ざわ…

　　　　　　　　ざわ…



「ん……っ、んんぅ……」

陽の光がまぶしい…

「あらパスカル様。ようやくお目覚めになりましたか。」
「うっ！？し…しまった！いつの間にかこんなところで寝てしまっていた！」

パスカルは慌てて身体を起こす。
どうやらそのままベンチで三人寄り添ったまま寝てしまっていたらしい。
声をかけてくれたのは、一般市民のスケルトンだった。
それ以外にも、いつの間にか広場には大勢の一般市民が集まっていた。
その人数はもはや祭りが開催できそうなほど大規模なものだった。

ちなみに、イリーナとイレーネはまだパスカルに寄りかかったまま寝ている。


「大分お疲れのようでしたねパスカル様。
さしあたり、気分転換の散歩の最中に睡魔に襲われたのでしょう。」
「ええ、全くをもって図星ですよ。僕としたことが恥ずかしい…」
「いいじゃないですか。たまには青空の下で水入らずで寝るのも。」
「水入らずって言うのは見られちゃだめなんですよ？まあそれはともかく、
皆さんはここに集まって何をしているのですか？」
「ええ、見ればすぐに分かりますよ。それよりも、お腹がすいていませんか？
よろしければ私が何か朝食をお持ちいたしましょうか？」
「いえいえ、そこまでお手数はおかけいたしません。
そろそろ二人を起こして仕事場に戻りますから。」
「そうですか…。分かりました、ですが無理なさらないでくださいね。」


そのスケルトンは、ゆっくりとその場を後にして、人ごみの中に戻っていく。
パスカルもこのままではいささか恥ずかしいので
早めに二人を起こすことにする。


「ほらイリーナ、イレーネ。朝だよ。」
「む〜、朝…ですか？」「おはよー、お兄…ちゃん。」
「おはよう二人とも。よく寝られたかい？」
『えっ！？』

目が覚めた双子は慌てて周囲を見回す。
きょろきょろする動作まで本当にそっくりだ。


「ご、ごめんなさい兄さん！私ったらなんてことを！」
「あ〜ん、こんなところで寝ちゃった！」
「まったく、しょうがないな二人とも。寝るときはちゃんと布団で寝ようね。」
『はーい…』
「くすっ、まあやっちゃったことは仕方ない。
せっかくだからどこかの食堂で朝食を貰おうか。」
「うん！私もうお腹ぺこぺこだよ！」
「兄さんと外食するのは久しぶりですね。」

三人はようやくその場から立ち上がった。


「おっと、そうだ。おはよう、アネット。」
「おはようございますアネット姉さん。」
「おはよーアネットお姉ちゃん。」


大勢の人々が集う広場の中央に、毅然とたたずむ女性の像。
雲ひとつない青空から降り注ぐ日の光を浴びて、白く輝いている。

「アネット…。君のおかげで懐かしい夢を見たよ。」
「夢ですか？そう言えば私も長い長い夢を見たような…」
「私も夢を見たの！でもあんまり詳しいことは覚えてないけど。」
「きっと僕たち三人とも同じ夢を見たんだろうね。
せっかくだから朝食を食べながら夢の内容を……」


話しながら通りに出た途端、パスカルは一瞬で市民たちが集まった理由を理解した。


「バリケードが…！」
「え、ええっ！？何で道に壁を作ってるの！？」
「それに建物の上でも何か設置しているみたいです…」


集まった市民たちは、袋に土を入れて土嚢を作り、大通りにバリケードを設置していた。
その上中心市街地の屋根の上にも、木で出来た足場が組まれている。
それはまるで、十年前の革命を再現したようだった。


「み、みなさん！これは一体…！」

「これはパスカルさん、見ての通りです。私達は敵の侵攻に備えてバリケードを作っています。」
「私達も分かっています。敵は明日明後日にも城壁を突破してくるかもしれません。」
「いえ、決してフェデリカ市長と将軍たちが信用できないわけではありません！」
「…ですが私たち市民も黙ってやられるわけにはいきません。」
「たとえ敵が城壁を突破してきても、私達はここを最後の砦として耐え抜きます。」

