7話:アルト強化計画(本人の同意無し) BACK NEXT

「アルト、闘技大会に参加するのじゃ。」
「いくらなんでも唐突過ぎるでしょうよ、その提案。」

魔石騒動が起こった翌日の昼、僕が商品の整理をしていると、突然アイリスがそんなことを言って来た。
言いたいことはいろいろあるけど、とりあえず一番知りたいことを聞いてみる。

「何故に闘技大会に出ろと仰るんですか?」
「アルトの強さを磨くためじゃ。」
「僕の魔法や能力では、予選すら勝ち抜けないと思うけど。」
「ならば、修行をすればいいであろう?簡単なことじゃ。」

だめだ、この人出場させる気満々だ。
何とかして断れないかと、策を練っていると、お父さんが余計な提案をしてくれた。

「遺跡にでも行って、武器か何かを調達するのもいいと思うぞ。」
「ふむ、アルトよ、早速行ってくるのじゃ。」
「・・・僕の意思は無視ですか・・・」

強制的に、遺跡行きと闘技大会出場が決定されたらしい。
・・・たまには泣いてもいいよね?

「アルト・・・大変そうだな・・・」
「兄さんもこんな扱いされたことある?」
「無いな。」

きっぱりと否定されて、目に涙が滲んでくる。
こうなったら、凄い物を見つけて見返してやろうか。
そう考えながら、僕は身支度を済ませるために、自室へと向かった。

自室へ入り、持っていく物を確認する。

投げ用のナイフやハンマー。
ランプと詰め替え用のオイル。
応急治療道具と美味しくない応急薬。
小型のピッケル。
そして、普通の槍と鞭。

「随分とボロボロになってきたな、修理しても直るかどうか・・・」

長年使い続けてきたためか、どちらの武器も随分とくたびれてきている。
新しく買うのもどうかと思って、修理してもらいながら使ってきたが・・・そろそろ買い替え時かな。

「よし、準備も出来たし行こうかな。」

用意した道具を持ち、僕は屋敷を出た。
















人工的に作られたであろう道を歩いていくと、目的の遺跡に到着した。
お父さんの話では、道らしい道は無いと聞いていたのだけど・・・まあいいか。
そんなことを考えていると、遺跡の中から人が出てきた。
とっさに身を隠し、様子を伺う。

「これで全部か?」
「いや、まだ取り残しがあるが、時間が無い。」
「奴らに見つかったら大変だしな、早くリーデルn」
「馬鹿!誰かに聞かれたらどうするつもりだ!」
「す、すまん。」
「とにかく、急いで此処を離れるぞ、見つかると不味いことになるからな。」

直ぐ横の道を、二人の男と荷物を載せた馬車が通っていく。
・・・何とかばれずにやり過ごせたらしい。
先客がいたと言うことは、遺跡内のお宝が、いくつか持っていかれたと言うことになる。

「いいものが残っているといいけど・・・」

一欠けらの希望を胸に、僕は遺跡の中へと入っていった。




アルトが遺跡に入ってから、約20分後・・・
遺跡の入り口には、新たな力を求めてきたロイド達一行がいた。

「此処がその遺跡かぁ、結構大きいね。」
「この遺跡には、古代の武器やらお宝が眠っているらしいな。」
「もしかしたら、私達でも使える武器があるかもしれないね。」
「とにかく中へ入ろう。」

そう言うと、ロイドはランプを取り出して火を灯し、遺跡の中へと入っていく。
サラとユリアも、後を追うように遺跡の中へと入っていった。
















やはりと言うかなんと言うか・・・
遺跡の中は、先客がいたという事もあって、見事なまでに空っぽだった。
どうやら、もっと奥のほうも調べなければいけないようだ。

「ん?宝箱か。」

歩き回っているうちに、豪華な装飾が施された大きな宝箱を見つけることが出来た。
早速開けてみようと、蓋に手をかけて少し考える

(こんなに目立つところに宝箱なんて置くだろうか・・・罠かもしれないし・・・でも開けたい・・・)

そんなことを考えているうちに、僕なりの名案が浮かんだ。
正面は危険だから、後ろから開けよう。
僕は、宝箱の裏側に回って、宝箱を開けた!

「なんと!宝箱はミミックだった!・・・あれ?」

どうやら、宝箱はミミックだったようだ。
しばらく笑いを押し殺していると、宝箱の蓋が閉められた。
・・・ちょっと悪いことしたかな・・・?
でも、ここで冒険を終わらせるわけにはいかないので、可哀相だけどここに放置しておこう。




さっきは誰もいないのに、蓋が開いてびっくりしたけど、次こそは・・・!
そう意気込んでいると、誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。
今度こそは・・・絶対に成功する!




