読切小説
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Theresia von Geistern
 星が霞むほど明るい月夜を、ふわふわとゴーストが漂っている。
 彼女の名前はテレジア。
 彼女の好きなことは、空想をすること、アンデッドハイイロナゲキタケが入ったシチューのポットパイを崩すこと、それから、イタズラをすること。
 それも、周りの人が少しだけ幸せになれる、小さなイタズラをすることだ。

「月がとってもキレイ。こんな夜は、ステキなことが起こるのよ。たとえば……ダーリンが見つかるとか!? キャー!」

 自分で言ったことに黄色い悲鳴を上げて、身体をくねらせるテレジア。
 それでも、テレジアの勢いは止まらない。彼女は丸い月をなぞるように、くるりと宙返りをしてみせた。
 そんな彼女の頭の中は、まだ見ぬダーリンとどう愛し合うかでいっぱいだ。その内容は、きっとこっちが恥ずかしくなるくらいに、ピンク色に染まっているだろう。 

「待っててね、未来のダーリン! ……あら?」

 くねくねフワフワしていたテレジアが辿り着いたのは、小さなな公園。
 その公園のベンチには、一組の若いカップルが座っている。その二人は、付かず離れずの距離感。

「見たところ、くっついたばっかりのカップルかしら? きっと、今日は初デートだったのね。おいしいディナーを頂いた後、静かな公園で二人っきり……いーなー、うらやましいなー」

 唇を尖らせるテレジアなどつゆ知らずの二人は、もじもじソワソワしていて、見てるこっちがもどかしい。
 そうかと思うと、しばらく見つめ合い、だんだんと二人の唇が近付いていく。

「そこよ! ブチューってイけー! ……あらら」

 あと少しで二人の距離がゼロになる、と思いきや、女の子が恥ずかしさから顔を背けてしまった。
 男の子はというと、ガッカリしたような、ホッとしたような表情だ。

「どうしてそこで止めちゃうの。ワタシだったら、こう、ガッとイってブチューよ!」

 話す内容が抽象的なのは、テレジアがあの女の子と同じだからだろう。本人は否定するかもしれないが、きっとそうだ。
 そして、『やっぱり、そっとイってムチューかしら?』なんてテレジアが考えていると、何やらカップルの雲行きは怪しくなっている。
 どうやら、気まずさから二人は帰ろうとしているらしい。

「まだ帰るには早いのに……まったく、仕方ないわね」

 テレジアは、この二人にイタズラをしようと決めた。彼女の好きな、周りの人が少しだけ幸せになれる、小さなイタズラだ。
 テレジアは小石を拾うと、それをひょいと投げる。小石は緩やかな放物線を描いて、草むらへ吸い込まれる。
 すると、カップルの二人の視線は草むらへ向けられる。その隙に、テレジアはすべるように女の子へ近づいた。

「それじゃ、失礼しまーす」

 テレジアのイタズラ。それは、取り憑いて空想を送り込むこと。
 けれど、いつもしている空想や、ゴーストらしい妄想を送り込んではいけない。あくまで、周りの人が少しだけ幸せになれるのが肝心だ。
 『だって、幸せは自分の手でつかむから意味があるの。ワタシはきっかけでしかないのよ』とは、テレジアの談だ。
 女の子に取り憑いたテレジアは、さっそくとばかりに空想を送り込む。

「ワタシは恥ずかしがり屋だけど、カレもきっと、恥ずかしがり屋。だって、顔が近づいただけで、あんなにまっ赤なんですもの。今夜は一歩をふみ出すチャンス。初めてのキスは、とってもとっても甘ずっぱいわ。ほら、今よ!」

 そんな空想を送り込むと、テレジアは女の子から抜け出て、煙みたいに空へと昇る。
 イタズラはここでおしまい。後は二人だけの世界だ。

「さ、おジャマ虫は退散しなくちゃね。それにしても、お腹がペコペコよ。誰かいっしょにディナーを食べてくれないかしら?」

 公園を離れ、フワフワふらふらと漂うテレジア。
 イタズラをしたから、彼女はお腹がペコペコだ。
 ディナーはきっと、アンデッドハイイロナゲキタケが入ったシチューのポットパイ。サクサクのパイ生地を崩しながら、テレジアは未来のダーリンの空想にいそしむのだ。
17/03/26 21:52更新 / PLUTO

■作者メッセージ
次こそは連載物と言ったな。以下略。
ごめんなさい。本当に次こそは……。

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