「みなさん…本当に申し訳ない。本来なら市民を戦闘に巻き込んではいけないというのに…」

「気にすることねぇよ！俺たちが好きでやってんだからさ！」
「泣き寝入りしたとあればアネットさんに顔向けできねえや。」


市民たちは再び戦おうとしている。

かつて自分たちの手で自由をつかんだように、

今度はその手にある自由を守ろうとしている。



「おーいパスカル！ここにいたのか、探したぞ！」
「はっ、フェデリカ様、いらっしゃったのですか。」
「まったく、散歩に出たまま戻らないって聞いたから心配したよ。」

いつの間にか、フェデリカもここへきていた。
相変わらずの巨体っぷりは、大勢の市民の中でも特に目立つ。

そうそう、フェデリカ市長はついこの間戦っている最中に念願の夫を手に入れていた。
その男はどうやら教会騎士だったらしいが、いまではすっかりここの生活に溶け込んでいる。

………

この戦いが終わったら正式に結婚するらしい。



「しっかし、また見事にバリケードを作ったな。しかもあの時よりよっぽど頑丈そうだ。」
「ええ、まったくです。」
「本当はここまで追い詰められていること自体、十分市長失格なんだろうな。
だがここは自由都市アネットだ。市民がやりたいって言うならそれでもいいかもしれない。」
「そうですね、今は彼らを信じましょう。
彼らも僕たちを信じて頑張ってくれているのですから。」


ぐうううぅぅぅ〜〜〜

「あっ…」「ふぇ…」「はうっ…」
「はっはっはっはっは！なんだまだ朝飯食べてないのか！
だったらその辺の店で食べてきな！腹が減っては戦はできないからね！」
「お恥ずかしい限りです…。」
「行きましょう！兄さん！」「お兄ちゃん！早く早くー！」
「わかったわかった。わかったから二人とも引っ張らないで（汗
で、ではフェデリカ様、失礼します！」
「おう！たらふく食ってこい！」


パスカルは二人の妹……いや、二人の妻に手を引かれながら大通りを駆けていく。



活気と自由に充ち溢れた都市、アネット。

一時の平和が破られる時はそう遠くないかもしれない。

もしかすれば、自分や妻たちも命を落とすかもしれない。

だからこそ、もっと人々の笑顔が見たい。

もっと二人の笑顔を見たい。

がんばろう。

この世界を失いたくないから。


明日は来る　僕たちが生きる限り


だから


一日でも長く


一秒でも多く


笑って過ごしたい。



も　う　す　こ　し　だ　け　！　！





-Fin-

…Continue to 『Heroisch Feder　Kapitel：11』

■作者メッセージ
おわりに

ごきげんよう皆さま。通りすがりのエンジェルです。

連載小説『ミゼラブルフェイト』、これにて終幕となります。
どなた様も席をお立ちになる際はお忘れ無きよう
今一度お手荷物の確認をお願いいたします。

さて、いかがでしたでしょうか皆さま。楽しんでいただけたでしょうか？
まずはこの小説を書くきっかけからご説明いたしましょう。
この作品の元となったのはかの有名なミュージカル『レ・ミゼラブル』です。
たまたま作者が『レ・ミゼラブル〜十周年記念公演〜』のDVDを実家で見つけ
パソコンで見入っているうちに、涙が出そうになるほど感動いたしました。
本当に素晴らしいです、ミュージカルと言うものは。
特に感動したのはやはり最後の最後の瞬間です。
世界各国のジャン・バルジャンたちが一堂に会し、各国の言語で歌う様は
非常に心を打たれました。歌は国境を越えます、越えてしまいます。
もちろんストーリも非常に優れており、時間を忘れさせてくれます。

で、その世界のジャン・バルジャンたちが歌っていたのが
『Do you here the people sings ?』という曲。
日本では『民衆の歌』と呼ばれています。
表紙に出ている歌詞は『Do you here the people sings ?』そのもので、
なんとなく雰囲気を出すために徐々に分を追加する形をとりました。
また、『結話：Fate』に出てきた斜体文字は
英文歌詞の直訳を私なりにアレンジしたものです。
皆さまも、もしお時間があるようでしたら動画サイトなどで
『レ・ミゼラブル〜十周年記念公演〜』をご覧になっていただければ幸いです。
それに加えて最終話を読み直していただければ、作者冥利に尽きます。


