連載小説
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第五話
それは、ルウがまだこの廃寺で師匠達と暮らし始めたばかり頃の話。
彼は、日が落ちると師匠達が倉庫から探し出してきた本を読み聞かせて貰い、座学に励んでいた。

「さて、少年。今日は『頸』についての勉強をしようか」

胡坐をかき、その股座の上に今よりもさらに幼いルウを乗せたランが、手にした本を開きながら言う。

「はいっ、ラン師匠っ」

ルウが少しずつ成長し、一人で本を読むことが出来るようになってからはめっきりと減ってしまった光景だが……幼い頃のルウは、この時間が大好きだった。武術の技術は勿論、その歴史や数々の英雄譚……自分の知らない知識を教えてくれる古ぼけた本達は、しかし彼の眼にはきらきらとした宝石の詰まった宝箱の様に映っていた。
膝の上に乗せた少年が見やすいように本の位置を調節しながら、ランは自らの弟子に本の内容を読み上げていく。

「『頸とは、霧の大陸における武術の基本であり、極意でもある。攻守における身体操作の根底にあるものであり、極めれば鎧や竜鱗を纏った相手にも有効な打撃を放つ事も可能となる』……まぁ、この定義は割と流派によって解釈が異なるんだがな」

それを聞いたルウは、不思議そうに振り返り、三角の耳が揺れる師匠の顔を見上げた。

「大事なことなのに、ばらばらなんですか?」
「そうだ。……霧の大陸では、腕に覚えのある者が師から独立し、自らの流派を立ち上げるという事が珍しくない。そんな数えきれない程の流派がある上に、同じ流れを汲む物でも、なぜかその解釈がまるで違ったりするんだ」

話を聞いても、変わらず不思議そうに首を傾げている少年。
そんな愛らしい弟子の姿に、ランは軽く笑みを零しながら続ける。

「ふふ。幸いな事に、私達三人の間ではほとんどそのズレが無いと言っていい。少年が私達の弟子で居る間は、あまり気にする必要はないぞ」
「はいっ、分かりました、師匠っ!」
「うむ。いい返事だ、少年」

笑いながら、ランはわしわしと可愛い弟子の頭を撫でる。
この少年が、自分達の弟子では無くなる時。いつかそんな日も来てしまうのだろうか。
それはどんな時なのだろう。数多く枝分かれしている流派がそうであるように、術理に対する意見の違いでの喧嘩別れだろうか。
あるいは……彼が、自分達よりも強くなってしまった時だろうか。それならば、師匠としては万々歳なのだが――

「……ふふ。どちらにせよ、まだ気の早い話か」
「……師匠?」
「ああ、すまない少年。では続きを読むぞ――……」

今はまだ小さな弟子の、そんな未来の姿に想いを馳せながら。
師匠と弟子の夜は、更けてゆくのだった。





――――――――――――――――――――





幾度も地面を転がった先で倒れ伏す弟子の姿を見ながら、ランは額に一筋の冷たい汗を流していた。
先程まで激しく燃え盛っていた火鼠の衣も、二週間前に初めて彼の手足に宿ったそれを見た時のような、火の粉のように頼りない物に戻っている。風が吹けば消えてしまいそうな、まさに風前の灯火といった様子だ。

「……………」

――少し、やり過ぎてしまっただろうか……?

いや、とランは脳裏に浮かんだ自分の考えを否定するように軽くかぶりを振る。
今の自分に、弟子に対して手心を加えるような余裕は残されていなかった。少なくとも、実践経験の浅い少年相手に、大人げなくも隙を見せて誘いを仕掛けなければならなかった程度には。
そう考えれば、自分のいない二週間の間に……この少年は、一体どれだけの成長をした事だろうか。きっと旅に出てからも、この少年は何か刺激を受ける度に。それをこうして、自分の力としていってくれるのだろう。

何はともあれ、今日の所は。

「メイ。見ての通り、私の勝ちだ。これで文句は無いだろう」

ランはメイの方へと向き直り、言った。
息一つ乱さず無傷で立つランと、終始攻勢をかけながらも倒れ伏すルウ。
水が高きから低きに流れるが如き。太陽が東から昇り西に沈むが如きの、そういう当然の結末。勝ち誇るでもなく、ランはメイに言う。
だが、メイとリンはそうして倒れ伏すルウに、心配して駆け寄る訳でもなく。

「いえ、まだです〜。まだ、終わっていません〜……」

ただぎゅっとその手を握りしめ、固唾を呑むようにして少年の方を見つめていた。
その返事を聞いたランの声に、僅かな苛立ちが籠る。

「……メイ、いい加減にしろ。少年に止めを刺せとでも言う気か?」
「む〜、違います〜!だって……!」
「……ラン。後ろを見てみなさい」
「――何?」

メイに続けられたリンの言葉に、ランが弟子の方へと振り返えれば。

「……っ、はぁっ、はぁっ……!」

そこには、必死に呼吸を整えながら。ふらふらとよろめきながらも。
確かに自らの両足で立ち、続行の意思が籠った瞳でこちらを射抜いている弟子の姿があった。

「…………少年」

ぽかん、と口を開け。ランは唖然とした様子でその光景を見ていた。
何故、今の発頸を受けて立ち上がれる。今のは先の拳のように防がれた訳ではない。
そもそもが発頸とは『衝撃を貫通させる』為の高等技術。鎧を着こんだ相手だろうが、鋼よりも硬い鱗を纏った龍だろうが、それすら関係なく打ち倒す為の技。
それよりも遥かに薄い筋肉しか纏っていない少年が、何故立ち上がれる……?

「ふふ、何が起きてるのか分からない、って顔してるわよ?」
「んふふ、そんなの決まってるじゃないですか〜」

先程とは一転、並んだリンとメイが、勝ち誇ったように言う。

「ランが、発頸を失敗した。ただ、それだけの事ですよ〜?」
「私、が…………?」

ランは呟き、信じられないというような目で己の腕を見やる。
確かに、発頸の中でも拳を密着した状態から放つ『零頸』は、完全に成功しなければその威力は数十分の一にまで落ちてしまうような、そういった類の技術ではある。
だが、それを自分が失敗したという、その事がランには信じられなかった。しかもメイの口ぶりは、まるで自分が発頸を失敗する事を予想していたようにも聞こえる。
一体、どうして――そんな疑問を、ランが頭の中に浮かべるのと同時。


