協力が必要な時がある。些細な反発でお互いを危機に晒すつもりか?」
「・・・・・・」
「話はこれくらいにしといてやろう。今日も自由行動だ。情報収集だけは忘れるな」
「了解・・・」

 消沈するラートを放置して、イーグルとレックスはその場を後にした。2人は歩きながら2人についてしゃべる。

「扱いにくい未成年だ」
「隊長も未成年ですが・・・」

 人型万能機械に突っ込まれる19歳の少佐。

「確かにあと半年経たなければ・・・だが、少なくともブレードと私は成人しきっている」
「はぁ・・・」

 首をかしげるレックスを余所に、イーグルは冷静にしゃべりつづける。

「部隊で成人しきってない奴は一人を残して、ほぼ全員だ。本当なら、彼らは同じ年代と一緒に学業を励んでいるはず・・・」
「ですが、彼らはプロフィール上、特殊すぎます」
「そういうことだ。そして、現在、幸運か、不運かは知らんが、こんな機会は滅多にない。本来ならのんびりさせる暇はないが、状況が状況だ。好きにやらせる」
「そうですね・・・」

 彼の判断について同意するレックスは、少し後ろを向いてラートの様子を伺った。立ち尽くしていた少年は、ゆっくりと自室に入っていく。

「何にせよ、時間が過ぎれば、ほとぼりが冷めるだろう」
「人間の感情は複雑で解析しにくいです」
「それらしい行動しているくせに・・・」
「?」


<都市アイビス 南の森>

 1人の黒肌の少年が長い物を片手に持ちながら歩いている。レートは気晴らしのためにスカイチェイサーで南の森付近までやって来た。

彼の左手に持っている物は『イサカM87』と言われるショットガンで、ピストルグリップにより57cmと小型になった散弾銃。軍用の12ゲージの弾を使用するが、現在は暴徒鎮圧用としてゴム弾を装填することが多い。

 レートはゴム弾を装填したショットガンで憂さ晴らしに来たのだ。適当に見渡すと、手頃な大岩を発見し、狙いを定めて発砲する。

「ラート!あほ!ボケ!カス!バカ!」

 少年は言葉に合わせて5発発砲する。新たにゴム弾をポケットから取り出し、銃に装弾した。ポンプを引いて一発を装填し、最後にもう一個装弾して銃を構える。

「あれ?お兄ちゃんだ!」
「変な音がすると思ったら・・・」
「!?」

 不意にレートの背後から声が聞こえて、彼が慌てて振り返ると、そこには見知った顔の者たちがいた。バスケットを片手に抱えたインプのサリナと、その隣で手を繋いでいるゴブリンのミーニである。その後ろにはアラクネのリーデと男の子のハンもいた。

「お兄ちゃん、何してるの?」
「あ、え―と・・・・・・ただのストレス解消?・・・」

 ミーニに質問されて気まずそうになる少年。そんな彼にゴブリンの少女はしがみついた。

「お兄ちゃん、ご飯食べよう!」
「え、ご飯!?」
「私たちはこっちでピクニックしてるの。あなたもよければどう?」
「い、いや、サリナさん・・・」
「一緒に食べよう!ねっ!」
「あ、ちょっと!」

 少年は半ば強引に少女に引っ張られ、その場から連れ出される。やって来た場所はシートが敷かれていて、街が見える景色のいい平原。レートは無理やり座らされて、サリナからパンを差し出される。

「どうしたの?今日はいつもの二人じゃないの?」
「べ、別に・・・」
「喧嘩したんでしょ?」
「う・・・」

 サリナに図星を突かれて黙り込んでしまう少年。それを見て笑うミーニと子ども達。

「よくあることだわ」
「お兄ちゃんたち、喧嘩しちゃったの?」
「う、うるさい・・・あむ、モグモグ・・・」

 ふてくされながらパンを頬張るレート。

「喧嘩できるなんて、羨ましいことだと思うわ」
「むぐ?・・・なんで?」
「それほど親しい存在なのでしょ?」
「・・・・・・」
「ときどき反発して、それでも分かり合える家族なんて、そうそういないわ・・・」

 彼はサリナの言ったことを理解する。彼女たちには兄弟はおろか、親すらいないのだ。そんな中、同じ境遇の幼子たちで身を寄せ合って生きている。彼女たちから羨ましがられるのは当たり前だ。

