連載小説
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15:ラブ・スクレイプオフ[レッドキャップ]

「おっきくなったら、マツリちゃんとけっこんする!」

「嬉しい...アタシは何時でも良いからね。」

「じゃーいまから、ぼくのおよめさんね!うわきしちゃダメだよ!やくそくだからね!」

「うんうん、約束!」



***



「ねぇ...恵くぅん...結婚してから5年経つんだけど...そろそろ我慢g」

「えっ なんの事?結婚??」

「...」

「転校前に挨拶って思ったんだけど...その赤い帽子も似合ってるよ。イメチェン?」

「.........」



***



「杉田。"血濡れ女"の噂って、知ってるか?」

古谷さんが書類片手に、そんなことを言い始めた。

「? なんですかそれ?」


社会人二年目。

転勤で新しく配属されたのは、既婚率ほぼ100%、奥さんの魔物娘率100%の営業部だった。

目の前に居る先輩も、ぬれおなごの奥さんが居る。なんでも、怒らせるととても恐ろしい事になるらしい...


「最近、ここら一帯で目撃情報が相次いでるんだよ...で、その噂の女に、最近うちの沢田が実物に出会ったらしいんだ。」

「えっ」


古谷さんが言うにはこんな内容だ。


・夜に一人で歩いていると、後ろから声をかけられた。

・振り向くと、服どころか肌まで赤黒く染まった少女が、小さい刃物を握って立っていた。

・その少女は「アタシの旦那を知らないか」と聞いてきた。

・名前は「スギタ ケイ」だという。


ゾクッとした。僕の名前と同じだ。

でも結婚なんてした覚えもないし...