「ロイド!宝箱があったよ!」
「中身はなんだろう?武器かな?防具かな?」
「そんなに都合よく良い物があるわけないと思うぞ?」

宝箱の前ではしゃぐユリア、何が入っているか想像を膨らましているロイド、そして冷静にツッコミを入れる私。
まあ、遺跡を探索し始めて初めて見つけた宝箱だ、嬉しくなる気持ちは私にもよくわかる。

「早速開けてみようよ!待ちきれないよ!」
「まあまて、罠が仕掛けられている可能性もあるだろう、もう少し慎重に考えよう。」
「それなら、盾を構えたサラを宝箱の前に置いたらどうだろうか?」
「真の勇者なら、味方を犠牲にするような選択はしないと思うのだが。」
「もぉ〜早く開けようよ〜!」

やれやれ・・・やはりこうなるのか・・・
覚悟を決め、私は盾を構えて宝箱の前に立った。

「それじゃあ開けるね!」

『パカッ!』「なんと!宝箱はm」『ゴンッ!』

「・・・・・・」

勢い良く開かれた宝箱の中から飛び出してきた魔物は、目の前にあったサラの盾に、頭を強く打ち付けて気を失ってしまった。
・・・さすがに可哀相なことをしてしまったか・・・

「サラは魔物をやっつけた!5ポイントの経験値を手に入れた!」
「経験値って何だ、私は何もしてないぞ。」
「と・・・とにかく、もう少し奥に行ってみようか。」

気絶した魔物を、丁寧に箱に戻し、僕らはさらに奥へと歩き始めた。
















「ここは・・・武器庫かな?」

扉を開けて、中へと入ってみると、とても広い部屋に出た。
武器を収める専用の棚が幾重にも重ねられており、それぞれに武器が大量に保管されている。

「こんなにたくさん・・・この遺跡の創造者は武器マニアだったのかな?」

そういいながら、商品になりそうな武器や使えそうなものを物色していく。
いくつかの武器を、袋につめていると、僕はいい物を発見した。

「ん?・・・これは・・・」

銀とも白とも言いがたい色の、四角い金属の塊だ。
手に持ってみると、驚くほど重かった。

「・・・とりあえず貰っておこう。」

僕は、謎の金属を手に入れ、さらに奥を調べ始めた。




「わぁ・・・武器が一杯だぁ・・・♪」

開いていた扉を通った先は、多種多様な武器の宝庫だった。
普段冷静なサラも、目を輝かせて武器の山を眺めている。

「なあ、ロイド・・・」
「ねえ、ロイド・・・」
「ああ・・・」

二人の目が、何かを求めるように潤んでいる。
こんな顔をされたら、我慢しろなんて言えるはずも無く・・・

「好きな武器を選んで来ればいいと思うよ。」
「「やったぁぁぁ!!」」

言うや否や、弾丸の如く走って行く二人・・・
少しは遠慮と言うものをしようとは思わないのだろうか。

・・・一本くらいなら良いよね?




さっきからずっと、やたらと嬉しそうな叫び声が聞こえてくる。
他の冒険家が喜んでいるのだろうが、いまは放っておこう。

「また宝箱か、しかも厳重な施錠までされてるとは。」

先ほどの宝箱とは違い、存在感がもの凄く薄い宝箱だ。
しかし、よほど重要なものが収められているのか、幾重にも施錠が施されている。
ここまでに、鍵らしきものを拾ったと言うことも無く、近くにも鍵らしきものは無かった。
考えるのが面倒になってきたので、錠前を壊して開けることにする。
狙いを定めて、錠前へと槍を振るった!

「せいやっ!」

気合を籠めて打ち込まれた一撃は、あっさりと弾かれてしまった。

「てりゃあ!」

再度、槍を叩きつけるも、錠前はビクともしない。
僕は、宝箱から離れ、十分離れたところで走り出した!
そして、高く飛び上がり、錠前に向かっておもいっきり槍を突き刺した!