「ごめん・・・」
「え?」
「お兄ちゃん、何で謝るの?」
「なんとなく・・・」
「お兄ちゃんは悪くないよ♪」

 ミーニは無邪気に笑いながら彼に抱きつく。レートはそれを見て、頬を指で掻いて微笑む。リーデとハンはにやにやして2人を見ていた。

「正直・・・自分も他人を羨ましいと思ったことがあるよ」
「どうして?」
「僕たちにも親がいないからね・・・」
「「「!?」」」
「えっ?お兄ちゃんたちも?」
「うん、全く見ていないんだ・・・」

 意外そうに驚く4人。そんな中、ミーニは少年にあることを持ちかける。

「じゃあ、お兄ちゃんもミーニたちの家族になって!」
「へ?」
「ちょっと、ミーニ、何言ってるの?」
「お姉ちゃんもいいでしょ?」
「え・・・そ、そうね。あなたはどう?」
「どうって・・・」

 レートは少し困った顔をするも、ゴブリンの少女の懇願する顔を見て、ため息を吐いてしまう。

「分かった」
「本当?それじゃあ、もう一人のお兄ちゃんもね!」
「あ、ああ・・・」
(ラートには何て言おうか・・・)
「わ、私たちの家族・・・」
「男一人はきつかったからな!よろしく、兄ちゃん!」

 リーデとハンも喜びの笑みを浮かべる。サリナはやれやれと首を軽く振った。ミーニはご機嫌の笑みでその場から離れて、街とは反対の方向の丘に向かう。慌ててサリナが呼び止めようとする。

「ちょっと、ミーニ!どこ行く気?」
「お礼のお花摘んでくる♪」
「あんまり遠くに行っちゃだめよ!」
「は〜い」

 少女の姿が見えなくなると、インプの少女は呆然としているレートに話し掛ける。

「ごめんね、妹の遊びに付き合せて・・・」
「え・・・あ、ああ、別に気にしてないよ。それに、ミーニにとって必要なことでもあるだろ?」
「そうね・・・これ以上あの子を悲しませたくないから・・・」

 彼自身もそのことについて理解していた。何故なら、あの少女を含めて孤児院の子どもたちはすでに辛い体験をしている。命を寸前までに追い詰められ、やっと手に入れた安息を失われそうだった。

「僕だって・・・あの経験はもう・・・」
「え?」
「いや、なんでも・・・」
「ぃやああああああああああ!」
「「!?」」

 突如、遠くの方からミーニの叫び声が響き、2人は飛び上がって声の方向へ走る。

「「ミーニ!?」」

 遅れてリーデとハンも追いかけて行く。丘を越えた辺りに辿り着くと、そこには大きな人影が立っていた。

「ミーニ!?」
「人?誰だ!?」

 その人影は深緑のローブを身に纏い、右目に片メガネをかけた男がゴブリンの少女を抱き捕まえている。

「ほう、こんなに連れがいるとは・・・おかげで手間が省けそうですね」


<戦艦クリプト 武器庫>

 大戦中に使われた物から現在の光学武器まで保管されている倉庫に、ある人影が蠢いていた。

「ぬっふっふっふ〜レートめ・・・痛い目見せてやる・・・」

 喧嘩した怒りがまだ治まらないラートは、武器庫で暴徒鎮圧用武器を漁っていた。主に身軽に付けられるタイプの物を中心に探し始める。

「ん〜昔のスタンロッドじゃあ、やり過ぎだな・・・お、これはいいね」

 小さな箱に入っていたカラフルな手の平サイズのボールを見つけて、腰のポーチに入れて行く。立て掛けてあった『イサカM87』を手に取り、特殊弾薬箱を探した。

「ん、おっ、これは・・・」

 ショットガン用の特殊弾薬で白くペイントされた弾薬を見つけ、説明書を読んでその弾薬を装弾する。

(凄いな・・・非殺傷武器でも、ここまで手の込んでいる武器が本当にあるなんて・・・)

 驚きながら見て回る彼は、いきなり身体を硬直させた。しばらく動かずにいると今度は武器庫から飛び出して、G.A.W格納デッキへと走り出す。彼の目は何かに対する怒りが満ちていた。

