読切小説
[TOP]
暴君と悪魔
 青い海と緑が生い茂る島を、明るい陽光が照らしていた。島の所々には、大理石で造られた白亜の建物が立ち並んでいる。その中でも最も瀟洒な建物の前庭で、王は寝椅子に横たわっている。
 王は、背が高く骨太でありがっしりとした体付きだ。かつては軍人として戦場を駆け巡っていた名残で、筋肉も付いている。だが、今の王の体には贅肉が付いている。王は腰布を付けただけの姿であり、醜い脂肪が露わになっている。
 王の体を三人の少女が舐め回している。一人の少女は首筋を、一人の少女は腹を、最後の一人は右足の指を舐め回している。少女達は、露出度が高く卑猥な形の服をまとっている。服の所々は透けており、少女の未成熟な体を浮き上がらせている。少女達はいずれも無表情だ。
 王は、少女達をつまらなそうに見ている。少女達は調教済みであり、性技を身に付けている。それでも退嬰的な生活に浸っている王には物足りない。王は、駄犬を見る様な目で足を舐める少女を眺めた。

 王の下に、侍従が報告に来た。魔物の少女を性奴隷として捕らえたというのだ。王の表情に好奇の色が浮かび上がる。魔物娘か、面白い。少しは嬲りがいがあるかもしれない。王は、直ぐに連れて来るように命じた。
 王の前に一人の少女が引き立てられて来る。少女は山羊の角を生やし、手足が獣毛に覆われている。手足の獣毛は手袋にブーツらしいが、角は本物のようだ。胸や股間をわずかに覆った黒皮の服の上に、黒いマントを羽織っている。魔物娘らしい異様で卑猥な格好だ。魔物娘は、面白がる様な表情で王を見ている。
 王は、侍従を一瞥する。
「お前は、この者を捕らえたと言ったな。本気で言っているのか?」
 王の突き刺すような眼光と口調に、侍従は体を震わせる。
「この者はバフォメットだ。お前達に捕まるわけがない。愚か者が!」
 バフォメットは、魔界の重鎮を務める大悪魔だ。王の兵士達に捕まえる事が出来るわけがない。震えながらしどろもどろの言葉を紡ぐ侍従を無視して、王はバフォメットに眼光を突き刺す。
「どういうつもりで余の下へ来たのだ、バフォメットよ」
「遊びに来たのさ、王よ」
 バフォメットは、王の険しい視線を笑みを浮かべながら受け止める。そして、王の体を舐め回す少女達に目を向ける。
「つまらぬ遊びをしているな。少女を無理やり調教しても、得られる快楽はたかが知れている」
「説教でもするつもりか、バフォメットよ?」
「もっと快楽を得させてやろうと言うのさ。わしと戯れてみないか?」
 王は、無言でバフォメットを見つめる。こいつは何を考えている?余にいかなる姦計を仕掛けようとしているのだ?バフォメットは、魔物娘の中でも特に賢しい者と聞く。つまらぬ小細工で余をたぶらかすつもりか?
 まあよい、こやつと戯れてやろう。少しは楽しむ事が出来るだろう。余の命など先が知れている、魂など既に朽ちた、国にも愛想が尽きた。せいぜい楽しんでやろう。王は微笑を浮かべた。
「よかろう、バフォメットよ。そなたと戯れてやろう。余に快楽を与えてみよ」
「では王よ、早速楽しむとしよう」
 バフォメットは、少女の外見に似合わぬ妖艶な笑みを浮かべた。