「WRYYYYYYYYY!!!」

凄まじい金属音が辺りに響き渡ると同時に、錠前と槍が砕け散った。

「槍が・・・ちょっとやり過ぎたか・・・」

槍の残骸を横に放り、宝箱を開けて見る。
中には、一枚の金属の板が入っていた。
赤と黒の二色に分かれているが、繋ぎ目が一切見当たらない。

「何かの素材だろうか・・・これも貰っていこう。」

そう言って、持ち上げようとするが・・・
重い、今まで持ったどんなものよりも重い。
様々な持ち方を試してみて、背負って行けば何とかなりそうだと気づいた。
大きく、重い、金属の板を背負って、探索を再開しようとしたとき・・・

「ロイドー、こっちに誰かいるよー。」

突然、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
この声は忘れもしない、僕に勇者への恐怖感を、一層強く植えつけた張本人の声だ。

「こんなところに人が?冒険者か何かかな?」
「板を背負っててよく分からないな。」
「すみませーん、ちょっとこっちを向いてくれますかー?」

・・・どうやら簡単には逃がしてくれないようだ。
僕は、ゆっくりと後ろを振り向いた。

「!?お前は・・・!」
「や・・・やあ、元気だったかい?」
「ここであったが百年目!今日こそお前を捕まえてくれる!」
「そう簡単に捕まってたまるか!クロックアウト!」

瞬時に時を止め、その場から逃げ出す。
この状態で外に出たら捕まるだけだろう・・・
それなら、遺跡の中をめちゃくちゃに逃げ回ってやるか・・・!
そう思って、僕は出口とは逆の道へ走っていった。

「・・・!?ちぃ!逃げられたか!」
「どうする?後を追うか?」
「もちろんだ!必ず捕まえるぞ!」
「でも、何処に逃げたか分からないよ?」
「捕まりやすい外よりは、複雑な遺跡内に逃げ込むはずだ、遺跡内を探そう。」
















長い通路を走り続け、正面の扉の中に駆け込む。
大粒の汗が額から滴り落ち、酷い息切れがする。

「ぜえ・・・ぜえ・・・くっ、何とかして逃げれないだろうか・・・」

息を切らしながら、周囲を見渡す。
この部屋はとても広いようで、周りが暗くてよく見えない。
目を凝らしてよく見てみると、闇の中に微かに赤い光が見える・・・

「なんだろう・・・調べてみようかな。」

赤い光の下へ歩いていく。
赤い光の下には、なにやら丸い出っ張ったものがついていた。
・・・すごく怪しい・・・怪しいけど押したい・・・

・・・ポチッ

気がついたら押してしまっていた、今では反省している。
ボタンを押して直ぐに、無機質な音が響き渡り、部屋が明るく照らされた。

「一体何・・・何だこれは・・・」

明るくなった部屋には、天井にまで届く巨大な柱が二本建っていた。
柱・・・といっても、表面が透き通った壁になっており、内部が見えるようになっている様だ。
一つには、何かを嵌める様な窪みがいくつも見え、もう一つには椅子のようなものが見える。
・・・この窪みに、板状の金属と四角い金属を嵌めれそうだ。

「・・・嵌めたら何が起こるのだろう・・・」

胸一杯の不安と、一握りの好奇心を籠めて、二つの金属を嵌める。
・・・何が起こるか様子を見ていたが、何も起こらない。
もう一方の柱も調べたほうが良いだろうか・・・

「・・・これに座ってみたほうがいいのだろうか・・・」

とりあえず、扉を開けて柱内の椅子に腰掛ける。
肘掛部分に、赤いボタンがあるが・・・押しても大丈夫だろうか・・・?

「ええい!もうどうにでもなれ!」

僕は、半ばやけくそ気味に、ボタンを乱打した




「ん?急に明るくなったな。」
「何だ?何が起こったんだ?」

突然、前の通路から次々と明かりが点いていき、通路全体が明るく照らされた。

「ねえ、あそこの扉の隙間から強い光が見えるよ。」
「・・・見に行きたくない・・・怖いもの・・・」
「勇者があんなものに怯えていてどうする、ほら行くぞ。」
「わかったわかった!行くから引っ張らないでくれ!」

強引に調べさせられることになった。
勇者より立場の強い仲間って・・・
僕は涙を堪えながら、扉の中へと足を踏み入れた。
















「うぐぅ・・・頭が・・・」

ボタンを押した瞬間、凄まじい頭痛に襲われた!
頭の中に、呪文の様なものが流れ込み、無理やり記憶に刻まれていく。
体がバラバラに引き裂かれるような感覚に捕らわれ、気が狂いそうになる。

「こ・・・こんなところで・・・!」

全ての魔力を手先へと集める。
その間にも、僕の中に流れ込む様々な呪文が、頭をかき乱し、集中を妨げてくる。
手先に集められた魔力が白い光を発しているが、少し様子がおかしい。
白かった光が、やや青っぽくなっている。
でも、今はそんなことを気にしている暇が無かった。