古谷さんの話は続く。


・流石に刃物を持った女に、同僚の事を話すのは危険だと判断し「知らない」と答えた。 


流石は真面目な沢田さん。僕を売るような事はしなかったらしい。

今度お礼言わなきゃな。...そういえば。


「沢田さん、今日は急遽欠勤でしたね。...まさか何か!」

「いや、沢田自身は無事だったんだ。ただ、奥さんが...」

「沢田さんの奥さんは、ダンピールさんでしたよね。」


なんでも高慢なヴァンパイアを退治&調教してしまうような種族なんだとか。


「僕もインキュバス化して、"魔力"ってものをほんのり、感じる程度にはなったけど...沢田の体に付けられてる魔力はハッキリ分かるレベルだからなぁ。」


古谷さんが言うには、"私の旦那さんに手を出すな"というオーラが凄いらしいのだ。


「で、その沢田の奥さんが、目眩で倒れた。」

「えっ」




「もしもし?」

『もしもし、沢田です。申し訳無いのですが、明日お休み頂いても宜しいですか?』

「あら、珍しいな。分かった伝えておくよ。...どうしたんだ?」

『いや、それが...妻が目眩で倒れてしまいまして...』

「ええ!?大丈夫なの!?」

『なんか私が持ち帰った魔力にあてられてしまったみたいで...。一日あれば、妻を復活させてあげられると思います。』

「何があったんだよ...」

『それがですね...』




「というわけで、さっきの話を聞いたわけだ。」


なにそれ怖い


沢田さんの奥さんは、とても強い。

以前休憩に使ったカフェでは、沢田さんに付いた"虫除け"の魔力でコボルドの女の子を怯えさせてしまっていた。


そんな、あの奥さんが。


「尋常じゃないですね...」

「だよな...一応念のために、今日は二人で帰るか。」

「あ、ありがとうございます...そうさせて頂きます...」



***



「家が思ったより近くて良かったよ。」

「ご迷惑をお掛けします...」


僕は近道になる公園を、古谷さんと二人で歩いていた。


「いやいや、良いんだよ。通り道だしね。...それにしても...」

「どうかしたんですか?」

「いや...何だか、忘れちゃいけない約束をすっかり忘れているような...」

「...」

実は、僕も心に引っ掛かるものを感じていた。


旦那

約束


噂の話を聞いてから、何か重大な過ちを犯しているような、そんな胸騒ぎ。


「うーん...?っとと、妻からだ。ちょっと失礼。」


着信音がfeels like “HEAVEN”だった事に、僕は触れる勇気が無かった。



***



『来週、なんの日があるか、覚えていらっしゃいますか?』

「んー?誕生日は終わったし...」

『...本当に、覚えてらしてない、と?』


あからさまに変わる電話の向こうの声色に焦りながらも、何があったか思い出せない。


「(やばい!)杉田、ち、ちょっとごめんよ...」

「あ、はい...?」


杉田からやや離れた位置、公衆便所の影で、古谷は妻を宥める。


「ごめん、包み隠さず言うと、ちゃんと覚えてないんだ...。」

『うふふふ...そうですか、そうですか。...今夜は"夕飯抜き"ですね?』


彼女の言う"夕飯抜き"とは、"夕飯を食べる間も惜しんで犯し尽くす"という意味だ。


「い、いや、ごめん、ほんとにごめん...それだけは勘弁してほしいかなって...」

『うふ、うふふふ...あなた様の頭が真っ白になるまですれば、思い出すかもしれませんわ...』

「ヒッ...」

『では、また後程。玄関でお待ちしておりますわ...』

「ちょ、カヤ!?」


無情な終話音。


「まじか...明日出勤出来るかな...」


がっくり項垂れながら、杉田の居るところに戻ろうと、踵を返した。


黒い足。


ハッとして顔を上げると、既に眼前に刃が迫っていた。


視界に黒い、横一線。


脳に切り込みでも入ったかのような、前後不覚感。


「アハハ...ッ」


黒い

それは、

笑ったような気がした


彼の頭は確かにその刃で斬られたように思えた。

しかし、外傷は何処にもない。

代わりに彼の「理性」が真っ二つに裂かれていた。


妻を愛 さねば

ぬれお なごの

瑞々し い柔肌

妻が待 ってる

今すぐ したい

泥々に 汚して


古谷は据わった目で、一直線に自身の家を目指した。

杉田の事など、綺麗さっぱり記憶から切り落とされていた。



「エヘヘ...アハハハ...ッ...恵くん...邪魔者は居なくなったよぉ...」



***



「古谷さん、どうしたんだろ...奥さん、怒ってたのかなぁ。」


魔物娘の奥さんを持つ社員達は、皆幸せと共に恐怖を噛み締めているような、そんな感じに見えた。

兎に角愛が重い。


"怒らせなければ可愛いもんッスよ"


ああは言ってたけど加藤さん、首筋にキスマーク付けて帰って、3日ぐらい有給取る羽目になってたっけ...

3日間"何をされていたか"を訊ねたときの加藤さんの顔は中々忘れられそうにない。


「重いよなぁ。」

「恵くんの罪ほど重くは無いんじゃない?」




心臓が縮み上がった。

後ろに誰か居る...!

反射で振り返る

そこには



誰も居ない。



「古谷さん!!」


半分すがるような思いで、僕は公衆便所の方へ声をあげた。


沈黙。


そして、


シャラリ シャラリ


返事の代わりに、冷たく鋭い金属音が、そこから聞こえてきた。


「アハ...!二人きりになるのに、あの男は邪魔だったからねぇ...」

「ふ、古谷さんに何したんだ!」


姿の見えぬ相手に声を張り上げる。

足は力が入らず、震えていた。


また、沈黙。


どこだ。


どこにいる。




「うわぁ!?」


そんな時に、突然僕の胸元が振動するものだから、腰が抜けて尻餅をついてしまった。

振動の正体がスマホであることを五秒ほどかけて認識し、乱雑に出る。


「も、も、もしもし!!たた助けてくだ」

『まだ、自分の心配なんだ?』

「ヒッ...!?」


地面に落ちたスマホは、ひび割れた画面に"古谷さん"と表示されている。


『ねぇ...なんでお嫁さんをほったらかしにするの?』

「な、なんのことだよぉ!」

『恵くんは、忘れたりしないよね。...アタシ、18年待ったんだもん。ずっと』

『ずっと』

『ずっと』

『ずぅ...っと。』


スマホがピシリと音を立てる。

液晶に、赤い縦線が入っていた。


『まさかぁ...まさかとは思うけど...恵くんは、浮気、なんて、しないよね?』


僕はもう、画面越しの圧で頭がおかしくなりそうだった。

脳が正常に働いていない気がする。


「浮気も何も、彼女いないってぇ...」

『アハ!アハハハッ!!嬉し

「大学の頃の彼女には振られたんだよぉ!」

 ......』


半狂乱だった僕は、致命的なミスに気付いてすらいなかった。



パキッ


ドロ



スマホの液晶が漏れだした。


...いや、これは液晶なのか。


バックライトに照らされたソレは、真っ黒なようで、僅かながら鈍い紅色に光っていた。


『なんで?』

「ぅぁ...!?」



『なんで?』


『なんで?』

『なんで?』
『なんで?』
『なんで?』


シャラリ

       シャラリ

  シャラリ
    シャラリ


「ねぇ、どうして?」



右耳に吐息がかかる。



辛うじて、首だけ回せた。


その開ききった暗い瞳孔

帽子から染みだした赤黒い液体

それに塗れた見覚えのある顔を認識するのと同時に、





ヤ ク ソ ク シ タ ノ ニ





僕は意識を手放した。





***




シャッ

シャッ


「......ん...ここ...は...?」


気が付くと、知らない天井を見ていた。

仰向け。

背中には柔らかい布の感触。

僕は確か、血みどろの女の子に襲われて...