民族衣装で隠された、自らのその内腿に。
明らかに汗とは違う、一筋の熱い液体が伝っている事に気が付いた。


――どくんっ。

「っ!?」

突然、己の内側で抑えていた獣の本能が爆発的に膨れ上がり、ランの視界が微かに霞んだ。
己の意識を奪い取ろうとするその衝動を、よろめきながらも慌てて頭を振って振り払う。が、そうして耐えても、まるでその衝動が収まる気配は無い。
心臓がドクドクと早鐘を打ち、血流は己の体温を高め続ける。嗅覚は少年から漂う精の香りを鋭敏に感じ取り、下腹部に切ない疼きが走る。
呼吸が、整わない。

「ルウっ、ここからが踏ん張りどころよっ!」
「ルウく〜ん、頑張って下さい〜♪」

身悶えるランを余所に。ようやく勝ち目が巡ってきたとばかりに、リンとメイからルウに黄色い声援が飛んだ。
火鼠の衣がもたらす高揚の効果は、それを纏っている本人だけに留まらない。
それが伽の場であれば、相手となる異性に。それが戦いの場あれば、相対する相手の精神にも僅かながらの影響を及ぼす。
それは通常であれば、闘志を燃え上がらせ、戦いの中で発散させる事が出来る性質を持つものだ。
だが、今のランは平静な状態ではない。今にも暴れ出しそうな獣欲を、己の鉄の意志で縛りつけ、なんとか平静を保っていたような、非常に危うい状態だった。

「っ、はいっ……!!」

ランの体調は万全ではない。
それでもルウはランに遠く及ばない。

ルウはこの二週間で大きく成長した。
それでもルウはランに遠く及ばない。

ならば――そのランを、もっと、もっと弱くしてしまえばいい!

「っ、く、ふぅぅぅぅ…………っ!!」

瞳孔を開き、犬歯を見せ。その身に宿った獣性をむき出しにしたようなランが、荒い息を吐きながら構える。
構えと言っても、いわゆる武術における構えではない。餌を前にした捕食者が、今まさに獲物に飛び掛からんと力を溜めているような――そういった類の構えだ。

それに対して、少年もまたその構えを変えた。
比較的腰が高い位置にあったリンの構えから、足を大きく広げ、腰を深く落とす。

「はぁぁぁぁ…………ッ!!」

深く息を吐きながら、鍵爪のように指を曲げた開掌を、身体と共に半身に構える。
それは、今まさに自分が対峙している師匠の本来の構え。呼吸、体重、筋肉即ち内功に外功――ありとあらゆる力をその拳に乗せ。全てを弾き、全てを打ち倒す為の剛の構え!

「…………っ!!」

瞬間。その強靭な脚力で地面を蹴ったランが、一瞬にして少年の眼前に現れた。
ランが振り上げた腕に煌めくのは、鉄すらをも紙きれのように切り裂く猛獣の爪!
二週間前、全力のリンとメイの組手を初めて見た時と同じ。それを見る少年の目が、ランの動きに追い付いていないのだ。

「っ!!」

だがそれでも少年は反応した。上方から迫る爪を、十字に組んだ腕で受ける。
あまりの衝撃に、靴の底が微かに地面にめり込んだ。

「はぁぁッ!!!」

それを横に逸らすと同時。頂肘と呼ばれる踏み込みを伴う肘打ちを、がら空きの腹部に打ち込む!

「…………!?」

しかしルウの肘に帰ってきたのは、まるで薄皮に包まれた岩を打ったかのような、信じ難い衝撃。
それに違わず。ランはダメージを受けたような素振りも無く、僅かに後退したのみ。彼女はすぐに体勢を整えると、再び目では捕えられない程の速度で姿を消し――今度は横薙ぎに、その腕を振り抜いた!

「っ!!」

更に深く身を屈める事で、少年はこれも回避に成功する。姿勢が崩れたランに、今度は渾身の崩拳――右中段突きを叩き込み、さらに追撃の鉄山靠。背中を用いた独特の型による体当たりで、ランの身体を吹き飛ばす!

二週間前に見たリンとメイ。そして今対峙しているランには、一つの大きな違いがある。
それは――いくら超高速で動いていようとも。本能のままに暴れているが故に、己の次の動きを隠そうとする意志が無いという事。

「あ、ぁぁぁぁッッ!!!」

だから視線が。呼吸が。重心が筋肉の動きが。ランが動きを止める一瞬のみ確認する事の出来るその全てが、次の動きを教えてくれる。
少年の手足の炎が激しく燃え上がる。少年の周囲でランが地面を蹴るたび、凄まじい音と共に地面が抉れ、超高速で襲い掛かってくるそれを、ルウが迎え撃つ!

「―――――っ!?」

だが。
如何にランが本能に支配されていようとも、ランの鍛え抜かれた身体は、やはりそれだけで充分過ぎる程の脅威だった。
少年が反撃の拳を打ち込む一瞬。攻撃が当たろうともダメージが無い事を学習したランが、身体で強引にこちらの拳を押し返してきたのだ。
結果として、少年の体勢は崩れ――鋭い風切り音が、ルウの身体を通り抜けた。

「………………っ」

少年は自分の身体を見下ろす。
衣服は大きな爪痕状に破り去られ、そこからは己の素肌が顔を覗かせていた。
例え魔物娘が魔法や牙で人間を攻撃しようとも、その肉体に傷がつく事は無い。その代わりに、彼女達の攻撃は気や精などと呼ばれる生命エネルギーそのものをその身体から漏れださせ、相手を傷つける事無く戦闘不能にしてしまう。
ランの爪も、その例に漏れる事無く。
燃料を無くした火鼠の衣が、少年の手足から鎮火し――少年の身体が、ふらりと前に傾いた。

「……あ……」

そんな弟子の姿を見たランの顔が、一瞬正気に戻った。
自分の大切な弟子が。目の前の大好きな雄が。倒れて怪我をしないように、抱き留めてあげなければ。そういう、理性と本能の目的が一致したがゆえの正気だった。


ランはゆっくりと倒れゆく自らの弟子に、両腕を伸ばし――









――ここだ。

『いいですかぁルウくん。ルウくんがランに勝つには、何とかしてランが完全な無防備になる瞬間を作らなくてはいけません〜』

今にも消えてしまいそうな意識の中。
二週間の間に、幾度も言われた言葉を繰り返す。

『ルウとランの間には、ルウには想像できない程の経験の差があるわ』
『ええ。いくらルウくんの呑み込みが早くても、駆け引きばっかりは実戦の場数を踏まないと身に付きません〜。下手にランの隙を作ろうとしても、返り討ちになるのが関の山でしょう〜』
『そもそも、ランの外功って完璧過ぎて、私達でも相当いいのを入れないとまるで効かないのよね……』

だから。
そう、だから。

『だからルウくん、チャンスは一瞬、一度きりですよ〜?』
『ランが平常心を失って、ルウが力尽きて。ランの本能と理性、その両方が無条件の無防備でルウを受け止めようとする、その一瞬に……』





『あと一歩だけ、根性で踏ん張りなさいっ!』 





「あ、あああああぁぁぁあああああっ!!!!!」

目の前の光景に、ランは驚きに目を見開いた。
抱き留めようと腕を伸ばした先。もはや手足に炎を纏わぬ少年が咆哮を上げ、その瞳に再び光が宿ったから。

頭の中には靄がかかったようで、痺れる手足は鉛のように重い。
それでも少年の身体は動いた。
幾千幾万と繰り返してきた通りに動いた。
足から生まれた力は骨盤へ。骨盤から背骨、肩を通りランの下腹部――丹田目掛けて打ち込む拳に、その全てを収束させる!


