連載小説
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第七話「集結」



「・・・なるほど、簡単にまとめると九重、あなたはわたくしの力が必要というわけですのね?」

闇夜の空を翔けるルクシオンの艦内の一室、七大英雄ヴィウスは九重と向かい合い、話し合っていた。


九重が話した内容なあくまで英雄たちが魔物と戦わないようにするための話し、すなわちもう魔物は人間を殺めたりはしないという話だったのだが。

ヴィウスとしては九重がそんな話しをするのは自分の力が必要だからと考えたようだ。


「お姉ちゃん、僕はその・・・」

明確に武力目当てであることを否定しようとして、九重は扉の前にいたエルナが首を振るのが見えた。

「・・・お姉ちゃんの力を貸して欲しい」

九重の言葉に、ヴィウスは満面の笑みを浮かべた。

「なるほど、奴らを倒すならば、力を貸すほかありませんわね」

よくわからないがヴィウスは嬉しそうだ、そんなに何かのために力を振るえるのが嬉しいのだろうか。



「・・・なんとかなりましたね」

ヴィウスがルクシオンの空き部屋に休憩のため立ち去った後、エルナはそう呟いた。

「彼女、ヴィウスはもともと強きを挫き弱きを助ける正義の戦士、いらない混乱を招く桜蘭が許せないのでしょう」

そうか、それで助けを求めるようにエルナは合図を送ったのか。


「ところで七大英雄も残すところはあと一人、ですね」

あと一人、この旅が始まる際には長く感じたものだが、とうとう終わりが見えてきたわけだ。


しかし九重の心には暗いものが立ち込め、役目を果たせそうなことを喜ぶ気分にはなれなさそうだった。

「桜蘭のこと、ですね?」

エルナの言葉に九重は頷いた。

「うん、かれらが何をするつもりなのかはわからないけど、きっとこの先大変なことになる」

静かに黙考する九重に対して、エルナは一度瞑目してから口を開いた。

「九重、大魔王メルコールの骸は私たち七大英雄が解決すべき問題です、君とリエンは本来無関係なのですが・・・」

完全に巻き込んでしまっている、こんな年端もいかない子供を、古代の力を利用しようとしている勢力との戦いに。


「九重、いる?」

扉が開いて、部屋の中にクインシーが入ってきた。


「クインシーお姉ちゃん?」

訝しげな九重の前につかつかとクインシーは近づくと、彼の手をつかんだ。

「え?」

「ちょっと、来て?」

そのままクインシーは九重の手を引き、部屋の外に連れ出した。




「・・・(引き離さなければなりませんね、この戦いから)」

一人残されたエルナは、九重のことを思っていた。

桜蘭、そしてメルコールとの戦いはこれまでとは比較にならないほど危険なものになることは必然だ。


そうなれば九重を危険にさらすことはさらに増え、万一ということも考えられるかもしれないだろう。


七大英雄最後の一人、ダンを見つけ、役目を終えたならば九重はどこか安全な場所に隠れていてもらおう。


エルナは一人頷いたが、どうにもならない不安を感じていた。




「九重の、剣術は、守りに、入りすぎている」

ルクシオンの甲板、そこでクインシーと九重は向かいあっていた。

クインシーは軽く頷くと、細い手を伸ばして九重の両肩、ついで腰に触れた。

「クインシーお姉ちゃん?」

「うん、しっかり育ってる、けど・・・」

クインシーは九重から離れると自分の剣を引き抜いた。

「まだまだ、足りない、九重は強くなりたい?」

クインシーの問いかけにすぐさま九重は頷いた。

「そう、なら・・・」


ゆっくりとクインシーは剣を上に上げ、八相の構えをとった。

「私が九重を、最強の、剣士にしてあげる」




「・・・やってるようですわね」

ルクシオン甲板の入り口から七大英雄ヴィウスは九重の修行を見ていた。

「うむ、じゃがあやつも中々の奴よのう」

ヴィウスの後ろには彼女を盾にするかのようにクオンがおり、二人して見学モードだ。

「エルナの剣術に続いてクインシーの剣術、魂魄隔離は使えないながらも、この二人の剣術、マスター出来れば相当のものじゃな」

クオンの言葉にヴィウスは驚いたように目を見開く。

「二人の剣術を?、そんなことが・・・」

「可能じゃろうな、九重はエルナの剣術を操るには鋭く、クインシーの剣術を操るには優し過ぎる、あやつはバランスのとれた童よ」

そう呟くと、クオンは修行風景に目を戻した。



「もっと、来て?」

クインシーに対して九重は何度も攻撃をかけても、その都度力強い一撃で弾かれる。

「くうっ」

思わず息を漏らす九重に、クインシーは自分の胸をとんと叩いて見せた。

「九重、防御は攻撃に、攻撃は防御になる、弾いて即座に、攻撃、攻撃しながら相手を晦ます、それが、攻撃」

なるほど、受け身になりながら逆転を狙うエルナとは違い、クインシーはあらゆる動きを攻撃につなげているわけか。

まさしく対局の動き、この二人が戦ったら中々勝負がつかないかもしれない。

「もう一度、やってみて?」

九重は踏み込むとともに斬りかかる。

だが、クインシーはそれをまたしても力強い一撃で弾くとともに、下段から九重の小手を狙う。


その刹那、九重は左手を柄から離し、クインシーの右手を掴んだ。


「っ!」

驚くクインシーを前に、九重は手を返してクインシーを投げ飛ばした。

「いま、の・・・」

意識してやった動きではなかった。