「死ぬわけには行かないんだよぉ!」

手に溜められた魔力を、一気に解き放った!
いくつもの青白い魔力の塊が、真上に向かって撃ちだされ、謎の装置に直撃する!
な、何だこの魔法は?こんな魔法見たことないぞ!?
さっきので覚えたのだろうか?・・・まあいいか。

「た、助かったのか・・・?」

謎の装置は煙を噴出していて、再び動き出すような気配は無かった。
壁にはひびが入っているようだが、割れてはいないようだ。
フラフラとした足取りで柱の外に出ると、急に疲れに襲われてその場に座り込んでしまう

「・・・今度からは変なボタンは押さないようにしよう・・・」

そう呟くと、僕は柱の方に目をやる。
柱からは、絶えず煙が噴出している。
何気なく柱を見ていると、突然眩い光を放ち始めた。
・・・また嫌な予感がしてきたのだが・・・

凄まじい爆音が辺りに響き渡り、柱の壁が粉々に砕け散って此方に飛んできた!

「くぅっ!」

さすがにこの量を避けきるのは無理か・・・
僕は、諦めて静かに目を閉じた。
















扉を潜ると、その先は異空間だった・・・
そう表現したくなるような、不思議な空間だった。
見たことの無い不思議な装置が奥にある他、二本の柱のようなものの中にも謎の装置がある。
片方は煙が噴出しているようだが・・・

「ねえ、あそこにいるのってアルトじゃない?」
「何か様子が変だな・・・」

煙が噴出している柱の前に、アルトが座り込んでいた。
捕まえようとして近づいた時、突然柱が光りだした。

「ロイド!急いで柱から離れるんだ!」
「くそ!もう少しで捕まえれそうなのに!」

サラが柱の方に向かって、盾を構えながら僕を呼ぶ。
あと少しで捕まえられそうだが・・・仕方がない。
悔しさを感じながら、サラの後ろに隠れる。
直後に、凄まじい爆発音が響き渡り、何かの破片のような物が大量に飛んできた。

「大丈夫かサラ!?」
「これ位なら・・・問題は無い!」

サラの盾によって、爆風と破片が防がれていく。
サラがいなかったら今頃は・・・考えただけで寒気がしてくる。

爆風が止んでしばらくしてから、アルトのいた方を覗いてみる。


そこには、怪我一つ無いアルトと、白いフワフワした塊がいた




・・・何時まで経っても、体を裂く破片の痛みがこない・・・
閉じていた目を、ゆっくりと開ける。
最初に目に入ったのは、白くてフワフワした塊だった。

「何だこれは・・・?」

思わず、そう口走ってしまった。
すると、その毛の塊がゆっくりと、此方を向いた。

「ミ゚д゚ミ」
「・・・」

その塊には、貼り付けたような目と口が付いていた。
瞬きをしたりしているので、本物のようだが・・・

「・・・君は喋れるのかい?」

体全体を左右に振っている。
喋ることはできないようだが、言葉は理解できるらしい。

「僕を助けてくれたの?」

体を縦に振っている。

「何処から来たんだい?」

もう一つの柱の方を向いた。
あの金属から作られたのだろうか・・・?
僕はゆっくりと立ち上がり、柱の方へ歩いていく。

「そこまでだ!」

横の方から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
この声は・・・今もっとも遭いたくない人物の声だった。

「もう逃げられないよ?」
「運良くあの爆発の中で生きていられたようだが、その運も尽きたようだな。」
「鬼ごっこはおしまいだ、今度こそ捕まえてやるから覚悟しろ。」

あぁ・・・彼らの言う様に、僕の運は尽き果てたようだ・・・
そう思っていると、毛の塊が彼らの前へと飛び出した。

「何だ?この毛の塊は?」
「・・・!伏せろ!」

毛の塊から、謎の光が発せられた!
とっさに伏せたことで、避けれたようだが・・・直撃した壁の方を見ると、焼け焦げたような後が残っているようだ。
毛の塊が注意を引き付けてくれている間に、柱へ走っていく。

「・・・これは!?」

金属を嵌めていた台座には、一本の槍のような武器と、先端に鉄球の付いた鞭のようなものが置かれていた。
槍の方は、長さは僕の身長よりも少し小さいくらいの柄に、その柄を挟み込むように不思議な形状で、柄より少し短いくらいの刃が付けられている。
鞭の方は、握りやすいように握りが少し窪んでおり、鎖のような形状の紐部分の先に、握りこぶし台の大きさの鉄球が付いている。
二つの武器を手にとって見ると、驚くほど軽かった。

