連載小説
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ビルフォート家一日の流れ。
ご主人様に仕えてから三日がたった。
「……ん…………みゅぅ……。もう朝ですか……」
まず、朝七時に起床し、着替えにアイロン掛けに掃除をする。その後郵便受けに入ったハーピー新聞を受け取り、テーブルに乗せる。そして朝食の用意をする。
「よし、時間も良いですし、ご主人様を起こしましょう」
それが終わると、時刻は八時。ご主人様の部屋を伺い、部屋のカーテンを開けて起こしに掛かる。
「…………っは‼」
……だが正直、この寝顔が中々堪らない。もう少し寝かせて寝顔を堪能したい所だが、そう思うと気恥ずかしく、今にも倒れてしまいそうなのですぐに起こす。
「ご主人様、朝ですよ」
「……んん、後五分……」
だがこの主、中々起きない。こう言う所はナイル家のご主人様と奥様を思い出す。種族が種族なだけに朝に弱いのだ。毎朝起こすのが大変だった。まさか主が変わってもそれが続くとは思わなかったが。
「駄目です。これからお仕事もあるんですよ?」
「仕事なんかどうせねえだろ寝かせてくれぇ……」
仮にも街を治めている人間に仕事が無いわけない。私は少し強引に揺さぶり、起こしに掛かる。
「ちゃんと有りますから起きてください!」
「んぁああ、やめろぉぉ…………」

……暫くして。

取り敢えず起こす事に成功し、ついでにベッドのシーツを変えた後、私は着替えたご主人様を連れて食堂に向かい、一緒に食事をする。
最初は抵抗があった。無いわけない。主と共に食事等、まずないからだ。
それに、
「手、震えてるぞ」
「ふぇ!」
一緒に食事をしていると、緊張が絶えない。
マナーは大丈夫か、綺麗に食べられているか、服を汚すような真似をしていないか。
ご主人様の前で味も気にならない程に身振りに気を配っていた。
それが行きすぎて逆に不審がられている。
「なぁ、リリィ」
「ひゃいご主人様!」
「前から言いたかったんだが、そんな緊張しなくて良いぞ?二人だけだし、俺もとやかく言う気はない。食いやすい様に食えよ。こっちまで気を張りそうになる」
「も、申し訳ございません……」
ご主人様の不機嫌そうな表情に思わずシュンとする。
だがご主人様はふと微笑んだ。
「そんな落ち込むなよ。こんなうまいんだ。味を楽しめ」
「……は、はい!」
とご主人様の一言でなんとか立ち直った。自分で作った料理の味を楽しむと言うのも良いものである。
食事が終わると、食器を片し、洗う。
洗い終えると、ご主人様から本日の予定を伺う。
「今日は街の建設記念日に向けた祭りの準備が始まるらしい。記念日は明後日。だからその為の資金だとか、屋台の申請とか、色々あって来客が来るだろうから、接待頼む。……倒れるなよ?」
「は、はい……」
私とご主人様、二人して不安を隠せなかった。
十一時、少しの暇に午前のお茶を頂き、十二時まで掃除を行う。
十二時に昼食の準備。
「フン、フフフフフン、フフフフフン〜♪」
アップテンポな鼻歌を歌いながら、フライパンを揺らす。今日のランチはご主人様の要望でチャーハンだ。
「お、美味そうだな!」
「ピャアア!」
突然のご主人様の登場に私は驚いてフライパンをひっくり返してしまう。
中のチャーハンが全て炎に包まれた。
「……すまん」
もう一度チャーハンを作り直し、一時に食事。
二時からは玄関で待機。来客が来れば即座に迎え、接待する。
「祭りの当日に大きなショーを計画しているのですが」
「……………っ!」
「あの、大丈夫ですか?」
「あぅ、あ、あの、ご主人様にお話を通しますので、し、書類等、お持ちであれば、い、頂けますか?」
「は、はい」
まぁ、なんとかなった…………筈である。
今日の来客は三件だけだった。取り次ぎは使用人の何人かで交代して行うのだが、ビルフォート邸では私一人だけのため、玄関で読書をしながら四時まで待機する。ちなみに、何もない場合、基本自由時間である。
四時に午後のお茶を頂き、五時にご主人様に紅茶をお出しする。
「ど、どうぞ」
ご主人様はカップを持ち上げ、まずは香りを楽しむ。
「……良いな。これ」
ご主人様は一口頂く。
「…………美味い」
ご主人様は静かに呟いた。
「……………………」
何だか、凄く様になっている。銀髪赤眼のイケメンが紅茶を嗜むとこんなに映えるのか。ダークエルフとは言え流石はエルフの血。なめたものじゃない。私は呆然と見とれていた。
「何だよ?」
ご主人様が私の視線に怪訝な顔をするが返事がなかった。
「おーい?」
彼は手を振るがそれでも返事がなかった。
「……へー?」
ご主人様はイタズラっぽい笑みを浮かべて私に近づく。
「…………ぁ」
私はそこでようやく現実に戻った。だが時すでに遅し。
ご主人様は私のすぐ背後の壁をドン!と叩いた。