数瞬遅れて、少年の体重からは考えれば不釣り合いな程の、一際重い踏み込みの音が周囲に響いた。


「ぁ…………」

結論から言ってしまえば。
少年が決死の覚悟でもってして直撃させたこの攻撃は、しかしランには殆どダメージを与えられなかったと言っていい。
あれだけの無防備を晒して尚、ランの鍛え抜かれた外功は、それ程までに外部からの衝撃を緩和した。
その殆どは瞬間的に収縮した強靭な筋肉に阻まれ、身体の内側に伝わったのは微かな揺れと言っても差し支えない程に弱々しい物だった。

だから。

ランが『こんな状態』でもなければ、この少年の最後の一撃は、全くの不発に終わっていただろう。

体内に響いたのは、僅かな揺れ。それで充分だった。
ランが魔物の本能を、その強靭な精神で抑え込んでいたのと同じように。鋼の如き肉体で覆われている――その、飢えきった子宮に、刺激を与える為には。

「ぁ、ぁ…………っ!!?」

下腹部の疼きが、びりびりと全身に広がり始める。
わなわなと身体を震わせながら、腕の中にいる小さな弟子の背中に縋りつくように手を回す。

身体に。足に、力が入らない。
がくりと、膝をつく。

だが、それがいけなかった。
そんな状態で――彼女は、汗ばんだ弟子の首元に顔を埋め。
獣の鋭敏極まりない嗅覚で、その香りを、胸いっぱいに吸い込んでしまったのだから。

「……っ…………!!」

声だけは漏らすまいと、必死に声をかみ殺したランの身体が、がくがくと震え……そうして彼女は、力無く地べたにへたり込んでしまった。

「ラン、師匠……?」
「っ……ち、違うっ、これは……ち、違うんだ……っ!」

顔を真っ赤にし、息も絶え絶えな様子で余韻に身体を震わせているラン。言葉では否定しているが……その様子は、少年がリンとメイという二人の師匠と交わる中で、幾度となく見てきたものと同じそれ。
そう。ランは押さえ続けてきた衝動が僅かな衝撃によって暴発してしまい、軽くとはいえ絶頂を迎えてしまったのだ。不意の事態に腰が抜け、身体に力が入らなくなってしまっているのだろう。
対する少年は、立っているのがやっとという様子の、ふらふらとした頼りない足取り。肩を大きく上下させながらの荒い呼吸。

だが――立っている。
確かに彼は今、自らの二本の足で立ち。
足元にへたり込んだ師匠の姿を見下ろしていた。

つまり。

――…………あれ?
――僕、本当に、勝っ……

「ルウくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ♪」
「んむぅぅっ!!?」

体当たりの様に抱き着いてきたメイの胸にぱふんっ!と顔が埋まり、ルウは目を白黒させる。
ああ、やわらかい。やっぱりメイ師匠の胸は、温かくてふかふかしていて最高なんだけれど――今抱き着かれると息が!息が……っ!!

「良くやったわ、ルウっ!」
「ぷはっ、はぁ、はぁ……っ!?」

酸欠寸前で、ルウは一拍遅れて抱き着いてきたリンの手によってメイの胸の谷間から救出され。息を整える間もなく、今度はその瑞々しい唇で口を塞がれる。
だが、リンはルウが息を荒げている事をしっかりと考慮しているようで、その口付けは呼吸が出来る程度に軽く唇を合わせ、舌の先端同士を軽く絡めるソフトなもの。
そうして二人が合わせた唇の隙間から、生々しい呼吸の音と水音が聞こえる度に。少年の身体に、少しずつ火鼠の衣が燃え移ってゆく。
徐々に元の勢いを取り戻しつつある、少年の手足の炎。それを満足げに見ていたメイが、ランへと視線を移し、顔に満面の笑みを浮かべながら言った。

「んふふ〜。ルウくんに負けちゃいましたね〜、ランっ?」
「…………っ、ま、待て!これは……!」

顔を真っ赤に染め、動揺に声を震わせながらも必死に反論をしようとするラン。
だがその言葉は、ルウとの口付けを終え、微かに目を潤ませたリンの言葉によって遮られる。

「いいえ、待たないわ。……この子がもう我慢できないみたいだし」
「え……?っ、ひゃっ!?」

ランの口から、普段の様子からは考えられないような可愛らしい悲鳴が漏れた。
座り込んでいたランの膝の裏と首後ろに両手を回したルウに、突然その身体を抱え上げられた為だ。
そうして、少年はランを抱きかかえたまま踵を返し、しっかりとした足取りで歩を進め始めた。
メイとランは、静かにその後ろについてきている。

「し、少年……?」

横抱き、又はお姫様抱っこと呼ばれるこの体勢は、二人の背丈が同程度、もしくは抱える方の背が高ければ、両者の視線がしっかりと合うようなものになっている。
逆に言えば、今回のように抱き抱えられる側の背丈がもう一方を上回っている場合はその限りではない。少年が俯き気味な事もあって、ランからは今の弟子が一体どんな表情をしているのか、確認することができない。

だが、彼が歩を進めているその目的地は、彼女にも察する事が出来た。
彼の、寝室だ。

「…………っ!」

火鼠の衣によって、精神の昂ぶりと共にもたらされる発情の効果が、最も強く及ぶのは……当然、自らの身体にその炎を纏っている本人。
相変わらず、己を抱える少年の息遣いは荒い。
だが、それは息切れの為というよりは……先程までの自分と同じような。溢れそうになる内なる衝動を、必死に押し殺しているようにも聞こえる。

