読切小説
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こまったわんちゃん
「えへへ、いっぱいほめてください!」

僕の家には新しい住人が増えた。
コボルトのハナだ。
薄茶色の毛並みを持つ可愛い魔物娘だ。

僕のどこに気に入ったのかわからないけど。

「ご主人さまご主人さま!」

うちのわんこは何でもできるのに、僕に褒められたがるこまった甘えん坊だ。
僕が何かやろうとするとすぐに飛んでくるのだ。
僕が準備運動をしようとするとキラキラした目でこっちを見た。
尻尾をフリフリさせているのは言うまでもない。

「なにかな?」
「何かお手伝いすることありますか?」
「うん、あれば呼ぶから好きにしてて」
「はい!」

そう言うとわんこ座りでこちらをじっと見る。
返事をしながらも何か構ってもらえる機会をうかがっている眼だ。
僕はなでなでしたい願望を抑えながらもうつ伏せになる。一度撫でたら
それだけでは済まないのは今までの経験で痛感している。
ある時には日が暮れるまで撫でさせられたこともあった。

掌をリビングの床につけて、腕を屈伸させる。

「ふっふっふっ」

まだ腕立て伏せは慣れていないので、ゆっくりと動かすだけでも疲れる。
じっとわんこがこちらを見ていてやりにくいが関心があると思われるとじ
ゃれられて運動にならない。心を鬼にして腕立て伏せを続ける。

「ご主人様さま!私を台にしてください!」

向こうからやってきた。
僕がちょっと疲れた顔をしたからか、わんこは床と僕の間に体を滑らせてくる。
彼女の毛並み下の柔らかな感触とぬくもりがとても気持ちいいのだけれど腕立て伏せの邪魔だ。

「うん、今はいいからちょっとどいてね」
「くぅん……」

悲しそうにする彼女の顔を掴んでどかすと、改めて腕立て伏せを始める。
なんだかいい匂いがするが、気にせず運動を続ける。

「10,11,12,13……じゅうひぃっ!?」
「ご主人様っ」

また困ったワンちゃんが首を物理的に突っ込んできた。彼女の長くて大きな耳で視界がふさがれる。
口にくわえているのはタオルのようだ。

「汗かいているからおふきしますっ!」
「……うん、ありがとう。でも、運動が終わってからにしてほしいな」
「それなら、わたしも一緒にやれば早く終わりますね!」
「うん、君が一緒にやっても僕の腕立て伏せは早くならないからね?」

そして狭いリビングで一緒にやる腕立伏せ。
腕立て伏せを始める前に、台所でガチャガチャと音が聞こえたが気にしない。

「に、にじゅういち……ぜぇ、にじゅうに…に、にじゅう……さ……ひー、」
「55、57、58、59、60、61、62!」

うん、知ってた。めっちゃ早い、流石魔物娘だ。
もう息を切らしている僕とは裏腹に僕を上回るスペースで回数をこなしている。
僕はどうでもよくなって、腰を下ろすのだった。

やがて僕が運動を終えるのをみたハナが僕に飛びついた。

「ご主人様、終わりましたね!ご飯食べましょう!ごはんごはんん!」

時計の針はもう一時を過ぎていた。
もうおひるごはんの時間には遅れてしまったが仕方がない。
運動でへとへとなのと、今からだと準備にも時間がかかってしまう。
いろいろ手伝って?くれようとしたハナの好きなモノでも食べに行くとしようか。

「ハナ、何か食べたいものある?」
「もう用意してありますよ、ほら!」

テーブルの上を見ると、確かにお味噌汁にご飯、アジの開き、福神漬けが用意させれていた。
一体いつの間に……。
全く、僕にはよくできたわんこだ。

「ハナはすごいね」

僕が苦笑してそう言うと、ハナはにっこりと笑って言った。

「いっぱいほめてください、ご主人さま!」

彼女のどんぐり色の大きな瞳には、僕の顔しか映っていない。
まったく、何でもできるのに僕に褒められたがりな困ったわんこである。
19/05/15 20:45更新 / カイント

■作者メッセージ
リハビリに書いてみました。
コボルトちゃんかわいいよコボルトちゃん

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