「すごい・・・というよりもでかすぎる・・・」

鞭の方は簡単にしまうことが出来たが、槍の方はそうも行かなかった。
何よりもその大きさが問題だった。
僕の身長を超えるどころか、大人の人の身長をも余裕で超えてしまう程の大きさは、子供である僕には手に余りすぎる大きさだった。
斜めに背負えば何とかなりそうだけど・・・どこかで引っかかりそうだ。

「手ごわい毛玉だった・・・」

声のした方を振り向くと、さっきの毛の塊が、燃えて床に転がっていた。
さっきの毛の塊が倒されてしまったらしい・・・結構可愛かったのに・・・

「やるしかないのか・・・」
「逃げるような真似は出来んぞ?」
「くっ・・・ダメ元で戦うしかないのか。」
「どうだ?さしで勝負というのは。」
「・・・わかった。」
「アルト・・・お前を倒し、貴様によって付けられた汚名を返上してくれる!」

ロイドが武器を構える、僕も手に入れたばかりの槍を構える

「そんな身の丈に合ってない武器で、どうしようというのだ?」
「大きさだけが問題じゃない、自分にあった武器なら何でも戦えるんだよ!」
「フッ・・・意気込みだけは認めてやる、だが言葉通りに使いかなせなければ意味は無いぞ!」
「うぅ・・・」

これが・・・神に認められた者の威圧感か・・・対峙しただけで戦意がどんどん削られていく・・・
でも・・・ここで負けるわけにはいかない、手に入れた力を無駄にはしたくない!
・・・どんな魔法を使えるかまだ把握し切れてないけど!

「どうした!?何処からでもこい!」
「そうさせてもらうよ!クロックアウト!」

言い放つと同時に周囲の時が止まる

「そう来るだろうと思ったぞ・・・」

そう言い、壁の方に向かってバックステップをしながら、大剣を盾の様に前に構えて止まった
あの状態で止まられると攻撃が出来ない・・・ちょっと覚えたての魔法を使ってみよう。

僕は、周囲のものを引き寄せるイメージを作り出し、魔力を解き放った!

「G.トラップ!」

その場に黒い魔力の輪が出現し、周囲のものを引き寄せ始めた。

「・・・そして時は動き出す・・・」

周囲の時が動き出した瞬間、防御姿勢をとっていたロイドが、引き寄せられ始めた。

「な!?引き寄せられる!?」

ロイドが輪の中央に向かって引き寄せられている隙を見て、僕は槍を構えて高く飛び上がった。

「くっ!動けない!」

落下するそのままの勢いで、ロイドに向かって槍を突き立てた!

「もらったぁ!」
「ぐぅっ!」

直撃は避けられたけど、貴重な一撃を当てることが出来た。
反撃をされる前に後ろに飛びのく、引き寄せる輪は既に消滅しているようだ。

「まさかこんな攻撃をしてくるとはな・・・本気を出さないと勝てそうに無いな。」
「本気じゃなかったのか・・・」
「あんな間抜けなくらい方が、本気に見えるとでも言うのか?」

そう言うと、魔法を唱え始める。

「Mバリア!」

防御系の魔法だろうか・・・この分だと随分戦闘が長引きそうだ。

「防御系魔法はやめろ!SSが無駄に長くなるじゃないか!」
「それよりもそのメタ発言の方をやめろ!」

そんなやり取りをしている合間に、ナイフを投げつける。
投げたナイフは、尽く斬り落とされていき、一本も当てれないままナイフが尽きてしまう。

「遠距離攻撃は・・・こうやるんだよ!」
「うわぁ!?」

突然、ロイドの周囲から輪状の弾が大量に飛んできた!
避けようにも、徐々に広がっていく輪は、避ける隙間をどんどん埋めていってしまう!
避けきれずに、数発の弾に当たってしまう。

「うぅ・・・結構きついかも・・・」
「どうした?もう終わりか?」
「こうなったら・・・一気に畳み掛けるしかない!」
「面白い・・・存分に足掻いて見せろ!その後でゆっくりと料理してやる!」
「精一杯足掻かせてもらうよ!クロックアウト!」

再び、周囲の時を止める。

「同じ手は通用しないぞ?」

そう言いながら、さっきと同じように部屋の隅を背にして、大剣を構える。
むしろ僕にとってはその体勢の方が好都合なんだけどね。

僕は魔力を手に集中させ始めた。
始めは白く輝いていた魔力が、少しずつ蒼く染まっていく。

「そして時は動き出す・・・」

魔力を溜め終えると同時に、周囲の時が動き始める。

「・・・何も起こらない?・・・なっ!?」
「攻撃する以外にも・・・こういう使い方が出来るんだよ!」

手に集中させていた魔力を、ロイドに向けて解き放つ!