「ま、待て!少年、まさか今から……!?メ、メイっ、リンっ、少年を止めてくれ!せ、せめて、身体の支度くらいは……っ!それに今の少年は、限界を超えた身体を火鼠の衣の力で無理やり動かしているようなものだろう!?」
「んふふ〜、大丈夫ですよ〜。ルウくんはもう、魔物の陰の気をそのまま自分のものに出来る身体になってますから〜。ランとえっちすれば、すぐに元気になります〜♪」
「ふんっ。ランもルウに注いでもらえば、目のクマなんて一発で消えるわ。もう観念して、大人しくルウに抱かれておきなさい」
「それに〜、あの様子だとランが勝っていても、どうせすぐルウくんに襲い掛かっていたでしょうし〜?ちょっとくらい、いいじゃないですか〜♪」
「……っ!?」

ランは慌てたように助けを求めるが、弟子が大金星をあげた事でご満悦の二人に笑顔で返されてしまった。
ランの視界が、混乱でぐるぐると回り始める。

「し、少年……っ!」

ランは思わず、弟子の胸を押しのけようとして――まるで、それを読んでいたかのように、少年の腕に力が籠った。
その小さな体躯に似合わぬ力強さに抱き締められたランの胸が小さく高鳴り。頑強な虎の腕からふにゃりと力が抜けてしまう。

「――っ……!!」

その自らの反応に、ランははっきりと自覚してしまった。
認めざるを得なかった。

自らが――この、まだ幼い己の弟子に、どうしようもなく『雄』を感じてしまっている事を。
ランがそうしているうちに、師匠を抱き抱えた少年はとうとう自分の部屋へと辿りついてしまった。
部屋の中央には、前日にしっかりと干されたような、真っ白な布団。

その上に、ゆっくりと身体を下ろされる。
布団からは、干した後の布団特有の太陽の香りと、少年の精の香り……それに混じって、僅かながらリンとメイの匂いが感じられた。それにまた、少年は確かにここであの二人と交わっているのだという事、そして自分もこれからそうなるのだという事を、どうしようもなく強く意識させられる。
少年に続いて部屋に入ってきた二人が、ぴしゃりとその扉を閉じる。部屋の外からの光が遮られ、光源はルウとリンの身体に宿っている炎のみとなる。途端に部屋の中は薄暗闇に包まれた。

小さな体躯に、両腕を押さえられながら覆い被さられる。弟子との間には、軽く振り払える程の筋力差があるはずなのに――身体に、力が入らない。
互いの息がかかる程の至近距離。互いの顔がはっきりと見える。その目には、確かに熱に浮かされたような色が混じっていて。今の彼が、自分を雌として見ているのだという事が、否応なしに伝わってくる。

――ああ、対する自分は。
――今、一体、どんな顔をしているのだろうか。

「……ラン師匠」

少年が、口を開いた。

「僕は、ラン師匠の事が大好きです」

ランの獣の瞳には、薄暗いこの部屋の中でもしっかりと少年の顔が映っている。
彼が今、どんな表情をしているのかも。

「ラン師匠と、離れたくありません」

ぴったりと身体が密着している体勢だから、分かる。
彼の心臓が、自分と同じように早鐘を打っている事も。

「これからも、一生懸命修行します。師匠の言う事をちゃんと聞いて、いつか絶対に、もっともっと強くなって――今日みたいな方法じゃなくて。全力の師匠を相手に戦えるような、師匠に相応しい男になってみせます!」

彼が身体を微かに震わせながら、必死に言葉を紡いでいる事も。

「だから、僕と、ずっと一緒にいて下さいっ」

言葉を返す間もなく、弟子の小さな唇で口を塞がれる。

「……っ!?」

柔らかい。甘い。
まだ幼い弟子の、そのふにふにとした柔らかい唇の感触と、微かな唾液の味がランの身体を震わせた。
さらに、少年の唇の間からこれまた小さな舌が現れ、身体を強張らせるランの口内へするりと潜り込んでしまう。
猫科特有のざらざらとした感触の舌に、少年の舌が絡められる。同時に、手首を抑えつけている両手に力が込められ。ランの全身が完全に弛緩してしまう。
どちらのモノとも分からない荒い息遣いと、互いの唾液の奏でる水音が、薄暗い部屋の中に響いている。

「っ、はぁ、はぁ……っ」

やがて少年の手は、もはや抵抗のないランの両腕を離れ、ランの纏う霧の大陸の民族衣装の内側へと滑り込み始めた。
鍛えられ、絞られた筋肉がうっすらと浮き上がっている腹回りや、その技の数々を支えている太ももを小さな少年の手で愛撫され、塞がれているランの口の隙間から小さな嬌声が漏れる。
少年はランのうっすらと涙に濡れた瞳に胸を高鳴らせながら、触れた身体のその柔らかさに驚いていた。
しなやかな筋肉は、脱力するととても柔らかくなるという事は知識として知っているが……これが本当に、先程まで相対していた師匠の身体なのだろうか。まるで鋼のようだった筋肉が雄を受け入れる為に弛緩し、ふにふにとした感触で少年の手を楽しませているのだ。

「っ、んっ…………っ」

おずおずとランが舌を絡め返し始める。それを合図に少年は民族衣装のスリットのさらに奥まで手を伸ばし、ランの下着へと手をかけた。
ランは一瞬、戸惑ったような素振りを見せて……結局、静かに腰を浮かせ、そのまま少年に下着を脱がされてしまう。
そうして――衣服の下で露わになったランの秘所に、ルウの小さな指がそっと添えられた。

「ラン師匠、凄く濡れてます……」
「っ、馬鹿、そんな事、報告しなくてもいい……っ!」

濡れてしまっている事など、当然のように自覚している。二週間ぶりに弟子の姿を見る事が出来たあの時から、すっと下半身の疼きはその酷さを増し続けていたのだから。
少年はぴっちりと閉じた秘所から溢れ出た愛液を指にまぶし、ランの陰核に刺激を加え始めた。

「っ、ひぁ……っ!?」
「……っ」

少年は息を呑む。強さと高潔さ、二つの単語をそのまま擬人化したかのような存在の師匠が切なげに眉根を寄せ、己の下で女としての喜びの声を上げているのだ。
あまりにも背徳的で、あまりにも扇情的なその光景が、まだ幼い少年の雄としての本能を煽る。もっとこの雌を鳴かせたいと、指の先端に力が籠る。
ランの身体が、微かに震え始めた。うっすら汗の滲む身体をぴんと逸らし、怯えているようにも見える様子で必死に少年に抱き着いている。
そうして――あまりにもあっけなく、ランは二度目の絶頂を迎えてしまった。

「っ…………あ、あぁぁぁ……っっっ!!」

それも、先程のような、中途半端な暴発による絶頂ではない。
限界まで溜まりに溜まった性欲。それによって高められた性感が、他ならぬ愛しい弟子の手でこね回されているのだ。
しかもその少年は、ランがとっくに絶頂を迎えているというのに、一向に手を止める気配がない。