「待ってろ、ぶっ飛ばしてやる!」


<都市アイビス 南の森>

 レートとサリナ達はミーニを拘束する男と対峙していた。

「ミーニ!」
「お姉、ちゃん・・・」
「てめえ、何者だ!」
「天才であるこの私を知らぬとは、何と憐れな・・・」

 馬鹿にするような態度で彼らと話すローブの男。そんな彼の態度にレートはイラついてしまう。

「よかろう、我が名はギュオーム・マトリセム。いずれ偉大な名を残す大魔導師だ」
「大魔導師だぁ?」
「ちょっと、あなた!ミーニを離しなさい!」

 サリナが険しい表情で少女の開放を要求した。

「そうはいかん。これも依頼のためでね・・・」
「どういうことよ?」
「君らは都市アイビスのエンジェルを知っているかね?」
「「「!?」」」
「エンジェル?」

 レートは面識がないも、サリナや他の2人はその言葉を聞いて動揺する。その動きを男は見逃さなかった。

「知っているようだな・・・なら、話は早い。街に行ってそのエンジェルを連れて来たまえ。でなければ・・・分かるな?」

 男は左腕で少女を抱えながら、右手に氷でできたナイフを創り上げる。彼はその刃を少女の喉元に突き付けた。

「ひっ!?」
「ミーニ!」
「やめろ!」

 レートは銃を構えるも、男の凶器が少女に近すぎて撃てない。明らかに不利な状況だった。

「何かは知らんが、そこの君、それを下ろしたまえ。これが実験材料の屍になってもよいのかね?」
「っ!?」
「お兄、ちゃん・・・」
「くぅぅ・・・」

 少年は歯を噛みしめながらショットガンを下ろす。

(この野郎・・・実験材料だと・・・)
「そうだな・・・後ろの元気そうな坊主」
「!」
「そうだ、君だ。行って来い、早くしないと・・・」
「!?」
「ハン、行って!」
「でも・・・」
「いいから早く・・・」

 サリナにお願いされて、ハンは街に向かって走り出した。残された3人は未だに少女を拘束する男を睨みつける。男は不敵な笑みを浮かべながら、彼らに話し掛けた。

「そうカリカリせんでもよい。皆一緒に連れていってやろう・・・」
「「「!?」」」
「ふんっ!」

 男が右腕を振り上げて何かを描くと、レートたち周りの地面に輝く黄色の円が出現。その瞬間、彼らの身体が痺れて動けなくなる。

「な、こ、これは!?」
「ひ、いっ!」
「どういうことよ!何でこんなことを!」

 ローブの男の捕縛魔法に対してサリナが疑問をぶつける。

「正直、依頼料だけでは物足りんのでな・・・研究材料をここで調達しようかと思ってな」
「・・・んだとぉ!」
「ちょうど、先程の坊主以外が魔物だ。これなら材料に困らん」
「そ、そんな・・・」
「ちょっと、待ちなさい!あなた、何を・・・」

 男の言葉に戸惑うリーデとサリナ。一方のレートは身体を動かそうと必死になる。

「ふむ、正直、黒肌のインキュバスは初めて見る」
「っ!?」
「これはいい研究材料になりそうだ」
「てめぇ・・・」

 勝手なことを進める男に対して、レートは頭に血が上っていた。

(こいつ、ぶっ飛ばしてやる!絶対に!絶対に!!)
(なら、一緒にぶっ飛ばそうぜ!)
(!?)

 突然、頭に響いてきた声に驚くも、内心喜んでその声に答えた。

(できるのならやるぜ!ラート!)
(もちろん!奇襲するから、少し待ってくれ!)
(早くしろ!撃ちたくてうずうずしてんだ!)
(まぁ、見てな!)

 ローブの男はそんな会話がされていることも知らず、得意げにしゃべり続ける。

「さて、君らを保存してから・・・」
キィィィィィィィィィィン!
「ん?何だ?」

 耳鳴りのような音が響き、男は辺りを見渡して狼狽えるが、レートはニヤリと笑った。上空からチェイサーに乗ったラートが、イサカM87を構えて高速で突っ込んでくる。

「何っ!?」
「おらよ!」
バァァァン!