知らず知らずの内に、九重はエルナと同じような動きでクインシーを投げ飛ばしたのだ。

だが、一つ違う点は、自ら攻め込みながらいなした点である。

つまり攻めながらの防御をやって見せたのだ。

「九重、今の、エルナの?」

クインシーはむくりと起き上がると、興奮冷めやぬ様子で九重に近づく。

「ううん、違う、エルナだけじゃない、私の、動きも・・・」

呆然としている九重だが、クインシーは彼のその瞳の奥に確かなものを見た。

「・・・(間違いない、九重は、英雄を、遥かに凌ぐ、剣士になれる)」

今はまだ無意識的に模倣しただけかもしれない、あの動きそのものも虚をつかれただけであり、本来のクインシーなら見切れる動きだろう。


だがそれも今の時点の話し、このまま行けばどうなるか、想像に難しくはない。

「九重っ!」

いきなりのクインシーの大声に九重はびくりとした。

「えっ、ご、ごめんなさい、痛かったよね?」

頭を下げる九重、クインシーは黙ってその頭を撫でようとして・・・。



船体を衝撃が襲った。


「何事だい?」

揺れる艦橋、ラグナスは鋭い目でオペレーターを見た。

「何者かの攻撃ですっ、周囲に敵影なしっ、エディノニア方面より、かなりの遠距離攻撃かとっ」

「どこかやられたかい?」

ラグナスの質問にオペレーターはすぐさま答える。

「機関室に被弾、動力が30%低下っ」

オペレーターの言葉にツクブは冷静を失ったのか、目を回している。

「あの機関を?、対魔装甲で守らたあの機関を一撃で?」

「落ち着くんだツクブ、いかに守りが固くとも破れるときには破れる、遠距離からこの威力、つまりは・・・」

ラグナスはしばし黙考していたが、すぐに答えを出した。

「魔力による光波熱線か、もしくは収束したフォトンレーザー、いずれも使えるのはただ一人・・・」

ラグナスは最後の英雄を思い出していた。

「・・・ダン」





同じ頃、エディノニア皇国の城塞も攻撃を受けていた。

「光波熱線と?」

城塞にいた皇女サーガ・エル・エディノニウスは一撃で城塞を破壊した相手に戦慄した。

見た目は普通のケンタウロスに間違いはない、だがいきなり口から光波熱線を撃ち出したのだ。

「七大英雄ダン、何故あやつがここに・・・」

まさか九重は失敗したのか、いやそれにしてもおかしい、何故いきなり攻めてくるのか。

「もう一撃来ますっ」

兵士の叫びに、サーガは意を決すると、自分のクレイモアを掴んだ。


「時間を稼ぐ、直ちに援軍を要請せよっ」


すぐさま城塞の頂点に立つと、皇女は飛び降りながらクレイモアで光波熱線を弾いた。

「へえ、やるじゃねえか」

感心したようにダンはつぶやいたが、まだまだやる気はあるようで、蹄で地面を叩いている。

「七大英雄ダン、何故我が帝都を攻撃する?、汝には戦う理由はないはずだ」

「ちっ、しらばくれるつもりか?、気に入らねぇな、お姫様っ」

またしても口から光波熱線を放つダン。

「くっ、やはり戦うほか無いか」

サーガはまたしても光波熱線を弾くと、間合いを詰める。

「はあっ」

その動きには一切隙がない、まさしく王者にふさわしい力だ。

「ふんっ」

だがあろうことかダンはクレイモアを右手の手のひらで止めた。

「なっ」

よく見ると、彼女の手のひらは信じらないほどに固くなっている。

まるで鋼、どんな鍛え方をしたらそうなるのか、指紋が溶接の隙間のようにすら見える。

「悪くはないぜ、なかなかさね、お姫様っ」

風をきる音、ダンの拳による一撃はやすやすとサーガの鎧を砕いた。

「かはっ」

口から血を吐き、サーガは跳ね飛ばされ、そのまま昏倒した。

「さて、てめえら、相手してやろうか?」

じろりとダンは城塞の櫓を睨みつけたが、結局誰も出て来なかった。

ダンは鼻を鳴らすと、街に入っていった。



「急げ、手遅れになる前にっ」

ラグナスは焦っていた、あの攻撃はダンが放ったもの、ならば何者かと交戦していると考えるのが自然だ。

ダンの光線、あれは本来攻城戦のためのものだが、あの方角にはエディノニア帝都桜蘭しかない。

となれば高確率でダンはエディノニアを攻撃しているのだろう。


何故ダンが、帝都を攻撃しているかはわからないが、急がなければ取り返しのつかないことになりそうだ。


「現状出力低下により高速移動は不可能ですっ」

オペレーターの言葉に、いよいよラグナスは背中を冷たいものが走るのを感じた。

「仕方ない、ならば直接向かうほかない」

ラグナスは艦長席から立ち上がると、近くにいたツクブに目配せをした。

「ここは頼むよ?」

「え?、ちょっと、ラグナス様っ?」


そのままラグナスは艦橋から出て行ってしまった。
15/05/05 21:37更新 / 水無月花鏡
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■作者メッセージ
皆様こんばんは、鏡花水月であります。

はてさていよいよ連休も終わりかけ、時間が取れなくなってくるかもしれませんが、みなさんの暇つぶしくらいにはなるようなお話しを頑張って書いていきたいと思います。

さて、七大英雄の最後の一人ダン、口から光を吐いたり手がおかしかったり序盤から大暴れですが、それでも大魔王メルコールから見れば中堅どころ、時間を操る能力は絶大ですね。

では今回はこの辺りで、また次回お会いいたしましょう。

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