「っ、ま、待て、少年っ、もうっ……んぅっ!?」

それどころか静止の声をかけようとしていたランの口を強引に塞ぎ、もはや力なく震えるばかりの師匠の腕を再び布団に抑えつける。

「…………っ!?…………っ」

甘い快感を与え続けるような秘所への愛撫とは、真逆。弟子のそんな姿は、ランの裡に眠っていた被虐的な興奮を呼び覚ますのには十分過ぎる効果があった。
彼女にとって最早世界でただ一人の雄である少年に口を塞がれ、彼の思うがままに快感を与えられ、身を捩じらせている。
声をあげる事もできず幾度も絶頂を迎えるランと、そんなランを思うがままにしている少年。二人を部屋の隅やら見やりつつ、上気した顔のリンは隣のメイに聞いた。

「私も似たような事されたけど……アレってやっぱり、メイが教えたの……?」
「ええ〜。リンやランはああいうちょっと強引な、男らしい感じが好きでしょう〜?」
「……いや、その……嫌いでは、ないけど……」

さらに顔を赤くしながら返事に口籠るリンとは対照的に、メイは自らが房中術を一から手ほどきした弟子がランを翻弄する様子を、えっへんと胸を張って誇らしげに見ている。
リンはこの二週間、彼女と共にルウと寝具を共にしてきたが……布団の上の彼女は、どちらかといえば自分が主導権を握るのを好んでいるように感じられた。
だというのに、房中術の修行を始めた初期から――少なくとも、自分と関係を持った時点でのルウはすでにその技術を身に着けていた。
となれば、メイは最初から自分達もこうしてルウに抱かれるようになる状況を想定して、彼を仕込んでいたのだろう。
……それはランも自分も、骨抜きになってしまう訳だ。

「ぁ、ぁ…………」

リンとメイがそんなやり取りをしている間に、ようやく少年の責めから解放されたラン。
大きな肉球で己の顔を覆い、うわごとのように絶頂の余韻に溺れながら、収まらない痙攣に身体を震わせている。
ルウはそんな師匠の衣服を脱がせ始める。女性用の霧の大陸の衣装は、その深いスリットや身体のラインを強調する密着度の高さとは裏腹に、構造をしっかり理解していなければスムーズに脱がすことが難しい造りになっている。
が、ルウからしてみれば房中術の修行を始めて以来、毎夜毎晩リンやメイを相手に繰り返してきた事だ。手元を見る事すらなく、片手で器用に服の結び目を解き……そうして、とうとうランの裸体が少年の眼前に姿を現した。

「っ…………」

メイのむっちりとした女性的な体とも、リンの小柄ですべすべとした身体とも違う。
まさに獣の如きとでも言うべきか。引き絞られた筋肉がうっさらと浮かぶ体躯は、美しいという言葉以外の形容詞が思い浮かばない。
それ程までに鍛えらえた身体だというのに、胸や腰回りなどはしっかりと脂肪の乗った女性的な肉付きをしている。それが堪らなく少年の劣情を誘った。
いつもは凛々しい印象を受けていた筈の虎の耳や尻尾、毛皮に覆われた手足ですらも、まるで雄を誘うための造形をしているように見えてしまう程に。

もう、これ以上は、我慢が出来なかった。

「ラン、師匠……」

声をかけられ、ようやく我を取り戻したようなランが顔を覆っていた手を除け、弟子へと視線を移せば。
そこには既に自らも衣服を脱ぎ去り、硬くそそり立った自らのモノをさらけ出した少年の姿。
彼は静かにランの足を開かせると、その間に己の身体をするりと入り込ませた。二人の身長差から、ランは自らの弟子を見下ろしているような体勢になる。

「…………っ」

そうして――とうとう、観念したように。
顔を真っ赤にしたままのランが、口を開いた。

「……少年。私は、中途半端な男が嫌いだ」
「はい」
「嘘をつく男も、いい加減な男も、大嫌いだ」
「……はい。知っています」
「本当に、お前は約束してくれるんだな」
「約束します!絶対に、いつか師匠を正々堂々と――」
「……違う。そっちじゃない」

ランはそう言って、弟子から視線を逸らした。

「試合の直後は、あまりにも恥ずかしくてああ言ったが……どんな理由があれ、負けは負け。あの試合は、間違いなく少年の勝ちだ。……それは、納得している」
「え……?」

ならば。他に、何があっただろうか。
ルウは必死に頭を働かせるのだが、いまいちピンと来るものが思い浮かばない。

「その……さっき、言っただろう」

ランの体の横では、黄色と黒の縞々模様の尻尾が、恥ずかしげにゆらゆらと揺れている。

「……私と、ずっと一緒にいてくれると。わ、私の身体は見ての通り、筋肉質で……メイのように女性的でもないし、リンのように可愛らしくもない。もしもこの先、少年に『やっぱりメイとリンの二人だけでいい』などと言われるような事があったら……」

そこでランは、一度口籠り。

「わ、私は……泣くぞ……?」
「…………っ」

初めて見る、ランのそんな弱気な姿に、ルウの胸は大きく高鳴った。
それと同時に、彼女が己を負かした者にのみ体を許すと言った理由も、彼なりに理解が出来た気がした。
彼女は待っていたのだ。己が如何に強大な壁であるか、その全てを理解した上で。
それに挑み、乗り越える程の男であれば。きっと真に自分を欲している男であるはずだ、と。

だから――ルウはランの顔に手を添え、しっかりと視線を合わせながら言う。

「何度でも言います。約束します。僕は、ラン師匠の事が好きです。絶対に――何があっても、師匠の事を、離しませんっ!」
「ほ、本当だな……?」
「本当ですっ!」

互いに荒い息遣いで、無言のまま。
しばしの間、二人の視線が絡み合う。

「…………分かった」

その沈黙を破ったのは、ランの小さな声だった。
縞模様の毛皮に包まれた長い手足を、しゅるりと少年の小さな体に絡みつかせる。

「……し、少年の、好きに、するといい……」
「っ、はいっ!」

くちゅり。

「…………っ!!」

ペニスに愛液を馴染ませる為だろう。ルウが性器同士をこすり合わせ、その予想外の熱にランがびくりと身を震わせる。
同時に、さらに膣の奥から熱い蜜が溢れ出し……数度少年がそれを繰り返すと、少年のペニスは完全にランの愛液でコーティングされてしまった。

そうして――少年はとうとう、最後の師匠の膣内へと、己の一物を押し入れた。

「〜〜〜〜〜〜〜ッッ!?」
「っ、ラン師匠の中、キツ……っ!?」

とうとう己の中へと侵入を許してしまった、待ち焦がれた雄のペニスに、それだけでランはあられもない声を上げながら乱れる。
ルウもまた、経験した事の無いランの膣の快感に身を震わせていた。自分とランの間にはこれだけの体格差があるにも関わらず、ぎちぎちと締め上げ蠕動する熱い膣肉は、気を抜けば肉棒が押し戻されてしまうのではないかという程だ。
そうして――そんな師匠の中に、強引に己の肉棒を突き入れるのは、恐ろしい程に気持ちがいい……っ!!

