読切小説
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エクストリーム登山のイロハ
俺はいまとある山の麓に集った男だけの集団の中にいる。

「良いかー、野郎ども! 入山の儀式を確りやれよ!」
「「アイサー、キャップ!」」

友人の一人に無理やり付き合わされる事になった、大学のサークル主催の登山。
この人らは『山岳部』ではなく『エクストリーム登山同好会』という訳の分からない同好会であり、しかも入山制限のあるこの霊山に態々入場許可を取ってまで上ろうとしている。
この人らのそんな熱意は、同好会員ではない俺のうんざりさ加減に一層の拍車をかけていた。
というか、何してんだこいつら。ここは寂れてはいるが神聖な霊山なのに山頂に向かって下半身露出させて、さらには腰を使って汚い一物を前後にぶらぶらさせるなんて……馬鹿なのか?死ぬのか?

「わりーな、吉野。先輩らの道楽に付きあわせちまって」
「そう思うんだったら、俺を誘うなよ。というか、なんだ『エクストリーム登山』って?」

俺に話しかけてきた男の友人――市居に、俺の疑問に思っている事を尋ねてみた。
ちなみにこいつも俺と同じくこの怪しい同好の会員ではない。

「まあそれは見てりゃ分かるって」
「うっしゃー!いくぞ野郎ども!」
「「アイサー、キャップ!!」」

俺が市居と話している間に、他の人らは山頂に向かってどこぞの体育会の特訓かと言わんばかりのスピードで、山の坂道を駆け上り始めていた。
こんな無謀な全力疾走なぞを山道でするなど、絶対に途中で脱落する人たちが沢山出るな。
つまりはなんだ、脱落した人の介抱役か俺は。
そんな心の呟きを瞳に宿して市居を見てみれば、申し訳なさそうに苦笑いで半笑いになっている。

「まぁいいさ。これが終わったら、焼肉奢るの忘れんな」
「牛丸の食べ放題だよ、間違っても単品頼むなよ!」
「そこまで念押しせんでも……」

まだぶちぶちと俺との過去にあった何かを言っている市居は放っておいて、俺はここが霊山と言う事もあり、小さな酒瓶を取り出してキャップを開けると、軽く山に中身を振り掛けて登山家の祖父に習った入山の祝詞を上げる。
これであの馬鹿たちはともかく、俺と市居だけはこの山の神霊に罰を当てられる事はない……といいな、ほんと切実に。

「つーかさ、何でお前は交友関係がこうも広いんだ?」
「そりゃぁまあ、大学生活をエンジョイするにはそれに伴うお得情報は必要だし、その入手先は多い方が良いし」
「それにしても、付き合う人は選んだ方が良いと思うぞ。今日のは特に」
「いやー、ここの先輩、単位がやばいヤツの教授に顔が利いてさ〜」
「……牛丸の食べ放題、一番高いやつな」
「うぎゃー、勘弁してよ!」

そんな他愛の無い話をしつつ、俺と市居は山を登っていく。
あの同好会の奴らは道なき道を突き進んでいっていたが、どうやらこの山は霊山の例に漏れず、今でも何処かの修験者が使用しているらしく、人間が通って踏み固められた歩き易い――といっても藪漕ぎするよりかはマシというレベルの道が、山頂へと伸びている。
こんなに歩き易い道があるというのに、態々道なき道を突き進むなんて、本当にあいつらは一体何しにここにやって来たのだか。
あれか、持て余した青春のパッションを山にぶつけてでもいるのか?

「ぎゃーーー!!」

そんな俺の心中の疑問に親切に悲鳴で答えてくれたのは、名も無きエクストリーム登山会員A。
彼は見事なまでに蜘蛛の巣に絡み取られて身動きが取れないようで、しかもその近くにはその罠を張ったと思しき蜘蛛の下半身を持つ美女が、暴れまわって活きの良いA氏に恍惚な笑みを浮かべて眺めている。

「お、早速彼女をゲットした幸せな人がいるね」

その市居の台詞に『エクストリーム』ってそう言う意味だったのかと、俺は変に納得してしまう。
とりあえず登山マナーの一礼を蜘蛛の女性と哀れなA氏にしてから、俺らは山頂を目指して歩を進めていく。
そして道すがら、何人もの会員たちが蟷螂や大輪の華や樹木などの魔物娘に捕まり森の中で青姦に耽るのを横目で見つつ山を登っていたが、多少疲れたので妖精をオナホにしている会員の側にあった岩に、俺らは腰を下ろして小休憩を取ことにした。