「ハイパードライブ!!」

無数の波動弾が、ロイドとその周囲の壁に向かってばら撒かれる!

「仕留めれなくても・・・そのバリアぐらいは剥がしてみせる!」
「ぐあぁぁぁ!!」

強靭な守りを強引に貫き、確実にバリアを削っていく!
もう少し・・・もう少しで・・・!

「くぅ・・・魔力が切れちゃった・・・」
「うぐぅ・・・」

もう少しであのバリアを剥がせたのに・・・後一歩のところで魔力が尽きてしまった。
もう勝てる要素が無くなっちゃったな・・・僕の負けか・・・

「僕の・・・負けか・・・」
「・・・」
「逃げも隠れもしないよ・・・速く捕まえるといい・・・」
「・・・」
「・・・?」

反応が無い・・・どうしたのだろうか?
そう不思議に思っていると、ゆっくりとロイドが倒れた。

「・・・え?」
「ロイド!?大丈夫か!?」
「ロイド!しっかりして!」

ロイドの下へと駆け寄る二人、僕はただ、状況が飲み込めずに、その場に立ち尽くしていた。
え?ロイドが倒れたってことは・・・僕が勝ったってことなの?

「よかった、気を失っているだけみたいだ。」
「・・・許さない・・・よくも!」
「待て!こいつはさしの戦いでロイドに勝ったんだ、私達がこいつを捕まえたところでロイドは喜ばないだろう。」
「でも・・・!」
「真剣な勝負で勝った者が、疲れ切っているときに戦って勝ったとしても、それは本当の勝利ではない。」
「・・・わかった、今は我慢する」
「それでいい・・・おい、アルトとやら。」
「・・・なんだい?」
「お前はロイドに勝った、行ってもいいぞ。」
「でも・・・」
「お前ほどの者が味方だったらな・・・残念だよ。」
「・・・今度会った時は容赦はしないからね、覚えておきなさい!」

敬意を表されつつ、恨みを買われつつ、逃げることを許可してもらえたようだ。
僕は転がっている煤だらけの毛の塊を抱え、その場を後にした・・・
















「そんなことがあったとはのう・・・大変だったのじゃな」
「人事だと思って・・・死にかけたんだよ?」
「それはわかっておる、じゃがワシが認めた者がそう簡単に勇者なぞに負けると思っとるのかの?」
「それは・・・そうだけど。」
「うむ、だからアルトは負けん。」
「無茶苦茶な理由だけど何故か納得してしまう・・・これがカリスマか・・・」

帰宅後、僕は一瞬だけ満面の笑みになり、直ぐに何時ものの表情に戻ったアイリスに、今日の出来事をしていた。
毛の塊はお父さんに押し付けた、お父さんならきっと何とかできる。

「アルトぉ!いきなり毛の塊が動き出したぞぉ!」
「ミ`゚д゚´ミ シャキッ!」
「む!?なんじゃあの塊は!?目と口が付いておるぞ!」
「お父さんまた何かやらかしたのか。」
「この塊がなんなのか調べようと、触ろうとした瞬間に動き出したのだ!」
「とにかく無事だったのか・・・よかった」

毛玉が嬉しそうに宙返りをする、どうやら完全に治ったらしい。

「そういえば一つ言い忘れておったな。」
「え?何を?」
「とても大事な・・・家族に対して使う言葉じゃ・・・」

そう言うと、アイリスは満面の笑みを浮かべながら、僕に向かって言ってくれた。

「お帰りなのじゃ、アルト。」
10/08/19 02:34 up
無駄に長いです、元病人がリハビリに書くようなレベルじゃない!・・・って思うのは私だけでしょうか?
そんなこんなで7話です。
途中で風邪を引いたりして更新が長引いてしまいましたが、待っていてくださった方には遅れてすみません、逆になんだ生きていたのかって思っていた人には何度でもよみがえるさ!の一言を。
風邪の具合はまだ完全に治ってはいませんが、回復傾向にあるようなので一安心です。

次は設定集の更新後に番外編を挟むかも・・・です
白い黒猫
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