そう、あの子はきっと。

思い違いでなければ。


「...!?」


直に布の感触...ということは。

僕は全裸に剥かれていた。

慌てて起き上がろうとするが、手足と上半身が言うことを聞かない。

脳の神経から、そこだけ切り落とされたような...

別段拘束されている訳でもないのに、情けなく腰をヘコヘコさせることしか出来なかった。


「恵くん、気が付いた?」

「ま、マツリちゃん...!」


気付くとベッドに、少女は腰かけていた。


「今から、恵くんに付いた悪いモノを"削ぎ落とそう"と思うの。」


シャラン


視界に映るのは、寒気がするほど、薄く、鋭敏に研ぎ澄まされた刃。


「ひ、ひいいぃぃぃ!?」

「アハハ...ッ!怖がらなくても良いんだよ?私が、綺麗にしてあげるから...ほら見て?」


その刃は、よくある包丁程のサイズだった。


「これ、元は"大鉈だった"んだぁ。アハハッ...なんでこんな小っちゃくなったか、気になる?気になるよね?ねぇ?」


僕は震えて声がでなかった。


「それはね...」


シャッ


側に置いた、嫌に年期の入った砥石に刃を滑らせる。


「ずっと。」


シャッ


「18年。」


シャッ


「こうして。」


シャッ


「研ぎ続けてたからなんだぁ...」


包丁と呼ぶにはあまりに、薄く、鋭く、歪。

彼女が僕の目の前にソレをかざしたとき、
ヒィンと、共鳴振動する音が響いた。


「さがして、さがして、約束を守って、18年。」


額にツツ...と、血のような魔力が飽和した帽子から、流れ落ちる。


「レッドキャップって、ムラムラ抑えるの大変なんだよ?帽子が赤くなるほど、アソコがうずうずして、たまらなくなるの。」


黒。

吸いすぎた魔力のせいなのか、彼女の帽子は黒にしか見えなかった。


「それなのに...」


トス と、彼女はその刃をベッドに突き立てる。

まるで、豆腐に刃を当てたかのように、何の抵抗もなく突き刺さっていた。


「恵くんは、他の女と仲良くしてたんだ?」


僕は愕然としていた。

魔物娘が欲望を抑えるのは、並大抵の苦労ではないだろう。

こちらは幼い頃の戯れだと思っていても、その言葉で彼女を18年もの間、飢えに苦しませてしまった。


「マツリちゃん...」

「今更、謝っても許さないよ?...今からコレで、恵くんの皮膚に付いたヨゴレを全部落としちゃうんだから...」

「!?や、やめて、やめてくれ...!!」


ジタバタともがくが、僕の手足は脱力したまま。

彼女は、滴る赤黒い液体を、僕の腹部にドロリと塗りつけた。


「うああああ゛っ!?」


焼けるような疼き。

目がチカチカする。


「アハッ...!恵くんにも、アタシの気持ち、伝わるかなぁ?」


伝わるなんて生易しいモノじゃなかった。

僕のペニスは見たこともないほど膨張して、透明な粘液をドクドク流している。


「安心してね...これは恵くんの肌を絶対に傷付けたりしないから...」


シュリ シュリ シュリ


液体を潤滑油にして、僕の腹部に刃を擦り付ける。


「あ゛あ゛!あ゛あ゛!やめ...ぐううう!!!」


頭が真っ白になる。

刃から伝わる鋭過ぎる快楽。

直接触られた訳でもないのに、ドバッと精液が飛び出した。


「アタシの魔力しか残らないように、全部、全部、剃り落とさないと...」


ベチャ

シュリ シュリ シュリ シュリ


「ア...ガ...!」


カミソリのように肌の上を滑るたびに、僕はイく事しか出来ない。

射精はもはや副産物でしかない。

刃の滑る場所が今まで誰も触れたことが無かったかのように敏感になり、
そこへ薄く延ばした赤い液体が染み込む。


今までの"感触の記憶"を削ぎ落とされ、彼女の魔力に塗り替えられていく。


うまく息が出来ない。


腹部、太もも、内股...