「っ、しょうねんっ、しょうねんっっ…………あ、あぁぁぁぁっ!?」

極限まで感度が高められている上に、膣の締め付けが強い分、己に返ってくる刺激も強いのだろうか。
部屋に少年が腰を打ち付ける音が響く度、ランはその瞳から涙を零しながら身を捩り、嬌声を上げる。
さらにルウは、腰を動かし続けながら、目の前で揺れる二つの膨らみの先端をその口に含み、交互に吸い上げ始めた。

「ぁ、ひっ………………っっ!!」

その脳天まで突き抜けるような快楽に、とうとうランは人の言葉を失った。
両手足を愛しい弟子の身体に絡みつかせ。最早息を吸う事もままならぬかのように、肺から絞り出したような声を上げ。意識は遥か高い場所へと昇ったまま戻ってこない。
そんな状態でも尚――いや、ランの膣は、彼女が激しく乱れる程に、それに比例するようにさらに激しく蠢き、強く抱き締めるように締め付けてくる。

「っ、らん、師匠っ!僕も…………っ!!」

自らもまた火鼠の衣によって昂っていた少年は、極上の雌を自らの男性器で善がらせるという、男としてこの上ない達成感と幸福感の中で。
そんなランの膣に、吐精した。

「っ……………っっっ!!」

限界まで膨張した少年の肉棒を精液が駆け上がり。その先端から、ランの子宮めがけて勢いよく子種が打ち付けられる。
どくどくと。既に完全に魔物と交わる為の身体へと変貌を遂げている少年は、初めてメイと交わった頃とは比べ物にならない程の子種を吐き出し続けた。

そうして、己と繋がったままの師匠の痙攣が、ようやく収まり始めた頃。

「っ、はぁ、はぁっ…………」

長い長い射精をようやく終え、少年は心地よい気怠さの中で荒い息を整える。
肉体的な気持ち良さは勿論だが。それと同じくらいに、これでランともずっと一緒にいられるという事が、嬉しくてたまらなかった。
ルウは改めて、大好きな師匠の身体に抱き着こうとして――



「――――え?」



燃え盛る自分の両腕が、抑え込まれている。

しばらくの間。一体何が起きたのか、彼は状況を飲み込めずにいた。
未だ硬さを失っていない自分の肉棒が、師匠の性器と繋がっている。その点については、先程までと一切変わっていない。

「はぁ、はぁっ…………っ♥」

だが、いつの間にか。少年は敷き布団を背に、ランの裸身を『見上げて』いた。
そう、少年が抵抗どころか、認識すら出来ない程の一瞬で。恐ろしい程に素早いの身のこなしをもってして、ランが二人の体勢を入れ替えたのだ。

「……ああ、うん。まぁ、こうなるわよね……」
「ええ〜、こうなりますね〜」

何が起こったか全く理解出来ていない様子の弟子とは対照的に、見守る師匠二人はさも当然であるかのようにその光景に頷いていた。
人虎という種族は、確かに普段は理知的で、性的な意味で人間を襲うような魔物ではない。
だが、その裡に秘める獣性はむしろ並の魔物以上であり、夫を持つ個体の発情期となれば百を超える交わりをしなければ満足しない事もある程だ。
そんな人虎であるランが、多少の経験を積んでいるとはいえ、まだ未熟なルウにいいようにされてしまっていた理由。

「あ、あの、ラン、師匠…………?」

それは、先程の試合で彼女が弟子に不覚をとってしまった理由と同じに他ならない。
簡単に言えば……彼女がこの上なく、弱っていたから。


ならば、弱っている彼女が。
魔物にとって何よりのご馳走であり、最も効率の良いエネルギー源である陽の気――精を、吸収してしまったら?


「しょうねんっ、しょうねん……っ♥♥」
「っ、ラン、ししょ……っっ!?」

先程までとは真逆。薄暗い部屋の中で、トパーズのような黄色い瞳を煌煌と光らせたランが、ぱちゅんっ、ぱちゅんっと勢いよく腰を打ち付け始めた。
ランの強靭な下半身によって打ち付けられるそれは、先程までとは比べ物にならない程の快楽をもってして、絶頂を迎えたばかり少年の頭を真っ白に染め上げてゆく。

「ひっ……ぁ………んうっ!?」

そうしてルウは、これもまた先程自分がランにそうさせたように――あっという間に、二度目の絶頂を迎えてしまった。
だが、ランはそれでも止まらない。それどころか、更にその身体に熱を帯びたように覆い被さり、唇を奪い、ざらざらとした舌で少年の口内を蹂躙し、獣のような腰遣いで少年と交わり続ける。

「ちゅっ、少年っ、お前が、約束したんだかりゃなっ♥ずっと一緒に、いてくれりゅ、ってっ♥♥」
「っ、んぅぅぅっ………っっっ!?」

少年の目の前でちかちかと星が瞬き、立て続けの快楽に頭の中が真っ白になった。
三度目の絶頂。だがランは止まらない。壊れた蛇口のように少年に精を吐き出させながら、己の雌として最も大事な場所でそれを受け止める歓喜に打ち震えている。
そこに居るのは、愛する雄を夢中で貪り続ける一匹の獣。もはや少年は、師匠から一方的に蹂躙されているような様子で。暴力的なまでの快楽にその身を震わせ、幾度も幾度も射精を繰り返していた。

「……んむぅ……っ!?」

ふと、そんなランの動きが、ぴたりと止まった。
少年は何かあったのかと、ぜえぜえと息を切らしながら師匠の身体を見上げ……息を呑んだ。

「も〜、ラン?私達だっているんですから、一人占めは駄目ですよ〜?」

何時の間にやら、生まれたままの姿となっているリンとメイが、ランに絡みつくようにして抱き着いていたのだ。
――いや、抱き着いているどころの話ではない。

「んっ……♪えへへ、ランの舌、ざらざらして気持ちがいいですね〜……♪」

メイはあろう事か、じゃれつくようにランの唇を塞ぎ。

「はむ、ちゅぅぅぅぅ………っ」

リンはその張りのある胸の先端に吸い付き、片手をランの下腹部に潜らせている。

「っ、お前達っ、そ、それは、ズルいぞ……っ!?」
「ん〜、だって、単純な腕力だとランに敵う訳ないですし〜♪」
「……っ!!」

師匠達三人の、そんなあられもない姿に。少年の四肢に宿る炎が勢いを上げ、その肉棒はこれまでにない程に硬く膨らんだ。
さらにメイとリンがランを責め立てる度、ランの膣が少年のペニスを更なる力で締め付ける。
ルウはそんなランの名器をもっと味わいたいと、動きが止まってしまったランの腰を両手で掴み、代わって下から突き上げ始めた。