しかし…
世の中はままならないもので、初期構想とはだいぶかけ離れてしまったのです。

初期構想その�@……読み切りにするつもりだった！

なんといってもこれに尽きます。
まさかここまで長くなるとは予想していませんでした…
結局四つに分割したのですが、それでも最終話だけやたらと長いです。
どうしてこうなったんでしょう？


初期構想その�A……登場人物はわずか7人！

この話には、ゲストを含めて実に20人ものネームドキャラが登場します。
主人公兄妹と幼馴染、それを取り巻く人々に対立する悪人。
発想基がミュージカルなだけあって実に多種多様です。
ですが、初期構想では主人公兄妹と幼馴染は必須として
あとは悪代官と悪徳医師とバフォさん程度しか考えていませんでした。
実にコンパクトで分かりやすい話になったことでしょう。
ちなみに、ゲストのショータ君は『伝達役』が欲しいと思ったところ
たまたまΔ�U氏がお持ちかえりキャンペーンをしていましたので、
了承を得てお持ちかえりいたしました。この場で改めて感謝いたします。


初期構想その�B……登録タグは「魔女」！

先ほど、登場人物が7人という話をしましたが、
元々は革命のほかにも『ロリっ子の魔女化』は鉄壁内容でした。
バフォメットが出てくるとは言え、ほんの少しの予定だったので
小説検索しやすいようにする意図も込めて「魔女」のみにするつもりでした。
ところが登場人物が増え、話が肥大化するにあたって
タグが「魔女」のみでは魔女目当ての読者に申し訳ありません。
明らかに詐欺と言われてもおかしくはないのです。
ただ、作者個人としては「魔物娘いろいろ」はなるべく避けたいと
考えているようです。


初期構想その�C……濡れ場あり！

お恥ずかしい話ですが、濡れ場はしっかり全部書くつもりでした。
パスカルさんとイリーナ・イレーネ姉妹の近親相姦劇…
とても楽しみにしていた方には非常に申し訳ありません。
これも、タグ「魔女」にできない原因の一つです。
ちなみにゲストのショータ君にも濡れ場を用意するつもりでしたが…

需要はないと思いますが、パスカルと姉妹の絡みを
書いてほしいという奇特な方がいらっしゃいましたら
アフターストーリーとして書くかもしれません。
なければ無いで構いません。


初期構想その�D……もっと感動を！

あの…皆さま。正直この小説を読んで感動できましたか？
この話を思いついた当初は、作者自身も完成を想像しただけで
鳥肌が立ち、感動するほどだったそうです。大げさですね。
しかしながら、作者の文才ではあまり感動的な文章が書けませんでした。
技術向上はこれから先も大きな課題でしょう。
もちろん感動できたならこれ以上嬉しいことはありません！
演出をお褒めいただいたコメントも見受けられたので、
この場でお礼申し上げます。むしろ作者が褒め言葉に涙するほどです！


初期構想その�E……「英雄の羽」との連動企画ではなかった！

はい、衝撃の事実にして諸悪の根源です。
「どうせなら『英雄の羽』と絡めよう」と思ったのは途中からです。
この連動企画はやっていて楽しいのですが、困ったこともあります。
なぜなら、作者自身は作品内の伏線を全部知っているからいいのですが、
もしかしたら『両方読んでいることが前提』となってしまっている個所が
出来てしまっている可能性があります。これは非常に拙いです。
どちらかが未読でも楽しめるように調整しているのですが、
作者自身だからこそ気が付きにくい罠だと言えます

例えば、幕間に出てきた二人は『実は二人とも男』なんてことは
この話を読んだだけでは分かるはずがありません。



こんなところですかね。
読者の皆さんとしましてはもっとツッコミどころがおありかと存じますが
親の欲目か、私にはこれくらいしか思いつきません。

では、あとがきがかなり長くなってしまいましたので
私もこの辺りで失礼したいと思います。
この後の話は時系列的に『英雄の羽…第11章：自由は死なず』に続きますが
こちらもかなり長い話なので人をかなり選ぶものと思われます。
予めご了承ください。

どうか皆さまにも、輝かしい明日がもたらされますことをお祈り申し上げます。
以上、通りすがりのエンジェルでした♪