「つまりはなんだ、魔物娘に骨抜きにされたあいつ等を、現実世界に引き戻すのが俺らの仕事と言う事か?」
「あんあん♪もっと乱暴にしてぇ♪」「きつきつの膣が最高だよ」
「この競技で行方不明になっちゃう人が多いらしいよ。ほら、魔物娘って現実離れした魅力があるでしょ」
「いく、イク、いっっくぅ〜〜♪」「出るよ、出すよ、射精するよ!!」
「「煩いぞ、黙ってやれ!」」

とまあ確かに捕まった時には悲鳴を上げていた会員たちが、今では幸せそうな嬌声を上げているのを見ると、確かに虜にされている感じは否めない。
というか、明らかにこれが目的で登山しているだろう。
この霊山の神に謝れ、こいつら。

「……自分から餌食成ろうと言うのが信じられないな」
「モテない男の最後に行き着くのがこの同好会だからね。そうまでしてリア充に成りたいのでしょ」
「此処までしなきゃいけないのなら、俺はまだ清い体で居たいな」
「おまえ、童貞だったの!!?」
「どどど、童貞ちゃうわ――と返せばいいのだったよな?」
「童貞と聞いて!」

視線を声の方に向けると、俺と市居の話に割り込んできたのは真っ白な馬体を持つユニコーン。
周りの魔物娘が盛っているのに当てられたのか、それとも山に入ってきた大半が童貞男だったためか、頬が上気し視線も熱っぽい。
そんなユニコーンから俺は視線を外して、市居とアイコンタクトで合図をする。

「「お前のことは呼んでない。他へ行け」」
「は〜い……ッ!!くんくん、あの男の人も童貞だ!まってー、私の未来の旦那サマー!!」

本当にユニコーンなのかと言いたくなるような尻の軽さで、彼女は視線の先に見えたであろう哀れな餌食に向かって突進していった。
溜息を一つ吐いてから、休憩を切り上げて山頂へ向かうのを再開する。
俺の息が上がり額から汗が吹き出る様になった頃、ようやく山頂にある小さな祠へとたどり着いくと、しかしそこには先客――エクストリーム登山同好会の会長をしている男性が祠の前で座り込み、荒く息を吐いていた。
俺は全滅必死だと思っていたのだが、やはり会長をしているだけはあるということなのだろうか。

「くそー!今回も売れ残ったのは僕だけか!」

前言撤回。ただ単に女運が無いだけのようだ。
というかこの魔物娘だらけの場所で、どうやったら無事に登頂できたのか。
本にして売り出せば、魔物娘に襲われる危険があるプロ登山家の愛読書になるのは間違いないだろうと俺は思う。

「ほら先輩。落ち込まないでください。まだ魔物娘のいる山は沢山あるんです。次に期待しましょう」
「ありがとう、市居君。そうだなまだ望みはあるんだ。そして僕にはまだ会員を無事家に届けるという使命があるのだったね」

悔し涙を袖で拭いた会長は、慰めた市居を変な使命感で燃えた目つきで見ていた。
そこからの会長の行動は早かった。
草むらで妖精とアヘアヘしていた会員を蹴り飛ばして山を降りさせ、蟷螂とチュッチュしている会員を投げ飛ばして山を降りさせ、樹木の魔物に絡みつかれた会員を根っ子ごと引っこ抜いてから山を転がり降ろさせた。
明らかに嫉妬の炎で身体能力がアップしている。いまなら彼は嫉妬のマスクマンになれることだろう。
俺も市居もそんな会長の行為を見習って、見かけた惚けている会員を力ずくで乱暴に下山させていった。
そして日が暮れる前には、エクストリーム登山会員全員が山の中にいた魔物娘を連れ添った状態で集合することが出来た。
はー、やれやれどうにかこうにか終わったな。
と思ったのも束の間、上空に影が走ったと感じるたら、目の前に巨大な蜘蛛の下半身を持つ浅黒い肌を持った女性が俺たちの集団の前に降り立つ。
彼女の身体的特徴から察するに、ウシオニと呼ばれる強大な力を秘めた魔物娘だろう。

「さっきから発情した甘ったるい匂いと、嬌声がキャンキャン煩くて、オレの股間が大洪水だ。どう落とし前を付けてくれるんだぁ?」

視線を思わずウシオニの股間付近にやると、確かに透明な粘液が糸を引き夕日に照らされてキラキラと光っている。
昼前からそんな状況だったというのに、このウシオニは日暮れ間近まで我慢していたのだろうか。だとしたら案外我慢強い性格なのかもしれない。
そんな俺の心がウシオニに読まれたのか、ギロリと睨みつけられて俺と横にいた市居は思わず竦み上がってしまう。
しかし会長がウシオニの視線から俺らを遮る様に立ちはだかり、そのままウシオニに歩み寄っていく。