どこを剃られても、僕ができることは精々腰を痙攣させる事ぐらい。


ペチャペチャペチャ


もはや精液よりも透明の粘液が、壊れた蛇口のように垂れ流されるだけ。


「ハ......ヒ......」

「やっと綺麗になったね、恵くん...」


毛一つ剃られていないが、他の女どころか自身が触れた記憶も、全て快楽に塗り替えられてしまった。


「マツリ...ちゃ...ごめ...なさい...も...ゆるし...んん!?」


僕の唇が、覆い被される。

彼女の唇から、あの灼熱の疼きを感じる。

こんなもの、口移しされたら...


僕は頑として口を開けなかった

...が。


スパリ。


「んん!?〜〜〜!?」

「んんっ...れる...ぐちゅ...」

彼女の刃が、僕の喉元を斬り付けた。

血が出る代わりに、僕の口に入れた力が勝手に抜ける。

逃がすまいと、彼女は口に含んだ赤黒の液体を僕に流し込んだ。


ドクン ドクン


身体が熱に犯される。

腰元の熱が更に高まる。

意思とは関係なく、枯れた筈のおびただしい量の精液が、ペニスから流れ出た。


「言ったでしょ?許さないって...。アタシの帽子が白くなるまで、ナカにいっぱい出してね?」

「死ぬ...死んじゃうよ...!」

「恵くんはだらしないなぁ。18年間、"死ぬほど"我慢したアタシの気持ち、受け取ってね?」


帽子から溢れ出す液体。

僕の全身をボタボタと濡らしていく。

更に彼女は、服を脱ぎ捨てて全身を使い、その液体を僕に丹念に擦り付けていく。


叫んでいないと、狂ってしまいそうだった。


「恵くんの手も、足も、頭も、お腹も、おちんちんも...全部使って、アタシに誓って。アタシだけ愛してくれるって、誓って。」


何の遠慮も躊躇いもなく、彼女は自身の膣口を拡げると

狂ったように射精し続ける、赤に塗れたペニスを中へ押し込んだ。



「あはっ...♥️責任、取ってね?」





***





「杉田、身体の調子はどうた?」

「お陰様で大丈夫です。ご心配おかけしました。」


課長に礼を言う。


「まぁここの部署はみんなインキュバスだから。なんかあったら聞くといいよ。」

「ありがとうございます。」


帽子が黒から赤に戻り、"一旦"彼女から解放されたのは、5日後だった。

飲まず食わずで貪り尽くされた割に元気な身体に困惑していると、欠勤の謝罪の後に課長がインキュバスについて教えてくれた。


「それにしても5日でインキュバスか。相当ハードだったろ...」

「多分3桁は...」

「マジか...マジかぁ...しかもそれで、まだ半分も満足してないんだろ...?」

「はい...でも、自分が悪いので...」

「なるほどな。まぁ、残り日数も有給充てとくから、こってり絞られて来いよ。ずっと離れ離れだったんなら、積る話もあるだろ。」  


この部署は『妻第一』がモットーだった。


「痛み入ります。では、また戻ります...」 

「生きて...帰ってこいよ...!」




会社を出ると、この5日間で網膜に焼き付いた帽子が目に入った。


「エヘヘ...待ってたよ。」


いくらか穏やかさを取り戻した彼女は、僕と密着しながら、家への道のりを歩く。


「アタシ、まだまだ、全然足りないの...帰ったらまた、いっぱいシよ?」

ちくり。

背中に当たる刃を感じながら、再び待ち受ける天に昇るような赤い地獄へ、ゆっくりと引っ張られて行った。

「いっぱい」

「いっぱい」

「愛し合おうね?」
19/04/22 20:42更新 / スコッチ
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■作者メッセージ
「全く...結婚記念日を忘れるだなんて...」

ガチャリ

「...おかえりなさい。あなたさむぐぅっ!?」

「んん、んんん!ぷはっ...あ、あなた様?」

「ど、どうなさったのです?...ヒッ!?目が、据わってますよ...?」

「え...そんな、玄関で...あっ!?やんっ♥️やめ、お待ちにな



「も...頭...真っ白...ぁぇ!?あなた...様...?ま、まだなさるんですか!?も、許し...ぃひいいぃぃ♥️」

***

ご希望:名無しのサバト信徒様

剃魔力プレイという謎ジャンル。

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