 向かって男の右横をすれ違う際、ラートはショットガンを男の頭部目掛けて発砲した。発射された銃弾は白い球のような弾丸で、見事に男の顔へ命中する。直撃した瞬間、それは顔全体に広がるように白い粘着質のものへと変化した。

「むごおお!?」

 顔に謎の物体が覆い被さって混乱する男。それがきっかけとなり、3人を捕縛していた黄色の円が消滅した。動けるようになったレートはショットガンを構えて、ラートと同じく頭部を狙う。

「仕返しだ!」
バァァァン!
「むがああ!?」

 彼のゴム弾も命中し、いつの間にか降りたラートが接近してミーニを奪い抱えた。

「ひゃっ!?」
「ミーニちゃん、いただき!」
「でかした、ラート!」
「ミーニ!」
「ミーニちゃん!」

 少女を抱えたラートが3人に向かい、サリナは助け出された少女を抱きしめる。2人は涙を流しながら抱きしめ合った。

「ミーニ、よかった・・・」
「お姉ちゃん・・・怖かった・・・」
「「・・・ふぅ」」

 少女の無事に双子は安心し、ふとここでお互いの顔を見合う。ついさっきまで互いに争っていたのが、まるで嘘のように消えて微笑んでいた。

「むぐぐぐ!!」
「「!」」

 ローブの男の声に反応して、双子は散弾銃を構えた。顔に張り付いていた粘着物が、凍り付いてばらばらと砕け落ちる。片メガネも砕け落ちたその顔には怒気が孕んでいた。

「貴様ら・・・許さんぞ」
「「おっさん、何勘違いしてる?」」
「何っ!?」
「「許さないのはこっちの方だ!」」

 双子はそう言うと、男に向かって走り出す。向かって男の左側にラート、右側にレートが、それぞれ分かれて同時に狙い撃った。

「舐めるな!」

 ローブの男は両手を拡げて、それぞれの手の平から氷の盾を創り出す。2人の放った銃弾は氷の盾に防がれてしまう。

「「!?」」
「死ねええええ!!」

 掛け声とともに氷の盾が砕け散ると、双子のいる手前の地面から槍のような氷の柱が飛び出した。ジェミニたちは、間一髪でお互いの右腕の方向へ飛び避ける。

「ちいっ!小賢しい!」

 男は右手に氷のナイフを創り上げて、左に居たレートに投げつけた。事前に来ると予測したレートは散弾銃を右に持ち替えて、左手で『L.B.H』を抜いてシールドで防ぐ。光学盾に当たった氷のナイフは溶け消えた。

「なんだと!?ぐぅ!」

 男が驚いている隙に、ラートが男の背後に粘着弾を命中させる。彼にも反撃で氷のナイフを投げつけるも、同じ方法で防がれてしまう。

「何故だ!魔力が全く無いそんなもので、私の魔法が効かないだと!?」
「レート、こいつは何だ?」
「ああ、確か・・・バキュ〜ムだったっけ?」
「ギュオーム・マトリセムだ!貴様、よくも私の偉大な名を、ぐあっ!」

 馬鹿にされて怒りをあらわにする男の肩へ、レートはゴム弾を当てる。彼のその目には怒りが満ちていた。

「てめえの予定された功績なんざぁ知ったことか」
「確かに、そう言われると僕も黙っている訳にはいかないな」

 思念と感覚共有でラートも怒り始める。ここでレートは左手の光学銃をしまい、腰から手の平サイズの青いスプレー缶を取り出した。

「ラート、使え!」

 彼は放物線でラートに投げ渡そうとする。

「させるか!」

 男は何かを予感し、彼らの思惑通りにさせないよう、自身の真上に来たそれを氷のナイフで投げ当てる。当て落とされたそれは男の足もとに落ちた。

「そう簡単に貴様らの・・・」
「「ニヤッ」」
バシュウウ!!
「ぐああああ!?」

 落ちてきたそれが突如、爆発して男に閃光と衝撃音を与える。レートが投げたものはスタングレネードだった。目と耳が麻痺した男に、ラートが追い打ちであるものを投げつける。

「特別サービスだ!」

 それは手の平サイズの赤いボールのようなもので、両目を手で押さえる男の顔に投げ当てた。直撃したそれは破裂して、赤い液体を撒き散らす。男の顔含めた首や腕などを赤く染めてしまう。