「何だ?そんなに見とれるくらい、俺に惚れたか?」

「え、あ、う…………!」
直後、悲鳴をあげたのは言わずもがなである。
六時はディナーの準備。今夜は栄養バランスを考え魚にした。
七時。ディナーである。
「なぁ?」
「はい?」
「使用人って、いつも食事はどうしてるんだ?」
「えっと、…………そうですね。普段は主より早めに食事を取っています。ただ、ディナーの時だけ後に食べていますね」
ご主人様の素朴な質問に少し考え、丁寧に答える。正直こう言う質疑応答は慣れると少し楽しい。
一日の終盤となると慣れのせいか言葉がすらすら出る。日が浅いせいかまだまだ緊張しがちだが、すぐに慣れてご奉仕もスムーズに行える筈である。
「ふーん、食うもんは一緒なのか?」
「いえ、普通はそもそも階上と階下で料理人が違うので、食事も違いますね」
「ほー。では具体的に相違点を述べよ」
「階下の料理はやはり階上程良いものではなくて、昼食はボリュームがあるのですが、ディナー等は簡素なもので、酷い時はたまに階上の晩餐の食べ残しだったりした時は少しーー」
ちょっと待った。
これはいわゆる誘導尋問ではなかろうか?
恐る恐るご主人様の顔色を伺う。
「はー、それはヤバいな」
「…………」
まずい。ご主人様が笑顔を浮かべている。これはまさかはめられたのでは?
「まさか『ご主人様』の前でそんな事を言うとはな?」
「も、ももも申し訳ございません!ですがご主人様にはこうも良くしていただいて感謝しておりーー」
「言い訳すんな」
「はひぃっ‼」
笑顔を浮かべていたご主人様は一変して鋭い眼で私の言葉を遮る。
「だいたい、今まで仕えた主に対しての不平不満を、他人だからと口にして良いもんなのか?」
「…………駄目です……」
ご主人様の気迫に圧倒され、縮こまる。僅かに眉間を寄せて睨んでくるご主人様が非常に恐い。
「……そうだよな。でも、分かっていたなら何で言ったんだ?」
「そ、それは……」
「メイドとしての自覚が足りないんじゃないのか?」
「は、はい……」
さっきまで楽しかった筈なのに……。私は涙目になった。
急に始まった説教は、それでも重い空気を放ってーー
「ーープッ‼」
「ふぇ?」
ーーいたがその空気の元が破顔した。
「ッハハハハハハハ!」
「……え?」
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
だが、ご主人様の様子を見て悟る。

からかわれたのだ。

さすがの私もメイドとしての性分も忘れ、いやメイドだからこそ怒った。
一度は一言言っておかないといけない。
「ご、ご主人様ぁ‼」
「いや、すまん、悪かったって!」
ご主人様は笑いの抜けきらない表情を浮かべていたが、怒りを感じてか顔に焦りが浮かぶ。
「何でいつもそんなからかうんですか!?」
「か、可愛いから?」
「か、かわ、……いえ!いつまでもそんな動機が通用すると思わないでください‼」
「は、はい!」
私の形相に態度が百八十度変わる。形成逆転である。
「いくら主と言えど、物事には限度と言うものがあるんです!」
「はい……」
「まずですねーー!」
この後、胸に溜め込んだありとあらゆる不満文句を吐き出した。時間にして三十分続いた。

八時。今日は晩餐会等もなかったので十時までは暇な時間である。
なのでお風呂に入る。
お風呂は暇な時に入って良いとご主人様の口添えがあったので今の内に入っておこう。
メイド服を脱いで、下着も脱いだら洗濯篭に入れる。
そうしたらいよいよお風呂に突入である。
「フーン、フンフンフーン、フーン♪」
「ん、あれ、リリィ?」



…………ん?