「あん?なんだお前。オレとやろうってのか?」

会長はそんなウシオニの威圧感にも負けず、手の触れられる位まで近寄ると、ウシオニの顔をじっと見つめる。
ウシオニのほうも会長のそんな勇ましい様子に、少し気後れしているようだった。

「不躾で大変申し訳ないのですが、貴女に伴侶はいらっしゃるのでしょうか?」
「居たらこんな所まで来ずに、洞穴で交わってるよ!」
「それでは遠慮なく……」

会長は無遠慮に、ウシオニの熊のようにふさふさな毛で覆われた大きな手を取り、両手で覆うように握った。
そして真摯な目つきでウシオニの顔を見つめる。

「一目惚れしました。僕の伴侶になっては下さいませんか?」
「「「へっ???」」」

突然の愛の告白に、その場に居合わせた全員が間抜けな言葉を吐き出してしまう。
ウシオニはそんな事をされるとは思わなかったのか、手を握られただけでもかなり慌てていた様子だったが、続いた会長の言葉にもっと混乱の度合いを深めている。

「は、伴侶!!?」
「そうです伴侶。もしくは恋人、愛人、ツガイなどとも言いますね」
「え、いや、意味が分からないわけじゃなくて?!?」

あまりのウシオニの狼狽え様に、周りで見ている俺らの間からは思わず苦笑が漏れてしまう。
その笑い声に多少は我に返ったのかウシオニが俺らの方を睨みつけてくるが、会長が握っているウシオニの手を引っ張って顔を向けさせると、登場当初のあの威圧感は何処へ行ったのかウシオニは生娘のように顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。

「えっと、本当にオレでいいの?こんなに髪の毛ぼさぼさだし、蜘蛛の体は大きくて毛むくじゃらだし、蜘蛛の癖に角生えてるし、腕落とされても再生するし」
「貴女のチャームポイントですよそれらは」
「もしツガイになったら、お前のこと束縛するだろうし、オレって乱暴だから怪我させるかもしれないし、食事は基本的に動物の肉だけだよ。あとは、あと……」
「そんなものは愛の前では些細な事です。気にしません」

断言した会長の言葉に真っ赤になったウシオニは俯いて肩を震わせていたが、唐突に蛇の体から糸を吐き出すとそれで会長をぐるぐる巻きにすると、ウシオにはその糸を使い会長を引き寄せて胸に抱きしめた。

「オレに告白した事を後悔すんなよ。絶対に逃さないからな」
「むしろ僕が貴女を逃しません」

その言葉の後で二人がディープキスをすると、俺以外の全員が会長に向かって祝福の拍手と指笛をしている。
二人はその喧騒の中、幸せそうな顔つきで山の中へと入っていった。
どうやら二人はこの山の中の何処かの住処に向かい、そこで生活するつもりのようだ。
俺は脳の片隅で連れ戻すのが俺の役目だったよなと考えつつも、ウシオニ相手に説得や腕ずくと言うわけもいかず、あの会長も同意した上での事だと無理納得する。
しかし気になることが一つだけあった。

「なあ市居。行かせて良かったのか?」
「何言っているんだよ、会長自身が決めた事だよ。祝福してやれよ」

会長の一世一代の大告白とそれが成就した事に感激したのか、市居は男泣きに泣いていた。
俺が言っているのはそう言う意味ではなくてだな。

「あの会長じゃないのか、例の単位がやばい教授に伝手があるのは」
「……あッ!」

そこでようやく市居はなぜ自分が此処に居るのかを思い出したようだった。
しかし思い出すのが遅い。もうすでに会長とウシオニの影は、見える範囲にはない。

「会長、かむばーっく!!」

夕日に照らされている山に向かって叫び声を上げる市居。
どうやら本当に単位がやばいみたいだな。まあそれは俺には関係のない話だ。
そうそう、俺に関わりのあることといえば。

「約束通りに牛丸の一番高い食べ放題、夜・路・死・苦(よろしく)な」
「もう、踏んだり蹴ったりだよ!!」



   ちゃんちゃん

11/10/21 21:53更新 / 中文字

■作者メッセージ
はい、というわけで一発ネタSSでした。

今回はいま執筆中の白蛇さんのSSの初期プロットにあったエクストリーム登山が捨てるのはもったいなかったので、それで一本書き上げたものです。

そいでは次の白蛇さんのSSでお会いしましょう。
中文字でした〜。

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