 バフォメットは、王の股間に顔を埋めた。周りには、少女達の他に従者や護衛兵達がいる。それらを気に留める様子も無く、バフォメットは王のペニスをしゃぶる。
 王は、予想以上の快楽に呻く。魔物娘が性技の達人であり、バフォメットの技が長けている事は推測していた。だがバフォメットの口技は、様々な爛れた性に浸ってきた王でさえも翻弄するものだ。
 バフォメットは、小さな口と舌を駆使して王のペニスを愛撫する。王は、追い込まれて少女の口に精を放つ。
 バフォメットは、口に放たれる精をこぼすことなく喉を鳴らして飲み込んでいく。王は、驚きで目を見張る。調教した少女達でも、精をこぼさずに飲み干す事は難しい。バフォメットは、それを易々とこなす。さらに、管に残った精までも吸い上げる。王の呻きは納まらない。
「なかなかの濃さだな。勢いも悪くは無い」
 バフォメットはニヤつく。
「先ほどまで、そこの少女達にしゃぶらせていたな。精と唾液が混ざり合って、王の男根に残っていたぞ」
 バフォメットは、王の尻に手を掛ける。
「尻をこちらに向けてくれ。王に快楽を教えてやる」
 バフォメットは王の尻をむき出しにして、王の尻の穴に舌を這わせる。王は、またもや呻きを抑えられない。王は、少女達に尻の穴を舐めさせた事はある。だが、その時とは段違いの悦楽が襲う。バフォメットは舌をねっとりと動かしながら、獣毛で覆われた手で竿と袋を愛撫する。外見からはかけ離れた性技を、バフォメットは駆使していた。
「そろそろよさそうだな。インキュバスならぬ人間の身で、これだけ回復が早ければ中々のものだ」
 バフォメットは王の前で立ち上がり、股間の服をずらしてヴァギナを露わにする。ヴァギナは既に濡れそぼっている。
「そこの少女達では、中に入れる事は出来なかったであろう。わしの中なら入れる事はできるぞ。さあ、好きなやり方でわしを犯せ」
 王は、バフォメットを引き寄せて寝椅子に押し倒す。バフォメットに覆いかぶさって、即座にペニスを突き刺す。王の乱暴な挿入に、バフォメットは苦痛を感じない様子だ。王に合わせて腰を巧みに動かす。王のペニスを、腰を、下半身を翻弄して嬲る。王は何も言わずに精を放つ。
 バフォメットは、楽しげに王を見つめながら精を受け止める。王は、放出の快楽の中でバフォメットに感嘆している。王の射精を受け止めるだけではなく、技巧を用いて促している。この娘は魔物だ、人間ではない。王は、快楽の中で改めて思い知る。
 精を放ち終えた王を、バフォメットはゆっくりと愛撫する。
「ほう、まだまだ出来そうだな。王よ、わしはとことん付き合ってやるぞ」
 王のペニスを膣で締め付けながら、バフォメットは微笑みかけた。

 バフォメットは、少女達と割り当てられた部屋にいた。奴隷用の粗末な部屋だ。王はバフォメットの性技に満足し、しばらく共に戯れる事を約束した。バフォメットは少女達と共にいる事を望み、それは叶えられた。
「心配せずともよい。わしが王の相手をしていれば、そなた達に手出しはせぬだろう」
 バフォメットのいたわる言葉に、少女達は無言で無表情だ。バフォメットは軽くため息を付く。
「信じられぬのも無理は無いな。そなた達は虐げられ続けてきたのだからな。まあ、いずれわしの言う事が正しいと分かるだろう」
 少女達の体を軽く撫でると、誰に言うともなくつぶやく。
「もう、終ろうとしておるのだ。あやつも気づいておる様だがな」

 王とバフォメットの戯れは続いた。二人は、人前であるにも関わらずに性の戯れを行っていた。
 バフォメットの性技は、巧みであり多彩であった。王の下には熟練した娼婦達がおり、彼女達に調教された少女達がいる。王は、娼婦と少女を相手に性の饗宴を繰り広げて来た。その王でさえも、バフォメットの性技に翻弄された。
 バフォメットは貪欲に王の精を搾り取り、そのために王は少女達に手出しは出来なかった。王は、バフォメットと共に少女達を嬲ろうとしたが、バフォメットの性技と比較すれば稚拙にしか感じられない。結局、少女を放り出してバフォメットと戯れる事となる。
 こうして王とバフォメットの爛れた生活は続いて行った。