「な、何だ!?貴様ら、何を・・・ぎ、ぎやあああああああああああ!!」

 突然、悲鳴を上げてのた打ち回るローブの男。

「ラート、何をしたんだ?」
「へっへっへ・・・これだよ」

 ラートが取り出した物は手の平サイズの赤、緑、黄のボールだった。

「カラーボール?」
「非殺傷武器の『スパイスボール』だよ。今投げつけたのが『ハバネロ』で他には『ワサビ』や『カラシ』などがあるよ」
「えげつない武器だな・・・」

 ローブの男は顔や腕に、辛みという痛みに覆われて悲痛の叫びを上げる。相手がまともに動けなくなったのを確認した2人は、『RAY.S.R』を手に取って近づいた。

「さて・・・」
「うるさいから・・・」
「「黙ってろ!!」
バチィバチィィ!!
「はがっ!?」

 双子の麻痺性光学刃が叩き当てられて、叫び続ける男は目を白くして動かなくなる。その後、男のパンツ以外の身包みを剥がして、リーデの糸でグルグル巻きに拘束した。

「凄くおお・・・」
「レート、それ以上は言うな!気持ち悪い・・・」

 レートの発言に、思わず赤面する3人の少女たち。しばらくすると、街に行ったはずのハンが、ニールやシャマを含めた兵士たちを連れて戻ってきた。事情を説明すると、男性兵士たちが魔力封じの首輪を気絶した男につけ、長い棒で逆さに吊るし上げる。

「2人とも、感謝する。正直、私でもどうやって助けようか、困り果てていた」
「お手柄ね、双子ちゃん♪」
「「ブイブイッ」」

 ニールとシャマからお礼を言われて、得意げにVサインをする双子。騒動の元凶となった男が運ばれようとした時、ジェミニが慌てて静止の声を掛ける。

「あ〜と・・・」
「ちょっと待った」
「どうした?」

 ニールが疑問に思い見ていると、2人は吊られた男の左右に分かれて立った。

「「・・・」」

 すると、いきなりファイティングポーズになり、利き腕を引いて力を溜め始める。一呼吸して双子は同時に、強烈なストレートパンチを男の横顔に繰り出した。

「「でぇりやああ!!」」
バキィィ!!
「「!?」」
「「「「!?」」」」

 繰り出された正拳突きは互いが衝突し合い、全ての力が間に居た男の顔へと吸収された。その光景を唖然として見るニールとシャマ。サリナやミーニたちも目を丸くする。

「僕らを実験材料と見なした分と・・・」
「ミーニを泣かせた仕返しだ・・・・・」

 手痛い制裁を受けた男はそのまま、街へと連れて行かれた。ジェミニとサリナ達も孤児院へ向かう。


<都市アイビス 孤児院 内部>

 今回の騒動を聞きつけて、エンジェルのウィリエルとドラグーン隊のイーグルが駆けつけた。発端の存在となったウィリエルは、泣きながら双子に感謝する。イーグルは無断で装備を拝借したことについて、「今回は特別に注意だけにしよう」と2人を許した。

 泣き止まない天使の少女をイーグルはなだめるため、彼女を外に連れ出す。食堂にはラートとサリナが残っていた。子ども達は寝かしつけるも、ミーニだけがレートから離れないため、その2人は椅子のある聖堂へ向かう。

 残った黒肌の少年とインプの少女は、向き合うようにテーブルの椅子へ座る。

「懐かれてるな、あいつ・・・」
「そうね、先に会っていたのが、あの子だから、あなたはその後に来たのだし・・・」
「ちぇ、あいつばっかり・・・」
「ふふ、でも、仲はやっぱりいいのね・・・」
「・・・」

 とても喧嘩中とは思えない双子の態度に、サリナは指摘の発言をする。気まずそうにするラート。

「だって、イーグルの命令だもん。任務中は喧嘩するなって・・・」
「本当は違うでしょ?」
「・・・・・・」
「あなた達はある言葉を聞いて怒っていた。それはあなた達がもっとも嫌う何か・・・」