「んんっ!?んんんっっっ♥♥」

少年が一度腰を打ち付けるたび、鈴口がその飢えきった子宮口をコツン、コツンとノックする。
その度に、ランは意地悪な顔をしたメイに口を塞がれたまま。鼻から抜けるような情けない喘ぎ声をあげながら、その身体をぶるぶると震わせる。
ルウの突き上げが、徐々に激しいものに変化してゆく。それに合わせるように、メイとランの愛撫もまた激しさを増してゆく。

「ラン師匠っ、また、出ます…………っ!!」
「っ、ひっ……っ!?」

ズンッ、と。ルウのペニスが、一際深くまで突き入れられた。
そうして――ルウは、短い悲鳴を上げたランの最奥を、肉棒で深く捩じり上げながら。
ぴんと身体を逸らせ、ランと共に限界を迎えた。

「っ、んんんんんんぅぅぅうぅっっ♥」
「っ、うぁ、あぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

口、胸、クリトリスに膣。その全てで絶頂を迎えたランの身体が、雷に打たれたように痙攣していた。
同時に射精を受けたランの膣は、この雄の精をもう一滴も残すものかと。これまでで一番の力で弟子の肉棒を締め上げ、蠕動する。
その強烈な刺激に、かつてない量の精液を吐き出すルウもまた、悲鳴のような嬌声をあげていた。

「っ、ぁ……ぁ…………♥♥」

やがて、永い永い射精が終わり。やや柔らかくなったルウのペニスがちゅぽん、とランの秘所から抜けると……まるで、今まで己の膣に入っていた肉棒でバランスを取っていたかのように、ランの身体がふらりと後ろに傾いた。
そんなランを、ニヤニヤと良からぬ事を考えているような笑みを浮かべたメイが抱き留める。

「はいは〜い、ランはもう少し、こっちで私と遊んでましょうね〜♪」
「え……いや、ま、待てっ……んぅっ!?」
「うふふ、待ちませんよ〜♪次はリンの番ですから、しばらくルウくんはお預けです〜♪」

体に力が入らず、未だ視線も虚ろなランを、メイがずるずると引きずってルウの身体の上から下ろす。
それと入れ替わるようにして、起伏の少ないながらもすべすべとした柔らかなその裸体を晒したリンが、寝ころんでいる少年の足元に立った。

「…………」
「リ、リン師匠……?」

リンはいつものように頬を赤く染めながらも、気難し気な顔で。
無言で、少年の股間近くで身を屈め――ランの愛液と、ルウの精液にまみれたその肉棒を、静かに口に含んだ。

「っ、りん、ししょぉ……っ」

ぴちゃ、という水音が響く度。ペニスに付着した体液を、リンの小さな舌が優しく舐めとってゆく。
先程までとは真逆の、繊細で優しい刺激に、少年は身悶えながら師匠の名前を呼ぶ。
一方、そうして無言で弟子の陰嚢までもを綺麗に舐め清めているリンにも、ある変化が起こっていた。

「んっ、ちゅ……」

リンの身体に纏う炎の勢いが、目に見えて小さくなり始めているのだ。さらに勢いが弱まるにつれ、その色も徐々に白に近い色に変化してきている。
もはやリンの身体は、完全に少年の事を自らの夫だと認識してしまっている。愛する夫の精は、火鼠の衣の炎の勢いを瞬く間に弱めてしまうのだ。
それは即ち――精神を高揚させる炎によって隠されていた、彼女達本来の性格が表に現れるという事でもある。

「…………」
「あ、あの……リン、師匠……?」

すっかり綺麗になり、再び硬さを取り戻した少年の肉棒から口を離し、リンは少年の上へと覆い被さった。
だが、先程の気難し気な表情から更に目尻が下がり。頬を少し膨らませ、目を潤ませたその顔は。まるで……彼女が、拗ねているようにも見える。

「ルウの、バカっ……!」
「ひっ!?」

乳首を急につねり上げられ、少年は短い悲鳴をあげた。

「何よ、見せつけるみたいにランとイチャイチャして……私には、あんな事言ってくれた事無いのにっ……」
「いや、あの、そ、それはっ……」

少年は慌てた。リンと初めて交わった時はメイの仲介があったし、それ以降も常に今日のランとの試合に備えた三人での交わりであった為、そもそも二人きりのそのような雰囲気になった事がなかったのだ。

「も、勿論、リン師匠の事も大好きで――痛いっ!?」
「もうっ、言われてから言ったんじゃ遅いの!」

ぴんっ!と指で額を弾かれ、ルウは涙目で額を押さえた。
不満げに頬を膨らませたリンは、そんな無防備な弟子の唇を奪う。

「んっ……」

リン小さな舌が、ルウのそれに甘えるように絡みついてくる。
ルウがたまらず己の上に覆い被さっている愛しい師匠の身体を抱きしめると、その小さな体が嬉しげに震えた。
二人は息をするのも忘れたように、夢中で舌を絡め、互いの唾液を交換する。
リンはルウに口付けたまま、ぎゅ、としがみつき。そのままごろりと横に身体を回転させた。二人の上下が入れ替わる。
やがて、ようやく二人がその唇を離すと――つつ、と二人の間に唾液の橋がかかり、静かに重力に引かれて崩れていった。
下から、とろんと蕩けた目で。ルウを見上げながら、リンが言う。

「……ふんっ。しょうがないから、態度で示してくれたら……許してあげる」
「……っ、はいっ!」

嬉しそうに返事をしたルウは、口付けによって先走りが溢れる程に高められていた己の肉棒を。
一気に、根元まで師匠の中へと突き入れた。

「っ、るう…………っ♪」

にゅるんっ。
リンの唾液と愛液を潤滑油として、その挿入は実にスムーズに行われた。
こつん、と己の膣にピッタリな大きさのペニスに子宮口をノックされ、リンはその身を歓喜に震わせる。

「リン師匠………」
「んっ……♪」

今度は自分から。ルウは再びリンと舌を絡め始める。
細い尻尾を揺らす師匠の小さな体躯をしっかりと抱きしめ、ゆっくりとした腰遣いでその最奥をこね回し始める。
穏やかな、しかし確実に二人を絶頂に導く深い快感が、ルウとリンの触れ合っている場所全てから広がってゆく。