 離宮には檸檬の香りが漂っていた。この離宮のある島は「檸檬の島」と呼ばれており、島中に檸檬が生い茂っている。王は、檸檬の香りを嗅ぎながらバフォメットに己の体を愛撫させている。
 王は、股間を撫で回すバフォメットの頭を撫でて顔を上げさせて、北側に見える絶壁を指差す。
「あの絶壁が見えるだろう。余は、あそこから謀反人どもを突き落とさせ、酒を飲みながら眺める事を楽しんでおる。絶壁の下には船に乗った者達が待機しており、死ななかった者の頭を叩き割る。檸檬の香りに飽きたら血の臭いを嗅ぐのだ」
 バフォメットは、どうでも良いといった顔で絶壁を見る。
「退屈な事をしているものだな、王よ。人殺しなど時間と労力の無駄だ。せいぜい少年時代の一時期に興味を持つものだ。いい年をして殺戮に興味を持つなど恥ずかしい事だぞ」
「余が、少年時代の延長で殺戮を行っていると思っているのか、バフォメットよ?」
 バフォメットは、軽く首を横に振る。
「いや、王は積もった怨念で人を殺しておるのだろう。もっとも、今やっている殺戮は八つ当たりだがな」
「奴らにも罪はある」
 王は、ひび割れた声で言う。
「そうだとしても、たいした罪ではない。王を迫害した者達は、勝手に死ぬか王が殺しただろう。結局のところ、今、王がやっているのは八つ当たりに過ぎぬよ」
「説教は止めろ、つまらぬ」
 王は、杯を取り葡萄酒をあおる。濁った音が響き、王は杯を放り出して葡萄酒を吐き出す。
「どうした王よ、具合が悪いのか?」
 王は、荒い息を付きながら口元をぬぐう。
「少しばかりな。最近調子がよくない」
 バフォメットは、王をじっと見る。
「お前も気づいておるだろう。お前は毒を少しずつ盛られている。もはやお前の体は、取り返しが付かぬほど犯されている」
「やはりそうか。余はこの国で最も憎まれている。毒を盛った者は心当たりがありすぎて特定できぬわ」
 王は、顔を歪めて笑う。
「王のやってきた事を見れば、当然の報いだな」
 バフォメットは切り捨てるが、言葉に強さは無い。
「余がまもなく毒殺される事を知っていて、ここへ来たわけだ。余を笑いに来たのか、バフォメットよ?」
「惜しいと思ってな」
「惜しい?」
 王は、怪訝そうな顔をする。
「王はかつては名君だった。一人の人間としても高潔だった。それが堕落した暴君に成り果てた。わしは、悪魔として堕ちた者を見たかったのだ」
 かつての名君は、顔を少し歪めて苦笑した。