 彼女には解っていた。彼らの嫌う何かの存在。

「でなければ、最後に二人一緒であんなことはしないわ・・・」
「サリナの言う通り、確かに僕たちの嫌な思い出を蘇らされたような苛立ちがあった。でも、一番許せなかったのは、あいつが、僕たちや魔物の君たちを物扱いしたこと・・・」
「ラート・・・」
「見た目だけで良し悪しを決めやがって・・・僕らが何したってんだ・・・」
「そうね・・・何もしてないのに・・・」
「だから、レートの視界を見たとき、あの野郎への怒りが僕にも伝わった・・・」
「!」

 彼の口にした言葉に、サリナは耳を疑う。

「あなた・・・そういえば、どうやってあの事態を知ったの?・・・まさか・・・」
「僕たちはお互いの感覚や思念を共有できる。普通の人には無い能力だよ」
「共有できる能力・・・双子だから?」
「・・・・・・」

 彼女の質問に黙り込んでしまう少年。それを見て、慌てて謝る少女。

「あ、ごめんなさい。聞かれたくないことだった?」
「ううん、大丈夫。初めて知る人にはそれが普通の反応。もう、慣れたし・・・」

 表情が暗くなる少年を見て、サリナは元気づけようと話題を変えた。

「ねぇ、ミーニがどうしているか、レートの視界で見てくれない?」
「へ?・・・別にいいけど・・・」

 彼女の頼みを了承し、少年はもう一人の片割れの視界を探る。

「・・・・・・・・・」
「どう?・・・大丈夫そう?」
「・・・一様・・・・・・」
「えっ?」
「ミーニちゃん、寝ちゃったみたい・・・」
「それだけ?」

 彼の様子を見て何かを察し、意地悪そうに尋ねる少女。彼女はそそのかすように尻尾で少年の足を突っつく。

「ちょ・・・・・・枕・・・」
「え?」
「膝枕してるんだよ・・・あいつめ・・・」
「妬いているの?」
「妬いてなんかない!」

 赤面しながら強く否定するラート。そんな彼にサリナは隣へ近づき、少年の右腕に抱きついた。

「うわっ!・・・サリ・・・」
「・・・」

 また、冗談な行動だと少年は予測したが、少女の震えた身体を見て声が止まる。

「本当に・・・ありがとう・・・」
「サリナ・・・」
「あなたが、あなた達双子がいなかったら・・・あの子の笑顔は見られなかった!」
「・・・」
「怖かった。あの子と出会って、何時、この子が笑顔を絶やしてしまうのかと・・・」
「・・・」

 少女は震える身体なんとか支えながら、涙を流してしゃべり続ける。

「あなた達と出会ってから、あの子の笑顔はどんどん輝きを増していったわ・・・それを見て、私の擦り減った心がどんどん癒された」
「・・・」
「あの子が失われたら・・・私は・・・私は・・・」
「絶対守る!」
「!?」

 ラートは少女の目を真っ直ぐ見つめる。その目は力強い意志が感じられた。

「僕たちだって、昔のような扱いを受けたくない。あんな酷い扱いはもう沢山だ」
「!」
「だから、君らをいじめる奴がいたらぶっ飛ばす。僕たちもやっと手に入れた自由だ。手放したくない」
「ありがとう・・・」
「レートから伝わってきた。折角家族になったんだから、家族を守るのは僕らの仕事だ。まかせて!」

 少年の宣言を聞いて、サリナは片手で涙を拭って笑顔になる。



<戦艦クリプト 研究開発室>

 モニターを見るレシィとエスタ。街の外で起きた襲撃事件について話していた。

「双子の喧嘩が思わぬ方向に行っちゃったみたいだね」
「実に喜ばしいことじゃ♪じゃが・・・」
「ん?」
「何故、あやつらは喧嘩したのじゃ?」

 レシィの質問を聞いて、彼はある画面をモニターに映す。

「兄上、これはなんじゃ?」
「ある乗り物を使って、“どっちが早くゴールできるか勝負する”ゲームだよ」
「ふむ・・・見たところ、どちらもゴールしておるが・・・同時か?」
「そう、引き分けだったから喧嘩したらしいね」
「そこまでして・・・何を競っておろう?・・・」

 レシィが疑問に思っていると、エスタが何気なく呟いた。

「さっさと決めて欲しいものだね。どっちが兄か・・・」
「ほえ?」
11/10/01 11:42更新 / 『エックス』
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