「ふぇ?」
目の前に先客が居た。
銀髪赤眼端正な顔立ちの青年が湯船に浸かっていた。
まずい。汗が止まらない。
まずい。心臓がバクバク言ってる。
まずい。顔面が熱い。自分の熱で火傷しそうだ。
「あぁ……、流石に全裸だと心情的にヤバいんだが……………、一緒にどうだ?」
ご主人様も顔が若干赤い。気まずそうだが微笑んだ。
いや、流石にこれは駄目だ。主に私が倒れる。

「ももも申し訳ございません恐れ多くてできませんまずご主人様はもう少し恥じらいをお持ちくださああああああああああああああああああああああああい!!!!!!」

私は風呂場の戸を閉め、ダッシュした。
全裸のままで。
その事に気付いたのは廊下途中。また悲鳴を上げた。

十時には就寝準備。
と言っても朝の時点でシーツ替えは終わっているので、やることは寝酒を持っていく事くらいだ。
「ご主人様、失礼致します」
ノックをして入室する。
ご主人様はもうベッドに入り、読書をしていた。
因みに読書の時は眼鏡をかけている。若干眼が悪いらしい。
「おう、どうした?」
彼は私に気付くと、本を閉じた。
「ワインをお持ちしました」
「ああ、ありがとう。こっち座れよ」
私は机の下の椅子をベッドの横に持っていき、それに座る。
私はワイングラスを渡し、瓶からグラスにワインを注ぐ。
「リリィは就寝準備出来てるのか?」
「はい。一通り済ませております」
ご主人様はワインを一口飲みながら聞く。
「そっか。……なぁ、一つ良いか?」
「はい。何ですか?」
ご主人様はワイングラスを揺らし、神妙な様子でそれを眺める。
「一緒に寝てくれねぇか?」
「……ふぇ?」
一瞬彼が何を言っているのか分からなかった。
「そ、そそそそれって!?」
「もちろん変な事はしない。添い寝だけだ」
ご主人様は誤解を解くように言う。
いや、だが添い寝だけでもかなりダメージを食らうのだが。
「いいいいえでも!?」
後ろに下がろうと立ち上がったが、ご主人様に手を捕まれる。
「……駄目か?」
「ーーーー‼」
私の心は揺らいだ。ご主人様が寂しそうな顔をしていたから。
その表情は、酷く悲痛だった。何も知らない私でも、その傷が見えた。
痛いまでの孤独が。
そんな顔をされたら断れない。
「……分かりました」
「ありがとう」
ご主人様は花が咲いたように笑みを浮かべた。


十一時。就寝である。
だが、全く眠気がしなかった。
「スー……スー……」
それは横から聞こえる寝息が原因だった。
……駄目です、これでは眠れないです!
心でそう叫ぶが、ここから抜け出す訳にもいかない。
「……んん……」
「……ひゃぁ…………!」
突然ご主人様が抱き付いてきた。
「……あ、ぁぅ……!」
彼の手が私の胸に被せられる。瞬間私の体が反応する。
私は声が漏れるのを必死に我慢した。
ご主人様の様子を見ると、まるで子供の様に心地良い寝顔で眠っていた。
「……ぅぅ……」
一番始末が悪いパターンである。
ご主人様を起こすのはもちろん駄目だ。だが、この状況はどうにか脱したい。
ご主人様の左手がちょっと危ない場所にある。
やはり向き合った方が良いだろうか。だがご主人様の顔が目と鼻の先にあるとなると心臓が破裂しそうだ。
「…………どうすれば……」
途方に暮れたその時、
「…………お母……さん」
「………!」
突如聞こえたご主人様の寝言。無垢で裏表のない、甘えた声音。
その声に、私はハッとした。
「……そうですよね」
私は知っているではないか。

彼が寂しがっている事を。

ここには私しか居ないのだ。

そう思うと、自然と彼に向き合えた。
私は彼を優しく抱擁する。
「大丈夫ですよ。私が支えます」
「……スー、んん……」
心なしか、ご主人様の表情が和らいだ様な気がした。
16/01/01 00:10更新 / アスク
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■作者メッセージ
何だか書いてるとたまにルドガー様は俺様系か?って思ったりします。なんか思ったより優しくなる。
クリスマスが過ぎましたがその時僕は家で映画鑑賞してました。……独りで。
年越しもテレビ三昧です。

はぜろリア充。
妄想マジ最強。

それでは、明けましておめでとう!

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