 王は、かつてはこの国の将軍だった。経験豊富な兵士であり、有能な指揮官だ。彼は、国のために戦場を駆けずり回る事を己の責務とした。一兵卒と同じ粗食に耐え、マントに包まって地面の上で寝た。
 彼は、一人の人間としても潔癖であった。上司、同僚、部下に対して公正な態度を取る事に勤めた。それは彼に不利に働く事もあったが、それでも自分を曲げる事はない。彼は、結婚するまでは童貞だった。遊びで女を抱く事は無く、娼館にすら行かない。地味な容姿だが、温和で思慮深い妻と幸せな生活を送っていた。
 その生活は、王と王妃によって壊された。王は彼を後継者と定め、妻と離婚させて自分の娘と結婚させた。その決定の背後では、王妃の策動がある。
 王妃は彼の生みの親であるが、王と結婚するために夫と彼を捨てた。王妃の地位を手に入れる事は出来たが、王との間に子供が出来ない。それで捨てた息子を利用する事を思いついた。王と前王妃の間に生まれた娘と結婚させて、彼を王に仕立て上げようと諮った。
 彼は、王の命令に逆らう事はできず愛妻と分かれた。彼と再婚した王の娘は、彼とは全く相性が合わない女だ。派手な美貌を持ち、高飛車で軽率な女だ。新妻と良好な関係を持とうとする彼の努力は、ことごとく無駄となった。
 やがて妻は醜聞を引き起こす。ある貴族と関係を持ち、それが露見したのだ。王は、彼と娘を分かれさせた。だが、彼に王を継がせようとたくらむ王妃の画策によって、彼は王の養子となった。
 王は、彼に対して終始冷ややかであり、利用価値のある道具としてしか見ない。王妃もまた、彼を道具として好きなように使えると考えた。
 王妃の望みどおり、王の死後に彼は王のあとを継ぐ。彼女は、前王の王妃として、王太后として権勢を誇った。王となった彼に匹敵するだけの権勢だ。
 新王たる彼は、王大后の政治への介入に悩まされながら政務に励んだ。彼は、厳格だが公正な政治を行った。法治主義を政治の基本とし、私情で政治を行う事は無い。財政の破綻を警戒し、王都での公共投資は控え、国に負担を掛ける戦争も控える。一方で、重要地である地方への公共投資は熱心に行った。前王の時代まで地方長官による激しい収奪が行われていたが、王は厳しく取り締まった。
 王は、他人に倹約を求めるために自分から手本を示した。公式行事以外では、使用人のような服を着て一兵卒と同じ食事を取る。寝起きする部屋も、王の物とは思えぬ質素な物だ。睡眠時間を除けば、ほとんどの時間を公務に割いた。他人に倹約を求めながら自分は楽をするような醜態は、王は見せなかった。
 だが臣下の者も民も、王を疎ましく思い嫌った。彼らは、パンと見世物を気前よく振舞う王を望む。彼らは、王を陰気だ残忍だ吝嗇だと陰口を叩いた。
 王は、吝嗇というわけではない。必要な支出はきちんと出し、それを可能にするためにも支出には注意を払ったのだ。それが臣下と民に理解される事はない。
 王を露骨に蔑んだ王大后が死んでも、王の苦難は続く。王族は重臣達と派閥を作り、権力争いに明け暮れる。臣下と民は、前にも増して王を嫌う。
 王は、ついに政治に倦んで田舎へと引き払った。後の事は、数少ない信任出来る者である近衛軍の司令官に任せた。これは重大な間違いであった。近衛軍の司令官は、権力を手にするために邪魔な者を次々と始末し始める。王都を始め国中で、死刑、投獄、暗殺が荒れ狂う。その挙句、近衛司令官は王の座を狙い始めた。
 王は諜報網の整備に努めており、田舎に引きこもっても国中を監視していた。近衛司令官の野望に気づき、密かに軍を動かして近衛司令官一派を粛清した。
 この後は、暴君に転落した王の悪行が繰り返される事となる。密告が奨励されて多くの者が捕らえられ、異常なまでに厳格化した法によって死刑に掛けられる。国中で死刑が荒れ狂い、特に王都では一日も欠かさず執行された。この処刑では、数多くの醜悪な事が繰り広げられている。例えば、処女は処刑人が陵辱してから死刑にする。処女を死刑にしてはいけないという法があるからだ。
 王は、かつての高潔さが嘘である様な堕落した生活を始める。風光明媚な島に豪奢な離宮を築き、略奪した少女達を調教して悦楽に浸る。目の前で虐殺を行わせながら、酒池肉林の日々を過ごした。
 こうして名君は、歴史上に腐るほどいる暴君の一人と成り果てた。

「名君が認められる事は少ない。特に、同時代の人間からは蛇蝎のごとく嫌われる事が多い。政治に携わる者は、他者の無理解に耐えて自分を律しなくてはならない。お前はそれが出来なかった」
「説教の好きな悪魔だな」
 王は、唇を歪めて笑う。
「そうだな、説教は止める事にしよう。既に取り返しの付かない事になっている。王はまもなく死に、暴君として歴史書に記されるだろう」
 王は笑い続ける。笑う事しかできない。
「お前が嬲り者にした少女達は、わしが引き取る。魔女として育てるつもりだ」
「好きにしろ」
 王は、バフォメットを追い払うように手を振る。
 バフォメットは、王に一瞥をくれると背を向けて歩き去ろうとする。一度だけ振り返る。
「王よ、残念だ」
 バフォメットは背を向け、去って行く。再び振り返る事はなかった。
 王は、無言のまま見送った。

 それから少しの後に王は死に、公的には「病死」と発表された。
 王の座は、遺言により王の甥が継ぐ事となった。新王は、早速投獄されたり流刑にされている政治犯の釈放を発表する。かつ、国の予算を国の民のために惜しみなく使う事を約束する。新王は、臣下の者と民から絶大な賞賛を浴びていた。
 王都の民は、街路に飛び出してお祭り騒ぎを繰り広げた。前王は暴君として罵倒され、少女を嬲り者にした変態として嘲り笑われている。兵を始め役人達は、それを止めるどころか自分達も加わった。

 バフォメットは、王都の騒ぎを眺めている。笑いながら飛び跳ねている者達を、冷めた表情で見ていた。
 バフォメットは群集に背を向けると、闇の中へ消えて行った。
14/08/02 22:31更新 / 鬼畜軍曹

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33