「んぅっ…………っ♪」

水瓶に溜まった水が溢れるように。二人は同時に、穏やかな絶頂を迎えた。
リンの表情に、もはや不安や不満の色は無い。超至近距離で互いの目を見つめ合いながら。子宮口へと直接子種を打ち付けながら。打ち付けられながら。ペニスが脈打つたびに身体を震わせるルウの腰には、しっかりとリンの両足が巻き付けられている。
お互いの唇自体は、少し離れている。だが二人の舌はしっかりと絡み合い、互いの唾液が混ざり合う水音が周囲に絶え間なく響いている。

「ちゅっ、んっ…………♪」

どくり。どくりと。
一度溢れた水が留まる所を知らないように。途切れる事の無い川の流れのように。
ルウのペニスは、リンの膣中で脈打ち続ける。そうして精が放たれる度、リンもまた脈動と同じ数の絶頂を迎えていた。
どくり。どくりと。

「っ、るぅ……っ♪」

やがて――その最後の一滴までもを出し尽くし。
小さな師匠とその弟子は、穏やかな表情で啄むようなキスを繰り返す。

「ちゅ……るぅっ、すき…………っ♪」
「んっ……僕もです、リンししょ「じゃあ次は私の番ですね〜♪」ぉぉぉぉっ!?」

そんな甘ったるい二人のピロートークは、突如現れた乱入者にルウが攫われてしまった事によって終わりを告げた。
言うまでも無く、その乱入者とはメイの事である。

「ルウくんっ、ルウくぅんっ♪ん〜、やっと私もルウくんとえっち出来ます〜♪」
「んぅっ!?」

あっという間に、ルウの身体はむちむちの肉体と毛皮に包まれてしまった。ぱふっ、とその豊満な胸に顔を押し付けられながら、わしゃわしゃと頭を撫でくり回される。
普段からテンションが高めなメイではあるが、今日はそれに輪をかけて少年への愛情表現が激しい。
どうやら彼女も、ランやリンと少年の交わりを傍で見ているうちに、もう限界まで発情しきってしまっているようだった。少年が胸の谷間から顔を上にあげれば、そこにちゅ、ちゅっというキスの嵐。

「それでは早速、いただきます〜……っ♪」
「っ……ぁ……!!」

にゅぷっ。
自身の精液と、リンの愛液にまみれたままの肉棒が、今度はメイの膣内へと飲み込まれた。
メイのそれには、まさに『飲み込まれる』と表現するのが相応しいだろう。少年の肉棒を入り口に感じた瞬間、膣全体がぐねぐねと蠕動し。より奥まで、奥までと少年のそれを引き寄せてくるのだ。
既にランとリンの二人に大量の精を放ち、快楽に蕩けたルウの肉棒は、しかし未だ変わらぬ硬さを保ち続け。メイの体と膣は、そんなルウをふわふわとした快楽の中で抱きしめている。

「っ、待っ、めい、ししょぉ……っ!?」
「えへへぇ、っ♪この少しの間でっ、ルウくんは、随分と立派な男の子になりましたねぇ、っ♪」

その柔らかな臀部が、リズム良く少年の腰に打ち付けられる度に。
下からの少年の炎によって照らされたメイの豊かな肢体が、薄暗闇の中で扇情的に弾む。

「ランと試合をして、二人を相手にした後なのにっ、こんなに、元気で……っ♪私だけの、ルウくんじゃ無くなっちゃったのはっ、ちょっと寂しいですけどぉっ♪」

初めてメイと一線を越えたあの夜から、幾度となく求め、味わってきた肉体。だが、例え百年の間交わり続けても飽きる事など無いだろうと確信させられる、魔性の体。
だが、今や少年と共に同じ床に入るのは、彼女一人ではない。

「……人がいい雰囲気の時にルウを掻っ攫っておいて、よく言うわ……」

ふんっ、と涙目で鼻を鳴らしながら、リンが。

「っ、メイぃ……っ、早くっ、代わってくれ……っ♥」

メイに一対一で弄ばれ、その分だけさらに瞳に獣性を宿らせてしまったようなランが。
同時に、少年の両乳首に、吸い付いた。

「ひぎぃぃぃっ…………っ!?」

完全に不意打ちで流れてきた電撃のような快楽に、少年は身体を逸らし悶える。
リンのぬるぬるとした舌。ランのざらざらとした舌。ちゅうちゅうと愛おしげに吸い上げられ、熱い咥内で容赦なく弄ばれる。

「えへへ、順番ですからっ、しょうがないじゃないですかぁっ♪」

そんな弟子の姿を見たメイは、さらに興が乗ってきたかのようにぺろりと舌舐めずりをして。
ぱちゅんっ、ぱちゅんっ!と。荒馬を乗りこなすように激しく腰を打ち付け始めた。

「師匠っ、師匠っ…………っ!!」

うわ言のように繰り返すルウの肉棒が、メイの中で大きく膨らむ。

そして。

どくん、と。

「あはぁ、っ……っっ♪」

どくどく、と。
自身の豊満な身体を抱きしめるように悶えるメイの中で、少年は今日一番の絶頂を迎えた。
左右で感触の違う舌が与える両乳首への刺激が、その快感を何時までも長引かせ、少年の頭の中を真っ白にしてゆく。

「っ、はぁっ、はぁっ……」

いったい、どれだけの時間そうしていたのだろうか。
ようやく永い永い絶頂を終え、少年は荒い息で、夢見心地のまま瞼を開ける。

「少年っ、まだ、出来るよな……?」
「ルウっ、私も、もっと……」
「ルウくんは強い子ですから、まだまだいーっぱい頑張れますよね〜……♪」

そこに居るのは、どんなものよりも大切で、大好きな、師匠達の姿。
瞳の奥に獣欲を宿らせた目。眉尻を下げ、寂し気に瞳を濡らした目。声を弾ませ、きらきらと瞳を輝かせている目。
三人とも、大好きな師匠で。自分はもう、彼女達と生きる為の身体になっている。

だから何も、拒む理由などある筈もない。
だから少年は、呂律の回らぬまま答えた。

「はいっ、ししょぉ……っ♪」

直後。

三匹の獣が、まだ幼い少年の身体へ襲いとかかり――寺から聞こえてくる嬌声は、それから三日後の日が落ちるまで止む事は無かった。

20/10/06 22:52更新 / オレンジ
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■作者メッセージ
一話一話の長さを統一する技術と、筆の速さが欲しいです。

あと一話、最後にエピローグを投稿して彼と師匠達のお話は終わりになります。

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