連載小説
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サプライズドライブ
ある日の放課後




「成功って何だろう?」

友季がつぶやく。この幼馴染はアンニュイな表情も絵になるんだな。漆のような黒い髪、血管が浮くほどの白い肌、つぶらな瞳は濁っており、性格は極めて卑屈。常に被害妄想に取りつかれており……あれ、いつの間にか悪口になっているな。……いや、可愛い所もあるんですよ?例えば……具体例を求めるのは卑怯だろ。

とにかく!今日の幼馴染は病んでいる。
友季がこうして何かを考えだすときは大抵の場合、気分が落ち込んでいるときだ。

「人生の成功者と言えば富と名誉と女をゲットすることとか」

「小者くさ」

「うるせぇ!そういうお前にとっての人生における成功はなんだよ」

「……自分の生きたいように生きることとか」

「ああ……やっぱりそうくるよなぁ……」

「喧嘩売ってるなら買うぞ?」

補足しておくと、この幼馴染は家のために結婚することが義務付けられている程度にはお嬢様である。しかし、本人曰く『自分を育てるためにかかった金は借金として返済するので、自分の好きなように生きさせて欲しい』とのことだ。
ここが最大のネックなんだよなぁ……彼女の実家に根回しは済んでいるので(そうでもなきゃ男女の同棲なんて許可が下りない)、このまま強制的に彼女と結婚することも可能なんだが、それは彼女の生き方を捻じ曲げることになる。
……理想のシナリオは彼女が『自分の意志で』俺に好意を抱いてくれる形だ。……どう誘導したものか。

「友季は具体的にどんな風に生きたいんだ?」

「そりゃ、都内にドーンとマンション買って、夜景眺めながら優雅にワインとか飲んでみたいさ」

「お前も大概小者じゃねーか!」

「そりゃ、人間だもの。ステータスには憧れますよ」

「でもそれって実家に従えば手に入りそうじゃない?」

「私の場合、自由の方が優先順位高いのよ。自分の責任で生きて、その上で良い暮らしが出来れば最高って考え方」

「そんなに自分の責任で生きることって重要かな?」

「超重要。人の言う通り嫁いで、子を産んで、育てて、死んでいくって人生は自分の人生じゃないと思うんだ。死ぬときになって後悔しそう」

「でも自分で生きたほうが辛いと思うよ。特に友季コミュ障だし、社会に出たくないって言ってたじゃん。こっちも後悔しそうだけど」

「正直、我ながら滅茶苦茶辛い人生になるとは思う。でも自分で決めた結果だったら諦めることができるんだ。ほら、人に任せて失敗するよりも、自分でやって失敗したほうが納得いくでしょ?」

「すげえ、人生における成功だっつってんのに、失敗した人生を納得する方向にものを考えてる」

「へへ、てれるぜ」

「褒めてねぇよ!……じゃあ友季にとっては自分の意志で決めた人生を送って、なおかつそれで良い暮らしができれば最高の人生か」

「良い暮らしっていっても、衣食住が不足なく揃っていればいいかな。三大欲求はそれで満たせるし」

「寝る所、食べ物……性欲は?伴侶が条件になかったけど」

「オナニーでよくね?」

「おまっ……!」

「いや、性欲満たすだけなら伴侶いらないでしょ。別に子供も欲しいとは思わないし」

「俺は欲しいな」

「あっそう。勝手にどうぞ」

「あっはい。勝手にします」

さりげなくアピールしてみたがバッサリだった。……いいんだな!好きにするぞ!言質とったからな!

「あ、でも友達は欲しいかも。やっぱりボッチは寂しい」

「俺がいるじゃないか!」

「いや、お前はぶっちゃけ住む世界が違うだろ。高校卒業したらお前と離れる日がくるんだ。絶対に。……そうなる前に友達作る方法を学ばなきゃね」

「……」

「ああ、将来のことを考えていたら暗くなってきた。……ずっとこうやって生きていけたら良いのに」

「今の生活は悪くないんだ」

「悪くないどころか最高だね。衣食住に加えて、親友までいるからね。多分今が人生のピークだな」

「親友だなんて光栄だね……そういや、なんで成功について考えていたのさ?」

「ああ、サプライズってのは何をもって成功と言えるのか考えていたんだ」

「そりゃ相手が喜んでくれたらじゃない?」

「だよな……ええっと、その……」

「なんだよ」

「……誕生日ケーキを予約した。もうすぐお前の誕生日じゃん。どうせ今年も実家に帰ってパーティだろ?その前に誰よりも早くお前の誕生日を祝いたかったのさ……迷惑じゃなかったかな?」

おお、出た!数少ない可愛い所。

「マジか!やったぜ、素直に嬉しい!」

「…………だ、だろ?ご馳走も作り置きしといたんだ。私はケーキ屋さん寄るから、先に帰ってありがたく思いながらレンチンして並べといてくれ」

おずおずと俺の反応をうかがってから恩着せがましく振る舞うところがいじらしいじゃないか!

「主役を働かせやがって」

「並べるだけを働くとはいわねぇよ」

「ジョークだって」

「ったく……」

ため息をつきながらも友季の表情はサプライズが成功して喜んでいた。


























――というのが前原友季が事故で死んだ日の、最期の会話だった。

18/08/06 01:11更新 / 幼馴染が負け属性とか言った奴出てこいよ!ブッ○してやる!
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■作者メッセージ
最大のサプライズは幼馴染の死でしたってお話


「そういや、あの時作った料理ってどうなったん?」

「食べてる場合じゃないでしょ」

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